クレイジーサイコレズ系主人公が錦木千束の心臓を死ぬほど欲しがる話 作:靉靆
今回は少し短めです。
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──どうしてこうなったのか。
頭からざばっと被せられる湯の温かさが丁度良い。
長い白髪についた血をシャンプーが洗い流す。
優しく頭皮を揉む小さな指に快感を感じた。
横目でチラリと見えた肩の古傷に興奮を覚え、思わず下腹部に手が伸びかけた。
成長途中の柔く幼い肢体が私の背に密着する……鼻血が出そうです。
「ダメだよー響奏さん。女の子なんだから髪は大切にしないと」
浴室を反響する甘い声に脳が蕩けてしまう。
思考が全く機能しない。千束大好き。殺したい。
いや、そもそもどうして私は千束とお風呂に……?
……あまりにも幸せすぎて記憶が飛んでますね。
リリベルを血祭り未遂にあげて千束に詰め寄られた所までは覚えてるのですが……まぁいいか。
千束との蜜月に比べれば全てが塵です。
もう一度頭から被せられる湯がもやもやを流していく。
「……大丈夫だよ。私は絶対に、響奏さんを嫌いになったりしないから」
ふと、千束が震えた声で何かを言っている。
意味が分からない。いえ、千束が私を嫌いにならないとの言葉自体は嬉しいですが、私としてはもっと純粋な殺意を向けてほしいです……。
「だから、響奏さんはもっと自分の事を大切にして──誰かの為に自分だけが傷つくなんて、そんな悲しいこと絶対ダメだよ」
おい過去の私、千束に何を言った。
殺し合いに発展していないと言うことはなんとか本性を取り繕いでもしましたか。
ダメだ全く思い出せない……というか待ってください、なんですかその声色は……知らない。受けたことのない感情が感じられる。
怒り、憎悪、殺意──殺人鬼として相対してきた者の感情とは違う。
羨望、嫉妬、諦観──リコリスと成った後に知ったものとも違う。
慈愛、憐憫……?
何故ですか千束。何故私の求める
分からないわからない解らない。
思考が右往左往し結論を出せずぐるぐると回り、沈黙を保った私を千束が抱きしめ肌すべすべっ!?
うなじ、うなじに千束が頬やわやわ…!
胸が背中に、もちもち白玉つるつる…!
「ち、ちしゃ…ちさと、そこ…くすぐったいです……!」
「おやおやーもしかしてうなじが弱いのかな〜?響奏さんの弱点はっけーん!」
真後ろからの抱擁ゆえに直視できないが声のトーンから口角を上げてニヤつく姿が想像できる。可愛い。
ま、待って。指つーってしないで…!
吐息ふーふーもやめてください…!
あっ。ですが丸腰で衣服を剥がれ生殺与奪を千束に握られると思えば、この状況も悪くないですね。
─────────
「──響奏さん……どうしてこんな事をしたの?」
肌寒さを感じる秋の夜に、風音が煩い。
私を狙ったリリベルたちは全員生きて回収された。
だけど、一歩間違えれば彼らは死んでいたかもしれないと思えばぞっとする。
確かに私はリリベルのことが好きではないが、それでも目の前で命が奪われようとしているのを見過ごせる筈がなかった。
楠木さんから連絡が来た時に感じた、背筋の凍る様な感触が全身に怖気を走らせる。
どうして響奏さんはこんな事をしたんだろう。
任務とは関係なく、殺意を漂わせながら嬲るようにしてリリベルのファーストに跨る先ほどの彼女を思い出しながら、私は問いかける。
「千束の為ですよ」
「……え?」
私の、ため……?
その言葉の意味を理解する前に、響奏さんが私の頬に手を添えて艶っぽい表情を浮かべる。
人肌の暖かさが、夜の寒気を和らげる。
「命を狙われる夜に安眠できましたか?
自分の安寧を奪われる理不尽に恐怖した日は?
大切な人を害される不条理を想像した時は?
リリベルに狙われる日々で一度たりともそんな不安を抱かない時が果たしてありましたか?」
……否定、出来なかった。
夢なんて浅い眠りの中でもう何年も見ていない。
喫茶リコリコで先生のお手伝いをする時も、もしかしたら今この時にリリベルがやって来て仮初の日常を破壊するかもしれないといつも恐れた。
私がリリベルを無傷で倒せるほど強くても、もし先生やミズキが狙われてしまったらと考えて胸を抑えた日もあった。
「嫌なんです。千束がそんな苦しみを背負うことが……だって千束は、私にとって初めての──」
初めての……なんだろう。響奏さんは途端に口を閉ざしてその綺麗な瞳を此方に向けている。
友達、だったら嬉しいな……表の世界の子供たちみたく当たり前のように学校へ通うことができない
「千束の命を狙った──だから殺す。
それが最も
私のために。響奏さんはそう言った。
つまり、今日初めて見知った私なんかの為に
確かにあの酷い惨状を作り出したのはいけない事だけど、その根底にはしっかりとした意味があった。
自己犠牲の精神……リコリスがDAへの忠義の次に教えられる心構えを思い出す。平和の為に、見ず知らずの誰かの為にとその命を捧げる事こそがリコリスの本懐だ。
あぁ、そうか──この娘は、人の助け方を知らないんだ。
その考えに辿り着いてしまえば、私は否応無しに響奏さんを抱きしめていた。
「ち、ちさと!?」
「イヤだよ……私のために響奏さんが傷つくなんて」
驚きを言葉にして頬を赤らめる彼女に人間味を感じる。
機械仕掛けの心臓とは違うドクンと高鳴る鼓動が、小さな胸から私の胸を伝った。
そうだ、彼女は冷徹な殺し屋なんかじゃない。暖かくて優しい、ただの女の子なんだ。
……平和を守る為に人を殺す。
そんなリコリスとしての日常を生きる響奏さんにとって、もしかしたら誰かを殺すことが誰かを助ける為に絶対必要な行為だと思い込んでるのかもしれない。
それはなんて、なんて悲しい優しさなのだろう。
憐れみを胸の奥底に抱くと同時に、もしも私の心臓が普通の人のように鼓動を打っていたらと想像する。
救世主さんから血を流さず人を救う事の尊さを教えて貰わなかったら、ただDAの命じるままに悪人を無機質に殺す私が居たのだろうか。
限りある命の大切さ。
先生やミズキと過ごす当たり前の日々。
リコリコに訪れる常連さん達の笑顔。
永遠に続いてほしいと思う程に美しい刹那を知れたからこそ私は誰かを殺すのでなく、誰かを助ける為に不殺の
……響奏さんはきっと、救世主さんに出逢わなかった私なんだ。
だったら、今度は私が救世主さんみたいに彼女を助けたい。
「だからお願い。私にも響奏さんを助けさせて」
「千束……?」
──貴女はもう、私の大切な“友達”だから。
雪のように真っ白で綺麗な白髪をドライヤーで乾かし、僅かに血の付着したリコリスの制服を畳む。
お風呂で血を洗い流す時に響奏さんが首にかけてた私と同じ“フクロウ”のチャームが制服と一緒に置いてあるのを見て、先程のやりとりを思い出す。
私が本部を抜けて先生と喫茶リコリコを立ち上げた理由。
ずっと探し求めてた救世主さんの手がかり。それが間近にあったことで、最初は我を忘れて問いただしてしまった。
『……私にも分かりません。父と母を失った時に見知らぬ男性から貰ったので──リコリスになったのもその方のお陰だと記憶してます」
その返答に肩透かしをくらうと共に、申し訳ない事を聞いてしまったと反省する。
……多分だけど、響奏さんに“フクロウ”を渡した人と私の探す救世主さんは別人かもしれない。
私の命を助けてくれた救世主さんなら、絶対に響奏さんをリコリスの思想に染める手助けなんてしない……と思う。
断定できない思いを一度振り払い、私の貸した服を着ている響奏さんに視線を移す。
私より一つ年上だけど背丈はあまり変わらないのでサイズは大丈夫そうだ……と思ったけど、なんだか少しゆとりを感じさせる胸の部分を気にしてるみたい。どうしたんだろ?
「一緒に寝よ、響奏さん」
「……えっ!?」
キョロキョロと部屋を見回している響奏さんを寝室に誘う。
当たり前だけど私の部屋には一つしかベッドがないので、今夜は同衾だ。
これが俗に言うパジャマパーティーと言うものかと思うと、少しワクワクした。
「……千束。私以外にその誘い文句はしないで下さいね」
するとリリベルを追い詰めた時以上に冷ややかな表情で此方に詰める……えっ、私なんかまずい事言っちゃった!?
「それと敬称はやめてください。貴女と私の関係に、そんなものは必要ありません」
確かに“友達”をさん付けで呼ぶのは少し変だよね。
響奏さん……響奏が一足早くベッドに潜ると布団の端をこちらに向けて持ち上げ、同衾を勧めてくる……なんか色っぽいな。
一人用のベッドだから少し手狭で体が密着する。
この季節の夜はいつも肌寒い。
その筈なのに、今は人肌の温もりが心も身体も温める。
「──おやすみ、響奏」
「おやすみなさい、千束」
──今日は、久しぶりにぐっすり眠れそう。
待って待ってまってまってまって──無理無理むりむり……!
千束の寝顔が間近に迫る。心臓がバクバクと音を鳴らして煩い。
微かな寝息を感じて興奮で眠れない。
密着する柔らかな肢体が人肌の暖かさを伴っていて心地良い。
殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい
衝動が加速する。
先ほどの闘争で半ばまで満たしたからこそより深く、より強く私の癖を刺激して仕方がない。
殺したい、殺されたい。
抑えろ、我慢しろ。千束かわいい。
──美しいその寝顔に、再び己の恋心を実感する。
あぁ。やはり私は、貴女と
愛する人と大好きな妹に脳天を撃ち抜かれ、心臓を抉られたい。
三者が互いに血を流し合って、零れ落ちたその血が一つに混じり合う様をこの目で見たい。
肩につけた傷を上書きするように肉を喰み、血と共に嚥下するのを想像するだけで絶頂を覚える。
殺したい、殺されたい。抉りたい、抉られたい。刺したい、刺されたい。貫きたい、貫かれたい。噛みたい、噛まれたい。殴りたい、殴られたい。壊したい、壊されたい。締めたい、締められたい。犯したい、犯されたい。
──そして愛し、愛されたい。
……だけどまだ今は“その時”じゃない。
私たちの“運命”にはもっと相応しい時と場所があるはずなのだ。
私が初めて貴女に一目惚れした時に感じた激的な運命をもう一度感じさせるような時と場所が、必ず。
「あぁ、千束……」
彼女がリリベルを治療していた時に感じていた落胆がまた蘇る。
今の貴女では……私を殺してはくれないのでしょう。
あの電波塔の時と同じく不殺を唄いながらこの身を屈服させるのみで、陵辱してはくれない。
だからお願い、愛しい人。どうか、どうか
その為にも、殺しの天才である貴女の“使命”を──いつか必ず思い出させてあげましょう。
確実に訪れる訣別の日に胸を弾ませながら、綺麗な寝顔をそっと愛でた。