「あんた達遅いわよー、朝早くから待ってる身にもなってよ」
今日は私とゆんゆんとめぐみんが冒険者として旅立つ日。パパとママには怪我とか病気にならようにとか、変な人にはついていかないように……他にももっと色々言われて、思いつく限りの心配をされたけど、最後には私を送り出してくれた。
その後はゆんゆんとめぐみんの両親に挨拶しに行った。二人の両親には娘をよろしくお願いしますと言われ、めぐみんとゆんゆんの事は私に任される事になった。
めぐみんは不満そうだったけど、ゆんゆんには『不束者ですが、よろしくお願いします』なんて嫁入りの挨拶みたいな事を両親の前で言ってきた。恥ずかしくなりながらも二人を連れて、テレポート屋の前に来たんだけど、そこにはクラスの皆が私達をお見送りに来てくれていた。
「見送りに来てくれたんだ! ふにふらちゃんありがとねー!」
「ちょ、抱き付かないでよ!? 恥ずかしいでしょ!」
「でも、嬉しいんでしょ」
「どどんこうっさい!」
ふにふらちゃんとどどんこちゃんとは、しばらく会えなくなっちゃうんだよね。寂しくならないようにふにふらちゃんを抱き締めておこう。
「……皆暇なんですね」
「あんた、最後くらいありがとうとか言えない訳!?」
本当はクラスメイトが見送りに来てくれた事が嬉しいはずなのに、素直になれなくて『暇なんですね』なんて言っていたけど、皆を見つけた時に嬉しそうな顔をしていたのを、私は見逃してないからねー。
「えっと、あっ、ありがとう!!」
「今のはめぐみんに言ってたのよ! でもゆんゆん、ありがとね!!」
ゆんゆんは嬉しすぎてハイテンションになってるからか、めぐみんへの言葉に代わりに答えちゃってるし。まあ、私も嬉しかったからふにふらちゃんに抱き付いちゃってるんだけどね! 次はどどんこちゃんに突撃だー!
「でもめぐみんが旅に出るなんてねー。気が短くて、喧嘩っ早いあんたに、冒険者なんてできるの? ちゃんとすとれの言う事を聞くのよ!」
「めぐみん一人だったら、パーティーを組んでくれる冒険者とか居なそうだし、すとれに捨てられないようにね」
「ふにふらもどどんこもなんですか!? 私一人でも問題ないのに、すとれにどうしてもと言われたので仕方なく、一緒に行くんですからね!」
「最近までニートだったクセに?」
「ねりまきもうるさいですよ!」
めぐみん大人気だね。皆も心配するように、めぐみん一人だったら冒険者はやっていけなさそうだからなぁ……。もっと心配なのはゆんゆんだけと!
ねりまきちゃんにも抱き付いて、別れの挨拶をする。
「じゃあ、ねりまきちゃんもまたね。お店が忙しい時は声を掛けて! テレポートを覚えたら手伝いに行けるから!」
「いやいやいや、テレポートを使ってまでシフトに入らなくて大丈夫だからね! て言うかどうやって声を掛ければいいのよ?」
「……ねりまきちゃんもテレポートを覚えるとか?」
「無理だから! でも、すとれも元気でね。ダメな男には本当に捕まらないようにね!」
「だ、大丈夫だから!」
ねりまきちゃんはアルバイト仲間として一緒に頑張ってきた相棒だからね。別れに寂しさを覚えてしまう。だけど、ダメな男の人には捕まらないから、それだけは安心して欲しいな!
「まあめぐみんなら上手くやるだろう。すとれも居るんだから」
「あるえ、あなたもですか!」
あるえの小説もしばらく読めなくなっちゃうなぁ。アクセルに着いて、家を借りたらすぐに手紙を送らなきゃね。住所が分かれば手紙を送り合えるし。とりあえずあるえにも抱きつきにいっちゃおう。
「……ん。すとれ、私も会えなくなるのは寂しいよ。だから、アクセルに着いたら手紙を送って欲しい。それまでは、これで気を紛らわすといいよ」
あるえに抱きつきながら話を聞いていたら、頭にポンと何かを乗せられた。それを手に取ってみると、黒い包装紙に包まれた本のようだった。
「えっと、これは……?」
「ふっ、新作だよ」
「あるえ大好き!!」
今度はどんな話なんだろう。楽しみだなぁ! アクセルに向かうまでに時間があったらこれを読もう。
「……あるえ。私には何かないんですか?」
「では、秘蔵の逸品を」
そう言って、あるえは長い学園生活の中で、一度も外した事のなかった眼帯を。
「あっ!?」
「あるえが眼帯外したところ、初めて見た!」
「お風呂に入る時も眼帯は外さないって噂だったのに!?」
「えっと……私、あるえと一緒にお風呂入った事あるけど、普通に外してたよ」
騒ぐ皆を気にもせず、あるえはめぐみんに眼帯を手渡す。いつも着けていると言ってもお風呂の時は外すよね。布製だし。
「これは強力な力が込められた逸品でね。これを着けていると、精神を落ち着け、洗脳や魅了といった、操作系の魔法に耐性を得られる効果があるんだよ。それと同時に魔力を抑える役割を持つ。私は持って生まれた魔力が大き過ぎてね。うっかり力を暴走させないために、幼い頃にこれを着けられたんだよ」
今明かされる。あるえの過去。あの眼帯ってそんな大事な物だったんだ!?
「そ、そんな大事な物、めぐみんにあげちゃっていいの?」
「そうよ、力の暴走ってのは大丈夫なの?」
ふにふらちゃんとどどんこちゃんの問い掛けに、あるえは小さく笑うと。
「いいんだよ。私にはもう必要のない物だから。親に言われたから魔法は覚える予定だけど、使うつもりは無いんだ。私の夢は作家なんだよ。作家になって、誰かを喜ばせる物を書きたい。だから、めぐみん達が冒険者になったなら、たまにでいいから冒険話を聞かせて欲しい。そして、いつかめぐみんのパーティーの冒険譚を書いてみたいね」
そんな、えらくカッコいい言葉を聞いた、ふにふら達がオロオロしだすと。
「ね、ねえどうしよう、あたし達が持ってきたプレゼント、ただの杖なんだけど」
「杖だって、その、すとれには手伝って貰っちゃたけど、材料から集めてきたんだし心はこもっているから」
「ど、どうしよう、私なんて市販の物買ってきただけなんだけど!」
「それがどんな物でも構いませんよ。どれもこれも、大切にさせていただきますから。ありがとうございます」
コソコソと耳打ちし合う三人に、めぐみんはそう言って笑いかけた。素直に嬉しそうなめぐみんを見て、三人もホッとしている。
「だ、だよね! 気持ちが大事だもんね!」
「そうそう! ……って、そう言えば! ねえあるえ、その眼帯をめぐみんが着けてたら、魔力が封じられるんでしょ? それだと、魔法の威力が弱くなるんじゃないの?」
「あ……。それなら、本気で魔法を使う時だけ、眼帯を外したら」
三人の声を聞きながら、めぐみんが早速、もらった眼帯を着けようとしていたら――あるえが突然、綺麗にラッピングされた箱を取り出した。その箱の中には、買ったばかりと思われる新品の眼帯があった……。
「ああ、そんな効果はないから大丈夫だよ。それ、私が子供の頃、お爺ちゃんにオシャレで買ってもらった眼帯だから。そろそろ古くなってきたから買い換えたんだ。私は作家を目指していると言っただろう? 作家は、適当に話を作ってなんぼだと……」
めぐみんは話を途中で遮るように、身に着けようとしていた眼帯をあるえに投げつけ、新品の眼帯を奪い取って着けた。『新品を取られた……』って悲しい声をあげてるけど、あるえの自業自得だと思うよ……。
まあ、めぐみんもプレゼントを貰えて良かったよ。私とゆんゆんは卒業パーティの時に貰えていたけど、めぐみんはまだだったからね。
「アルカンレティア行きのテレポート、そろそろ発動しまーす。テレポートは一回につき四人まで。次のテレポートは昼過ぎになります。転送をご利用の方はお早めに」
プレゼントを次々と渡されていたところに、転送屋の声が聞こえた。そろそろ転送の時間なんだと思い、皆に最後の挨拶をしていく。
「皆から貰ったプレゼントは大切に使わうね。しばらくは会えなくなっちゃうけどさ、また帰って来るから!」
「最強の魔法使いになって、魔王を倒して戻ってきますよ!」
「ふええええええん……!」
めぐみんとゆんゆんも別れの挨拶をしていく。ゆんゆんは号泣していて、なんとか手を振っているだけだけど。私も手を振って、テレポート屋に二人を連れて歩いていく。後ろからはがんばれって声援が何度も飛び交っている。
店主に三人分の銀貨を渡し、テレポート用の魔法陣に乗る。行先は水と温泉の都アルカンレティア。里の外に出るのは初めてで、緊張するなという方が無理がある。それでも三人で居るならなんとかなるって確信している。
「はい、それじゃあいきますよー。魔法に抵抗しないように、力を抜いてくださいね!」
店主の声を聞きながら、両隣に居る二人の手を握って、目を閉じ、力を抜いていく。
そして、先程見送ってくれたクラスメイト達の顔を思い出すと、自然と体に力が湧いてくる。私は、まだ見ぬ世界を思い描きながら。
「それでは、どうか良い旅を。テレポート!」
転送魔法をその身に受けた――
すとれ
クラスの全員に抱き付いてから旅立った。
めぐみん
皆からプレゼントを貰って旅立った。
ゆんゆん
途中から別れが寂しくて号泣してた。
読んでいただきありがとうございました!
やっと紅魔の里を飛び出しましたね!
当初のプロットとしては、今回の話数では既にアクセルで冒険している筈だったんですけどね。
次はアルカンレティア編になります。
アルカンレティアも大好きなキャラが多いので続きを書くのが楽しみです!