偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
水曜日に投稿するとか言いながら、昨日は投稿する時間帯を設定するのを忘れてそのまま居眠りし、そのまま投稿することを忘れてしまいました。大変申し訳ない……
今回はとあるオリキャラの過去をちょっと流し、前回の補足もするという感じでやらせていただきます。
陰陽師・仙寿拓海。彼は仙寿家に代々伝わる陰陽師である。
仙寿家陰陽師は、幽霊の除霊や住処の提供といった、魔法少女とは違った善意を積極的に執り行っている。時代の変わっていく多摩町などを見ていたいなどと言って、成仏したくない幽霊がいる場合は、騒動を避けるため悪質な心のみを成仏させることも陰陽師の仕事としている。
だが、今回注目すべき点は陰陽師の仕事ではない。拓海本人に関すること──性格である。
爽やかなルックスに反して、誰に対しても過保護になり心配事を淡々と並べて話す癖がある。本気で医療費を払おうとしたり本人の許可なくご飯を奢ろうとしたりと、誰彼構わず困っている人を助けようとするのだ。
ちなみに週にニ・三回は相手に喧嘩を売るような発言をしてしまうことがあるが、上記の性格の印象が強すぎるためか、自分の言動で揉め事が起きるということはないらしい。
しかし、拓海は最初から過保護な性格でもナルシストな性格でもない。何の脈絡もなくその性格になったわけでもない。彼が何故今のような性格になったのか、その過去についてスポットを当てていきたい。
♢
幼い頃の拓海は、気の弱い性格の持ち主だった。何故彼が子供の頃は今のポジティブさのある性格とは正反対だったのか、それは陰陽師の仕事が関係していた。
陰陽師が相手する幽霊、その存在は実際に見れてしまえば子供にとっては恐怖の存在となり得るものだ。しかし、幼い頃の拓海は親の監督不足により陰陽札を取ってしまい、それによってまだ耐性をつけないまま幽霊をこの目で目撃してしまったのだ。
そしてその初めて見た幽霊が最悪にも、簡潔に言えばホラー映画に登場するラスボス並みのトラウマとなる容姿のものだった。
母親が彼を抱きしめてその幽霊をこれ以上見てしまわないよう視界を塞がせ、父親がどうにか素早く除霊したものの、子供の記憶力は高いもの。その幽霊の影響により、拓海は恐怖心に陥ってしまった。
それ以来、拓海は幽霊が見えてしまい、いつ見つけてしまうかどうかもわからない幽霊の恐怖に怯えていた。それにより同級生の背後にも出てくるかもしれない、その幽霊の中にまたあの時に似たかなり怖い見た目のが出てしまうのではないか、そういった恐怖による影響で、彼は気が弱くなってしまったのだ。
そして拓海は、自分を呪った。何故あの時親の許可無く陰陽札を手に取ってしまったのだろうか。何故興味津々に触れてしまったのだろうか。何故、自分が代々伝わる陰陽師の一家として生まれてきてしまったのか、と。
♢
気がつけばある日、拓海は実家である神社を夜中に抜け出してしまった。まだ子供である自分が家出したところで、まともな生活ができるはずがない。警察によって家に帰されるだけ。そもそも家出をしたぐらいで幽霊が見える能力がなくなるわけがないのだ。
「僕、何をやっているんだろうな……こんなことをしても意味なんてないのに………………グスッ。ヒッグッ」
真っ暗で照明の見えない森の中、自虐気味に徐に呟いた拓海。何故自分がこんな無意味なことをしてしまったのかも分からず、その場に座り込み泣きじゃくり始めた。泣いて、泣いて、涙が枯れる程に泣き尽くした。
数分後、彼は未だに流れていた涙を腕で拭った。溜め込まれた感情を吐き出せた。それだけでも充分だろう、そう自分自身に言い聞かせながら。
「……帰ろう。お父さんもお母さんも心配しているだろうし───ッ⁉︎」
立ち上がろうとした途端、背筋が凍りつく。獲物を見据えているかのような呻き声も、ウゥーっと聞こえ始める。足音が立たずとも、大木を軋ませるかのようなざわつきを感じさせる。背後から睨みを効かされている感覚が、彼の脳内でこう解釈された。『逃げろ。あの時の恐怖が迫ってくる』と。
恐る恐る、ゆっくりゆっくりと、背後の方向に首を向けていく拓海。怖い、恐ろしい、見るに堪えないかもしれない。そんな感情が脳内信号として自身に知らせてくれるも、本能がその瞳に映さんとしていた。そしてその首……顔が、背後に向けていた方向に完全に向いた時には……
幽霊……否、悪霊が、そこに浮遊していた。禍々しい黒色の人魂らしきものに、それを覆い尽くすように被せられていた般若の面。正しく特大級の怨霊とも言えるそれが、ケタケタと掠れた笑い声を上げながら、面の黄色い眼光で幼い子を……拓海を見下ろしていた。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタ……
「───‼︎ あっ……あぁっ……ああああぁっ……‼︎」
思い出した。忘れたくても忘れられずにいた、あの時の出来事を思い出してしまった。そして重なってしまった。あの時見てしまった、瓜二つの姿をした悪霊と。
心理的外傷が蘇った拓海は、思わずその場で尻餅をついてしまった。もう見たくもなかったあの時の恐怖が、異なる形として彼に迫ってくる。しかも最悪なことに、あの時自分を助けてくれた家族は今、自分の近くにいない。庇ってくれる者は、今いない。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタ……さて、その恐怖に満ちた其方の心の味は果たしてどのようなものであろうな? なに、安心するが良い。たとえ儂が喰って死ぬ運命となろうとも、痛みは一切感じさせぬからのぅ……安心して眠れぃ。ケタケタケタケタケタケタケタケタ……』
悪霊は嘲笑う。これから感情と共に自分を喰らい付かんとするその口を大きく開け、狂気に満ちた眼光で見下ろしながら。
「いっ………………いやだっ……いやだっ……」
早くここから逃げたい。しかし足が震え、力が抜け、動こうにも言う事を聞かない。このままでは悪霊に食らいつかれ、最悪死に至る可能性が生じる。拓海は再び、絶望に狙われてしまった。
「誰か、助けて……」
ついには大声を出す程の勇気までも恐怖に邪魔をされ、掠れた声が木霊せず発せられた。そして気がつけば悪霊は再び口を大きく開け、拓海の小さな身体を飲み込まんと───
『ではいただきパコーンッ☆マフィヤァッ!?』
されることはなかった。桜色の如く薄く淡い光の球体が、悪霊の面に直撃し、押し出したのだ。面の額にヒビが割られ、幽霊は思わず後退する。
「えっ……?」
『グヌウゥッ……!! な、何者だ!? 儂に霊術らしきものをぶつけ、儂の仮面を穢した愚か者は!!』
拓海は今、困惑していた。自分自身がまだ生きているということに、自分と悪霊以外誰も近くにいないはずなのに。
対して悪霊は怒りに震え、吠えた。久方ぶりの自分好みになるであろう獲物を見つけたのに、それを捕食することを妨害された上にお気に入りとしていた面を割られ、完全にご立腹な状態であった。
一人が戸惑い、もう一人が憤怒する中、何処からともなく声が聞こえ始める。
「ふぅ……なんとか間に合ったみたいだね。さてと、なんだかんだと聞かれたので、ここで少年を助けた救いの女神の自己紹介といこうかな‼︎
あなたの町のかけつけ一本おまもり桜‼︎ 魔法少女★千代田桜━━━━ただいま見参ッ‼︎」
颯爽と二人の間に降り立って来たのは、一人の女性。黒い長髪、桜色のノースリーブっぽい服の上に白衣、右肩に掛けているピンク色のマント、ピンクと白のフリフリスカートといった、正に正統派な魔法少女の衣装の女性だ。
「『………………」』
「は?」『は?』
二人は思わず呆気に取られた声を上げる。それもそうだ。突然何処からとも無く現れた女性が、突然非科学的なものを放っては、突然この場に似つかわないコミカルな衣装で姿を現し、突然先程までの死線のあった空気を崩壊させたのだから。
『魔法、少女……? な、何なのだそれは……巫女とは異なるものであるのか……?』
ついでに悪霊には、カルチャーショックの如く世代のギャップらしきものを与えている。何なのだこれは、彼と同年現界する者はそう思うことだろう。
そんな彼等の反応など知ったこっちゃないといった様子で、むふんっと胸を張ってきた女性──桜は、拓海を庇うように堂々と仁王立ちし、腕組みをしながら幽霊に指を指す。
「この悪霊め‼︎ 人気のない夜の森で子供を食べようだなんて言語道断だよ‼︎ 私に目を付けられたからには、もう悪さが出来ないようにさせてあげるからね‼︎ ……アレ? この場合は追い払うよりも除霊した方が得策かな……?」
『………………ヌガァァァァァァッ!! 貴様ァッ!! なんだそのやる気の薄さは!! 貴様のような奴に儂の食事を邪魔されたとなるらと異様に腹立たしい!! まずは貴様から喰ろうてやるわァッ!!』
悪霊は再び怒号する。何故自分はこんな緊張感の欠片もない、衣装にもおふざけ感のある者に捕食の妨害をされなければならないのか、と。気がつけば悪霊の人魂の身体はみるみると巨大化していた。桜に対する怒りが強くなったことに合わせ、自身の身体も増大していったようだ。
「ヒィッ⁉︎ お、お姉さん、早く逃げ───」
再び悪霊に対する恐怖に怯える拓海だったが、その感情はすぐさま遮断される。不意に、桜に頭を優しく撫でられたからだ。本人の方は悪霊の方に顔を向けたままとはいえ、それはまるで自分の母親にあやされているかの如く。手の感触による温もりがそれと重なり合い、少年の心に安らぎを与えていく。
「大丈夫。私、最強だから───なんちゃって♪」
ふと拓海の方に目線を向け、ウインクする桜。そしてこちらの方に迫って来た悪霊に向けて両手を翳した瞬間──巨大な桜の花の形をした淡い光が、咲いた。
「幼き子を喰らう悪霊よ、我が光の力を以って成仏せよ───
サクラメントキャノン‼︎」
『グヌオォォォォォォッ⁉︎ な、何なのだこの光は───』
刹那。拓海が見た景色は一瞬桜色となり、花びら状の光が散るかの如く分散されていき、桜色の巨大な光が、その全てを覆った。
「………………綺麗……」
拓海がそう呟いた時には、その景色が終わり暗い森の世界へと戻されていた。我に返った時には、悪霊の姿が一切見当たらないことに気づく。先程の光が悪霊を飲み込み、消滅させたのだろう。
一体何が起きたのだろうか。あの悪霊はどうなったのだろうか。もしや消滅したのだろうか。陰陽師による除霊が行われたわけでもないのに、一体どうやって───
「終わったよ。もう大丈夫」
そんな思考はすぐに消えた。魔法少女と名乗る女性が手を差し伸べたことにより、先程までの恐怖はもう来ないと、確信させられたからだ。
気がつけば、拓海は感性を込めて再び泣き出した。死ぬかもしれなかった恐怖から解放され、桜に安堵を与えられたからだ。泣いて、泣いて、泣き噦る。彼女の腕の中に包まれながら。
落ち着きを取り戻すまで泣き続けた拓海。突然泣き出して抱きついてしまったことを桜に謝るが、本人は今の状況は仕方ないことだと許し、再び笑顔を見せた。
神社にある家への帰り道、手を繋いでくれた桜に問いた。
「お姉さん……なんでお姉さんは、こんな暗い森の中で僕を見つけてくれたの? あの霊の気配に気づいてくれたの?」
「ん? うーん……勘、かな」
「………………えっ、勘?」
「うん、勘。なんか子供が泣いている気がしたなって思って行ってみたら、君を見つけたんだ。まぁ悪霊のヤバい気配も感じはしたけどね」
「勘……」
この時、拓海は思わず戦慄した。半分いい加減な感覚で自分達の気配に気づき、先程の凶暴な悪霊をも一撃で消滅させられる程の威力を放った女性に救われた。こんな偶然があっていいものだろうかと、今の状況にいる自分に困惑してしまったようだ。
そして、また徐に問いた。
「なんで、会ったこともない僕を助けてくれたの……? さっきみたいに、怖い出来事に出くわすかもしれないのに……」
「なんで助けたか? そんなの決まっているよ───
誰かが困っている時に、たとえ自分の身に何があろうとも、見返りなど考えずすぐさま助けに行ってしまう。それが人間の在るべき姿なんだよ。私はそれを後先とか何も考えずにやってみせた、ただそれだけだよ」
「………………‼︎」
拓海は圧巻した。この人はなんて度量の大きい人なのだろうか。後先など考えず、誰かの為に自ら率先して動くことはそう簡単にはできないはずなのに……と。
「………………ねぇ、お姉さん」
「ん? 今度は何かな?」
「……僕も、お姉さんみたいな心を持った人になれるかな……?」
気がつけば、拓海はそう桜に問いかけていた。一瞬目を見開いた本人だが、すぐさま微笑み、答えた。
「なれるよ。そこに優しさがある限り」
♢
「───何故だろう、あの時の事をふと思い出したのは」
体育祭準備の帰り道、拓海は徐に呟いた。幼い頃の記憶の次に浮かんできたのは、その準備の時に起きたトラブルの時の記憶。
クラスメイト・ミカンが気絶してしまった時に彼女の呪いが暴発した時、彼は率先して呪いの鎮静に計った。結果吸収術と桃の咄嗟の援護により被害はあまり出なかったものの、それによる自責なのかミカンの表情は曇っていた。
呪いが鎮静化された後、クラスメイトは必死にミカンをフォローした。呪いを起こしてしまったのは自分達のミスだった、だからそんなに気負わないでほしい、と。
それでも、ミカンの心は晴れなかった。それもそのはず。もしもあの場に拓海と桃が──対等以上な力を持つ者がいなければ、最悪死人が出てしまうかもしれない呪いが周囲に放たれてしまったことだろう。そんな自責の念が、彼女を苦しませている。
「(今、陽夏木さんのところに行っても彼女の呪いが出てしまうかもしれない。あれだけ悲痛そうな表情をしていれば、些細な反応でも出てしまうかもしれない………………でも、それでも)」
自責の念に溢れたミカンの表情が再び脳裏に過り、そして重なった。あの時悪霊を恐れ、弱々しくなった幼き自分と。
「(だからといって、あんな顔をされて見なかったことにするわけにもいかない。一人でに潰れてしまいそうな人を放っておくなんて真似、俺は絶対にしたくない……‼︎)」
帰路とは反対方向へと振り向き、拓海は走りだす。スマホで両親に帰りが遅くなる連絡を入れながら、脇目も振らず走る。目指す場所は……手を差し伸べたい人物のいるところだ。
♢
ばんだ荘にて、ミカンの部屋のインターホンが静かに鳴る。その部屋の玄関のドアにて聞こえてくるのは、一人の男性の荒い息と呼吸。その呼吸が落ち着きを取り戻し始めた時には、ドアがゆっくりと開いた。
「はい………………って、えっ?」
活気のない返事をしながらドア越しに顔を見せるミカン。その来訪者の顔を見た途端、予想外の人物であったことに驚いたのか、思わずドアを全開にする。
「……やぁ、陽夏木さん。ごめん、急に来ちゃってビックリしたよね?」
来訪者の正体は紛れもなく、これまでに彼女の身を一番案じてクラスメイト・拓海だった。荒い呼吸と流れ出ている汗から察するに、どうやらそれほどの長い距離からこちらへと走って来たようだ。
「あ、貴方なんで……と、とりあえず入って‼︎ 今タオルと飲み物を出すから‼︎」
「あ、あれ? 先程の事があったから、今は一人になりたいとかの理由で入れてくれないのかと思っていたのだけどな……」
「……そんなに必死になってまで来た人を追い返す程、私は人でなしじゃないわ」
「それは失礼したな。だからそんな悲しい顔しないで」
影を落とし罰の悪そうな表情を浮かべるミカンを、拓海は苦笑いしながら宥める。そして悟った。今の状態の彼女に何かしてあげようとするのは無難なのだろうな、と。
ミカンの部屋に案内してもらい、彼女から渡されたタオルで汗を拭きながら、同時に渡されたみかんジュースを飲み干す拓海。そしてふと見つけたみかん箱や巾着を見て、徐に呟いた。
「あのキャリーバッグみたいに積まれている荷物……もしかして、ここを出る気かい?」
「ち、違う‼︎ そんなんじゃないわよ‼︎ ただ……ちょっと一人で落ち着きたくて、どっか一日、出掛けようと……」
「……いや、無理して言わなくていいよ。本当は何する気なのかどうか、真実がどうであれ、俺はそれを深く追求する気なんてないからさ」
「……うん」
この会話を皮切りに、部屋には沈黙の空気が流れ出す。ここに来る前の出来事が出来事であるが故か、互いに何を語れば良いのか、分からずじまいとなっているようだ。
この沈黙を、ミカンは破ろうとした。先程の呪いの鎮静の為に身を投げようとした拓海に、改めて謝罪しよう。そう心に決めながら。
「あ、あの……拓海……そ、その───」
「すまなかった」
「……えっ?」
その謝罪は遮られた。逆に拓海に謝罪されたことによって。
「な、なんで拓海が謝るのよ? あれは私のせい───」
「俺は、陽夏木さんの過去がどんなものなのか分かっていない。分かっていない自分なりにできる限りの事を尽くそうとしたけど、君がこれまでどれだけ辛い思いをしてきたのかを理解できなかったせいで、返って君を苦しませるようなことをしてしまった。もっと君の事を知る必要があったんだ。なのに……結果論とはいえ、いい加減な事をしてしまった。本当に申し訳ない」
「ッ……」
そんなことはない、それは言わなかったこちらにも非があることだから仕方がないことだ。そんな長くもない言葉が、不思議とミカンの口から出なかった。今思ったことを言ってしまえば簡単だが、それを行って良い結果を出せなかった本人がいるためなのか、自分から言うことを躊躇ってしまう。
再び起こる。沈黙。しかし、それを今度は拓海が早い段階で破った。
「───辛いことがあったら、躊躇わず俺にぶつけてほしい」
「えっ?」
「君の中の呪いがどういった経緯で生まれたものなのかは分からない。けど、たとえ外部によって作られたものだったとしても、それは君の心境によって応じるもの……君のもう一つの心であることに変わりない。それが君の辛さ・悲しみ・怒りとして具現化されるのだったら、俺はそれを真摯に受け止める。そしてそれを分かち合い、君の心を晴らす力になるよ。大丈夫。俺、陰陽師だから。ちょっとやそっとの呪いじゃ絶対死なないよ」
自分がいる時に呪いが出てしまうのを恐れないでほしい。寧ろ自分にだけ全てぶつけてもいい。心境の代わりとなるだろうそれを、自分が全て受け止めてみせる。それが、今の拓海が固めた決意であった。
そして、拓海はミカンの手をそっと優しく握りしめる。彼がこれまで彼女を宥めたり励ましの言葉を掛けるためにしてきた、いつもの仕草だ。
「だから陽夏木さんも、呪いやそれを受けることになる俺を恐れないでくれ。本音をぶつけてくれ。俺の事も頼ってくれ。俺も……今度こそ、陽夏木さんの本当の力になってみせるから」
「………………拓海……」
いつもならば、男女問わずこのような仕草をされても、自制しない限り自動的に呪いを発動させてしまうミカン。しかし、毎度のようにその呪いが発動することはなかった。最初は単なる偶然によるものだと思い込んでいたものの、拓海に手を握られた時はいつもとは違った胸の高まりを感じていく。それはまるで、全てを包み込む母性の如く。
「(あぁ、そうだった。なんで拓海に対してこんな想いを持つようになったのか、なんでそれに気づけたのか……ようやくわかってきた)」
一度は気恥ずかしさから顔を俯かせていたミカンだったが、己の心境に気づいたのか、頬を染めた顔を上げ拓海を見つめる。
「(彼は誰よりも他人の事を気遣い、他人の為にできる事はあるのかを真剣に考え、必死にそれをやり遂げようとしている。そしてこんな私の事を誰よりも想い、どのような形でもそのままにしようせず、手を取ってくれている。だからこそ、かしら……
私が、この人の事を好きになったのは)」
気がつけば、ミカンも拓海の手を優しく握り返した。そして、自分の全てを彼に許すかのように瞳を閉じ、己の純潔を彼の純潔のある場所へと近づけ……
「ミカンさん‼︎」
「ミカン‼︎」
「お邪魔ー」
「ひゃっ」
「ふぁっ」
突然のさらなる来訪者──シャミ子・白哉・桃の登場により、それは妨げられた。咄嗟にお互い手を離し、ミカンは紅潮した顔で一瞬不機嫌な表情をしながらも、その手を隠すように即座に後ろ回した。
「おい桃、なんだその気の抜けた台詞は……って、は? 拓海、なんでお前ミカンの部屋にいんの?」
「ちょっ、ちょっと訳があってだね……いやよく考えたら、鍵は掛けたはずだよね……?」
「と、というか何⁉︎ レディの部屋に急に入って来ないで」
「拓海くんが何故いるのは後で聞くとしまして……部屋どころか! これから心の中に入らせてもらうぞ」
「え……」
心の中に入らせてもらう、それはどういう意味か。ミカンがそう問いかけようとする前に、シャミ子がその疑問の答えを明かす。
「私が、ミカンさんの中に住んでいる悪魔と話をつけます。眷属の二人(一人は仮)も同行する‼︎」
「「え………………えええええっ⁉︎」」
この時から、十数年前の呪いとの因縁の鎖が、金属の混じり合う音を立てながら揺れ始めた。
拓海のヒロインをミカンにしてしまったのでね、こういったやりとりはしないわけにはいかないのよ。ただ、分かりやすい反応をしている子に対して何も気づかないなんてこと、普通あり得ないよね? ね?(圧)