「どうしたらお姉さんみたいになれますか?」
座り込んでいる私達へ、心配そうに声を掛けてくれたお姉さんにめぐみんはそう質問した。お姉さんが私たちを助けるために使った魔法は『エクスプロージョン』って言っていたと思う。
まだ、学校では習っていない魔法だけど、とてつもない威力だった。その『エクスプロージョン』で黒い獣を倒し、私達を助けてくれたのは野暮ったいフードに身を包んだお姉さんだった。
フードの隙間から僅かに赤い髪が覗いているから、紅魔族の誰かでは無いのだろう。めぐみんは先程のエクスプロージョンを見て強い憧れを抱いたのか、真剣な眼差しでお姉さんのことを見つめている。
お姉さんはそんなめぐみんと、お姉さんは一体何者なんだろうと見つめていた私を、交互に見て優しく微笑んだ。
「お嬢さん達の名前は?」
「めぐみんです」
「すとれです」
お姉さんは訝しげな表情を浮かべている。これは紅魔の里に観光しに来た人達と同じような反応に近いかも。
「……あだ名かしら?」
「本名です」
あだ名みたいな名前ですみません……。でも紅魔族にとっては普通の名前なんです。
「ええと、どうしたら私みたいに、だったわね。そうね……。たくさん食べて、たくさん勉強して、大魔法使いにでもなれれば、きっと……そう。大魔法使いにでもなれれば、いつかきっと、今の魔法も使えるようになれるわ。でも、この魔法はあまりオススメしないわよ?」
めぐみんはこのお姉さんみたいな凄い魔法使いになりたいのかな? 私がアクア様に憧れたように、めぐみんもこのお姉さんの事を目指すのかな? なら、めぐみんの事を応援してあげないとね!
「それにしても……ねえお嬢さん達。あなた達の他に、ここに大人の人はいなかった? そこのお墓の封印を解いた人がいるはずなんだけれど……。封印の欠片がここにある訳だし、自然に解けるはずはないのだけれど……」
お姉さんが、首を傾げながら足元に落ちていたパズルを拾い上げた。
「まだそう遠くに行ってはいないはずなんだけれど、一体誰が私を解放してくれたのかしら。……まあいいわ、あなた達に聞いても分からないわね」
お姉さんはそう言うと、先ほどの魔法で作った大きなクレーターの真ん中に歩いて行った。穴の底には黒い獣が荒い息を吐いて瀕死になっていた。お姉さんは、黒い獣の頭に手を置いて優しく撫でた。
「もう少しだけ眠りなさい。我が半身。あなたが目覚めるには、この世界はまだ平和過ぎるから……」
そんな事を呟きながら、獣から何かを吸い取るようにお姉さんの手が輝いた。その輝きに合わせて、あれほど大きかった獣が見る見るうちに小さくなっていく。やがて子猫ぐらいの大きさにまでなると、それは姿を薄れさせ、やがて掻き消えた。
「さて。それじゃあ、私は……。あら? お嬢ちゃん、何をしているの?」
お姉さんは地面に散らばったおもちゃを拾い集めているめぐみんを見て、疑問の声を上げた。
「おもちゃを拾っているのです。家は貧乏なので、これぐらいしか遊ぶ物がないのです」
「え。いやいや、それは遊ぶ物じゃないわよ? こわーい邪神を封印する役目のある、大切な欠片なんだから。…………あれっ?」
バラバラになっていたパズルをテキパキと元に戻しているめぐみんのことを、お姉さんはおかしな物を見るような目で見つめている。パズルを解いたのはめぐみんだし、戻すのは簡単だよね。
「お姉さんの魔法で欠片が三つどこかにいっちゃいました。一緒に探してくれませんか?」
「あっ、私も探すね!」
「いやいやいや! おかしいから! こんな簡単に欠片を合わせられるのはおかしいから! 賢者級の大人でも、なかなか解けないはずなんだけど、どういう事なの……」
お姉さんは顎に手を当てて悩み出した。とりあえず私はパズルの欠片を探さなきゃ。それにしても、よくあの爆発でも原形が残ってたよね。残りの三つは消えてなければいいけど……。めぐみんの貴重なおもちゃだからね。
「ねえ、お嬢ちゃん達。あなたは、この封印された地にはいつからいたの? 里の人達に、ここには近づくなって言われてなかった?」
「『入っちゃダメだ』『ここには何もないぞ』『近づいちゃダメだ』って言われている場所には大抵お宝が眠っているものだって、お母さんが言っていたからここに通ってました。それに誰も来ないから、すとれと二人で遊べるので」
ここって近づいちゃダメなところだったんだ!? めぐみんから里の観光名所だって聞いてたから、普通に遊び場にしてたんだけど……。
「ど、どういうことなの……!?」
お姉さんは、顔を引き攣らせながら上擦った声を上げる。しばらく固まっていたけれど、私達の目の前に来て、私とめぐみんの頭の上に手を乗せてきた。
「よく分からないけれど、お嬢ちゃん達にお礼を言わなきゃならないのは私の方みたいね。ねえお嬢ちゃん達。何か願い事はあるかしら? こう見えて、お姉さんは凄い力を持った謎の魔法使いなの。お嬢ちゃんのお願いを、何か一つ、叶えてあげるわ」
「願い事?」
「そう、願い事。遠慮しないで言ってみて? どんな事でも……」
「世界征服」
め、めぐみん……願いが一つ叶うなら世界征服を選んじゃうんだ……。さすが紅魔族……。お姉さんも困惑してるのか、口元が少し引きつっている。
「……ご、ごめんね、それは無理だわ。どういう事なの。この子、意外と大物なのかしら。ええっと、他に何かない?」
「それじゃあ、私を巨乳にしてください」
めぐみんがゆんゆんを見る目が最近おかしかったのはそういう事だったんだね……。まだ私達の年齢で気にする事じゃないと思うけど、めぐみんは一番小さいから気にしてたのかな。
てことはもしかして、さっき憧れてるような目でお姉さんを見てたのも、胸の事だったとか……。さすがに、めぐみんでもそれは無いよね。魔法使いとして憧れてたんだよね。
「そ、それも無理かなあ。と言うかお嬢ちゃん、今幾つ? まだそんな心配をする年じゃないでしょうに」
「なら……私を魔王にしてください」
お姉さんが、一筋の汗を頬に垂らしてめぐみんに謝っている。いくら凄い魔法使いでも叶えられないと思うよ……。そんな事を叶えられるのは女神様くらいじゃないかな?
「ご、ごめんなさいね? さっき言った事は訂正させて。大物なあなたと比べて、お姉さんはそこそこの力しか持たない魔法使いだから、そこそこの願い事しか叶えてあげられそうにないわ。あ、そっちのお嬢ちゃんは叶えたい事はあるかしら?」
「女神になりたいです!」
あ、反射的に願いを口にしちゃった。で、でももし願いが叶うならアクア様みたいになれればって考えちゃったんだよね。
「そ、そっちのお嬢ちゃんも大物だったのね……。ごめんなさいね? 人を女神に変えるなんて、そんな大層な事は私にはできないわ」
「こ、こっちこそすみません……あ、それなら私の願いはめぐみんの探してるおもちゃの欠片を見つけてくれるだけで大丈夫です」
「待って! 違うの、流石にもっと大きな願い事を叶えてあげられるから! そ、それに、欠片をおもちゃにしちゃダメよ! さっきの黒いやつは、あくまで再び封印しただけなんだからね!? 今後、ここに来ちゃダメよ!? それよりも何かない? もうちょっと、大きな願いは……!」
お姉さんは顔を引きつらせ、身を屈めて目線を合わせてきた。で、でも私に叶えて欲しい願いは思い付かなかったので、めぐみんに目を向ける。
めぐみんは叶えたい願いを思い付いたのか、お姉さんをしっかりと見つめて口を開いた。
「私達に、さっきの魔法を教えてください」
この後、爆裂魔法について沢山教えて貰いました。
めぐみん
最近胸の急成長が始まったゆんゆんの事を親の敵を見るような目で見ていた。
もしも願いが叶うなら世界征服や魔王になる事を選ぶ頭紅魔族。
すとれ
願いが叶うなら女神になりたいとか言っちゃう頭紅魔族。
謎のお姉さん
一体誰なんでしょうね……?
頭紅魔族な二人の願いに顔を引きつらせていた。
この後爆裂魔法のことを沢山教えた。
読んでいただきありがとうございました!
てことで、爆裂魔法との出会い編の後半でした!
ついにめぐみんと爆裂魔法が出会ってしまいましたね。