偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
なんでいきなりこんな事を言ったのか、それは本編を見れば分かります☆
良い子の皆、よーく見てお──なんでもないです。こんにちは。白哉です。さっきの挨拶は気にしないでくださいお願いします。
『あすら』がこのばんだ荘にて営業再開するようになって数日が経った。桜さんの結界も一緒に移転をさせることを一日だけ忘れてしまったというケースが起きたため、桃が『あすら』組の護衛に回るようになった。そのせいかすっかり従業員にされる始末に……
ちなみに俺もここで働くことになった。それも優子と同じシフトで。もう親から勝手に仕送りされなくても済むようにするためなのと、俺と長く一緒にいたい優子のモチベーションに繋げるために働くことにしたからだ。ただ単に金が欲しいからってだけで働こうと決めたわけじゃないからな、マジで。
で、優子は白澤さんと一緒にビール瓶の仕入れに行っていて、今は俺・桃・拓海・リコさん・ついでに店の手伝いをしてくれているミカンと柘榴さんで店の切り盛りをしている。といっても初日みたいな忙しさはないし、客も全蔵と小倉さんとトランシーバー役のリリスさんしかいないしね。
「サンドイッチランチセット一つと、せっかくなんで召喚師スマイルも一つお願いするッス」
………………はっ? 全蔵の奴、今なんて言った? 召喚師スマイル? はい?
「あの、お客様……召喚師スマイルとやらはメニューにはございませんが……」
「あれ? 違ったッスか? 本日のオススメってビラに書いてあったッスけど」
「………………少々お待ちください。あ、サンドイッチランチセットは必ずお持ちしますね」
なるほど、大体分かった(怒)。早速厨房にいるリコさんのところに行ってくるか。マスクを付けて、と……
「リコさんッ‼︎ アンタ何してくれてんですかァッ‼︎」
「あらぁ白哉はん、衛生面を考えてマスクして唾飛ばさんよーにしてくれとるんか? 助かるわ〜」
「そんなことはどうでもいいですッ‼︎ 何本人の許可無くスマイルをメニューに入れたんですかッ‼︎」
既に桃もこのスマイルメニュー入りの犠牲になってるだろうし、敢えて『俺の』スマイルって言わなかったのだから、『桃のスマイルも勝手に入れるな』って事が伝わると良いのだけれど……いや、伝わったとしても意味ないだろうけどさ。
「まーまー、イケメン君のスマイルだってお客さんの供養になるもんやで? ちなみにこれ、恋人のシャミ子はん公認や」
「ヤンデレどこいったァァァァァァッ⁉︎」
優子っ、おまっ、俺に対する独占欲があるじゃなかったのかァッ⁉︎ 俺の笑顔を他の人達にも共有させてもいいものなのかァッ⁉︎
お前の中のセーフラインは一体どんな感じなんだよ⁉︎ 俺はお前の分からないことがまだまだあって困るんだが⁉︎ いやマジで、マジのマジで、ホントマジで‼︎ 後で優子にセーフラインについて聞くとすっかな。
……とりあえず、今はリコさんに本人の許可無くスマイルとかをメニューに追加するなと注意しないと───
「こんにちは、二名や‼︎」
「失礼致しますわ〜」
あ、ヤベェ。来てしまった。そういえば来るんだった、魔法少女が。
反射神経で入り口方面に振り向いてみれば、そこには薔薇の装飾をした髪飾りを付けている赤いツインテールの少女がいた。脇腹部分にリボンの付いた脇と膝の出ている赤いドレスに、背には薙刀を入れているであろう手提げ袋(?)を担いでいる。
原作推奨済みの俺はこの人が誰なのかを知っている。彼女の名前は朱紅玉。中国人か韓国人みたいに『しゅほんゆー』と読む。口調は関西弁なのに。そして彼女がなんでこの店に来たのかの理由も分かる。その目的に対してなんとか指摘できるといいが……
彼女がここに来れた理由、それは原作では『あすら』が結界を二日移転させるのを忘れてしまい、リコさんの魔力を察知されてしまったからだ。この世界では一日だけで済んだものの、原作でも何日後にここに来てしまったのかは明白されてないから、展開の改変がどうのこうのになったのかは知らん。マジで知らん。
ただ、原作と違う点が明白なのが一つある。それは、彼女の隣に一人の女性がいることだ。ペタンッと畳まれてある先端が白く茶色い犬の耳と後頭部に薄ピンクの大きなリボンが付いた、三つ編み付きの茶色い長髪。曲げられてない黄色い襟の、青がかった灰色のジャージ。そして大きな犬の手に、犬にしては猫のように長い尻尾……
なるほど、あの人は犬のまぞくか。背が中々デカいな、少なくともあの魔法少女よりはな。
にしても、なんでまぞくが……というか、なんであの魔法少女の人はまぞくと一緒にいるんだ? いくら俺というイレギュラーが現れた影響によるものの可能性があるとはいえ、どういう風の吹き回しで一緒にいるようになったんだ? うーむ、原作にない設定や展開はよう分からん……
と、そう悩んでいる間に桃が既にあの二人から注文を聞いてオーダーを通し、できた料理を運んでいた。とりあえずあの二人を見てどう感じているのかは聞いておくか。現状の把握をしないと何も始まらん。
「(なぁ桃……あの二人、どう見る? お前の知り合い……ではなさそうだけど)」
「(う、うん。知り合いではない。あの人達は初めて会うよ。リコさんのご飯を無警戒で食べているし、こちらにも気付いていない。ただ、殺気や魔力は感じられない……というよりは隠していると言った方が正しいかな)」
「(一応自身の魔力と感情が漏れ出ないようにコントロールはしているって感じか。もしかすると、あの隣のまぞくにそのやり方を教わったのかもな。ここはただの勘だが)」
原作とは違い、あの魔法少女は魔力と殺意は察知されないように抑えるようになったってわけだな。それもあのまぞくによって。イレギュラーの存在が原作キャラの強化に繋がる、はっきり……ではないけど分かるかもしれない場面ってあるんだね。
ということは、あの魔法少女は原作よりは強いってことか。戦闘描写は皆無なレベルでほぼないけどな。そして彼女を強くしたあのまぞくはもっと強いってことだな。戦うことになったら要注意すべき相手だということは覚えておこう。
とりあえず、まぞくが最後に頼んだデザートのフルーツタルトを運んでおいたのまではいいが……まだ何も行動を起こしてるわけじゃないか。いや、既に何処かに仕掛けを用意しているだろうから、まだ警戒は怠らないで……
「……あのな、店員さん達。ここだけの話なんやけど」
「!」
あれ? この流れ……
「笑わんといて聞いて。ここの料理人……人やないねん、狐やねん。化け狐なんよ」
「………………………………」
「………………ははぁ、そうなんですか」
うん、ここは一旦ノリに乗っておこう。
「そしてアタシはコスプレ女やのうて、そいつを仕留めに来た魔法少女なんや‼︎ んで、アタシの隣にいる子もコスプレ女やないで。御伴神っちゅうもんのまぞくで、アタシに魔力の扱い方を教えてくれた師匠なんや‼︎」
「「………………」」
あぁ、やっぱりね。やっぱりそういうことだったのね。
「なるほど、そうでしたか………………俺達の勘、大抵当たったんですね。やっぱり魔法少女とまぞくだったのか」
「せやねん………………んっ? えっ? えええっ⁉︎」
「というか存じ上げております‼︎」
「なんでェェェェェェッ⁉︎」
「もへっ?」
おもしれー女。やっぱり原作同様ノープランかつ杜撰な感じで来たってわけか。なんでまぞくを師匠にしてるのかは知らんけど、そのまぞくも何の考えも無しに魔法少女と一緒にここに来たってか。二人揃っておもしれー女だな。
つーかまぞくの方は魔法少女との話に入ってないじゃん。マイペースにフルーツタルト食ってるじゃん。自分達の事が既にバレてることに気づいてない感じじゃん。おもしれー女。
「(チョロいねこの人)」
「(まぞくの方もチョロそうじゃね?)」
「(わかる)」
ホントなんだろうなこの二人。いろんな反応を見させてほしくなってきたぜ。サディスト的な意味じゃなくて、バラエティ方面で。
「なんで自分らアタシが魔法少女であの子がまぞくとわかったんや‼︎」
「俺、似たファッションで魔力持ちの人……というか実際に魔法少女と仲良くなったので。まぞくの方は姿だけで丸分かり、的な」
「あとはもう筋肉とか……棒とか……なんかもう全部です。あと私も魔法少女で、化け狐の用心棒です。隣の彼も用心棒で、魔法少女やまぞくじゃないけど魔力持ちで、別のまぞくの旦那さんです」
「まだ彼氏だから。飛躍させんな」
「ムグムグ」
こいつ、ウガルル召喚の時に言った母さんの言葉をまともに受け止めていやがったのか? というかそこはまぞくの親友って言うだけでいいだろ。下手したら言い方次第ではリコさんの旦那さんって認識を受けてしまうかもしれんだろ。そうはなりたくないけど、いろんな意味で。
「用心棒⁉︎ なんでや‼︎ あとそっちの男は魔法少女やまぞくやないけど魔力持ちってどういうことやねん⁉︎ しかもまぞくの旦那さんて⁉︎」
「だからまだ彼氏です。まともに受け止めないでください」
「程良い甘さですわ」
この人、他の人の言葉をまともに受け止めてしまうんか? しかも初対面の人の言葉だぞ? すぐに信じるとかこの人は詐欺にあっさりと騙されるタイプだったりとか? それはそれで心配というか……
「あ……せや‼︎ 自分ら、ヤツの本性知らへんな⁉︎」
「本性……⁉︎」
「リコさんに本性が? あの人は料理に魔力を混ぜて人をハイなテンションにさせるし、人を悪意無しに煽って騙してクスクスと笑う癖のある性悪なのは分かりますけど、まだ本性が……?」
「全部言ったァァァァァァッ!? アタシが言おうとしたことをほぼ全部言っとるやん!? えっ、何!? 全部知っとる上でヤツの護衛しとるんか⁉」
「まぁ、そんな感じです」
「ウマウマ」
なんか思わずピースしてしまったんだけど、これってこの魔法少女のことを煽っていることになるんじゃね? それはそれで我ながらヤベーなおい。なんでピースする必要あるんですか(自問自答)。
「えっ、じゃあなんや!? そこの魔法少女もヤツの本性全部知っときながら護衛しとると言うんか⁉」
「私も不本意なんですけど……」
おうおう、めっちゃ戸惑ってる戸惑ってる。自分が危険視している存在を、その者の本性を理解した上で庇っている人がいたらそりゃ困惑しますがな。
というか……
「ふぅー……ご馳走様でしたわ」
「貴方は何知らんぷりしながらデザート食べてるんですか。貴方とその同伴者の魔法少女の正体、バレてますよ? まぞくさん」
「………………はへっ⁉︎ そ、そうでしたのっ⁉︎ タルトを美味しく食べてましたので、全っ然気づきませんでしたわっ⁉︎」
いやずっと食べることに集中してたんかこのまぞくは。人がとんでもない会話をしてたってのに。そちらにとって不都合な感じになったってのに。なんだこの優子とは違うポンコツまぞくは。
「あ、あぁ……その子は美味しいもん食べると、それだけでそっちの方に集中してまう癖があるねん。食べ続けていたまんまなの忘れとったわ……」
「ペットの躾はちゃんとしてくださいよ?」
「ペットちゃうねんっ‼︎ 家族みたいなもんやねん‼︎」
「ペットも家族みたいなもの、というか家族そのものですわよね?」
「いやそういう意味じゃあらへんがな⁉︎」
んっ? あの魔法少女今なんて言った? このまぞくが家族? どういうこと? ブラムさんと奈々さんみたいな血の繋がってないけどそういう関係になってるってヤツ? そういう感じなのか?
「朱紅玉、十八歳。随分遠くから来てるな。……オートマ限定か……」
「どなた⁉︎ 自分何見とんねん‼︎ オートマでもええやん‼︎ っていうか角生えとるな‼︎」
「で……そっちは朱ミト、二十一歳。マニュアルと原付バイク免許付きか」
「バイクでドライブするのが趣味ですので」
いっぱいツッコミ入れておりますなぁ魔法しょ……朱紅玉さんは。しかもさっきからの喋り方からして中国人の名前の癖して関西人? アンタ本当は何人? すっごく気になる。
で、まぞくの人はミトっていうのか。苗字は朱ってことは本当に朱紅玉とは家族関係に当たるのか。ってか二十一歳って。柘榴さんの一個下じゃないか。身長高いから少なくとも同い年かと思ったぞ。あとバイクの免許持ってるんかい。
というかリリスさん、人の免許証というか人の物を勝手に物色するのはよくないですよ。プライバシーの侵害になるからやめなさい。
「この町は先代の魔法少女が命懸けで作った、魔法少女と魔族が共生する町。不要不急のカチコミは厳禁です。お引き取りください」
「そういうわけです。俺達は争いなど好みません。因果のある相手がいるのでしたら、話し合いで解決することがベストとなります。力でどうのこうのとするのでしたらこちらにも考えがございますが、いかがいたしますか?」
念のためすぐさま召喚師覚醒フォームになってセイクリッド・ランスを解放したんだけど、相手側はどう動くのやら……いや、今考えたらこんなことする自体が相手の喧嘩を売ることになるんじゃね? やらかした、か……?
「ご主人様の邪魔をするとでも、言うのですの?」
気づいたらミトさんが俺達の事を睨みつけながら、自身の肉球な手を床に届くほど膨張させていた。この人、自分の体を大きくすることができるのか……
ってかそんなことよりもッ‼︎ やっぱり喧嘩売っちゃってるやん俺。俺が変身したというか戦闘態勢を取ったせいでミトさんが怒っちゃってるじゃん。何やってんだ俺。何やってんだお前ェッ‼︎
「魔法少女と魔族が共生する町? 不要不急のカチコミ? そんなこと関係ありませんわ。ご主人様とわたくしはこの店に棲む妖狐に用がありますの。この問題に貴方達は関係ありませんわ、部外者ですの。ですので邪魔とかしないでくださいまし?」
あ、多分違ったわこれ。桃が『帰れ』と言った場面からブチギレたんだ。桃の台詞を引用してたし、多分そうに違いない。
「ま、待てやミト。今日はあくまで様子見ってだけでいくんやなかったんか───」
朱紅玉さんが止めに入ろうとした途端、ミトさんの背後から大量の蜜柑色の矢が降り注いできた。
「まぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶゥッ⁉︎ ななななな、何なんですのこれはァッ⁉︎」
これアレだな。二人が来てから事前に入り口付近でスタンバってたミカンが放った魔力の矢だな。ミトさんが戦闘態勢に入るものだから、それに反応して一斉射撃したんだな。ミカン、ナイス。これで彼女を無力化できたぜ。
「ミ、ミトォッ⁉︎ ちょっ、大丈夫なん──ハッ⁉︎」
ミトさんを助けるべく武器を取り出そうとした朱紅玉さんの背後に、ギラリと目を光らせる複数の存在が。それは……
【マスターのご友人に】
【何か用でもあるのか?】
【これはわからせないといけないメェ〜】
突然の襲撃だからなのか、いかにも怒りを爆発させそうなメェール君達召喚獣一同だった。ん? 俺が召喚師覚醒フォームになってる状態で彼等が召喚された。本来の力を持ったまま現界でき、その力をいつでも発揮できる……ってことは。
「えっ。ちょっ、ちょっと待ってもろて───」
【おりゃおりゃおりゃあっ‼︎】
【喰らえやこの野郎がっ‼︎】
【テメー等この平和完全主義なこの町で喧嘩売るとはいい度胸じゃねェかコラァッ‼︎】
【お灸を据えないとまた来そうだからボコボコにするねェ】
「ちょっ、グエッ‼︎ ちょっと待っ、ヘブッ‼︎ やめっ、アダダダダダダッ‼︎」
おまっ、それはいくらなんでもやりすぎだろお前らッ⁉︎ 袋叩きなんてモブの集団がやる低脳レベルの行動だろッ⁉︎ 俺の今の言い方もアレだったけどさッ⁉︎ 惨い‼︎ こいつら一斉に掛かると結構惨い‼︎
「お前らちょっとじっとしてろッ‼︎ バインドホール‼︎」
《アグリエッ⁉︎》
セイクリッド・ランスを横薙ぎに振るい、それによって生み出されたラーメンのナルトの形をした黄色い渦で召喚獣一同を一斉に引き寄せ束縛した。
フウッ、こいつらがボカスカに集中していたおかげで全員バインドホールで吸い込めたぜ……吸引力と束縛力ヤバいな、○ービィかよ。いやそれだとあの後能力もコピーされるか。あっちの方がヤバいな、うん。
「すいません、ウチのバカどもがすいません。ここまでするつもりはありませんでした。後で叱っておきます」
「ううう〜……げ、解せぬ……」
「確かにさっきの袋叩きは解せないですけどね。さて……事情を説明していただけますか」
桃、そこは指摘しないで。袋叩きの事指摘しないで。俺の指導不足がこうなったと思うから。だから指摘はやめてマジで。
まぁいいや、とりあえず構えの態勢に戻って警戒の意は示しておかないとな。でないとまた戦闘態勢を取ってきて、そこから不意打ちとかされたらたまったもんじゃない。
幸いにもミカンもこっちに来て、事態の状況に気づいた拓海もも柘榴さんも戦闘時の姿になってる。しかもミトさんは気絶してる為不意打ちは難しいと思う。襲撃者側の仲間が少ないまたは誰一人動けない状況かつ戦力となる者が数名近くにいれば、そう易々と動けるはずがない。
「なー、終わったー?」
「リコ‼︎」
あ、隠れて促されたリコさんが出て来てしまった。すみません、この二人を帰らすまで中に入っててくれません?
「リコさんの知り合い?」
「ん……どなたやろ。なーんかどっかで会ったよーな感じがするよーなせんよーな……」
ん? リコさんが微塵かつにわかレベルでとはいえ、朱紅玉さんの事を覚えている……? 原作では微塵すら覚えられてないのに……? もしかして原作よりも強化されたから、それの影響でリコさんの記憶にも刻まれることになったのか……?
やったじゃないですか朱紅玉さん、倒すべき相手の記憶容量に入ってる可能性が出ましたよ。……いや、これはやったと言うべきなのか……?
「……覚えてへんのか? せやろな……アンタにとっちゃアタシもミトも雑魚認識みたいだったし……」
ってヤバッ。朱紅玉さんが指に光──魔力をこっそりと溜め始めてる。早く止めないと原作通りのめんどくさいことになる。
「でもアタシは、この命を削ってでも───」
「はい、バインドホール・ミリ」
「グエェッ⁉︎ 腕めっちゃ引っ張られとるッ⁉︎ イダダダダダダッ⁉︎」
「あ、すいません。加減間違えました」
ミリサイズのバインドホールを展開し、強制的にその引力で朱紅玉さんの両腕を後ろに回させた。けど込める魔力が大きすぎたのか痛くしてしまった。加減の調整はまだ出来てないようだ。反省。
「もう一度謝ります、すいません。貴方がさっきしようとしたこと──封印を許してしまえば、誤解から始まる復讐の連鎖が起こりそうなので止めました」
「復讐……?」
そう呟く桃を中心に皆疑問を抱いている様子だが、無視だ無視。今は話を聞く状況を作らないと。
「朱紅玉さん……貴方、リコさんの悪意の無い悪意を、貴方や関わりのある人への洗脳か何かだと勘違いしてませんか? そしてそれで苦しんでませんか?」
「んなっ⁉︎」
原作知識を元にしながらそう指摘してみたら、案の定当たりだった。なるべく勘で言っている感じにしてみたのだから、変な疑いを持たれなきゃいいのだけれど……
「悪意の無い、悪意……? それは一体どういう意味なんや……? しかもなんでウチがアイツの洗脳で苦しんでるって……」
半信半疑な様子ではあるけど、俺が嘘を言ってないことはなんとなく察してくれたようだ。これなら少しはリコさんを攻撃することを考え直してくれるかもしれないな。争い事はマジ勘弁。
「実際には洗脳じゃないですけどね。信じられないかとは思われますが、実は──ウオアタタタタタタッ⁉︎」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ⁉︎ な、何ッ⁉︎ なんか腕がめっちゃ後ろに引っ張られてる感じがするんだけどッ⁉︎ しかも動かそうにも動かせられないんだがッ⁉︎
【マスター⁉︎ お前、マスターに何をイダダダダダダッ⁉︎】
《アダダダダダダッ⁉︎》
気がつけばメェール君達召喚獣が悲鳴を上げたため、半ば反射的にそちらの方へと振り向く。そこには腕や脚を後ろへと引っ張られ、身動きが取れない状態となっていた。しかも彼等の後ろには、
あ、あれ? なんで? 俺、メェール君達が動けないのを確認してからバインドホールを解いたはずなんだけど……なんでこういう時に限って誤射が起きるの? これまでに技が誤射されることないのに……
「オ、オホホホホホ……‼︎ わたくしが動けない状態だと思って拘束しなかったのは間違いでしたわね‼︎」
「なっ⁉︎ この人いつの間に起きて……⁉︎」
ゲゲッ⁉︎ このタイミングでミトさんが復活したッ⁉︎ ちょっ、ヤバいって‼︎ イレギュラーは何をしてくるのか分からないって‼︎ 誰かこの人止め───
刹那。ミトさんの背後から
「な、なんだ⁉︎」
「えっ⁉︎ こ、これって、私のサンライズアロー……⁉︎」
確かに、今の色の光の矢──サンライズアローはミカンだけが使えるはずの技だ。こんな魔法、何故このまぞくが……⁉︎
「犬はメリットがあると感じた時、他の犬や人の真似をする習性がある……わたくしはその習性を基にした『相手に見せられた技を魔力で一時的にコピーすることができる能力』を使えますわよ。あ、受け取るのは真似事とは関係ないかもしれませんわね」
見た技を一時的にコピーできる、だって⁉︎ そんな力を持った奴なんて見たことないぞ⁉︎ こ、こいつ結構強い類じゃ……⁉︎
「リ、リコさん早く逃げ───」
って、アレ? なんでリコさん壁にもたれかかって……あっ、矢が裾に刺さってそのまま壁に釘刺しにされたのか。そういうことか……じゃねェよッ‼︎
「動けへ〜ん……誰か助けてくれへん……? あ、手はちょっと動かせられるわ」
「何やってんだお前ェッ‼︎」
「あら? 白哉はんにタメ口使われたの初めてやな?」
そんなこと言ってる場合ですかッ⁉︎ 貴方は今動けない状態なんですよッ⁉︎ しかもミトさん、朱紅玉さんが使おうとした封印の魔法をそちらに放とうとしてますよ⁉︎ 呑気になっとる場合かァッ‼︎
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよミトさん‼︎ リコさんを封印する必要なんて……」
「洗脳ではないから封印しなくて良い、と? 貴方達はわたくし達がそうしなきゃいけない場面に一つも立ち会えていないのですから、そんなことが言えますのよ? あの時のご主人様はすごく辛い思いをしてました。そんな思いを持たせ、しかも他の者達をおかしくさせたこの者を、そう易々と見逃す必要があるとお思いで?」
まずい……‼︎ この人は話を聞いてくれないタイプ……というよりは主人の事を最優先にして、それ以外の事は自分の心意含め全く考慮しようとしないタイプだ……‼︎ とりあえず今は主人の目的を早く成し遂げてあげたいから、細かいことは考えないタイプのまぞくだ……‼︎
「あ、あらぁ? ウチそんなに恨まれとるん? ずっと昔の事なら覚えとらんから困ったわ〜うん、頭に手が届きそうなくらいは動かせれるわ」
「貴方は何も考えないでいいですわよ? もうすぐご主人様が放とうとしたこの一発で、すぐに楽になれますからね……」
あっ⁉︎ 封印するための光が放たれようとしてるっ⁉︎ ちょっ、まずいってっ⁉︎ 動け俺の身体‼︎ 動けってんだよっ‼︎
「ま、待てやミトッ‼︎ 一旦それ収め……」
「全てはご主人様のためッ‼︎ ご主人様含め幾多の人を欺いた妖狐よ、無の空間に永く眠りなさいなッ‼︎」
ダメだ、もうすぐ光が放たれる‼︎ ま、間に合わな───
「り……リコくぅぅぅぅぅぅん!!!」
刹那。突如としてこちらに駆けつけてきた白澤さんがリコさんを庇う姿が見え、同時に視界は一瞬白く染まり上がった。
「………………えっ? な、なんで……? なんでこの妖狐は無事なんですの……?」
朱紅玉さんの封印魔法をコピーして放ったはずなのに、その対象となるリコさんに何一つの変化も無く拘束が解除されたことに戸惑うミトさん。しかし、あの封印魔法は
ふとあの二人の間の足元を見下ろすと、そこには
「嘘やろ……なんやあの動物……なんで割って入るん……ミトの奴が……真似したのとはいえ……十年間……溜めとった……封印の技が……なんで……こんなことになるんや……」
朱紅玉さんは酷くショックを受けた様子だった。自身の手で封印魔法を使うことが出来なかったことにでもなく、ミトさんがリコさんを封印出来なかったことにでもない。無関係な者として解釈している人物を、間接的に封印してしまったことにだ。
表情を見るからするに、どうやら彼女はリコさん以外の人には害を与える気はなかったらしい。しかし、同胞とも言える存在が無許可でコピーしたものとはいえ、自身の持つ魔法で間接的に白澤さんを封印してしまい、動揺を隠せずにいるようだ。
そんな落胆状態の彼女の頭上に、突如として天使の輪っかを付けた金魚が姿を現した。しかも何やらポイントカードのようなものをぶら下げながら。
『紅ちゃん、魔族討伐ポイント二ポイント。あと十ポイントでカード満了や、おめでとうな』
「ジキエル! 要らんねん‼︎」
あのポイントカードには何やら二つだけスタンプが押されてある。なるほど、排除対象はリコさんだけであるから、他のまぞくは封印しなかったのか……けどあのポイントカード、一体何なんだ……?
【君……よくもマスターの知人を封印してくれたね……ッ‼︎】
【許さない……絶対にッ‼︎】
「ッ‼︎ そっちの魔法が切れたみたいですわね……」
ってヤバッ⁉︎ バインドホールが解除されて召喚獣達……主に襟奈と剛鬼がブチギレてるじゃねェかッ⁉︎ しかもミトさんまだ殺る気満々だッ⁉︎ ま、まずい。このままだと、とんでもない修羅場になって……
「しゃらくさいですわね……‼︎ 邪魔さえしなければご主人様の悲願が達成されるというのに……‼︎ こうなれば貴方達を先に封印して、満了したカードの力であの妖狐を───」
「ミト! アンタももうやめろや‼︎」
「はいご主人様‼︎ ………………えっ?」
もう攻撃するな。朱紅玉さんからそんな指示がされたかのように聞こえたミトさんは、思わず呆けた声を出し戦闘態勢を解いた。もうすぐ主人の目的が達成されるといったところで、その主人に止められたものだから、戸惑ってしまうのも無理はない。
「ご、ご主人様……? 何故止めるんですの……?」
「……アタシ部外者に当てるつもりなんてなかったんや。なのに、こんな事になるやなんて……」
……これは、思ったよりもかなり重い雰囲気になってしまった。白澤さんが封印されてしまって、みんなどう反応すればいいのか分からなくなっているようだ。……俺も、今何かできる事はないのか……?
「………………アホちゃう?」
あっ。
「マスター……なんで庇ったん? ウチ……避けれた可能性あったよ? 早とちっていらんことせんといて」
ヤ、ヤバい……ッ‼︎ 忘れてた、素で忘れてた……ッ‼︎ 一番そのままでいてはいけない人がいることを忘れてた……ッ‼︎ そして白澤さんの事を強く想っているんだった……ッ‼︎
「……しょーもな。もう……料理とか……お店とか……どうでもええわぁ……」
《⁉︎》
おわァァァァァァッ⁉︎ ちょっ、ヤバいってッ‼︎ リコさんめっちゃ絶望した表情をしながらドス黒いオーラを放ち出したよッ⁉︎ 周囲に巻き上がってる木の葉もデカいし真っ黒だよッ⁉︎ このオーラの強さはラスボスレベルだよッ⁉︎
「な、なんスかあれ⁉︎」
「やばば‼︎」
「まずい‼︎」
「止め……‼︎」
「……ッ‼︎」
「ギャー‼︎」
「なんですの⁉︎ なんですのォ⁉︎」
【マスター‼︎ このままだと危険だメェ〜‼︎】
「クソッ……‼︎」
こんなにも馬鹿デカい憎悪は初めてだ……‼︎ 優子が暴走した時よりも恐ろしいものなのかもしれない……‼︎ リコさんをなんとかしないとこの店どころか、少なくとも町中に多大な被害が出てしまう……‼︎ なんとかしないと───
「リコさ……リコ君‼︎ 止まりたまえーーー!!!」
《きゅっ》
へぎゃあああああああああっ⁉︎ こ、鼓膜がァッ‼︎ というよりは脳内がァァァッ⁉︎ めちゃくちゃデカい声というか音が脳内にめっちゃ響いてくるゥゥゥゥゥゥッ⁉︎ 頭ん中がすごくバグりそうなんだけどォォォォォォッ⁉︎
って、よく見たら優子が‼︎ 優子がおる‼︎ ここまで駆けつけて来てくれたのか‼︎ なんか無線式拡声放送装置(町内放送で使うために設置されているスピーカー)に変形させたなんとかの杖を持ってる‼︎ アレでリコさんの動きを封じてるのか⁉︎
助かった……と言いたいけどうるせェッ‼︎ めちゃくちゃうるさくて俺達動けねェッ‼︎ そしてうるさすぎて逆に何言ってるのかさっぱりわかんねェ‼︎
「他の皆さんも‼︎ その場で停止ーーー‼︎ ……失敬」
「えっ?」
な、なんだ? うるさいのが収まりつつあって耳鳴りも収まりそうと思ったら、突然優子が心の壁フォームになってドデカ貝殻に籠ったぞ? 一体どうしたと……
ん? なんか窓から何かが投げ込まれたぞ? あれは……ビーカー?
……あっ。そうだ、思い出した。ここまでの展開からするとあれ、確か小倉さんが作った魔力の流れを一時的にショートさせ、その光に当たった者を昏倒させる薬だったっけ。あれでこの事態を一時沈黙させれるんだっけ……
いやちょっと待て、ホント待って。俺、今あれを瞬時に防げる手段がないんだけど───
「よっ、久しぶりだな白哉」
で、今はどっかの誰かの夢の世界。そこでフードの人物に再会しました。予期せぬ再会なんですけど。
白哉の活躍で今回は変わった展開が……と思いきやオリキャラの突然の行動で最悪の事態になりかけた‼︎ マジ危ねェ……‼︎
さて、次回は気絶中の白哉が夢の世界で何をするのかにスポットを当てていきます。お楽しみに。
おまけ:かわいい女の子メーカーで作った
【挿絵表示】