クレイジーサイコレズ系主人公が錦木千束の心臓を死ぬほど欲しがる話   作:靉靆 

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#04 See your body into the moonlight

 

 

 

 脳が震えるような、恋をした。

 昏い深淵の底へと沈みゆく己の意識を自覚しながら、狂愛に溺れる。

 

嗚呼、良いひと時だった。

 

 筆舌に尽くし難いほど心震えた運命の邂逅。

 掲げた不殺の意志に燃える恋心が冷める瞬間はあれども、あの瞬間に感じた運命に嘘はない。

 鼓動など既に止まっているはずなのに、命の輝きは一切損なわれることなくむしろ燦々と煌めいていた。

 

 銃爪(ひきがね)にかけた小さな指。救世を宣誓するその潤んだ唇。艶やかな淡い白髪──毛先から爪先に至るまで、その総てが愛おしい。

 

あぁ、愛しい人。私は、貴女を────。

 

 

「───ぁ」

 

 

 心地よい夢から醒めた直後にまず湧いたのは、途方もない不快感だった。

 ああ、泡沫のような回顧録が終わってしまったと心中にて落胆しながら肉体の彼方此方(あちこち)を穿つ痛みを脳で認識し、見覚えのない天井を視認する。

 

 

「どこですか此処」

 

 

……肺が痛い。

 折れた肋骨が更なる激痛を招き上体を起こす事すら億劫になるが、この謎に満ちた状況下で横になったままというのも警戒心が疼いて仕方ないので周囲の気配を探りながらゆっくりと起き上がる。

 

 ひび割れ欠けたコンクリートの壁や地面が、この場の退廃を語っていた。

 

 最後に自分が気を失った電波塔とは似ても似つかない場所。

罅の入ったガラス越しに外を見れば、夜の闇を僅かに月明かりが照らしこの場所と同じような惨状の隣接する廃墟が見えた。

 

 真島や他の仲間たちが私を助けて此処に匿ったのかとも思考するが、自分の命を繋ぐ周囲の器具を見るにその可能性は限りなく低い。

 

 この廃墟の景観には不似合いな大層な医療器具の数々。肺を痛めた弊害による血の味染み渡る呼吸困難を、取り付けられた人工呼吸器が補う……こんな代物を、少なくとも真島たちに用意する暇はなかった筈。

 

 着た覚えのない衣服をはだけば、そこにあったのは幾つもの手術痕。夥しい程に縫われた針の数を見れば、私の肉体が想像以上に瀕死の状態だったことが分かる。

 

「……アラン機関か」

 

 観察と考察により言葉に出たのはかの秘密主義組織の名前。自分の命を救い出したその手際もそうですが、何よりも()()()()が彼らの存在を雄弁に物語っていた。

 

 

「随分と高性能な義眼を用意したものですね。馴染みすぎて一瞬、自分が左眼を失っていたことを忘れていましたよ」

 

 

 空いた筈の眼窩には、潰れた瞳に代わり新たな瞳が嵌められていた。

 瞳孔は自分の意思に応じて左右上下に動き、右眼を閉ざせば反対の義眼が視認した外景情報を全くの時差(ラグ)なく脳へと伝達神経を通じて送る。

 

 今の時代なら人工眼の普及も珍しいわけではありませんが、これ程までに生身の眼球と大差ない性能を持つとなればその技術の出処はアラン機関以外に考えられない。

 

 “才能”の支援には、窮地に於ける助命も含まれていたのでしょうか?

 

 今まで真島と共に戦場を疾駆していた時には影も形も見せなかった機関の動きに、少しばかり不気味さを感じてしまう。

 

 そんな不信感を感じながら次に視線を移し手に取ったのは、まるで起き上がったら確認しろと言わんばかりに枕元へと置かれていたタブレット。

 

 電源を入れた際に現れたフクロウのマークに、真島の見ていた映画のようなありきたりさを感じますが──中に入っていた情報は、そんな物語(フィクション)と同じくらいに突拍子のないものだった。

 

 

「リコリス…リリベル…DA…管理AI(ラジアータ)……成る程、これがこの国の維持してきた平和の絡繰ですか」

 

 そこに記されていたのは、決して漏洩してはならないと一目で分かる国家機密の数々。

 どれか一つでも衆目に晒されれば混乱は避けられず、この法治国家の在り方が根底から覆るのは必然の代物と言えるでしょう。

 

 明治政府の樹立以前から影にて暗躍する『八咫烏』を前身とした組織。

 その下に存在する金鵄(きんし)こそが、汚れ仕事の請負人。

 

鴉──男系暗殺部隊の君影草(リリベル)

 

雅──女系暗殺部隊の彼岸花(リコリス)

 

鵶──影武者部隊の花葵。

 

 随分と、()()()()のありそうな組織ですね。

 

 これらの情報が虚偽でないとは断言はできませんが、真島の計画を初手から見通す監視体制に少女たちで構成された殺しの集団を思い出す限り、これらが機密情報の全てではないとしてもその他の情報にも信憑性が生まれ辻褄が合う。

 

 

「事件は事故に、悲劇は美談に。とんだ茶番ですね。私などよりもよっぽど“歪”な在り方をしている」

 

 

 くつくつと、腹の底から愉悦の笑みが溢れてしまう。

 国民の倫理意識によって成り立っていると思われていた筈の平穏平和が、その実は血で穢れた見えざる管理社会(ディストピア)によるものだったなど、笑い話にも程がある。真島が知れば、さぞ“バランスが悪い”と嘆く事でしょう。

 

 それにしても、これではまるで羊飼いと無知な羊。人形師と操り人形(マリオネット)。人間と家畜の関係(それ)だ。

 

 平和(えさ)を貪る家畜たちは、その世界が牧柵で囲まれた偽りのものであると知らず生きている。

 

 

「秩序の執行者を気取るのは如何な気分でしょうか?その脳を解体して是非とも知りたいものです」

 

 

 ともすれば自分など小物かと思ってしまうほどに異端染みた在り方で成り立つ組織の情報を隅々まで網羅し頭に入れれば、次にスライドして現れたのは私についての()()情報。

 

 

「──何を考えている、アラン機関」

 

 

 思わず、先ほどまで浮かべていた笑みが崩れる。

 液晶を睨む義眼の鳴らす微かな機械音が内側から頭蓋を反射し。耳を騒めかす。

 映し出されたのは新たに作られた戸籍や、内縁関係を示す謄本の写し。

 

 今まで私が戦場を闊歩するため利用していた身分証は全て使えないという事だろう、それはいい。どうせ私は掃き溜めで生まれた虚無の人間ですから。それでも、これでは……。

 

 

「これではまるで、私が彼岸花(リコリス)になるためのお膳立てのようではないですか」

 

 

 偽造された戸籍謄本によれば両親は1ヶ月前に死去、その他詳細の擦り合わせを行うための“設定”によれば、私は親族をたらい回しにされて天涯孤独の身となった少女()()()()()になっていた。

 

 汚れ仕事の請負人、それに起用して問題のない若者と言えば戸籍のない、もしくは戸籍を消しても問題のない子供たち──つまりは孤児という事になる。

 

 あまりにも、孤児の行く末(リコリス)へと辿り着くのに()()()()()、消される事を前提とした設定だらけだ。

 

 次に液晶をスライドすれば周辺にある孤児院のリストが表示される。おそらくは組織が管轄するものであり、秩序の執行者を輩出するための育成機関なのでしょう。

 

 地図を見る限り、どうやら私は京都という都市まで場所を移されたらしい。電波塔事件から遠ざけるという意味で一応の理解は出来る配慮と言えば、妥当なものですね。

 

 

「そうですね。誰にも咎められることの無い調停者気取りの殺しには少し興味がありますが……」

 

 

 興味は唆られるが、それはそれとして不安要素があまりにも多すぎる。

 私の正体がバレる危険性があるのもそうだ。確かに電波塔襲撃時に先に潜入した真島たちはいの一番に監視カメラを破壊したが、それでも私の写真や映像が残っている可能性がある。

 

 マスクを着け、この白髪を血に濡らしていたとしても確実に正体を隠匿できる可能性は……否、だからこその偽造戸籍(アリバイ)という訳ですか?

 

 本来の私なら、こんな迷いは抱かなかった筈です。

 血と硝煙の渦巻く地獄を闊歩し、強者を殺し、輝きを探求する生き方をしてきた私なら、躊躇なく亡命船であれ輸出船に乗り込みこの国を離れていた事でしょう。

 

あぁ、だけど──私は、己が旅路の“答え”を見つけてしまった。

 

 淡い白金髪。赤いリボン。深紅の瞳。愛らしい声。

 漸く見つけた運命の人に恋焦がれ、溺れてしまう。

 

 私と同質の才を持ち、それを御し得る強さがあった。

 不殺を貫き通そうとする確固たる信念があった。

 私という狂気に相対する勇気を持っていた。

 

 

──誰でもよくて、“誰か”がいい。

 

 

 未だに悶え蠢くこの殺人衝動は、誰彼構わず血の海に沈め死体の山を築きたいと囁き、私の(こころ)は愛しい人を求めて止まない。

 このままこの国を離れ、彼女に背を向け我欲を満たす人生は果たして生きていると言えるのだろうか。

 

 否。そんなものが生きていると言える筈がない──妥協とはそれ即ち、緩やかな死への始発点なのだから。

 

 

「ならば貴方がたの思惑に乗りましょう。アラン機関。例え五年待とうとも。十年待とうとも。幾百、幾千、幾万、幾星霜(いくせいそう)待とうとも──最後に愛しい人と(アイ)し合えれば、それで良い」

 

 

 裂傷を保護する包帯を引き裂きながら、ベッドから足を下ろす。

 全身が悲鳴をあげる。鎖骨は砕け、肋骨は折れ、口腔は今も血の味が染み渡る。

 

あぁ、それでも。愛しいあの娘を想えば苦ではない。

 

 

「それに、命の恩義に報いず去るというのは少し──()()()()()()()

 

 

 “演技”をするのは久方ぶりですが……まぁ、問題はないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっむ……」

 

 二月の寒空の下。晩冬の京都は肌寒い。

 北海道や東北地方に比べれば格段に暖かいはずなのに、足元から冷えゆく感覚が体感温度を下げる京都の底冷えに身を震わせながら、男は孤児院の周囲を歩き見回りを行う。

 ただの施設なら、大袈裟な行動だろう。しかし、この孤児院は組織が管轄する殺しの養成所。

 

 将来彼岸花(リコリス)となる少女たちを保護し、この国の治安を維持する事を目的に育て上げるための施設なのだ。いくら警備と警戒を強めて大袈裟と言うことはない。

 

 男の表の顔は孤児院の職員。裏の顔は組織に奉仕し少女たちに殺しの手管を教える教官補佐の一人。

 

 男は、この仕事に誇りなど微塵も持ってはいなかった。

 無垢な少女たちの逃げ道を塞ぎ、依存させ、国への奉公などと言う甘い謳い文句をぶら下げて殺しの走狗として飼い慣らす──外聞すればまるで映画に登場する悪の組織のようだと男は思いながら、それでもこの仕事を続けているのは偏に、()()が国の平和を築いていると知っているからだ。

 

 己は必ず地獄に堕ちると卑屈げに乾いた笑いを常に貼り付け、男は組織に仕える犬となる。

 

 

「異常なしっと。そりゃそうか、此処は()()()()()()なんだからよ」

 

 

 口元が寂しい。普段はリコリス予備軍の子供たちの前だからと控えている煙草を、この時ばかりは吸う。

 心の奥底に溜まった鬱憤を、紫煙と共に吐き出した。

 

「……?」

 

 ふと、街灯の下にてゆらりと動く影に気づく。野良犬や猫にしては大きいそれに、男は警戒の色を瞳に宿しながら近づく。

 

 懐に手を入れ、拳銃のグリップを握る。

 

 足音を消し、息を潜め、気配を殺しながら歩みを進めれば──そこにいたのは、一人の少女だった。

 

 子供にしては珍しい絹のように滑らかな白髪だが、瞳の色はもっと珍しい。赤と金色の虹彩異色(オッドアイ)が夜闇に映える。

 容姿端麗、眉目秀麗と言った言葉が似合うその美貌に、子どもとは思えないほどの色気を感じた。

 

 だが、真っ白な肌に刻まれた傷や痣に男はやがて気づく。

 よく見れば服装はその美貌に不釣り合いと言えるほどのボロ衣であり、この晩冬の寒さにまるで怯えるようにして震えていた。

 

 

「どうしたのかな。お嬢ちゃん?」

 

 

 男は少女の“事情”を察しながら、声をかける。

 こんな寒空の下でボロ衣一枚を羽織るのみで切り傷や青痣をその肢体に刻まれているのだ──()()()()()()()を持つ少女たちが此処に辿り着くことも少なくないと知る彼にとっては、それだけで大体の事を察するに十分な情報材料であった。

 

 声をかけられた少女は寒さに震え涙をその潤んだ瞳に溜めながら、上目遣いで男を見た。

 

 

「ママとパパが、帰ってこないの。動かなくて、狭い箱に入ってて、それで、それで……」

「お父さんやお母さん以外に誰か頼れる人は居るかい?」

「……誰も、助けてくれなかった」

 

 

 世界に絶望したような、そんな声色で不条理を声に出す少女の大凡の事情を男は把握する。

 

 おそらくは父と母を亡くし、その死を受け入れられないこの少女は親戚をたらい回しにされたのだろう。

 

 しかもその襤褸布の服装や真っ白な肌に浮かぶ痣と切り傷を見る限り、その過程で虐待の被害にも遭っている──嗚呼。つまり、()()()()()()()()()()()だ。

 

 ならば男の仕事は()()()()()()少女へ救いの手を差し伸べ、()()()()()()甘い言葉で組織に依存させ、()()()()()()無垢な少女を殺しの走狗に仕立てるだけだ。

 

 身を縮こませ、寒さに怯える少女を“こちら側”へ引き摺ろうと手を差し伸ばしたその時。男は、少女の首にかかった装飾品に目を奪われた。

 

 

「お嬢ちゃん。それは……」

 

 

 男は驚愕しながら、少女の有するチャームへと指を指す。

 すると少女は一度可愛らしく首を傾げると、男の指し示すものを察しどこか誇らしげにその“フクロウ”を見せた。

 

 

「知らないおじさんがくれたの。それでここに行きなさいって言われて……」

「そのおじさんは君に何か言ってたかい?」

 

 

 ごくりと固唾を飲み、男は言葉を選びながら少女に問う。フクロウのチャーム──即ちアランチルドレンとしての証は、この世界において重要な意味を持つ。

 彼岸花(リコリス)にとってもそうだ。つい二週間前、()()()()()()()()()()()()()()()()アランチルドレンの彼岸花(リコリス)を知る男は、決して目の前の少女に不信感を抱かれぬ様にと接する。

 

 

「『キミの使命は此処にある』って、言ってました」

「そうか、お嬢ちゃん……こんな寒空の下だと風邪を引いてしまうよ。来なさい。何か温かいものを出そう」

「ほんとう? ありがとう、お兄さん!」

 

 

 こちらを疑いもせず絢爛に笑顔の花を咲かせる少女を直視し、男の中で人間として大切な“なにか”がこぼれ落ちる様な音がした。

 

──あぁ、自分は絶対に碌な死に方をしない。

 

 僅かな後悔と溢れんばかりの罪悪感を胸に、男は少女を地獄の道程へと手招く。

 

 差し伸ばし握ったその冷たく小さな手が、血で濡れる未来を幻視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ゆめ)気をつけろ。その彼岸花の持つ毒は、触れる者全てに死を馳走する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電波塔事件のテロリストは主犯格二名を除き全て死亡。ミカ、私たちの娘はしっかりと育ってるようだね」

 

 

 ガラス張りの壁一面から見える都会のネオンを背景に、その男はまるで感動に染み入る様にして椅子の背にもたれかかっていた。

 

 

「この目で見られなかったのは残念だが……千束、君の成長を嬉しく思うよ」

 

 

 吉松シンジ──普段は冷静沈着を絵にしたようなエージェントである彼だが、“娘”の事になると我を忘れてしまう事がある。

 今回の電波塔襲撃事件で、解決後DAによって処分された捕縛済みのテロリストたちの直接の死因が錦木千束によるものであると()()()したように。

 

 いくら世界中にその根を伸ばす組織であっても、DAの管理AI相手では魔術師(ウィザード)の域に達した世界一のハッカーでもいない限り完璧に情報を盗み出す事は難しいため、そう考えてしまっても仕方ないと言えばそうなる。

 

 故に彼は知らなかった。

 アラン機関に命を救われた錦木千束が、それに報いるようにして不殺の誓いを立てたことを。

 愛する人が自分を欺き娘の“使命”を誤認させたままでいることも。

 

 

「“彼女”が瀕死の状態だと姫蒲から聞いた時は肝が冷えたが、無事で良かった」

 

 

 次に男は、仕立ての良いスーツの胸元から一枚の写真を取り出した。

 そこに写っているのは妖美なる殺人姫──霧霞響奏。

 先程千束の名前を読んだ時と同じような優しい声色で、少女の存命を彼は喜んだ。

 

 

「類い稀なる殺しの才能。アラン機関としての理想やキミの精神性(さが)を鑑みれば、戦場を闊歩し無差別に死を撒き散らす方が正しいのかもしれない」

 

 

 才能とは神の所有物であり、その才を世界に届ける事こそがアラン機関の使命。

 その点で言えば、霧霞響奏は生まれながらに己の使命を無自覚に意識し幼くして才能の開花と共に“使命”を達成した、ある意味で史上最高のアランチルドレンと言えるだろう。

 

 

「だが()()()()として我儘を言わせて貰えるなら──千束と共にこの国でその才能(ギフト)を育んでほしいと私は思う。ミカなら、きっとこの考えを理解してくれるはずだ」

 

 

 吉松シンジは記憶の宮殿にて、かつての殺人姫との一方的な邂逅を想起する。

 

 一年前。ある小国にて起こった正体不明の殺人鬼による惨殺劇を知り、現地へと赴いた彼は──愛娘と同じ“才能”を刃として振るう少女を見た。

 

 部下に命じたドローンでの探索による液晶画面越しのその姿であっても、見紛うはずがない。あれこそまさに千束と同じ“殺しの才能”。しかもあの年にして梟の装飾品(チャーム)を贈られずとも己の“使命”を自覚しているのだ。

 見惚れぬなと言う方が、無理がある。

 

 故に彼は少女に名を与えた。刃を与えた。世界へと飛び立つための翼を与えた──最後の贈り物に関しては、少々響奏の身を軽んじたものだったかと後悔する日もあったが。

 

 それ故に今回は、もう一人の娘と同じ場所でいずれまた世界へとその殺しの才を届けるため育んでほしいと彼は考えた。

 しかし。それは機関の人間としては少々グレーな行為だったと言える。

 

 

「アランの理想を崇拝する事に後悔など微塵もないが、此度の介入で上から私に対して何かしらの処罰があるかもしれない──あぁ、ミカと一緒に大切な()()()の成長をこの目で見守れないというのは……少し辛いな」

 

 

 その言葉には、悲しみの感情が込められていた。大切な娘たちの成長を見届けることができず、もしかすれば愛する人にも一生会う事が出来ないかも知れないのだ。

 胸が張り裂けそうな思いとは、まさにこの事だろう。

 

 

「千束、響奏。君たちは私の自慢の娘だ」

 

 

殺しの異才を奉りながら、救世主が愛を唄った。

 

 







吉さん←親バカ
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