偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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きららファンタジアは一ミリもやってないんだよね……ってことで初投稿です。オリジナル回です。

ナレーターでヨシュア役の梅津秀行さんが亡くなったと今知った……まちカドまぞくのアニメ3期は一体どうなっちゃうんだ⁉︎
それに合わせて原作でもヨシュア死亡……なんてのは絶対無しだからな?


魔王シャドウミストレスが来たワケ 〜魔王に託された想いと新たな誓い〜

 

 別世界で多摩町の魔王と化した世界線の優子と遭遇しました。

 

 今後敵と戦うことを想定した方がいいという名目で、突然問答無用に襲い掛かってきました。

 

 実際に戦った結果、桃のビックリ悲鳴で大技の発動をミスって自爆したため、俺が勝利しました。

 

 ………………いや、なんだこれ。

 

 別世界の優子に出会うことになったのはまだ理解できる。だって俺は優子達と一緒に小倉さんを救出しに行った時、様々な世界線の残骸に遭遇してきたからな。魔王となった世界線の優子と出会っても『あっこれも残骸か』って済ませられるし。

 

 デモンストレーションな感じに突然襲い掛かってくるのも無理はない。魔王の優子は話を聞いてくれない敵やこれまで見てきたのよりも強敵な奴らが、今後俺達の目の前に現れてくるかもしれない。その時にいつでも撃退できるようにと俺を鍛えたかったんだろう。

 

 だが、一番腑に落ちないのがその勝負の結果だ。魔王の優子が言うには『自分にどんな感じにでもいいから攻撃を当てるだけ』というのが俺の勝利条件となっているらしい。『どんな感じにでも』とのことで、それが思わぬ自傷ダメージも含まれるようだが……

 

 お分かりいただけただろうか。先程魔王の優子が大技の発動をミスって自爆したという説明をしたが、それも俺の勝利条件となっていたのだ。俺自身の攻撃で彼女がダメージを受けたわけじゃないのに、ダメージを与えられたことになって、俺が勝ったことにもなって……

 

 そう、俺はこの戦いの結果に不服を感じたのだ。俺自身の攻撃で強敵にダメージを与えられた……というのなら素直にそれを喜べるが、この結果はそうはいかない。

 

 だってさ? そうなる前はお互いに最大火力の大技をぶつけようとしていたんだぞ? それなのにさ? 桃の可愛らしいビックリ声によって魔王の優子の集中力が途切れ、せいいきサクラメントキャノンを放つ瞬間に誤爆を起こしてしまい、それも彼女が敗北する条件となっているんだぞ?

 

 これがどういう意味か分かるか? 実質試合が中止されたようなものじゃん。あんな結果になるとは思わなかったじゃん。チクショウめ、結果論とはいえ勝敗をつける条件が緩かったじゃねェか。複雑なんだが。

 

 

『あぁ、その……私も実質自爆するような形で負けるとは思いませんでした……というか勝利条件が緩かったとは我ながら思わなかったです。まさか白哉さんにとっては釈然としない結果になるとも思わなくて、ちょっと申し訳ないというかなんというか……』

 

「えっ。ま、まぁ結果論だったからそんなに深く考えないでくれるか? それこそこちらの気が引けるというか……」

 

 

 っていうか、ナチュラルに俺の心を読むなよ。この空間が夢魔の世界と同じ領域で、この領域にいる人達の心を読めるとはいえ、デリカシーというものは考えたことあんのかお前? いつもデリカシーを考えている子だけどさ。

 

 

『言っておきますが……心の中で何か考え事をしていると、その考え事の内容がどんなものなのかであれ、その念というか思いが強いとヤバいですよ? 私がその人の心を読もうと思わなくても、こちらはその人の考え事を自動的に読んでしまうので……アハハ……』

 

「えぇ……何それ……」

 

 

 念が強いと勝手に心を読まれるってなんだよ。その念ってどうやって発生させるんだよ。ツッコミどころが多くてどう言えばいいのか分からんのだけど……

 

 と、とりあえず……この領域において魔王の優子の前で心の中で変なことを考えるのはやめた方がいいな。変な考え事を彼女に読まれて何かあったら困るからな。

 

 

「あ、あの……魔王のシャミ子ちゃん? ちょっといいッスか?」

 

 

 と、そんな事を考えていたら全蔵が魔王の優子に何かを問いかけてきた。ってかよく考えたらお前、俺と彼女の戦いに参加しなかったな。お前の忍法をたくさん見たいのに……

 

 もしかして、次元が違いすぎると感じて戦いに割り込めなかったとか? 確かに魔王の優子はめちゃくちゃ強かったら……というかまだ余力を残してそうだけど。

 

 

「戦いの結果がどうであれ、勝敗がついたのは分かったッス。なので、そろそろ俺が気になってたことについて聞かせてほしいッス」

 

『気になってたこと……? 何ですか?』

 

 

 なんとかの杖で発動させたであろう治癒能力でいつの間にか回復した魔王の優子は、全蔵がこれからするという質問に対して首を傾けた。

 

 アイツ、何か聞きたいことがあるようだが……一体何を聞くつもりなんだ?

 

 

「シャミ子ちゃん……貴方は何故、この世界に来たッスか?」

 

 

 ……は? お前、一体何を言っているんだ? 魔王の優子がここにいるのは、彼女も運命の残骸の一人だからなんじゃないのか? 今頃何を……

 

 

『えっ? なんでって……それは私も運命の残骸で、貴方達の世界のシャドウミストレス優子ではなく、この世界と貴方達の世界の道を繋げるのを邪魔する存在として───』

 

 

 

「もしそれが本当だとしたら、シャミ子ちゃんはフロストフレイムを防いだ時に既に消えたはずだし、自分の事を運命の残骸とは呼ばないはずッスよ」

 

 

 

『ウッ……‼︎』

 

「……?」

 

 

 ………………あっ。そ、そうか。そういうことか……全蔵の奴、二次創作でありがちな回収出来てない伏線を見逃さず、そこを指摘できるタイプだったのか。彼の話を聞けば『確かに変だ』と思う点がいくつかあった。確かにこれは見逃せないな。

 

 まず、運命の残骸というのは魔力を用いた攻撃をぶつけることで消えるもので、別世界に持ち帰るとその世界に何かしらの不具合が起きるもの。それはいつの間にか現れるもので、別世界で起こる可能性の一つとなっている。

 

 魔力をぶつければ運命の残骸が消えるという原理は、おそらく魔力に秘めた原子となり得るものが、残骸の中の原子か何かを打ち消したからなのだろう。これはあくまで俺個人の仮説だが。

 

 そして、その運命の残骸は人として出てくるものもあるが、その人物は自分が運命の残骸であるという自覚を一切持たない。それどころか別世界の知り合いを自分の世界にいた知り合いと勘違いしてしまう。自覚の心に欠如が生じているのだ。

 

 ……なんかたった一名だけ、自分は運命の残骸の一つだってことを自覚してる感じのがいたけどね。それも知り合いでもなんでもない人。あの人はマジで誰だったんだよ……

 

 つまり何が言いたいのかというと……魔王の優子は魔力を受けても消えない。しかも自分が運命の残骸であること、俺と全蔵を別世界の人物であること、それらを完全に理解していたのだ。

 

 前者はともかく、これほどまでに並行世界の認識を持った奴なんて、誰一人見なかったぞ……⁉︎ なのにその認識や自分が俺達とは違う世界の存在だと自覚している……‼︎

 

 

「あぁ……魔王シャドウミストレス、って名乗ってたよな? お前」

 

『えっ。は、はい』

 

「お前……本当に一体、何者なんだ……?」

 

 

 気がついた時には、俺は魔王の優子にそんな事を問いかけていた。もしも彼女がニセ小倉さんみたいに偽者だったとしたら、かなりの警戒心を持たざるを得なくなるし、何よりあそこまで強い彼女を野放しにすることはできない。ニセ小倉さんと違って力がバカデカい程あるからな。

 

 俺のこの問いかけに折れた感じなのか、魔王の優子は苦い顔をしながら溜息をついた。これは図星か……?

 

 

『……ハァ、結局こうなってしまいますか。仕方ない、白状しますね』

 

 

 どうやら真実を明かしてくれそうな感じの優子。ただ顔は俯いており、その表情は浮かない様子……というよりも、何かを想っているのか泣きそうな程の暗い表情を見せていた。

 

 そして顔を上げ、真剣な表情で口を開いた。

 

 

『私、魔王シャドウミストレスは……

 

 

 

 私が魔王になり、世界が平和になった代償として、白哉さんや桃を始めとした、多摩町で戦える存在が私以外ほぼ全員死んでしまった未来の世界線……そこから時と世界線を超え直接来た、並行世界のシャドウミストレス優子です』

 

 

 

「ッ……⁉︎」

 

「平地くん達が、死んだ、未来の世界線から……ッ⁉︎」

 

 

 背筋が凍ったのを実感した。それもこれまで感じたもの以上に。

 

 彼女が運命の残骸としてこの世界にいたのではなく、別の並行世界から来た本人であることは、本人の証言から確証された。だがそれと同時に、彼女は世界線だけでなく時間を超えて来たということも明かされた。

 

 まぞくや魔法少女などといった戦闘能力を持った者がいるのは多摩町ではよくあることだと思うが、時間の行き来ができる者がいるということはさすがに想像もつかなかった。魔力の扱い次第ではそんなこともできるというのだろうか。

 

 そして、魔王の優子が世界と時を超えて来たという事実以上に、背筋が凍ったと感じた事実がある。それが、俺達が戦死したという事実だ。

 

 恐らく魔王の優子のいた世界では、少なくとも多摩町に最も恐ろしい危機が舞い降りてきて、その戦いで俺達は命を落とした……ということになるのだろう。

 

 それも『ほぼ全員』と出ているため、もしかすると俺や桃だけじゃなく、ミカンや拓海も……

 

 俺と桃の他に誰が死んだのか。もしや優子の知り合い全員だろうか。そんな考えたくもない考察が出てきてしまってはいたが、それがないとは限らない。優子が鬱な表情でそう教えてくれたのだから。

 

 けど、やっぱり信じられなかった。俺やみんなが死んでしまった世界線もあったという事実を。受け入れられなかった。俺達の世界でもそうなる可能性が、逆に優子が死んでしまう可能性も孕んでいるということに。

 

 その可能性が、魔王の優子の体験談を通して少しでも消すことができるとしたら……そんな『もしも』を信じ、俺は再び優子に問いかけた。

 

 

「もしそれが本当だとしたら……教えてくれ。その世界での俺達の身に、一体何が起きてたんだ?」

 

 

 俺がそんな事を聞こうとしていることが意外だったのか、魔王の優子は何故か目を見開いた。そして罰が悪そうな表情で顔を背き、横目でこちらを見ていたが、再び向き直して口を開く。

 

 

『……訳あって曖昧な記憶を通してお伝えすることになりますが、それでもいいですか?』

 

「……それでも構わない。こっちの世界でも同じ悲劇が起きないようにするためなら、その曖昧な内容も深く聞くつもりだ」

 

 

 寧ろ何も聞けないよりはマシだ。何も対策が出来ずに俺達が死んで、優子が辛い思いをする未来なんて御免だ。なら少しでも運命が変わる可能性を見つけられたら……

 

 そしたら魔王の優子は心が折れたからなのか、俺の頼みを聞いて何を思ったのか、一つ溜息をつきながらも一瞬微笑み口を開いた。

 

 

『……わかりました。教えますね、私の世界の……この世界の時代の未来で何があったのかを』

 

 

 

 

 

事の始まりはこの世界から■ヶ月後、私のいた世界から■年前の事だった

 

 始まりはあまりにも唐突だった。

 

 何処でそれを見つけたのかは不思議と覚えていない。だけどそれを白哉さんと一緒に見つけたのも、それがどんな見た目をしていたのかも覚えている。

 

 それは子供のチンパンジーの形をした、近くで見ても目や口なども全く見れない程に全身が真っ黒な何かだった。何だろうという警戒は二人ともしながら見ていたものの、魔力は微塵も感じなかった上、何やら弱っているかのように見えた。

 

 だから私達はその何かに近づいた。得体の知らない存在であったことは確かだったが、弱っているものを放置するなんていう可哀想なことをすることができなかったのだから。

 

 

 

 その行動こそが、あの悪夢の始まりの瞬間となるということも知らずに。

 

 

 

 その何かの顔を見た途端、私はそれが口も見えないはずなのに笑っているように見えた。口が僅か孤を描いている感じだったとはいえ、あまりにも不気味さを感じた。まるで何かを狙っているかのように。

 

 気がつけば私は即座になんとかの杖を巨大化させ、構えの態勢を取ろうとしていた。これは危険だ、無闇に近づくものではない。身体が不思議とそう危険信号を知らせていた。

 

 けど、その反応は思ったよりも遅かった。いや、あの何かの動きの方が速かったというべきだろうか。

 

 戦闘態勢を取ろうとした私の身体……腹部が、何かに貫かれたのような感覚に襲われたのだ。その痛みを感じ意識が朦朧とし、口から赤い液体……血が吹き出てしまったのは、腹部を貫かれたと気づいた時だった。

 

 その何かは子供のチンパンジーから姿を変え、黒い瘴気のような得体の知らない、原型を留めてすらいないような何かへと姿を変えていた。腕も細い螺旋状の槍のような何かへと変形させており、それを見た時には大量の血が付着していた。どうやら私は、あの何かによって既に身体を貫かれたようだった。

 

 白哉さんがすぐさま攻撃してその何かを後退させているかのような叫び声は聞こえた。そしてすぐに私の事を呼びかける声も聞こえた。けど、そこで私の意識は途切れてしまった……

 

 

 

 

 

あれから何分経ったのかは全く覚えていない。

 

 目を覚ました時には、辺りが混沌のように濁った瘴気が漂っているのが見えた。空の色もハロウィンをイメージされたものよりも濃く禍々しい色に広がっており、正気ではないことが窺えた。

 

 腹部を貫かれた痛みは治っていない。血もポタポタと流れたままだった。だけど……貫かれた直後よりも微塵だが酷くは無く、流血の流れも少しだけ遅い。出血している量も思ったよりも少しだけ多くなく、雑に傷口が塞がっているように感じた。

 

 どうやら白哉さんか誰かが私の回復を試みようとしたものの、充分な程に回復させることはできなかったらしい。白哉さんがこの場にいないのも、きっとあの得体の知れない何かとの戦闘で無理矢理私から引き剥がされたのかもしれない。

 

 刹那、少し離れた位置から爆発音が聞こえたのを感じた。それもこれまでに聞いたのよりも物騒で、下手すれば町の大半が崩壊するかもしれない程の大きな爆音。その音がする方向にはただならぬ範囲に広がっているであろう爆煙が漂っていた。

 

 思った通りに身体を動かすことはできない。また傷が大きく開く可能性は低くない。だけど……それでも、私はあの爆音がする方向へと向かわないといけない。あの得体の知れない何かが起こしたものならば、急いで止めないといけない。

 

 今残っているダメージは浅くはないし、着いたとしても間に合わない……何かが手遅れになっているかもしれない。そんな最悪な悲劇を頭の中で想像してしまう。

 

 でも……このまま何もしないまま回復を待っていたら、それでこそ本当に後悔してしまい、私は何を信じればいいのか分からなくなってしまう。そんなのは絶対嫌だ。

 

 少しでもみんな生きているという希望を信じて、私は満身創痍な身体を引き摺りながら、その爆発地点へと向かう。白哉さんも桃も強いため、きっと私が辿り着くまでに全員生きているはずだ。そう自分に言い聞かせながら、その身体を引き摺っていく。

 

 

 

 だけど、悪夢の予想の方が当たってしまった。

 

 

 

 爆発地点だと思わしき場所に辿り着いたと思えば、そこには地獄のような光景が目に見えていた。

 

 白哉さんが、血みどろの姿で倒れていた。

 

 桃が、腹部に風穴を入れられ壁際寄りに倒れていた。

 

 ミカンさんが、拓海くんが、深い傷による激痛で苦しんでいるウガルルさんを抱いて庇うようにして倒れていた。

 

 ごせんぞが、リコさんが、全蔵くんが、柘榴さんが、奈々さんが、ブラムさんが……

 

 私の知り合いがみんな、血を浴びた状態で倒れていた。私でも伝わるはずの魔力が微量も感じず、誰一人身体をピクリとも動かしていない。この中で意識があるのは、庇われたであろうウガルルさんと店長、紅さんと彼女を庇ったものの致命傷で済んだミトさんしかいなかった。

 

 私は言葉にならない程の深い悲しみを負い、激しい怒りも覚え、複雑な思いで我を失いそうになった。だけど、それは白哉さん達を殺した者に対する感情ではない。その者に対して怒りや悲しみなどの感情を持っていないわけではないけど、彼以上にその感情を向けている者がいる。

 

 

 

 それは、弱かった私自身にである。弱かった私が憎かった。

 

 

 

 もしも私があの時、攻撃をなんとか耐えて意識を失わなければ、この痛みに負けずもっと早くこの場に行ければ、白哉さん達は助かった可能性があったのかもしれない。

 

 もしもあの時、得体の知れない何かが子供のチンパンジーの姿の時からもっと早く何かしらの対策をしていれば、私は身体を貫かれずに白哉さん達との戦いに参加して犠牲を出さずに済んだかもしれない。

 

 私はその場で泣き崩れ、視界を涙で歪ませてしまった。私がもっとしっかりとしていれば、強くなっていれば……結果論でもあったとはいえ、手遅れになってしまったことに嘆いた。

 

 

『ゆ、優子……か……?』

 

 

 その時、私の耳に聞き覚えのある掠れた声が近くから届いた。いつも聞いているその声に気づいた私は、すぐさまその近くへと駆け寄った。

 

 

『白哉、さん……ごめん、なさい……私があの時……』

 

『……いや、俺もしっかりしていれば、こんな事にはならなかったと思う……いや、そもそもこうなるとは、思っていなかった……と言った方が、正しいかもな……』

 

 

 私だけのせいじゃないとフォローの言葉を掛ける白哉さんの声は、やはりと言っていいのか掠れていた。傷も新しくて深く、出血量も激しい。

 

 彼に少し近いくらいの傷を負っている私では、彼が死なない程度に回復をすることができる程の体力も魔力もない。このままでは白哉さんは……この後どうなるのかが想像できないわけではないが、本当はそうなることを信じたくなかった。私はまた自責の念に押されそうになった。

 

 

『優子……この手を、握って、くれるか……?』

 

 

 そう言って白哉さんは、今にも力尽きそうなその震えた右手をこちらに差し出してきた。私はその手を反射的に優しく握った。それと同時に涙もまた流れてきた。もう彼の温もりを感じられないと悟ったからなのだろう。

 

 その手を両手で優しく包み込ませ、額に当てる。そして私は心の中で白哉さんに伝えた。間に合わなくてごめんなさい、役立たずまぞくでごめんなさい、と。

 

 

 

 途端、心も身体も温まっていくのを感じた。傷も自然と消えていき、魔力も高まっていっている高まりも実感した。そして気がついた時には……現在に至る魔王の衣装となった自分がいた。

 

 

 

『こ、これは……?』

 

『お前に、これを渡したくて……みんな、最後の力を、振り絞ったんだぜ……』

 

 

 自分の突然の大きな変わり様に戸惑っている中、白哉さんは死に絶えそうなのを耐えながらも微笑みを浮かべる。私に少しでも負の念を捨ててほしいと言い聞かせるように、優しい笑みで。

 

 

『俺達が……特に俺が、死んでしまったら……優子が絶対、悲しむだろうな……と思って、みんな、死ぬ前に……残った魔力を、俺達の、命と一緒に、統合させて、お前に渡そうって決めたんだよ……』

 

 

 桃もミカンさんも、私が生きていることを信じて、死ぬ前に自分達の集めた残った魔力を集め、それを混ぜて強力な魔力の量を増やし、質も上げたらしい。

 

 みんな、私のために自分達の消えそうな命を、全て魔力として私に託した。そう捉えたら、不思議と悲しみは無くなった気がした。それどころか温もりを感じるようになった。みんなの魂が、私の心の中で居続けている気がしたから。

 

 

『白哉さん……みなさん……こんな私のために、命共々私に託してくれたんですね』

 

『こんな私、なんて言うな……みんなお前に、助けられた恩があるし、お前も充分、強くなったんだ……だから、ここまで強くなるのも、問題ないはずだぜ……』

 

 

 未だに涙で歪んだ視界の中で、白哉さんの瞳が潤んでいるのが見えた。どうやら彼も泣きそうになっているようだ。このまま死んでしまうことが、私に会えなくなるのが辛くなったのかもしれない。

 

 でも、彼まで泣きそうになるのも無理もない。命全部も私に渡したというのだから、きっと今の私の力を使っても生き延びれないと思うから。いや、そんな事を聞かれなくてもそうなるとは思っていたけど……ここまでまだ喋れる程の余力があるのも、奇跡としか思えない。

 

 

『優子……俺達は、いつでも、お前の中にいる……そこから全力で、お前を支えてみせる……だから、頼む……この町を、俺達の多摩町を、守ってくれ……』

 

 

 白哉さんに、みんなに、私自身も望んでいた『平和』を託された。途端、歪んだ視界が目から何かが流れたのと同時に戻った気がした。白哉さんも涙を流しているのが見える。お互い永遠の別れを惜しんで耐えられなくなったのかもしれない。

 

 でも、私が今その感情を声に出すわけにはいかない。白哉さんだって辛そうにしているのだから。口を必死に細めて、弱音を言いそうなのを耐えているのだから。

 

 だからこそ、もう一つの本音をぶつけることにした。立派なまぞくなる。みんなが暮らせる町を作る。それが、私の夢なのだから。

 

 

『まっかせてください‼︎ 私、みんなの想いも持ってこの町を守っていきますから……ッ‼︎』

 

『……‼︎ ………………ありがとう……』

 

 

 私が悲しんでいるような顔をしなかったことが意外だったのか、白哉さんは一瞬目を見開いたが、何処か安堵してくれたのか小さな笑みを見せてくれた。

 

 彼の手の力が完全に抜けたのと引き換えに……

 

 

 

 

 

そして現在に至った

 

『───そこからは、これまでのよりも結構記憶が曖昧でしたよ。気がついたら白哉さん達を殺した……じゃなかった、倒した得体の知れない何かをボッコボコにしちゃってましたから』

 

 

 そう語る魔王の優子が見せた笑顔は、何処か無理強いしているかのような感じがした。みんなは死んでも心の中にいると言っていたが、それでも本人がいないという事実が頭から抜けてないからなのだろうな。

 

 

『その後は生きていたウガルルさん・店長・紅さん・ミトさんと一緒に町を復興したり守ったり、行く宛てがないというまぞくや魔法少女を受け入れたりとして、気がつけば数百年も生きてきました。まぞくってかなり長生きなんですかね? アハハ……』

 

 

 それでも本心ながらも無理強いもしているという、複雑な作り笑いは続ける魔王の優子。ただ自分でその悲しみに気づかないだけというのもあるだろうが、その笑顔を見ているとこちらも辛くなる。その時の俺が逆の立場だったとしても、耐えられそうにないかもしれないから。

 

 

『まぁでも、白哉さん達のおかげで私はこうして激強魔王まぞくとして生きながらえましたし? 改めて自分の目標を見つけることもできましたから‼︎ もう寂しくなんか───』

 

「優子、もういい。もう、充分だ」

 

『……へっ?』

 

 

 気がつけば俺は、魔王の優子を強く抱きしめていた。

 

 自分でもこんな事をするのは不思議に思ってた。魔王の優子も突然の事だから顔を真っ赤にして硬直している様子だ。相手は優子本人であって、俺達の世界の優子じゃないのに。

 

 それでも、彼女をそのままにすることはできなかった。この日までの何処かで、彼女が完全に彼女では無くなった瞬間があったはず。それを少しでも癒さないと、彼女はまた壊れてしまうかもしれない。

 

 彼女にとってはもう、数百年も前に起きた出来事で済まされた事とはいえ、大切な親友が……友達が……仲間が……幼馴染が……目の前で命を散らしていたのを、そしてその幼馴染が死ぬ瞬間を見て、心底穏やかではなかったはずだ。

 

 だからこそ、伝えてやるんだ。今後の彼女のためにも。

 

 

「お前がその『悲しみ』を隠す必要なんてないんだ。それをただ忘れてしまったのか、強くなった代償として欠けてしまったのか、それは分からない……けどな。感情であろうとなかろうと、そうやって無理強いして隠し事をする必要なんてない。そうしない限り本当の強さなんて得られないんだよ」

 

 

 抱きしめる力を少し強め、そっと彼女の頭を撫で……

 

 

「俺は、お前には演技をして『本当の自分』を見捨てないでほしいんだ。きっと、そっちの世界の俺だってそう思っているはず。だから……

 

 

 

 泣け。弱音を吐け。あの時の想いを思いっきり曝け出せ。本当の優しい、シャドウミストレス優子へと戻るんだ」

 

 

 

 彼女の心の枷を、解いた。

 

 

『………………ッ‼︎』

 

 

 魔王の……いや、ただの優しい性格のまぞくの、溜まった感情が漏れ出ていそうな声が上がる。出すまいと決めていたのであろう悲しみの感情が込み上がってきたのだろう。

 

 だが、それでいい。お前は魔王である前に、まぞく・シャドウミストレス優子として先祖返りする前に、一人の人間・吉田優子なのだ。人間らしい一面を出さずして吉田優子にあらず。だから……これまで出さなかった悲しみを、思いっきり吐き出してくれ。

 

 

『ウッ……ウゥゥゥ……ッ。………………ウ、ウワァァァァァァンッ‼︎』

 

 

 一人の少女の、幼なげな泣き声が、俺の胸板に潜ったその顔から聞こえてきた。

 

 

『間に合いたかったッ‼︎ 助けたかったッ‼︎ もっとみんなとお喋りしたかったッ‼︎ もっとみんなと楽しく過ごしたかったッ‼︎ もっと桃と仲良くなりたかったッ‼︎ もっと……白哉さんと……ッ‼︎ ウワァァァァァァンッ‼︎』

 

 

 しばらく収まりそうにない、ただのまぞくとなった少女の喚き声。それを俺は一切止めはせず、寧ろ全て吐き出させるようにと優しく受け止める。

 

 数百年前に封印されていた彼女の弱い部分を、溜まってた想いを、全て吐き出させてやるんだ。それが、別世界の存在である今の俺ができる役目だ。

 

 

 

 

 しばらくして、魔王の優子は泣くに泣いて落ち着いたらしいため、俺は彼女を抱きしめていた腕を緩め、そっと彼女から離れた。顔には涙痕が見えていたが、彼女はそんなことなど気にしないと言っているかのような笑顔をこちらに向ける。今度は無理強いをしていない、晴れた笑顔だった。

 

 

『ありがとうございます、白哉さん。ずっと溜め込んでいた悲しみを、ここで吐き出させてくれて』

 

 

 目尻に残っていた涙を拭い、今度は照れ臭そうな笑顔を見せる魔王の優子。別世界のとはいえ、大好きな幼馴染に抱きつかれたのだからな。恥ずかしくなるのも無理はない。その幼馴染、俺だけど。

 

 

『もう無理して激強魔王まぞくを演じるのをやめます。弱音なところも吐きながらみんなに色々と協力してもらい、さらなる町づくりに貢献していき、白哉さん達の分も一生懸命生きる……そんな初心も持ったまぞくとしてやっていきます‼︎』

 

「……フッ、そっか。そうだ、お前には頼れる奴は他にもいっぱいいるんだ。俺達の代わりではないけど、そいつらに弱音吐いてでも協力を頼み込んでおけ。それでこそお前……吉田優子のあるべき姿なんだかな」

 

『はい‼︎』

 

 

 ここでも無理強いも曇りもない満面の笑み、か……ここまで彼女が清々しくなれたとは、我ながら良さげな対応ができたんじゃないか? 思わず自画自賛してしまったぜ。フフッ……

 

 

『……さてと。そろそろそちらの世界の私や桃が貴方達の事を心配しているでしょうから、そろそろこの結界を解いて私はもう帰らせていただきますね』

 

「………………あっ⁉︎ いっけねッ⁉︎ こっちの優子達の事を忘れてたァッ⁉︎」

 

「いや何そっちの事忘れてんスか⁉︎ ずっと黙ってた俺が怒るのもちょっとアレッスけど、元々俺達は小倉さんを救出しに来たッスから、早く出ないといけないッスよ⁉︎」

 

 

 お前がさっきから黙ってたのは空気読んでいたからだろッ‼︎ 気遣いありがとねッ‼︎ ってかそんな事言ってる場合じゃねェよッ‼︎ 話し合ってたせいで結構時間が経ってるだろうから、早くここから出ないと……

 

 

『あぁ、そこまで焦らなくていいですよ。この空間は時間の流れを結構遅くすることができる作用となっているんです。一つの瞬間を除けばですけど、時間が掛かっていることをそちらの私達が心配することはないと思いますよ』

 

 

 あっ、そうなの? ここって精神と時の部屋みたいな感じなの? 身体が重くなってる感はないけど、夢の世界と似た要領の領域だから結界内はそういうことになってるってか? ちょっとホッとしたぜ。

 

 

「……ちなみに時間の流れが元に戻った瞬間って、どこだ?」

 

『桃が可愛い悲鳴を上げましたよね? それがヒント』

 

「あぁ……」

 

 

 なるほど、せいいきサクラメントキャノンの時のことか。あの全力と全力のぶつかり合いができなかったあの時かー……よく思い出してみたら、あの時の桃の悲鳴が普通に丁度良いスピードで聞き取れたんだよな。ウケる。

 

 あれって魔力を集中させないといけないって感じだったから、結界にある魔力も一時用いちゃって、その時だけ時の流れが普通の方に戻ってしまったってことかな。結構凄まじい魔力が出てたもんなあれは。

 

 

『まぁとにかく。どうせそっちの私達は間違い探しを終えた後、白哉さん達を探そうとすると思いますし、そろそろ元の世界に帰さないとヤバいですね。私がもう一人の私の嫉妬を買ってしまって大変なことになりかねないですから』

 

「まぁ……それもそうだな」

 

 

 相手が魔王の優子とは言え、俺が他の女に絡まれたとなったらこっちの優子がどんな感情を抱くか分からんのよな。修羅場が起こってとんでもないトラブルが起きる前に、早くここから出させてもらわないと。

 

 

『それでは今から、この杖で地面を叩いて結界を解除します。それは一瞬の出来事となるので、場所的には骨折等は絶対しないところまで移動しましたが受け身の態勢を取ってくださいね』

 

 

 えっ、安全な位置で解除しないの? 結界の都合上そこまで移動できないのか? もうちょっと利点を考えてほしいというか……まぁいいや、今は時間との勝負なんだ。さっさとここから出してもらって、本物の小倉さんを見つけてとっとと帰るか。

 

 

『では最後に、私から白哉さんへ一言お伝えします。

 

 

 

 ───どうか、絶対生きてくださいね』

 

 

 

 一瞬にして景色がいつもの多摩町の町並みに変わる寸前のその言葉は、俺の耳に届かなかった……

 

 




ヨシュアさんの中の人が追悼したと知った日に、白哉君達が死んだ世界線もあったんだよという回を出してしまうとか……不謹慎だったかな?
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