ぷるぷる、ぼく悪いメモリだよ   作:裏風都の浮浪者

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ロストドライバーとエターナルエッジ楽しみですね。


第2話 悪魔のS/信じる者は……

「……買えたね」

「うん。ひとまず安心だ」

 

風都のとある裏道でそんな会話を小声でするのは髪を短く切った少女と、もし表情が表に出るのならば、一仕事終えた達成感で満足気な笑みを浮かべているだろう心地で少女の肩の上でくつろぐシーズンメモリ。

彼らがこの数日間、研究所の生き残りに見つかるかもしれない不安と若干の羞恥心に耐え、路上で得た金銭は保存の効く食料に化けてその命をつないでくれている。他には体を拭く除菌シートや着替えなども手に入った。本当は銭湯にでも入ってしっかり洗わせてやりたいが、メモリを使っていないのに常時浮かび続けている腕の生体コネクタはそれが何なのかを知る者に見られたなら即通報、知らなくても刺青にしか見えず、つまみ出されるのは目に見えているためそれは出来なかった。

 

(ときめみたいに噴水で洗えなんて言えないしな……さて、ひとまず安心とは言ったけど、今後はどうするかね……警察に行けば家に帰せるかもしれないけど、そうしたら絶対あいつらの残党が攫いに来るし。無理やり使わされたとはいえ、メモリ使用で逮捕ってのもあり得なくはない。俺とガイアドライバーは捨ててくれれば何とかなるけど腕のコネクタはどうにも……)

「シズ?」

「ん? ああ、ちょっと考え事しててね」

 

保存用ではなくすぐ消費する用に買ったサンドイッチを頬張る少女に何やら心配そうな顔を向けられたのでいったん思考を打ち切る。シズというのは白衣の一人にシーズンと縮めて呼ばれていたのを聞き間違えたらしく、シーズンメモリよりもその方が言いやすいし、名前らしいので彼も特に訂正せずそのまま定着した。

 

一方、シズは少女の事を”すずちゃん”と呼んでいる。あの研究所に放り込まれる前のことは自分の名前も含めてほとんど思い出せないが、誰かからそう呼ばれていた記憶が微かに残っていたらしい。記憶が消し飛ぶような過酷な実験を受けていたのか、わざわざ消去したのか定かではないが、白衣の連中に対する苛立ちが再燃し始めたことを自覚したシズはそこに触れるのはどうしても必要なとき以外、控えることに決めた。

 

(ほんと、気をつけないとな……)

 

苛立ちに任せて研究所を壊滅させたあの時、変身を解除するとともに、自分の体が勝手に動いて人間を粉々に砕く感触を遅れて認識したすずはその場で過呼吸を起こし嘔吐してしまった。意志を持ったガイアメモリが起こす癇癪など人間には災害でしかない。幸いというべきか、ドライバーを通して精神が一体化していた影響で、すずの扱いに激怒し、脱出させるための行動だったこと、要は一応味方であることが伝わったため逃げずに一緒に行動してくれては居るが、毒素の事も相まって、再変身はよほどのことが無ければ同意しないだろう。ドライバーを捨てていないのはその”よほどのこと”が起こるかもしれない不安の方がギリギリで勝っているからか。

 

「とりあえず、食べ終わったら今日寝る所を探そうか」

「うん」

 

シズを肩に乗せたままサンドイッチを口に押し込み咀嚼し終えるとすずは立ち上がって歩き出す。ハッキリとした行き先がある訳ではないが風の常に吹いている風都は雨風を凌げる場所というのがそこかしこにあり、寝ていても見つかりにくい場所には意外と簡単に巡り合える。これもシズとしてはホテルにでも入れてやりたいが、残念ながらそこまで多く稼げているわけではない。幸い毛布さえあれば路上で寝ていても凍死せずに済む季節のようだが、風都の治安を考えると良い選択とは口が裂けても言えない。少女が無防備に道端で眠っていたら何をされるか分かったものではない程度には人の心が穢れた街だ。無論、聖人のような連中もこの街には大勢いることをシズは知っているが、夜中の遭遇率が高いのは不埒者の方であろう。

流石にそこらじゅうを怪物(ドーパント)が変身状態でうろついているなどと言う世紀末ではないにしても、寝ている間はシズが見張っているだけで何とかなるような場所選びが必要となる。

 

「ちょっといいかい?」

「……はい?」

 

周囲の地形にばかり気を配っていたためか、声を掛けられるまでその接近に気づかなかった。そのことを反省しつつ声の主をこっそり視界に収めたシズは、一瞬だけだが思考が完全に停止した。

 

(翔太郎じゃねーか! なんで!?)

 

そこに立っていたのは帽子にスーツのハーフボイルド、左 翔太郎。画面の向こう側でという注釈の元、よく見慣れた顔であった。

シズの驚愕している理由など知る由もなく、すずが不安そうな顔になりながらも翔太郎に応対し始める。

 

「俺は左 翔太郎。探偵だ。依頼でこの写真の()を探している。君が星原 風鈴(ほしはら かりん)ちゃんか?」

 

翔太郎が取り出した写真には二人の女子学生が写っている。片方は髪が長いものの、すずと全く同じ顔をした少女だ。

 

(どう見てもすずちゃんだな。カリン? すずちゃんの本名か? リンの部分を鈴って書くとか? いやそもそもなんで翔太郎(探偵)がこの娘を探してる? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

目の前の探偵が善良かつ信頼のおける人物であることは初対面ながら十分知っているシズではあったが、依頼人の方が怪しすぎる。一応、脱出の際ついでに逃がした他の被験者たちが保護されたのなら、それを聞いた親か何かが依頼した、というのもありえなくはないが、あまりに対応が早い。施設の残党の可能性の方が高そうだ。

 

「あの、違います。わたし、すずっていいます」

「え」

(ナイスだ! と思うことにしよう。翔太郎には悪いが、ここでついて行くのはリスクが高い。まあ依頼人がクロだったとしても最後は何とかしてくれそうな気もするけど)

 

すずからの否定を受けた翔太郎はしばらく写真とすずの顔を交互に見た後、やがて諦めたのか帽子を深く被って踵を返す。

 

「分かった。事情は深くは聞かねえ」

(何かを察したって意味での分かっただな、これは)

「だが、黙ってねえで、そろそろ何か言ったらどうだ? 妖精さんよ」

 

振り向いた翔太郎の視線は真っすぐにすずの肩の上、微動だにしないように動きをロックしていたはずのシズの方へ向けられている。

 

「……すごいね。ぼくがオモチャじゃないってなんでわかったの?」

「直感だよ。似たようなのに縁があってな。だが確信はなかった。正直、本当にしゃべり出して驚いてるぜ」

(マジか。黙っときゃ良かったか? 探偵の直感怖え!)

「おまえ、何モンだ?」

「……ガイアメモリ」

 

嘘をついてもバレると判断し素直にそう答えれば翔太郎の視線は数倍鋭くなり、シズを射抜いた。こうなってしまえば最早彼は地の果てまで追ってくるだろう。

 

「まさか、その娘に……」

「……すずちゃん。腕を見せてあげて」

「えっ でも……」

「この人は大丈夫だよ」

「……分かった」

「なっ!」

 

すずが躊躇いながらも服の袖をまくって腕の生体コネクタ、あったとしても一つ、という彼の常識に沿った予想に反して数十にも及ぶ夥しい数のそれを見せると、シズの予想通り翔太郎は絶句して数秒間固まる。その後再起動した彼の顔は激情に染まり、シズ……否、シーズンメモリを睨みつける。

 

「これがぼくを作ったところでこの娘が受けていた扱いだよ。だから、暴れまわって逃げてきたんだ」

「! おまえ……」

「依頼でこの娘を探してるって言ってたよね? ぼくたちがあそこから逃げ出した瞬間、狙ったように依頼が来た。その依頼人、本当にこの娘を家に帰してくれるのかな? それが確信できないなら渡せない」

「それは……」

 

シズの言葉を受けて様々な要素が頭を駆け巡り、一瞬翔太郎はためらってしまう。親というには若かったこと、家族である自分(依頼人)と一緒の物ではなく、友人と二人で写っている写真を渡してきたこと、そして依頼が来たタイミング……依頼人を信じる。それが翔太郎の、いや探偵のあるべき姿だ。それでも一瞬迷ってしまった。

 

「すずちゃん、逃げるよ」

「うん」

「ッ! 待ってくれ!」

 

その一瞬の間に駆け出したすずを慌てて追おうとする翔太郎の眼前に何かが飛来する。駆け出すのが一瞬遅れたからこそ命中を免れたそれは地面を溶かして大きく抉り、人の踏み入れない灼熱の水たまりを作り上げる。

 

「ドーパントだと!? マグマか」

 

急ブレーキをかけて溶岩だまりの前で踏みとどまった翔太郎の視線の先には地面を抉った犯人……燃え盛る大柄な人型の怪物が腕を伸ばして佇んでいた。

視線をずらせば、逃げていった少女の行く手をふさぐように白い服を着た人間が数人立ちはだかり、その手にも骨のような装飾のついた小箱、ガイアメモリが握られている。

 

「仕方ねぇ……フィリップ!」

 

懐から取り出した赤い機械を腰に装着すると、それを通してつながった意識に呼びかける。

 

『翔太郎。ちょうど連絡しようとしていたところだが……そんな場合ではなさそうだね』

「ああ、あの娘があぶねえ」

 

続いて懐から取り出した黒い小箱のスイッチを押す。

 

『ジョーカー』

「『変身』」

 

どこからか赤のベルトバックルに転送されてきた緑の小箱を押し込み、次いで手に持った黒い小箱、ジョーカーメモリを反対側に差し込むと、両手を交差させて勢いよくバックルを倒しW字に広げる。

 

『サイクロン ジョーカー』

 

瞬間、翔太郎の体は風に包まれ、銀のラインを中心に黒と緑に別れた硬質なボディ、赤の複眼、W字の角、白いマフラーが形成される。その姿を見たマグマ・ドーパントが一瞬たじろぐ。

 

「仮面ライダー……!」

 

変身を完了した翔太郎()()はすぐさま飛びかかり、風を纏った右回し蹴りをマグマに叩き込む。

マグマだけに構っている暇はない。奥の数人がガイアメモリを使った場合にすぐ対応できるように位置取りを調整しながらすずの方へ目を向けると、案の定白服たちがガイアメモリを起動しているところであった。

 

『バイオレンス』

『ゼブラ』

『コックローチ』

『フラワー』

 

次々と白服たちが怪物へと姿を変える中、すずは後ずさりしながら逃げ道を探す。しかしどうやっても逃げ切れる未来は見えない。目の前にドーパントが現れた時点で普通の人間は詰んでいるのだ。

ただし、すず()()は普通の人間ではないが。

 

「汚い手でさわるな害虫!」

 

すずを捕縛しようとしたコックローチ・ドーパントに体当たりして弾き飛ばしたシズは空中で変形し始める。

 

「すずちゃん、こんなに出てこられたらいくらあの人が強くても手こずる。怖いだろうけど、多分これしか手はない」

「……うん」

 

シズが変形することの意味とその意図を理解したすずはカバンから銀の機械を取り出し、装着した。

 

「よせ!」

『サマー』

 

翔太郎の制止もむなしく初めて使った時とは別の音声が響き、すずの体が変貌する。オレンジ色の羽が周囲に舞い散り、同じ色の鳥のような怪人が現れると、ソレはシズの声で眼前のドーパント達に告げる。

 

「さあ、溺れてしまえよ」




サマー・ドーパントの見た目はオレンジのキグナス・ゾディアーツです。
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