クレイジーサイコレズ系主人公が錦木千束の心臓を死ぬほど欲しがる話   作:靉靆 

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#14 Family is a life jacket in the stormy sea of life

 

 

 

 

 涙淵に沈む。

 

 辛く苦しい雌伏の時。最愛の家族との別離にて、井ノ上たきなの胸中に渦巻く衝動は強く激しい帰巣本能のみ。

 

 時刻は夜の七時。既に落陽を迎え街灯の放つ光のみが夜道を照らす中、たきなは“護衛対象”と弾まぬ会話を紡ぎながら思考する。

 

──この任務から銃取引の情報を掴めば、本部に戻れるかもしれない。

 

 突如降って沸いた好機に淡い希望を抱く。

 

 カチリ、と。狂犬が静かに牙を鳴らした。

 

 

 

 

 始まりは喫茶リコリコへ転属して直ぐの事、新しい相棒(バディ)である錦木千束に仕事と称し連れられたのは、どうやっても本部に認められる手柄など立てようのないボランティア巡り。

 

 保育園の助っ人に語学教室の手伝い、そして極道事務所への珈琲豆配達。

 共通点の見出せない外回りの意味を、たきなは千束に問いかけた。

 

 

「──困ってる人を助ける仕事だよ」

 

 

 日輪が、淡い白髪を可憐に照らす。

 個人の為のリコリスとでも言うつもりか。

 公的機密組織のエージェントとしては度し難いその在り方に、井ノ上たきなは苛立ちを積もらせる。

 

──これでは、手柄を挙げて本部に戻る所の話ではない。

 

 喫茶リコリコへ訪れる前に滾らせた決意が全くの空振りに終わる現状が不合理で無意味で無価値で仕方がない。

 

 早く、一刻も早く戻らなければならない。

 たきなの思考はそれ一色に染まる。

 正当ではない人事、姉との離別、存在意義の否定。

 

 それは少しずつ、しかし確実に井ノ上たきなの精神を蝕んでいた。

 

 

「じゃあ、なんで撃ったの?」

 

 

 珈琲に沈殿した砂糖を、くるくると匙でかき回し溶かしてゆく。

 最後の外回りで連れられた警察署でストーカー被害に悩む女性の相談を請け負った二人は、最寄りの店にて対象を待つ。

 その最中でたきなの吐露した不当な人事への愚痴を聞き、銃取引での暴挙の理由を千束が問いかけた。

 

 

「あーいやいや、責めてるわけじゃないよ。揉めたくないならなんで命令を無視したのかなーって」

「それが一番()()()だと判断したからです。わたしの腕なら標的のみを確実に仕留めて人質を助け出す自信がありました」

「合理的、ねぇ」

 

 

 カチャリと、砂糖を溶かし終えた匙を小皿に置きたきなの言葉を反芻する。

 腕の良し悪しが問題ではないのだ。

 確固たる自信があったとしても同僚を撃ち殺す可能性がありながら機関銃掃射を行なったその“異常性”に、千束は既視感を覚える。

 

──まるで、あの時の響奏みたい。

 

 想起するのは四年前のあの夜。

 暗殺部隊リリベルを一人で無力化する白髪鬼の見せた歪な優しさが、目の前の少女が抱く合理性と言う名の狂気と重なる。

 

 濡羽色の漆黒と純粋無垢な白銀。

 咲き誇る花の如き菫色と蜜を溶かした様な琥珀色。

 正反対の特徴をした美貌ながらも親友と同じ“在り方”をする新たな相棒に、千束は興味を唆られる。

 

 

「それがまさか、あんな騒動になるなんて……」

「騒動にはなってないよ。そう言う組織だもん」

 

 

 後悔を滲ませた弱音に反論する。

 

 

「事件は事故に、悲劇は美談になる。今回の事件も、表向きには別の問題として処理されてる筈だよ──最後の大事件も、今や平和の象徴(シンボル)

 

 

 一口。カップの珈琲を飲むと、かつての人災(テロ)の残滓である旧電波塔を見やる。

 その何かを憂うような横顔に、たきなは尊敬する姉を一瞬重ねた。

 

 

「でしたら、わたしは一体何をしたのでしょうか?」

「なーに言ってんの!」

 

 

 己の存在意義を否定され、その原因の事件は闇に葬られた。

 これでは自分の苦しみも、悲しみも、後悔も何もかもが無意味なのではないか。

 ぐるぐると答えの出ない疑問を過ぎらせると、パチンと指を弾く音を響かせ千束がたきなを指差す。

 

 

「──仲間を救った。カッコいいよ、誰にでもできることじゃない」

「……!」

 

 

 救世主の紡ぐ優しい赦しが、耳を撫でた。

 本部を出て行く前に『仲間殺し』とも揶揄された自分の行動を容認する“理解者”の言葉に、たきなは胸の奥底がきゅっと締め付けられる様な感覚を識る。

 

 

「響奏もきっと、たきなみたいな妹を持てて誇らしいはずだよ」

 

 

 初めて知った感情の名は、喜び。

 合理性の獣が人に絆され溶けて行く。

 限界に近い精神状態の中で自分だけに向けられた“優しさ”が、ただ心地良かった。

 

 雪の様な白銀髪と日輪の如き白金髪。

 鮮血を思わせる赫と宝石の様な紅。

 容姿の特徴は近しくとも尊敬する姉とは正反対の性格をした新しい相棒(バディ)の言葉に、今までずっと慣れ親しんできた家族の温もりを覚えてしまう。

 

 

「……千束さんは、響奏とはどれ位の付き合いになりますか?」

 

 

 一瞬。その“優しさ”に浸ると、今度はたきなが問いかける。

 待人が来るまでの時間潰し、姉の友好関係を知りたいと言う半ば興味本位の質問であった。

 

 

「んー、かれこれ4年かな。今では大事な友達だよ」

「そうですか。ちなみにわたしは10年です。響奏が京都を離れた年月を省いても6年以上ずっと一緒にいました。お風呂もベッドも訓練も一緒です」

「お、おう。いきなりマウントか……姉妹揃ってシスコンだなぁ」

 

 

 呆れた様な、そして何処か懐かしむ様な仕草をすると、千束は何か思い出した様子で言葉を紡ぐ。

 

 

「あっ。でもお風呂なら私も一緒に入ったよ、なんなら今も偶にお泊まり会してるし」

「──────は?」

 

 

 カランと店内のドアが開けられ待人が入店したが、たきなはそれに反応できない。

 今日が井ノ上たきなにとって刺激的な日であることは間違いないだろう。

 冷徹さと無機質さを併せ持つはずの彼女が次に知った感情は、嫉妬であった。

 

 

「今のはどう言う意味で……」

「あっ、依頼主のご到着だよたきな。沙保里さーん!」

「ちょっと待ってください千束さん。待って、あの……待てって言ってるでしょ!」

 

 

 悶える嫉妬と優しさに絆された喜びを胸に紆余曲折を経ながら、夜道を歩く今に至る。

 

 ストーカー被害に遭っている沙保里と言う女性が写真に偶然写してしまった銃取引の重要証拠(フォトボム)

 

 DAの収集した情報とは異なる時刻のそれに、たきなは一縷の希望を見出した。

 

 追跡者(ストーカー)の正体はおそらく銃取引関係者。

 これを捕縛し少しでも有益な情報を得ることができれば名誉挽回は確実であり、姉の待つ本部に戻れる可能性が高い。

 

 身体が強張る。

 

 緊張によるものではない。幼き時より精密な殺し屋として育成された己にその様な弱さは不要であり、姉から教授された狩人としての教えは今も彼女の裡に生きている。

 

──これは、高揚だ。

 

 獅子が獲物を前に舌舐めずりする様に、狼が群れに狩の始まりを遠吠えで知らせる様に、矜持と殺意が結びつき彼女と言う存在を一匹の獣へと転墜させる。

 

 

 明かりの乏しい闇夜を護衛対象と二人で歩む。

 意気揚々とお泊まりセットを取りに帰った現相棒のはしゃぐ姿を想起しながら、たきなは己の警戒網に引っ掛かる敵意を感知した。

 

 視線を設置された道路鏡(カーブミラー)へと移せば、鈍い運転で明らかにこちらを尾けていると分かる白のワゴン車。

 想像以上に早く釣れた獲物に、たきなは()()()な決断を下す。

 

 

「沙保里さん、先に行っててください。すぐに戻りますので」

「え?あ、うん……」

 

 

 小走りで立ち去り角を曲がれば、身を屈め常日頃から携帯している愛銃S&W M&P9を取り出し澱みのない動きで消音器(サプレッサー)を取り付ける。

 

 数秒。呼吸を止め闇に潜むと夜道を一人歩く無辜の民が悪漢に麻袋を被せられ車内へ拐かされた。

 

 僅かに聞こえる呻き声と怒号。

 今まで当たり前の平穏を過ごしてきた女性が唐突な誘拐に感じる精神的恐怖は計り知れない。

 

 しかし、それでも井ノ上たきなの心に一切の乱れはなかった。

 

 合理性の追求。その果てに行った人道から外れた護衛対象を囮とするその行動が最も効率的で手早く終わると、本気で()()()()しか考えていない。

 

 殺人鬼、霧霞響奏の観察眼が図らずも此処に証明される。

 

 前消灯(ヘッドライト)が照らされ、両者が互いの姿を視認した。

 

──感情を殺せ、神経を研ぎ澄ませ。追い縋り続けた憧れの動きを模倣(トレース)しろ。

 

 先ずは一発。運転席に座る男の肩を撃ち抜く。

 次に二発、三発目。眩いライトを撃ち抜く。

 四発目。タイヤを撃ちパンクさせる。

 

 これで、敵の移動手段を奪い尽くした。

 

 

「──取引した銃の所在を言いなさい」

「ひっ……!」」

 

 

 か細く恐怖に震えた男の声を拾いながら脅迫と共に凶弾を撃ち尽くすと、飛来する弾丸に恐れ頭を下げる追跡者たちに脅しの意味と視界を奪う意味も込めてフロントガラスを狙い撃ち皹を入れる。

 

 やがて17+1の残弾が弾切れを起こせば、反撃の暇など与えずに慣れた手つきで予備の弾倉(マガジン)を取り出し装填。

 合理的に、無駄を省き、効率的に動けば──真横から人の気配を感じた。

 

 

「何してんの」

「──っ」

 

 

 即座に反応するも間に合わず、銃身を綺麗な手が掴む。

 たきなの強襲を阻んだのは見慣れた赤服に身を包んだ最強のリコリス、錦木千束。

 

 紅い瞳が漆黒を射抜く。

 ごくりと、何処か怒りの感情を滲ませた表情にたきなは喉を鳴らした。

 

 そんな千束に抱き寄せられ、先ほどまで潜伏していた街角まで抱き寄せられる。

 

 

「……尾行されていたので誘き寄せました。奴らが銃の所在を知ってるはず──」

「ちょーちょい!沙保里さんは?」

「車の中です」

「護衛対象を囮にしたの!?」

「奴らの狙いは写真の画像データです。沙保里さんを殺す意図はないと考えられます」

「人質になっちゃうでしょ!」

 

 

 己の理屈に感情が滑り込んだ。

 確かに()()強引なやり方であった事は認めるが、たきなは自分の行動に一切の慙愧を感じてはいなかった。

 

「この女がどうなってもいいのか!?」

 

 車内から男の怒号が響いた。

 

 

「あーあ」

「……貴女が止めなければ既に解決していました」

「沙保里さんに当たっちゃうでしょ」

「そんな失敗(ミス)はしません──()()()と同じ様に」

 

 

 それ見た事かと言わんばかりにため息を吐く千束に、たきなは反論する。

 合理が崩れる。無駄が生まれた。計画に関してはある種潔癖とも言えるたきなの性格が、この現状に言葉にできない苛立ちを募らせて仕方がない。

 

 

「この距離からでも射殺できます」

「だーめ。()()()()だよ」

「……は?」

 

 

 錦木千束の小綺麗な理想に、一瞬唖然とする。

 

 『命大事に』。護衛対象と二人で行動する前に聞かされたその言葉の真意を遅まきながらたきなが察せば、殺しの毒花(リコリス)としてあまりにも馬鹿馬鹿しい心構えに眩暈がした。

 

 

「射撃に自信があるなら7時方向からこっち見てるドローン撃ってくれる?あ、音出してね」

 

 

 千束の次なる指示に一瞬理解が追いつかず横目でチラリとその方向を見れば、此方を監視する様に浮遊するドローンが視認できた。

 

 理解し、合理的思考が紡ぎ出した答えは恭順。

 諍いなど時間の無駄であると即座に弾き出せば、たきなは精密な射撃で遥か彼方のドローンを正確に撃ち抜いた。

 

 銃声が夜の闇に轟き、訪れる一瞬の空白。

 

 

「よっ。取引したいんだって?」

「──!?」

 

 

 銃声に怖じた追跡者たちの硬直はそのまま千束の付け入る隙となり、最強の個が射程へと潜り込んだ。

 

 英雄が、闇を裂く。

 

 

「──すごい」

 

 

 思わずたきなは驚愕と礼賛を言葉にする。

 無理もない。先ほどまで不合理極まると謗っていた相棒(バディ)が、一才の無駄がない動きで銃弾を躱す離れ業を成しているのだから。これで驚くなと言う方が無理がある。

 

 結果は蹂躙であった。

 齢17の少女が一人で武装した男たちを無傷で鎮圧したのだ。

 同じファーストである春川フキでさえ同じく単独での制圧は可能であっても今の千束のように迅速な行動を成すのは難しいだろう、とたきなはかつての相棒(バディ)を想起しながらその能力を冷静に観測した。

 

 

「……非殺傷弾?」

 

 

 そして男の肩にこびりついた非殺傷弾の欠片を見やりながら、千束の指示した“命大事に”の意味を再び解する。

 

 

「命大事にって、やっぱり敵もですか?」

「そう、敵も」

 

 

 短い返答の後に意識を残した最後の敵が弾丸を放つが、神経を研ぎ澄ました彼女に不意など存在しない。

 当たり前のように凶弾を躱し脳天を非殺傷弾で撃ち抜き意識を奪えば肩を実弾で撃たれた男の止血を済ます。

 

 甘い。甘すぎる。

 敵の命を奪わないために己を縛るなど不合理極まりない。

 しかし、井ノ上たきなの脳裏によぎるのはそんな合理性に欠いた行動への非難とは全くの別のものであった。

 

 

──まるで“お姉ちゃん”みたいです。

 

 

 銃弾を躱しながら敵を蹂躙するその所業に尊敬する姉の姿を重ねた。

 性格は正反対。任務に対する姿勢もまるで違う──殺しの技術を極限まで究めた姉と、己の装備に制限をかけてまで不殺を貫く相棒。

 

 何もかもが真逆の“在り方”を貫く英雄に、あろう事か井ノ上たきなはその存在を同一視する様にして姉の影を重ねる。

 

 

「──錦木千束」

 

 

 漆黒が、黄金の名を呼ぶ。

 今はまだ好意には及ばぬ程の興味を抱く。

 獣の瞳に──再び感情の色が宿った。

 

 

 

 

 

 

 

 █

 

 

 

 

 

 

 

 町が動き出す前の静けさが好きだ。

 逆に人波は余り好みではない。私自身の容貌が視線を惹くのもそうですが、蠢く肉塊どもの囀りが五月蝿くて仕方がないから。

 

 静寂が好きだ。

 暗闇が好きだ。

 殺しが好きだ。

 

 人の集う場所は好みではありませんが、唯一この場所だけは別です。

 喫茶リコリコ。木造建築の醸す檜木と窓の隙間から漂う珈琲の香りが心地良い。

 

 この日の為に昨日丸一日掛けて指定の任務全てを終わらせた苦労が漸く報われると思えば、楽しみで心弾んでしょうがない。

 

 端末を取り出し時間を確認すれば、開店時刻ちょうど。扉を開けると鈴の音が店内に鳴り響く。予め来店の予定を報せていた為、彼方側も準備していたのだろう。

 

 入店してすぐ、赤と青の和装が目に入った。

 

 

「いらっしゃいませー!」

「い、いらっしゃいませ!」

 

 

──天使たちが、私を出迎えた。

 

 

 いつもの様に天真爛漫な笑顔で私を迎える最愛と、慣れない仕草で挨拶する愛妹。

 

 かわ、かわわわわわ──!

 まって、むり。なんですかこの可愛い生き物!?

 

 ツインテ可愛い。

 着物衣装可愛い。

 もう全部が可愛い、流石私の妹です。

 

 そして何よりも千束です。

 私の愛しい初恋の見せる笑顔が尊くて仕方がありません。

 

 あぁ、この楽園(パライゾ)に永劫棲みつきたい……。

 

「……響奏?」

 

 呆然とする私をたきなが上目遣いで此方を見る。

 なんですかその可愛いらしい仕草は。誘ってるのですか?

 

 

「あ、えぇ。ごめんなさい、たきなの和装姿が可愛くて言葉を失っていました」

「!それは……嬉しいです」

「え〜響奏、私はー?」

「もちろん。千束も相変わらず可愛らしいですよ」

「にしし、ありがと響奏!」

 

 

 照れた様子でもじもじとする妹と褒められて喜ぶ最愛の姿が素晴らしくて仕方がない。やっぱり誘ってるでしょ貴女たち……!

 

「なんと響奏がたきなの初めてのお客さんだよ。おめでとう!」

「まあ。それは嬉しい」

 

 快活な声で祝う千束の幼さ感じるはしゃぎ様がこれまた愛らしくて仕方がない。

 それにしても初めて……()()()()ですか。良い響きです。

 

 たきなが私を嫌ったのではないかとの懸念が杞憂に終わったことも喜ばしいですが、こうして(アイ)したくて仕方のない最愛の親友と妹が私だけのモノになったと錯覚できるこの時間が何よりも愛おしい。

 

「ミカさん。あの、宜しければこれを……」

「?」

 

 いつもと同じカウンター席に座り、目の前のミカさんに厚みのある封筒を幾つか差し出す。

 

 ファーストリコリスともなれば組織からの金払いが良く、特にフキとのバディを解消してから単独行動を命じられた私は任務費用として幾分か多くの金銭的支給があり、武装も摩耗が少ない様に使っているため懐も暖かいのです。

 

 

「指名料です」

「ウチはそう言う店ではないんだが」

「でしたら千束とたきなへの個人的な贈り物と言うことで」

「いや、そうは言っても……」

「後生です。お願いしますので貢がせてください……!」

 

 

 側から見れば男性にお金を差し出す女子高生といった危ない絵面だが、私としても譲れない。

 

 ただでさえこの店の経済状況的によろしくないパフェを注文してる引け目を一応感じているのです。

 

 たきなの姉として、そして千束とたきなを殺す者として彼女たちにはその時までしっかりと充実した福利厚生を与えて快適に暮らしてもらわなくては──。

 

 

「何やってるんですか、()()()()()

 

 

 お姉ちゃん!?甘美な響きですね!

 いつもは名前ばかりで偶にしか呼んでくれないその愛称に笑みを浮かべながら視線をたきなの方へと寄越せば、千束の横で何処か不満げな愛しい妹の姿。

 二人揃えば破壊力が凄まじくて興奮を隠しきれない。

 

 

「恥ずかしいのでやめて下さい」

「いえ、ですが妹がお世話になる身としてこれくらいの援助は──」

「やめて下さい」

「あっ、はい。ごめんなさい……」

 

 

 怒られた。怒られてしまった。

 これが反抗期と言うものなのでしょうか?

 ま、まさかこれで鬱陶しいと思われて嫌われてしまうのでは……!?

 

 

「……響奏が来てくれるだけで、わたしは十分です」

「──たきなぁ」

 

 

「お、おぉ。あんなに弱気な響奏初めて見たよ……」

「なんだろ、なんかアイツらのイチャイチャ見てると無性に腹たってきたわアタシ」

「姉妹愛にまで僻むな酔っ払い」

 

 

 なんですかこの良くできた妹は。抱き殺したい。

 あぁ、こんな幸せが許されて良いのでしょうか。

 この世で最も愛する人が側にいて、大好きな妹が私を慕ってくれる。

 

 

 本当に尊くて、素晴らしくて──早くこの日常(いつわり)を破壊したくて仕方がない。

 

 殺したい殺したい殺したい。

 刺し殺したい抉り殺したい貫き殺したい犯し殺したい。

 

 千束、千束──貴女の心臓が欲しい。

 私という殺人鬼の性癖(さが)を此処まで歪めた貴女の信念が宿ったその機械仕掛けの心臓が堪らなく欲しいのです。

 

 10年前のあの日、あの時。私を殺し損ねた貴女の命を、今度は私が狩りたい。

 

 

 たきな、たきな──千束とともに私を殺しに来て下さいね。

 合理性に囚われた貴女と言う獣の牙に喉笛を食い千切られたいのです。

 そして願わくば、貴女の狂気が錦木千束の死生観に()()()()を与えることを願っていますよ。

 

 

 焦がれた愛に溺れれば、チリンとまた鳴る鈴の音が店内に響き渡った。

 

──誰だ、殺すぞ。

 

 新たな客入りにより千束とたきなを独り占めできるひと時が終わると思えば、思わず殺意が迸る……本当に誰ですか私たちの刹那を邪魔する愚物は、殺すぞ。

 

 千束に勘付かれないよう僅かな殺気を醸しながら今しがた入店した者に視線を寄越せば、其処にいたのは一人の男だった。

 

 高値の物であると一目で分かる仕立ての良いスーツ。

 清潔感のある整った髪型と容貌。

 常日頃この店に訪れる客層のどれにも当てはまらない高級取りと思しき男が、店主のミカさんと視線を交差させる。

 

 

「──やあ。久しぶりだね、ミカ」

 

 

 機械仕掛けの左眼が、不快音を鳴らした。

 

 

 

 

 






やったねレズちゃん!家族が揃うよ!



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