クレイジーサイコレズ系主人公が錦木千束の心臓を死ぬほど欲しがる話 作:靉靆
リコリス・リコイル2期or劇場版は何処に……需要と供給のバランスが取れてねぇぞ真島ァ!!
──この度の“狩場”に、少しの落胆も覚えなかったと言えば嘘になります。
平和で平穏な法治国家。事前情報によれば事件の発生率は先進国とは思えないほど低く、血と硝煙の匂いが渦巻く戦場を倦厭する者が見ればまさしく楽園の様な国と言えるでしょう──嗚呼、
これは私の持論ですが、平和とは即ち堕落です。
確かに諸人からしてみれば
美味しい食事があり、飲める水があり、空気が肺を汚染することもない。当たり前の様に学校に行き、仕事をして、家族と大事な時間を過ごす──それはなんて、なんて
真島に指示され、電波塔へと潜入する道中何人もの一般人を素通りする度に、思わずため息を
誰も彼もがあまりにも隙だらけ。
我慢は、嫌いです。
真島への今までの恩義からこの殺人衝動を抑えますが、その状態を一秒一瞬でも長く保とうとする度に吐き気と頭痛が止まらず汚濁した精神が更に蝕まれるのを自覚してしまう。
殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい。
若者の喚き声が聞こえる。
赤子の鳴き声が聞こえる。
衆生の騒めきが聞こえる。
男の声が、女の声が、つまらない日常を謳歌する肉塊の声が聞こえる。
くだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらない。
殺せば、満たされる。私の殺人衝動は無差別の
だけど、それはダメだ。真島の計画が破綻してしまうのもそうですが、私はこの肉塊たちに
二年前のあの日とは違う、熟練の兵を殺す快楽を知ってしまったが故の我儘。
腹が膨れても、舌が喜ぶ事はない。それではまるで質素な食事だ。
私の
真島の言っていた平和ボケとはまさにこの事──抗うことも、藻掻くことも、命を終に煌めかせる術すら、彼らは知らない。
だけど
「はぁ、この国の対テロ部隊にでも期待しますか」
この様な平和の蜜に浸かった国の組織ということで期待値は下がりますが、それでも無知蒙昧な愚衆を狩る作業よりはマシでしょう。
顔の下半分。口元を覆い隠す
──嗚呼、早く血臭漂う地獄に戻りたい。
█
──そんな響奏の空虚な期待は、
「なんですか、なんなのですかこれは!!」
狂喜する。この窮地に、十数もの殺しの集団に囲まれながら殺人鬼は心からの喜びを咆哮する。
「やはり貴方は最高ですよ真島!あぁ、己の身に流れる血が熱い!」
──喉笛を裂く。脳天を貫き、脊髄を断ち、死を運ぶ。
これで男系暗殺の集団組織、
「──真島ァ!」
「左の売店!前から三番目の棚に四人!その上の階に三人!」
己にはない索敵能力を持った相棒の指示を聞き届け、俊敏な動きで対象へと接近。背後より忍び、心臓の位置へと正確にナイフを差し込む。
肋骨の合間を正確に縫い、心臓をひと突きに絶命させる。
両眼越しに認識する赤い“線”をなぞる様に、五指に挟んだ
「クク、クハ、アッハハハハハハ!!!」
殺し、殺し、殺しに殺した。
制服を着た少女たちで構成された殺し屋集団。
その前には同じく殺しの手管を備えた少年兵らしき集団。
まるで
「なん、なのよコイツはッ!?」
「───キヒッ」
「──っ、先輩!」
殺戮を行い続ける己の凶行に驚愕と恐怖を覚える
防刃性能を携えた制服も、殺人鬼の有する技術と
夥しい量の血液と共に溢れ落ちる臓物。その隣で涙目になりながら、たった今朽ちた死人を呼ぶ声を震わせる
「……!この、化け物っ!」
距離10メートル程から、また別の少女──紺の制服のセカンドリコリスが銃を構え照準を合わせる。種類は先ほどから殺人鬼を狙うそれらと同じグロック17、この距離ならば訓練を受けた彼女たちリコリスが外すことはまずない。
さらに言えば射殺対象の怪物は、殺害直後に一瞬の硬直を見せていた。
殺す。確実に殺す。
憤怒と憎悪が殺意へと直結し、脳を経由した感情が指先へと指令を送る。
「くたばれッ!」
秩序の執行者として殺しの技術を施されてきた彼女たちリコリスであるが、その精神性に未だ激情的な部分を持つ者もまた存在する。
いや、寧ろこの状況下に於いて平静さを保つ者の方が少ないだろう。リコリスとして“DA”に拾われ、同じ釜の飯を食い共に育ってきた同輩の無惨な姿を目の前で見せられている──怒り沸かぬ理由など、あるはずがない。
「奇襲は、お静かに」
「……ぁえ、が、ふっ……っ!」
「───は?」
殺しの幼姫を撃ち抜かんと放たれた凶弾は──即座に身代わりとなった後輩を射抜き、動揺により凶弾の射手は思わず唖然とする。己の放った弾が後輩のリコリスを撃ち抜いたこともそうだが、何より目の前の殺人鬼が身代わりのために取ったその行動が何よりも異常だったのだ。
「……かふっ」
セカンドリコリスが撃った弾丸は幸運にもサードリコリスの肩を貫通するのみに終わり、致命傷とはならずすぐに治療を行えばまだ助かる見込みが十分にあった。
「ぁ……ぎ、……」
「や、やめろ!」
可愛がってきた後輩の苦悶に満ちた呻きが耳を劈く。
懇願の声を漏らしながら、銃を握る手が震えてしまう。
撃てない、撃てるはずがない。
「ぃ……っ、ぁ」
「やめてくれ……!」
死後もその肉体を冒涜される同輩と、その仲間の
───怒り云々や憎悪の感情すら追いつかない程、恐怖が身体を支配する。
手は震え、銃はその照準を合わせることすら叶わず。引き金にかけていた筈の指をいつの間にか遠ざけていた。
「おや、意外です。殺しの走狗にも仲間意識がありましたか」
幼女のものとは思えないほどの力でギリギリと肉盾の首を締めながら、歪な笑みを連想させる様な
「ひゅ、かひゅ…ぎ…ぃ」
「ぁ、あぁ……」
着実に死へと向かいゆく肉体が必死に空気を求める様相をまざまざと見せられ、もはや
拳銃は未だ下げられていないが、そのブレた照準にはもう既に殺意はなかった。あるのはこの緊張下における迷いだけ。
小さな体躯をした殺人鬼を射殺するには、それに覆いかぶさる様にして肉盾にされた仲間の急所に近しい部分を貫通させなければいけない。
不安定な天秤がどちらかに傾く、その前に──肉盾にされた
一瞬の迷いが戦友の命を失わせる。そんな戦場では当たり前なことを脳では認識しながらも、リコリスは動けなかった。
腕はだらりと下がり、目はその焦点の拠り所を失い、股ぐらから排泄物が垂れ出る。殺人鬼の極めた異常性と手練手管の数々が、少女に存在したはずの尊厳の全てを奪い尽くした。
「迷うな。懇願するな──お前の敵は決して決して止まらない」
「ぁ、が…」
そして、そんな戦場に於いて間抜けでもつける様な致命的な隙を百戦錬磨の殺人鬼は見逃さない。
動揺の隙に詰められた距離の分が自分自身の寿命となり、再び引き金に指をかけた頃にはとっくに喉を裂かれ膝から崩れ落ちる。
己の血で溺れかける奇妙な感覚を実感しながら朽ちゆく
「
押し寄せる快感を噛み殺しながら、響奏は眼下の仲間たちへと敵の全滅を報告する。
此方の損害は軽微。砂塵で視界が悪いが、あの異常に鋭敏な耳さえあれば、それだけで真島は指示が出せる事を考慮し、計画が予見されたことにさえ目を逸らせば被害は実質皆無であった。
「……いきなり襲われて首尾もクソもあるか。こっちはまだ電波塔の占拠止まりで爆破の準備一つできてないってのによ」
目が見えない状態にも関わらず器用に愛銃である2インチ200DSモデルの
民間人を排除し電波塔を占拠するまでは計画通りにことが運んでいたが、その後の思わぬ伏兵に対して狂った歯車は爆破の遅延を意味していた。
「それは失敬。まぁ、どうやら計画も初手から読まれていたようですし当然ですか。時間を稼ぐので増援の位置を教えてください」
「……いいのか?」
響奏の思わぬ提案に、真島は聞き返す。
その声色には目の前の齢八を迎えたばかりの少女が返り討ちに遭い殺されるなどといった疑念は一切なく、この一年間で殺しを通じ紡がれた信頼を意味していた。
「無論。これ程までに洗練された
「“音”が密集してるのはこの
支柱に爆弾を設置するのに10分は要るぞ」
「
「成功したら幾らでも食わせてやるよ」
血と硝煙が渦巻く戦場には不似合いな会話を切り上げ、ナイフの血を拭い新たな獲物の許へと向かおうとするが、急に何かを思い出したように歩みを止め、黒い外套を翻しながら響奏が真島へと視線を寄越した。
「ああ、ですが
「ハハッ。やっぱイカれてるよ、お前」
呆れの感情を含んだ乾いた笑いを聞き届け、殺人鬼は疾駆する。
█
外套のポケットから血で汚れた懐中時計を取り出して時間を確認し、ナイフを逆手に持ち変え先程回収した
眼前には道中で二十名ほど殺した少年たちで構成された殺しの軍団とは違う、先ほど見た少女たちと同じ制服を着た殺し屋たち。
感覚を極限まで研ぎ澄まし気配を探れば、後方の物陰にも此方の隙を窺う存在が知覚できた。
赤が二名、紺が八名、薄茶色が十五。その他視覚外に二十五名もの刺客が息を潜めている。
「……リリベルを殲滅したのは貴様か」
赤服の少女が知らぬ固有名詞を述べている。
リリベル──それは先程私が殺し尽くした男たちか、女たちの方か……或いは、その両方か。
なにはともあれ私の姿を視認してすぐに発砲しないのは幼い少女の姿への動揺故か、それとも生捕りにして情報を吐かせるためでしょうか。
もしそうなら、嗚呼──
「私を殺したければ、躊躇を捨てて殺意を抱け」
「総員警戒!」
左手に携えた
すぐさま此方の動きを知覚した赤服が銃口を上へと向け、ほかの少女たちは殺気立ちながらも発砲する事なく此方に照準を合わせている。
長い間叩き込まれたであろう規律を思わせる連携に思わず感心する。
赤服は先程私が投げた“物”を
緩やかに軌跡を描く、その投擲弾にしては大きすぎる“物体”への違和感にやがて赤服は気付き──“それ”と、
「ぇ───█、██?」
ぼとり、と。唖然とする赤服二名の足元に
「ひっ」
涙と怯えを含んだ微かな悲鳴が耳を震わす。
分かりますよ。同僚が死ぬのは堪えますよね。自分の無力で、見知った顔がまるで趣味の悪い
故に、
真っ当な精神の持ち主なら致命的な隙を晒すことは避けられない、そして作り出してしまった隙は無数の“死線”となって私の眼に映る。
さあ狩りが始まるぞ。
白々開けの朝。
野原は
森の緑は濃い。ここで猟犬を解き放ち、声高く吠えさせよう。
真夜中になると此処は、何千もの悪魔や威嚇の音を立てる蛇、何万もの子鬼や体の膨れ上がった蟾蜍が集まって、身の毛もよだつ狂乱の叫び声を上げる。
──その畏れが、私の力だ。
「
「……っ、煙幕!?」
「もはや貴女たちに、次はない」
第六感が感知した“線”は、対象を絶死へと導く“道標”となり赤服の喉笛を裂き散らす。
「ぎ…っ……」
「っ、この!!」
「待て、無闇に撃つな!」
滑稽だ。ああ滑稽に過ぎる。
これほど洗練された殺しの技術を持ちながら、人の命を奪う覚悟を持っておきながら、命を煌めかせる術を知っておきながら仲間意識に縛られる道化の演目に落胆をひた隠しながら
煙幕により此方も姿を視認できずとも、“線”が敵への軌跡を教えてくれる。
「ぁ、うわぁあぁぁああ!!」
「おい!──が、っ」
やがて、霧の中で死にゆく仲間の断末魔に耐えきれず精神に亀裂を入れ無闇矢鱈に発砲する者が現れる。私は近くにいた肉盾を使い弾丸を防ぐが、周りはそうともいかない。
あぁ、
「本部からの指令、撤退。撤退だ!総員撤退しろ!それは
ふと、先程聞いた赤服の声が撤退の報せを叫び少女たちが真島のいるフロアとは反対方向へと踵を返す。
此方を油断させるためという可能性を考え受け身の姿勢を取りましたが、どうやら本当に諦めてしまう様子で思わず唖然とする。
「逃がすと、お思いですか?」
此処で逃せば、他の手段を用いられて真島の元へと向かわれる可能性がある。ならばおめおめと逃がす理由などあるはずもありません。出口へと脚を急がせる彼女たちを追い討ちしようと身を屈めた──その時。
「─────」
脚が、止まった。己の中の時が止まった。
何かが来る。あの日開花した第六感が、絶えず警笛を鳴らし続けている。
「──────」
去りゆく人の波に逆らう様にして、“ナニカ”が来る。
数十人もの足音が騒々しいはずなのに、そのたった一人が鳴らす緩やかな足音が耳にこだまして聞こえた。
やがて、この空間に存在する生者が私と
現れたのは、一人の少女だった。
先ほどまで殺してきた少女たちの
私とは毛色の違う、切り揃えられた淡い金色の色彩が入り混じった白色の髪。
左サイドに結ばれた可愛らしい真っ赤なリボンが、
「────ぁ」
呼吸が、一瞬止まる。
ひと目見て、瞬時に理解した。
私と殆ど歳の変わらぬこの少女は、紛れもなく同類の異才を持つ存在だと。
心臓が早鐘を打つ。
殺しの熱に浮かされ火照ったはずの身体が
今まで感じたことすらなかったこの感情を、私は逡巡の暇なく理解する──これは、恐怖だ。
呼吸は不規則になり、動悸は激しくなる。それなのに──この胸に、咽せ返るほどの“歓喜”が宿った。
「ふふっ……」
見つけた。
「ふは、クハハハっ」
見つけた。
「アー、ハッハッハハハハハハっ!!」
見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見ツケタ見ツケタァ──!!!
論理もなにもない、定理もぐちゃぐちゃ。それでも暴れ狂う感情論が彼女との出逢いの名を理解する──これは、運命だ。
その瞳を見ると、胸が高鳴る。
潤んだ唇を見れば、無理矢理にでも奪いたくなる。
その艶やかな髪に、今すぐ顔をうずくませたい。
まるで初恋に浮かされた乙女の様に……否、紛うことなき“初恋”の熱に、私は浮かされていた。
その背に爪を突き立て、喉笛に牙を食い込ませ、肉を食みたい。滴る血を
願望が溢れる、欲が心を支配する。
あぁ──
ふと、我に帰る。愛しい姫君はいつの間にかその小さくて愛らしい手に銃を構え、此方も無意識下の内にナイフを逆手に構えていた。
開戦の号砲はすぐ其処に。でも、一度彼女と言葉を交わしたいと思ってしまう。
「ぁ……ぁの」
「?」
緊張で震える私に対して首を傾げる仕草が愛らしくて仕方がない。
……真島に、防腐処理の伝手をお願いしなくてはいけませんね。
呼吸を整え、真っ直ぐと少女の目を見る。
今度は言葉を詰まらせず、自分の意志を確かな言葉に込めて伝えましょう。
「──私は、貴女を
「……うわぁ」
どうやら私に、詩人の様に乙女の恋心を唄うのは難しい様です。