クレイジーサイコレズ系主人公が錦木千束の心臓を死ぬほど欲しがる話   作:靉靆 

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公式からクッソ面白い新情報が開示されたのでモチベが急上昇しております。

それに伴って拙作2話、6話、7話、8話の電波塔事件とリリベル関連での台詞、地の文を各個改修していきます。





#11 Change before you have to

 

 

 

 

 

「ほいほーい。錦木千束スペシャルエレガントパフェおっ待ち〜!」

 

 

 快活な声と共に提供されるカロリーの暴力。

 

 白玉。抹茶アイス。ソフトクリーム。黒蜜に小豆や頂点に飾られた栗きんとんなど積まれた甘味の山。

 

 見てるだけで胸焼けがするが、私の隣に座る相棒(バディ)……響奏さんはいつものクールな仕草からは考えられないワクワクとした可愛いらしい様子で匙を握っている。バディを組んでからの三年間で初めて見る様子が眼福だ。

 

 

「久しぶりだな、フキ。元気そうで何よりだ」

「は、はい!先生!」

 

 

 恩師との邂逅に緊張してしまう。

 数年振りにこうして対面する先生は脚こそ悪くしているようだが、澱みのない動きで仕事をする姿を見るに壮健な様子だった。

 

──喫茶リコリコ。

 

 任務のない非番の日にいつも何処かへと消える響奏さんに今日初めて連れられたこの場所に、最初は頭の中が疑問符で埋め尽くされた。

 

 一応はDAの支部という扱いだが、上からの依頼以外にも本部の情報部が取捨選択して切り捨てた優先度の低い事案にも取り掛かるなど、組織の手から離れた自由奔放っぷりが目立っている。

 

 犯人をDAには直接引き渡さず提携しているクリーナーに現場修復のついでに引き渡し、明確に殺害指示が出ているターゲットを匿うケースもある為、DA内では快く思われておらずはみ出し者の島流し先、いわゆる左遷支部のような扱いとなっていた。

 

 そして“不殺”を信条とするその在り方は、響奏さんとはまるで真逆だ。

 

 だからこそ、この人がリコリコとの関係を持ってる事が意外で仕方がなかった。

 

 

「……響奏さん。千束(コイツ)と知り合いだったんですね」

 

 

 訓練で私に技術や知識を教授する際に時折一例として千束の名前を挙げてはいたが、まさかこうして実際に響奏さんが千束と直接的な関係を持ってるとは思わず驚いた。

 

 

「ええ。転属前に偶然この店を見つけましてね。それ以来、千束とは友人としてお付き合いさせて頂いています」

「そーそー。今じゃ響奏とはお泊まり会までする仲なんだよフキ〜」

「お前には聞いてねえよ」

 

 

 店に入る前に好物だと言っていたアイツの名前がついたパフェを食べながら、響奏さんが馴れ初めを話し出す。

 

 てか偶に響奏さんが居なくなるのお前のせいかよ。

 

 能天気な面で馴れ馴れしくマウントを取る千束と、そんなコイツにひっつかれながらも満更でもなさそうな響奏さんの姿にモヤモヤして、胸の奥底がまたきゅっと苦しくなった。

 

……私は別に千束の奴を嫌ってるわけじゃない。

 

 リコリスとしては異端だがコイツの優秀さは幼い頃からずっと知ってるし、嫉妬心を持つ前には憧れにも似た純粋な気持ちを抱いてた時期もあったくらいだ。

 

 それでも、先生だけじゃなく響奏さんとも打ち解け合うその姿を見ると思わず“ああ、またか”と考えてしまう。

 

 それが錦木千束の持つ魅力というやつなのだろう。

 いつの間にか相手の心に棲みつき、心理的な距離を詰める事ができるのも一種の才能だ。

 

 ああっ、調子が狂う!

 やっぱコイツとは反りが合わねえ。

 

 ムカムカとした気持ちを流し込むように、先生の淹れてくれた珈琲に口をつける。舌に残る仄かな苦味が胸焼けを中和してくれた。

 

──でも、なんだろうな。恩師と、憧れの人と、昔馴染みが一緒にいるこのひと時が、悪くなかった。

 

 

「───♪」

 

 

 美麗な鼻歌を奏でながら甘味を堪能する姿に、意外さを感じる。

 任務では感情を殺した冷徹な仕事人。

 訓練では厳しくも優しい頼れる先輩。

 バディとして三年も一緒にいて新しく知る響奏さんの一面に、不思議と胸が弾んだ。

 

 

「今日はやけにご機嫌だね。なんか良い事でもあった?」

「はい。近々妹が本部に転属して来るとの事らしく、それがつい嬉しくて」

 

 

 響奏さんの思わぬ一言に、喫茶内が(しん)となった。

 

 

「え、妹……響奏って妹いたの!?」

「言ってませんでしたっけ?」

「いやいや全然聞いてないよ!」

「私も初耳です」

 

 

 本当に初耳だ。

 この三年間で一度も聞かなかったこともそうだが、天涯孤独の孤児が行き着くはずのリコリスで姉妹がいると言うことが珍しくて思わず珈琲が気管に詰まり咽せそうになってしまった。

 

 

「妹と言っても血縁関係はありませんよ。養成所でずっと一緒だったのでそう呼んでいるだけです」

 

 

……あぁそう言うことか。それならリコリスでも良くある話だ。

 外界での交流が少ない故にリコリス同士で恋愛的な交際にまで発展する例を思い出せば、年の離れた仲の良い両者が姉妹の様に接し合うのも本部では珍しくない。

 

 

「確か今年で15歳、貴女たちの一つ後輩ですね。この娘がもう可愛くて可愛くて──あぁ、本当に楽しみで仕方がありません」

「お、おう……響奏ってもしかしてシスコン?あっ、写真ある?」

「ええ、見ますか?」

「もっちろん!」

 

 

 蕩ける様な甘い声で何処か照れた仕草をする響奏さん。本当に今日は可愛らしい一面ばかりを見つける日だ。

 此処までこの人に愛されているその“妹”が少しばかり……いやだいぶ羨ましい。

 

 取り出した携帯端末に表示された一枚の写真。

 そこに映っていたのは、響奏さんの神々しい銀白髪とは真逆の濡羽色の髪を靡かせた綺麗な少女だった。血の繋がりはないと言っていたが、その感情の起伏を見せない表情に任務中よく目にする響奏さんの姿を重ねてしまう。

 

 

「可愛い〜今度紹介してよ響奏!」

「機会があれば是非……と言いたい所ですが、任務一辺倒で真面目な娘ですので期待はしないでくださいね」

 

 

 そう言うと響奏さんは最後に残った栗きんとんを掬い、じっくりと味わう様にして咀嚼した。

 

「──ご馳走さまでした」

 

 綺麗に平らげられたパフェの器に匙を置き、そのまま会計をする。

 私も珈琲を飲み終えた丁度良いタイミングだ。

 先生との時間に名残惜しさを感じるが、このままお暇するとしよう。

 

 

「また来てねー響奏。ついでにフキも」

「“ついでに”は余計だ。お前の(ツラ)見んのは許可証(ライセンス)更新の時だけで十分だわ」

「またいつでも来ると良い。フキ」

「分かりました!先生もお元気で!」

「私と態度違いすぎない!?」

 

 

 不満気にギャーギャーと喚く千束の騒がしさに懐かしさを覚えながら、不思議と頬が緩んでしまう。まぁ、偶にはコイツの様子を見に来るのも悪くはない。

 

 最後まで喧しくこちらを見送る千束の姿を視界の端に捉えながら店を出て、錦糸町の道を二人でぶらつく。

 

 バディではあるが、訓練や任務の時とは違い私と響奏さんの間に会話はあまりない。

 そもそも私自身がこうして任務以外で外に出ること自体が初の体験だった。いつも任務で目にするはずの人々の営みが、今は輝いて見える。

 

──この平和を私たちリコリスが守っているのだと思えば、私の存在意義が更なる使命感を帯びる。

 

 

「──フキ、新たなファーストの候補に貴女の名前が挙げられました」

「……え?」

 

 

 唐突な報せに、言葉が出ない。

 今も悠然と隣を歩む響奏さんは、まるで何でもない世間話かの様に私の“進路”を告げてきた。

 

 ファーストリコリス──つまりは響奏さんと同じ階級の彼岸花(リコリス)。それに私が……?

 

 

「まだ確定ではありませんが、優秀な貴女のことです。これまでの成果を鑑みれば昇格はほぼ確実でしょう」

 

 

 一瞬遅れて、胸中に歓喜が宿る。

 

 リコリスにとって階級とは、本部に配属されることと同じくらいに特別な意味を持つ。

 幼い頃から育てられ、返しきれないほどの恩義があるDAからの評価……その最高峰とも言える赤服(ファースト)の称号となれば、全てのリコリスにとっての憧れとも言って良いのだから。

 

 

「よく頑張りましたね、フキ」

 

 

 ふと、昇格を告げられた時以上に響奏さんからのその言葉に“嬉しい”と思ってしまった。

 貴女に褒められるその瞬間が、なによりも私と言う存在を満たす心地良い時だと感じてしまう。

 

 それと同時に、胸が“ちくり”と痛んだ。

 嬉しい筈なのに、光栄な筈なのに、喜ばしくて望んでいた事である筈なのに──心のどこかで“嫌だ”と思ってしまう。

 

 ファーストに昇格すれば、私と響奏さんのバディは解消されるだろう。

 時には一つの部隊を率いることもある重要な地位だからこそ、司令は()()()()()()私たちを組み分けるに違いない。

 

 そう思えば、あれだけ焦がれていたファーストの称号に僅かな厭悪を感じてしまう──だけど。

 

 

「──響奏さん!」

 

 

 立ち止まり、思考して決断する。

 その間に数歩ほど前に進んだ響奏さんの名前を呼んだ。

 陽の光に照らされた白銀が、風に靡く。

 

 

「本当に、ありがとうございました…っ!」

 

 

 溢れんばかりの感謝を込めて頭を下げる。

 未熟だった自分にリコリスとしての心構えを授受してくれたあの日々、幾つもの技術を極める手助けをして下さり、目指すべき壁として常に私にとっての“理想”で在り続けたその雄々しい姿を思い起こす。

 

 

『フキ、常に脳を回転させ集中し続けなさい。

 戦場(いくさば)に於ける思考の停滞とは、即ち死です』

 

 

 悪漢の脳天を寸分の狂いなく撃ち抜き、首を刎ねながら常在戦場の心構えを説くその姿に見惚れた。

 殺戮の証明である血化粧が、純白の花を芸術の域にまで昇華させる。

 

 

『殺意の伝達が遅い。私や錦木千束と違い貴女の反射は常人のそれです。神経を張り巡らし警戒と予測を予知にまで引き上げなさい』

 

 

 厳しさの中に含まれた優しさに高鳴る鼓動を抑えられない。

 首元に添えられた訓練用ナイフの冷たい感触と吐息がかかるほど間近に迫った美貌に覚えた興奮を、私は一生忘れないだろう。

 

 

『成長しましたね、フキ。楠木司令も誉めていましたよ──流石は私の相棒です』

 

 

 嬉しかった。

 心地良かった。

 胸がすくような思いとはこの事だろう。

 

 褒められて、撫でられる度にその優しさが私の存在意義を満たしてくれる。

 胸に宿った尊敬の念。DAへの忠誠心と同じくらい私は、響奏さんに対する想いを深めていた。

 

 平和の為に、誰かの為に。

 

 DAに拾われた彼岸花(リコリス)の根底に存在する大原則を遵守し任務を遂行するその姿が、多くの同輩たちに勇気を与える。

 貴女のようになりたいと、貴女の役に立ちたいと誰もが思えるような“理想”の体現者。

 

 私が此処まで来れたのは、貴女のお陰です。

 

 初めて貴女に出会ってから過ごしてきた三年の時は、私にとって至上の幸福でした。

 

 だからそう──霧霞響奏(あなた)は、いつまでも私にとっての英雄(あこがれ)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本部の自室で、独り咽ぶ。

 時刻は夜の八時。同室であるフキが任務の定期報告を済ませると退出したのを確認しながら、私は枕に顔を埋める。

 

 

──漸くたきなに逢える。

 

 

 昨日からその事で頭がいっぱいだ。

 

 本部でDAに尻尾を振り服従し続け三年、崩れた信用はある程度までに回復し今ではリコリスの見本と呼ばれるに至ったこれまでの苦労を思い返しながら溜息を吐く。

 

 あァ、()()()()()

 

 最重要機密であるラジアータの正確な位置こそ把握できずとも、此処まで深く組織に潜り込み膨大な情報を収集できれば私の“運命”がすぐそこまで近づいているのを自覚する。

 

 私の“出荷”までは後二年弱。いや、此処まで己の優秀さを誇示すれば流石に組織も私を飼い殺そうと躍起になるか。

 

 私の理想は錦木千束を(アイ)すこと、或いは千束とたきなに(アイ)されることだ。

 

 故に後一年か二年。それまでに仕上げよう──己の技術を、運命を感じさせる時と場所を。

 慣れない事ばかりだったこの10年弱がようやく報われると思えば、多くの束縛に積もる苛立ちへの溜飲も少しは下がるというものだ。

 

 

「……真島なら、私の望む死に場所をすぐに用意してくれたのでしょうか」

 

 

 ふと、唯一の“理解者”であるかつての相棒を想起する。

 

 彼は私の同胞であり、相棒であり、友であり、兄のような人物でもあった。

 

 私自身があの狭い箱庭から飛び立てたのは間違いなくアラン機関のお陰ではあるが、其処から今の殺人鬼(わたし)としての人格を形成できたのは唯一無二の相棒が居てくれたからに他ならない。

 

 

 結局、受けた恩を十分に返しきれないまま彼とは離別してしまった。

 

 生きてるだろうか、それとも死んでしまったのだろうか。

 ファーストへの昇格直後に検索した事件録(アーカイブ)には、電波塔事件を起こしたテロリストは全員死亡との記録だけが残っていた。

 

 私が生き残ってる以上その概要は正しいものと言えませんが、かと言って真島が生きていると確信できる程のものではありません。

 

 彼がいれば、きっとこの偽りの世界に対し傾いた天秤(バランス)を見出す事でしょう。

 

 もしかしたら、私と千束に相応しい死に場所(しきじょう)を用意してくれたかもしれません。

 

 

 真島と共に過ごした戦場での日々を思い出す。

 脳を震わせる慟哭、血煙と硝煙の入り混じった歪な空気。

 

 かつての情景を思い起こすと、衝動が加速してしまう。

 

 血が見たい、臓物が見たい。

 潰れた脳が、砕けた骨が、弾けた血肉が揺蕩う絶景に酔いしれたい。

 燃える人肉の脂の芳しき匂いが懐かしい。理不尽に散華する運命にある徒花(いのち)の無意味無価値な抵抗を捩じ伏せたい。

 

 殺して、(バラ)して、(コワ)したいィ……ッ!

 

 

「──少し、昂り過ぎたな」

 

 

 殺意一色の思念。

 生まれた時から私の中に巣食う衝動を必死に鎮める。

 

 

 そも、私の描いた筋書きもまだまだ穴だらけ。

 運命は朧げで、救世主は未だに歪まぬ不殺主義を掲げている──これが何よりも難しい問題だ。

 

 

「あぁ、たきな。お姉ちゃんに貴女の成長を見せてください」

 

 

 かつての相棒と最大の難関を想定しながらも、愛しい妹への情欲が溢れる。

 

 貴女が人を殺す様をもう一度見たい。

 艶やかな黒髪を撫でながら、夜通しその未成熟な肢体(からだ)を愛でていたい。

 冷徹な瞳を向けながら銃爪(ひきがね)に指をかけるその尊い姿を想像するだけで()()()しまう。

 

 

 フキのファースト昇進と同時にたきなが此方に転属すると聞いた時、なんて絶好のタイミングだと何度も思いました。

 

 どうでもいいどうでもいい。春川フキ、やはり私は貴女のような只人に興味はない。

 

 いつかは利用するかもしれない都合の良い駒ではありますが、たきなと共に京都にいた頃と同じ様な殺しの日々に興じられると思えば千束に関する事以外は全て塵だ。

 

 たきな、たきな。また殺しましょうね。

 また一緒に沢山の(いのち)を摘んで、一緒のベッドで寝て、一緒にお風呂に入って、そして、そして──いつか千束も混じえて殺し合い(まぐわい)ましょう。

 

 

 

 嗚呼。本当に、本当に楽しみで仕方がない。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

「──春川フキをファーストに昇格。パートナーには本日より配属の井ノ上たきなを指名する。

 お前はしばらく単独で任務を遂行しろ、響奏」

 

 

 

────ぶっ殺すぞ。

 

 

 

 







人間関係が修羅場ってドロドロになりそうですね。

ちなみに私の好きな百合作品は『きたない君が一番かわいい』などです。察してください。

次話から一気に飛んで原作に入ります。


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