偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
今回はウガルルちゃん説得回です。果たしてウガルルちゃんの反応は如何に⁉︎
「………………あった、ここだな」
白哉とシャミ子のクラスメイトでテニス部一年生エース・勝弥は今、白哉達が住んでいるばんだ荘の前に来ていた。ここに来た理由はただ一つ。呪いを暴発してしまったミカンの事を心配し、様子を見に来たのだ。
とは言うものの、彼も最初から直接様子を見に来る気でいたわけではなかった。初めは呪いを暴発させてしまった彼女の事を考え、困ったことや悩み事があればいつでも相談しに来てもいいといるメッセージを送ったものの、既読したという表示が一切付いていないことに疑問に感じ、今に至ったというわけだ。
そして、ばんだ荘へと向かっていた道中にて。
「まさか俺と同じ事を考えていたとは思わなかったぜ、杏里」
「まぁね、私もミカンの事が心配で仕方なかったんだ。あの後も結構暗い顔していたし」
「あぁ……確かに明るくはなかったな、その時のアイツの表情」
同じクラスメイトで同じテニス部の杏里と偶然にも鉢合わせした。彼女も同じく自分が送ったメッセージの既読をしていないミカンの事を心配し、直接顔を見に来たとのことらしい。
「アイツの今住んでいるところに来たのはいいものの、出てくれるのかどうか心配になってくるな」
「それもそうだね。あんな事が起こった後なんだし、塞ぎ込んでいなきゃいいんだけど……」
お互いに今のミカンが何をしているのか、何を思っているのだろうかと不安な思考に至りながらも、彼女の様子を一目でも見ようと玄関前のドアへと向かっていく。そして立ち止まったところで、勝弥がある物に気づく。
「ん? このドアに付いてるこの紙はなんだ? 勝手に剥がしちゃいけないものっぽいけど……」
「なんだろうなぁ……? 魔法少女から連想されるに結界だとは思うけど……」
そう、ミカンの部屋の玄関前のドアに貼られている、結界の模様である。ファンタジーに関する二次創作でありがちな魔法陣の模様が描かれていれば、誰もが注目することだろう。魔法を使う者がいるところならば尚更だ。とは言っても、効果は『虫除けの結界』であるが。
「……まぁいいや。とりあえずインターホ──って、なんかドアが半開きになってね?」
「えっ? このアパートって鍵掛けが無意味な程に脆かったっけ……? とりあえず鳴らして伝えるだけ伝えよっか」
鍵が掛かっていないのだろうかと不穏に感じながらも、インターホンを鳴らしてその事をミカンに伝えることにした杏里。しかし、ここで新たな疑問が過ぎる。
「……出ないな」
「……出ないね」
鳴らして数分経っても、もう一度また鳴らして数分待っても、ミカンがそのインターホンどころかドアの前まで来る気配がないのだ。たとえ塞ぎ込んでいたとしても少しは何かしらの反応をするはずなのだが……
「……なぁ、さすがに色々と怪しすぎないか? メッセージに反応しないのといい、ドアが半開きなのといい……陽夏木さん、中で何かあったりしないか?」
「確かに、その可能性はあり得そうだね……仕方ない、勝手に上がらせてもらおっか。おっじゃましまーす」
無断入室は犯罪になるのではないか、という疑問を無視し、二人が部屋の中に入れば……
奥の部屋にて、白哉・シャミ子・桃・ミカン・拓海・謎の銀髪で丸い猫耳の少年か少女かも分からない人物の六人が、死屍累々な状態で川の字に寝ていた。しかもシャミ子に至っては何やら白目を剥きながら。
「「(0M0) ウワアアアアアアアアア⁉︎」」
これには二人とも、恐怖心によって怯えている滑舌の悪い先輩戦士のような悲鳴を上げてしまう。突然の出来事で異常な光景を見てしまったのだ、驚くのも無理はない。
「何これ⁉︎ 事件か⁉︎ 事故か⁉︎ サイコ案件か⁉︎」
『し〜〜〜っ‼︎ 今、夢にダイブ中‼︎』
【あんまり叫ばれるとみんな起きちゃうメェ〜】
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」
【うるさいメェ〜、少し黙ってるメェ〜】
「あっすいませんでした……」
ここで勝弥、喋る銅像であるリリスと喋る羊であるメェールを今まで見ていなかったためか、何処ぞの何故これで審査が通ったのかも分からないハッ○ョーセットの子供みたいな悲鳴を上げてしまった。すぐに抑えてくれたものの、喧しい。
♢
……よし。桃がお菓子をあげたことで、なんとかミカンに取り憑いた使い魔──ウガルルに交渉の席に着いてもらうことに成功した。メソポタミアの怪物をモデルに造られた使い魔だと言われているようだが、簡単な言葉なら今の状態でも通じてくれるとは思う。
原作では桃は最初会話での交渉に戸惑っていた(しかも力づくなことも考えていた)が、この世界では俺や召喚獣の凌牙、そして拓海と蓮子がいる。話し合いが桃よりは得意そうな俺達でなんとかしてみせるぜ、オーイェー。
さてと、まずは……
「おかわりいるか?」
「んがっ」
「いや会話の初めがそれ⁉︎ まだ本題にはいかないの⁉︎」
「相手にこちらの条件に飲み込んでもらうには、相手側にも利点がつくようなことをするのがベストだと思うからな」
突然こちら側にしか利点がないお願い事をしても、そう簡単に受け入れてもらえるはずがないからな。こうやって相手の機嫌も伺いながら、相手への利点を与えてから本題に入った方が何千倍も効率が良いんだよ、うん。
「なァ。お菓子もうまかっタガ、ニクはあるカ」
「肉か? ちょっと待て、出せるかやってみる。むぬぬぬぅ……」
そう言って俺はマンガ肉をイメージし、それが実際に出てくれるよう念を込める。念入りにセイクリッド・ランスを掲げながら。優子の悠久なる眷属になれたんだ、きっと優子みたいに夢の中で何かを生成できるはずだ。むぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅ………………
「……プハァッ⁉︎ 魔族の眷属になれたからって出せるわけねェのかァ……ッ‼︎」
『何してるのよマスター……ねぇメェール君、そっちの意思を通して肉を出せるかしら?』
【試しにやってみたいメェ〜が、今突然来客への対応で忙しいメェ〜。そちらで何か別の手段を取ってほしいメェ〜】
『そ、そう……』
念じてもダメ、メェール君に頼んでみても彼は今手が離せない状況。これじゃあちょっとなぁ……
「シャミ子、肉の杖とかはある?」
「やってみます………………すみません……今、肉は、キツイ……おかゆの杖とかなら出せそうですけど……」
「あ……うん……ごめん、無理しないで……」
いやそりゃそうだろ……体力使い過ぎて倒れている奴に頼んでも、それが上手くはずないんだからさ……
「蓮子、生成術なら俺より得意だよね? 頼めるかい?」
「できますけど……本当にこんな事であの子は話を聞いてくれますかね?」
「やらないよりはマシだと思う」
「まぁ……そうですよね」
おい、式神コラ。なんでお前は食べ物を献上することが無意味かもしれないと思っているんだよ。いいからはよお肉渡せや。
よし、陰陽札を通してちゃんと作ったな。さっさと渡して食べてもらえ。……って、なんで俺こんなにも偉そうな態度を取ってんだよ。何様?
あっ少しヤバい。ウガルルの形が崩れてきてる。どうやら優子の杖の効果は永続的じゃないようだ。
おっ? それを察してか、拓海が一枚の陰陽札を浮遊させてウガルルに近づけさせた。そしたら形が崩れなくなったどころか、崩れた部分を再生させている。陰陽札とその霊力って、外部へのサポートも施されているのか? 万能じゃね?
「うまイ。……そういえバオマエラ、話ガしたイって言っていタナ。話って何ダ?」
おっ? ここでウガルルが自分から話を聞く気になったようだな。少しは心の許しが出た。やったぜ。
「……単刀直入に言う。ミカンの心の中から退去することは可能?」
「オマエ、コトバ難しイ‼︎ 簡単なコトバで話セ」
「えっ……」
『まぁ、そう言われるでしょうね』
うん、知ってた。幼い姿だからそういう反応すると思った。桃、お前もちゃんと相手を見て判断しないと……
「……ウガルルちゃん、だよね? 一回ここから離れてくれないかな? ひなっ……ミカンさん、困っているんだ」
おおっ、拓海の方がウガルルにも理解しやすいかも。単刀直入とか、退去とか、もう少し歳を取らないと理解できない言葉を使っていない。難しくかつ長く言葉を繋げていない。お前やるやん。
……というか今、初めてミカンの事を名前で言ったな? ウガルルの前で念のためにとはいえ、名字呼びを一旦やめて名前呼びに変えたな? 言質取ったりー、後でミカンに報告しよ。
「……? オレがここにいテ困っていル? 何故ダ? オレ、ミカン守るたメにここに入っタんダゾ?」
「ミカンさんを守るために? どういうことか教えてくれるかい?」
……まぁ、そう簡単にはミカンから離れてくれないよな。俺だけわかってはいたけどさ。
ウガルルの話によれば、彼は……じゃねーや、彼女は呼ばれた時、依代が形を保てなくなり壊れてしまい、現界ができない状態だった。そのためミカンの体内に入ることで、依代が無くとも彼女を守ることができるという憶測に至ったようだ。
どのようにして彼女を守ったのかというと、ミカンの心が震えた瞬間に攻撃するという判断だった。体内からでは外の様子が見えないため、心の震えに合わせて行動することにしたそうだ。
「なるほど、全てはミカンさんを守るための善意でやったってことだね。彼女のために善意でやろうって思うことは偉い………………でも、ごめん。やり方は間違ってたみたいだよ」
「んがッ⁉︎ ダメだっタのカ⁉︎」
「やり方はね」
苦笑いを浮かべた後、拓海はミカンが今どういう状況に遭っているのかを話した。ウガルルが外を見れないせいで、感情が動く度に無害な周りを攻撃してしまい、それを抑えるのに苦労していたのだと。
「んがッ……ミカン、お困りだっタ……?」
「かなりお困りだったね。ついでに言うと、私もだいぶお困りだった! 姉がミカンのために作った『キツめの呪いを笑える感じにする結界』のせいで、こっ恥ずなコスプレを何度もさせられて………………なので一旦被害者代表である私に謝っ───」
「千代田君、今は私怨を言うところじゃないよ。静かにできる?」
「アッゴメンナサイ……」
「主人様、顔が怖いです……」
『ブチギレver.のマ○マさんに見えるわね……』
顔に影を落としながらのニッコリ笑顔はやめてくれね? ウガルルどころかみんな怖がるからさ……何処ぞのチェンソーの能力が使える主人公の上司なの?
「……そうカ……オレ、ミカン守るノ仕事……困らせル、良くなイ。オレ、じきにまた溶けルっぽイ。その前ニオレ、出て行ク……」
「……わかってくれてありがとう」
「んがっ! オレ、使い魔! アリガトウ言われるの好キ‼︎ ……初めて言われタけどナ」
あっ、そんな会話をしていたらウガルルが自分がしてきたことや立場を理解したから、どうやらここを出て行くつもりのようだ。みんなそれでいいと思っているようだが、原作を知っている俺はこのままでいいとは思ってはいない。いや、思ってはいけないと言った方が正しいか。
「なぁウガルル、ちょっといいか? ここから出て行くと言っていたけど、それってお前がこの世界からいなくなってしまうってことになるんじゃないのか?」
「「「『………………えっ?」」」』
「んがっ。オマエ、勘ガいいナ」
勘がいいなんて言葉、そんなに簡単な言葉じゃないのに知ってんのか。ちょっと意外だな。
だが、これは原作を知っていなくても察しがつくとは思うことだ。この後のウガルルの話でも、依代を持つ使い魔がその依代と役割が無くなってしまえば、存在の根拠が失われてしまうと召喚先の世界から消えてしまうとのことだし。現界するための手段が無い者はそういう運命を受ける、そう思ってしまうことだろう。
「オレ、使い魔。心・魂持ってなイ。消えル、普通のコト───」
「待て待て待て‼︎ その結末はダメです‼︎」
何事もない感じに自分が消えることを認めようとしているウガルルに対し、先程まで体力のない状態だった優子が、なんとかの杖を老人が使う杖に変えて身体を支えながら立ち上がり、待ったをかける。
このままにしてもまた倒れそうなので、俺が優子に肩を貸すことに。恋人のために手を差し伸べるのは当たり前だろ?
「無茶するな優子、無理して疲労感マシマシな身体を起こしても意味ないぞ」
「あ、ありがとうございます……。ともかく、消えるなんて絶対ダメ‼︎ ありがとうって言われるのが好きなくせに、心がないとは何事だ‼︎」
「急ニ興奮しテ誰ダオマエ」
「さっきまでそこで寝ていた自称・闇の女帝です‼︎ 自称・この町のボスです‼︎」
呪いの元凶に対しても消えるのは絶対に許さないと言う、器が大きく優しいまぞく。普通の奴なら消える事を良くないと思うだろうが、彼女だからこその良きところがここなんだよな……
というか自分で自称とか言うタイプなのかこの子は。身の程を弁えるタイプだとか?
「……私も君が消えるのは納得できない。一旦ギリギリまで手段を考えよう」
「俺も同じ気持ちだよ。未練を残すことも消えるのを認めるなんてこともさせたくない」
『まだこの先の事が決まったわけでもないのに、模索とかせずに諦めるだなんて良くないわよ』
「そ、そうですよウガルルさん‼︎ 陽夏木さんも優しいですし、どうにかしてくれると思いますよ‼︎」
「……一人不安な奴がいるみたいだけど、俺達はお前のミスのちょっとやそっとを受けても大事には至らなかったんだ。だからお前が今後すべき事だってなんとか見つけられるし、ミカンもみんなもお前の事を受け入れてくれるはずだ。だから消えようなんて考えるな」
自分の役割を果たすことが出来ていなかったという事実を受け入れることは辛いだろう。けど、一度大きな失敗をしてしまったから終わっただなんて思わないでほしい。だから俺達はお前を消させない。絶対に。
「……気持ちハ嬉しイ。でモ」
「「「「『でも……?」」」」』
「オレ……ミカン守るため生まれタのニ、ミカンずっト困ってタ。ミカンきっと、オレのコト許さなイ」
「そんなわけ───」
ってヤベェッ⁉︎ 反論しようと思ったけど時間がねェ⁉︎ 使い魔の役割への執着が消えたからか、すごい勢いで崩れ始めた⁉︎
これ、やばくねェか⁉︎ 俺や拓海に蓮子もここに来たせいなのか、原作よりも深い責任感を感じているじゃないか⁉︎ これじゃあマジで消えちまうのも時間の問題では⁉︎
「ッ⁉︎ ま、まずいです主人様‼︎ 皆さん‼︎ 陰陽札の霊力がウガルルさんの意思によって拒まれています‼︎ このままでは、霊力による加護でウガルルさんの姿が崩れるのを防ぐことができません‼︎」
「ハァッ⁉︎ 拒まれているゥッ⁉︎」
えっちょっ、ハァッ⁉︎ なんだよそれ⁉︎ それってアレか⁉︎ 自分から後に消えてしまうことを認めて、それを受け入れるために気合いか何かで霊力をなんとか拒否したってか⁉︎ 何ネガティブな方面で一瞬頑張ってたねん⁉︎ 消えないという方向性で努力しろよ⁉︎
「頑張れー‼︎ めっちゃ心折れてるじゃないですか‼︎ 何が心がないだ‼︎ 消えてしまうことを勝手に受け入れるなー‼︎」
「そ、そうだぞ‼︎ ミカンだって話せば受け入れてくれるんだから‼︎ 冗談じゃなくてマジで優しいからアイツ‼︎ だから消えないで会って話し合おうぜ⁉︎ なっ⁉︎」
さすがに原作知識持ちの俺でも焦るわこれ‼︎ 俺達三人というイレギュラーのせいで、ウガルル消滅という激ヤバ原作崩壊が起きるって‼︎ ダメダメダメダメダメダメダメダメ‼︎ 消えるな‼︎ 諦めるな‼︎ 強く生きろォッ‼︎
と、そんな事を必死に願っていたら、ウガルルの近くに浮遊して霊力を送っている陰陽札が数枚増えていることに気づいた。
「………………消させるものか」
「た、拓海……?」
「言ったはずだ、未練を残すことも消えるのを認めるなんてこともさせたくないって。後悔させたままに、したくないって……‼︎」
そう言う拓海の表情は険しく、瞳には涙が溜め込まれていた。余程ウガルルの消滅を受け入れたくないのだろうか。
「ウガルルちゃん……君は昔の俺にそっくりだ。自分がした事が人知れずに誰かを傷つけるような結果を残してしまい、それによる責任感と後悔を持ってしまう……その気の弱さが」
過去の自分にそっくり……? 拓海、お前……昔そんな辛い過去を持っていたのか? そしてそんな自分を、ウガルルと重ねていたのか……?
「俺は、昔の自分みたいな思いをする人を見捨てたくない‼︎ 何がなんでも助けてやりたい‼︎ 君のこの後の事だって一緒に考えてあげたい‼︎ 救ってやりたい‼︎ だからお願いだ、消えようなんて考えないでくれ‼︎」
過保護な陰陽師から流れてくる涙。切実なる懇願。それを見たこちらからも、何処か深く心に突き刺さるような熱い何かを感じられた。拓海……お前、そこまで言うほどウガルルに消えてほしくないのか……
「………………オマエ、優しイナ。ここニいル奴ラの中デ一番。トいうカ優しすぎル。助けテやりたイだなんテ、そう言ってくれルのハ嬉しかっタ。……でモ、いいんダ」
「ッ……‼︎」
そう言って微笑んだウガルルの笑顔は、何処か哀愁感が漂っていた。彼の想いを受け入れたくも受け入れてはいけない、そんな悲しき表情だ。
「どのミチ、この体ハ溶けル……溶けル前に出て行ク。ここ、居心地よかっタ。長生きできタ。ミカンにお礼伝えテほしイ」
「ッ……‼︎ ダメだ、そんな事を言っては……‼︎」
「オレも……できれバ仕事で、ありがとうっテ、言ってもらいたかっタ───」
「待ちなさいっ‼︎」
突然、ウガルルの消滅に待ったをかける者が。その正体は無論俺ではなく、拓海でもなく、優子でも桃でも蓮子でもなかった。
「さっきから聞いてれば……人の気持ち勝手に推し量って凹んでるんじゃないわよ‼︎」
「ミカンさん⁉︎」
「ひ、陽夏木さん⁉︎ なんで……⁉︎」
その正体は、先程までずっと眠りについていたままのはずのミカンだった。
「貴方持ちづらいわね‼︎ 一旦溶けるのをやめなさい‼︎」
「んががっ⁉︎」
「混沌って羽交締めできるものなのか? そもそもしても大丈夫なものなのか?」
というか、よく考えたら混沌とかいう未知の存在を羽交締めにしようとか考えたこいつもこいつでヤバいじゃねェか。よく後先考えずそんなことしようと思えるな、ある意味スゲェよオイ。
何故ミカンが起きているのかとみんな困惑しているが、やっとのことで念話してきたリリスさん曰く、どうやら今のミカンは半起きの状態のようだ。外の世界に急なゲスト──杏里と勝弥が来たとのことで、ミカンを頭半分揺さぶって半分だけ起こすのに協力してもらったらしい。
「……お陰で久しぶりに貴方と話すことができるわ! ウガルル──貴方に雇い主として命じます。凹んでないで、もう一度やり直しなさい‼︎」
そして、ミカンは命じた。罪を重んじて消えようとは考えず、失敗を糧にして生きろ、と。
「やり直ス? オレ、仕事できなかったのに? ……怒っテ無いのカ?」
「はっきり言って怒ってるわよ! すっごい大変だったんだから‼︎」
まぁ、十年以上も呪いとして苦しまれてたら怒らない方がおかしいもんな。その上に桃や桜さんに助けてもらうまでは本当に人を傷つけてしまったんだし。
「……だからこそ! 一回失敗したくらいで心折れて消えるなんて、そんな楽ちんな生き方、私が許さない。それにね! 私……大失敗してもこの町の友達に受け入れてもらえたの。だから……貴方ももう一度頑張りなさい‼︎」
「んが……」
こんな自分でも受け入れてくれたのだから、お前もだってその対価はあるはずだ。そう励ますようにウガルルに告げたミカンの瞳は、未来を生きるという目標のある活気と、それを分け与えようとする抱擁の意思で溢れていた。
あんな目に遭ったのに許そうとした上に、みんなを信じてもう一度自分が良心を持ってやってきたことを、本当の正しいやり方で成し遂げようと言うなんて……なんて強気な性格になっただなんて、数年前とは結構良いような変わり様だな。
「分かっタ……もう一度頑張ル」
「その意気やよし‼︎」
おぉ。ミカンの言葉が響いたのか、生きようという活力が芽生えてきたようだ。彼女のせいで一番苦しんだ筈の雇い主である本人が本気でウガルルの事を想ってくれたのだからな、そりゃ『自分も主みたいに頑張ろう』って思えるようになるわな。寧ろその方がいい。
「……よかった。ウガルルちゃんが、自分が消えることを最期まで受け入れようとすることがなくって」
これには拓海も本気で安堵しているようだ。まぁ、なんか誰よりもウガルルの事を本気で心配していたみたいだし、そりゃあそんな反応はするだろうな。
「……陽夏木さんはすごいよ。自分を苦しませてきた人を許そうとするだなんて、普通ならできないことだよ」
「……いいえ、大したことしてないわ。励ましているようなものだから、許したのかどうかは私自身にも分からないのだけれど……ウガルルはウガルルなりに私を守ろうと必死だったもの。その努力を無駄にさせたくなかったから本心をぶつけた……それだけよ」
「それでも、その想いでウガルルちゃんが消えてしまうのを止めてくれた。俺が必死な想いで止めようとしてもできなかったことを、君はやってくれた」
そう言いながら涙ぐんでいた拓海。本来ならこういう時は同時に悔しがってもいいはずなのだが、それ以上に感謝と喜びが勝っていた。そしてその感情が、拓海をミカンに抱きつかせる行為へと至らせる……いや、そのりくつはおかしい。
「えっちょっ、うえぇぇぇっ⁉︎」
「ありがとう。君の私事もあったとはいえ、ウガルルちゃんを止めてくれて」
「「「『うわお……」」」』
「主人様……また陽夏木さんに対してそれですか。いい加減おやめになってください。陽夏木さんの心身が持ちませんし、無意識にそれやるのはもっとタチが悪いです」
あ、蓮子は現界されてなくても拓海が今まで何をしてきたのかを見てきたのか。そして彼のミカンに対する行動に呆れていると……まぁ、そうなるだろうな。
というか、拓海の方はこんな大胆な事をして恋愛的好意がまだないってマジ? このギリ思春期みたいな歳でこの行為を、友達感覚で。しかも無自覚に。いやどんだけ自分の恋愛に鈍感なんだよこいつはよぉ。
って、よく考えたらウガルルが隣にいてよかったな。もしも現実世界だったらウガルルが間違えて攻撃を起こす可能性があったからな。こういう場面では何故か攻撃しないんだけどな……
「……あァ、そうカ。今のデやっト分かっタ気がすル」
「んっ? 分かったって、何が?」
「とりあえずまずお前は一旦ミカンから離れろや」
「えっ? あぁごめん」
やっぱり無自覚で抱きついていたんかい。そりゃこの後ミカンがなんでそんなことをされたのか、そしてなんでその後にミカンの呪いが発動しなかったのか戸惑い遅れて発動するわけだ。
「さっキ、拓海とカ言う奴ガミカンにしてきたのと同じダ。外見れなイ俺でモ感じ取れルようナ、心ニ伝わル温かさガあっタ」
「温かさ?」
「んがっ‼︎ その時ハ不思議ト感じルんダ‼︎ こういう時ハ攻撃しテハいけなイんだっテ‼︎ それガこんな俺でモ分かルようなコトをオマエ、ミカンにやっテみせタ‼︎ オマエ、すごイ‼︎」
「そ、そうかな……? 別に俺は思ったことを話している内に自覚無しにやっていただけなんだけど……」
無自覚な奴だからだよ、お前がすごいと思われていることだからね。にしてもウガルルでも攻撃してはダメだと思えるようになるとは……ある意味すごいな。鈍感な奴の意外な良さが効く場合ってあるんだな。素直に喜ぶべきかそうでもないべきか……
「って、言っているけど……ミカン?」
「き、聞いているこっちが恥ずかしいから、聞かないでちょうだい……」
あーあ。一方のミカンは案の定、顔が真っ赤になってますがな。やっぱり鈍感の胸キュン行為は効果絶大なんですなぁ……
って感心している場合じゃねェ‼︎ こんな事をしている場合じゃねェ‼︎ グダグダし過ぎたらまたウガルルが溶けちまう‼︎ そろそろ本題を進めておかないと‼︎
「と、とにかく……このままにしてもまた溶けて、また同じ事の繰り返しになったら困るな。やっぱりある程度は急いでウガルル用の依代は作らないと。急ぎすぎて充分な依代が作れなくなるのもアレだけど」
「依代……? で、でモずっト前かラ溶けテしまっタんダゾ? そう簡単ニできルわケ……」
「この世界でのは、な。けど現実世界で正しい召喚法を行えば、また溶けることの無く新しいのを作れるはずだ」
原作でもそんな感じでウガルルに新しい仕事を与えていたからな、その作戦方法をこっちも教えてあげて、ウガルルを安心させて溶かさないようにしないとな。
「……ねぇ、白哉くん」
「ん? どうした桃。もしかしてお前も似た案を思いついていたから、俺の意見に指摘するってのか? 別に分からなくもないけどさ……」
「いや確かに似た案は思いついたんだけど……白哉くん、ウガルルの依代を作る手段なんて思いついたの?」
………………
「……作り方・材料全て他人任せとなります。宛となりそうな奴はいますが」
「「「「「『半ば勢いで言った感じだった⁉︎」」」」」」』
「……不安しカなイ」
すいません。半ば勢いで言ってすいませんでした……
とりあえず原作崩壊は免れたのでヨシ‼︎(現場猫風)
次回で多分、原作四巻編は終わりを迎えます‼︎ お楽しみに‼︎