偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
ここから白哉君は六巻以降の原作知識を持たないので勘で行動するかと思います。でも不思議と原作沿いになりそうなんだよなぁ……
で、今回はそういや桃と柘榴さんのデート回やってなかったなーってことで、そんな感じの回を原作の話中心に……
えっ? 白哉君とシャミ子のデート回も出してないだろ、だって?
………………(´・ω・`)
こういう時こそ柘榴さんに託すことにしたぜ……それはそうと桃とのラブコメも期待しちまう
『あすら』での事件は終わり、束の間の平和が訪れた。とはいってもいつもは平和も平和、平和な時間がめっちゃ多い。
元が日常コメディ漫画なんだしね、シリアスよりも日常・ほのぼのシーンが多いのも無理はないというか当たり前。寧ろ多い方がいいし、そうじゃないと安全に過ごせないし。特に転生者である俺が。
……だが。平和な時間が再び訪れたからと言って、油断や慢心のしすぎはいけない。
魔法少女を引退する前の朱紅玉さんが、ナビゲーターのジキエルに伝えられた『魔族討伐ポイント』。何故か優子の代わりに魂を持ってかれた俺が蛟さんから聞かされた『神話の時代に作られた決まりごと』……俺が得た原作知識では判明されなかった謎が、これらの他にもまだまだたくさんある。
つまり何が言いたいのかと言うと、これから先に起きるのは、俺の全く知らないまちカド物語……原作六巻以降の展開である。
いつ・どこで・どのような出来事が優子達に……俺達に襲いかかってくるのか分からない。それの対処をすることが出来ず、最悪の展開やエンドルートが起こってしまわないかどうか心配になってきた。そんな結末にはさせるつもりは毛頭無いけどな。
というか、よく考えてみろ俺。原作知識がなんだってんだ? 女子校かどうかも分からない桜ヶ丘高等学校にキャラが濃いめな男性オリキャラがいたとか、この前朱紅玉さんが犬のまぞくであるミトさんを連れて来たとか、原作とは異なる事が起きてばっかりじゃねェか。原作知識なんてものは、場合によっては無意味になる部分だってあっただろ。
要するにアレだ。原作知識のある世界に来たとしても、その知識通りの展開になることは決してない。何が起きるのかは全て運次第ってわけだ。現実世界と丸々一緒じゃねェか。そんな当たり前の事を思い出す時期になった、そう思えばいいだけの話だったな。うん。
まぁとにかく、今は多分しばらく平和な時間が流れているんだ。こういう時は優子とイチャイチャしたりみんなとワイワイしたりと、いつも通りの時間を過ごそう。そうしよう。というかそうしないと色々と勿体ない───
「……いや待てよ⁉︎ こういう時はスパイから情報を調達してもらう……もとい柘榴さんに桃から深い話を聞いてもらうよう頼み込めばいいのでは⁉︎ 私がボスまぞくとして眷属へ指示する時の練習にもなりますし、桃と柘榴さんの関係も深まるかも‼︎」
「え〜? そういう考えになる〜? それはそれで良いとは思うけどさ、シャミ子が直接聞けば良くない?」
「でもそうした方が、桃が私達に言えないことを柘榴さんには話してくれるかと思います‼︎ 桃にも私達に隠したいこととかがまだありそうですし‼︎」
「あぁ……それはあるかも」
おや? 何やら優子と杏里の会話が聞こえてくるな? なんだろう、めっちゃ気になる。じゃけん聞きに行きましょうねー。「おっそうだな(便乗)」
「よぉ優子に杏里。二人して何を話してたんだ?」
「あっ白哉さん‼︎ 実は相談したいことがありまして……」
優子の話によれば、ここしばらく大きな事件が多く、それにより魔法少女についてなどの他にも色々と疑問が増えた。だから桃に聞こうと考えてはいるものの、深い話をして変な空気になるとやり辛くなり、今までの宿敵関係が崩れてしまうだろうと恐れてしまっているらしい。
そこで杏里から提案されたのが『肉を囲えば重い話でも間が持つ作戦‼︎』……つまりは桃を焼肉に誘えというものだ。変な空気になったら網にカルビを置く……というか肉を置き、敢えて話したいことをぶらしておけば重い空気も和らぎ話がしやすくなるという算段らしい。
実のところ、杏里は自分が優子におそろユニフォームと一緒に渡した焼肉券を使ってほしいとのこと。親の店のグループ店で、その券は週末で期限が切れるようだ。
ちなみにその店は人気なので予約した方がいいらしい。しかも個室なので秘密のトークもできるとのこと。
これならお互い話せないことも二人きりで話し合うこともできる。が、優子にとっては個室で外食するのは初めてで、しかも店の予約どころか予約自体も初めてであるため、うまくそれができるかどうか不安になってきたようだ。まぁ予約くらいなら全然問題無いだろ。それをする前の心の準備は……場合によっては必要そうだけどな。
ボスまぞくが人脈拡大したら接待とかあるだろうから、今の慣れておくべきかと考えていたところ……何故かふと柘榴さんの事が頭に過り、彼なら桃が自分達には伝えられないことを、柘榴になら教えられるのではないかという考察に至ったのだ。で、現在に至ると。
「まぁ……優子のその判断は別に悪くはないな。昔の桃の事を考えると、柘榴さんの方が優子やミカンよりも一緒にいた時間が長そうだしな。というか多分長いだろ実際。その分、桃も彼となら色々と話しやすそうだ。で、その話を柘榴さんから聞かせてもらおうって算段か」
「は、はい。柘榴さんを利用するような感じがするので、彼には申し訳ないと思っていますが……」
まぁ確かにそう思うけどな。桃が俺達には話してくれそうにない事を幼馴染に聞いてもらって、それを共有してもらうとかどんなインチキしようとしてるのだろうが……
「でも幼馴染相手なら、口が硬そうなちよももでもシャミ子達に話しそうにない事も話してくれそうだね……よしっ‼︎ 今回はシャミ子の意見に尊重して全てを柘榴さんに委ねようか‼︎」
「は、はいっ‼︎」
「おい言葉は選べよ」
なんだよ委ねるって。まるで世界の運命を背負わせているかのような感じに聞こえるから、もうちょっとマイルドな言葉を選んでもろて。委ねるって。
思い立ったが吉日だよとのことで、そう杏里に促された優子はすぐさま柘榴さんに連絡。『焼肉屋のチケットをあげるので桃と一緒に行ってきて』みたいな感じに言ったところ、店の名前を聞かれたらしくその名前を伝えたところ……
「ほ、報告‼︎ 『ありがとう。桃も誘ってみる』の二つ返事でオッケーが出ました……後であの券を渡さないと……」
「なんかそうだろうなとは思ったよ。けどもう少し考える時間を取ってもよかったと思うんだよなぁ……」
♢
その日の放課後、ばんだ荘のミカンの部屋にて。
「……ね、ねぇ……ざ、柘榴から焼肉に誘われたんだけど……」
メタ子を連れて訪れて来た桃が、柘榴からSNSの個別チャットにて外で焼肉を食べに行かないかと誘われたことが分かるメッセージ画面をミカンに見せていた。
「あら、デートのお誘いみたいなものかしら? よかったじゃない」
「よかっただろうけど良くないよ‼︎ 色々心配なんだよ‼︎」
「何が心配なのよ? 柘榴さんが何かに騙されるような人じゃないから問題ないでしょ?」
柘榴は二十二歳、大人。様々な経験を重ねてきている年齢の大人であるからこそ、どのような行動や選択をすれば良いのかの簡単な択を理解できるというもの。簡潔に言えば詐欺には遭わない男なのだ。
その人の良さを誰よりも理解している桃だからこそなのか、それとも別の問題が関わってきたからなのか、彼女は不安な心を振り払えずにいた。何故なら……
「それはそうだけど……行くことになったお店を選んだの、実はシャミ子なんだよ」
「えっ? シャミ子が?」
柘榴が桃を焼肉に誘うきっかけを作ったのが、シャミ子だからである。まぞくながらも純粋な、宿敵兼親友がきっかけを作ったからこそ、いくつかの不安な点が生まれてきたのだ。
「柘榴と行くことになったお店を見て」
そう言って桃が次にスマホ画面で見せたのは、『焼肉 たま川』のホームページ。食べロム四・一点、ミショラン(この世界で言うミシュラン)一つ星の、多摩川で一番ハイランクな高級焼肉屋である。
「やだ! めっちゃいいお店‼︎」
「でしょ? ……でもこれ、本来ならシャミ子がこの店専用のチケットを使う予定だったみたいだよ? 不審だよ」
そう、これが桃の不安な点の一つ。柘榴に勧めた店がシャミ子が行くにしては似つかわないような所である。
本人からしては失礼ではあるが、シャミ子の家は元貧乏。その呪いが解かれたといっても確定されたというわけではない。そんな中でシャミ子が高級店に行けるとは思えない……これが桃が心配だという点なのだ。
「まぞくの引き出しからこんなおしゃれアイデアが出てくるはずがない。何か騙されてるんじゃないかな。それに柘榴、そういう詐欺などの人を不幸にする類には敏感で警戒するはずなのに……シャミ子から似つかわないおしゃれアイデアを勧められても、何も怪しく思わないのかなって……そんな感じがする」
桃の不安な点の一つ、それは柘榴の性分に関することだ。
柘榴は平和主義者で、人を不幸にしてそれを嘲笑っているかのような言動や行動を決して許さない……歪んだ正義感の持ち主である。
詐欺に遭った知り合いがいれば、わざとその詐欺師に騙されたフリをし、集合場所にて警察にその場にいてもらいながら許可を取ってから犯人をタコ殴りする程だ。
そんな彼が、詐欺に遭っている可能性があるだろうシャミ子の勧めに対してなんとも思っていないのだろうか……そんな不安が脳内に流れ込み、彼女を悩ませる。
「考え過ぎよ。シャミ子、普通に杏里とかからいいお店の情報を聞いたんでしょ。その柘榴さんに渡したチケットもそんな感じで貰ったものだと思うし」
そう、これはあくまで桃の過剰な妄想にすぎない。シャミ子が詐欺に遭っている可能性が高いわけでもなければ、お互いが店の情報などを調べていないわけではない。柘榴が危険性のないものだと判断し、シャミ子の勧めに乗った可能性がある……そう考えると良いだろう。
「そうかな……? そうかも……」
「……それよりも。シャミ子みたいな子がこんなお店を柘榴さんに貴方と一緒に行くように勧めた意図も、柘榴さんがそれに乗った意図も、考えた方がいいんじゃないの?」
そこまで語ったミカンの眼は鋭くなり、何かに気づきそれに接点を当てているのかの如く、柘榴の信じられないと思うはずの答えをまとめる。
「多分だけど、ガチのやつよ。柘榴さんは桃をガチのデートに誘ってるんだと思う」
「 」
刹那。桃の脳内に宇宙のめくれが発生した。
想いを寄せている幼馴染からのデートとのお誘い(本当彼がデートとして誘っているのかは不明だが)。その曖昧ながらも素直に喜ぶべきかどうか本人としては判断不明な事実に、桃は思わず顔を林檎のように真っ赤にしてしまう。
「………………えっ? ちょっ……えっ? ガ、ガッ……チッ……? ガチ? えっ? 柘榴が、私を、デッ……? ガチの、デート、に……? えっ?」
「ごめんなさい、これはあくまで私の勘だから。ニュアンスで判断して。あとメタ子を激しくナデナデしすぎると頭が取れそうよ」
デート。それも恐らく恋人として扱う方面での。それを後日行うという事実に耐え切れずしどろもどろになってしまう頭まで桃色魔法少女(髪の毛はそうだが脳内までピンク色だとは言っていない)。あまりにも信じられない事実だったからなのか、メタ子の頭を異常なまでに素早くナデナデする程だ。
余談だが、ミカンの発言からしてまるで恋人認識してない方のデートは、十年前に何回か、柘榴が帰国してからは二・三回程行っている。だがそれはあくまで友人同士で遊びに行く感じであるため、今の桃みたいに深く考える必要はない。
「えっ……と………ちなみにミカンは誰かにガチられたこと、ある? たとえば拓海にとか……」
「は? 彼にどころか誰かにナンパすらもされてねぇが」
女子力の高いミカンにガチのデートの攻略法について問いかけるも、デートすらしてないらしい彼女から聞こうにも無意味でしかなかった。桃、ドンマイ。
ふと、今の自分が着ている服に目を向ける桃。今着ている胴体の伸びた四匹の謎の猫のデザインの服のように、今の桃には女子がお出かけする時に着るような雰囲気の服は持ち合わせていない。それなのに今度柘榴とのデートがある。女子として絶体絶命の危機である。
とはいうものの。ここだけの話、柘榴はありのままの桃のファッションでも酷評は決してしないどころか、逆にそのファッションの良さを伝えてくれるとは思うが。
このままでは後日柘榴に堂々と会うことはできない。そんな嫌な予感を察した桃は……
「………………ミカン。さすがに柘榴とお出掛けする時にいつもの格好を彼に見せられない。だからミカンが持ってる中で一番ガチの服、貸して」
目の前にいるもう一人の親友に、救いの手を求めた。
「気持ちは分かる。けど絶対いや」
案の定、玉砕された。
「なんで⁉」
「女子はガチ服で焼肉は行かないのよ!! っていうかそれ以前にNGですけど⁉ クリーニングがだるい!!」
そもそも焼肉屋に誘われたという時点でデートとは呼べない上、服が汚れやすいため焼肉屋はデートにすら向かない、というのは内緒である。それどころか柘榴本人もこれをデートだとは思っていない……とも言えるし思っていないとも言える。
「大体、貴方と私じゃパーソナルカラーが全然違うから、私のガチ服は似合わないわよ‼︎ 今から自分に合う服をお店で買ってきなさい‼︎」
「パーソナルって何……⁉︎」
「イエベ春とかブルベ夏とか、女子には色々あるのよ‼︎」
「イエベって何? 平安時代の一族?」
「めんどくさいわね⁉︎ とりあえず皆に聞いてみたら? この際男子でもいいから、ファッションセンスが良さそうな拓海とかにも聞いてみなさいよ」
女子力が低すぎてファッションの知識が皆無な桃、ミカンにファッション雑誌を渡され(というか押し付けられた)、他の仲の良い者達からのガチ服に関する意見を聞いてみた方が良いというアドバイスも受けることに。女子力の低い女子は大変なのだ……
♢
そして、色々な方々から聞いてみた結果。
《良子》
「ごめんなさい。良には洋服は良く分からない……でもガチの戦に行くならば、んっと……ライオットシールドがおすすめだよ」
《拓海》
「ガチ、服……? ガチ服って何だ……? えっと……仙寿家では『狩衣には袖が必須』だって言われたけど……意味違ったかい?」
《リコ》
「え〜、桃はんに似合う服〜? ん〜〜……耳とか生やしたら喜ぶんちゃう? あっ、ウチこの服欲しいな〜。桃はん買〜て〜♪」
《スカーレット兄妹》
「似合う服だと? そうだな……焼肉屋に行くのだろ? トップスにフリルやレースのディテールがあるもの、これらに絞って選べば───「桃ちゃんって果物の桃、ピーチと同じ名前でしょ⁉︎」ちょっおまっ───「だったら本物のピーチかピーチ関連のを付けようよ‼︎」いや普通に───「もうっ兄さんったら女子のオリジナリティの事は考えないんだからー‼︎」ハァ?」
《朱紅玉》
「ガチ服⁉︎ ド派手‼︎ 柄‼︎ 相手を威嚇‼︎」
《ミト》
「ガチ服ですの? わたくしでしたらそういうのを着るならば首輪が必要ですわね‼︎ 今からでも桃さんにお似合いの───」
「あっごめんなさい、首輪はちょっと……」
「ではプロデューサー巻きをオススメしますわ。カッコいいですし」
「えっ?」
《清子》
「勝負の服、ですか………………えっと……大人の下着の話をしましょうか」
「お母さんそれ以上はいけません‼︎‼︎」
全く参考にならないものばかりだった。唯一まともなことを言おうとしてくれたブラムの意見も、奈々に遮られてしまった為、不覚にも完全には信頼できない点もある。そのため彼の意見も参考しようにも出来そうにもない。
結論を言えばこうだ。結局他人のアドバイスに頼らず、自分のセンスで選ぶしかないということだ。何もかも参考すれば良いというわけではないのだから。
というか彼女は全部参考にして着けてしまったので、尚更そういう思考をするしかなかった。それはそうだ、そういうのは怖いものと怖いものを合わせればさらに怖くなるという理論にならないのと同じものなのだから。
ちなみに桃が皆からのアドバイスを受けて全部着けている場所、実はデパートの結構オシャレな服屋である。そんな店にオシャレに似つかわないものまで取り揃えているのは、店の雰囲気としてもどうかと思う。しかもライオットシールドまで備わっており、摩訶不思議である。
と、そこに予想外の助け舟が。
「あれ? 千代田さんだぁ。不思議な格好だねぇ」
「ど、どうしたんスかその格好? リコさんに唆されてこうなった……とかじゃないッスよね?」
「小倉? それに全蔵くんまで」
偶々何か(多分何かの実験のため)の買い出しに来ていた小倉と、ウガルル再召喚以降小倉の付き添いになることが多くなったらしい全蔵と出会うことに。
そして流されるようにここまでの経緯について話したところ、小倉は『洋服……』と何かを考え込むような仕草を見せ、全蔵は口を塞いで恋愛に興味津々な乙女のような反応を見せる。
「ほわぁ……‼︎ 桃さんにも想いを寄せている方がいたなんて初耳ッス……‼︎ それも幼馴染……‼︎ しかも今度デートしようみたいなお誘いを受けて……‼︎ 感激ッス……‼︎」
「その反応やめて、すごく恥ずかしいから。後誘われたといってもデートじゃないから。……多分」
デートであることを念のため否定した桃であったが、それができることに喜んでいる正直者な自分がいること嫌味を感じ、真っ赤な顔を隠せずにいた。恋する乙女は誰でもその本心を隠し切れずにいるものだ。
と、ここでいつの間にかいなくなっていた小倉が二人の元に戻り、同時に持ってきたマネキン(店員の許可済み)が着ている服を桃に見せつけてきた。黒いフォーマル系のドレスで、料金はなんと約一万七千円もする高級品である。
「洋服でいいお店なら、こういうフォーマル系のドレスで体格に合ってればいいんじゃないかな」
「そう‼︎ こういう普通のやつを求めていたんだよ‼︎」
「……失礼ッスけど、みんなのを全部いっぺんに採用したらそりゃ普通じゃないと思うッスよ」
小倉のまともな意見によって救われたところで、全蔵から正論という名のダメ出しを受け萎縮した苦い顔になる桃。ファッションの知識もない中で、とりあえず全部着ければ良い感じになるという無垢にも程がある考えは通らないとは頭で理解していたのにやってしまったものだから、ダメ出しされても文句は言えない。
何はともあれ、実際に小倉に勧められたドレスを着てみた桃。しかし、この場にいた者全員が察した。何か足りない気がする、と。
「あ、首元が寂しいね。パワーストーンのネックレス……作ろうか? ガチ食事がすごくうまくいくお守り……」
「いる」
「何スすぎたかその限定的すぎる効果のお守りは………………んっ?」
この時、全蔵は察した。この流れ……この後なんか嫌な予感が起こる気がするな、と。
「自分と同じ役職(?)の歳上幼馴染と二人きりの時にどちらかが失敗した時、地雷を踏まずフォロー・挽回する言葉計四十選。無料じゃないけど」
「買うっ‼︎」
「その幼馴染がテンション上がる小手先テクニック」
「買う‼︎」
「肉が爆発しない焼き方───「待つッス。いやホントに」グエッ」
明らかに桃に情報商材を買わせようとしている小倉の襟元を引っ張り、無理矢理制止に入った全蔵。その眼は悪人をゴミのように見ているかのように睨みを利かせており、彼をそのままにすると末恐ろしいことになるものであった。
「何情報商材を掴ませようとして、それを利用して金を取ろうとしてるんスか。どれも実際にやってみてタメになるものしかなかったから詐欺ではないことは確かッスけど、それを売り物にして騙し取るように金を払うよう要求して……さすがに限度ってものがあるッスよ。そろそろ自重するッス」
「ご、ごめんなさいぃぃぃ……」
「………………えぇっ……」
さすがに彼をこれ以上怒らせるわけにはいかない。そう察した小倉は、彼に対する恐怖で震えながら萎縮した謝罪をした。桃はそんな弱気すぎた彼女と怒り心頭に発する全蔵を初めて見たためか、呆然とその二人の事を見つめるしかなかった。
結果、桃は情報商材とネックレスは無料で提供してもらうことになった。が。ファッションの方は勧めてもらったものを本人が買うことを決めたので、自腹でアウター・靴・フォーマルバッグ・下着を買うことにした。
ん? 『さすがに下着はいらないでしょ』だって? バッカやろうお前、相思相愛な感じの二人がデートした後に何をするのかの可能性があるやないか察しなさい。
「完璧だよ……‼︎ 小倉、全蔵くん、ありがとう‼︎」
「自分はただ情報商材で金を払わせる羽目になるのを止めただけッス……というか、そのファッションにいくら程掛けたんスか? ブランド良すぎるのばっかでお高いッスよね?」
「えっ……? 七万三千三百八十円だけど?」
「……その額を見るからに、シャミ子ちゃんよりも心配になるッス。色々と」
いくらファッションの知識がないからって、高額なものばかり買うのはどうだろうか……そんな不安を脳内に過らせる全蔵だった。
ちなみに彼がこの場にいなかったら、桃は今頃小倉にネックレス代と情報商材代で五十三万九千九百八十円も……否、それ以上の額を支払っていたことになっていたのであろう。シャミ子よりも一番詐欺に遭いそうで不安である。
♢
焼肉デート(とも言えるかもしれないしそうでもないようなイベント)の日、当日。桃は購入したファッショングッズを全て着け、集合場所である焼肉屋へと向かっていた。緊張によって挙動不審になりながら。それによって不審に感じた通りすがりの犬に吠えられながら。
「(ど、どうしよう……いざ行くとなった途端に緊張してきた……)」
無論、内心も緊張によるものか正常ではなかった。これは桃の方がそう考えているだけなのだろうが、友人感覚でのデートは何回かはあるものの、本格的なデートをするというのは初めてなのだ。そのため柘榴にどのような顔をして会えば良いのか、いつも通りには接することができるのだろうか、様々な不安が彼女の脳内に過っている。
「(でも……もう既に予約されていることだし、シャミ子が何を思ってかチケットを渡して柘榴を後押し?してたみたいだし、今更後戻りなんてできない……落ち着け、落ち着くんだ私……!! あ、もう着いちゃった……)」
心身ともに正常さを保たせようとしながらも、気が付けば目的地に到着していた桃。着いてしまったものは仕方ない、そう鈍くも決心し、前を向いたところ……
いつものとは違った格好良さが際立った服装をした柘榴が、既に待ち合わせしていた。深緑色のデニムジャケットにグレー色のニットパーカー、ベージュ色のチノパン系のズボンといった、この秋にピッタリなコーデをしていた。
「ウェッ。あっ……」
その姿は、桃のハートにどストライク……改めて柘榴に惚れさせる羽目になった。
そのいつもとは違う伊達な格好の柘榴に心を奪われた桃は、思わず息が詰まりそうになり、顔を真っ赤にして思わず倒れ込みそうになる。
しかし、デートを台無しにするわけにはいかないという一心でなんとか持ち堪え、何度もその場で深呼吸をして平然さを取り戻そうとした。
「フゥ………………ご、ごめん柘榴。待った……かな?」
「……ううん、今着いたところ。ちょっと着替えるのに手間取った」
テンプレートな台詞を交えてそう返答した柘榴の笑み。それで桃はまた惚れ込んでしまい、倒れ込みそうになった。これだから恋愛クソ雑魚女は……
「えっと……そ、その……に、似合ってるね。その服……」
「……ネットで調べたら、こういう服で焼肉屋に行けばいいって知った」
インターネットで調べて参考にしたものとはいえ、それを着こなしている柘榴はどれだけ男前なのだろうか。桃はそんな勝手な妄想をし、改めて彼のその姿に見惚れていった。
「……桃のも似合ってる。いつもとは違って大人の雰囲気がしていい。とても綺麗だ」
「ヒュエェッ⁉︎」
そうしたら直球な意見が桃に向かって飛び出てきた。柘榴は桃の事に対して思うことがあれば、躊躇い無く本人に直接伝えるタイプである。その上に髪を優しく触わる仕草を見せ、意図がどうかに関係なく、桃を彼の沼に落としていく。
詰まるところアレだ。柘榴は桃に対してむっつりスケベになれるということだ。そしてその行動で桃を何度も惚れ直しまくれる。シャミ子と付き合うことになった後の白哉よりも罪な男である。
「あ、ああああ……あり、がとう……」
「……ん。それじゃあ行こうか」
「う、うん。そうだね……」
ぎこちない心境にありながらも、差し伸べられた柘榴の手を握る桃。その時に向けられた柘榴の微笑みがまたもや桃の心を狂わせ、彼女の思考を煩悩的に崩壊させていく。やはり柘榴は罪な男である。
が、入店して席に座って数分後。
「………………ごめん、桃」
「な、何かな? 柘榴……?」
「……信州牛の履歴証明書を見た途端、何故かシャミ子ちゃんに対する罪悪感を感じる……ふく子ちゃん、メスって……しかも今出ているの、トリュフのテール……尻尾のスープって……」
「待って柘榴、深く考えないで。読み込まないで」
「……そもそもこのクラスの店、来たことない……高校生どころか、大学卒業したばかりの大人が、易々と来れるとは思えない……」
「うん、わかる……」
柘榴すらも初めて来る高級店。その上に出されたコース最初の料理での身内との連想と勝手なる謝罪の念。初めての高級店だからこそなのか、柘榴は無表情からも焦りが見える程の青冷めていることが分かる顔色となってしまった。先程までのいつもの美男子感は何処にいったのやら。
しかし、料理は最初からどれも高級だからこそ美味なものばかり。不思議とそれらの料理に関する感想で話が再び沸いていく。
「そ、それにしても……この店を選んだのって、本当にシャミ子なんだよね? しかも貰ったというチケットまで渡して……」
お互い希少部位ミスジの握りを食べ終えたところで、桃が柘榴にこの店に誘ってきた経緯についての説明を求めることにした。何かしらの目的を持ったシャミ子が事の発端を作ったことを理解している上で、だ。
「……そうだよ。信じられないよね? 節約も得意そうな彼女が、こんなにも良すぎる店を見つけたのって」
「う、うん。シャミ子もよくこんなにも良すぎる店を選んで、自分は行かずに私達に勧めるなんてね……」
頬を染め苦笑いしながらそう答える桃に対し、柘榴はスープのトリュフを平らげた柘榴は続けて彼女の問いにさらに返答する。
「……実はこの店専用のチケット、誕生日に杏里ちゃんから貰ったものらしいよ」
「………………えっ?」
「……そんな貴重なものを僕達に使ってほしいと言ってきたのには、何か理由があったからじゃないのかな? 単純に、僕達にもっと仲良くなってほしいと思ってのことだろうけど」
「そ、そうかな……? そうかも……」
これまで恋愛に対する悪戯されてきたことに対する仕返しとしてなのか、それとも単純に自分達の距離を縮めさせるための処置なのか、その時のシャミ子の考えは桃も柘榴も理解できない。
それでもシャミ子に悪気があったとは限らない。そのためどのような反応をすればいいのかと判断できず、桃は顔を真っ赤にして頭に大きなクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。
「……でも、シャミ子ちゃんがこういう機会を作ってくれて本当によかった」
「えっ?」
「……十年以上、僕達が二人きりになる機会はそんなになかった。いや、作れるチャンスはあったのにお互い見逃していただけなのかもしれない。それをシャミ子ちゃんが自らこの場を用意してくれた。彼女に後押ししてもらって本当によかった、僕はそう思うよ」
柘榴の留学によって作られてしまった、十年分という二人の距離の空白。再会し、同じ町に住んでいる今でも、その空白が埋まりきっていたわけではなかった。
だがそれに待ったをかけたのがシャミ子だった。彼女の気まぐれのような提案が桃と柘榴を引き寄せ、今この場面が作られた。
それは柘榴にとってはシャミ子への感謝の意、そして桃に対する純粋な独占欲となっていた。先程まで耐えていただろう笑みが溢れて見えたのがその証拠だ。
柘榴のその心境に気付いた桃は、思わず吊られて笑みを溢す。再会してからよく見てきたはずの彼の笑顔が、不思議と久しぶりに見ることができた。そんな気がした。
「そっ……か。そうだね。二人きりで会話できる機会なんて滅多に作れなかったもんね。こうして一緒にいられる時間が作ってもらえたのは、正直私も嬉しいよ。……シャミ子には感謝しないと」
「……うん」
この出来事に感謝を示すかのように、笑顔となっているその良き顔で向き合い、お互いノンアルコールのシャンパンの入ったグラスを手に取り……
「……改めて、これからもよろしくね。桃」
「うん、こちらこそ」
お互いこれからの人生に祝福を。そう願うかのようにグラスを合わせ、乾杯の音を鳴らす。
そしてコース全ての料理を食べ終わるまで、桃と柘榴は飽くなき会話を止めなかった。十年前までの恥ずかしい話や、最近白哉やシャミ子達と関わってきた時の出来事などを、嬉々として話していった。
「(………………アレ? 何か大事なことをシャミ子ちゃんに任されていたような、それを忘れているような、そんな気がする……何を頼まれてたんだっけ? ……まぁいいかな)」
途中、柘榴が一時そんな事を考えていながらも。
「ところでさ、柘榴? シャミ子から貰ったあのチケット、さすがに無料券だと思ってないよね……?」
「……うん。優待券で、二万五千円のコースが一万五千円に割引きされる」
「だよね……うん、分かってるよね」
「……まぁ、あっちは無料券だと思ってるだろうけど」
《とあるSNSのDMチャットにて》
シャミ子:杏里ちゃんからの連絡によると、あのチケット……無料券じゃなくて割引券でした……
一応柘榴さんに謝罪のメッセージを送ったんですけど……けど……
白哉:……またお詫びの品とかを用意しとこうか
おまけ:台本形式のほそく話その34
SNSでのシャミ子と柘榴のやりとり
シャミ子:今日は大変申し訳ありませんでした
無料券だと思って渡したの
割引券でしたよね?
柘榴:うん、その事なんだけど
実は貰う時から知ってた
シャミ子:えっ⁉︎
わ、分かってた上で
アレを受け取ったのですか⁉︎
柘榴:こんなことを言うのはアレだけど
高級なものに無料なんてものは
存在しないと思う
でもシャミ子ちゃんの良心を
蔑ろにしたくないから
貰った時ずっと黙ってた
シャミ子:え、えぇ……
柘榴:でも、とてもいい思い出を作れた
本当にありがとうね
シャミ子:えっ。あっ。い、いえ
お二人が楽しんでいただけたのなら……
柘榴:うん。ありがとう
それじゃあおやすみ
シャミ子:お、おやすみなさい……
シャミ子「………………なんか釈然としない……」
いつになったら白哉君とシャミ子ちゃんのデート回を出すんだろう……分からん(自問自答)