とある廃ビルの屋上に2人の男が居た。
名前はジークとネメシス。
空には視界を覆い尽くす程の満月が浮かんでいる。
ジークは屋上の看板の上で口笛を吹いていた。
ネメシスと目が合うと、その口笛はふいに止まる。
ジークが口を開く
「なぁ。この曲を知っているか?」
「いや、知らんな」
「ハウ・トラジック。そいつはかわいそうに。今からお前に教えてやろう」
ジークが看板から落ちて来る。
ちょうどいい。こんなに月が大きな日には、こんなヤツとダンスを踊るのも悪くないだろう。
さぁ。見せてもらおうか。お前の戦いというヤツを。
敵の攻撃を守るために身構えると、突然謎の言葉がジークから出た。
「数字の7が転んだら!へっ!」
・・・完全な静寂。
空気の音すら完全に聞き取れるような完璧な静寂が流れていた。
「よし、それじゃあ」
ジークが何も無かったように話を進めようとするのですかさず止める。
「いや待て。今のは何だ?」
「俺の”縛り”だよ。能力者はお互いに魔法を使うトリガーを開放するための”縛り”を持っているだろう?」
「まぁそうだけど」
「ネメシス。お前の縛りは?」
「月光に自分の鮮血を捧げる事だ」
「俺はな・・・錦鯉の長谷川まさのりのボケを宣言する事なんだ」
「いやしかし・・・それはどうして・・・」
「どうしてもこうしても。そういう”縛り”なんだ」
要領を得ない。どうして錦鯉のボケが魔法を開放するためのトリガーになるのか。
なんかもうどうでも良い。さっさと殺そう。
そう思い、ジークは持っている大きな鎌を振り下ろそうとする。
「キャ~ラメ~ルは!銀歯ど~ろぼう!」
また錦鯉のギャグ。
しかしギャグを口にすると、ジークの手元の魔法陣から日本刀が現れ、鎌の攻撃を防いだ。
「・・・まさかお前。その縛り毎回やるのか?魔法を使うたびに」
「当たり前だろ。」
「どうして」
「俺の”縛り”がそうだからだ」
「え~」
口から意識せず情けない声が出てしまった。
それを聴いてからの事は覚えていない。
戦う前の俺の真剣で切実だった心は、もうどこに無かった。
最終的にはお互いがボロボロになって引き分けとなり「フン・・・次に決着を付けるとしようか・・・」と言っていたが、もう彼に対する執着はどこにも無かった。
もう2度と戦いたくない。
超弩級のサイズの満月の中で家路に戻りながら、戦っている最中2回だけ笑ってしまった事が、最大の心残りだろう。
あんなヤツ。いるんだ。
そう思いながら、ベッドの上で眠りについたのであった。