偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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原作知識を持たずに戦闘シーンを見てもなぁ……ってことで初投稿です。

前回の続きです。そして今回はあれをパロります。


まぞくや魔法少女の伝統的な対決には当然命を取らない方法もある……が、これは意味不明☆

 

 桃が昔吹き飛ばしてしまったことで買い取ったという、ミカンの実家がかつて所持していた廃工場。

 

 シャミ子の魔力の特訓や、ヨシュア・千代田桜の謎の調査、そしてセイクリッド・ランスとなんとかの杖を掘り起こした思い出の場所にて、二人の少女が物々しい様子で、視線と視線をぶつけ合い火花を散らしていた。

 

 一人は千代田桃。桜の義妹かつ歳上幼馴染の柘榴に好意を寄せている魔法少女で、魔力を使わなくてもその足りない分を筋力で補えるつよつよ少女である。

 

 もう一人はマリン・フォールズ。八年前に施設に入ってから桃と出会い、彼女の本性を明かすために勝負を仕掛けるも敗北してしまった、海の生物に関連しそうな魔族である。

 

 そんな二人は今、マリンからリベンジしに来たということで、『あの対決』で勝負することになっている。その様子を白哉・シャミ子・ミカン・拓海・柘榴といった桃の親友達、そしてマリンの従者であるバトラーが見守っている。

 

 

「それにしても、意外だったわ」

 

「何が?」

 

「アンタがアタシの宣戦布告を承諾したことよ。アタシが八年前にも同じように勝負を申し込んできた時には、アンタは全然乗り気じゃなかったじゃないの」

 

 

 マリンは施設にいた時の記憶を思い返したのか、桃の事を強く睨みつけていた。

 

 桃は桜と同じ思想、魔族も魔法少女も仲良く暮らせるようになってほしいという理想郷を目指している。魔族に敵意を向けるどころか魔族にその認識をされて警戒もされるなんてもってのほかだと思っているのだ。

 

 だが魔族と魔法少女……光の一族と闇の一族、二つの種族の関係は本来敵対同士。マリンはそれを理解している上で警戒している。それでいて、自身を暗殺どころか観衆の前で襲い掛かることすらしない桃を怪しんでいたのだ。

 

 そんな彼女の思考などお構いなしに、桃は彼女の警戒心を無くそうと仲良くしたいアピールをするも逆効果、かえってその行動が警戒心を煽る羽目になってしまった。

 

 それにマリンはついに痺れを切らし、彼女の存在しない心の裏を明かそうと『あの対決』を申し込んだのだ。当然、魔族に無償無益な襲撃をする気が一切無い桃は乗り気ではなくそれを拒否し続けていた。最終的にマリンの気迫に押し負け対決を承諾し、完勝するに至ったのだが。

 

 

「まぁ、そうだね。あの時はさすがに乗り気にはならなかった。まぞくと闘う気なんて、今でもそうだけど全く無かったからね。だけど……」

 

 

 その時の記憶を思い返していたのか、指で頬を少し掻きながら苦笑いする桃。しかし、今日この日に受けた決闘の事もあってか。

 

 

「リベンジと言われたらからね、そういう人を軽くあしらってはいけないとは自覚してるよ」

 

 

 キッと鋭い目つきになりながら、口で孤を絵描きながらそう語った。その承諾した理由を聞いたマリンはというと。

 

 

「………………なんか、言葉と表情とは裏腹に重く受け止めてる感じがしないかしら? 違うから。そんな復讐者じみた感じじゃないからね? まぁ、あの時はアンタが魔法少女だからって警戒はしていたのだけれど」

 

 

 それほど大スケールな雰囲気での捉え方をされるとは思っていなかったのか、罰の悪そうな表情になってある程度の否定の言葉で訂正を要求した。重々しく捉えられているとは思っていない程に、その時の敗北の記憶を引き摺っているわけではなかったようだ。

 

 

「そっか……それならそれでいい。でも、手加減無しで相手すると決めたことに変わりないから」

 

「‼︎ ………………そう、それならそれでアタシも嬉しいわ」

 

 

 マリンは微笑んだ。八年前みたいに少しでも手加減するなんてことはなく、最初から全力で自分と戦ってくれることに、思わず喜びを噛み締めたのだ。

 

 

「それじゃあ、早速始めましょ───」

 

「あ、ごめん。その前にちょっといいかな?」

 

「はぁ? 何よ突然。急に止められてビックリして萎えるんですけど」

 

 

 今から『あの対決』を行おうとした途端、桃が申し訳無さそうにマリンを呼び止める。これには彼女も何事だと気分を悪くしたかのようにむぅっと頬を膨らませた。

 

 そんな彼女を見て、桃はまた頬を掻き、苦笑いの表情を浮かべる。そうしながらも、桃はある報告した。

 

 

「実は私……訳あって戦闘フォームを二種類増やしたんだ」

 

「アラ、そうなの? あの可愛らしいフリルな格好以外のに変身するなんて、そんなにこだわらないアンタにしては珍しいわね」

 

「アレは物心ついた時からあぁなっただけで、変えられるなら変えたかった……まぁそれはそうとして」

 

 

 そう言って、桃は一時的に目のハイライトを落としながらあらぬ方向を向いたものの、話題を戻そうとするため目の輝きを戻してから視線を合わせ直し、問いかける。

 

 

「マリンはどっちで闘ってほしいと思う? いつものか、闇堕ち系か、褒めてくれる人が限られてるクソダサフォームか……」

 

「待って? クソダサフォームって何よ? ってか、なんか魔法少女としては体験してはいけない言葉まで出てきたんだけど?」

 

 

 マリンが言うにはこうだ。ツッコミどころが多いのだが、と。仮にも採用した戦闘フォームを自ら批判するような言い方は後味が悪いし、闇堕ちは光属性を持つ者にとっては良い印象とは言えない。

 

 結論、彼女のツッコミは正しかったのだ。だからこそ、マリンは桃の自虐的発言に抗議の声を入れられるのだ。

 

 

「大体クソダサフォームって、自分で新しく考案したヤツを否定するとかナンセンスよ。一回それ見せなさい。アタシが嘘偽り無く褒めてあげるから」

 

 

 クソダサフォームを高評価するから見せろ。その言葉を聞いた桃は仰天した表情を浮かべ、腕を組んで思考に入る。本当に見せていいものか、見せたとして彼女が心の底から褒めてくれるのか、悩みに悩みだす。

 

 

「嘘偽り無くって、言ったよね? じゃあ良くないと思ったところも話してくれる?」

 

「だからなんで否定される前提なのよ……ま、言わせられるものなら言わせてみろって話だけどね。だからさっさとなりなさいよ、そのクソダサフォームとやらに」

 

「うん、わかった」

 

 

 いいから早く変身しろ、そのような荒い言葉で承諾したマリンに桃は微笑んだ。そう答えてくれるのなら、批判されようと問題無いだろうと。

 

 そう判断した桃は、早速変身する態勢を整える。

 

 

「いくよ……

 

 

 

 ハートフルチャージ──セカンドハーヴェストフォームッ‼︎」

 

 デーン!!

 

 

 

 謎のピンク色の光を周囲に発生させ、謎のコーラスを流し、実時間以上に体感が長く思える舞いを終え、桃は両手でハートマークを作るポーズを取って変身を完了させた。

 

 

「………………………………は?」

 

 

 これにはマリン、目を丸くして一時的に脳内がフリーズ──思考停止してしまう。何故そうなったかというと。

 

 

「なんか不思議な時間が流れてなかったかしら⁉︎ コーラスみたいなのが何処からか流れてきて‼︎ 背景が一時期ピンクに包まれてて‼︎ ってか何今の掛け声⁉︎ 初めて勝負した時は何も喋らず一瞬で変身してたじゃない⁉︎」

 

 

 これである。マリンは八年前にも桃が変身しているのを見たが、その時は一瞬での変身だったため、細かな部分は一切見れなかったらしい。そして思わず初変身を見た時のシャミ子と同じ反応と内容となったのだ。

 

 

「………………そこは引っ掛からなくていい」

 

「誤魔化すなァッ‼︎」

 

 

 説明するのが気恥ずかしくなったのか、あらぬ方向を向いてあやふやにしようとする桃。当然それをマリンが許すわけもなく、怒号でのツッコミを受けざるを得なかった。マリンにとっては初めて見る光景だもんね、仕方ないね♂

 

 

「で……どうだった? この格好を見た感想は」

 

「え? ……そうね」

 

 

 服装の感想を聞かれ、桃のその戦闘服を改めて確認するマリン。しばらく見つめた後、『なるほどね』と呟き、再び桃の顔を見て問いかける。

 

 

「その格好、アンタにとっては初めての一からの製作なのよね?」

 

「う、うん……」

 

「そう……なら問題ないわ。初めてにしてはよく出来ているじゃないの」

 

「えっ?」

 

「「「「へっ?」」」」

 

 

 嘘偽りの無い、何かを褒め称える笑み。そこからの本心を隠そうとしないことが表される、自然体な声音からの評価。予想外な返答が来たことに対し、桃だけでなく白哉・シャミ子・ミカン・拓海が思わず呆気に取られた声を上げた。

 

 

「えっと……そ、そうかな? で、でもみんなからの評価は、一部を除いて良くなかったけど……」

 

「「「「ウッ‼︎」」」」

 

 

 図星を刺されて思わず悶える四人。鬼ダサいなどと言われて低評価だったセカンドハーヴェストフォーム。その評価を作った内の一人であった四人は、虚な瞳を浮かべながらその事を振り返っている桃に対し、罪悪感に押し潰されるしかなかったようだ。

 

 とはいうものの。白哉がフォローの言葉を掛けようにも掛けられない程、他人をそう簡単に否定しないシャミ子でさえも肯定出来ずにいる程に、セカンドハーヴェストフォームは不評だったのだ。致し方ない。

 

 

「いいや。魔力を操作するというのは簡単じゃないし、複雑なものなんでしょ? その中で一から新しい戦闘フォームを、その魔力に一致するように作り上げるなんて至難の業だと思うわ。けど……アンタはそれを、忍者とカンフーを混合させてスピード重視の接近タイプにした、という印象を与える程に良い出来栄えで完成させたのだと思うわ。みんなからの意見で恥ず必要なんてない、寧ろ一から頑張って作ったことに誇るべきよ」

 

「マ、マリン……」

 

 

 魔力についての独自の考察を話した上で、それによる桃の努力を交えての評価をしたマリン。空想上での考察によるものとはいえ、嘘偽り無く不評の戦闘フォームを褒められた桃は、悪い気がしなかったのか思わず微笑みを零した。

 

 

「………………ありがとう。改めてこのフォームの事で勇気づいたよ。この格好でやるね」

 

「そう……ならいいわ」

 

 

 不安の意思が消えたことを確認したのか、桃が微笑んだのを見てマリンは安堵の笑みを浮かべた。今の自分の対応は間違えていなかったのだと、心の底から安心したようだ。

 

 その一方で、シャミ子が『また宿敵としてセカンドハーヴェストフォームの良いところを見つけることが出来なかった』と嘆いていたのだが、それは一旦置いておくとしよう。

 

 両者息を吐き、これからの闘いへの集中力を戻して双方を見据える。

 

 

「それじゃあ、改めて始めましょうか」

 

「そうだね、待たせてごめん」

 

 

 流れ始める静寂の時。優しく吹いてきたそよ風が両者の髪と服装を靡かせ、今にもぶつかり合わんとする空気を作り出す。

 

 

「いよいよ始まるんだな。まぞくと魔法少女の、命を取らずに運で勝敗を決めるという戦いが……」

 

「一体、どんな戦いになるのでしょうか……」

 

 

 皆が皆、二人の対決の行く末を静かに見守っている様子だ。白哉とシャミ子に至っては、二人が行う対決方法を見るのがこれが初めてであるため、期待と緊張の感情が混ざり合っている。

 

 

「さぁ、こっちから攻めさせてもらうよ‼︎」

 

「来なさい‼︎」

 

 

 暫しの静寂の中……先に動いたのは、桃だった。懐から何かを取り出したかと思えば───

 

 

 

「五ソックス‼︎」

 

 

 それをすぐさま、地面にズラララッと並べて置いた。それも生地の色や柄が様々なソックス──靴下を五足もだ。

 

 

 

「「………………………………ん?」」

 

 

 白哉とシャミ子、我々も思っていたであろうとある疑問が浮かぶ。なんでこいつ突然靴下を並べだしたのだ、と。

 

 

「なんの‼︎ バターナイフ‼︎」

 

 

 そんな二人の考えていることなどつゆ知らず、次に仕掛けたのマリン。だが何故かバターナイフを取り出すという、彼女も意味不明な行動をしてきた。

 

 何故バターナイフ?

 

 

「な……フェイント⁉︎ じゃあこの糸こんにゃくは使えない‼︎」

 

 

 次に桃が取り出したのは、何かに封入されてすらない一個の糸こんにゃく。だが彼女が言うにはこの糸こんにゃくは使えないとのことで、出しても意味がないということになった。

 

 だが何故糸こんにゃくを? そして何に使うと?

 

 

「そしてこのカフェオレでアタシのコンボは完成するわ」

 

「しまった‼︎ 哲人コンボか‼︎」

 

 

 今度はマリンがカフェオレの入ったペットボトルを取り出し、それのフタを開ける仕草を行う。その光景に桃は仰天と警戒の意思を見せるが、

 

 これの注視すべき点が何処なのか理解できない。いやホント。

 

 

「仕方ない‼︎ ここでバスタオルを発動させるよ‼︎」

 

「嘘でしょ⁉︎ 二枚もですって⁉︎ アンタ正気なの⁉︎ クゥゥゥッ‼︎」

 

 

 桃にとっては現状良くないと思っているらしく、マリンに背中を向け、そこへ腕を回しながら取り出した二枚のバスタオルを見せつけた。それが互いにとって危険性があると判断したのか、マリンは驚愕した表情をしてからカフェオレのペットボトルを持ちながら構える。

 

 バスタオルに危険性があるって何?

 

 

「「ミハエル・シューマッハーーー‼︎」」

 

 

 気がついた時には、二人は何故かお互い位置を交差するようにぶつかり合った。それも有名なレーシングドライバーの名前を言っているかのように叫びながら。そして着地した途端、何故かマリンは右膝をついた。

 

 

「クッ……アタシの一発ツモ負けね……」

 

「トップゴムの短いソックスだったら私が危なかった……」

 

 

 この勝負、どうやら桃が勝っている様子だ。しかも靴下のトップゴムがどうのこうのと言っていたため、選択した種類や形状など次第では桃が負ける可能性もあったようだ。

 

 勝敗の付け方が不明ではあるが。

 

 そんな中、マリンは突然カフェオレを自分に頭からかけ始めた。負けたことで自暴自棄になってしまったのだろうか。その割には表情の方は結構冷静ではあるが。

 

 

「ミスペナルティによってカフェオレをかぶるわ」

 

 

 違った。負けたらダメージを受けるみたいなルールに従っているだけであった。

 

 

「次はアンタがコーナーを決める番よ! さっさとこの配達受け取り票に印鑑を押しなさい」

 

 

 そう言ってマリンは何を宅配されたのか分からない配達受け取り票を投げ渡し、印鑑でのサインを仄めかす。しかし、桃は何故かその票を受け取らずにはたき落とした。

 

 

「印鑑は押さないよ。というか忘れてきた」

 

「ハァ⁉︎ うっかりは大打撃を喰らうわよ⁉︎」

 

「ソックスがあればそれでいい」

 

「なるほど‼︎ ガードポイント上昇に当てるわけね‼︎」

 

 

 注意が行き届かないと自殺行為だと咎められるも、靴下を使う時の効果で不利な状況を作らないようにしていると語る桃。それに対してマリンは『その手があったか』と一本取られたかのような表情を見せる。

 

 

「ならアタシはサバンナエリアから入るとするわ。フフフ……」

 

「クッ‼︎ 下劣な‼︎」

 

 

 サバンナ=猛暑で砂に体力が持っていかれがちな場所。だからなのか、マリンがそこに行くとかなんとかと言った時には、桃がそれを非難する言葉を発した。

 

 

「………………………………」

 

 

 手順不明。使用する物の効果不明。それどころかルール自体が不明な中で行われている、魔族と魔法少女の戦い。それをここまで観戦していた白哉とシャミ子は……

 

 

「「(全然わかんない……)」」

 

 

 その場で両手両膝をつき、何もかもが不明なこの戦いに対してどう反応すればいいのだと嘆き始めた。

 

 いくらこの世界に魔法が使える者が何人か存在しているからといって、突然ルールも無しに日常品を色々取り出し、コーナーを選ぶとかエリアに入るとか言っている意味不明な光景を見れば、誰でも『なんだこれ』と思うだろう。

 

 だがしかし。

 

 

「桃君がバスタオルを使ってなかったら、俺達も巻き込まれてた……」

 

「そーなの⁉︎」

 

 

 魔族でも魔法少女でもないのに、ルールを理解できている者もいるらしくて。拓海の場合は両親から魔法少女の事を聞いたり実際に会ったことがあったりしているから、という理由があって知ったのだろうが。

 

 

「それにしても……あのマリンって子、結構な手練ね。まさか初手から五ソックスに対するフェイントができる手段を持っていただなんて……五個も発動されたら対抗できる手段なんて限られてくるのに……」

 

「あの戦い以来、お嬢様は千代田様に勝つべく様々なルートの考察をしておりました。皆様にだけお伝えしますが、実は二番目に対抗しやすい卓球のラケットも備えております」

 

「えっそうなの⁉︎ サブプランまで用意していたなんて……‼︎」

 

「……用意周到だね、彼女」

 

 

 他の三人も一人が魔族で二人が魔法少女(の内一人は男性であるため同じポジション的な感じ)のためか、あたかもこのような戦いが当たり前であるかのように見ていた。

 

 この時、白哉とシャミ子は悟った。この状況について行けていない今の自分達は、蚊帳の外になっているのではないのかと。従って。

 

 

「このままだと私達も危ないわね……早く帽子を被らないと」

 

「……うん」

 

「それしかやる事が無さそうだ……」

 

「では私も念入りに」

 

「貴方達もこのニット帽を着けなさい! 次は無傷じゃ済まないわよ‼︎」

 

「「アッハイ」」

 

 

 状況が状況であるためか、キャップ帽子や麦わら帽子などを被っているミカン達の指示にすんなりと従い、ミカンが渡してきたニット帽を被った白哉とシャミ子。思考放棄するのはやめてもらいたいところなのだが。

 

 

「(クッ……全然ルールが分からんが、これも魔族と魔法少女にとっての大事な戦いの一つ……‼︎ それほどまでにあの二人も真剣になれるんだ……‼︎ 考えろ……‼︎ 考えれば必ずルールが分かるはずだ……‼︎ 考えろ……考えろ……‼︎)」

 

 

 理解が追いつかずに困惑しながらも、白哉はどうにか桃とマリンが行っている戦いのルールを理解しようとする。いつか自分も同じ戦いをする可能性の対策として、だ。

 

 再び桃とマリンの方を向き、今の戦いから導かれる答えを探ろうとする白哉。そんな彼の視界に映ったのは……

 

 

「では二回戦を始めます」

 

「いつでも来なさい……ってかなんで敬語?」

 

「なんか安心感があると思って」

 

 

 頭に海老の握り寿司の顔出し着ぐるみを被り、シャチホコのポーズで左手でちゃぶ台の脚の部分を掴み、右足で掴んでいるけん玉のたまさくらちゃんのイラストが描かれてある玉をぶら下げた桃。

 

 サンタの服(普通の長袖長ズボン)を着て、半分の蛙のポーズ(アルダ・ベガーサ)を取りながら右腕を伸ばし、伸ばしている右足でこけしを掴み、右手にハ○ーキ○ィのイラストが描かれてあるティーカップを持っているマリン。

 

 ポージングや衣装の意図も、先程のぶつかり合い以上に不明な状態となっている二人が、改めて対決を続けようとしていた。

 

 

「(全然わかんねー‼︎)」

 

 

 この光景に白哉は思わず頭を壁にガンガンと打ちまくる……なんてことはせず、そうなりそうな程に頭を抱えて蹲り、現状の意味不明さに頭を抱えた。うん、何がなんなのかわからないもんね。

 

 そんな中で、桃がけん玉を持った右足を、マリンがティーカップを持った右手をそれぞれ近づけようとしていた。だんだんと距離を詰めていき、やがてピンッと伸ばせばお互いの膝と膝に掌や足の裏がくっつく距離になったところで。

 

 コトンッ。けん玉の玉がティーカップの中にピッタリと入り───

 

 

「「わっしょい‼︎」」

 

 

 迫真とした表情で、お互いにそう叫んだ。

 

 ビュウウウウ……と風と共に沈黙の時間が流れ始める。

 

 お互いが叫んだ時の表情のまま睨み合いをしていく内に、決着がついたのかお互いに手に持っていたものや付けていたものを取り外し(着ぐるみとサンタの服は除く)、右膝をついて座っている状態となった。

 

 

「二回戦は引き分けだね」

 

「だけどこの戦いでアタシはキットカットを三個手に入れたわ」

 

 

 どうやら勝敗は引き分けとなった模様。その代わりにマリンはキットカットを手に入れたというが、どのような行動をすればそれが手に入るのかは不明でしかない。

 

 

「今のはマリンが右足で持っているこけしによるものね……アレがあるからこそ引き分けに持ち込んだってわけね」

 

「そして敢えてキャラクターの模様付きのティーカップにすることで、ボーナスとしてキットカットをゲットした……これはヤバいね」

 

「……桃が鳩のポーズをしてたら、このラウンドはマリンちゃんに取られていた……」

 

「お嬢様、ここから狙い通りに動けるようになりましたね」

 

 

 この戦いのルールを理解出来ている四人は、マリンの高度らしいテクニックに驚きを隠せずにいており、二回戦が引き分けになったことの考察を淡々と行っていた。ふーん、そーなのかー(ナレーターは全然分かってない)。

 

 

「わからなーいッ‼︎」

 

「わぁぁぁあああぁぁぁあああッ⁉︎」

 

 

 理解が完全に追いつかず、ついにシャミ子、壊れた。危機管理フォームになってその場で素早く往復するように転がりだしたのだ。

 

 

「全然分かりませんよー‼︎」

 

 バインッ

「ブヘッ‼︎」

 

 

 そして何故か白哉に対して、自身のたわわな胸で右頬に思いっきりビンタした。男性が女性の胸に触れられるのは歓喜するところだが、さすがにそれでのビンタは別の意味で効くところもある。つまり痛い。

 

 

「 」

 

 

 何の前触れもなくおっぱいビンタされて放心状態の白哉。そして我に返った時には。

 

 

「(俺だって、わかんねェよ……)ウゥッ……」

 

 

 自分もシャミ子と同じ心境であることを心の中で語り、悔し涙を流した。誰もこの戦いを理解していないのだから当たり前である。

 

 

「梨泰院梨泰院」

 

「カルーアミルクカルーアミルク」

 

 

「(ちょっと目を離しただけで、何をやってるのかさっぱりだよ)」

 

 

 気つけば桃とマリンは何かしら宙にぶら下がっている鎖付き手錠によって両手を縛られており、桃は梨泰院と言いながら三枚の食パンを付けた棒を咥え、マリンはその食パンに必死に食らいつこうとしている。

 

 ちなみに何故か腕時計もぶら下がっており、その下には味噌汁の入ったお茶碗を置いているちゃぶ台が。これは何か効果があるとでもいうのか。全体的にどれが何の効果があるのかすら理解不能だが。

 

 この光景を間近で目撃した白哉、再び四つん這いになって俯き、改めて桃とマリンが行っている戦いの理解不能さを嘆く。

 

 そして願った。誰か分かりやすくこの対決のルールを教えてくれ、と。さらに同時に怒りを覚えた。何故誰も初見の俺達にルールを教えないんだ、と。

 

 そんな中、桃が最初のターン(的なタイミング)で使用していた靴下の一足を取り出し始めた。今度はどんな意味不明な行動をするつもりだとでもいうのか。

 

 

「ソックス〜〜〜………………」

 

 

 何やら『ス』のところを無駄に伸ばしながら、靴下を斜め左右に動かし始めた桃。それが言い終わった途端に動きを停止させ、マリンの方を睨みつけ……

 

 

「スクッソ‼︎」

 

 

 靴下を九十度傾かせ、そう叫んだ。ソックスをただ単に逆さまに言ってるだけにしか聞こえない、というかそうしていることにしか見えないのだが……

 

 

「出た──────‼︎ フィナーレファンタジアコミニュケーションの一つ『スクッソ』‼︎ 桃、まさか私達を巻き添えにする覚悟をする程までに追い詰められてたのね‼︎」

 

 

 魔法少女だからなのか、この戦いのルールを完全に理解しているミカンはスクッソが恐ろしい効果を持っていることを認識していた。それもこの戦いに不参加である自分達にもダメージを受けるとのことだが、どうなったらそうなるとでもいうのだろうか。

 

 というかフィナーレファンタジアコミニュケーションってなんだよ。この意味不明でバカバカしい戦いで何無駄にカッコいいワードが入ってんねん。

 

 

「これは俺達もスクッソを買わないといけないな‼︎」

 

「……近くにスクッソ屋がある」

 

「ナイスよ柘榴さん‼︎ 早速行きましょう‼︎」

 

「買えるの⁉︎ 専門店あるの⁉︎ ってかそれただの靴下じゃね⁉︎」

 

 

 拓海も柘榴も、スクッソがこの戦いで危険なものであるという認識でいるらしいためか、靴下ではなくスクッソを直ちにミカンと共に購入しに行こうとする。そして白哉はスクッソが実は存在していたらしいことに仰天し、動揺を隠せずにいた。

 

 そんな彼の心境を無視し、三人はすぐさま実際に存在しているかどうか分からないスクッソ屋に向かおうとするが、その三人の前の進もうとしているところに突然立ち、行手を阻む者が。

 

 

「ここから先は行かせません。貴方達までスクッソを買われては、お嬢様が敗北しかねませんので」

 

「ッ‼︎ 足止めが狙いか……‼︎」

 

 

 バトラーである。彼も魔族で桃とマリンが行っている対決のルールを理解していたため、ミカン達がスクッソによる全体範囲での影響下から逃れようとするのを防ごうとしているようだ。

 

 そして彼もまた、この戦いにのめり込んでいる状態のためなのか……

 

 

「ここを通りたければ……この石鹸とバナナの皮による、私めの封鎖コンボを崩せる手段でも出しておきなさい」

 

 

 何処からか取り出した石鹸とバナナの皮を三人に見せつけ、スクッソ屋への完全に防ぐ態勢を取った。もしや足元を滑らせるつもりだろうか。この意味不明な闘いの中ではこれの方がまだ分かりやすい方である。

 

 

「しまった⁉︎ こ、この鉄壁のコンボはまずいわね……‼︎」

 

「何か……何か打開策はないのか⁉︎ どうすればアレを突破できるというんだ……⁉︎」

 

「……うーん……」

 

「いや、普通に足元に来ることを注意して通ればよくね?」

 

 

 白哉、やっと正論を言うタイミングを獲得できた。言っておいて四人がその通りに動くのかと不安になりながら。ここまで意味不明な展開が流れるように起こっているため、その流れに完全に乗っている四人は聞く耳を立てることすらしてくれなかったのだが。

 

 この状況、一体どうすればいいのだろうか。シャミ子共々未だについていけてない、というよりはついていきたくないと感じている白哉が額に手を当て悩んでいると。

 

 

「あ、あの……三人とも? い、一応こんなのがあるのですが、これでなんとかなったりしますか……?」

 

「無理してこの流れに合わせようとするな‼︎ つーかそれどっから持ってきた⁉︎」

 

 

 先程まで壊れていたシャミ子が、なんとか平常に戻りどうにか合わせようとして、何処からか取り出した紺色のロングコートをミカン達に見せつける。

 

 ルールも理解できていない様子で何か出しておいて大丈夫なのだろうか、白哉の脳内にそのような不安が過っていると……

 

 

「万策尽きましたか……むっ? むむっ? あれは? ………………んなぁぁぁっ⁉︎」

 

「「おぉぉぉっ⁉︎」」「……おー」

 

「うえっ⁉︎ な、なんですか⁉︎」

 

 

 バトラー、シャミ子が持っているロングコートに気づいた途端、何故か絶望に満ちた表情で軽く発狂してその場で両膝をついて落胆。ミカンと拓海は歓喜の声を上げ、柘榴は通常の声音と声質で遅れざまに歓喜。シャミ子は現状と自分が今した行動に理解出来ず動揺した。

 

 

「バ、バカなっ……ロングコートだと……ッ⁉︎ 一定時間直接的な攻撃以外を全く受けない究極の防御札、それを初めてこの対決に遭遇した魔族の方が隠し持っていたとは……‼︎」

 

「すごいわシャミ子‼︎ これならバトラーとやらの封鎖コンボを無力化できるし、スクッソによる被害も受けずに済むわよ‼︎」

 

「すごいぞシャミ子君‼︎ 大手柄だ‼︎」

 

「……ナイスファインプレー」

 

 

 どうやらロングコートは、この対決に置いてはチートと呼べる程の防御性能を誇っているらしく、それが登場したことでバトラーは己よ負けを察し、ミカン達はそれを出したシャミ子を褒め称えることとなったのだ。

 

 

「えっと……私、何かやっちゃいましたか?」

 

「ルールを知らずにやってきたものだから、困るのも無理もねェよ」

 

 

 こうなるとは想定しなかったためか、ロングコートを持ちながら勘違い主人公のセリフのように問いかけるシャミ子。それに対して白哉が目のハイライトを失った様子でそう答えた。

 

 つまりアレだ、半分思考放棄である。逃げるな卑怯者。

 

 

「アドバンストコンボ御用達の『スクッソ』……‼︎ この場面で使ったとなると、一体どんな効果を発揮してくるとでも言うのかしら……⁉︎」

 

 

 アドバンスト、和訳すると上級。つまりはこの対決において、スクッソはそれに慣れた者しか上手く扱えない言葉らしい。

 

 つまるところ、桃はこのような意味不明な対決を何度も経験したと考えられる。だがこのような対決を、誰が桃に教えたのだろうか……一応予想はつくが。「お姉ちゃんの私が教えましたー‼︎ てへっ☆」

 

 何はともあれ、周囲を巻き込みかねないという禁断っぽそうなソレを発動させた桃。横に傾かせた靴下を見せてきたということは、それを用いての技が発動するのと同義───

 

 

 

 かと思いきや。桃はその靴下を投げ捨て、即座にマリンの背後に回り込み抱えるように身動きを封じた。

 

 

 

「ソックス使わないの⁉︎ ねェ使わないの⁉︎」

 

 

 まさかの靴下を用いない行動に移している桃。想定外の行動だったからなのか、これにはマリンも思わず目が剥き出し飛び出そうな程に仰天した表情でツッコミせざるを得なかった。

 

 だが、そのツッコミという名の動揺が、マリンの行動力や注意力を遮るものとなり。

 

 

「スクッソーーーーーー‼︎」

 

「きゃああああああっ⁉︎」

 

 

 ローラースケートの高速機能をオンにした桃に連れ去られ、工場の半壊した壁を利用しての高度なジャンプを体験する羽目に。しかもその時には、昼間の日光に覆い被さる程の高さまで飛んでいた。

 

 飛躍が終わり落下し始める寸前までの間、桃は呟いた。

 

 

「私が先程言ってた『スクッソ』はただの言葉に過ぎないよ。所謂陽動ってヤツ」

 

「ア、アタシはそれに騙されたというの……⁉︎ クッ……アタシのスクッソよりも、アンタのスクッソの方が上だったということね……」

 

 

 最後の切り札のような言葉であったスクッソの効果を警戒し過ぎていたためか、桃の本当の狙いに気づくことが出来なかったマリンは、動きを封じられた中で脱出することが出来ずに桃の思い通りに事を運ばせてしまったことを悔やんだ。

 

 そして……

 

 

桃色の虹風天空落とし‼︎

 

「ぐわぁぁぁあああぁぁぁあああっ‼︎」

 

 

 気がついた時にはもう遅し。桃がマリンを抱き抱えての落下をしながら、身体全体を大きく回転させて周囲に桃色の竜巻を発生。そのまま勢いとそれによる風力を力に変えながら、地面に思いっきり急降下した。

 

 地面に激突した衝撃が大地を揺らし、発生地から強力な突風と砂埃が舞い起こる。

 

 さすがこれは危険だと悟った白哉は、召喚師覚醒フォームになって展開したセイクリッド・ランスを突き刺し、それを杖代わりにして突風に吹き飛ばされないようにと踏ん張り始める。シャミ子はそんな彼にしがみつき同じく踏ん張りだす。他四人は腕で顔を覆っての踏ん張り程度である。

 

 そして震動が収まり、突風がだんだんと止み、砂埃が晴れた時には……

 

 

 

 衝撃によって出来たクレーターの上で、横たわりながら蹲り所謂○ムチャしやがってポーズを取っている、桃のマリンの姿がはっきりとしていた。

 

 

 

 それを見た白哉は……

 

 

「相討ちだーーーーーーッ‼︎ けどなんでッ⁉︎」

 

 

 遂に意味不明な対決に決着がついた安心感を持ちながらも、完全に桃が勝利するだろうという確信を大きく裏切られたことを叫んだ。何故アレで引き分けになったのか、あまりの理解不能さに発した叫びであった。

 

 その叫びというツッコミが終わり、桃とマリンが浴びたダメージに耐えながらも身体を起こす。そしてお互いの顔と視線がピッタリ合ったのを確認すると。

 

 

「………………クスッ」

 

「フフフッ……」

 

「ハハハハハッ……‼︎」

 

「アッハッハッハッハ‼︎」

 

 

 全てをやり切ったことへの達成感からなのか、お互いに曇り無き笑い声を上げた。負けた悔しさなどの負の感情が混ざっていない、透き通った笑い声だ。

 

 

「ハァ〜……いやぁ参ったわね。今のは完全に負けてたと思ったけど、まさか引き分けになるだなんて」

 

「正直私もこうなるとは思ってなかったよ。でも、あの時スクッソを陽動としてではなくそのまま勝負に出すために使おうとしてたら、逆に私が負けてたと思う」

 

「ハァ? なんでよ? こっちはスクッソの効果なんて全然知らないっていうのに」

 

 

 どうやらマリンはスクッソの効果を完全に把握していなかったらしく、対抗させずに使われて負ける可能性を危惧していたようだ。だがそれを否定するかのように、桃は語った。

 

 

「マリンに向けてスクッソを宣言しようとしてた時、スカートのポケットの中に手鏡があるのが見えたんだ。ほら、手鏡って相手の効果の一つを反射させることができるよね? それはたとえあのスクッソでも跳ね返せて一気に状況をひっくり返してしまうから、もしマリンがスクッソを知らずに手鏡を闇雲に使ったとしてもそっちが逆転勝利……って可能性もあったと思う」

 

「あ、あぁ……そう言われるとそうかもね。手鏡は使うタイミングを外しても問題無いヤツだったし、いざという時に賭けとして使うべきかとも考えていたし……」

 

 

 どうやらマリンは効果反射ができるらしい手鏡を所持しており、それによる逆転負けを恐れた桃はスクッソをフェイントとして用いたようだ。

 

 あの対決には運も大きく左右しているらしく、偶然にも桃がマリンの持つ手鏡に気づかなければ、桃が敗北する可能性もあったようだ。その運の良さが一時的にマリンの方が上回っていた、それが引き分けに繋がったとも言えるだろう。

 

 マリンはそれを理解したのか『フゥ……』と一つ息を吐き、立ち上がってはゴスロリ衣装についた埃を軽く払った。

 

 

「けどまぁ、それはアンタにとってはいい闘いになった……って認識でいればいいのね?」

 

「うん。結構楽しかったしね」

 

「そう……なら文句はないわ。だってアタシが負けたってわけじゃないし‼︎ アンタは勝てなかった、その事実に変わりないみたいだしね‼︎ フフンッ‼︎」

 

 

 勝ったわけではないが負けたわけでもなかった。その事実にマリンは喜ばしいと思ったのか、胸を張ってこの結果に満足している様子を見せた。その反面、『勝ちたかった』と当然の想いは考えてはいるようだが。

 

 しかし、それでも。

 

 

「………………アンタがこの町にいてくれて、本当によかったと思う」

 

「えっ?」

 

 

 桃と闘えたことに後悔はなかった。

 

 

「正直に言って、アタシはアンタの姉・千代田桜だっけ? この町を魔族と魔法少女が共存できる町にしたその人が見かけなくなったことを、この町に来た時に調べた時に知って、ここに安心して住めるのかって……不安になってた」

 

「そっか……それも仕方ないよ。姉は色々と凄かったから」

 

 

 桜の事。この町の事。その二つに対する不安を呟くマリンに、桃も自分も同じ心境だという弱音を吐く。しかし、マリンの表情には負を表す部分は無く、寧ろ安堵しているように微笑んだ。

 

 

「けど、アンタと闘って分かったわ。その心配は余計な事だったって」

 

「えっ? なんで?」

 

「アタシが想像してた以上に、六年後の今のアンタの強さが計り知れなかったってことよ。どんな経験をしてそこまで強くなったのかは知らないけど、今ならはっきりと言えるわ。……アンタは、千代田桜が居なくても町を守れる程に充分強い。アタシが勝ったのはただの強運だった……もう天晴れとしか言えないわね」

 

「マリン……」

 

 

 マリンは桃が強くなったことを良く思っているらしい。桜の妹である彼女が強ければ、町の平穏が崩れることはない。そう安心できるようになりたいと考え、あの対決の再戦を申し入れた……先程の彼女の言葉からそう捉えられることだろう。

 

 そして実際、桃は以前よりも力を増した。同じく強くなった自分の強運とも互角になる程に。悪運を押し返せる程に。

 

 だがその事実を、桃は首を降って否定した。

 

 

「ううん、私は強くなってないよ」

 

「は? どういうことよ?」

 

「色々あってね。姉の行方を探していく内に何もかもがどうでもよくなってきた時期があって、それで魔法少女をしなくなって……そこから弱くなっていってたと思う。他にも弱くなった理由はあるけど」

 

「えっ……弱くなったって思ってるの? アタシとの久々の闘いで引き分けに持ち込んだのに?」

 

 

 マリンはショックを受けた。弱くなったと言い出す桃に勝てなかったという事実に。

 

 桃には魔法少女としての活動が疎かになっていたかのような時期があった。だがそれでも彼女は前に闘った時よりも強くなったのだという実感がある。

 

 そこでマリンは気づいたのだ。自分はもしや、桃との闘いで何かしらの勘違いをしていたのではないかと。本人は勝たせないために騙そうとしていたわけではなさそうだったが。

 

 そう心の中で落胆するマリンを他所に、桃は白哉やシャミ子の方を見ながら語る。

 

 

「でもね。シャミ子や白哉君達と会って、町の景色が良く見えるようになって、新しい目標が出来て……それからかな、みんなのいるこの町を護っていきたいって思えるようになったのは。その意思がはっきりしたからなのか、いつもよりも活発になってきたんだと思う。みんながいてくれたから、この町があるから、私はマリンに強くなったと言ってくれる程に……魔法少女としての本当の自分を取り戻せた」

 

 

 シャミ子との出会いを機に、様々な経験をしていく中で新たな幸せをいくつか手に入れることができた。そして桜を行方を探す代わりとして、多摩町の一角にいる親しみのある者達を護るという目標を見つけることができた。

 

 桃はこの半年で、かつての自分を取り戻し、新しい自分を見つけた。そこからの自分や今日明日を楽しみに過ごすようになった。それをとても喜ばしく感じていっているようだ。

 

 だからこそ……と、桃は再びマリンの方を向き、笑顔で宣言した。

 

 

「だから護っていきたいんだ。この町の、全てを」

 

「桃……」

 

 

 この時。桃のこの言葉と表情で、マリンは悟った。自分が孤児院に来てから……否、孤児院に来る前から、桃がどれほどの人生を歩んできたのかを。

 

 そんな彼女に答えるように、マリンは溜息をつきながら語る。

 

 

「ハァ……それに根詰まってたら、一人で抱え込まないでアタシやその仲良しな人達に相談しときなさいよ。それで解決出来ずに失敗とかしてしまったら本末転倒だし、何よりそれで抱え込んでたらアタシがぶん殴ってやりたくなっちゃうからね」

 

「マリン……」

 

 

 何処か素直なところが見えないながらも、桃のために何とかしようと考えているマリンの気持ちは本物であった。目を逸らさずまっすぐ見つめているのが何よりの証拠だ。

 

 その想いに気づいたのか、桃は思わず零れるように笑った。

 

 

「フフッ……素直なのやら、そうじゃないのやら」

 

「う、うっさい」

 

 

 指摘されたことで恥ずかしく感じ始めたのか、素っ気ない態度で照れ隠しをしながらそっぽを向いたマリン。だがこれ以上本心を隠す意味はないとも思っているのか、すぐに桃の方へと向き直し、彼女に手を差し伸べた。

 

 

「まぁとにかくよ。町の一員になるからには、アタシも色々と協力してあげるから感謝なさい。ってなわけで、これからよろしく」

 

「うん。こちらこそこれからよろしくね」

 

 

 桃がその手を取ったことで握手は交わされ、こうして新たに魔族が多摩町に加わり町はさらに賑やかになるのだった。この光景にバトラーはしんみりときたのか、目尻に浮かんだ小さな水の鱗をハンカチで拭った。

 

 そして、この光景を見た白哉は……

 

 

「訳の分からない闘いが無ければ、もっと感動してたと思うけどな……」

 

 

 正論である。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その39

シャミ子「結局……あの闘いは一体何だったのでしょうか……」
マリン「気になるかしら? アレはセクシーコマンドバトルっていうヤツよ」
シャミ子「セ、セクシー……?」
マリン「セクシーコマンドというのは、千四百二十八年の室町時代の日本において、室町幕府の悪政によって苦しい生活を強いられた農民達が田楽づくりの片手間に、憂さ晴らしに始めた遊びから発祥したとされる格闘技───」
桃「違う違う、私達のあの闘いはセクシーコマンドじゃないよ」
マリン「アラ? そうだったかしら?」
桃「確かナカヤマワンちゃんゲームだったと思うよ。行動のその裏の行動を読み取り、そこからだんだんとポイントを稼ぐ───」
マリン「それ、犬がいないとできないヤツじゃなかったかしら? 名前からしても」
桃「あ、あれ? えっと……何だったけ?」
シャミ子「えっ……まぞくと魔法少女の伝統ある闘いなのに、名称を忘れちゃってるんですか……?」
桃「名称の方はしっかりと表記されてないんだよね……多すぎて曖昧すぎるというか」
マリン「どれが正しいのか分からなくて、もうどうでもよくなっちゃったわ」
シャミ子「えぇ……」(汗)



俺、なんでこんな回を作ったんだろう……
 
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