偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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同じきらら作品の『がっ○うぐら○!』程ではないけど、怖すぎるよこの回……ってことで初投稿です(ちなみにそのアニメ全く観てない)

桃の記憶の物語、後半戦です。白哉はこの記憶から何を見る───
 


牙を向く敵。那由多誰何の真相。……やっちまいなよ、あんな歪んだ平和思想なんか

 

 桃の小さい頃の記憶を数日分覗いてみたが、どうにも怪しいと思えてしまう。いや、怪しまないといけない気がしていた。あの人は……誰何さんは良い人そうだから、絶対怪しいって断言するのもどうかとは思うが……

 

 誰何さんは子桃からまぞく名簿を受け取って以来、夜になると毎晩のように出掛けている。どうやらこの多摩町に古くから住むまぞくの居場所を改めて作ろうと、日々引き継ぎをしているようだが……

 

 何か変だ。引き継ぎ作業は内容次第なら遅い時間から始めなくてもいいはずだ。夜にそんな事をし続けたらいつか周囲から怪しまれるはず……

 

 しかもその引き継ぎの仕方を頑なに桃に教えようとしない。それどころか。

 

 

「……あのっ、私も姉の弟子です。やれることがあるなら手伝いたい」

 

「あぁ〜大丈夫‼︎ 時々危ないことあるからっ‼︎ 桃ちゃんが痛い思いしたらかわいそうだよ」

 

「危ない?」

 

 

 桃が手伝いたいというと誰何さんはそれを薦めようとしない。しかも交渉とかの話し合いで済まされるはずの引き継ぎの事を『危ない』という認識でいるらしく、どうしても桃と同担させたくないようだ。

 

 ……いや違うかもな。『認識でいる』じゃなくて『認識にさせよう』としている感じがする。引き継ぎというのがどんなものなのか教えず、一人でそれを行っている……やっぱり明らかに怪しい。

 

 この後『桃が一人で待たせて寂しい思いをさせてよくない』と思い込んだ誰何さんは、ウリエルに彼女と遊んであげるようにと指示した。いや投げないでもらえます? 貴方のナビゲーターでしょうが。

 

 俺と同じく誰何さんに対する疑心感と不安を感じながらも、桃は大人しくウリエルと共に千代田邸に待機することになった。

 

 で、今は動物の絵が描かれてあるかるたで遊んでいる。……なんで『え』はエビフライの絵が? そして『ん』の動物の絵は何? 四・五種類程の動物が合体してる化け物か何かか?怖っ……

 

 

「ウリエルさん……手のやつ外した方が遊びやすくないですか?」

 

 

 俺もそう思う。ほぼ全部の札取られてるじゃねェか。

 

 

『イエスマム‼︎ 自分も外したい気持ちはあるのですがッギャアアアアアア諸事情でイエスマムとハイしか言えないのです!! 質問しないで!!!

 

「い……いえすまむ」

 

「……Yes mom」

 

 

 話してる途中に発生しためちゃ強な電流を受けているウリエルがあまりにもヤバすぎて怖かったため、俺もウリエルの身を案じるようにイエスマムをオウム返ししてしまった。一体何をやらかしたらそんな事になるんだよ……

 

 

「もしかしてなんですけど……誰何さんに、何か……されてます?」

 

『イエスマム……』

 

「……もしかしてなんですけど、助けてほしかったりとか……」

 

『イエスマム‼︎ イエスマァァァム‼︎』

 

 

 えらい必死な返事だな……

 

 今の反応からするに、本当にウリエルが何かやらかして誰何さんを怒らせたから、今みたいにお仕置きする形でこんな事になったってわけじゃなさそうだな。誰何さんがただのドSってわけでもないような気がする……

 

 ここで桃が自分に何かできることはないかと問いかけると、ウリエルは七枚のかるたの札を取り出し、それを桃に並べて見せる。ってかさっき見た『え』と『ん』の札まで使ってるんだけど。特に『ん』に目がいってしまう……

 

 ってか、これって繋げてキーワードを作る感じか? しかしどうやって並べるといいんだ? うーん……思い当たる言葉はこれか? 『こ・う・え・ん』、『さ・く・ら』。……こんな感じか?

 

 

「桜公園に行くといい……?」

 

 

 予想、当たったわ。ウリエルが伝えたい事、子桃にも伝わってたわ。

 

 

「誰何さんにはバレない方が?イエスマムっイエスマム‼︎ イエスマァァァム‼︎ イエスマァわかった、わかりました……」

 

 

 助けを懇願する主張が激しいなオイ……そこまで荒れる程の事になるなんて、誰何さんは一体何をしたというんだ……?

 

 ウリエルの反応からよく考えてみれば、誰何さんに対する謎が多すぎる。

 

 あの真っ直ぐすぎる瞳に、町から消えた桜さんに対して淡々とした態度、黒ずくめな服……も謎か。時々呟く『かわいそう』、空中からパラパラと取り出される複数枚ものまぞく討伐カード、そして先程助けを懇願しているウリエルの扱い……

 

 ダメだ、不明な点が多すぎる。これじゃあ彼女は本当に桜さんの理想に沿った平和を望んでいるのかも、本当は正直な言葉の裏では良からぬ事を企んでいるのかも、真相が掴めないから皆目検討がつかない。

 

 彼女は何を思いながらこの町のまぞく達を守ろうとしているんだ? それとも本当は……?

 

 

 

 

 

 

 誰何さんに対する不穏を抱えながらも、ウリエルが伝えたメッセージ通り桜公園へ向かう桃の後を追う俺達。彼女と桜さんの思い出の場所である桜のあるあそこに、一体何があるというんだ?

 

 

「ハァ……ハァ……前にも登りましたけど、相変わらずちょっとした急斜面で長いですね、この階段……」

 

「優子……苦しいならおんぶしてやるぞ? いくら俺や桃に鍛えてもらったからとはいえキツそうじゃないか」

 

「………………じゃあ、お姫様抱っこで、お願いします……フヘヘッ♡」

 

 

 ……やっぱりもうちょっと後で我儘を聞いてやるとするかな。俺にお姫様抱っこされることを想像したせいか、息切れしている回数が減って、スピードも速くなってるし……

 

 とはいっても、疲労によって身体がフラフラな感じになってることに変わりはないみたいだから、結局その場で優子のお願い通りお姫様抱っこをする事になった。その時の優子は興奮したのか息を荒げていたが。

 

 とりあえずこのまま桃を追いかけることに。桃の方の意識は子桃のままのようだな。ウリエルに来てと言われた場所へと向かおうと必死になっているから、今の俺達の事を煽る余裕はないようだな。

 

 ってこの階段坂をお姫様抱っこしながら登るのキツ……ッ。

 

 しばらく走って向かって行ったら、広場の中央にある桜の大樹に到着した。その大樹の下にぺたんっと可愛く座っているのは……

 

 

時は来た

 

「メタ子……‼︎」

 

 

 桃のナビゲーター・メタ子本人だった。夢の中に入ったばかりの時に出会った、分身の方のムキムキマッチョなメタ子の方ではない……いや、それは当たり前か。

 

 

この木の周りはこの町で一番結界が強い場所。あの魔法少女は近寄れぬ

 

「無事だったんだね、よかった……‼︎ どうしてこんなところに?」

 

ウリエルとは旧知の仲。我々ナビゲーターは天の記憶を介し、薄く情報を分かち合っている

 

 

 ナビゲーター同士で僅かな記憶の共有ができるってことか? えっ何それ? 自分達が経験してきた事を共有できるのはいいことで、なんか携帯無しで伝えたい事を説明無しで伝えられるのは羨ましいな……僅かってのはちょっと惜しいけどな。

 

 と。そんな事を考えていたら、メタ子はすくっと立ち上がっては大樹の根本の近く辺りを掘るように手招く。

 

 

急げ、時が来る前に。ここ掘れにゃんにゃんである

 

 

 ここ掘れワンワンみたいに言わなくても……そこをここ掘れすれば、花咲かじいさんみたいにたくさんの本物の小判が入っている箱が出てくるとでもいうのか? ぶっちゃけ魔法関連の奴の事だし、まぞくも当たり前のようにいるこの町のことだから、本当に出て来そうで気になる。

 

 俺がそんな事を考えている中、桃は戸惑いながらもメタ子の指示通りその位置を、ハートフルピーチモーフィングステッキを使っての何かしらの魔法で掘り起こすことにしているようだ。それを隣で見守るメタ子は続けて語るり出した。

 

 

那由多誰何はどこにでもいる賢く、優しい子であった。まこと、光の一族の愛する子らを導き助けるに相応しい巫女であった。だが……神話の時代から時は過ぎ、徐々に、徐々に……我々と誰何の関係は歪なものになっていった

 

 

 関係が歪に……? 彼女のことが怪しいとは思ってたけど、最初は別にそういう感じじゃなかったってことか? それが時が流れていく内に彼女の身に何かが起こり、そのせいで光の一族らしくなくなって、メタ子やウリエル達ナビ―ゲーターとの関係もおかしくなったってことなのだろうか?

 

 

「これは……!!」

 

 

 うおっまぶしっ。掘り起こされたものから光ってるのか? これは……壺?

 

 

それはこの町の結界の礎となる(まな)の壺。今は桜が託したへそくりが入っている

 

 

 へそくり? これが? なんで桜さんはそんなものをデカい壺に入れて、この大樹のところに埋めたんだ? 何か問題が起きた時のためにか? ……いや、中に金があるかどうかは中身を見てから決めるべきだな。まだ見てないんだし。

 

 これは……桜の模様が描かれたカードか? それを札束のように重ねてるのがたくさんある。他にも銀貨や宝石がたくさん詰められて……アレ? カード? 銀貨や宝石? どっかでそんな話を聞いたようなないような……

 

 

それは、千代田桜がある大まぞくを封印した時の物

 

「ッ‼︎」

 

「ひゃあっ⁉︎ ちょ、白哉さん……⁉︎」

 

 

 メタ子の言葉を聞いた途端、俺は気づかぬ内に優子の事を抱きしめていた。自分でも訳わからずに、だ。

 

 

「へっあっ。す、すまん優子。今のは……」

 

「あっ………………心配いりませんよ、白哉さん。前にも言いましたよ、その件に関してはもう大丈夫だって。私は今ので乱心する程弱くないです」

 

「……‼︎」

 

 

 そっ、か……そういうことか。それを優子は察したのか。どうやら俺はさっきのメタ子の発言から、優子がもしもその秘密の意味を知ってしまったら……それを恐れ、彼女が持つかもしれない不安感を少しでも拭おうとしていたんだな。

 

 でも、その必要はなかったようだ。忘れていたよ、優子はそれに押し負けない強い心を持っているということを。恋人の強さを信じてやれてないなんて、俺もまだまだだな。

 

 

「ごめんな優子、お前が大丈夫ならそれでいい」

 

「……はい」

 

 

 これからはもっと優子の事を信頼していかないといけないな。心身共に強くなった彼女を、もっともっと。

 

 おっといけない、記憶の方に集中集中……さっきから俺達の事を察しているかのようにメタ子達も口を止めている気がするし、話を進めてもらわないと。

 

 

桜はある目的で討伐カードを切り、なおその量のカードが余った。時が来た時に使え

 

「お姉ちゃんが、まぞくを封印……⁉︎」

 

 

 この時の桃は結構驚愕しているようだな。『桜さんが誰を封印したのか』ではなく、『桜さんがまぞくを封印した』という事実に対して。まぞくの守護者みたいな人だからな、驚くのも無理はないぜ。

 

 

「お姉ちゃん、まぞくを守りたい人だよ……? そんなことするかなぁ……」

 

!! 時が来た!! 隠せ!!

 

 

 桃を疑問を遮るように、メタ子は壺を元の場所に戻すよう彼女を急かす。結構焦っているようだが、もしかして魔法で近寄せられないようにしている魔法少女が近くに来たのか?

 

 

「も〜もちゃん。心配したよ、たくさん探しちゃった」

 

 

 桃が壺を隠し終えたところで呼び掛ける声が聞こえた。その声がする方向へと振り向けば、そこには何もかもが全身真っ黒な細長い槍を持つ誰何さんの姿が。

 

 ……彼女が来そうになったところでメタ子が声を荒げたということは、もしかして、彼女が本当に……?

 

 

「あれ! メタ子だ。『二人とも、こっちにおいで』」

 

 

 ……えっ? 今、この人使ったか? 桃とメタ子を呼ぶためだけにまぞく討伐カードを使わなかったか? 使ったよな? そんな事しなくても二人(一人と一匹)とも来てくれるのにもったいない……いや、メタ子はそうでもないのか?

 

 そちらへと寄って桃とメタ子を連れ、誰何さんは公園の出入り口へと向かう。桃は彼女に不信感を抱きながらもすんなりと後をついて行く。カードを使われたからだけど。

 

 彼女に抱き抱えられたメタ子が白目剥いている事にも気づかず……というか知らんぷり(?)しながら桃の事を心配している様子を見せているが……なんだろうな、どうにも良い人そうに思えなくなってきた気がする。

 

 

「メタ子、痩せちゃってるね……かわいそうに。ずっとお外に居たからかな。『もう休んでいいよ』」

 

 

 ッ⁉︎

 

 

まだその時では……時……は……

 

 

 今、誰何さんが喋り終わった途端に彼女の腕とメタ子が光ったように見えた。そしてメタ子の喋りが何やらおかしくなったように聞こえた。いや、本当におかしくなったのか……?

 

 それ以来、メタ子は喋る度に『時が来た』とか言わなくなってしまった。桃が話の続きを聞こうとした時も、だ。

 

 ……メタ子がこんな喋り方になったのは、桃が魔法少女としてのやる気をなくした上に結構年をいったためだとの事だが、本当は誰何さんのせい、なのか……?

 

 

「……彼女の考えていることが、全く分からねェ……」

 

 

 

 

 

 数日後、桃は図書館で出会ったまぞくの元に向かうことにした。桜さんや彼女が封印したという大まぞく、その他諸々についてをあのまぞくなら何か知っているのだろうかと感じ、誰何さんには内緒で問いかけることにしたそうだ。

 

 しかし、そこで不可解な事が起きる。

 

 

「あの……お面をかぶったまぞくの常連さん居ませんか? 質問……というか相談があって」

 

「まぞく……? ……そのような人は見たことがありません」

 

 

 そう。見ただけで脳内にインプットしてしまいそうな見た目の彼女の存在を、司書の人は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「そ、そんなはずないです‼︎ ここに勝手に住んでる黒ずくめのコスプレまぞくがいましたよね⁉︎ ほんの数日前です‼︎ そこの机椅子を勝手に占領してて‼︎」

 

「もうここで数年働いていますが、そのような人は……」

 

 

 どういうことだ? あのまぞくの人があの数日前に初めて来た、それかこの司書がいない日に来ていた、という条件元なら分からなくもない。だが、この司書はあの日にもここで働いていた。そしてあのまぞくもこの図書館に勝手に住んでいるとのこと。いやなんで図書館を宿代わりに?

 

 なのに……なのにだ。この司書はそのまぞくの存在そのものを『見たことがない』で片付けている。特に見た目で記憶に大きく残るはずなのに……

 

 彼女はあの日ずっとここの椅子を使ってたのだと、桃はそう言ってあのまぞくが座っていた位置の机椅子を指差したところ、何かに気づいたのか顔を真っ青にしてその位置へと近づく。

 

 

「………………この椅子、なんか焦げてませんか⁉︎」

 

「あれ? 焦げてますね、片付けないと……」

 

 

 あのまぞくが座ってた椅子ってこんなものだったっけ……? ってな反応を見せている様子の桃。というか、机にまで黒いシミみたいなのがデッカく……怖っ……

 

 よく考えたらあの時は、あのまぞくが座ってた位置の机椅子がどうなってたのかなんて気にしてなかった……というか暗すぎて見えなかったな。

 

 しかし、司書は何故椅子が焦げているのかということに対しての疑問を持たず、何も疑いも持たないまま業務を行っていった。いや原因調査くらいしてもらえよ……

 

 にしても……おかしい。色々と普通の人間と違いすぎるまぞくの存在を、たったの数日が過ぎただけで完全に忘れ去られるだなんて……十年前のこの町に、一体何が……

 

 

 

 

 

 

 それから桃は、まぞく名簿を持ち出しては町に聞き取り調査を行った。名簿に書かれているまぞく達の内の誰か一人でも、少なくとも桜さん彼女が封印した大まぞくの事を知っている可能性があるとの算段だ。

 

 しかし。これもどういうことなのか、綴られた籍を頼りにしても何の手掛かりも無かった。どのまぞくにも出会うことがなかったどころか、町の人達全員が図書館のまぞく同様、そのまぞく達全員の事を覚えてないという。

 

 ………………そうか、そういうことか。やっと全てを理解できた。どおりで怪しいと思えたんだ。逆になんで気づけなかったんだって思う程に。

 

 桃もその疑念から確信へと変わった様子で、それを悟ったのと同時に即座に行動に移したようだ。

 

 誰何さんは……いや、誰何(・・)は。

 

 

「誰何さん。この町に住んでいるまぞくを封印していますね」

 

「え?」

 

 

 これ以上、誰何を野放しにすることはできない。千代田邸に戻って来た桃はすぐさま誰何に結論をぶつけるように問い詰め始めた。いざという時のためにいつでも戦闘態勢が整えるようにしながら。

 

 

「今飲んでいる物は何? ……ここは姉が命懸けで作ったセーフティゾーンです。貴方はこの町に何をした‼︎」

 

 

 表向きでは抑えているだけであって、桃はかなりの怒りを誰何に向ける。桜さんはまぞくと魔法少女が共存できるようにと作った、まぞくのための居場所となる多摩町。

 

 まぞくの救済・守護の町にて、まぞくが続々とみんなの脳内に強く刻まれているはずの記憶諸共消える……そんな不可解な出来事が、自分がこの町に帰って来る前に起きている。それは誰何にまぞく名簿を渡してからその現象が増えていっている。

 

 その要因とも言える証拠の一つが、誰何がいつも持っている水筒。彼女はその中に飲み物を注いでいる場面を桃の近くでは全く見せていない。

 

 それがもしも、まぞくが次々と存在ごと消えていくことに関与しているとならば……桃は益々誰何の事を野放しにするわけにはいかないと思うだろう。

 

 

「あれ? あれれ? 何か……桃ちゃん誤解してない? 最近は魔族だって人間と大して変わらないんだよ……? 封印なんてしてないよ」

 

 

 自分が何故疑われているのか理解出来ず、困惑した様子を見せる誰何。白々しさがあるようで、本当に何もかもを理解していないかのように。

 

 そして誰何はいつもの純粋なる笑顔を桃に見せ、短く語る。自分のみが理解し、信じ続けてきた善行を、彼女に伝えようとしているかの如く。

 

 

 

「大丈夫。ちゃんと、苦しまないように殺してるよ」

 

 

 

 

 その言葉で紡ぎ終わった途端、俺達の視界は真っ黒に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‼︎ 場所が変わった‼︎」

 

「……突然の場面転換だな。そうなる程にヤバい状況に遭ったってのか。いや、ヤバいってレベルじゃねェよな……」

 

 

 そう。気がつけば、一瞬にして暗闇が晴れていたのだ。そして場所もあの時桃が来ていた桜の大樹のあるところ。その大樹にて、桃は背もたれしていた。

 

 

「公園まで逃げてきた。……対応を間違った。話し合えると思っていた私がバカだった」

 

 

 桃は後悔の念に押し付けられていた。姉が……桜さんがしてきたように、出来れば戦闘になることは避けたかったらしい。だが結果は逆のものとなってしまい、追われているようだ。

 

 刹那、草を踏む足音がゆっくりと聞こえ始めた。

 

 

「ごめんね、大切な知り合いがいたんだね。町の人が悲しまないように記憶を消してるんだけど、桃ちゃんは対象外だったみたい」

 

 

 悲しまないようにって……(まぞく)を勝手に殺しておいた上にさらにそんな身勝手な事を……‼︎ この人……いや、こいつは人の命やその人と関わってきた者達の思い出を何だと思って……‼︎

 

 だが、向けても本人に伝わるはずのない怒りの矛先をすぐに心の底に納めた。桃が右手で押さえている左腕の肩付近で流れているものが視界に入ったからだ。

 

 

「桃‼︎ 腕が……‼︎」

 

「血が出てやがる……確か、魔法少女の血の少なさは命取りだったっけか」

 

「これは自分でやった。あっちに脳みそ干渉される前に……お腹はこれから………………」

 

 

 腹部の傷とは関係しているわけではないか。俺達が見た時は左腕には傷がなかったが、そんな状態に追い込む程に強いのか、あいつは……

 

 

「桃、まだ怪我するんですか⁉︎ せめて……せめて回復の杖で治しましょう‼︎ なんだか今ならできそう……」

 

「これ回想シーンだから‼︎ 話がおかしくなるからやめて‼︎」

 

「………………夢魔の力なら、夢の中で改変したものは時間にも直接干渉できるんじゃないのか? ならやらないよりも……」

 

「本気でそんな事考えないで⁉︎ 時間干渉なんてできないから‼︎ というか実行しようとしないで⁉︎ 色々とややこしくなるから‼︎ そもそも干渉自体できないでしょ‼︎」

 

 

 それはすまん。けど、お前がこの記憶を見せたいと言ってたとはいえ、このまま何もしてやれない自分が情けなくて仕方がないんだ。

 

 変に夢の中に干渉して記憶を影響を及ばせても、実際の記憶として全体に反映できないなんて……普通なら夢魔としても当たり前だとはいえ、なんだかやるせないな。

 

 

「桃ちゃん。さっきのじゃ記憶が消しきれなかったよ。痛そうだよ。痛くなくしてあげるから、おいで」

 

 

 嘘偽り無く(・・・・・)心配しながら声を掛けてくる誰何の言葉。他者の心に寄り添っているようで、本当の心には寄り添っていない言葉。これまでに善意を持っての凶行を続けてきた彼女からの言葉。あいつが何をしてきたのかを理解した今だからわかる。

 

 彼女の声、言葉……簡潔に言えば、その全てが怖い。恐ろしい。一瞬でも気を抜けば、その隙に彼女に殺されるかもしれない。心の底から戦慄されるような完全なる恐怖を、俺は彼女の声を聞くだけで感じていた。

 

 

「ぼくは桜ちゃんみたいに牧場を作るほど根気がないんだ。……時々、桃ちゃんみたいな目で見てくる子がいる」

 

 

 ……それもそうに決まってるだろ。お前の事がどんな奴なのかという本性を知らない人達からすれば、警戒されてもおかしくない雰囲気が曝け出ているんだから。

 

 

「誤解されたくないからちゃんと説明するね。ぼくの願いはこの世全ての『かわいそう』を根絶すること‼︎ そのために見かけた魔族(エサ)は全部食べていきます」

 

「……何もかも間違ってる‼︎ お姉ちゃんはそんなことのために町を作ったんじゃない……‼︎」

 

 

 確かにそれは言い切れる。何もかも消された中での数少ない、桜さんの遺した物品であるカード云々の入った壺を大事そうに抱えながらそう否定する桃を見て、俺は同意の感情を持った。

 

 知ったかぶりで何が『かわいそう』なのかを理解したフリをして、自分が良いと思わないものを容赦なく消す……そんな自分勝手で様々な配慮に欠けすぎた奴の理想なんて、誰も理解してくれると思うなよ。この偽善者かも分からない不思議人が。

 

 桃に理想を拒絶されたからなのか、何を考えているのか分からない満面の笑顔を見せる誰何の表情は、突然曇りを見せてきた。

 

 

「間違ってる、か……そうだね。()がそんな事を呟いてからは、ぼくも本当はそうだったのかもしれないのかな……って、思ってはいるよ」

 

 

 な、なんだ……? 心の中の何処かでは、自分自身でもおかしいと思っているのか? いや、本当は何を考えているのか分からない奴なんだ。嘘はついていなくとも、まともに聞き受ける必要はないはず……

 

 なのになんだ? この胸に引っ掛かりそうな感じは……?

 

 

「でもね……それは世界がそう思わせて、ややこしくしてるからじゃないのか、とも思ってる」

 

 

 ……ん?

 

 

「世界がそう思わせて……? どういうことだ……?」

 

「あ、二人ともここ聞き流していいよ。この人全体的に変だから」

 

 

 いやそれはそうだと思うが……あぁダメだ、だんだん奴の考えている事が分からなくなってきた。結局真相は何なんだよ……

 

 すると誰何は瞼を閉じ、語り続けた。

 

 

「富む人がいれば貧する人がいる。食べる人がいれば食べられる人がいる。……人だけじゃないよ。素敵な出会いがあれば、悲しい別れがある。何もかも、始まるから終わる。ぐるぐるぐるぐる同じことの繰り返し。一ヶ所の不幸を止めるだけじゃ駄目なんだ」

 

 

 不平等な人生を送っていく中で、当たり前の事を行う。大した出来事もない人生を過ごし、その終わりを迎える。そして個体として群れ、互いに争い、妬み傷つき、自らを滅ぼさんとして非常に脆弱な生き物と化している。

 

 まぞくはそうして人間と同じ存在と化していき、誰何個人としてはよく思わなくなった。それを彼女は卑屈に感じているようだ。

 

 そして誰何は瞼を開き、自分の理論に対する結論を述べた。

 

 

 

「だから、この世に感情が無かった頃まで世界を巻き戻したい」

 

 

 

 世界を巻き戻す……? どういう意味だ? 時間を戻すというわけでは無さそうだが……。一種の人類補完計画のような思考を持ってして、世界を書き換えようとしているのか?

 

 

「……具体的には、原始海洋って知ってるかな? あそこまで───」

 

「‼︎ やめろォッ‼︎」

 

「あー聞きたくない聞きたくない聞きたくない‼︎」

 

 

 聞かれるはずないのに制作を呼びかけるように叫んでしまった。それと同時に桃が必死に叫んだ。拒絶したいという理由もあるだろうけど、少しでも誰何の思想に乗らないための自分への喝を入れるため……という理由もあっての事だろうな。

 

 

「短い目で見れば……うん。確かにぼくは悲しみを量産しているね。昨日行ったお店の人も泣いてたし……だから何周目かのご褒美で『忘れさせる力』を手に入れた。忘れてしまえば一旦かわいそうじゃないよね?」

 

 

 悲しみを忘れさせる、だと? 自身の行動で誰かをそうさせてしまったという自覚を持っていることはいいことだが、それを敢えて見て見ぬふりするようにしてなかった事にするのはふざけている。

 

 悲しみもあってこそ成長することだってあるんだし、殺された者だって自分との記憶を忘れてほしくないと思っている人が多い。なのにそんな他者の気持ちをきちんと代弁もせずに忘れさせるだと?

 

 それこそが『かわいそう』だと思わせる行為じゃねェか。ダメだ、やっぱりこいつは偽善者としか思えねェ……‼︎

 

 

「他にもいろいろ出来るよ。誰も苦しまず、誰も悲しまず、静かに終わらせてあげるのがぼくのこだわりです」

 

 

 やめろ……やめろ……‼︎ そんな思い上がりな事を口にするな……‼︎

 

 

「だから今、桃ちゃんが苦しんでいることは申し訳ないし、かわいそうで愛おしいと思う」

 

「……は?」

 

 

 ふと、怒りの引き金を引いたかのような声が聞こえた。俺が無自覚に発した声でも、桃の口からでもなく……優子の口から聞こえたものだった。

 

 

「きさまさっきからず───っとおかしいぞ‼︎ ちょっと一発ツッコませろ‼︎」

 

「シャミ子‼︎ これ私の記憶だから‼︎ 干渉できないよ‼︎」

 

 

 桃の心境を分かっているつもりでいて、まるで全然わかっていない……そう言っているような誰何に怒りを覚えたのだろうか。優子は記憶の中の人が相手にも関わらず怒りの言葉をぶつけている。

 

 聞かされている相手には全くもっと伝わらないと分かっている上で自分の感情をぶつけようとするなんて、それある意味スゲェぞ優子……

 

 

「だからって何もせず黙っているなんてこと、できるわけないじゃないですか‼︎ 現に白哉さんだってすっごく文句言いたげでしたし‼︎ 遠慮せずギャーギャー言っちゃって‼︎」

 

「そ、それは……そうだけどよ……それをぶつけるべき相手と関われないってのがちょっとな……」

 

 

 俺だってあいつに一矢くらいはぶっ刺してやりたい物理的に。けどその相手が今、本人でも実態もある奴でもないとなると、やりたくてもやるせないって感じがな……

 

 

「ぐぬぬ……‼︎ 夢魔の力をもっと使いこなせれば、その人を無理矢理寝かせて意識をこっちに持っていけれたというのに……‼︎」

 

「最早夢魔の領域を超えてないかそれ……?」

 

 

 対象の人物を無理矢理寝かしつけて、他人の見てる夢の中へと持っていかせるって何? 他人の意識をそのまた他人の意識へと移すとか、随分と高度な術じゃね? 普通の夢魔だと絶対考えもしない発想だぞ……?

 

 というか、文句の一つや二つを言いたいのなら、本人の夢の中へ直接行けばいいんじゃないのか……? 随分と後回しな事をしようと考えるなお前……

 

 

「……まあ、分かってくれるわけないよね」

 

 

 いけない、記憶はそのまま流れていくものだった。桃とメタ子の再会の時は何故か俺と優子の会話を待ってた感があったけど。

 

 ふと誰何の表情を窺えば、悲しそうな顔をしているのがはっきりと伝わる。まるで最初から、誰にも自分の理想を共感してくれるわけがないと、そう分かりきっているかのように。あいつの感情が伝わるってのは複雑すぎるが。

 

 

「でもぼくは、今の今まで呑んだ魔族のことは一人たりとも忘れていない。雑に食い散らかして、目先のご褒美をもらう意識の低い子とは違うんだよ」

 

 

 すごく不本意すぎて悔しいが、それに関しては悪くないとは思っている。かなりの不本意だが。

 

 まぞくを封印した事で得られる特典──願いのために非情にまぞくを狙う魔法少女に比べたら、まぞくに対する思いは誰何の方がマシに思えてしまう。表情からして『まぞくに対する罪悪感』を持っているように見えてしまっているから。

 

 

「ウリエルとたくさんお話して、教えてもらったよ。その木の下に何が埋まってるか。……ぼく達は本質的には同類なんだよ」

 

 

 え ゙っ ゙。ウリエル、桜さんのへそくりの事を話しちまったのか? いや、バラさないといけない感じだったのか? ……そういえばあの時からずっと姿が見当たらないのだが、まさか殺されたんじゃ……

 

 そんな事を俺が考え、誰何の独りよがりな理想を語り続けているのをよそに、メタ子が預言を伝えるように鳴いた。それが合図となったのか、誰何が手持ちの、桃は桜さんが遺した壺の中の、まぞく討伐カードをそれぞれ一枚取り出し───

 

 

「『桜ちゃんが育てたものをぼくにちょうだい』」

 

「『こいつに抵抗する力をください』」

 

 

 互いに、そのカードに願いを込めた。

 

 一瞬にして二枚のカードが光りだし、やがてその輝きが収まる。光が発生したこと以外は何も起きてないように見えるが、寧ろその方がいいと悟らせる。桃がカードを使わなければ今後まぞくに対して更なる絶望が起こっていたことだろう。

 

 

「………………………………抵抗しちゃうか〜。まあそうだよね‼︎ わかるわかる‼︎」

 

 

 誰何は笑顔で今の桃の選択を喜んでいた。彼女ならそうしてくるだろうと初めから予想していたかのように。だがそれと同時に宜しくないと感じたのか、怒りか焦りを見せているかのような表情になる。

 

 

「でも無駄に貯蓄を使われちゃうのは困るな……今の完全に無駄じゃなかった? 無駄でしょ……? 死なせた魔族に申し訳ないよ………………」

 

 

 殺すこと自体がまぞくに申し訳ないことじゃないのか。俺がそんな怒りを改めて感じていると、誰何は何処からか槍を呼び出して構えた。まるで自分の影から生成したかのように。

 

 

「話し合いたいな」

 

「ッ‼︎」

 

「ま、待って白哉くん‼︎ 今動いちゃ……ッ‼︎」

 

 

 誰何が何をしでかそうとしているのか、そこから嫌な予感を察知した俺は咄嗟に動こうとしたが、それを桃が左腕を掴んで制止する。記憶に影響を及ぼしてしまうのが良くない思ったのか、俺に危害を加えたくなかったのか、この行動が何を意味するのか俺には分からなかった。

 

 それと同時に、誰何の軽く槍を振り回した動作としては似つかわしくない轟音が響き、空間を抉るような一撃が炸裂した。ここが夢の中だからなのか、偶々その一撃の当たりそうな位置の近くにいた優子には当たらなかったが。

 

 

「ぼく、こういうやり方本当に嫌いだから。早めに折れて持ってきてね」

 

「嫌だ……‼︎」

 

 

 気がつけばこちらから見て大樹の右側が抉り取られていた。桃も限界に達したのか魔法少女の姿が解除され、左腕とその腹部が完全に消し飛んでおり、そこから大量の血が流れ込んでいる。

 

 魔法少女は損傷した身体を自動的に治せるらしいが、このままでは完全に治す時間がないどころか、治る前に死んでしまうのも時間の問題だ。

 

 

「この状況を打開して、町を守る方法は一つしか無い。これを使う……」

 

 

 攻撃を受けた時に咄嗟に俺達に支えられた桃は、壺から大樹の下に落ちた複数枚のカードを手に取った。今からそのカードで願いを叶えるつもりのようだ。

 

 

「そもそも……どうして姉がこれだけの討伐ポイントを隠し持っていたのか、最後まで分からなかった。分かったのはシャミ子と会ってからだよ。これはお姉ちゃんがヨシュアさんを封印した時のものだ。あの時言えなくてごめんね、シャミ子……白哉くん……」

 

 

 そう俺達に謝罪した桃の瞳は、謝罪の意と己の無力さへの悔やみによって潤んでいるように見えた。

 

 ヨシュアさんの真実を知ったあの日に言わなかったのは、それこそ優子に心の溝に深い傷を負わせてしまうと思ったからだろう。あの時は自分は優子の宿敵以外の何者でもなかったのだと感じながらも、その宿敵をこれ以上傷つけたくない……そんな思いを持って黙ってたのかもしれない。

 

 優子に謝りたい気持ちなら分かる……けど。

 

 

「……オイ、なんで俺にまで謝るんだよ。俺は何か関係あったか?」

 

「……ヨシュアさんが封印されることになった要因の一つ。それが、白哉くんのお父さんを助けるためだった……清子さんからそう聞いてたよね?」

 

 

 あぁ、あったな。誰かを苦しませないために自分がどうなろうと構わないあの精神……アレを見せたヨシュアさんには驚かされたよ。その決意をした彼の鋼メンタルには誰も敵わないと思う。

 

 

「本当は……本当はお姉ちゃんもヨシュアさんも、この封印に乗り気じゃなかったのかもしれない。なのに、白哉くんのお父さんを巻き込んでしまったせいで……白哉くんのお父さんが巻き込まれなかったら、彼もこの先に起きそう事件に関わらずに済むのかもしれないのに……あの人の仲の良い人を封印されなかったのかもしれないのに……」

 

 

 ………………………………あぁ、なるほど。そういうことか。

 

 父さんはヨシュアさんと仲が良かった。なのに桜さんがあの緊急事態が起きる前からヨシュアさんを封印すべきか悩んでいた。つまり……この事を言ってしまえば、父さんは桜さんを恨むかもしれない……と思っているとでもいうのか?

 

 ………………………………はぁ。

 

 

「いや、その理屈はおかしいだろ」

 

「……えっ?」

 

「ヨシュアさんはお人好しが過ぎるからな。たとえあの時父さんが巻き込まれなくても、町のためだとかで自分を封印してもらうことを、自分から望んで承ると思うぞ?」

 

 

 何せ、あのヤンデレな癖に他人の事もきちんと考えてくれる、優しい性格の優子の父親だからな。あの人も大好きな町のためなら命を賭けられるだろうし、桜さんを根負けさせると思う。結局優しいまぞくには誰にも敵わないと思う。

 

 

「それに前にも言ったろ? 父さんもお人好しだって。確かに父さんはヨシュアさんと仲良しらしいし、桜さんとも仲良さそうたけど……だからこそ、二人のことをよく知っている父さんだからこそ……な? 後はもうわかるだろ?」

 

「………………‼︎」

 

 

 俺は何を結論として言いたかったのか、それを敢えて伏せてやった。そしたら桃は何かに気付かされたのか……いや、前に言われたことを思い出したかのように目を見開いていた。

 

 要するにアレだ、もっと他人の心や意思の強さを信じろってことだ。勝手に他人の気持ちを自己完結して、その事で自分を苦しめるな……俺が伝えたかったことを、桃は察してくれたみたいだ。

 

 そんな桃に寄り添うように、優子も彼女を優しく抱きしめ、彼女の頭を撫でる。

 

 

「そうですよ桃。桜さんもおとーさんも黒瀬さんも、みんな私達よりも心が強いはずです。私達だけじゃなくて、彼等みたいな大人の人達も信じてあげてください」

 

「シャミ子……白哉くん……」

 

 

 優子の言う通りだ。実際に俺達は桜さんやヨシュアさんに励まされたり今後の事を示してもらったりしてもらったんだ。だから桃、お前も信じるべき人はもっと増やせ。一人で色々悩まないで、それを誰かにぶつけろ。お前がさっきまで悩んでいた事も……な。

 

 

「というか……ごちゃごちゃ悩んでないで、なんでもいいから使っとけ──い‼︎ そんなちっさいことで、おとーさんも私も黒瀬さんも……大抵の人はみんな怒りませんて‼︎」

 

 

 うおっビックリした。んな突然勢いよく怒らんくても……気持ちはわかるけど。

 

 他の人達がどう思う・どう思っているのかなんて知らないけど、実の父親が封印された事を小さな事と片付けられるとは、優子はやっぱり度量が広いな……広すぎるのもアレだけどな。

 

 

「ちっさい……? そっか……私の悩み、ちっさいか……ははっ……」

 

 

 声は乾いている。だが彼女の顔から窺えるその笑い声は、何処か重荷を下ろしたかのような安心感で満ちていた。もうこの事で責任を負わなくていいのか、それほどまでに優子達は強いのか、そう思っているかのように見えた。

 

 

時が来ているぞ

 

 

 ここでメタ子が合図するように預言した。この状況に打ち勝つには今しかない、そう告げるかのように。それに桃は相槌して了承し、致命傷で震えている右手を誰何に翳した。そして……

 

 

「メタ子……あいつを殺………………っ……。……『あいつを、無力化して』」

 

「えっ」

 

 

 刹那、誰何の身体が砂のように崩れ落ちていく。死を恐れる表情から激痛によるものと思える絶叫が轟きながら、歪んだ理想を持った魔法少女の原型は徐々に留められなくなっていく。

 

 やがてそこに立っていた誰何の姿は見当たらなくなった。代わりに真っ黒な人影のようなものが地面に広がっており、その上に黒い結晶が浮上していた。

 

 

『……コアが出たね。ひどい……ひどくない……? どうして殺さないのかな』

 

「姉はそうしないと思ったから」

 

 

 誰何がひどいと言ったのは、自分をこのような姿にさせたからなのか、はたまた桃が殺すことを躊躇ったからなのか、その真相は分からない。だが言えることはただ一つ。これでもう、誰何は終わりってことだ。

 

 

「……もう、貴方には何の力もない。コアを割れば貴方は空に散らばって、いつか人に戻る」

 

『ぼくが何千年、どういう思いで頑張ってきたのか……いくつの犠牲を重ねて、本当の幸せについて考えてきたか……』

 

 

 コアと人影、二つの物体から交差するように誰何の声が聞こえた。人影から小さく不気味な手がコアに手を差し伸べようとするも、能力も何もかも無力化された身体ではコアに触れることも出来ず……

 

 

「聞こえないです。どこか遠くで、貴方だけの幸せを見つけてください」

 

 

 桃の杖から放たれた魔法の光が、双方を跡形も無く消し飛ばした……いや、掻き消したといった方がいいな。もう、誰何だった物の物質は無くなったのだから。

 

 

「………………これが、また現れるかもしれない魔法少女との、一度ついた決着か……」

 

 

 消えゆく誰何だった影らしき残骸を見ながら、俺はそう徐に呟いた。かなり緊迫とした場面だった。もしもこの時、桃が少しでも選択肢を誤っていたら……そう考えると背筋が凍るのを感じた。

 

 それと同時に、とある疑問点が浮かんできた。

 

 

「(けど……コアが割れて元には戻らず、魔法少女でもない普通の人間……多分別人だろうな。そういった存在になれるとしたら、那由多誰何として復活することはできないはず。なのにどうして、また奴が来ると予知して……?)」

 

 

 先程桃が誰何に告げたヤツだ。魔法少女に長けている桜さんから得た知識とはいえ、それが本当なら桃は記憶を見せる前に『再び現れるかもしれない』なんて言わないはずだ。

 

 もしかして、誰何の歪んだ思想に賛同している奴がいて、この光景を偶々目撃して、復讐のために誰何の復活を試みようとしているところを見てしまった……とかか? それならまだ納得がいくと思うが……

 

 

……まだだ!! 時、来てないぞ!!

 

 

 えっ? メタ子、お前一体何を言って───

 

 

 

 刹那、先程の俺の考察が大きく外れる事態が起きた。全ての残骸が一斉に集まり、誰何に似た奇妙な人影を生み出し、浮遊し始めたからだ。

 

 

 

ご褒美の使い方がうまくないね。言い回しでけっこう効果が変わるから、覚えておくといい

 

 

 固定出来ず垂れ落ちていく瞳のような何かで桃を見ながら、その人影は転げ落ちた水筒を手に取り、蓋を開けて中身を確認する。綺麗に並ぶ歯の見える口みたいなものを作り、三日月のように形を変える。笑ってる……のか?

 

 

……たべのこしがあって良かった。まだ神は私を見捨てていない。まだやれる。まだやれる

 

 

 神はまだ誰何を見捨ててない……? ……ハハッ、こりゃあの時桃がまた来ることを予言してたわけだ。どうやら奴は多分、物好きな神様か邪神に命を救われちまったんだろうな……本当はあのまま一回くたばってほしかったぜ。

 

 笑えない考察をしている中、人影は粘性体へと姿を変え、複数もの目のようなものを見せながら横たわっている桃の半身を包み込む。

 

 

「ひっ……‼︎」

 

やっと出てきてくれたね。その傷、治してあげるよ。痛そうでずっと気になってたんだ

 

 

 開放された桃の肉体は元に戻っていた。破れた服から見える左腹の傷の残しながら。ここで誰何が桃を殺さなかったのは、殺せる程の力がなかったのか、気まぐれで別の機会にしたのか、それとも元から殺す気がなかったのか……

 

 桃の身体を治した粘性体は、宙に浮遊しながら先程の恐怖で倒れ込んだ彼女を見下ろし、声を出す。

 

 

……彼に言われた通りだったかもね。道を踏み間違えた者は予想だにしない事態を受け、必ず敵対する者に負ける……正に今の通りだ

 

 

 ……? こいつ、誰かに歪んだ理想を捨てろって忠告されてたのか? 何やら『彼』にと言ってたから、桜さんにってわけではないな……もしやヨシュアさんに告げられたのか? それともあのドリアさんって人にか?

 

 

でも、それでも続けておいてよかった。どんな風に失敗してしまうのか、結構気になっていたしさ

 

 

 は? 本当に来るかもしれないと感じながらもやっていた? 信じてないわけではなくて、いつかそう来ると思いながらも今までのを続けてきた……ってことか? 何故そうくる未来を変えようとせずに歪んだ理想を求めていったんだ? 何故……?

 

 

……また一からやり直すとしよう。まだ夢を諦めたくないし、今度は誰がどう抵抗するか見てみたいし……何より、これで折れるぼくじゃないからね

 

 

 正直に言って諦めてほしい。千年掛けてきた事が水の泡になったんだし、人の姿や形になれてないのならもうこれ以上は何もできないと思うが……

 

 でも……彼女が嘘を一つもついていないということは、本気でまたまぞくの存在を消したりするつもりだろうな。そんなことは絶対にさせない……させてたまるか。悪と判断された事が思い通りになることなんてないのだから───

 

 

 

……あと、さっきからずっと覗いてるツノのまぞく。お前はまた来ていつか殺す

 

 

 

「……えっ。私ですか⁉」

 

「……えっ?」

 

「………………?」

 

 

 ずっと覗いているツノのまぞく……多分優子の事だろうか。実際夢魔の力を使い、桃の隣でずっとこの記憶の世界を見ているわけだから、その可能性はあり得るだろう。

 

 けど……何故記憶の世界で、その夢を見ている本人じゃない奴が自我を持っているんだ? その人物の精神世界の守護者的存在なら分かるけど、誰何はこの世界の記憶で再現された存在。自我を持つなんてあり得ないはずだ。

 

 それに……先程のセリフは、優子に向けて告げたものとは思えなかった。

 

 

「(優子に告げたにしては、上を見ながら告げていた感じだった……それに、『また来る』とかも言っていた……ってことは、さっきのセリフは優子に向けて言ったわけではない可能性が……?)」

 

 

 もしかすると、優子やヨシュアさんとは違う種族のまぞくが傍観している可能性もあって、そいつの存在に気づいた誰何があのセリフを吐いた……ということになるのか?

 

 でも、その可能性も高くないと見た。桃曰く、先程のセリフは実際にも聞いたことがなかったという。となるとあの誰何が言ってたあのセリフは、彼女が本当に桃の記憶の中で自我を持ち、優子の存在に気づいたから言ったとでも……?

 

 ダメだ、真相が全く分からない。一体何が真実なのか、全く皆目検討がつかない。

 

 だけど……これだけははっきりと言える。

 

 

「たとえあのセリフが優子に言ってたものだったとしても、はたまた別の奴に対して言ってたものだとしても……どっちも守ってみせる。俺の愛する人も、この町を愛するまぞくも、消させてたまるかってんだ」

 

 

 そう言いながら、俺は肩を組むように優子の左肩を掴み、こちらへと引き寄せる。手を出してくるなら出してみろ、その前に一発強烈な技をお見舞いして止めてやらぁ。

 

 

「あ、あの……白哉さん……? ナ、ナチュラルにキュンッてする事やめてくれませんか……? し、心臓に悪いので……後すごく興奮しちゃいます……」

 

 

 それはごめんだけど、最後小声で興奮するとか言わないでくれる?

 

 

「あはは……そういうところが白哉くんらしいね……」

 

 

 オイそれどういう意味じゃコラ。

 

 

「とにかく、誰何の話はこれでおしまい。私自身の記憶と食い違うところがいくつかあったけど……一旦起きて仕切り直そう」

 

「おう、そうだな」

 

 

 と、言いたいところだが……どうやら俺が起きるのはまだ先らしい。何故なら……

 

 

 

『悪い白哉。突然すぎてアンタには申し訳ないが、ちょっと俺のとこまで来てくれ。アンタに話したいことがある』

 

 

 

 俺が自分の夢の世界で眠るまでずっと黙り込んでいたフードの人が、初めてその時以外で俺を呼んだからだ。

 

 




こんなにも長くなっちゃった……R-18パートを除けばこれが最大長文になるのでは?

今回も原作との相違点がありましたが、みんな分かったかな?
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