偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
今回はこれが原作六巻編のラストでもおかしくない長編(?)のスタートとなります‼︎ 仕方ないからあいつを助けるかーって感じです。
よっ、みんな。学校から帰ってきた白哉だぜ。
今日も今日とて、優子と付き合っていることに関する揶揄いや煽りなどを軽くあしらいまくってさぁ……結構大変だったぜ。
なんかその事で優子が自慢しようとしたら恥ずかしくなって自滅するしさ……良い子は恥ずかしいことは無理にやらないことをおすすめするぜ。
さて、そんな事はもういいといて……今日は帰って来たら小倉さんの様子を見ることにしたぜ。もう俺達よりもクラスの授業が終わって既に帰ってった彼女は、なんか帰ってすぐにやりたいことがあると言っていたようだし。なんか結界の応急処置? みたいなのをやるみたいだが……
ちなみに全蔵の奴も授業全部終わった後、すぐさまばんだ荘へ直行していったようだ。最近よく小倉さんに振り回されてきた彼だからなのか、自分のいないところで厄介な事をやらかしてないか不安になってきたからとのことだ。
……うん、全蔵のあの対応は訳ありだな。本来なら振り回されている人は、その振り回している人に対して好印象を持たないはずだからな。なのにそんな彼が自分からその人の元に向かっているってことは、きっとそういうことなんだろうな。
まぁとにかく、ばんだ荘にただいまーしたわけで……ん? あそこにいるのは全蔵と……良子ちゃん?
「おーい。二人ともこんなところで何してんだ? あと全蔵、小倉さんはどうしたんだ?」
「良も泣いて……どうかしたんですか?」
「ひ、平地くん‼︎ それにシャミ子ちゃんも‼︎ ちょうど良いところに来てくれたッス‼︎」
「じ、実はね……」
二人の話によれば、小倉さんは吉田家の結界がすり減っている状況をなんとかしようとしていたらしい。まぁあの結界が無いと過激派な魔法少女が来る可能性が出てくるし、なんとかしないとって思う気持ちも分からなくもないな。
そして応急処置のために結界を弄ろうとした結果、彼女は結界の中へと
結界の事は分からないとのことで、桃にも相談に乗ってもらうことにした。その時の彼女は冗談とはいえ、小倉さんの墓を作ろうかと言っていた。これにはさすがの俺もブチ切れそうになったよ、『人の心とか無いんか?』って言いそうな程にね。
「でも……結界の細かい技術は姉にしか分からない……どうしたら救助できるのか……」
「それに結界に吸い込まれたといっても、一体何処に飛ばされたのかも分からねェんだろ? 何か行方が分かりそうな事があればいいんだけどな……」
というかそもそも、吸い込まれたんじゃどうやって行くのかなんて皆目検討もつかねぇよ。ってか正直小倉さんは今生きているのか? コメディ要素も多い世界とはいえ、死ぬ可能性が無いという保証すらも……
「テレパシー電話繋がりました」
「え⁉︎」
「ダニィ⁉︎」
「夢にかける要領で繋がりました」
夢にかける要領ってなんだよ⁉︎ どうやったらそんな事できるんだよ⁉︎ どうやったら未知のエリアに電波を送れるんだよ⁉︎ まるで意味が分からんぞ‼︎
というか優子、今ゴッツイ折り畳み式の携帯──サバイバル用な感じのガラケーを使ってるのか。『あすら』襲撃の時にミトさんからスマホ防水グッズなどをもらったはずだけど、念のためスマホが夢の世界でも破壊される恐れを無くすべく二台持ちにしたってわけか。なるへそ。
お、小倉さんが桃と話したいらしいから通話が変わった。今の小倉さんの状況がどんなのかを、耳を傾けてきちんと聞かないと……
『バイタル良好、大気は異常なし、周辺の景色は異常アリアリ〜』
「……景色に異常?」
『正気度低めの画家が描いたみたいなファンキーな景色〜』
えっ……? 何その宇宙のめくれの度を超えた世界線にいるかのような発言は……怖っ……魔法使いの仮面の戦士が赴いている、人間の精神世界よりもヤバいところじゃね? 絶望の魔獣よりもヤバいのが生まれそうじゃね? マジで怖っ……
小倉さんの話の続きによれば、彼女が今いる場所は『時空の盲点』と呼ぶものらしい。三次元の座標とかいう位置的には吉田家のドアの前から動いてないものの、多くの次元の折り畳みに挟まれて異世界に飛ばされている模様。時空と運命の迷子になったとか……
いや時空レベルでの迷子ってなんだよ。異世界に飛ばされたってなんだよ。ノベルティとかでよくある異世界転移のようなものじゃねェか。いや異世界転移そのものか? それならその世界の住人の一人や二人くらい見かけてもおかしくないはずだが……
で。何故俺達に相談しないで結界を弄ったのかというと、結界が壊れて近隣の人達が時空の迷子になってしまうのを防ぐため、直ちに応急処置をしたかったとのことらしい。
……いや、待て。ちょっと待て。今ってさ、いろんな人が巻き込まれる程にヤバい状況だったってのか? 吉田家の結界は任意無しの魔法少女の訪問を防ぐ以外の効果が備わっていたってのか? 桜さんが作った結界ってそんな効果が? そしてこの世界はあの結界無しだと非常に危険な目に遭うのか? ヤバすぎでしょ……
と。そんな事を考えてたら良子ちゃんに優子諸共呼ばれ、小倉さんと通話してる桃から少し離れた位置へと移動することになった。そして全蔵も良子ちゃん側に立つように同行している。二人揃って何か気になることでもあったのか……?
「……あのね、小倉しおんさんはとっても怪しい人だと思う」
「ですよね〜。でもいい人なので通報しなくて大丈夫!」
「時に犯罪的な事をするけど、ほとんどが法律ギリギリだからな。それくらい彼女も弁えてるからよ」
「法律ギリギリのことしてる時点でもうヤバいッスよ彼女」
それは一理ある。ギリギリならば何やってもいいわけじゃないことぐらい分かってる。それを小倉さんも分かってるのかは知らんが、第三者の見方次第では通報からの逮捕を受けてもおかしくないはずだ。
「というか……良子ちゃんが怪しいと言っているのは、小倉さんの人相や行動云々の話じゃないッスよ」
「……うん、そういう話じゃない」
「は? どういうことだよ」
小倉さんが怪しいというのは、やっている事とか何を考えているのかって事とかから捉えられるものじゃないのか? それなのに怪しいと思ったのはそれらがあるからじゃない? どういうことだ? まるで意味が───
「良曰く、小倉さんは多分まぞくだよ」
「……へっ⁉︎」
………………huh?(猫ミーム風その1)
………………huh?(猫ミーム風その2)
………………huuuuuuh?(猫ミーム風その3)
今、良子ちゃんは一体なんて言ったんだ? 小倉さんが? まぞくかもしれない、だって? ……いやいやいやいや、そんなことはありえんって。さすがに良子ちゃんが嘘をついているってことはないだろうけど、さすがにそれはにわかに信じがたいぞ? だってあいつ見た目は人間だし、人外の部分なんて見当たらないし……
しかし、良子ちゃんの話を聞けばその可能性もあり得る気がした。小倉さんは彼女がおすすめした本を一冊二秒で読んでしまったらしく(しかも内容を全て把握している)、俺達がいない間にいろいろと不審な行動をしているし(それは俺もそうしてるだろうなとは予想してるけど)、そして何より、吸い込まれる前には吉田家しか知らないはずの『暗黒区役所』の言葉を出してた模様。
……確かに小倉さんまぞく説はあり得るかもしれない。早読みかつ内容を全て網羅するなんてことは普通の人間ではできない所業だし、『暗黒区役所』なんてまぞく関連でまぞくしか知らないだろうしな……それに度を超えた研究もしてきていたし。
それに優子がふと思い出した話によれば、『あすら』襲撃事件の時にすごく慌てていたが、それは知らない魔法少女の朱紅玉さんと知らないまぞくであるミトさんの事を恐れていたからではないかという憶測も出ている。
つまり、少なくとも小倉さんは光の一族か闇の一族のどちらかには関与しており、訳あってその事を俺達にはずっと内緒にしていた……ってことか? 謎だらけな彼女の事だし、その線は濃厚だな。
「多分、今の小倉さんとの人間関係をまとめるとこうじゃないッスか? 小倉さんはシャミ子ちゃんの力でやりたいことがあるけど、千代田さんに伏せたい事情がある。千代田さんも警戒はしてるけど距離感を保っている。シャミ子ちゃんの元で互いに利用し合い、緩やかに対立している……って感じだと思うッス」
「……なんかお前、結構目を輝かせてないか?」
そのなんかロマンのある人間関係は、本好きな良子ちゃんだけ興味津々だとは思っていたけど、全蔵も物静かながら意外とそういうのに興味がある感じなのか? そういやこの前桜さんの事を話した時は結構感涙してたなこいつ。感情オーバーになりやすいタイプなのか?
気がついた時には桃が小倉さんとの通話を終え、こちらの方へと来た。どうやら小倉さんを救出するための作戦が整ったらしい。そしたら良子ちゃんが泣いてるフリをして、桃に小倉さんを助けてほしいと改めて頼み込んできた。演技うまっ。子役の才能あるんじゃね?
「……お姉。白兄。桃さん。全蔵さん。小倉さんはちょっと変だけど、悪い人じゃない……と思うの。防災ベルももらったし。助けてあげてほしい……」
「……ん」
「もちろんです‼︎」
「任せてほしいッス」
「……絶対助けてやるからな」
この時の良子ちゃんの懇願は、泣きの演技でもないどころか演技ですらなかった。ただ純粋に、小倉さんの事を想って俺達に助けに行ってほしいというものだった。
小倉さんは変な奴だが悪い奴じゃない。行動が怪しいだけで根は良い奴だからな。良子ちゃんだって彼女の事を想うところはあるはずだ。だからこそ、俺達は絶対に小倉さんを助けないといけない。もうこれ以上、誰かを悲しませてたまるかってんだ。
この後、桃は優子にゴッツイガラケーの電話番号を教えてもらい、ウガルルに何やら筆・墨汁・半紙のお使いに行ってきてほしいと頼んだ。優子は良子ちゃんを部屋に送り、全蔵も準備があるとか言って何やら一旦帰ってった。
さてと、俺はこの間に協力者達に連絡しておかないとな。あ、協力者というのはミカンや拓海などの仲の良い人達で戦闘経験のある奴らのことな。ってなわけで、もしもーし?
♢
「では……『時空漂流者小倉さん救出作戦』を始めます‼︎」
「まるで小倉さんが異世界人だと言ってるようなもんじゃねェか」
気が付けば夜になっていた。ミカンや拓海に柘榴さんも小倉さん救出のために来てくれて、ウガルルがお使いで買ってきたものが全然違うというアクシデントはあったものの、なんやかんやで準備は万全な状態となった。
……いや、そうでもないのかもしれない。何故なら全蔵が何かしらの準備をして来るとか言って戻ってきてないからだ。別に彼が来なくても問題ないだろうが、ちょっと心配だな……
「すみません、戻るのが遅くなってしまったッス」
おっ。ここで全蔵が戻ってきたのか。お前、帰ってから今まで何をして───
「………………なんで忍者の格好してんの?」
今の一言でおかわりいただけただろうか。そう、全蔵は忍者の格好をして戻ってきたのだ。薄紫色の忍装束で、頭巾もあるしその中に長い髪も全部隠れてるし、口元も覆ってある。カッコいいけどさ……なんでそんなの着て戻ってくるのさ?
「俺も出来れば救出の同行をしたくて、その景気付け?な感じに気を引き締めるためにこの格好をすることにしたッス。忍術もたくさんあるしいざという時に使うので、自分で言うのもアレッスけど戦力も申し分ないと思うッスよ」
「は? 行動組と一緒に行く前提で準備してたってか? あっいや、戦力が増える分、助かるのは助かるけどさ……お前、そういった場面に遭遇するのは初めてだろ? いざって時になったら……」
危険な目に遭うかもしれないことを考慮して、せめてサポート役に回ってほしいと頼もうとした。けどそれに対して彼は腕を伸ばして待ったをかける。
「……俺、最近小倉さんによく実験の手伝いとかを頼まれていたッス。俺の忍術に興味を持っているとはいえ、なんで自分にばっかよく構ってくるんだろうって思う時がよくあったッス。けど……」
けど?
「それと同時に、なんだかほっとけなかったッス。忍術が好きでがむしゃらに我流を追い求めている時の自分と重ねているようで……いや、その時の自分以上に楽しそうにしている彼女を見ているようで、目が離せなかったッス。なんだか羨ましいな、みたいな感じッス。その……なんて言えばいいッスかね。彼女に振り回される機会が一生来なくなるっていうのが、不服だけど嫌だなって……」
満更でもない。それどころか見ていて安心する。その機会が無くなるのはなんだか想像できない。そう言っているかのような一言一言が伝わってきて、それが全蔵が小倉さんを助けたいという意思の表れへと変わっていっていた。
「だから、俺も全力で彼女を助けたいッス。そして言ってやるッス、自分勝手なことをしすぎるからこんなことになるんだって」
不満も露わにしながらも、小倉さんの事を想っている発言をし、覚悟を決めているかのような真剣な表情を俺達へと向けてくる。本気だ、本気で自分も小倉さんを助けたいんだという意思が、彼から伝わってくる。
「……最低でも、行動する奴らの誰か一人と一緒に行動すること。そしてそいつから離れないこと。これらの条件でなら……どうだ? みんな」
「はい‼︎ 全蔵くんの想いはグッと伝わりました‼︎ 一緒に小倉さんを救出しましょう‼︎」
「そうだね。今回はそういった想いの強い人の力が必要となるし、全蔵くんにも協力してもらえればと思っていたところだしね」
優子や桃が賛成の意見を述べ、他のみんなも頷くなりして同意の意思を示した。つまり全蔵も行動組の仲間入りってわけだ。やったな全蔵、これでお前も小倉さんの力になれるぞ。
この後俺達は戦闘フォームとなり、いつでも戦闘態勢が取れるような状態となった。外で待機することになったミカン・拓海・柘榴さん・ウガルルなら外からの援護・即座の加勢ができると考えてのこともあり、この世界への攻撃が来る可能性も考慮して……って感じだ。それで全員戦闘フォームに───
「………………優子、顔真っ赤にして尻尾がめちゃくちゃ荒ぶってるぞ。どした? 話聞こか?」
「ごめんなさい……小倉さんには申し訳ないんですけど、場にいる全員が戦闘フォームって……何気に初めてで興奮してきたんです。私……こんな時なのにテンション爆上げです‼︎」
「えっ。あぁ、そう……そうなんだな……」
そういえばそうだな。非戦闘員の方々はともかく、この場にいる全員が戦闘フォームってのは中々珍しいものだよな。戦闘フォーム……というか戦闘が出来る人達がたくさん揃うのは、ヒーロー番組の特別な映画とかオールスターの出るゲームとかぐらいしかないもんな。そんな状況になれば、そりゃあ優子も興奮するわけだわ。
まぁその話題はおいといて。
問題なのはどうやって小倉さんのいる異次元……というか異次元そのものに向かうかって課題だ。どうやってあそこに向かうのかなんて皆目検討もつかねぇよ。そもそも異次元というのがどんなものなのかも分からんし……
と、ここで桃が何やら百人一首の札の一枚を出してきた。中納言行平という人物が詠んだ『たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む』と書かれてある和歌だ。別れを惜しむ一方で、いなくなった人や動物が戻ってくるように願う、おまじないの歌でもあるらしい。
「小倉は今『迷子になる運命』に嵌っているから、このおまじないで迷子時空の小倉と繋がれるようにする。これを半紙に書いて小倉の
へー。魔法少女って魔力の使い方次第では、百人一首に書かれてあるおまじないに例えたこともできるのかー。魔力って使い方によっていろんな芸当ができるんだな、参考にしたい。
でも、桃は小倉に対してそれほど強い愛情なんて持っているのか? 正直なところ、仲は悪くないけど良くもないって感じだったと思うのだが……
「そこで全蔵くんの出番ってわけ。多分だけど、彼の方が私よりも小倉の事を想う気持ちは強い。全蔵くんが小倉の事を想い、私がそんな彼に魔力を当てれば……」
「俺の力と想いで小倉さんを見つけられるかもしれない……ってことッスね」
なるほど。想いの強い人に魔力を当てる感じでやれば、魔力を持った本人が無理に愛情と気持ちを込めるよりも数倍成功しやすいって算段なんだな。それなら小倉さんのいる異次元に繋げやすいかもしれない。
そしてその想いが強い人が異次元を繋ぐ手伝いをするということは、俺・優子・桃と一緒に異次元に行く可能性があった時に同行するかもしれない。つまり場合によっては戦場に赴く必要があるってことか。一般人ならともかく全蔵は忍術が使えるし、戦闘になっても多分なんとかなるだろうな。
「了解したッス。この伊賀山全蔵、全力で小倉さんのいる次元を繋ぐ鍵となってみせるッス‼︎」
「うん、お願いね」
こうして全蔵は桃の魔力の支援の元、小倉さんに対する強い想いをメガネに向けながら和歌をスラスラと書いていく。執筆するの上手っ。憧れている忍術を使う人が忍者で、それが和のヤツだからなのか? 知らんけど。
「シャミ子はこれを付けてね。魔力のビーコンよ。シャミ子達が帰ってくるための目印」
あらあら。優子の胸元のリボンにそんなものを付けちゃってまぁ、えっちだね。えっちえっち。……言っとくがこれはおふざけで言ってるだけであって、ガチでいやらしい感じに見てるけじゃないからな。ホントだからな。
ちなみにビーコンというのは、狼煙や篝火といった位置と情報を伴う伝達手段のことを言う。魔法少女が用意、しかもミカンのものであることが丸分かりな輪切りのレモンの形をした携帯型ということは、アレは魔力を用いて使うもののようだ。
これさえあればちょっとした音も遠くから聞こえるため、外での待機組は行動組と離れてても安心というわけだ。それりゃあえぇなぁ。
「普段は逃げる子に付けるの。逃げ疲れて止まったところで誘導弾をぶち込むのよ。ロマンチックでしょ」
「そんな物騒なロマンチック思考捨てちまえ」
「外したい‼︎ 取れない‼︎ えっちい付け方なのに白哉さんが酷い目に遭いそうで怖い‼︎」
「オイ待てや」
今ばっさりとえっちい付け方って言わなかったかお主? 事実だけど、思ったことでも口にしていいものとそうじゃないものとがあるからよく考えて言って?
「うおっ眩しいッスね⁉」
と、そんな事をしている内に異次元に行く準備が完了したようだ。吉田家の玄関ドアに貼られた結界の(すり減らされている)紙が淡く光り輝いているのがその証拠だ。
「今だ!! シャミ子!! 白哉くん!! 全蔵くんが気持ちを作れてる間に結界を武器で攻撃するよ!! 他のみんなは離れて!!」
「は、はい!!」
「おう!! 未来を切り拓く!!」
ヤベッ、思わず最近再放送されたアニメのセリフを呟いてしまった……ま、まぁ皆が皆、あのアニメを観てるとは限らないし、変な反応しないだろうから、気にしない方がいいk───
「ユ〇コォォォォォオオオオンッ!! ……あっ」
………………いたわ、ここに。俺が言ったアニメのセリフを知ってた上に、この場でネタにされてきたセリフを言ってきた奴が。しかも結界の扉を開くために攻撃する瞬間に。
「すまん、ふざけたのは悪かったから睨もうとしないでくれ」
「あ、いえ……〇ンダムUC面白かったですよ……?」
どんな誤魔化しorフォローだよ。その返答はお互い恥ずかしくなるからやめてくれね? 確かにあのアニメは面白かったけどさ……
「く、空間が開いたよ!! シャミ子、白哉くん、全蔵くん、構えて!!」
「わ、わかったッス」
「「あっ、はい……」」
なんか気を使われている感じに桃に呼ばれたんだけど。確かに今はくだらないことしてる場合じゃないけどさ。なんか申し訳なく思うんだが……
と、そんな事を考えていたら結界の光から渦巻きのようなものが発生。それは俺・優子・桃・全蔵を引き寄せ、その内部へと吸い込ませていった。……というか、めっちゃぐるぐる回って酔いそうなんだけど⁉︎ 目がめっちゃ回るし変な浮遊感も感じるんだが⁉︎ ヤベッ、吐きたくないけど吐くかも……
♢
「はいよっとぉ‼︎ ちょっと危なかっ───」
「ぎゃふん!!」
「げほあへぇっ!?」
「っ!!」
「うおっと⁉︎ ここ、着地しづらかったッス……」「ぐへっ」
バランス崩しかけたけど着地成功したと思いきや、それに失敗した優子に押しつぶされて仰向けに寝そべった感じになっちまった。優子が着地失敗するだろうなとは想定して受け止める体勢を取ろうとはしたけど、まさかすぐ真下に落ちてくるとは思わなかった……
「いたたっ……はっ!? びゃ、白哉さん!? す、すみません!! 大丈夫ですか⁉」
「だ、大丈夫だ………………あっ」
こ、これは……やばい、やばいなこの状況は。いろんな意味で。
「ゆ、優子……ちょっといいか? そ、その……だな……上半身から順に体を起こしてくれないか? そうしてくれないと俺が困るんだが……」
「へ? な、なんでですか……?」
なんでって……今の自分の置かれている状況を見ればわかることだろうが……俺の口から言わせるなよ、恥ずかしいからさ……
「………………上半身の感触で、大体わかるかと思うぞ」
「えっ? ………………あっ」
察してくれたのか、優子は思わず顔を紅潮させてしまった。何故彼女がそんな顔になったのか? それは……
今の優子は、仰向け状態の俺の上にうつ伏せの状態で乗っかっており、その俺をいつも虜にしている豊潤な胸を、俺の胸板に乗せている状態にあるからだ。
しかも仰向けの上からうつ伏せによる構成だから、俺と優子の顔と顔が合う状態になっている。目と目が合う瞬間になっている。
この二つが彼女を恥ずかしがらせる条件になるのは難しくない。特に前者がそうさせる確率は高い。というか確定演出だ。
「ごごごごご、ごめんなさいでした……‼︎ い、い、今はこういう状況を作る場面じゃないですよね……‼︎」
「いや時と場所を弁えろって言ってるわけじゃないけどな……」
というか、今俺達は一体どんな世界に飛ばされたんだ? とりあえず周りを見て、第一印象では一体どんな世界なのかを確認して……
………………………………えっ? 何ここ。
なんかマンションみたいな建物がたくさんあるのは確かだけど、階段らしきものが横側に壁にくっついていたり、その壁があり得ない形や向きで貼り付いていたり、そもそもこれは建物だろうかみたいな形状のものがあったりと……
なんというか、ここがどういう世界なのかってのが全然判別できない感じの複雑な世界だなここ。色々と形容し難いんだが。上がどれで下がどれ? みたいな。外の世界と比べてマシだと思えるのは、空が普通に青空であることぐらいか。
「なんか……ちょっと気が狂いそうな景色ッスね」
「ここが小倉が吸い込まれた結界の内部……だと思う」
「……つまり、成功したんですね‼︎」
「いやそうとは限らねェぞ? まだこの世界に小倉さんがいるとは確定してないんだし……」
可能性を考慮した発言をした途端、全蔵が瞬きする瞬間もない程の速さで俺の肩を掴み、剣幕とした表情で俺を見てきた。いや、瞬きする瞬間もない程の速さと言っても、彼は俺のすぐ隣にいたから実際にそこまで速いのかは微妙に分からないけど───
「その『いない』って可能性は捨ててほしいッス。あんな人でも助けられないなんて結末、俺は嫌ッスからね」
「わ、悪かった……悪かったって……あいつに嫌味があるからとかの理由で言ってたわけじゃないから。そもそも消えたとかの考えもないから。だからさ、そんな顔で睨んでくれるのやめてくれないか……?」
どうやら小倉さんがこの世界にはいないかもしれない理論は、今の全蔵にとってはかなりのタブーだったようだ。それも過度な聞き間違いをする程に。小倉さんの何がお前を突き動かしてんだよ……さすがの小倉さんでも何かしらの洗脳はしてないとは思うが……寧ろしてないと願いたい。
「白哉さん白哉さん」
と、ここで優子が全蔵にバレないようにと耳打ちしてきた。なんだ突然?
「もしかすると全蔵くん……小倉さんに何か想うところが、というか脈みたいなのがあるんじゃないでしょうか……? 振り回されていたのにあそこまで心配してくれてるなんて……なんだかほっとけないとも言ってましたし」
あぁ……やっぱり優子もそう思う?
「その線はあり得るのかもな。あいつが小倉さんの事をあそこまで気にしてるとなると」
自分に似てるからとか、目が離せなかったとか、羨ましかったとか、そんなことを口にしてたしな。それが俺達行動組と一緒になりたいとかいう理由になったようだし、これはもう……アレだな。全蔵の奴、小倉さんの事が───
「ところで、小倉さんはどこに行ったッスかね? 見つけて帰って来れたら文句の一つや二つ言って、疲弊させてやらんと気が済まないッス……‼︎」
……めっちゃ青筋浮かべてる。これはその……アレだな、俺と優子が思ってたのとは違う気がする。
「伊賀山くぅぅん……ここ、ここ。小倉はここだよぉ……」
ん? 下から小倉さんの声が聞こえるんだが、一体どんな感じで……って、全蔵に乗っかられてるやないか。もしかして彼が着地してからずっとそのまま?
「どぅえええっ⁉︎ お、小倉さん大丈夫ッスか⁉︎」
「さっきまで無事だった……」
「それはマジですいませんでしたッス‼︎」
……さすがのさっきまでお怒りMAXな感じだった全蔵でも、悪かったと思ったことは小倉さん相手でも謝れるんだな。なんかちょっと安心した。
しかし、俺達はまだ気づいていなかった。異次元に飛ばされた小倉さんの違和感に──
というわけで次回は異世界(?)編となります。ばんだ荘に似た場所にて一体何があるのか……⁉︎
乞うご期待‼︎