偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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異世界をウロウロしてる時に、別の異世界からの者が現れたら色々と驚くよね? ってことで初投稿です。

前回のラストの声の正体は……?


チクショウ、早く結界から脱出したいぜ……ん? なんか見覚えのある奴が目の前にいるのだが

 

 我等、結界に潜む運命の残骸清掃隊‼︎ ただいま俺達の世界の分岐点となっているものを片っ端から掃除しております‼︎

 

 なんでそんな事をしているのか、理由はただ一つ。小倉さんと一緒に元の世界に帰るには、そうして時空のズレを近づかせる必要があるからだァッ‼︎

 

 運命の残骸というのは、俺達の誰かが手に入れていないものだとか、誰かが可能性としてはあったかもしれない出来事でこちらの世界ではなっていない姿だとか、どういう経緯なのかこちらの世界ではあり得ない未来だとか……

 

 なるべく簡潔に言えば、俺達はもしもの未来があることが表される光景を目撃することになり、それを魔力を用いて消す必要があるってわけだ。しかもそれが結構多いし、小さな運命の残骸という名の間違いもかなりある。だから全部見つけて掃除するってのが大変なんだよマジで……

 

 で、現在進行形で間違いが中々見つからない状態だ。つまり現状残っている間違いは小さな間違いしかないってことだ。この世界のサイゼリ○である『サイゼリャー』のキッズメニュー欄とかにある間違い探しコーナーのようなもんだ。案外クソ難しいんだよアレ。

 

 

「小さな間違いもあることが分かってから、数十分は経っているだろうな……正直キツイ。キツすぎる」

 

「このままだと異世界で年越しになっちゃうかもぉ……」

 

 

 え? こんな起きてもめでたい状況が出来そうにないところで年を越す、だって? マジで? そうなる可能性も考慮しないといけないの? 年越しは最悪普通の感じでやりたいんだけど?

 

 

「そんなことになったら、何を食べて生き延びましょう。草はあんまりカロリーが───」

 

「優子ォッ‼︎ なんとかの杖を間違いを見つける杖に変形させてやってくれェッ‼︎ 俺ァマイナスな状況で年越しなんかしたくねェんだッ‼︎ 早くしろォッ‼︎ 間に合わなくなっても知らんぞォッ‼︎」

 

「ふへっ⁉︎ あ、あの、白哉さん落ち着いて……」

 

 

 落ち着け? あってほしくない可能性の事を考えたら、落ち着けるわけねェだろォがァッ‼︎大晦日で年越しそばが食えないのは年を越したとは思えないしよォ!! 早く帰りてェよォッ‼

 

 

「フレッシュピーチ冷静度確保チョップ」

 

「いてェッ⁉」

 

 

 も、桃にチョップを食らわされた……しかも軽くとはいえ脳天に……いてェ……マジでいてェ……っつーか。

 

 

「おまん何すんねん⁉ 手加減してくれたとはいえ、下手して脳天が割られたらどうしてくれんねん⁉」

 

「えっと……白哉さん? なんで紅さんみたいに関西弁で喋っているんですか?」

 

 

 分からん。俺もなんでこんな喋り方したのか分からん。でも痛かったことによる怒りからこうなったんだってのは確信がつく。ってゆーかフレッシュピーチ冷静度確保チョップってなんだよ。技じゃないだろうけど呼称ダセェ……

 

 

「白哉くん、君の早く帰りたいって気持ちはわかるよ。私達も同じことを考えているのだから。でも、その一心で焦っていると見落としとかがあって逆に時間が掛かる。そうなると自分自身まで見失って、それでこそ最悪の事態だって起きかねないよ」

 

「あっ……」

 

 

 そ、そうだった……忘れてた。この状況を打破して元の世界に帰りたいと思っているのは俺だけじゃない、みんな同じ気持ちなんだ。なのに喜べない年越しを恐れて、自分一人だけ混乱してこの場を乱してしまって……

 

 何やってんだろうな、俺。もしもの可能性を恐れて冷静さに欠けてしまうなんて情けねェよ。桃の説得からしてこうなることは初めてとはいえ、あの調子のまま続けていたら……

 

 

「……みんなすまん。帰れないことを恐れて一人で勝手に焦ってしまって……」

 

 

 俺は申し訳ないという気持ちでいっぱいになり、すぐさまみんなに謝り深く頭を下げようとした。が、優子が待てと言わんばかりに手を伸ばして制止させた。

 

 

「そ、そんなに気に病まないでください‼︎ 大丈夫です‼︎ もし帰れそうにない事態になってしまったとしても、その期間を最小限に抑えられるよう私も努力しますから‼︎」

 

「そうッスよ。というかその最悪な事態を無くすために俺達がいるッスから。みんなで協力して全部解決していこうッス」

 

「私もヤバい事態になる可能性を減らせるように頑張るからぁ、ね?」

 

 

 優子に続き、全蔵も小倉さんも俺は別に悪くないのだとフォローしてくれた。ただ叫んだ程度とはいえ、この場を乱してしまった俺を許してくれた……やっぱり、この世界の人達はみんな優しいや。

 

 ……よし、年を越せない可能性を恐れるのはやめだ。今は出来ることしよう、そうしよう‼︎

 

 

「ありがとう、みんな……気を取り直して、まずは最悪な事態を考慮して、食料の確保を……簡単にできるわけねェよな」

 

 

 うん、よく考えてみたらダメじゃねェか。こんな右も左も分からない世界で食料を集めるなんてこと、そう簡単にできるわけじゃないよな。そもそも見つけたとしても安全に食べられるとは限らないし。

 

 

「一応、長居する可能性も考えて準備してるけど、何ヶ月分とかの食料は持ってきてないな……」

 

 

 準備してたんかい。

 

 

「俺もそういうのを出せる忍法を使えるッスけど、忍法を使うにはエネルギーを使うんで何度も容易に使えるとは思えないッス……」

 

 

 忍法で持ってこれるんかい。

 

 なんだ、現地で探す必要性はなかったじゃんか。でも持ってきた分や忍法を使う時のデメリットとかもあるみたいだから、長くは持ちそうにないようだな……残念。

 

 前言撤回、状況次第では現地での確保も必要だった。

 

 

「みかんの木、消さなければよかったですね」

 

「いや運命ゴミのヤツだったし、食べても安全かどうか分からんどころか、食えるのかどうか事態も怪しいだろ」

 

 

 というか、いざって時を考えると、常時戦闘フォームで動かないといけない状態でみかんに触れるってことを考えてみ? その時点で魔力を用いたことで消えてしまうぞ。

 

 

「そもそも年明けまでみかんだけはつらいでしょ」

 

「確かに、味変しても毎日はどうかと思うッス」

 

「わかるぅ……私、一袋でも食べきれなくてラスト一個がカビまみれになる……」

 

 

 なんかみかんを食べる日数に関する談義が始まったんだけど。しかも小倉さんはみかんをカビらせた経験があるようで。小倉さんって、思ってた通り食細なんだな。

 

 

 

『はぁぁ⁉︎ それはちょっと食細すぎじゃない⁉︎ せめて月一箱食べなさい‼︎ みかんはビタミンCが入ってるから理論上無限に入るのよ‼︎ っていうか腐ったみかんを発生さすなワレェ‼︎』

 

 

 

「あつっ‼︎ 胸が熱い‼︎ ミカンさんが何か抗議してる‼︎」

 

「……ん? 胸が、熱い……?」

 

 

 アレ? なんだろう……今の優子の言葉に何故か反応してしまうんだが。しかもなんか恥ずかしい感じがするんだが……

 

 

「ちょっと平地くん……? 何『胸が熱い』って言葉に反応しながら頬を赤らめてるんスか。同じ男とはいえちょっと引くッスよ……」

 

 

 は?

 

 

「平地くんも男だもんねぇ。シャミ子ちゃんとする時、毎日それに惹かれてる感じ?」

 

 

 オイちょっと待て。

 

 

「ほーん……? なるほど、白哉くんはシャミ子の胸の虜になったんだね」

 

 

 言い方ァッ‼︎

 

 

「お前ら……俺が優子の事をどんな目で見てると思ってるんだよ。後で覚えとけよ」

 

 

 言っておくが、俺が優子の事をいやらしい目で見ている確率は多くとも五割程度だからな? 少なくとも五割以上は純粋に愛してる感じに見てるからな? 俺はお前らが思う程の変態じゃな───

 

 

「びゃ、白哉さんがちょっとした事で私をいやらしい目で見てくれていた……なんか、めちゃくちゃ嬉しいです……♡」

 

「な、なんで嬉しがってんだよ。しかもめちゃくちゃって……」

 

 

 もうヤダこの人達。彼氏にとはいえ性的な目で見られていることに喜んでいるまぞくに、俺の事を恋人をいやらしい目で見てることが多いと思い込んでいる野次馬ども……今まともなのは俺だけなのか? すっごい複雑なのだが。

 

 

「そ、それよりもだ‼︎ そこまでになる程ミカンが何かを伝えたかったってのは確かなはず。ここは一度あいつらに電話してみようぜ」「あっ……」

 

 

 悪い、話題を変えさせてもらうぜ。俺があんな反応をしたのはミカンが何かアクションを起こしたからなんだし、そこまで話は逸れてない……と思う。とにかくミカン達の方に何があったのかの確認をするぞ確認‼︎

 

 あっ、お前ら今『話を逸らしたな』って顔してるな。そうだよ(便乗)。お前らが変な反応するからそうしないといけなくなったんじゃい、察しろ馬鹿ども。

 

 ……気にしてない感じの優子はともかく、小倉さんが罰が悪そうな顔をしてるのは謎だが。

 

 

「……まぁ、それもそうだね。時間もかかりそうだし、一旦ミカン達に連絡しようか。例の携帯で」

 

 

 例の携帯? ……あぁ、優子が持ってるあのサバイバル用なゴッツいガラケーの事ね。離れていても魔力などで補ってるはずだから電波も届くだろうし、問題なく繋がるはず……

 

 

「あっ………………この携帯、ミカンさんの番号どころか拓海くんのも柘榴さんのも入っていないです」

 

 

 ………………えっ。………………ゑゑゑゑゑゑゑゑゑ⁉︎(パ○ガス風)

 

 なんでそっちの携帯にミカン達の携帯番号を入れてないんだよ⁉︎ しかも向こうにいる三人全員のもかよ⁉︎ 緊急時に連絡したいところの番号を確保できてないのはどうかしてるだろオイ⁉︎

 

 

「……優子、スマホは持ってないか? そっちならさすがにミカン達の誰かの番号入ってるだろ」

 

「こ、壊れると困るので持ってないです……白哉さん、桃、覚えてますか?」

 

「え? 番号がいるの? ……いや、覚えてない……」

 

「桃、お前もかよ………………いやちょっと待って? よく考えたら俺もスマホ持ってくるの忘れてるじゃん……。えっと……全蔵は?」

 

「へっ⁉︎ も、持ってるわけないッスよ彼女の携帯番号なんて」

 

「「「「「………………………………」」」」」

 

 

 き、気まずい……ッ‼︎ 全蔵と小倉さんはともかく、全員が外の世界待機組の携帯番号を一つも覚えてないとは……ッ‼︎ しかも桃も幼馴染の柘榴さんの番号を覚えてないとかどゆこと……⁉︎ マ、マジでヤバいじゃんこれ……ッ‼︎

 

 というか、なんで俺はスマホを持ってきてねェんだよ⁉︎ やっても大丈夫なうっかりと絶対ダメなうっかりの区別をちゃんとしろよ俺ェッ⁉︎

 

 

「あ、あー……えっと……と、とりあえずだな……番号無しで連絡できる方法を考えて……」

 

 

 あ、あれ? なんか今にも一触即発しそうな感じなんだが───

 

 

「おばかなのかなシャミ子は‼︎ 緊急時に連絡取れてこその夢携帯じゃないの⁉︎」

 

 

 ふぉぉぉ⁉︎ ヤ、ヤベェ⁉︎ 桃が怒りだしたぞ⁉︎ それができないのはお前も同じはずなのに何怒ってんだお前は⁉︎

 

 

「作戦を考えたのは桃じゃないですかぁ‼︎ そういう使い方をするなら先に教えてください‼︎」

 

 

 や、やっぱりだァッ‼︎ 優子と桃が喧嘩を始めちまったぁ⁉︎ いつ帰れるか分からないどころか残った間違いがいくつあるのかも分からないこの状況で、何喧嘩をおっ始めてんだよ⁉︎ そういうのはやめてくれよォッ‼︎

 

 

「そもそも私、この携帯の存在は先程知ったのであって───」

 

「ちょ、ちょっと二人とも‼︎ 一旦落ち着いてほしいッス‼︎」

 

「けんかやめてぇぇぇ……」

 

 

 チクショウ……やっぱり全蔵も小倉さんもこの状況に困惑して焦りだしやがった……‼︎ このままでは終始最悪な雰囲気になって、元の世界に帰るどころか残った間違いを見つけることができねェ……‼︎

 

 ッ……‼︎ えぇい、こうなってしまったら仕方ない‼︎ こうなったら最終手段だ‼︎

 

 こんなことをするのは恥ずかしすぎるし、優子も同じ気持ちになるだろう……しかもこの場面ではその確率も羞恥心も高くなってしまう……だがそんなことを言っている場合じゃない‼︎ 最優先すべきはみんなを落ち着かせることだ‼︎ 躊躇いを捨てろ平地白哉‼︎

 

 

「優子ォッ‼︎ 痛くはないだろうけど、いろんな意味で歯ァ食いしばれェッ‼︎」

 

「「「えっ?」」」

 

「へっ?」

 

 

 この場にいる全員が拍子抜けした声を上げたが、そんなことを気にしてる場合じゃない‼︎ お前らには喧嘩する状況にならないようにするためにも落ち着いてもらうぞ‼︎

 

 そう思いながら俺はすぐさま優子の隣へと素早く移動し、彼女の肩を掴んで引き寄せ───

 

 

 

 優子の唇を、俺の唇で塞いだ。分かりやすく言えば、キスである。

 

 

 

「………………んむぅぅぅっ⁉︎」

 

 

 優子は一瞬俺に何をさせられているのかを理解できていなかったようだが、唇の感触が伝わったからなのかそれに気づき、林檎のように顔を真っ赤にしてしまった。

 

 やっぱりこんなことをされるのは恥ずかしかったようだな。無理もない、俺もこんなことをするのはめっちゃ恥ずかしかったからな。だって周囲の目の前で堂々とやっちまったからな……特に桃の目の前で。

 

 顔を優子から離してふと振り向けば、全員が俺の行動が意外だったのか呆気に取られたかのように目を見開いていた。あの恋愛お節介桃色魔法少女(最近ではお節介する機会が見られない)の桃も何かしらの煽りもしないとは……俺の今の行動がそんなにレアだったか?

 

 とりあえず……現状少なくとも優子は突然のキスで、別の意味での平常心を保ててないだろうし、声を掛けて正気に戻そう。そうしよう。

 

 

「ふぅ……ど、どうだ優子? 少しは落ち着いたか?」

 

「ぅえっ。へっ、あっ、は、はい……」

 

 

 ……うん、怒りは収まってるようだな(思考放棄)‼︎ けど実際にあんなことしてめちゃくちゃ恥ずかしかったし、慣れないことはするもんじゃねェな……

 

 いや、そんなことはどうでもいい。今は彼女と桃にも伝わるよう、今のうちに説得だな。

 

 

「さっき最悪の可能性を否定したくて荒れてた俺が言うのも何だけどよぉ、冷静さに欠けてたら解決したい問題も解決できないぜ? 確かに電話番号の確保が出来てなくて焦る気持ちもわかる。けど焦ってしまったらそれこそ見落としが起きて、最悪な事態を起こしかねないぞ。だから俺を落ち着かせた時みたいに、ここはリラックスしておこうぜ」

 

 

 大変な事態だからこそ冷静になるべき、そんな風に俺に説得してくれたのは桃だ。そして優子はみんなを引っ張るボスまぞくの立場にある。そんな二人が誰かと喧嘩するなんてあってはならないことだし、そんな悪い事態を二人とも起こしたくないはずだ。

 

 だからこそ、俺は喧嘩が続くような事態を無理矢理終わらせた。そしてそれよりも大切なことは何かを説く状況を作った。自画自賛しているわけではないが、我ながらあのまずい雰囲気をうまく止めれたと思う。いや、寧ろこれで止まってほしい。頼むから。

 

 

「ってなわけだから、二人とも喧嘩はそこまでにして間違い探しの続きしようぜ。喧嘩しない方が全蔵も小倉さんも安心してくれるし」

 

「ご、ごめん……言い過ぎた……『電話番号』って言葉に何故か繊細になってて……」

 

「す、すみません……」

 

 

 よし。これで二人とも落ち着いてくれて、もう喧嘩することはないな。やっぱり俺達は仲良くやっていく方が似合ってるってもんだ。改めて二人とも謝罪の言葉を交わしたところで、活動再開を───

 

 

「あ……私のスマホにミカンの連絡先入ってる」

 

「はよ気付けや」

 

「それはごめん……」

 

 

 人の恋路のお節介焼き恋愛クソ雑魚脳筋桃色魔法少女この野郎。そういうのは優子に聞かれたら時に調べろや。そうすりゃ喧嘩せずに済むでしょうが。俺がスマホを持ってくるのを忘れてなけりゃあんなことにはならなかったんだけどねッ‼︎

 

 

「私、ミカンちゃんの番号覚えてるよ」

 

「え! ほんとですか。小倉さんすごい‼︎」

 

 

 おぉ、小倉さんマジか。アンタいつの間にミカンの連絡先を貰ったのか。アンタの行動は読めないからいつどこで何をやっているのかなんて分からんが、ミカンとそこまで交流してきたとは……マジで助かったぜ。

 

 ……ん? アレ? ちょっと待てよ? 小倉さんがミカンの電話番号を優子のガラケーに入れようとしたら、なんか引っ掛かっているかのような複雑な笑顔になってるぞ? 一体どうしたというんだ?

 

 

「あれれ〜? これ、よく見たら圏外だよぉ。お外と通話出来ないんじゃないかな」

 

「ダニィ⁉︎」

「え〜〜〜⁉︎ 頑丈ケータイのはずなのにー‼︎」

 

 

 いやいくら頑丈でも電波が繋がりやすいとは思えないぞ。つーか寧ろ関係ないものかと。

 

 それよりも、マジか……電波が届かない位置にいるのか俺達は。まぁ普通に考えて、外の世界の電波が異世界であるこの世界に易々と届くわけないもんな。魔力を特殊な電波として活用すればなんとかなるだろうけどさ……

 

 

「………………気のせい、ッスかね……?」

 

 

 ん? 今、全蔵がなんか呟いたような気がする。しかも小倉さんの事を警戒し始めたかのような眼差しになっているんだが……気のせいか?

 

 とりあえず、魔力の電波がミカン達に届かないのは優子が疲れているからという可能性も考慮し、休憩することになった。優子になんとかの杖をおやつタイムの杖に変形できないか聞いてみたところ、ここは夢の世界とは異なるらしくそれができないとのこと。

 

 

「一応そこは予想してたから。一旦補給と休憩を取ろう」

 

 

 と言いながら、桃はクッキーやコーラ、リットル単位の水のペットボトルの入ってある箱などをたくさん取り出してきた。スゲェ、ここまで大量の食料を持っていたのか。さっきまで手ぶらだったのにどうやって出して……ってか。

 

 

「今どこから物を出してきたッ⁉︎ しかもごっそりとッ‼︎」

 

「どこって……マントからだけど」

 

「当たり前な感じに言うなッ‼︎ ってか布から出せるとか四次○ポケットかよッ⁉︎」

 

 

 しかも一度に出したい物をたくさん出せる仕様とかなんだよ⁉︎ 四○元ポケットよりも性能良さそうな気がしてきたの何なの⁉︎ まぁ持ち心地は○次元ポケットの方が軽くて手間とかもなくて助かるけど……

 

 ちなみに今の桃のマントの内部、四次○ポケットみたいになんでも入るわけではなくちょっと入るぐらいで、刀もそこに入れてるらしい。大きい物が中に入っているダンボール箱を数箱入れておいて、ちょっとしか入らないって認識でいるらしい……いや、どこがちょっとやねん。

 

 

「───で、この後なんだけど。白哉くんと全蔵くんは正直に言ってまだ体力はあり余ってる?」

 

 

 いや『正直に言って』ってなんだよ『正直に言って』って。もしかして俺達が無理して体を動かしてると思ってるのか? それとも体力が残ってないことを隠して最悪な状態になってほしくないがための配慮か? まぁどっちにしろ悪意は全くないことは確かか。

 

 

「俺はまだ大丈夫だ。これまでの事件に比べれば心身共にマシな方だと思うぜ」

 

「俺も大丈夫ッス。忍法を身につけるのに体力は結構いるので、結構つけてるッス」

 

 

 そういや全蔵はここまで忍法なんて全然使ってなかったな。実際に忍法を俺の目の前で見せてくれたの、今年で二・三回ぐらいしかなかったと思う。だから忍法使いまくって体力がめっちゃ消耗してしまった、なんて場面には遭遇することもなかったなぁ……

 

 

「じゃあ二人は一緒に行動して軽く周りを見回る程度でお願い。シャミ子と小倉はここで体力を温存して。もう危険なことは起こらなさそうだから、しばらく私一人で探してくる。何かあったら大声出してね」

 

 

 どうやら桃は間違いを探す人を二手に分け、体力に自信のない優子と小倉さんを休ませることにしたようだ。

 

 ちなみに俺と全蔵をペアにしたのは、戦闘経験の無い全蔵に何かあった時の為に俺にガードマンみたいな立ち位置になってもらいたいという思いから……なんだと思う。全蔵は俺達と行動すること事態初めてだし、それが妥当だろうな。

 

 そんな事を考えていたら桃は一瞬でばんだ荘の屋根の上までひとっ飛びしていった。相変わらずスゲェ運動神経だな、たった一秒であそこまで辿り着ける程の跳躍力を持つなんて。

 

 さてと……俺らも動くか。

 

 

「優子、俺達も辺りを見て回ってくる。小倉さんの事、頼んだぞ」

 

「はい、まっかせてください‼︎ ボスまぞくとして小倉さんに危害を加えないようにしますんで‼︎」

 

「おう、しっかりな」

 

 

 胸を張りながらここは任せろと言ってくれたので、俺は優子のその言葉を信じ、全蔵と周辺を回って間違いがないかどうか探していくとするか。

 

 とはいっても、桃に軽くでいいからと言われたものだから、言う通りな感じにすると間違いの見逃しとか出そうなんだよなぁ……気をつけないと。

 

 で、しばらく周辺を歩き回ってみたんだが……やっぱり間違いらしきものは見つからないな。小さな間違いなんて砂漠の中で一円玉を見つけるくらい難しいし、キツいわやっぱ。

 

 

「……あの、平地くん。ちょっといいッスか?」

 

「ん? なんだ?」

 

 

 間違い探しのキツさを心の中でぼやいていたら、全蔵が何やら言いたげだけど何処か遠慮がちな感じに話しかけてきた。本当は言いたいけど言っていいのか分からない……って感じか?

 

 ここは……思ってることは言ってもらった方が得策だな。このまま言い淀ませたままにしていると、いつしか良くない空気が流れる予感がするからな。いざって時にとんでもないことになったらこっちが困る。

 

 

「何を思っているのかは知らんが、言いたいことは正直かつはっきり言ってくれ。そうしない方が後で後悔するかもしれないからな」

 

「平地くん……わ、わかったッス」

 

 

 俺の言葉に背中を押された感じなのか、全蔵は一つ深呼吸してしどろもどろさを解いた。これは自分の思った事をちゃんと言ってくれそうな感じだな。さて、こいつは今何を思っているのやら……くだらないことならちょっとムカつくだろうけど安心はするが。いや何を期待してるんだ俺は。

 

 

「あの、これは俺の憶測なんスけど……

 

 

 

 今の小倉さん、俺達の世界の小倉さんじゃなくてこの世界に住んでいる小倉さんなのかもしれないッス」

 

 

 

「………………………………はっ?」

 

 

 えっ? ちょっ……えっ? 今、なんて言った? 小倉さんが? 俺達の世界の小倉さんじゃなくて? この世界に住んでいる小倉さん? こいつは一体何を言っているんだ?

 

 えっ? それって、優子の隣に今いる小倉さんが俺達の世界にとっては偽物だった……ってことか? つまり彼女も運命の残骸だった……ってことか?

 

 ………………あっ⁉︎

 

 

「ちょっ、ちょっと待て⁉︎ も、もし今お前が言ったことが本当だったってことは、その小倉さんの性格次第では優子が危ないってことじゃないのか⁉︎ だったらすぐに二人のところに戻らねェと……‼︎」

 

 

 迂闊だった……‼︎ 一緒に間違い探しをして仲良くなったせいか、優子と桃はあの小倉さんの偽物(?)に対する警戒心が薄い……‼︎ そこを突かれて一人ずつ消されるなんてことになってしまったら……‼︎

 

 

「……いや、さすがにシャミ子ちゃんどころか俺達の命を狙うとは思えないッス。それどころか、俺達に悪い影響を与えるとは思えないッス」

 

「へっ? な、何を根拠に……?」

 

 

 いや、あいつはずっと俺達の世界の方の小倉さんを装っているんだぞ? 俺達に何かしらの危害を加えないと確信できる要素なんて……

 

 

「本当に俺達を消すつもりなら、あの小倉さんの偽物自身もその対象である間違いを……運命の残骸を、俺達に掃除してもらうように頼むとは思えないッス。寧ろその事を教えないで曖昧なことを言うはずッス」

 

「あっ……」

 

 

 た、確かに……黙っていれば、彼女自身が消される可能性はさらに低くなるはずだ。それなのに、自分と似た要素のあるものを俺達と一緒に処置するように頼み込むとは思えない……同じ境遇のものがないとデメリットがある、って感じにある程度の警戒はするはずだ。

 

 なら、あの小倉さんは何が目的で俺達の世界の方の小倉さんとして近づき、自分と同じ運命の残骸の掃除を頼んだんだ? 何故俺達を元の世界に帰してくれるような真似を……? うーん、彼女の考えていることは分からん……

 

 アレ? ちょっと待てよ?

 

 

「ちょっといいか? あの小倉さんがこの世界の方の小倉さんである可能性が高いことは分かった。けどさ、全蔵? お前はなんであの小倉さんがこっちの世界の小倉さんだと思ったんだ?」

 

 

 優子も桃も彼女が、俺達の世界の方の小倉さんであるとは思い込んでいないらしいぞ? なのになんでお前はあの小倉さんがこっちの世界の小倉さんだと思っているんだ?

 

 

「あの小倉さんに出会ってからなんかおかしいと思ったんスよ……この世界に吸い込まれた時には眼鏡を落としてしまっていたのに、なんでその眼鏡を掛けているだろうって。その時は予備用の眼鏡を偶々持ってるなのかなっていう考えでいたッスけど……」

 

「あっ……そ、そういえばそうだった……」

 

 

 よく考えてみれば、確かにそれはおかしいと感じるな。

 

 もしもあそこで眼鏡を掛けていたままだったら、この世界に行くために必要な小倉さんの持っているものは無さそうだから行けるはず……なのにあの時の小倉さんはよく考えたら眼鏡を掛けていた。そう考えたら、あの小倉さんが偽物だと思える可能性は少しだけどあったな……

 

 

「でも、あの小倉さんが俺達の世界の小倉さんじゃないとほぼ確信した理由が二つあるッス」

 

「ほぼってなんだほぼって」

 

 

 本当はお前自身の憶測が合ってるかどうか不安、ってことか? 確かにアイツがこの世界の小倉さんかどうかの確証はないけどさ……でも、俺達の知ってる小倉さんじゃないと思えた理由があるのは確か。何でいつもの小倉さんとの違いが……?

 

 

「まず一つ目。この世界の……もうめんどくさいんであっちはニセ小倉さんって呼ぶッス。彼女が陽夏木さんの事を『ミカンちゃん』と呼んでいたことッス。小倉さんは普段俺と同じように『陽夏木さん』と呼んでいたのに、ニセ小倉さんは『ミカンちゃん』呼び……そこをシャミ子ちゃんに指摘された時は動揺してた感じだったッス」

 

 

 あぁ……そういえばそうだったな。ミカンに連絡を入れるかの話であいつ、ミカンの事をちゃん付けしてたな。本人は『陽夏木さん』呼びなのに。その事を優子に聞かれた時もなんか曖昧な反応してたし、思い返してみればあれは変だった。

 

 

「そして二つ目。間違いを消していけば俺達は元の世界に帰れる……そんな推測ができるとは到底思えないッス。さすがの小倉さんでもこの世界と元の世界との繋がりどころか、間違いを消すとどうなるのかというのを理解できるわけがないッス。もしもこの世界の小倉さんがこの世界に長く居座っていて、それについての様々な検証を長年やってきた……というのならまだ信じられるッスが」

 

「……よく考えてみれば、この世界に来たばかりの小倉さんはそういう結論を出せるとは思えないな」

 

 

 さすがに何故か光と闇の一族に関する情報を持っている小倉さんでも、異世界とこの世界の原理なんて知っているとは思えないな。大体異世界がどんな仕組みになっているのかも分からないし、それが分かったとしても他の異世界とも共通してるとは限らないしな……

 

 

「あの小倉さんが俺達の知っている小倉さんではないけど、悪い奴では無さそうだというのは分かった。しかし、どうしてあの小倉さんはこの世界にある俺達の世界との間違いを消すよう頼んだんだ? よく分からんな……」

 

「よく考えてみればそうッスね。ホントなんでッスかね……?」

 

 

 間違いを消させるのには何か理由があるのだろうか? この世界にも影響してはいけない何かがあるから、とかか? よく分からんな……

 

 

「……ところで平地くん、アレも何かの間違い……ッスか?」

 

「ん?」

 

 

 全蔵が何かに指差したようなので、俺はその方向に視線を向けてみた。その視線の先には……

 

 

 

 さっき俺達の間を素早く通り過ぎていったはずの、何やら赤紫色のモヤモヤとした球体が、ばんだ荘の周りを周回していた。

 

 

 

 あの時優子達には見えなかった、または見据えていなかったものか。その時は他の奴らみたいに見えなかったと言っていた全蔵が見えるようになったということは、今のアレはゆったりとしたスピードで動いているのか、それとも停滞しそうな程に遅めに動いているということか。いやそれは動いていないのと同等だろうけど。

 

 しかし、あの球体は一体何なんだ? 間違いである可能性は高いだろうけど、とにかくアレをあのまま放置するのは良くないから攻撃して消せるか確かめないとな。

 

 

「こちらから仕掛けてみるぞ。解放せよ、セイクリッド・ランス‼︎ 我が身を包め、ライフベール‼︎」

 

 

 念のため自身の体に何かしらの悪影響が起こらないようにするべく、セイクリッド・ランスの槍身から放たれる純白で透けた光を纏ってから攻撃を試みることにした。

 

 ってオイオイオイオイ、攻撃しようとする俺に気づいたのか素早く飛躍して逃げようとしてるんだが? ふざけんな怪しい奴を放っておく程俺は甘くねェよ。

 

 

「逃がさんッ‼︎」

 

 

 高くジャンピングッ‼︎ そしてセイクリッド・ランスでスマァァァッシュッ‼︎ これで最後の間違いとして消えて元の世界に帰れるようになれるとい───

 

 

 

 刹那。俺と全蔵は突然膨大化した球体に包まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

「こ、ここは……?」

 

「な、なんスかここ……? というか俺達は確か……」

 

 

 気がつけば俺と全蔵は、優子が寝ている時に行ける夢の世界に似たキラキラ鉱石の場所で目を覚ました。

 

 えっなんで? なんで俺こんなところにいるんだ? いや球体に飲み込まれたのはかなりの盲点だったけど、なんで死んだとかの実感が全くないんだ? ちょっと待ってくれ、色々と理解が追いつかんのだが……

 

 

 

『あぁ、ミスっちゃいましたか。逃げるために一時吹っ飛ばすつもりでボンって放ったはずなのに、逆にこの空間に迎え入れてしまうように発動していたとは。久々にうっかりまぞくです』

 

 

 

「「⁉」」

 

 

 俺達の近くにて聞こえてきた声。それも何やら聞いた事のある可愛らしい声質。それが後ろの方から聞こえたため反射的にその方向へ振り向けば……そこには一人の女性が立っていた。

 

 左頭に被っている赤く小さな王冠。首に付けてあるハート型の宝石と鎖。袖も襟も胸元の谷間も肩も腋も露出している赤がかった黒い生地と、赤い縞模様の入った薄紫色の生地を交差するように着込まれている、腰の全面が大きく開いてある服装。

 

 その服装の露出度は優子の危機管理フォームにも負けない程にあって、着ている本人も恥ずかしくなりそうな格好だが、その反面どことなくファンタジーな世界線の王……魔王らしき貫禄が出ていた。

 

 そして、俺が一番に驚いたのは、赤がかった茶色い長髪の頭に生やしている巻き角。そして腰辺りに生やしている小悪魔風の尻尾。どれも見覚えのある体のパーツ、それも人間のではなく明らかに人外のものだ。

 

 その馴染みのありすぎる顔立ちを見て、俺は思わず徐に呟くかのように、その女性に問いかけた。

 

 

 

「お、お前………………優子、か……?」

 

 

 

 普通なら、先程まで小倉さんの隣にいた優子がこの場にいるとは信じ難いことだろう。あの短時間で魔王らしい服装を一からチューニングして作成できるとは思えないし、彼女が先程見たあの球体の正体だとしたら、あの時優子の目の前を素通りするどころか俺にも見えるはずがない。

 

 けど、この世界には俺達の世界とは異なる間違いが存在している。そして現に小倉さんの偽物が優子の隣にいる。だから彼女も別の世界の優子である可能性が高い。

 

 よって、彼女も優子……俺達の知らないシャドウミストレス優子なのかもしれない。警戒しないと。

 

 

『フッフッフ……さぞ驚かれていることでしょうね。本当は色々と焦らしてから教えようと思ったのですが、なんだか気分が良いのでもうネタバレしちゃるとしましょう‼︎』

 

 

 優子と思わしきその人物はご機嫌なのか小悪魔じみた笑みを浮かべると、何処からか取り出した巨大な赤がかった紫色の太めに見える三叉の槍を手に取り、バッと左手をこちらに伸ばしながら高らかに叫んだ。

 

 

 

『我が名は魔王シャドウミストレス‼︎ そちらの世界のシャドウミストレス優子にして、訳あって多摩町を守る守護者にして魔王となった世界線のシャドウミストレス優子であるッ‼︎』

 

 

 

「………………………………ま、ま……魔王だってェェェェェェェェェッ⁉︎」

 

「マ、マジッスか⁉︎ あのシャミ子ちゃんが、魔王〜〜〜ッ⁉︎」

 

『冗談に聞こえて大マジです‼︎ こちらの世界では、ついに多摩町を支える唯一無二の魔王となったのだーッ‼︎』

 

 

 ……拝啓、ヨシュアさん。緊急事態です。

 

 別世界の貴方の娘さん・優子が、多摩町を守る魔王というとんでもないらしいポジションとして、俺達の目の前に君臨してきました。

 

 この衝撃の急展開に、俺はどう対処すればよろしいのでしょうか。教えてください。

 

 いや、この際誰でもいいからこの場面の対処法を教えてくれマジで……

 

 




まさかのシャミ子ッ‼︎ それも別世界ッ‼︎ しかもその世界にも白哉君がいたッ‼︎ 次回どうなっちゃうの〜⁉︎
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