偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
気絶した白哉君、この時彼は何をするのか……? 今回はそんなお話です。
あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ‼︎
この俺・平地白哉は、訳あって魔法少女と原作未登場のまぞくの襲撃、そしてリコさんの暴走の対処を皆でしようとした。そしたらいつの間にか昏倒させられて、誰かの夢の世界にてフードの人物と再会した……
な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされていたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……
催眠術だとか、超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……
「ちょっと何言ってるのかわかんねーんだけど」
「いやここに来るまでに何があったのかを、『ジョ○○の奇○な冒険』のポル○レフがDI○の能力を受けた時に何があったのかを仲間に説明した時のを真似しただけなんだよ。……ふざけてほしくなかったのなら謝る、すまん」
「別にふざけてもいいんだけど、そこはサン○ウィッ○マンみたいに『なんで分かんねーんだよ』とか『いや分かるだろ』ってツッコミ入れてほしかったんだよなぁ」
そこかよ。どこに指摘を入れてんだよこいつは。いや、やっぱり『こいつ』じゃなくて『この人』って言った方がいいのか? まだこの人の正体が誰なのかも分かってないんだし、何も考えずに友達感覚に接するのはよくない気がするし。
「っていうかさ、ここに来るまでに何かあったのかをもう少し細かく教えてくれね? なんで魔法少女が来たのかとか、なんでリコって言う魔族が暴走したのかとか、それらの理由も知りたいしよ」
「えっ? あ、あぁ……わかった。実はな……」
kwsk説明し直せと言われたので、俺は彼の言う通りここまでの経緯を詳しく話すことにした。
魔法少女──朱紅玉さんが『あすら』に来たのはリコさんを封印するためであること。
そのために魔力を扱う師でもあるミトさんを連れて来たこと。
返り討ちにして朱紅玉さんにリコさんに関する誤解を解こうとしたこと。
ミトさんが不意を突いたりしてリコさんを封印しようとしたこと。
そんなリコさんを庇うように白澤さんが割って入って封印されてしまったこと。
朱紅玉さんが巻きたくなかった部外者(扱いの白澤さん)が封印されたことにショックを受けたこと。
リコさんが彼女以上に白澤さんが封印されたことに絶望し、暴走しかけたこと。
そこに駆けつけた優子が割って入って一時暴走を止めたこと。
その瞬間に小倉さんが魔力を一時的にショートさせる薬を放り込んだこと。
これらを全部説明したところ、フードの人物は溜息をついた。なんでそんな反応するんだよ。
「ハァ……いやさ? その魔法少女が『あすら』に来たのは、リコって魔族が作る料理の健忘効果に対する誤解による復讐ってことだろ? 勘違いする方もバカバカしいけど、そんな勘違い行為をする方も大概だろって思うとさ……呆れるぜ、全く」
いやまぁ、確かにどっちもどっちだけど。二人の食い違いがあったせいで現在に至ったんだけど。まぁ、どっちとも悪意があるわけじゃないんだよなぁ……どう決めつければいいのか分からん。
「ま、どのみち大丈夫だろ。シャミ子が夢魔の力で直接二人に仲直りを試みて、最後には解決するんだろ? 原作を読んだアンタなら、その結果は分かるだろ」
「……まぁな」
そう。フードの人物の言う通り、この問題は全て原作通り優子が解決してくれることなのだ。
まず朱紅玉さんの件。
原作知識によれば、彼女は幼少期の頃、店で働き始めたリコさんのことをあまり良く思ってなく、彼女の料理を食べた客を見て怪しんでいた。そこに現れたジキエルに彼女は人々をたぶらかすまぞくだと唆されてしまったはず。
結果、魔法少女になった朱紅玉さん。けど実力は雲泥の差であり呆気なくボロ負けし、その上に誕生日に貰った中華鍋を持っていかれてしまう。そして彼女に残されたのはリコさんがいなくなってがらがらになった店と、彼女の静止も聞かず取り憑かれたように無心で厨房に向かう祖父だけだったと……
それを夢の世界で知った優子が『祖父は洗脳されたんじゃなくて大切な貴方のために台所に向かっていたのだ』と諭し、夢の中での憎しみを流してあげるんだったっけか。原作通りだとそんな感じだった気がする。
で、次にリコさんの件。
白澤さんが封印されてから彼女が突然暴走しそうになったのには理由があることも、俺は原作知識で理解している。それは、リコさんが白澤さんに恋愛感情を持っているからだ。彼の事をぞんざいに扱うことも多いが、同時に自分を養ってくれた大切な存在だとも思っているのだ。
……まぁ、優子や桃達と違う点は、好きであることを通り越して白澤さんを自分の彼氏だと認識していたことだ。もちろん告白とかもしていなく、独断である。
で、夢の世界で訳あって優子と一緒に来た白澤さんに『住み着いた野良フェネック』という認識でいたことを明かされてしまうんだよなぁこれが。でも優子がちょっと簡潔にまとめると『人と喧嘩せず人の心に寄り添えるおリコうさん』になることを促すことで解決する……あれ解決か? 分からん……
「うーん……ただ、この世界だとそのまま放置にしていいのか分からない存在があるんだよなぁ……」
「……赤い魔法少女と一緒にいた、あのお嬢様口調のワンちゃん魔族か?」
「ワンちゃんって……まぁその人。朱紅玉さんと同じ苗字を持っていて、ミトって名前の人なんだよ」
そう、この世界にはイレギュラーがいる。それが先程名前を口にした、朱紅玉さんの仲間というか魔力の師匠だとか言っていたまぞく・朱ミトさんの事だ。
本人は朱紅玉さんの事を『ご主人様』と呼んでいる。弟子(設定)の事をご主人様と呼ぶ師匠(という扱いされている人)……どんな関係なんだよ。独特で反応に困っちまうでしょうが。
それに彼女は弟子兼主人である朱紅玉さんの事を大切に想っているようだ。もちろんリコさんが白澤さんの事を想っている時とは違って、恋愛感情としてではなく主従関係としてだろうけど。
それ故に後先考えずというか細かい事を考えずに、主人の目的を達成させようと先走ってたんだよな……そのせいでリコさんがマジで封印されそうになって……
「それにしても……なんであのまぞくの人、あんな早とちりなことをする程にまで朱紅玉さんの事を慕っているんだ?」
うーん……分からん、ホントに分からん。イレギュラーがどういう存在なのか、どういう過去を持っているのかのも知らないからなぁ……どういう判断をして対応すれば良いのか分からない……
「あの状況とシャミ子の事だから、あいつは先に赤い魔法少女、その次に性悪狐の魔族の処置をするから問題無いだろうが……お前のその発言からするに、確かに問題となるのがあのワンちゃん魔族だな」
性悪狐のまぞく? それってリコさんの事か? 事実とはいえその呼び名は辛辣じゃね? もう少しマイルドな呼び名があっただろ。
いや、それよりもミトさんか。ミトさんの方をどうするかだな。それが大事なとこだな。
「あいつは赤い魔法少女の言う事をよく聞くタイプっぽいが、主人の事をよく思ってるが上に周りが見えないタイプっぽくもあるんだよな。だからあのまま放置して主人の言う通りにさせても、あいつの本心からして納得のいかない部分もあるだろうな」
「あぁ。やっぱりあのままにするのも良くない気がする」
もしかすると優子が朱紅玉さんの事を自分の良い様に洗脳したと思い込んで、何も考えず怒りのままに優子に襲い掛かってくる可能性もあるんだよな……
いや待てよ?
「主人想いになった時の経緯……そこに目をつければ、予想外の事態を免れるかもしれないんじゃないか?」
うん、きっとそうだ。ミトさんがあんな行動をするのには、絶対朱紅玉さんと昔何かあったからに違いない。そうじゃないと、ミトさんは朱紅玉さんのためを思いすぎるがあまり、周りを見ずにリコさんを封印しようとしてしまう……なんてことしないはずだ。
「経緯、ねェ……確かにそれが分かれば、あの魔族の対処が分かるかもしれねェな」
「ただ、その経緯を知る方法と対処法がな……」
どうやってミトさんが朱紅玉さんに忠実になった経緯を知ればいいんだ?
直接話を聞くか? これは難しい……というか状況や彼女の心境次第では無理だろうな。あちらが襲撃してきたからとはいえ、召喚獣達がミトさんの主人である朱紅玉さんをボコボコのフルボッコにしてしまったんだ。そんな奴らの仲間である俺達の話なんて易々と聞いてくれるとは思えないんだよな……
なら優子にお願いしてミトさんの夢の中に潜り込んでもらうか? 時間的にそれは難しそうだ。彼女は状況的に朱紅玉さん・リコさんの順に夢の世界に潜り込み、最速で最善な事態解決に取り掛かっている。そうしている間にミトさんが起きてしまう可能性があるのだから、これも安全とは言えない……
「じゃあさ、お前がその魔族の記憶の世界を見てくればいいじゃんか」
………………はっ? コイツ何言ってんだ? 俺が優子に変わってミトさんの夢の世界に潜れと? いや、あのさ……俺は夢魔である優子の眷属であって、夢魔そのものではないんだぞ? 優子みたいに夢に介入できたら苦労なんてしないって───
「リリスっていうシャミ子の先祖が教えてくれたんだろ? 夢魔の魔族と悠久を共にするパートナーになるための契りを交わした者は、主と同じ夢魔の力を手にすることができるって。それに精神世界で身内と話せるようになったことで、夢魔の魔族の力とリンクすることができたとかなんとか……」
「えっ? ………………あっ、そういえばそんな話があったな」
思い出した。確か優子のなんとかの杖の使い方に関する話し合いがあった時、リリスさんが俺にも夢魔の力が使えるようになったとかどうとかって話してくれたんだった。あれのおかげで柘榴さんが夢の世界で俺と手合わせできたんだったっけ。あのガバガバ設定で手に入れた能力かー、懐かしいなー。
「つまり……今の俺なら、ミトさんの夢の世界に行けるってことか」
「そういうことだ」
なんだ、よく考えたらそんなに難しいものじゃなかったんだな。ミトさんの夢の世界が何処にあるのかが分かれば、後はそこに行くだけ……
あっ。
「でも、今の俺は気絶中なんだぞ? そんな中で夢魔の力が使えるとは到底なぁ……」
盲点だった。気絶していたら意識がない、つまり思い通りの事が全然できないってことじゃねェか。結局俺、今は何もできな───
「夢魔の力が今使えないんだったら、こうして夢の中で話すことなんてできないだろ。気絶しようが関係ないじゃん」
「あっ……そういえば確かに」
また盲点だったわ。話ができる=夢の世界でなら意識がある……ってコトになるじゃねェか。どういう原理で気絶しても夢の中で話せるのかは知らないけど。
「分かったらとっとと行くぞ───
ちょうど、ミトとやらの記憶の世界への扉を守っていた、茶色いケルベロスみたいなのを寝かしつけたところだし」
「……アレッ⁉︎ 俺もう目的地にいたのッ⁉︎」
うわっ⁉︎ よく見たら奥でマジでケルベロスみたいなのが項垂れながらうつ伏せておる⁉︎ 耳や手がミトさんとそっくりそのままの形なんですけどォ⁉︎
嘘でしょ⁉︎ なんで気絶して他人の夢の世界にこっちの任意無しでお邪魔できたの⁉︎ フードの人物がここに来れたワケはともかく、俺はどういう原理でこうなったの⁉︎ まるで意味が分からんぞ⁉︎
「二次創作な設定の世界なら、お前にとっての現実世界になろうがどんな事が起きてもおかしくねェだろ」
なんだその理屈は⁉︎ 今更感がある気がするけど、そんないい加減な捉え方でいいのかよ⁉︎
「ほら、いいからとっとと扉ん中入るぞ。気絶した身とはいえ、あいつもお前もいつ起きてしまうか分からんからな」
「あっ……ちょっ、おい‼︎ 待ってくれよ‼︎」
あのさぁ……ミトさんの夢の世界に入る手順が少なくなって助かるんだけどさ、本当にこんなあっさりとした感じに入っていいものなのか⁉︎ なんか納得いかないんだけど⁉︎
♢
色々と複雑な感じがしながらも、俺はフードの人物の後を追う形でミトさんの記憶の世界へと足を踏み入れた。
舞台は朱紅玉さんの故郷であることは間違いないだろうけど、彼女の方言に似ついているのか分からないぐらい中華街感が出ている。本当はここ、関西地方じゃなくて中国なんじゃね?
いや、そんなことはどうでもいいか。今はミトさんが何処に居るのか探さないと。
「うぅ〜……」
ん? 今なんか後ろから声が聞こえたような……とりあえず見つかると困るし、建物の隅に隠れてよっか……あっ⁉︎ フードの人、俺に促しも無く一人で先に隅っこに隠れてった⁉︎ ズルい‼︎ こいつズルい‼︎ 自分優先しやがって‼︎
「もう、お腹が空きすぎましたわ……お父様……お母様……」
声がする方向を見れば、そこには飢餓状態なのが顔から分かりやすく出てる子供が。しかも犬耳に肉球・尻尾、そしてお嬢様口調……間違いない、あの子……いや、あの人は幼少期のミトさんだ。
なるほどな。どうやら彼女は幼い頃から金持ちだったのかもしれないけど、家族と生き別れしたのかそもそも失ったのかのどちらかで、家も失ったんだな。なんて壮絶な人生を送ったのだろうか……?
もしかすると、彼女はこの後に……
「あっ。も、もう……動けませんわ……」
あっ、倒れた。あまりもの空腹で倒れちまった。本来なら人気のいないところで倒れた人はこのまま餓死してしまうと思うのだが……
「ちょっ、ちょっと⁉︎ アンタ大丈夫かいな⁉︎」
「ふえっ……?」
ここで誰かのミトさんに声を掛ける者が。その声の正体が、幼少期の朱紅玉さんだった。そういか、この場面がミトさんと朱紅玉さんだったのか。
で、この後朱紅玉さんに実家の中華店にまで運ばれてもらい、彼女の祖父や既に居候することになっていたリコさんの中華料理によって満腹状態になり、ミトさんは餓死状態になってしまうのを免れたようだ。
そしてミトさんが落ち着きを取り戻したところで、しばらくの仮眠から目覚めたミトさんと朱紅玉さんが二人っきりになって対面して話し合うことに。
「先程はありがとうございましたわ。貴方様が助けてくださらなかったら、わたくしは一体どうなっていたことでしょうか……」
「い、いや……別に大したことはしてへんで。アタシはただここまで運んだだけで、それ以外のことなんて……」
うおっ、ここでミトさんが頭を横にブンブンと振り回した。いやめっちゃ回すな。扇風機の羽よりも結構速く回すやん。すんごい風がそこから吹いてるなヤベェ。
「いいえ……たったそれだけのこと。たったそれだけのことで、わたくしは生死を分かれていましたわ。あんな人気のいないところでわたくしは倒れてしまっていたのですの。もしあのままになっていたら、わたくしはあのまま飢え死になっていましたわ……だから貴方様には感謝しかありませんわ!!」
「お、おう。そうなんか……」
まぁ、一理あるな。時と場所によっては、ずっと見つけてもらえずにあのまま野垂れ死んでしまう可能性だってあったし。そんな死の境目な状況の中で真っ先に自分を見つけてもらい、何の躊躇いも無しに助けてくれたらそりゃ感謝の言葉が思い浮かばないわけがないって。
「なので……わたくしは決めました。今日から貴方様のことを『ご主人様』を言わせていただきますわ!!」
「………………ハァァァァァァッ⁉︎ ご主人様⁉︎ アタシが⁉︎」
あっ、ここでか。この日からもう既に朱紅玉さんの事を『ご主人様』認識でいくことにしたのか。まぁ先程の出来事があったのだから無理もないだろうけどな。
「はい‼︎ このご恩を返すべく、わたくしはご主人様の為に忠実に動いてゆきますわ‼︎ お困り事があれば是非わたくしにご相談を‼︎ 解決に協力いたしますわ‼︎ 寧ろどんな命令だろうと確実にこなして参ります‼︎ 何なりと‼︎」
「いやいやいやいや⁉︎ 相談とか命令とか言われても、頭の整理が追いつかんのやけれどォッ⁉︎」
そりゃそうだ。いきなりしもべになるとか言われても、どう反応すればいいのか分からなくなるのが普通だよな。突然の出来事すぎるし、まだ会って間もないじゃん二人とも。
「なんや? その子、今なんでも言うことを聞いてくれるって言ったん? ほな料理作り終わってクタクタなウチの肩揉んで〜」
「うわでたっ⁉︎」
いやここでアンタが出るんですかこの時代の記憶のリコさん。数年前から変わらず空気読まないなこの人。
「……お言葉ですが、わたくしが言うことを聞くのはご主人様の言葉だけですわ。貴方の命令には必ず従うとは思わないでくださいまし」
ん……? あ、あれ? なんか……ミトさんリコさんの事を不機嫌そうな感じに睨んでない? まるで目の敵を見るかのような眼差しなんだけど……
この人、ここまでの短時間でリコさんと何があった? 料理を食べさせてもらった身だよな? なんでそんな恩を仇で返しそうな眼差しを向けてんの……?
「そもそも貴方、先程ご主人様に悪口みたいなことを言ってましたわよねッ‼︎ 『この店の娘さんとは違って美味いもん作れるんや』って何ですのッ⁉︎ 嫌味ですのッ⁉︎ 嫌味であんなこと言いましたのッ⁉︎ しかもご主人様の目の前でそんなこと言うとはデリカシーの欠片もありませんわねッ‼︎」
あぁ……(呆)。リコさん定番の悪意の無いけど空気は読まない発言か。自分に向けられたわけではないけど主人に向けられたものだから、代わりにブチギレてる感じか。
「えっ? ウチはただ自分が思ってたことをそのまま口にしただけなんよ?」
「それが気に入らないと言っていますのッ‼︎ 恩人であるご主人様を馬鹿にするようなことをする者は、誰がなんであろうと許しませんわッ‼︎」
うわっ、手をちょっとデカくしていつでも戦闘態勢が整えるようにしてるよこの人。リコさんとはこの時からずっと嫌悪してたのか? ……『あすら』に来た時は躊躇いも無く彼女の料理を完食してたのに?
「ま、待てやッ‼︎ 落ち着けや二人ともッ‼︎ その事はもうえぇからッ‼︎」
ここで朱紅玉さんが割って入り、一触即発な雰囲気でいがみ合う二人の喧嘩を止めてきた。まだ魔法少女になる前置きな点がないからなのか、リコさんをも庇っているように見えるな?
「ウチはずっと冷静やけど? 狂犬みたいに怒っとるこの子にだけ言えばえぇんやない?」
「それはまぁそうやけど、アンタはちょっと黙ってなッ⁉︎ というか自分の部屋に帰れやッ‼︎」
「そう? わかったわぁ」
なんかあっさりと部屋から出てったなこの人。まだなんか揶揄ったりするものかと思ったけど、よっぽどの事が無ければすんなりと頼み事を聞けるタイプなのか? まぁ、それはそれで相手側も安心するけどな……
「ご主人様‼︎ 貴方様、あの妖狐に『中華料理を作るの自分よりもヘタクソ』みたいなことを言われてましたわよ⁉︎ 言わせておいて本当に良いんですの⁉︎」
「………………悔しいけど、事実なんや。じーちゃんもあいつの料理が美味すぎてめっちゃ褒めとったから……あれ食べた人みんなボォーッとしてしまうし、そういうのが無くともあいつの事を怪しく思えるし、嫉妬してまうけど、今のアタシだとな……」
「ご主人様……」
無理に『これでも別に気にしてない』と言っているかのような笑顔をミトさんに見せる朱紅玉さん。そんな彼女を見て苦しく悲しげな表情となるミトさん。……もしかするとミトさん、この時から朱紅玉さんの事第一に動くことを意識するようになったのだろうか……
「……話は変わるけど、その耳と手……あと尻尾は取らへんのか? 料理食ってる時もそのままなのにすっごく器用に物持っとってたけど、ずっとコスプレしたままやと不便やろ?」
「えっ? ……あ、あぁ……ご心配なく。コスプレではございませんわ。わたくし達の血縁ではこの手と耳と尻尾、生まれつきこんなものですし不便だと思ったことはありませんわ」
「えっ嘘やろっ⁉︎ リコと同じ感じなんかっ⁉︎」
♢
あれから数日間過ぎた時の、ミトさんがそれまでの頃に体験した時記憶が流れてきた。
朱紅玉さんの祖父から『店の手伝いもしてくれるか』と提案されたものの『自分は料理がかなり下手なので』と断りを入れていた。しかし本当は悲しげな表情をしていた朱紅玉さんに寄り添いたいが為の断りであったらしい。
その嘘を朱紅玉さんに見抜かれ、気に障ることであったからなのか『少しでもリコを見返すために料理を教えてほしい』と頼まれるようになったそうだ。最初は好きでも無いことに挑戦させてあげることに躊躇いを感じていたようだが、彼女の鬱憤を晴らさせる為にも……とのことで承ったようだ。
ちなみに朱紅玉さんが祖父から誕生日に貰った中華鍋は、その特訓には使わなかったらしい。文句を言っていたのに今更使うのは気が引けるらしく、上達したと感じた時に使うことにしたとのこと。
それを聞いたミトさんは彼女に内緒で祖父にその事を伝えたところ、申し訳ないと思っているかのように微笑んでいた。本当は朱紅玉さんのファッションデザイナーになる夢も尊重してあげたいから複雑だとのことらしい。
それから数日後、現在に至る事件が起きた。リコさんが朱紅玉さんの鍋を無許可で使ったからだ。本人が使わなかったからとはいえ、勝手に自分のものを使われて怒る朱紅玉さんだったけど、ミトさんも彼女以上に激怒していた。出会った当初から他人の事を考えないリコさんの行動が気に食わず、それが募りに募って爆発したのだろう。
それからミトさんはより一層朱紅玉さんの事を想い、リコさんには強い敵意を見せるようになった。彼女はいつか朱紅玉さんの居場所を奪うのかもしれない、そんな過剰な被害妄想もするほどに。
「……一体どうすれば、ご主人様は悲しくなくなりますの……?」
『アンタと同じあの魔族を倒すことやな』
「ん? ……えっ金魚っ⁉︎ 喋ってますし水の無いところで浮いてますわっ⁉︎」
おっ? ここでまさかの朱紅玉さんのナビゲーターであるジキエルが出て来たぞ? 原作では朱紅玉さんの前に現れるはずだったよな? なんでこいつ、魔法少女と敵対する関係という認識されているはずの魔族に声を掛けたんだ?
『あの狐の魔族はな、料理に魔力混ぜて人を惑わしてるねん悪いやっちゃ』
「………………それ、ホントですの?」
『ホントホント。アイツ倒すとスタンプもらえてエエことあるで。自分、アイツに苦しめられた人間に仕えてるやろ? そいつ誘ってみ? 魔法少女やってみんかって』
「………………」
……なるほど、そういうことか。契約させたい人との仲が良い身内の人から魔法少女をやってみないかと勧誘させることによって、契約される側が『この人が信用した話題だし試しにやってみようか』という考えを持つようになり、契約をすることになるってわけか。まるで悪知恵の働くキュゥ○えだな、胸糞悪い。
主人の事を想っているがあまり、その言葉巧みに乗らされたミトさんは朱紅玉さんに魔法少女にならないかと誘うことになった。朱紅玉さんも朱紅玉さんでミトさんへの信頼度が高かったためか、その勧誘に乗ることになったのだった。
「ご主人様‼︎ あの妖狐をより効率良く倒すには魔力の扱いに慣れることが大切ですわ‼︎ ある程度の修行は最低必須、わたくしに魔力の扱い方を伝授させてください‼︎」
「ま、魔法少女じゃないアンタにそれができるって、どういうことなんや……」
そしてこれである。朱紅玉さんが原作よりも強くなったのは(メェール君達にボコボコにされたからあまり分からなかったけど)、やはりミトさんが師匠として魔力の扱い方を教えてくれたからだろう。ミトは主人を想うがあまり熱も入るタイプなのかもしれないな……
そして、リコさんの目を盗みながら一週間の修行を重ねたミトさんと朱紅玉さんだったが……原作通りの流れで現在に至ったが故か、呆気なく敗北してしまった。リコさんって、どれだけ強かったんだ……?
そこからも原作通り。朱紅玉さんに残されたのは、変わらず彼女の隣にいたミトさんに、リコさんがいなくなって寂しくなった店、そして彼女の静止も聞かず取り憑かれたように無心で厨房に向かう祖父だけ……その上にジキエルからいい加減なホラを吹かれることに。
そして、ミトさんはというと……
「負けた……わたくしも、ご主人様も……あの妖狐、どれだけ強かったんですの……?」
あっ、さっき俺が思ってたことと同じことを呟いたよこの人。まぁ無理もないよな。頑張って修行したのに結局なす術なくやられてしまったのだから。
「……いや、何を今更そんなことを言いますのわたくし。ご主人様はあの妖狐にリベンジすると誓いましたわ。なのに従者であるわたくしがそんなご主人様の意思を尊重しないなんて、それこそご主人様に恥をかかせるだけですわ」
………………あぁ、そうか。この人……主人を想うがあまり、主人の悲しき『表面』を多く見てきたがために……
「前向きになったご主人様の熱意に答えるためにも、わたくしがこんなところで落ちぶれるわけにはいきませんわね。ご主人様のためにも全力で彼女を応援して、あの妖狐にリベンジしてみせますわ!!」
主人の奥底の闇に、気づけなかったのか。
なんとしてでも主人の心を晴らしたい。そんな一心が強すぎるせいで『本当は主人にどうしてほしいのか』『自分が主人に本当にすべき最善の行為とは何なのか』を理解しようとしてこなかったのか。それであの時、先走って俺の誤解を解く説明に聞く耳を持とうとしなかったんだな。
悲しみや憎しみを表すドス黒いモヤは無い。けど空気の淀みはある。純粋過ぎるが故に周りや朱紅玉さんの奥底の闇に気付けず、自ら負の感情を背負っていることに気づいていない感じか。
……だったら尚更、ミトさんをこのままにしておくわけにはいかない。彼女の為にも、朱紅玉さんの為にも……ここで留めさせないと。
「───待ってください。貴方が主人の為にすべきことは『復讐の援助』じゃない」
気がつけば俺は、この記憶の世界のミトさんに声を掛けていた。優子もこんな風に、記憶の世界の人に話しかけてきたのだろうか。
「ふえっ? だ、誰ですの貴方は?」
「あっ、申し遅れました。自分、夢の世界の見習いアドバイザーみたいな存在です。貴方の夢の中で見た記憶を通じてアドバイスをしに、この記憶に介入させていただきました」
とりあえずこういう感じで、『そんなに怪しい人じゃないよ』とアピールしてっと……断言するような言い方だとかなり怪しまれるから、断言はしないでおこう。
「貴方の記憶、見させていただきました。朱紅玉さんへの強い忠実な心、確かに感じ取らせていただきました。あれほどまでに彼女の事を想っているとみました。ですが……それ故に貴方は、『主人の為に本当は何をすべきなのか』ということに気づき損ねていた」
「ご主人様の為に、本当は何をすべきなのか……?」
思わず聞き返すかのように復唱してきたミトさんに対し、俺は無言で頷いた。そしてその答えが何なのかを求めている彼女に、俺はこう答えた。
「朱紅玉さんの心を、癒すことです」
「ご主人様の、心を……?」
「はい。この時から朱紅玉さんは、悲しみに明け暮れていることでしょう。彼女のお爺さんが洗脳されたのではなく『彼女の夢を叶えるために台所へと向かっていた』ということに気付けず、『洗脳したと思わせてしまったリコさんを封印すれば幸せになるのだろうか』と思い込んでしまった……その結果、悲しみと憎しみ、そして自分が本当は何をすれば良いのかという葛藤で思考がぐちゃぐちゃになっていることでしょう」
「ご、ご主人様が……?」
本当は朱紅玉さんも、自分が今どうすれば良いのか分からない状況に遭っている。それを知ったミトさんは思わず愕然とした表情を見せてきた。主人の事をずっと見てきたつもりだったのだろうが、実は盲目であったことに対してショックを受けたのだろう。
だからこそ、俺は彼女に問いただしたい。彼女自身が本当にすべきなのかを。
「主人がこうなってしまったら、その時の貴方はどうしますか? ずっとお互いに勘違いをしたまま、彼女の晴れない心をそのままにして、封印するためにリコさんを長年掛けてでも探し続けるべきですか?」
「そ、それは……ッ」
敢えて選択肢を言わず、俺はミトさんの答えを待つことにした。しばらく鬱として俯いていたが、顔を上げた時には……
「わたくしは……本当は、ご主人様の荒んでしまったその心に寄り添い、癒すべきでしたわ」
その答えを、手遅れであることの後悔とともに俺に教えてくれた。今にも泣きそうな表情を、光の失った瞳で見せながら。
「ですが……わたくしとご主人様はあの妖狐に負け、ご主人様に悲しみの連鎖が起こってしまったのを見てきたため、その負の要因を消さなければという一心になっていて……だからこそなのかもしれません。わたくしはそんな悲しき人のために、今すべき当たり前の事に気づくことができませんでしたわ。いいえ、考える余裕が無かった……と言った方が良かったのかもしれませんわね」
自らに追い討ちをかけるかのように、彼女は作り笑いの笑顔を見せる。まるで現在の自分の意思が目覚めてきたかのように、長い年月をかけてしてきたことに対する後悔の念を背負っているかのように。
「この考えが、逆にご主人様を苦しめていたのですのね。……こんなの、わたくしにとっては重罪ですわ」
だからこそ……だからこそだ。彼女には、恩人でもある主人にしてきたことでの後悔を、一生背負わせない。彼女の想いを否定させない。俺が……この人の全てを救ってみせる。
「少しぐらい、まだ挽回できるチャンスはありますよ」
「えっ……?」
「貴方は悲しみに満ちた人に本当は何をすべきなのか、それを思い出すことができた。だからこそできるはずです。復讐とは違う、貴方の主人……朱紅玉さんが本当にすべきこと、それを全力でサポートしてあげてください。それが……今の貴方にできる役目だと、俺は思います」
「ご主人様が、本当にすべきこと……」
この言葉で、彼女自身が答えを見つけたためなのか、はたまた無自覚でそれを知ったのかは分からない。だが俺の言葉が少しでも響いたからなのか、目の曇りが消え始めていた。
……なら、俺がこの後、この世界ですべきことはただ一つ。
「ではそれを果たすため、貴方の心の闇となる淀みを、晴らしてみせましょう。セイクリッド・ランス、解放」
本来の形状に戻したセイクリッド・ランスを天に掲げ、そして叫んだ。
「心の闇を祓え、ライトニングカーテン‼︎」
刹那。世界は光一色に染まり上がった。
♢
「……夢を見た気がしましたわ。それも、何もかもをスッキリにさせる夢を」
気が付いた時には、俺とずっと隠れてやがったフードの人は記憶の世界に入る扉の前にまで戻っており、目の前では現在のミトさんが丸くなって横たわっていたのが見えた。俺が記憶の世界で淀みを浄化したから、その弾みでここに現れたのか? 突然出てきた可能性としてはそれがあり得るだろうな。
後、夢を見た気がすると言ってるようですが、ここも夢の世界ですからね? 気づいて? ここ夢の世界だけど目を覚まして?
「ご主人様の為にすべきことが本当は何だったのか、復讐よりもやるべきことが何だったのか……思い出してきたかのように、わたくしはそれに気づかされましたわ。……そうでした、わたくしにはもっとやるべきことがありましたわ」
……なんか、独り言を言っているかのように聞こえるんだけど。これ、気づいていない? 俺達が彼女を見ていることに気づいていない? そりゃあないよミトさん、早く気づいてー。いや、こっちから声を掛けてあげるべきか?
「……というわけでして」
は?(猫ミーム風) どういうことだってばよ?
「襲い掛かってきたこちらから言うのは手前勝手であることは承知の上ですが、お願いしたいことがございますわ。どうかわたくしを、この記憶が忘れないように現実世界へと起こさせていただけないでしょうか」
ひょいっと起き上がり、その勢いで俺達に向かってそう言って頭を下げてきたミトさん。というか気づいていたのね。俺達がいる事に気づいていたのね。でなきゃ突然こちらに向けて頭を下げたりしないよね。うん。
「……やるべきこと、見つけたんですね」
「えぇ‼︎ ですが、それを果たす為にまずは今の状況をなんとかせねば‼︎」
「そう言うと思ったぜ。んじゃ、俺達が今していることとやるべきことを話さないとな」
「ずっとあっちの世界で高みの見物をしてたお前が仕切るな」
なんていう今のツッコミを無視しながら、フードの人はこれから優子達がしようとしていることを説明した。
朱紅玉さんの誤解を解くこと……は、既に優子が取り組み今はちょうどそれが終わったところだろうな。後は仲直りの条件としてリコさんに謝って鍋を返してもらうこと。そして、白澤さんを封印から解放させること。俺達がすべきことはこの三つ(というより二つ)だ。
ちなみに朱紅玉さんの誤解を解くのが終わったのが何故みんな分かったのかというと……
「いやぁ、この俺に『人の夢の世界を他人の夢の世界での状況を中継できる能力』が使えるようになってよかったぜ。白哉がシャミ子の眷属になったことで、俺にも夢魔の力が一部得られたのかもしれんな」
えぇ……何それ……確かに俺は優子の眷属になって夢魔と同じ力を手に入れられたとはいえ、なんでお前にも一部がリンクしてんだよ……どういうことなの……(汗)
それはともかく。やるべきことなどの説明した後、状況を把握したミトさんは真摯な表情で頷いた。
「ご主人様の方は問題無さそうなのはわかりました。けど、それでもわたくしにも何かできることがあるのかもしれませんわね……やはり早急に目覚めなければ。しかし、どうやって気絶から目覚めれば───」
ミトさんがどうやったら気絶から起床すればいいのかを考えていたら、フードの人が翳した右手から放たれた淡い光に包まれ始めた。えっ、アンタ何してんの?
「俺のこの光を覆い浴びた奴は、この世界で体験した記憶をはっきりと覚えながらスッキリ目を覚ますことができるぞ。俺の本来の人格的ポジションである白哉は無理だけどな。これで起こしてやっから、シャミ子達の援護に向かっていってくれ」
えぇ……何それ……(二回目) 夢の世界で一番チートなの、もしかしてアンタだったりして……? 優子が知ったら絶対嫉妬するって……
「ありがとうございます‼︎ 早速ご主人様とあの妖狐……いえ、リコとのわだかまりの解消の助力をしに行き参りますわ‼︎ 待っていてくださいねご主人様ー‼︎」
ミトさんがそう高らかに宣言した瞬間、彼女の身体は完全に光に包まれ、収まった時には彼女の姿は見えなくなった。本当に、現実世界へと目覚めたのだろうか……
って、アレ? 本人が目覚めたら、その人の夢の世界にはもう居られないはずなのに、なんで景色は全く変わってないんだ? どうして?
「あぁこれ? 先程までいた夢の世界の主が起きた時、夢魔の力によって自動的に近くのお眠り中の人の夢の世界に移動できるようになってんだ。夢魔の力ってすごいなー。本体が気絶してもこんな能力が使えるんだから」
「えぇ……何それ……(三回目) なんでそんな能力が使えるんだっていう展開が多くて頭が追いつかん……」
「ついに口に出したな本音を」
喧しい。
というか……他の夢の世界に移動したとなると、ここは一体誰の世界なんだ?
『───時は来た。シャドウミストレスの眷属よ、よくぞ桃の記憶の夢へと赴いた』
「おっ、メタトロンじゃん。おひさー」
「アイエエエエ⁉︎」
筋肉モリモリマッチョマンの猫ォォォォォォッ⁉︎ 何この猫、新手の猫ミームかッ⁉︎ 誰だこいつゥゥゥゥゥゥッ⁉︎
とりあえずイレギュラーによるイレギュラーな展開は阻止した……が、それとは別の問題事が発生⁉︎ 果たして白哉は無事でいられるか⁉︎
次回、『白哉死なず‼︎』……我ながら何書いてんだろ。