ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
「『メラ』!!『メラ』ぁ!!」
「怯むなッ!休むことなく呪文を唱え続けろ!」
「援護助かるわ!…『メラゾーマ!』」
「ぐっ、ぬゥう…ッ!」
魔導部隊の放った火球が目くらましとなり、ゲモンはゼシカの放った大火球をモロに食らう。それは体力を大きく削るようなものではなかったが、下等生物と見下していた人間にしてやられたという事実がゲモンのプライドを大きく揺るがした。
自身のホームグラウンドである空中に避難しようとするも、炎と風の魔法によって依然気流は乱れたままであり、傷を負った今のゲモンの翼では空中で体勢を制御できるかどうか怪しい。
「(外に飛び出そうにも…ッ!)」
ゲモンの残った目が少し離れた場所に弓を引く騎士たちの姿を認める。彼らは弓を引き絞ったまま攻撃することなく待機し、常にゲモンの一挙手一投足に集中している。ゲモンが空を飛ぶような大きな動きを見せた瞬間にその翼を射抜けるようにするためだ。こんないやらしい布陣を敷いたのはあの性悪な護衛隊長にほかならない。
「クソがァッ!!!」
ゲモンは苛立ちを乗せて腕を振り抜くが、その攻撃はヤンガスにがっちりと受け止められる。
「へ…へへ…防御に専念すればてめェの攻撃なんざ…!」
『大ぼうぎょ』により攻撃を棄てたヤンガスは、少なくないダメージを負いながらもゲモンの剛腕を正面から受け止めてみせた。
「男魅せてくれたね!ヤンガス!」
「ゲルダ!」
ヤンガスが身を挺して攻撃を防いだことでゲモンに一瞬の隙が生まれ、その間隙を縫うようにゲルダが影からぬるりと姿を現す。彼女はジャグリングを思わせる器用な手つきで短剣を操り、一瞬でゲモンの腕に十数の傷を負わせてみせた。
「…!?これは…ッ」
「へぇ、アイツ、胡散臭い奴だったけどコレは中々使えるじゃないか」
ゲルダが指先でこねくり回している短剣は「よるのパピヨン・レプリカ」。ドルマゲスから詫びの品として渡されたそれには強力な麻痺毒が塗り込んであり、並みのモンスターなら一度刺されれば数分は動けない。マヒに耐性を持つゲモンではあるが、一度に同じ箇所へ何度も攻撃を加えられれば多少の影響は免れない。ゲモンの動きが止まったのは1秒にも満たない一瞬だが、その一瞬を使いゲルダとヤンガスは即座にその場から飛びのきゲモンの反撃を回避した。
追撃を試みるゲモンに、遠方から魔導部隊の魔法が降り注ぎ、体勢を崩す。あくまでも妨害に努めようとする魔導部隊を焼き払うべく灼熱を熱線のように浴びせかけるも、大剣「バスタードソード」を装備したエイトの「かえん斬り」によって灼熱をうまくいなされ、不発に終わった。
「かっ、感謝いたします!旅の方!」
「こちらこそ!ありがとうございます!引き続き援護の方をお願いします!」
「(今のところ、僕たちはかなり上手くやれている…これなら…!)」
魔導部隊の感謝を背に受けつつ、武器を持ち替えて再度前線に走るエイト。迎え撃つゲモンの猛攻に顔をしかめながらも、この状況に確かな手ごたえを感じていた。
「司祭!バンダナと大男を回復ッ!」「「はっ!!」」
「弓、待機ッ!『まほうのせいすい』を持っている者は次の対象の攻撃が終わったタイミングで魔法使いの女に投与!!」「了解しましたッ!!」
そして、手ごたえを感じているのは十数人を相手に絶え間なく指示を飛ばし続けるこの男もである。刻一刻と変化し続ける戦況をリアルタイムで見据えながら全員の体力と魔力残量をおおよそではあるが把握し、適切なコマンドを繰り出していくマルチェロ。楽観的な考え方をあまり好まない彼だが、それでも今の状況は悪くないものだった。
「(戦況は悪くない。今のところ、奴には何もさせずに一方的な攻撃を加え続けられている)」
ゲモンの攻撃は一撃一撃が死に繋がる。であれば相手に攻撃をさせる暇もないほどの猛攻を加えるほかない。こちらに決定打はないが、着実に相手の体力を削ることはできている。その証拠にゲモンの動きは戦い始めたころと比べても明らかに鈍くなった。絶え間なく、しかし規則性を悟らせずに唱えられる低級呪文の雨あられが、ゲモンの動きと判断力を奪っているのだ。
ゲモンと相対したときに背を向けず最初から自分が騎士団を指揮していれば、という考えが頭をよぎり、マルチェロは無表情のままそれを暗闇へと棄却する。それについて思考することは、今となっては無駄な行為でしかない。
「(さて…。奴がされるがままの状況を良しとするわけがない。できればこのまま押し切りたいところだが…――)」
続く思考を紡ぐより前にゲモンの雄叫びがマルチェロの鼓膜をビリビリと揺らし、詠唱中だった魔導部隊の手が止まる。直後、攻撃を加えていたエイトとヤンガスが弾き飛ばされた。
…まあ、そう上手くはいくまい。マルチェロは瞑目し、長い息を吐いた。
「だがまあ…やるだけやってやる。」
私も……奴らと同じ『愚か者』だからな。
マルチェロは絶望一歩手前の状況に置かれてなお諦めの色を微塵も見せないエイトや、彼の仲間たちを一瞥して小さく笑った。
…
「(クウゥゥ!こんなところで道草食ってる場合じゃあねェってのによォ!)」
院長と法皇の血を得て封印を解除するという目的を既に達成しているゲモンにとって、この場所にもはや用はない。それでもこの場に留まっているのは…最初は憂さ晴らしのためだった。橋の街では死に体と化していたドルマゲスに足指を千切られ、雪山では同じくボロ雑巾にしたはずのユリマに邪魔をされ。そのことに対するフラストレーションの憂さ晴らし。それでもある程度の殺戮を愉しんだらこの場からは去るつもりだった。
次にゲモンにたたらを踏ませたのはマルチェロの存在である。それまで彼に対しては、「多少の腕は立つが、プライドの高く鈍間で愚かなニンゲンの一人」としてしか認識していなかった。しかし、その戦いのさなかで彼の中の『何か』が変わり、一転してゲモンは追い詰められた。
そして勇者。
マルチェロの中で変わった『何か』に深く関わる者たち。何度殺しても立ち上がり、仲間が倒れればまた別の誰かが立ち上がる、まるでゾンビのような存在。ゲモンにとってそれは、数百年前に辛酸を舐めさせられた忌々しい存在の姿と重なっていた。
「……チィッ!」
…違う。あの時とは違う。
七賢者の末裔でもない、ただの人間どもが何人束になったところで、かつて自分たちを追い詰めた連中と同じ脅威になどなり得るはずがない。ましてや今の自分は暗黒神の力を受けているのだ。何を恐れる必要がある?
「(……そうだ、何をビビってやがんだ、俺様は)」
再び剣を構えるマルチェロを前に、ゲモンは自分に言い聞かせるように呟く。
「……」
マルチェロの右腕は折れている。右目もまともに開かない。回復魔法を受けてなお全身血まみれだ。
だが、それでも立っている。
その後ろでは、先ほど自分が殺した勇者どもが次々と起き上がっている。盗賊の女が短剣を握り直す。大柄な男が斧を担ぎ直す。魔法使いの女が杖を掲げる。バンダナのガキが剣を構える。
そして背の高い男が――
「……ったく」
ふらつきながら、いつものように軽口を叩いた。
「一体何回殺しゃ気が済むんだよ、オレたちをよ」
くだらない。
本当に、くだらない。
何度殺しても起き上がる。死にかけの仲間を回復させる。勝ち目などほとんどないというのに、また剣を握る。そんなものはただの悪あがきに過ぎない。…過ぎないはずなのだ。
「……くだらねェ」
ゲモンは吐き捨てる。
「何度立ち上がろうが同じだ。何度生き返ろうが同じだ。俺様がキサマらより強い、それだけは何一つ変わっちゃいねェ!!!」
「…まあ、そうかもしれんな」
返事をしたのはマルチェロだった。
「だが、それがどうした?」
「……あ?」
「貴様は強い。私たちより遥かに強い。それは認めよう。だから、何だ?」
マルチェロは剣を握り直す。
「……私はつい先ほどまで、力こそがこの世の全てだと思っていた」
その言葉に、ククールが僅かに目を見開いた。
「強い者が正しい。弱い者は踏み躙られる。ならばこそ私は強くならなければならない。どれほど卑劣な手を使おうと、どれほど他人を踏み台にしようと、最後に立っている者こそが正しいのだと……そう信じていた」
マルチェロはゲモンを睨む──
「だがな」
──その口元が僅かに歪む。
「貴様を見て、ようやく分かった。…力のみ。本当に力だけで全てが決まるのならば――」
一歩、マルチェロが前へ出る。
「私は、とうの昔に終わっている」
「……!」
「この男も」
マルチェロはククールへちらりと視線をやる。
「この者たちも」
エイトたちはゲモンから視線を外さぬまま、マルチェロの声に耳を傾ける。
「そして、ここで法皇を、院長を、何よりも己の誇りを守ろうとして斃れた騎士たちもだ」
さらに一歩。
「今、ここに我々が立っているのは、単に力があるからではない」
重なる。
「黙れ……!」
「誰かが立てと言ったからでもない」
彼らが、過去の勇者たちと、重なる。
「黙れェッ!!」
「ただ――」
マルチェロは剣を構えた。
「
「……ッ!!」
ゲモンの全身が震えた。生物としての本能が、妖魔を一歩後ずさらせる。
「(恐怖…!?いや、そんなはずがないッ!怒り…そうだ。俺様は怒っているのだ…ッ!)」
コイツらが気に入らない。矮小な存在のくせに何度殺しても立ち上がり、どれだけ力で圧倒しても目を逸らそうとしない。死を恐れながら、それでも前に出てくる。まさに先の大戦の時の七賢者と同じだ。
「(『勇者』…不屈の勇気を持つ者…くだらねェ…ッ!)」
そして何より――
その姿を見ていると、あの忌々しい道化を思い出す。何度叩き潰しても、何度追い詰めても、こちらの想定を超える手を繰り出してくる男。
『──さ…わ……る…な………!』
直後、己の指が宙を舞ったあの光景を、ゲモンは数分前のことのように思い出せる。
「……クソが」
違う。アイツとコイツらは違う。道化は化け物かもしれないが、コイツらはただの人間だ。
なのに。……なぜだ。なぜ自分は、こんな奴らを相手にして――。
「クソがアァァァァッッ!!!」
ゲモンは『マホカンタ』を唱え、薄紫色の鎧を纏ったまま勢いよく突進した。
…反射魔法。それは弱者が強者から身を守る術。そう考えるゲモンが人間相手にこの魔法を行使するのは彼にとって耐えがたい屈辱だった。それでも、今ここでそのプライドをかなぐり捨てて奥の手を切ったのは、上司であるラプソーンの危険因子になりうるこの人間たちを絶対にここで潰さねばならないという忠誠心ゆえか、はたまたここまで自分をコケにしたことへの復讐か。
実際、この盤面において『マホカンタ』はゲモンにとっての最適解であった。回復魔法や補助魔法を使わない彼にとっては、魔法を反射する壁のメリットだけを享受することができる。魔導部隊の絶え間ない妨害も、ゼシカの大魔法も無効化することができる。確実にマルチェロを葬り、勇者たちを嬲り殺すことができる。…いや、できた。
──惜しむらくは、彼が最初からこの魔法を使って相手を塵殺しなかったことだろう。ゲモンが下したその判断は、あまりにも遅すぎた。
「聞いたかい、レグ」
「確かに聞いたとも、オディロよ」
今、この場の誰もが──敬虔な騎士たちやニノ大司教でさえもが──
「マルチェロはもう大丈夫」
「真の意味で騎士となった」
偉人である彼ら二人の存在を思考の外側に置いてしまっていたのは、教会、ひいては世界の未来のかかった熾烈な戦いの中においては仕方のないことだっただろう。
「教会のこれからを託していける」
「悪い世界にはなるまい」
だが、忘れるなかれ。
「我々の役目は…」
「否、最後の役目が残っているぞ、オディロ」
彼ら二人は教会の最高権力者。
「…そうだね。ここで無念にも命を散らした魂たちのために」
「ああ、我々のためにその誇りを貫いた気高い魂たちのために」
「「祈ろう」」
つまり、世界最高の僧侶である。
「「はああああああああっっ!!!」」
▽ オディロ と レグニスト は いのりをこめてじゅうじをきった!
目も眩むほどの燐光。聖なる輝きを放つ
「グゥオアアアアアアァァァァッッ!?!?!?」
闇と光は相容れぬもの。ましてや聖なる紋章など魔物にとっては猛毒でしかない。反射魔法を纏ったゲモンに回避という思考はなく、故に意識外からの攻撃には対応できなかった。ゲモンは耐え難い苦痛に、持っていた杖さえ放り出してのたうち回る。
「院長!?」「法皇様!!」
先刻ゲモンに杖で貫かれ、表面的な傷は回復されたとはいえ余命幾許かだった二人の聖職者は、全生命を魔力に変えた
「我々のことは…よい…!」
「法皇様…!しかし!」
「世界を…闇の者どもの手に明け渡しては…ならない…!」
「未来は…人の子たちの手で…!」
「…!オディロ院長…ええ。お任せください」
マルチェロは院長に駆け寄りたい気持ちを押し殺し、二人に背を向けて、叫ぶ。
「総員前を向け!!!ここで終わらせる!全力を尽くして対象を滅せよ!!!院長殿と法皇様のお導きに報いるのだ!!!」
「「…!!」」
聖堂騎士たちの間に広がった動揺が、隊長の一声で収束した。ここに残った数少ない騎士たちも、数多くの同胞をゲモンによって無念のうちに殺されている。信仰に報いるのなら、同胞たちを弔うのなら…この瞬間を決して無駄にしてはならない。それは当然、ゲモン、ひいては暗黒神に対して並々ならぬ因縁を持つエイトたちも同じ気持ちである。
今この瞬間、ここにいる全員がゲモン討伐へ心を一つにした。
「ヌアアアアッッッ!!!」
「でりゃああああっっっ!!!」
全てを破壊せんと無茶苦茶に振り回されるゲモンの右腕を、同じく力任せに振りぬいた「ゾンビバスター」の一撃でエイトが弾く。間髪入れずエイトを引き裂こうとした左腕はゼシカのムチに巻き取られ、ゲルダの投擲した短剣によって動きを止められる。ならばと繰り出した脚は魔法を捨て突撃してきた魔導部隊の騎士たちが肉壁となって押しとどめた。
ゲモンがゼシカのムチを引きちぎり、騎士たちやエイトを蹴散らした瞬間、ゲモンの脳天に直撃したのは「プロト・ウォーハンマー」。打撃武器に不慣れなヤンガスだが、腕力にものを言わせてぶん投げるだけならば、それはむしろ彼の得意分野である。
「グオアアアーーーーッッ!!」
頭から血を流したゲモンはもはや言語すらも置き去りにし、ヤンガスを屠ろうと飛び上がる…も、ガクンと体勢を崩して前につんのめる。院長と法皇により両翼に刻まれた聖なる十字架は、ゲモンから飛行能力を完全に奪っていた。そして、うつぶせになったゲモンの上から飛び掛かってきたマルチェロがレイピアで串刺しにする。
「今だっっっ!!!決めろっっっ!!!!」
「誰が…キサマらゴミ共なんぞにィィィィィ!!!!」
「がはっ……ぐああ…あ…!!!」
マルチェロを跳ね飛ばしたゲモンは、そのままマルチェロの首を掴んで持ち上げた。マルチェロの顔がみるみるうちに赤黒くなっていき、首筋から鮮血が流れ出す。
「食らいやがれっっ!!『烈風獣神──」
「バカがァッ!!!そんな見え見えの技が俺様に通じるなんぞ──」
背後から繰り出されたヤンガスの奥義、烈風獣神斬をゲモンは飛び上がって避け、嗤う…も。ヤンガスは技を発動させず、空中で振り向いてゲモンに向かって中指を立てた。そしてそれと入れ替わるようにして、ゲモンの視界に弓を引き絞ったククールが映り込む。
「なっ……!」
「…バカはてめーだよ。不用意に飛び上がったな?翼も動かねーくせに。……今度こそ、終わりだぜ」
「『シャイニングボウ』」
ククールの放った光の矢は、院長と法皇のグランドクロスにも負けない輝きを放ちつつ、彗星のごとく尾を引きながら一直線にゲモンへと向かう。
「……!!!!!!」
祈りの込められた銀の弾丸が、ついに妖魔を穿った。
原作との相違点
・VSゲモンが総力戦。
原作ではゲモンと戦うのはエイトたち勇者のみ。場所も闇の世界の神鳥の巣だが、今回は戦いの場が法皇の館となり、マルチェロや聖堂騎士たち、さらには院長と法皇の参戦により教会勢力+勇者VS妖魔という総力戦となった。ちなみに、ゲモンが最初からプライドを捨ててマホカンタを使っていたら完全に詰んでいた。
・院長と法皇がいのりをこめてじゅうじをきった。
みんな大好きグランドクロス。ドラクエⅧにおいては特技ではなく呪文の一つになっているのだが、マホカンタで反射されないという珍しい特徴を持つ。原作ではマルチェロ(敵)が使う他、ククールもスキルポイントの振り方によっては習得することができる。…ということは、祈ることにおいては彼ら二人をはるかに凌駕している院長と法皇もグランドクロスを習得していても不思議でないのでは…?ちなみにこんな感じなのに風属性の攻撃だったりする。
レベル
エイト
レベル:36→38
ヤンガス
レベル:36→38
ゼシカ
レベル:36→38
ククール
レベル:36→38
ゲルダ
レベル:37→38
臨時メンバー
マルチェロ
レベル:41→42