偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語   作:名無しのモンスター

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あのかわいらしいラッコを食べるとか考えられねェ……ってことで初投稿です。

今回はあの漫画のホモな回のパロ回です。同性愛は大の苦手だけど、実際に同性愛で恋愛してるわけじゃないしパロ回自体は面白いので……


男女八人、密室。ラッコ鍋。そして枕。何も起きないはずがなく……

 

 とある豪邸らしき館。その一室にて、一人の少女が机の前に座って腕を組み、何か悩んでいる様子を見せていた。

 

 

「むぅ〜……こっちの方がいいのかしら? いやそれとも……」

 

 

 何かしらの海の生物の魔族、マリン・フォールズである。

 

 彼女は魔族である自分と従者であり同じ魔族であるバトラーが、魔族である身分を隠しながらの生活をしなくて済めるよう、多摩町に引っ越してきたのだ。

 

 そこでなんやかんやとあって桃と再会し、彼女とのリベンジマッチで引き分けに持ち込み、町の一員として桃に協力することを約束した。

 

 今では町の者達との親睦を徐々に深めていっており、早一週間でこの町に馴染めるようになった。『あすら』と『本の祭典 スカーレット』を気に入っており、一度訪れてからは今日この日まで毎日通っている程だ。

 

 そんな彼女が今、何故自分の部屋で悩んでいる様子を見せているのかというと……

 

 

「引っ越し蕎麦の代わりのヤツ、彼女達にあげるとしたら一体何にすればいいのやら……」

 

 

 引っ越しの挨拶品として、桃達に渡すものは何がいいのかを試行錯誤していたのだ。実は未だに引っ越し蕎麦となり得るものを町の人達に渡しておらず、蕎麦の代わりに渡すものを必死に考えているようだ。

 

 

「何故そこまでお悩みになられるのですか? お言葉ですが、日本の風習に習って蕎麦をお渡ししても町の皆様は何も不満は持たないかと」

 

 

 バトラーが多摩町の者達の人の良さを考慮しての指摘を入れてきたものの、マリンはそれを理解した上で首を横に振った。

 

 

「確かにこの町の人達なら……いやそうじゃなくても、みんな引っ越し蕎麦を渡されても何も文句を言わないとは思うし、寧ろ喜ぶ人だっていると思う……けど」

 

 

 そこまで呟くと、マリンはハァッと深く溜息をつき、頬杖をつきながら再び口を開く。

 

 

「それはさすがにベタだと思うから、どうしても他のヤツで喜ばせたいと思っちゃうのよね……」

 

「……テンプレートが嫌で、ですか……」

 

「そ。そういうことよ」

 

 

 世間と並んで同等に引っ越し蕎麦を送る、ということ自体がマリンの性分に合わないらしい。そのため彼女は他の挨拶品で最悪にも妥協という形で送るつもりでいるようだ。

 

 

「で、とりあえず個人で渡すものは決まってるわ。桃は料理に苦戦してるっていうから、初心者でも簡単に料理できるものを色々渡すことにしたわ。シャミ子はNintendo Switchのソフト……」

 

「ん? あの……? お言葉ですが、桃様との品質の良さでの差が大きすぎるかと……」

 

 

 マリンが個人に渡そうとしている挨拶品の差に気づいたのか、バトラーがその事を指摘を入れる。それを聞いたマリンもそれを自覚しているためか、申し訳ないと思っているかのような渋い表情を浮かべていた。それもこの場にいない桃に向けているかのように。

 

 

「そうは言われても……シャミ子、夏に入る前までは貧乏だったそうだし……今でもちょっとそんな感じみたいだけど。なのにNintendo Switchはあの子の彼氏……白哉からの貰い物で、課金してるかもだけど無料ダウンロードソフトしかそれでプレイしてないとなると、ねェ……?」

 

「は、ハァ……」

 

 

 どうやらマリンにはとある性分を持っているようだ。貧乏人相手ではどうしてもいつもよりもより良く接しないといけない、と。それが他の者に渡した挨拶品との差を大きく作らせてしまったようだが……

 

 

「さてと……他に誰に何をあげるのかは決まったわ。後は団体にあげる物がね……」

 

「団体で? ……あぁ、みんなで使ってもらいたい物を渡したい……ということなのですね?」

 

「そういうことよ。一応パーティーゲームも考えているのだけど、それを挨拶品として渡していいものなのか……」

 

 

 マリン曰く、一人一人に渡す用の挨拶品は用意してはいるものの、複数人で使うなどして楽しめるものも用意したいらしく、それをどのようなものにして渡すつもりでいるのかで悩んでいるようだ。

 

 引っ越しの挨拶品をどのように渡すのかは個人の自由ではあるが、どのような想いを持って用意するのかという発想で、ここまで真剣に悩むことは早々ないことだろう。それほどまでに、マリンは真面目かつ真剣ということなのだ。

 

 

「うーん……蕎麦にしないにしても、やっぱりグループ用の量の食べ物を渡した方がいいのかしら? みんなで食べる食事は美味しくなるというし……」

 

「それならば、お鍋の具材となるものはいかがでしょうか。今は中々に冷える冬の季節ですし、ちょうどよろしいかと」

 

「鍋の具材……なるほど、その手があったのね。それなら蟹とかランクの高い肉とかを用意したいわね。……あ、でもちょっと待って? お金は足りるかしら……」

 

 

 バトラーからの提案を採用し、鍋の具材として何を渡すのかを考慮し始めたマリン。そこで出費の話が出てきたことで、バトラーは疑問に感じたのかその場で首を傾げながら彼女に問いかける。

 

 

「出費ですか? 旦那様と奥様の会社の稼ぎ具合から見ても、フォールズ家からの出費はさほど問題ないかと……」

 

 

 実はマリンの父親はとある大企業の社長で、母親もその会社に勤めているらしい。大企業のトップとして働いている者の収入はかなりの額であるため、そこからの多少の出費も許されるだろう。バトラーはそう語る。

 

 

「……? 自分の持ち金の話をしてるのだけど?」

 

「!?」

 

 

 ところがどっこい。マリンはその企業の稼ぎを使用せず、自身の持ち金で挨拶品を用意していたとのこと。両親からの援助を一切していないという彼女の言葉を聞き、バトラーは予想してなかったのか驚愕で目を見開いた。

 

 

「も、もしや……自腹で全ての挨拶品をご用意なされていると……⁉」

 

「何よ、そんなの当たり前じゃない。自分で用意するものは自分の手でなんとかしないと将来に響くから、大人になる前から一からそうしないといけないでしょ。ただでさえお父様やお母様から結構な額のお小遣いを貰ってるってのに、そこからさらに貰うとかたまったもんじゃないわ。借りるってなら時間が経つに連れて返すのを忘れ、その後が大変なことになるのだから尚更よ」

 

 

 正論。大人としての正論。お金の管理云々に関する常識を淡々と吐くマリンに対し、バトラーは彼女の誠なる真人間としての対応に呆気に取られたままである。

 

 

「(お、お嬢様が、私の知らない内にさらに大人に……⁉ こ、これは従者としてかなりの盲目……!!)」

 

 

 そして四つん這いになり、彼女の精神的に見事な大人っぷりと、その成長に気づかずにいた自分に落胆した。ドンマイ、バトラー。

 

 が。そんな彼を他所に、マリンは何かを思い出したのか声を上げながら勢い良く席から立ち上がった。

 

 

「あっ‼︎ そうだわ‼︎ レアな食材ならアレがあるじゃない‼︎」

 

「……お嬢様?」

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 

 

「というわけでこれ、鍋にしてみんなで仲良く食べなさいな」

 

「えっと……これは?」

 

 

 マリンは桃に青いリボンで包装された化粧箱を差し出した。桃はその箱の中身に興味を示すも警戒もしているため、恐る恐るマリンに中身について即座に問いかけた。

 

 

「聞いて驚きなさい……最近お父様が取引先で貰った、ワイルドラッコというラッコの肉よ」

 

「へ、へぇ。ワイルドラッコって種類のラッコなんているんだ……ん? ラッコの、肉?」

 

 

 ワイルドラッコという、現実世界に存在しないどころか誰も耳にしたことのない摩訶不思議なラッコが、肉となって渡された。その現状に桃は動揺を隠せずにいた。

 

 

「なんかアラスカの一部地域や昔のアイヌではラッコを食べてたらしいわよ? あ。ワイルドラッコは普段のラッコよりも見た目が凶暴で、海から出たりして色んなものを片っ端から取っては、水の上でお腹でカンカンと壊す習性があるのよ。結構被害を出すらしいし、ガチモンの猛獣みたいな顔して可愛くないから、食べても問題ない……はず。あ。『はず』と言っても毒とかは一切無いから、安心して調理して食べられるわよ?」

 

「ラッコを、食べる国、あるんだ……」

 

 

 マリンがワイルドラッコについて淡々と話している中で、桃はラッコが食材として使われている国があることに驚きを隠せず、その動揺の表情を顕にしていた。

 

 桃は特段、ネコ科みたいにラッコに愛着を持っているわけではない。だが、エサをお腹で割って食べやすくしている仕草や、皆を見つめる円な瞳には愛嬌があると思ってはいる模様。それ故に、ラッコを食材にするということに多少の抵抗があるようだ。

 

 しかし、だ。

 

 

「……味はどうなの?」

 

 

 興味本位が、実際のところを聞こうとする意欲を引き立ててしまったようだ。恐る恐るマリンに問いかける。

 

 

「なんか脂が少なく肉は硬めらしいわよ。燻製にすると、臭みもなくてトロトロと溶けるようにして胃の中へ入って、まるで柔らかい極上の薫製ステーキになるとか」

 

「らしい……? だとか……?」

 

 

 まるで食べてないから憶測しているのだと言っているかのような発言に、桃は首を傾げた。本来ならば、未知の食材を渡す前に先に食していてもおかしくないところなのだが、もしやマリンは……。そんな一種の不安が桃の脳内に過ぎる。

 

 

「マリンは食べたことがないの? ラッコのお肉」

 

「お土産を受け取る人よりも先に食べるとか、なんか失礼に感じない? 渡したいものは受け取る人達に占拠してほしいって思うわ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 予想的中、マリンはラッコを食べたことがないようだ。本人が食べたことのないものを受け取って良いものなのか、桃がそんな不安を抱えていると。

 

 

「あっ⁉︎ もうこんな時間‼︎ ごめんなさい桃。アタシ、この後『本の祭典 スカーレット』の人達に引っ越しの挨拶品を渡さないといけないから‼︎ それじゃ、それみんなで食べてね‼︎」

 

「あ、ちょ……」

 

 

 どうやらマリンはこの後の予定があるらしく、少々急ぎ気味のようだ。それによって彼女はワイルドラッコの肉の入った化粧箱を桃に押し付けるように手渡し、そのまま『本の祭典 スカーレット』の方へと走り去ってしまった。

 

 反射的にその箱を受け取ってしまった桃。だがマリンに悪意がないことを理解すると。

 

 

「……食べても問題ないなら、いっか」

 

 

 この時、桃はまだ知る由もなかった。このラッコの肉が、想像のつかない状況を作ることになるということに。

 

 

 

 

 

 

 その日の夕日が沈み始めている時間帯、柘榴宅にて。桃は白哉・シャミ子・ミカン・拓海・杏里・勝弥・後に合流する柘榴の八人で、ワイルドラッコの肉を使った鍋を囲むこととなった。

 

 白哉・シャミ子・ミカンは桃と同じばんだ荘で暮らしているため、拓海は悪霊退治の帰りに遭遇したため、杏里と勝弥はラッコの肉がどんな味がするのか気になるとのことで、柘榴は桃がみんなで分けるための食材を用意してくれたとのことで、ラッコ鍋を食べることにしたようだ。

 

 ちなみにシャミ子は最初はラッコを食べるということに抵抗があったようだ。しかし、ワイルドラッコについて調べてみたところ、その生態と凶暴すぎる見た目から食べることに対する抵抗心が減ったとのこと。

 

 そして柘榴は多摩川の山地の泉で霊水を汲みに行っているらしい。桃のダークネスピーチの変身が解除出来ずにいた時のための最終手段を完備させるためだとか。

 

 食材にされることのないラッコの肉とのことで、料理を作ることが大好きなリコも食いつくのかと思いきや、彼女は鍋パーティーの参加を見送った。断りを入れた理由を聞くも教えてくれなかったようだ。

 

 そんなリコの表情を見て何かを察したのか、ウガルルもラッコ鍋パーティーに参加せず『あすら』の手伝いをすることにした。一番食欲が溢れているはずの彼女が参加しないことに皆疑問を感じるも、無理強いはいけないとのことで、蓮子が同行する形で『あすら』の手伝いをすることを許可した。今頃二人は皿洗いしていることだろう。

 

 

「おっ。ちょうど煮込み切ったところじゃないのか?」

 

 

 そんなこんなで始まったラッコ鍋パーティー。グツグツと程よく変色して野菜云々と共に煮込まれたラッコ肉を見て、白哉が開始の予兆を呟く。

 

 

「ちよももがマリンってまぞくに貰ったラッコ肉……なーんか独特なニオイがするなぁ……ホントに食べられるものなの? ラッコって」

 

「そうじゃなかったら、千代田さんもラッコ肉を使わなかったどころか貰わなかったと思うし、問題ないんじゃねェの?」

 

「あぁ……それもそっか」

 

 

 煮込まれているラッコの独特な獣の匂いから、杏里はラッコを食しても問題ないのだろうかと疑心を持つも、勝弥が桃の判断によって使われているのだから心配無いと発言したため、納得して一息つき、ひとまずの安堵を零した。

 

 

「とりあえず食ってみようぜ……ミカン。お前はレモンは自分の分にだけかけろよ。まだ素のラッコ肉の味が全然分からんのだから」

 

「さ、さすがにまだ入れたりなんてしないわよ? 私もラッコなんて初めて食べるし……」

 

「……『まだ』?」

 

 

 ミカン、白哉にレモンの即投入を警戒されるも、本人もさすがに自重することを明かす。ホントに自重してくれるのだろうか……周囲も思わずそのような一抹の不安を抱える。どれだけ人の食べ物にレモンとかを掛けたのだこの柑橘類女は。

 

 

「とりあえず出来たことですし食べましょう。いただきます‼︎ はむ……─────────あっ。意外とあっさりいけますよ」

 

「お前また宇宙の捲れを見たな?」

 

 

 シャミ子をラッコ肉の一口目を口に入れた途端に頭の中がキャパオーバー。初めての食感と味によって脳内に宇宙の捲れが発生。数秒硬直してしまった。その数秒後に正気を完全に取り戻したが。

 

 シャミ子の頭がキャパオーバーする程の美味しさ。彼女のその反応に何やら期待を感じたのか、警戒していた者達も次々とラッコ肉をよそって食べ始めた。

 

 

「あっ。でも確かにいけるじゃんこれ。脂が少ないみたいだし、噛みごこちもある」

 

「思ったよりも食べやすいな」

 

「アラホントだ。そのままでも結構いけるわね」

 

「確かに。思ったよりも美味しい」

 

「中々良い味がしてるじゃないか」

 

「もう……美味ェなこれ。まさかの語彙力を失っちまった」

 

 

 あらまぁこれはかなり評判がよろしいことで。ラッコ肉から伝わる食感と味が白哉達の口に合い、次々と鍋に箸をつついていく。

 

 だが、その数分後。事件は起きた。

 

 

「(んん……? なんか変だ……)」

 

 

 桃はとある違和感に気づいたのか、しきりに目を擦る。

 

 

「(どう見てもシャミ子と白哉くんが、色っぽく見えてきてる……)」

 

 

 白哉もシャミ子も元から個人的な色気があると、周囲から陰ながらの大評判があるらしい。が、今、湯気越しに見える二人のその表情は普段の物とは違っていた。例えるなら、露天風呂に入っている美貌のある人間がやけに大人びていた時のような。

 

 

「(な、なんでだろうか……なんだかおかしいぞ……)」

 

「(あっ……奇遇ですね、私も似たような事を考えてました……)」

 

 

 白哉が首を回しながらとある違和感を持ち始めたことに気づいたのか、シャミ子が何故か荒くなった呼吸を深呼吸して抑えながら自分も同じ気持ちであることを白哉に目で訴えて伝える。そして目を泳がせながら周囲を見回しながら問いかける。

 

 

「(びゃ……白哉さんは、私以外に誰が魅力的に見えるとか、思っているのでしょうか……?)」

 

「(えっ? あっ、いや……いいのか? この事で、お前以外の事を言っていいものなのか……?)」

 

 

 自分以外に誰に色気があると感じているのか、そのような問いかけをするシャミ子に、白哉はそれに答えることが出来ないと訴えかける。

 

 本人が許可しているとはいえ、自分に対して愛情が強い行動をしたり被害妄想をしたりする彼女に他人の事がどうのこうのについて話してもよいものなのか……そんな不安が白哉の頭の中で過っていたようだ。

 

 

「(さ、さすがにこればかりは、私も白哉さん以外の人を、その……そういう目で見てしまったので、お互い様かと……ホラ、ミカンさんだって鍋を食べる前よりも肌が艶やかになってるように見えるようになっていますし……)」

 

「(……マジかよ)」

 

 

 白哉は驚きを隠せない表情を浮かべる。まさかのシャミ子も、同性とはいえ自分以外の人に対して魅力的だと思い込んでいる視線を向けていることに、意外性を感じたからだ。

 

 

「(じゃ……じゃあ言わせてもらうけどよ……杏里がその、汗も滴る良い感じの女性になってるように見えるんだよな……)」

 

「(あ、あぁ……杏里はスポーツ女子ですし、その気持ちは分かります……)」

 

 

 恐る恐る杏里を一目見て思ってしまったことを明かしたところ、シャミ子も前から似たようなことを考えていたのだと語る。白哉以外で初めて出来た親友で、白哉と絡んでも勘違いされることのなかった者だからなのか、何か思うことでもあったのだろうか。

 

 

「白哉君、シャミ子君、桃君。三人ともどうしたんだい?」

 

 

 白哉とシャミ子だけではなく、先程からいつも様子の違う桃にも気づいたのか、拓海が鍋を食べた時に身体に出来た熱を冷ますために持ってきたといううちわを仰ぎながら問いかけると……

 

 パァンッという破裂した音と共に、彼が着ていた白いワイシャツの胸元のボタンが弾けた。それが一瞬の勢いで桃の方に向かって飛んできたものの、彼女は『あぶなっ』と呟きながら何事もないかのように右手で軽くキャッチした。

 

 

「あっあれ? なんでボタンが取れたんだ?」

 

 

 ボタンが弾けた原因はボタンの糸の劣化である。拓海が太ったわけではない、決して。

 

 そんな理由など気にせず、彼のはだけた胸元を見たミカンは、汗まみれとなって流れてくる汗で照らされているそれに、思わず息を飲んだ。

 

 

「(この陰陽師……スケベすぎるわ‼︎)」

 

 

 以前から拓海に対して特別な感情を抱いていたミカンであるが、この時は心臓の温度の高まりもあってか、頬の熱も上がってきたのを感じていた。

 

 

「な、なんだ……? なんか、頭がクラクラする……」

 

 

 吐息がかった声がした方向を白哉が凝視すると、勝弥が頭を右手で抑えながら俯いていた。その姿に気づいた桃もすぐさま彼の元に駆け寄った。

 

 

「だ、大丈夫か勝弥⁉︎」

 

「横になって‼︎ 今すぐ‼︎」

 

 

 勝弥の身を案ずる二人の焦り声に釣られ、シャミ子達もすぐさま彼の元に寄る。そして皆で彼がこの部屋で仰向けになれる程の床のスペースを作り、そこに彼を優しく押し倒した。

 

 

「胸元を開けて楽にした方がいい‼︎」

 

「下も脱がし……いや全部よ‼︎ 全部脱がした方がいいわ‼︎」

 

「いやさすがにパンツは履かせたままにしなよ⁉︎ あっでも結構いい体つき……ゴクリッ」

 

「杏里ちゃん⁉︎ 勝弥くんの身体がいいのは分かりましたけど、とりあえず落ち着きましょう⁉︎ その残そうとしてるパンツに手を掛け始めてますよ⁉︎」

 

 

 ラッコ肉を食べたことが原因だからなのか、まともな思考力を持ってしての対応をしようとする者は少数しかいなかった。その中には、異議申し立てようとした者も、思考力が低下したことがはっきりとしている意見を出してしまう程だ。

 

 ボディビルダー程ではなくともしっかりと筋肉がついている勝弥の裸となった上半身を見惚れ、思わず息を飲みながらパンツに手を掛けかけた杏里。

 

 だが彼女だけに飽き足らず、この場にいる者全員の瞳には、不思議なことに勝弥が生半可な女性より色気付いているように映っていた。

 

 普段勝弥を見ても感じるはずのない何かに堪えながらも、白哉達が彼の介抱に夢中になっている中、部屋の扉が開く音がした。

 

 

「誰だ?」

 

「……ハァ、まだ乾いてないや……あ、お待たせ」

 

「柘榴さん?」

 

 

 部屋に入ってきたのは、何故か水に濡れていた髪をかき上げている柘榴だった。よく見れば上半身も濡れており、そのためか行きの時に着ていた黄緑色の少々薄めのジャンバー・藍色のワイシャツ・下着のシャツを脱いで上半身裸になっていた。

 

 ラッコ肉の蒸気に当てられて身体が火照っていた白哉達の目には、彼のその姿からあまりに妖しく映る色気を放っているように見えていた。生唾を飲み込み、濡れたシャツなどをハンガーに掛ける柘榴の身体を熱っぽく見つめた。

 

 

 

 

 

 

 その頃。フォールズ家のマリンの部屋にて、引っ越しの挨拶品を全て配り終えた疲れでベッドに横たわっているマリンの目の前で、バトラーが直立したまま目を丸めていた。

 

 

「………………あのワイルドラッコを桃様に渡した、ですか?」

 

「そうよ。普段のラッコと違って絶滅危惧種かつ保護対象ってわけじゃないから、食べても問題ないはずよ。というかそうじゃなかったら、お父様が手に入れる前から肉にする事自体なかったと思うし」

 

 

 バトラーはマリンに、桃に団体用として渡した挨拶品の中身──ラッコ肉の事について問いかけていた。そしてその中身の事を知り、それをマリンが桃に渡したという事実に、何を思ったのか硬直してしまったのだ。

 

 冷静さを取り戻したバトラーは、呆気に取られていた影響でずり落ちそうになっていたままの片眼鏡を掛け直しながら呟いた。

 

 

「ハァ……法律に触れてないことは確かですが、それでも厄介なことになりましたね」

 

「えっなんで?」

 

 

 片眼鏡をクイッと持ち上げ、マリンの問いに答える。

 

 

「……アイヌの言い伝えでは、『ラッコの肉を煮る時は必ず男女同数で部屋にいなければならない』と信じられております。ラッコを煮沸した時に生じた臭いは人間を欲情させ、一人でいた場合は気絶してしまう程だからだとか」

 

「へぇ、そうなのね。そんな言い伝えがあるだなんて知らなかったわ………………………………って、えっ?」

 

 

 バトラーの情報源から聞かされた、ラッコ肉に関するウワサ。それを聞いたマリンは思わず呆然とした表情となり、その表情に合った呆け声を上げた。察しがついた、と言った方が正しいのか。

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい? ってことは、よ? そのラッコ肉が欲情を刺激させるということは、アタシにそれを鍋の具材に勧められて受け取った桃と、それを食べることにした人達って今……」

 

 

 恐る恐る、マリンは大抵想像がついていた結末を問いかける。それに対してバトラーは即座に肯定するように頷き……

 

 

「ラッコ肉の匂いによって発情中。状況次第では挙げ句の果てには……交り合ってるところでしょうね」

 

「ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ァ ゙ア ゙ッ ゙⁉︎」

 

 

 時間帯的に想像できるだろう事を話すと、マリンは思わずベッドをダンダンッと叩き込みながら悶絶する。善意を込めて手渡したラッコ肉が、周囲の欲情を引き出す災厄である鍋の具材として、桃だけでなく彼女の友人達の元へと渡してしまったのだ。自責の念に駆られるのも無理もない。

 

 

「ど、どうする⁉︎ い、今すぐ止めに行く⁉︎ い、いやでも、時間帯的にみんなもう食べてるでしょうし……というかもう手遅れじゃ……せ、せめて望まぬNT○は起きないでェェェェェェッ‼︎」

 

「(お労しや、お嬢様……)」

 

 

 ラッコ鍋をしている桃の元へと向かうかどうとかで、ベッドのカバーやシートが落ちる程の悶絶具合で激しく葛藤するマリン。そんな彼女を見つめているままのバトラーは、心の中で彼女の身を案じる他なかった。

 

 というかその台詞、前にも聞いたな?

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、柘榴宅。多摩川の山地の泉で霊水を汲み終えた家主の柘榴が白哉達と合流していた。何故か上半身が濡れていたため、桃に渡されたタオルでその身体を拭いている。

 

 

「あの……なんでさっきびしょ濡れだったんですか? 今は汗まみれになってますけど……」

 

 

 細身でありながら筋肉が引き締まっている柘榴の身体を凝視しながら、白哉は彼にそう問いかける。自分よりも筋力がついている気がして羨ましい、そんな邪なことを考えながら。

 

 

「……泉に着くまでは、特に何の問題もなかった。水を汲もうとしたところで、足を滑らせて……それで上半身だけ入っちゃった。奥底に頭ぶつけなかっただけ、まだマシだけど。ズボンはここに着く前に、もう乾いた」

 

 

 泉の中に頭から突っ込んでしまった数分前の自分を思い出したのか、柘榴は額に垂れ流れている汗をハンカチで拭き取りながら苦い表情を浮かべる。表情の通りの苦い思い出だったのだろうか。

 

 

「……それよりも」

 

 

 シャミ子がよそったラッコ肉の味を噛みしめながら、柘榴は桃を見つめていた。彼女は既に上着として着ていた黄土色のワイシャツだけでなく『シンプルな黒いTシャツ』までも脱いでおり、下着の上に着ているシャツ一枚のみとなっていた。

 

 寒い季節とは反面になる程、ラッコ鍋の具材や蒸気が暑かったのだろうか。否。これもラッコ肉の欲情を刺激する効果の影響元である。

 

 

「……桃。なんか、ほんのちょっと見なかっただけなのに、急に……色っぽくなってない?」

 

「ッ……‼︎」

 

 

 桃、いつものように柘榴に直球の誉め言葉によって顔を真っ赤にする。

 

 だが、この時の彼女はいつもと違っていた。鍛え上げたことによって出来ている、スリムで筋肉質のある美しいその身体を、流れている汗が透き通りのある艶を出してより魅了的な女性っぽさを引き出していた。

 

 

「や、やめてよ。恥ずかしい……」

 

「(かわいい)」

 

「(かわいい)」

 

「(かわいい)」

 

「(かわいい)」

 

「(かわいい)」

 

「(かわいい)」

 

 

 さらに照れ臭そうに腕で顔を隠す仕草が、本人の意思に関係なく白哉やシャミ子達に『尊さ』というものを見せしめていた。かわいい。

 

 いつもよりも色気のある艶を放つ桃を凝視したことにより押し寄せてくる、未知の感覚に呑まれぬよう肩で息をしながら、気を紛らわそうと決めたミカンの視線は、そのまま柘榴に移った。

 

 

「そういう柘榴さんも、前よりいい身体になってないかしら? 上半身裸なのを見るのはこれが初めてだけど」

 

「……そう? 細身だから、自分でもよく分からない。みんなはどう思う?」

 

 

 細身でありながらも引き締まっている、その筋肉がついた右腕を曲げ、力瘤を作るように注力する柘榴。その動作によって軽く飛び散った汗が光沢のように輝き、白身の肌から曝け出されている筋肉に光が加えられる。

 

 その姿を直視した桃・白哉・シャミ子の三人は神々しい物を見たかのように目を伏せ、同時に六人全員、さらなる昂りが迸ってくるのを感じ息を荒げ出していく。

 

 

「(何なんですか……何なんですかこの感情は⁉︎ 身体ではダメだと訴えているのに、抑えきれない……‼︎)」

 

「(少しでも気を緩めてしまったら……気づかぬ内に、とんでもないことをしそうだわ……‼︎)」

 

「(こんな気持ちになるのは初めてだ……‼︎ みんながいる中で、どうやってこの変なのを発散させりゃあいいんだよ……⁉︎)」

 

「(辛い……苦しいというわけではないけど、ムズムズが治まりそうにない程に辛い……‼︎ どうやって落ち着かせればいいんだ……⁉︎)」

 

 

 皆が皆、感じたことのない謎の昂りを必死に堪えようと眼を瞑っているが、抑えきれずに悶々と苦悩に支配されていく。

 

 この中で唯一、ラッコ鍋の催淫による多大な被害を受けていないのは、杏里の隣で横たわっている勝弥だけである。途中でラッコ肉の匂いの強さに負けて寝転がっており、白哉達よりもラッコ肉を口にしてないのが不幸中の幸いだろう。それでも、のぼせたかのように吐息を吐いてはいるが。

 

 一方の白哉達は、悶々と湧き上がってくる欲情をどう解消すべきかと激しい苦悩に追い込まれていた。このままでは良からぬ手段を不本意ながらも執り行う羽目になり、取り返しのつかないことが起きる可能性も生じてしまう。

 

 この状況、果たしてどう対処すべきか。皆が皆、悶々としながら葛藤している中で、桃があるものに気づく。

 

 

「ざ、柘榴……そのデカい紙袋に入ってるの……何?」

 

「……あ、これ? ……あぁ、バレちゃったか」

 

 

 柘榴の後ろに置かれてある巨大な紙袋に入ってるのは、うつ伏せに身体を伸ばしながら寝転がっているたまさくらちゃん。つまりこれは……

 

 

「……たまさくらちゃんの抱き枕。本当はサプライズとして、どっかで桃にあげようと思ってたけどね」

 

「そ、そうなんだ………………ん? 枕……?」

 

 

 今後プレゼントされるはずだったと聞かされ、思わず口を右手で覆って照れ隠しをする桃。だがすぐに何かに気づいたのか、コテンッと首を傾げた。

 

 

「そ、それだ‼︎」

 

「ん?」

 

 

 ハッと何かを思いついたのか、桃はそう叫んでから突然ダークネスピーチに変身。華麗に舞う仕草で飛び散った汗で光沢を放ちながら、マントの内部から枕をドサドサと取り出した。

 

 四次○ポケットに近い能力で取り出されたその枕の数は、なんと七個である。つまり、横たわっている勝弥以外全員分の枕が用意されたのだ。

 

 

「うおっ⁉︎ マ、マントからすごい数の枕が出てきやがった⁉︎」

 

「遭難云々した時に、みんなが快眠できるようにと入れておいた。それよりも……」

 

 

 一同が大量に取り出された枕に驚愕、白哉がそれを言葉にしたのを他所に、桃はその内の一個を抱えるように手に取り、パァンっと叩きながら宣言する。

 

 

「枕投げしよう。枕を投げまくっていけば、人肌の接触を避けながら、身体から込み上がっている熱を出すこともできるはず……‼︎」

 

『‼︎』

 

 

 肌と肌の接触が起き、欲情がさらに引き出さられる可能性を避けるべく、そのような事態が起きる確率の低い枕投げをすることに決めたようだ。たまさくらちゃんの抱き枕が見えてなければ、どうなっていたことか……

 

 

『(なるほど、そうか‼︎)』

 

 

 全員が一致して賛成するまでの間の時間、僅か二秒‼︎ 彼等も人肌の接触は避けるべきだと頭の中で察していることもあり、ラッコ肉による欲情効果が思考力の妨害を行っているということもあって、別の案を考察する間も無く賛成してしまったのだ。

 

 

「あーもう我慢できねェッ‼︎ もうそれでいこう‼︎ どうにかして変な感情を放出させたい気分なんだよこちとらはよォッ‼︎」

 

 

 そして理性を抑えるという判断も乏しくなった模様。その証拠として、白哉が獲物を狩る獣の遠吠えの如く荒い声を出しながら、枕の一つを取り出し投げの構えを取った。

 

 

「あっちょっと待って‼︎ まだラッコ鍋が残って……」

 

「既に台所に移動させといたので大丈夫だと思います‼︎」

 

「早っ⁉︎」

 

 

 今すぐに枕投げを開始するのはまずい。桃がそう危惧した言葉を伝えようとするも、既にシャミ子が対策をしていたため問題ないということになった。

 

 

「あっ、寝転がってる勝弥君は……」

 

「問題ない‼︎ たった今柘榴さんの許可取って私が寝室へと運んどいたよ‼︎ ついでにこの部屋で枕投げしてるって置き手紙も書いといた‼︎」

 

 

 気がつけば、先程まで床に寝転がっていたはずの勝弥の姿が見当たらなくなっていた。杏里が言葉の通り彼を別の部屋へと移動させたのだろう。

 

 

「それも早っ⁉︎ そこまでして発散させときたかったの⁉︎」

 

「もうなんかムンムンとしてて、この変な感情をどうにかしたいと思ってたのよ‼︎ 早く、早く枕を‼︎」

 

「今すぐ‼︎ 俺達は今すぐにでも枕をたくさん投げ飛ばしたい気分なんだ‼︎」

 

「ま、枕で野生の本能が爆発するって一体何……?」

 

 

 枕投げがすごいのか、我慢の限界に達した白哉達の欲情がここまでのすごいのか、詳細ははっきりとしない。だがそれでも、一歩間違えれば取り返しのつかない正道の発散の仕方無しに、欲情を発散させる手段が出来たことは確かであった。

 

 

「……じゃあ、勝弥君が戻ってくるまで、僕が審判やるね。まだラッコ鍋一杯しか食べてないし」

 

「「「「「お願いします‼︎」」」」」

 

「審判……? 付ける必要、ある……?」

 

 

 枕投げに大まかなルールというものはあるのだろうか。あるはずないと思うのだが。桃がそのようなことを考えていると。

 

 

「……枕投げ開始の宣言をするね。……枕投げ開始ィィィ‼︎」

 

 

 柘榴が突然片手を掲げ若干のけぞりながら高らかに宣言したのと同時に。

 

 

「えっもう始め───」

 

「「「「「ぬおりゃぁぁぁあああぁぁぁあああっ‼︎」」」」」

 

「ブヘッ⁉︎」

 

 

 一斉に枕が投げられ始め、その内の一個が桃の顔面に直撃した。さすがに身体を鍛えている桃もこれには堪える中、コンマという時間もなく次々と枕が飛び交い始めていた。どれだけ欲情を発散させることに飢えていたのだろうかこいつらは。

 

 

「………………フッ。フフフフフフッ……」

 

「へっ? も……桃?」

 

 

 枕が顔面に直撃した時の痛みによるものか、はたまた突然ぶつけてきたことへの怒りによるものか、顔に影を落としながら不気味そうな笑みを浮かべ始めた桃。少なからずとも平然としていられないことは確かだろう。

 

 

「いいよ……いいよ別に。みんながその気なら、日頃トレーニングしている私の方が強いのだというのを、改めてわからせてあげるから……」

 

「あっヤベッ」

 

 

 桃は何処か悪訳じみた台詞を呟きながら、マントからさらに数個の枕を取り出し、それら全てを持ち始めた。ブチギレた可能性もあるだろう。だがそれでも脚気に個数を増やして一度にそれらを持つのはさすがに卑怯だと思うが。

 

 

「そぉぉぉい!!」

 

「わー桃が最初から本気だー!!」

 

「迎え撃て迎え撃てー!!」

 

 

 それから白哉達は、しばらくの間枕投げに没頭した。

 

 勢い良く投げては投げ返され、狙って投げようとしては逆に狙われ、二つキャッチしたらもう二つに襲撃されて手元を離してしまい……と、様々な出来事が発生していっていた。

 

 柘榴がラッコ鍋を食べ終わったのと同時に、目を覚まし枕投げに参戦しに来た勝弥と共に途中参加。転げ落ちていた数個の枕を投げ飛ばしていく。

 

 一つ一つの動作で汗をかきまくっている一同。次から次へと、その汗の湿りで身体に引っ付いた服を脱ぎ飛ばし、下着姿になる者が多数となった。

 

 下着姿となって枕投げを続ける者達からは、身体から流れてくる汗を吹き飛ばす量がより多くなり、その者達の肌にさらなる光沢を与えていっていた。

 

 やがて全員の体力が尽きた。散らばった複数の枕の上で下着姿のまま天井を見上げる中、全員が心が重なったかのように呟いた。

 

 

『ごちそうさまでした……』

 

 

 

 

 

 

 夜が更け、月明かりが照らす家の門の前にて、白哉・シャミ子・ミカン・拓海・杏里・勝弥の六人が、夜空から多摩町を照らしている満月を眺めていた。

 

 ちなみに桃は何故か未だに下着姿で寝そべったままになっているため、彼女が起きるまでこの家の主である柘榴が介抱している。

 

 

「なんか……結構綺麗な月が昇ってるな……」

 

「そ、そうですね……」

 

 

 枕投げによって身体をかなり動かした影響か、ラッコ鍋で白哉達を催淫していた効果は既に無くなっており、正気を取り戻していた彼等の雰囲気に、どこかよそよそしさを感じさせていた。

 

 

「……なんか盛り上がちゃったんじゃないかい?」

 

「なんでかしらね……ハハハ……」

 

 

 気まずさと疲労感のためか普段なら一言言いそうな者達も口数が少なくなっており、ある者は苦笑気味となっているが……皆が皆、誰もが誰とも目を合わせられない状況となっていた。

 

 

『………………』

 

 

 沈黙が続く中、勝弥が静かに釘を刺した。

 

 

「………………誰にも言うなよ?」

 

「うん分かってる……」

 

 

 気まずい状況のまま、白哉達はそれぞれの帰路を渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 白哉達が帰路を辿っている中、柘榴は未だに下着姿のまま寝込んでいる桃をソファの上に運び、薄い毛布を掛けて寝かしつけていた。

 

 今の彼女は、枕投げに参加する前の勝弥みたいに、のぼせたかのような吐息を吐いている。が、彼よりも声質が高いせいだからなのか、その吐息は彼のよりもより色気のある声と共に発されていた。

 

 

「(……ラッコ、か)」

 

 

 未だに枕投げで温まっていた身体の熱を下げるべくズボンのみを履き直した柘榴は、ラッコに対して何を思ったのかスマホを取り出し、検索エンジンにて『ラッコ 肉 効果』と入れてラッコについて調べ始めた。

 

 

「……『ウワサは本当なのか⁉︎ ラッコの肉を食べると───』これだ」

 

 

 ラッコ肉が与える影響が何なのか、それが白哉達や今の桃にどのような影響を与えているのか、それらが気になったらしく調べることにしたようだ。

 

 そして、柘榴がその答えが見つかるだろうとあるサイトで調べてみた結果……

 

 

「……ラッコの肉は、食べると欲情すると信じられている。番の片方を人間に獲られると、行き場のない欲情で死んでしまうほど孤独に弱いと言われているから……か」

 

 

 これである。そう、柘榴もラッコ肉の効果の説を理解してしまったのだ。

 

 同時に、さらに理解した。先程白哉達が悶々としていたのも、桃が未だに色気のある吐息を吐きながら真っ赤な顔で寝ているのも、全てラッコ肉の欲情効果による影響が出ているということに。

 

 そして……

 

 

「……ッ‼︎ こんな時に限って、まだ残ってたんだ……‼︎」

 

 

 自身の身体の奥底に残っていた静かな激情も、ラッコ肉によるものだということを、理解してしまったのだ。そして、発した言葉と共に吐き出た吐息の甘い匂いによってか。

 

 

「ざ、柘榴……」

 

 

 タイミングが良いのか悪いのか、桃が起き上がってしまった。その上未だに吐息を吐いているだけに飽き足らず、柘榴を見てさらに顔が紅潮しているようにも見えていた。

 

 

「……ごめん。今は、近づかない方がいい……」

 

 

 枕投げに集中していた時にまじまじと見ることのなかった、桃の白い生肌の見える綺麗な身体。そこからラッコ肉のの効果によって引き出された色気が柘榴の視界に入るように反映され、さらなる欲情を引き出す引き金となった。

 

 その欲情──本能のまま動いてしまえば、後に残るのは刻まれるであろう桃の心の傷。その傷をつけるわけにはいかないと、柘榴は彼女に距離を取るようにと促す。

 

 が、しかし。

 

 

「その記事を見て分かったよ……ラッコの肉を食べると、どうなるのかを」

 

 

 桃は既に柘榴のスマホの画面を覗いていた。そして記事の内容を把握してしまった。

 

 だが、彼女は嫌気がさしたかのような様子を見せることはなかった。それどころか、今にも激情のまま暴走しそうな柘榴に後ろから抱きつき───

 

 

「私……恥ずかしいけど、柘榴にだったら何をされてもいい。寧ろ……されたい」

 

 

 彼の耳元で甘く囁き、その匂いのする吐息で彼に溜まり込んでいる欲情を自分にぶつけるようにと誘い込む。自分がそうなる事を待ち遠しくなっていることを、伝えようとしているかのように。

 

 

「柘榴はラッコの肉を食べたせいにしていいから……お願い」

 

「……ッ‼︎」

 

 

 一時的かつ全開ではないとはいえ、柘榴の理性を飛ばすには充分だった。

 

 腕力を強めた腕で両手首を掴まれた桃は、その場で仰向けになって押し倒される。ふと柘榴の顔を見れば、吐息の律動が荒くなっているのが見て取れていた。

 

 

「……優しくは、するから」

 

「う、うん……♡ よ……よろしく、お願い、します……♡」

 

 

 その日の夜。謎の狂気から町を守った魔法少女は、彼女の事を大切に想ってくれている幼馴染に純潔を捧げることとなった───

 

 とはいっても、まだ付き合うことにはなってないが(笑)

 

 ちなみに白哉とシャミ子も、この日の夜迦はいつも以上に求め合ったとか。ラッコ肉の分の欲情を全部発散させたはずなのに。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その40

マリン「昨日はごめんなさい……いやホントに」(土下座)
桃「もういいから……マリンの想像してた事態にはならなかったんだし」
マリン「けど……アタシがアレを渡しちゃったから、一歩間違えたら後ですごい修羅場とか……」
桃「そうなりそうだったら、誰かが気絶するくらいの攻撃をしてたと思う。というかみんな一斉に止めてたはずだよ」
マリン「で、でもアレを鍋にしちゃったんでしょ? みんなにも効果があったとしたら尚更……」
桃「それでもある程度の理性を保てる人は何人かいたはずだよ。そうじゃないにして、特にシャミ子は白哉くんにしか目をつけないと思う」
マリン「それは……そうでしょうけど……」
桃「(この謝罪、いつまで続けるつもりなの……? 正直キツい……)」


お知らせ

9月28日まで投稿をお休みさせていただきます。最新話のストックが追いつかなくなってきたし、区切りがつきそうなので……
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