偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 作:名無しのモンスター
体育祭お疲れ交流会の後、桃達はどうしてるのやら……
体育祭お疲れ交流会の後、柘榴宅(旧・桃宅)にて。
桃の幼馴染・柘榴は、晩御飯の準備をしながらもある悩みを抱えていた。
「(……桃。僕のいない間に、世界を救うようなことをしていたのか……)」
桃が体育祭委員の子達に魔法少女の事を教えている際、おっちこと落合の口から出た『桃が世界を救った』という言葉。その話を当の本人は話せず、周囲も気を遣ってこれ以上聞くことはなかったのだが、柘榴はその話題が気になって仕方がないようだ。
「(……みんながそういう捉え方をしていただけであって、彼女が実際に、どういうことをしていたのかを明かさなかった。その時の出来事が、彼女にとっては苦い経験だと思ったから、あの時は敢えて聞かなかったのだけど……やっぱり、気になってしまう)」
桃の事を想っての気遣いが、かえって己の不安感を募らせてしまう。あのまま聞かないでおけば、いつしか桃はその秘密事に一人で抱え込んでしまうのではないか。そんな最悪な予想が頭の中に過ぎる。
「(……やっぱり聞くべきだった? 桃の気持ちを考えて、勝手に憶測する程度でいく? それとも……)」
柘榴はさらに悩みだす。料理を作る方はきちんと集中してはいるものの、首鼠両端……どう答えるのが正しかったのだろうかと迷い、どちらか一方に決めかねている様子だ。
今後自分はどのようにして桃と関わっていけば良いのだろうか。仮にその行動をしたとして、それが桃の為の正しい行動となるのだろうか。柘榴の心の曇りが濃くなっていくばかりだ。
『黙って見ていれば、主人らしくないでごわすよ』
「……ラグー?」
柘榴の手伝いをしていたラグーが、切った食材を鍋に入れながら徐に話しかける。
『主人よ、貴殿は桃殿の為と思っての事は躊躇いもなく実行する性分であったでごわすよな? それを遠慮して後々引き摺ろうとは、主人らしくないでごわす』
「……それは……」
これまでに柘榴は桃の事を想っての行動を、人前でも何食わぬ顔で恥ずかし目もなく行ってきた。だが今回ばかりは、桃が話したくないらしい過去に触れることはタブーが強すぎる。それ故に行動に移せないようだ。
そんないつもより弱気な主人である柘榴に、ラグーは告げた。
『コホンッ……【最悪を恐れるな】、でごわすよ』
「‼︎ その言葉は……」
柘榴が目を見開く。彼にとってはよく口にしていた上に聞き馴染みのある、勇気を与えられる言葉。
『貴殿が桜殿に言われてから、大きそうな戦いの時によく発していた台詞でごわすよ。主人はそう言って自分を鼓舞し、やるべき事、達成させたい結果を生み出すことができた。今までだってその言葉を自分に言い聞かせ、納得のいく結果を出してきたじゃないかでごわす』
鍋の中の料理をゆっくりとかき混ぜながら、柘榴にそう言い聞かせるラグー。そして柘榴はこれまでの自分が今までどうしてきたのかを思い返し、それに気付かされていくかのように、曇って瞳に明るさを取り戻していく。
『失敗などを恐れず、良い結果になることだけを考えるでごわすよ。そうして自分のしたいことをしていく、それが礎柘榴という人間だったはずでごわす』
「……‼︎」
自分が本当はどんな人物だったのか、それをラグーの言葉で改めて気付かされた柘榴の表情は、無自覚にも晴れていた。気づけば緩く微笑み、ラグーの頭を優しく撫でていた。
「……ありがとう、ラグー。君がナビゲーターでよかった」
『ほ、褒められてもおいどんは何もできないでごわすよ……』
唐突な優しい愛撫に気恥ずかしくなる様子を見せるラグー。そんなリアクションを見せている彼を見て、柘榴は元気が出たのかフフッと声を出しながらまた笑顔になる。
「……決めたよ。これができたら、タッパーに入る分だけ入れて、すぐに持って行かないとね」
『念のため聞くでごわすが、どちらへ?』
ラグーのその問いかけに対し、柘榴はレードルで掬った汁物の味見を一つしてから答えた。
「……そんなの決まってる。桃のところへだよ。彼女の過去、洗いざらい聞いてくる」
♢
一方、その頃。桃は河川敷でのトレーニングを終えてばんだ荘への帰路を辿っているところである。何故彼女がトレーニングをしていたのか、それには理由がある。
シャミ子にニセ小倉の事を聞いた際に、彼女が目を死ぬほど泳がせながら嘘をついていた。その事が気になっていたものの、向こう側にも話したくない都合などがあるだろうから今後聞こうにも聞けない。
そんなモヤモヤが頭に過り闇堕ちする恐れを感じ、気絶するまでトレーニングすれば雑念も蒸発するだろうという憶測に至ったというわけらしい。
トレーニングしていく内に、蛟に課せられたノルマを終えてばんだ荘に帰ろうとしているリリスと遭遇。『己のゴミセンサーが桃の心の中の巨大な粗大ゴミに反応した』と語り、付き纏うようになっている。
※ちなみに桃がトレーニングに使っていた特大ダンベルはレンタル倉庫にしまわれました。
「なんだなんだ、顔色悪いな。余が話を聞いてやってもいいぞ〜」
「いや……ホントいいです……」
無論、桃はしつこく付き纏うリリスを煩わしく感じている。リリスの日頃の行いがそう思われている要因となっているという理由もあるが。
「桃君!!」「ち、千代田さん……!!」
「ん?」
ふと、荒々しくもはっきりとした声で呼びかける、聞き覚えのある二人の男性の声が。桃が振り向けば、そこにはムスッとした表情をしている拓海と、何故か息を切らしながらもオロオロとしている全蔵の姿が。
「話がある。家へと向かっていった間、ずっと心の隅で引っ掛かっていたんだ。なんで君はそう頑なに過去を隠そうとしているのだろうって……」
「……やっぱり気にしてたんだ」
「なんで君は俺達に隠し事をするんだい? まだ俺達の事が信用できないのか? 少しは友を信じるべきだよ」
拓海は過去を聞きださないと気が済まなくなっている程のご立腹に遭っている様子だ。それを察知した桃は罪悪感に駆られ、思わず彼から目を逸らす。
それでも拓海は彼女を強く睨みつける。未だに信用されていないのだろうか、そんな不満を募らせるかのように。
「あ、あの……仙寿くん? いくら気になるからって圧を掛けるのはどうかと思うッスよ……? あ、俺は買いたい雑誌を買うためにコンビニに来てたら、偶然にも仙寿くんに遭遇して、服が引っ掛かる形で連行されたッス……」
善人なりの怒りに満ちている柘榴を宥めながら、何故自分がこの場にいるのかを説明する全蔵。しかし、そんな彼も何処となく桃を警戒しているかのような眼差しを向けており、彼も何かしらの不満があることが窺える。
「まぁでも、俺達に隠し事をしていたのは確かに気掛かりッスね。ぶっちゃけ遠慮してないで教えてほしいッス。小倉さん救出に同行させてくれた我儘のお礼として、手伝えることがあればやってやりたいッスし」
「桃君、これ以上俺やみんなを困らせないでくれ。悩みとかは溜めずに誰かに打ち明けるものだよ。だから……」
言葉では桃に寄り添おうという意思が見られるものの、表情では『何故自分達を頼らないのだ』という不満を抱いているのが明らかとなっている。
だがそれは前者の思いが含まれているのと同じであり、同時に『お前は一人じゃない』という思いを伝えたかったのだという捉え方もできるようだ。
「いや、あの……今その眼差し向けるのやめてくれぬか? 今だと余の事も睨んでることになるから……」
が、それによるとばっちりをリリスは受ける羽目になるが。哀れ。
「い、いや……別に大したことじゃ───」
「桃〜〜〜っ‼︎ やっぱりさっきの話気になるんですけどーーー⁉︎」
「何⁉︎」
それでも隠し通そうとした桃に……というか巻き込まれる形で四人とも、突如駆け寄って来たミカンに、バケツに入った大量の業務用ミカン汁(肌と自然にすごくいいヤツ)をぶちまけられる。何故に。
そしてさらに追い討ちでウガルルにレモン汁をかけられる。かわいい。
ちなみに全蔵は顔面モロに大量のミカン汁を浴びて気絶した。理不尽な目に遭って可哀想。
「私達親友でしょ⁉︎ 何遠慮してるのよ‼︎ 悩みとかある⁉︎ 貴方の悩みなんて全部認知してあげるわよ‼︎」
ミカンも桃の過去の事が気になっていたようだが、先程までは面倒くさい子だと思われたくないがために身を引いてしまったらしい。だがそれをウガルルが後押ししたことで、今の行動に至ったのだ。
「そこはありがとうなんだけど、まずなんで濡らしたの?」
それはもう、ごもっともである。
「な……なんの騒ぎですか⁉︎ 喧嘩⁉︎」
「シャミ子」
ミカンの声があまりにも響いたからなのか、偶々近くにいたシャミ子がこちらの方へと寄って来た。
ここで周囲はとある違和感に気づく。シャミ子はこんな時間──夜中に散歩をするまぞく──人間だったのだろうか、と。それに真っ先に気づくはずの桃以外、だが。
「あれ? 頭にゴミついてますよ。ちょっと下向いてください」
「え? うん」
頭のゴミを取る、と言いながら桃の頭の上に葉っぱを乗せてくるシャミ子。果たして彼女は矛盾するような悪戯をする性分だったのだろうか。もしや偽者……? 周囲はあまりにも彼女を警戒する意思を見せる。シャミ子の事をよく見ていた桃以外、だが。
「隙ありゃ‼︎」
「⁉︎」
気がつけば葉っぱが爆煙のようなものを巻き起こすかのように爆散し、桃を覆い尽くす。それと同時にシャミ子の姿も大きく変化する。
煙が収まった時には、桃の頭部が狐耳のような形状になった……というよりも寧ろ狐耳そのものが生えていた。
「はまった〜♪ 桃はんらしくないの」
「リコ君何をしているんだね⁉︎」
そしてシャミ子が立っていた位置には何故かリコの姿が。どうやら彼女がシャミ子に化けていたようだ。白澤が彼女の方へ向かって行ったのが、彼女がリコ本人であることの証拠ととなった。もちろん彼はこの後即座に桃に思いっきり土下座する羽目になった。
「なんか表で喧嘩してはるな〜思て」
「喧嘩じゃないです」
「俺と全蔵との場合は喧嘩っぽかったけど……」
「そうは思ってないから。言わなくていいから」
桃にも至らぬ点があったものの、拓海は一歩間違えれば争い事に発展しそうな態度を取っていたことに罪悪感を持っていたようだ。それがかえって桃が彼を気遣う羽目になったのだが。
「そいえばこの前、ウチの喧嘩止めてくれはったやん。お礼せな思て〜」
解釈すれば、空気が悪くなりそうな予兆を少しでも消すための、彼女なりの処置を行ったのだろう。自分も白澤が封印された時に荒れてしまった時の措置をしてくれた恩返しとして。隙ありな桃の獣耳の姿が見たい、という理由もあるようだが。
「貸し借りチャラになったことやし、耳も生えとるし、仲間やな〜♪」
と言ってはいるが、実を言えばリコにはまだ桃との貸し借りというものが未だに残っている。
桃がシャミ子の誕生日プレゼントを探していた時、彼女が喜びそうなものを教える等価交換として、リコが七千八百円もするまな板を買ってほしいとせがみ、買わせた。これは紛う事無きチャラになってない分の貸し借りである。
ちなみにリコ本人はその事を忘れてしまった模様。しかも朱紅玉への謝罪として、そのまな板は中華鍋の返却と同時に渡してしまったのだ。この一連に悪意はない。決して。
『キキーッ?』
『キキッキーッ?』
「ん?」
今度は鳴き声で上空から呼びかける者の声が。スカーレット兄妹のブラムに仕える使い魔である蝙蝠が二匹である。こちらを心配しているかのような表情を見せながらそれが表されているかのような声を出しており、何か言いたげなのが窺える。
「君達は……確か、ブラムさんとこの?」
『キキッ、キキッ』
「え? 何? どうしたの? もしかして、下を見てって言ってるのかな………………えっ?」
ふと桃が自分の恰好に視線を向ければ……今の自分が、胸元にピンク色の薔薇の装飾が付いているゴスロリ衣装となっていた。ふと頭部に手を伸ばせばゴスロリ特融のカチューシャが付いていた。
桃の服装が一瞬にして変わったのは、ブラムの使い魔の蝙蝠達の特技である。連携して自分達の好きな事を一瞬でやり遂げる、複数の仲間がいるからこそできる所業である。それを納涼祭にて白哉の服装を浴衣に変えるためにも行ったのだ。
これには桃も思わず戸惑う。自分の服装が気付かぬうちに突然変わってしまったのだから無理もない。
「桃よ、今更自分の変化に気付いたのか? さすがにそこまで鈍くなっているのは君らしくないのではないか?」
「兄さんも使い魔さん達に指示出す形でとはいえ、許可なく人の服を変えないで?」
「悪かったと思ってはいるが、桃なら服を変えられようとしていることに気づくだろうともな」
ここで誰もが来るだろうと予想したのか、スカーレット兄妹がこちらへと駆け寄ってきた。しかも二人の会話からして、使い魔達が自分達の勝手に桃の服装を変えたのではなく、主人であるブラムに指示されたから行っただけであることが窺える。
桃は二人を真っ赤な顔で睨みつける。先程リコに無許可で狐耳を生やされただけでも不服だというのに、今度はブラムの使い魔達に無許可でゴスロリ衣装に変えられてしまったことに不満であることを表情から見せていく。
「何の真似ですかこれは……」
「いやなに、とある人物に貴殿を傷つけないように何かしら関わってほしいと言われてな。それと暗そうな顔を砕こうという思いもあったのだ」
「だからって無許可かつ不意を突くようなことを……」
「とある人物……?」
どうやらブラムが使い魔を通してこのような事を仕掛けたのは、彼が最初から望んでやろうとしていたわけではなく、彼自身も誰かからの指示を受けてのことだったらしい。やり方がやり方なのはアレだったが。
だがその指示をした者が果たして誰なのだろうか。桃は不審に感じたのか表情を歪めていると……
「……足速いよ、二人とも」
「⁉︎ ざ、柘榴……⁉︎」
この意地悪の主犯者なのかもしれない人物、来たる。スカーレット兄妹と同行したのか、はたまた後をついて行っていたのか、桃の幼馴染・柘榴が少し息を切らしながらこちらへと走って来たのだ。
「……どう? 桃はどんな反応をした?」
「服を変えられたことに遅く気づいて戸惑っていたぞ。それと我々が来た時には睨みつけてきた」
「……アレ? ダメだった?」
「ダメだったかどうかはともかく、やり方がアレだったからそりゃあ睨まれますよ……何もしてない私もとばっちりに……」
やはり主犯者は柘榴だった。どうやら彼がブラムに『桃を傷つけないように何かしらのアクションを起こせ』と指示したのだろう。それに気づいた桃は一瞬目を丸めるも、すぐに柘榴にも睨みを効かせる。
「柘榴……なんで二人にこんなことさせたのさ」
「いや私はやるつもりなかったからね⁉︎ 止めようとしたからね⁉︎ 共犯扱いにするのホントやめてね⁉︎」
「……こうでもしないと、桃はしばらく張り詰めた思いをするだろうと思ってね」
桃が奈々もブラムとの共犯者になっていると思い込み、それを本人に指摘される。その指摘を無視するように口を開いた柘榴は、桃の事を想っているかのような返答をし、微笑んだ。だからといって意地悪を他人にさせた事実は変わらないが。
「指示されたのは事実だが、指示されぬとも我々は何かしらと貴殿に接していたと思うぞ?」
「なんでですか?」
「いや、私はされようとされなかろうと、ちょっかいをかけにはいかないよ?」
やはりブラムは意地悪魔族だろうかという彼の言葉に思わず反応する桃。彼女の誤解を招かせないとする奈々の弁解を無視しながら、ブラムは言葉を続ける。
「行動を起こす前にも、貴殿は何やら浮かない顔をしていたのでな。あのような表情を見せる者に対し、見て見ぬふりをして何かしらのマイナスな感情を持たせるのは後味が悪い。ならばせめて何かしら接して言って少しでもその心が晴れれば……と我は思っている。それが関わった者の何かが変わるのならば……な」
「でもあのやり方はどうかと思うからね?」
「………………」
行動はともかく、彼にも彼なりの思いやりがあった。その事実を知ったからか、桃の表情は周囲から見てもどことなく曇りが薄まっているように見えた。
「……フフッ」
ふと、柘榴の微笑んでいることが分かる笑声が聞こえてきた。
「……よかった。僕らが何かしら行動を起こす前に、もうみんなから慰められようとしてる」
「………………いや、半分はそうしてくれてるとは思えないんだけどね」
そう呟く桃の表情は微笑んではいるものの、目は笑ってはいない。何故かミカンにミカン汁をぶっかけられ、リコに狐耳を生やさせられたのだ。不服になってしまうのも無理もない。
そんな桃の不満を取り除こうとしているのか、拓海は彼女の頭を撫で始めた。
「ミュルウェッ⁉︎ ちょっ、ちょっと柘榴……⁉︎」
【(みゅるうぇっ……?)】
桃が柘榴に不意を突かれ、その度に恥じらうことは多々ある。それに一切慣れることが出来ず、思わず今のように人前で聞かれたくない言葉も出してしまうらしい。
そんな様子の彼女など気にせず、柘榴は口を開いた。
「……大丈夫だよ、桃。みんな強いからさ」
「えっ……?」
「……あっ、強いと言っても、力の事とかじゃなくて、心の方だよ」
そう言いながら何故かリリスの方を見つめる柘榴。見つめられた本人に『何故余を見ながら言うのだ』と不服そうに睨みつけられるも、そんな事は気にしないと思っているかのように言葉を続ける。
「……君が隠し事をしているのは、君自身が言いたくないからだけじゃない。それを言って、誰かに辛い思いや、悲しい思いをしてほしくないからだと思う……違う?」
「そ、それは……まぁ、そうかも……」
図星を突かれて苦い表情を浮かべる桃。自身の過去を明かせば、他者がどのような感情を抱くのか分からない。少なくとも悪影響を及ぼすだろう……そういった最悪な事態を恐れ、桃は誰にも隠し事を明かさなかった。
「……でもね。こうしてみんな、君の心境に寄り添おうとしている。重荷に減らしてあげようと、自分達なりの考えで動いてくれている。そんな人達の思いやりを、遠慮するように無下にする方が、君にとっては、一番の不服じゃない?」
「う、うん……それは、そう……」
「……全員を信じろとか、無理を言うつもりはない。けど、桃には僕の他にも、信じられる人がたくさんいる。そういった人達は大抵心が強いと思う。だから……恐れなんて考えないで、その人達を信じてあげようよ?」
「………………‼︎」
ここで桃が何かに気付かされたのか、思わず目を見開いた。
自分には信用できる人達が……友人がいる。シャミ子も、ミカンも、白哉も……半年の間だけでも、固い縁を結んだ人達がたくさんいる。
そして……その内の何人かは、自分と一緒に衝撃的な現場にいても精神的な傷害を受けずに済んでいる。
みんな信じられる人達だというのに、何故自分は彼等の心の強さを信用してこなかったのだろう。恐れる必要などなかったのではないか。柘榴の言葉により、桃は大事なことを気付かされたのだ。
「そう、だね……その……あ、ありがとう……」
「……ううん。それを言うのはまだ後だし、僕だけに言うものじゃないよ」
「うん……」
照れ臭そうに柘榴にお礼の言葉を言う桃の顔は、どことなく明るさを取り戻していた。
柘榴に大切な事を気付かされた……というのも一つの理由であるが、大切な人達が自分に寄り添おうとしてくれている……その事実を知ったことへの喜びを知ったからなのだろう。
今の彼女には……魔法少女・千代田桃には、過去を縛るための鎖は必要ない。それを実感し始め、無自覚にも明るみのある笑顔を出すことができたのだ。
「……で、なんでびしょ濡れなの? 後なんか、もぎたてフレッシュな果実の、とてもいい香りがするけど」
「私が聞きたいよ……」
「てへっ☆」
「陽夏木さんコラ」
別の意味でまた表情が曇ってしまったが。
「(っていうか、なんで機嫌悪かったんだっけ……)」
柘榴から受け取ったタオルで自分の身体を拭きながら、桃は先程の自分の心境の原因について考え込む。
「(そうだ、シャミ子が何か隠してそうだったからだ。でも、そんなしょうもないことで機嫌が悪くなるなんて……変なの)」
他人に隠し事をされるのは些細な事。自身も隠し事をしておりお互い様なため、本来なら深く考える必要はないものである。なのに何故複雑な感情が強まっていたのだろうか……桃は深く思い返していく。
ふと、自身の過去が脳裏に再生された。中学時代に杏里に部活を誘われ、『部活には興味ない』と断りを入れた時の記憶だ。
桃はこれまでに他人の営みに興味を示すようなことはしてなかった。寧ろ示す気もなかったらしい。姉・桜や柘榴といった身近な人物ばかりと一緒にいた弊害が、その原因の一つだろうか。
彼女は多摩町に帰って来てから桜の行方を探ってきたものの、その時には何故か知り合いが誰一人として町で見かけなくなってしまっていた。
自分なりに桜の行方を幾度となく調査してきたものの、思い出したくない記憶の数々が相まっており、中学生になってからは投げ遣りな日々を過ごしていくようになっていった。
しかし、そんな彼女の棄却として退屈な日常は徐々に変化していった。シャミ子や白哉と出会ってから、少しずつ。少しずつ。
「(沢山の人が周りに集まってきた。ごはんの味がするようになった。町に色がついてきた)」
桜や柘榴と過ごしても足りていなかった、幸福を感じ得ていく時間。それが、あの時の出会いから徐々に実感していき、桃はいつしかこの町で過ごす『今日と明日』を楽しみにしていけるようになっていったのだ。
「(だから───)」
リリスの『広がりすぎだからおに角に近寄れ』という指示で、一箇所に集まったみんなのところへと向かいながら……桃は誓った。
「(やっぱり私は、この町の全てを喪いたくない)」
姉がこれまでに守ってきたからじゃない、みんなとこの町が好きだからこそ、何もかもを大切にしたい。守っていきたい。そう誓った桃はみんなの前に立ち、ある覚悟を決めた眼差しで口を開く。
「……あのさみんな今からうちに来れる? 話したい事……相談したいことがあるんだ」
「……フフッ」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、桃の決意が表されているその言葉を聞いた柘榴は、決意を示している彼女を見て静かに微笑んだ。
♢
数分後……現在に至る。
白哉とシャミ子が遅れて桃の過去について聞き出そうと来たところで、桃は早速話題に入ることにした。
皆が皆、桃がこれまでに隠してきた辛かっただろう過去を明かすのだという、その実感が若干湧いていないからか、緊張じみた表情で桃を見つめる。ちなみにウガルルはメタ子と戯れてます。
「そんなわけでみんながワラワラ集まってくれたので、今から私の昔の話をしたい」
「誰がユスリカだコラ。光に注目して群がる羽虫じゃねェんだぞ」
「言ってない……って、あの虫ってそんな名前だったの?」
「ネットで知った。他にも光に集まる虫はいるけど、大抵はいつもの奴であるユスリカが───」
「あの、まずは本題の方に……」
「あ、悪い……」
早くも話が脱線しそうになった。白哉が桃の言葉の例えを虫の名前にしたため、それに対して桃が疑問に感じたから、だが。シャミ子が呼び止めをしなければ、ユスリカという虫に対する話が長く行われていたことだろう。
閑話休題。
思わず自分から率先しようとしたことをやらずに済みそうになったのを堪え、自身の頬を叩き喝を入れる。頬を若干ヒリヒリとさせながら一つ深呼吸をし、本題に戻ることに。
「フゥ……ごめん、話を戻すね。姉の昔からの知り合いに、この町をずっと狙っているヤバめの魔法少女がいる。私は過去にその魔法少女にボコされて負傷した」
「(なるほど……腹に出来た傷はそれによるものなのか)」
桃の話を聞き、白哉は一人でに納得する。桃がダークネスピーチになった時によく見かける、左腹に傷が出来た原因についてを。
お疲れ交流会の帰り道にて、会話の中で柘榴から聞いた話を独自解釈で広げるとこうだ。
魔法少女の身体に傷が残るのは、一度身体が千切れるのと似たような現象を受け、魔法などで身体の再生をした時のみ。だがそのような状況に遭ってしまうには、それほどの膨大な魔力で出来た何かを、かなりの殺意を持った者から受けないといけないはず。
だからこそ、白哉は納得したのだ。身体にも脳裏にも深い傷を植え付けられた記憶を、他人と共有させて不快にしたくなかったのだろう……と。
「なんとか町の外に追い出せたけど、また来る可能性がある。外見や能力の情報は私の頭にしか残ってない」
「口や手書きで説明しろと言われても、実際の記憶とは異なって上手く伝えられないかもしれない……ってことか」
「そういうことになるね」
人が体験した過去の記憶というのは曖昧になる可能性があるものだ。記憶力の低下やその記憶に対する捉え方などで、またはその時の記憶を必死に忘れようとして、記憶の欠陥が起きる場合もある。
それらを考慮するとなれば、記憶力だけでは伝えるべきことが曖昧になる場合がある。だからこそ、見ただけの記憶だけでは信頼性に欠けてしまうのだ。
「でも大丈夫、そんな時こそ彼女がいるんだから」
「ん? ………………あぁ、ね」
「えっ? な、なんで二人して……というかみんなで私の方を見てくるんですか……?」
突然桃と白哉に、釣られるかのように視線を向けてくる一同に、シャミ子は思わず困惑する。一斉に視線を向けられるのが慣れてないからなのか、照れによって頬を赤らめながら。
そんな彼女の心境に敢えて目をくれずに、桃は彼女に懇願するように口を開いた。
「シャミ子に私の過去の記憶に入ってもらって、その
「え……」
「いつものペア行動だな、任せろ。頑張ろうぜ、優子」
「いやちょ……えええ⁉︎」
魔族、宿敵の過去の夢の中へとダイブする権利を得る。まさかのまたとないチャンスである。
次回は桜失踪後の桃の記憶が舞台となります。デュエル・スタンバイ‼︎(なんでや)