「さっそく街を散策だー! って言いたいところだけど、荷物が重いから、先に泊まるところを見つけようか」
「賛成ですね。お荷物なゆんゆんを宿に置いて二人で出掛けましょう」
「お荷物なのはめぐみんでしょ! さっきも勝手にクエストを受けようとするし!」
もう……。ギルドを出たばかりなのに早速喧嘩しちゃってるよ。普通に荷物を置きたかっただけなのに、すぐ揚げ足を取ってゆんゆんをからかおうとするんだよねー。ほんと、めぐみんってゆんゆんの事が大好きなんだから。
「喧嘩してたら置いていっちゃうよー。あ、すみませーん! この街でおすすめの宿を教えてくれませんか?」
まだ言い争っている二人は放っておいて、近くを歩いていたお姉さんに声を掛けて、おすすめの宿について教えて貰った。
なんでも、街の中央にある大教会の周辺の宿は、大教会からの支援金も出ているらしくて、宿泊費は安い上に、大きな温泉があって、料理も美味しいらしい。
大きい温泉と美味しいご飯。そして、値段も安いなんて、今日泊まる宿は決まっちゃったね!
ゆんゆん達と早速行こうと思ったらまだ喧嘩中で、周りに人が集まって、遠巻きに見られている。もう、ゆんゆんって恥ずかしがり屋なのに、めぐみんと居ると周りが見えなくなっちゃうんだから。
「もう喧嘩は終わりだよ。おすすめの宿も教えて貰ったから移動するよー」
「でも、ゆんゆんが!」
「だって、めぐみんが!」
まだ不満そうな二人の頭を優しく撫でて、二人に目線を合わせて、優しく言葉を掛ける。
「あとで私がちゃんと聞いてあげるからね。だから仲直りして一緒に行こう! ほら、仲直りの握手をしようね」
「むぅ、仕方ないですね」
「うん……めぐみん握手しよ」
おずおずと握手する二人を両手で抱きしめる。腕の中に居る二人の頬が触れ合うくらい近づいてるのは気にしないで、もっと強く抱きしめた。
私も身長が近いし、二人と顔がくっついちゃってるけど気にしませーん!
「ち、近いですから!?」
「ひゃあ!? す、すとれ、すっごく近い……」
二人とも仲良しだから、何でも言い合えるんだけど、言い過ぎたらダメだよね。親しき中にも礼儀ありってやつだね。
「はい! 握手したからもう仲直りしたよね? それじゃあ、手を繋いで出発だよ!」
顔を赤くしてこちらを見ている二人の手を取って、街の中央に向かって歩いていく。めぐみん達の喧嘩を見ていた周囲の人達からは、なぜか大きな拍手をされて送り出された。
街の中央が近づくにつれて、遠くに見えていた大教会が思った以上に大きかった事に気づく。そして、その大教会がとても美しいと知った。
青い石材で建てられた大教会の外壁は、湖面のように青く光を反射している。そして、使われているガラスは全てステンドグラスのようで、より美しく、より荘厳に見せている。
「わぁ……。すっごくきれいな建物だね……」
単純な感想しか出てこなくなる程に、この大教会は綺麗だった。この世界には重機とか無いんだし、人の手で作ったんだよね。本当にすごいなぁ……。
「こんなに綺麗なのにアクシズ教の教会なんですよね……」
「もったいないね……」
この大教会がアクシズ教の教会だって事に二人は不満みたいだけど、こんな立派な建物を作るくらい、アクア様が敬われていたって証拠なんだから、あまり不満に思わないで欲しいかなぁ。
こんな綺麗な建物を作ってもらえるなんて、アクア様ってやっぱり凄い女神様だったんだね!
「ね! 中に入れそうだったら、後で行ってみようよ!」
「えっ!? あそこは敵の本拠地ですよ! 止めておきましょう!」
「う、うん。悪の巣窟なんだから、危ないよ!」
「アクシズ教の教会だからって、そんな魔王城みたいな扱いにしなくても……」
アクシズ教徒ってそんなに嫌われちゃってるんだ……。私は紅魔の里で一度もアクシズ教徒とは会った事が無かったけど、二人は何か接点があったのかな?
「まあ、中を見てみたかったけど、二人が嫌なら止めようか。それなら宿屋を探す? この大教会の近くにある宿屋はどこも良いらしいよ!」
「重いリュックを背負っている事にそろそろ疲れてきましたからね」
「うん。私も少し休みたいな」
大教会の周囲には沢山の旅館が建てられている。この中のどれもがおすすめ出来るって聞いたけど、実際どうなのかな? 建物の綺麗さとか違うし、あまり入ってない旅館もありそうだけど。
「では、宿は私が決めましょう! そうですねー……。そこの宿が一番良いと、私の直感が囁いていますので行きましょう!!」
「めぐみんの勘って怖いんだけど。大丈夫かな……?」
「ま、まあ。宿の事を教えてくれたお姉さんはこの辺りの宿ならどこも良いって言ってたから大丈夫じゃないかな? めぐみんの勘で選んだところだとしても……」
「私の直感の信頼度が低すぎませんか……? とりあえず行きますからね!」
ちょっと不安に思いながらも、めぐみんの選んだ宿に向かって歩いていく。なんか、この宿って周りにある宿と比べると、どことなく寂れているんだよね。なんか暗い感じがしてるし……。
ゆんゆんも不穏な気配を感じたのか、不安そうな目で見てきたので、少しの間見つめ合う事になった。『なんかこの宿は危なそうだよね……』『ダメかも……』と目線だけで会話していると、前の方にいためぐみんから声を掛けられた。
「二人で見つめ合って、なにいちゃついてるんですか! 早く来てください!」
私達はめぐみんに引っ張られて、怪しげな宿に連れて行かれた。本当に大丈夫かなぁ。
「ね、ねぇめぐみん。ちなみに……なんでこの宿を選んだのかな……?」
「それはですね。周りの宿と比べると外見は寂れてますけど、こう言う店は逆に料理が美味しかったり、温泉の効能がとっても良かったりするものなんですよ! ほら、見てください! 周りの宿と比べると、こうもボロいのです! これは絶対何かありますよ!」
「お客さんが入ってないだけじゃないの……」
私達の言うことは一切気にしないで、めぐみんが宿の扉を勢いよく開けた。
「『旅館アクシズ』へようこそ! お泊まりですか? 入信ですか? 入信ですよね? 違いますか? それならお食事ですか? 違いますよね? 入信ですよね? この扉を開いた人は必ず入信する決まりなんです! それではこちらの用紙に――」
めぐみんは全力で扉を閉めた。そして、めぐみんはこちらに振り向いて、勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!! すぐに他に行きましょう! 宿はすとれが決めてください!!」
「う、うん。それなら人の出入りが多かった、あっち綺麗な宿に行こうね」
めぐみんもゆんゆんも、アクシズ教徒の狂信っぷりに恐怖したのか、何も言わずに私の服をつまんで、後ろからついてきた。
扉を開けたら目の前に狂信者だもん。めぐみんは本当に目の前だったから、相当びっくりしたんだと思う。
「宿に着いたら今日は温泉にゆっくり入って、美味しいものを食べて、今日は部屋で休んじゃおうね……。街を回るのは明日にしよう」
後ろの二人は声も出さずに、ゆっくりと頷くだけだった。早く休ませてないと……二人はもう限界みたいだし。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか? それともお食事でしょうか?」
「あ、宿泊でお願いします。部屋は全員同じ部屋がいいです」
接客をしてくれているお姉さんは普通そうで安心した。めぐみんとゆんゆんもホッと胸を撫で下ろしている。
「それでは、こちらの宿泊台帳に必要事項を記入してくれますか?」
「分かりました。…………あの、これアクシズ教への入信の申し込み用紙なんですけど……」
「あっ、すみません。間違えちゃったみたいですね! ではこちらの台帳にーー」
「失礼しましたー!」
三人ですぐに宿から飛び出して、中央広場から離れるように裏路地まで行き、身を寄せ合った。
もうやだこの街!
めぐみん
アクシズ教徒がトラウマになった。
ゆんゆん
アルカンレティアを早く出たいって思い始めてる。
すとれ
二人を仲直りさせた。
読んでいただきありがとうございました!
アクシズ教の狂信者達を出すの楽しいです!
すとれがおすすめの宿を聞いたお姉さんは多分、アクシズ教徒だったのでは……?