南国特有の陽射しの下、一人の青年がなにかを探すように歩いていた。
服装は、ウルの木が染め抜かれたグレーのアロハシャツ、頭にはパナマ帽とサングラスを載せている。右手にはスマホと小さなメモ、そして左手はジュラルミン製のキャリーケースを牽いている。
「おっ、あれかな…?」
青年の目線の先には一台のキッチンカー、青年は手元のスマホとキッチンカーを見比べるとテクテクと近づき、カウンター席に座り、
「
ブラウンのロングヘアーに赤縁眼鏡の店員に、今はなきメニューを注文した。
「お客さんもうやってませんよ、っと。…つっきー久しぶりじゃない。」
店員…中原ミズキは苦笑いしつつ答えた。
「お久しぶりです、結局食べ損ねたんですよ、ボク。」
青年…南国風の装いの月岡圭は悔しそうな顔を浮かべた。
「ご愁傷様、コーヒーでも飲んでけ。DAはもう嗅ぎつけたか。」
「砂糖多めでお願いします。いいえ、ボク個人で探しました。」
「ほぉ〜、どうやって?」
「百合の香りを辿って来ました。」
「あいつら
「いや、百合ですよ、伊達で男女比1対8の学生生活やってた訳じゃありません。」
二人で若干噛み合わない会話をしていると、
「ミズキぃ〜休憩だぁ〜。」
背中にメニューを背負った文字通りの
「げっ、月岡じゃないか逃げるぞミズキ、」
「ひどいなぁクルミちゃん、有給叩いてきたのに。それに今日はDAは関係ないよ、忘れ物を届けに来ただけ。」
月岡は飲みかけたアイスコーヒーをカウンターに置き、脇にあるキャリーケースを軽く叩いた。
「なんだ、その荷物?」
「中原さんが831に溜めていったゼクツィ…じゃなくて、千束ちゃんの人工心臓の充電器、規格は
「逃げたも同然なのにDAも随分と面倒見がいいじゃない。」
「いいえDAは関係ありません。これは我々からの贖罪です。」
そう言って月岡は、帽子を取りカウンターに置いた。その帽子のリボンには銀のフクロウのバッジ…アラン機関の一員である証があった。
「お前、そのバッジは…。」
「…つっきー、アランの人間だったのね。」
「ただのアルバイトですよ。ミカさんは留守ですか?」
「千束とたきなを連れて3人で買い出し中よ。」
「そうですか…、ではこれをミカさんへ。」
懐からフクロウの封蝋が押された封筒を取り出しミズキへ渡すと、語りはじめた。
「『神からのギフトを広く世界へ』、これは機関の基本理念の一つです。しかし彼…吉松さんはこれを取り違えてしまった。機関はあらゆる才能を支援します。しかし、無秩序にというわけではありません。機関は世界がより良く発展することを目的としています。暗殺者やテロリストを育て、世界に混乱をもたらそうとはしていません。」
「アランも一枚岩ではないというわけか…。」
「ええ、非主流派…無差別支援派に彼は属していました。『神聖なるギフトはすべて開花させるべし』彼らのモットーです。実際、多くの成果を生み出したがそれによる犠牲も大きかった…。」
「機関上層部も内偵調査を進めていましたが、なにぶん横どころか縦のつながりも薄い組織なので時間が掛かってしまいました…。」
「お前、バイトにしては随分と内部に詳しそうじゃないか?」
「恩人から引き継いだ役割だからね、色々と。さて、今機関では非主流派とそのチルドレンの把握、補償に努めている訳です。」
「なるほど、コレもその一環ってわけね。」
「はい、これがアランからの最後の贈り物…かはわかりませんが。」
改良型の人工心臓とはいえ寿命はある。そのことを指しているのだろう。
「あのレベルの心臓が市販されるのは、まだ先だろうな。」
「そうだろうね、交換不要の生体タイプが開発されれば良いんだけどね。…アランはいつでも支援を行う用意があります。これが我々からの誠意であり、チルドレンへの『大人』の責任でもあります。」
ここまで言うと、コーヒーを一飲みしてポケットから出したココアシガレットをクルクルと指で回つつ、
「さて、アルバイトはこれで終わり、せっかくの休暇だしハワイを観光して帰ります。」
「千束やたきなには会わないの?」
「ボクはただの831支部管理人、それで良いんです。アランはチルドレンと接触せず。ですよ。」
月岡は遠くに買い物袋を抱えた3人組を見ると、パナマ帽を目深に被り直し、バッジを胸ポケットに滑り込ませ席を立ち、
「それじゃ、またいつか。」
コーヒー代をカウンターに置き、ケースに載せていたジャケットを羽織り別れを告げた。
「千束が戻ったぞ〜。クルミ、今のお客さんは…?」
「あぁ…?ただの観光客だ。」
クルミはココアシガレットを咥え、小さくなっていくパナマ帽を被った背中を眺めつつそんなことを呟いた。