「もう私ここに住むー」
「いや、アルカンレティアに住むとか正気ですか……。今日も酷い目にあったんですけど……」
「で、でも……。すとれが望むなら、どこでも……」
三人で、満天の星空の見える露天風呂に浸かりながら、ゆっくりと空を見上げて話しが出来る。こんな最高の温泉がある街、住みたくなっちゃうよね……!
アルカンレティアに着いて初日だけど、既にめぐみんはアクシズ教徒の狂信者がトラウマになってた。正直、あの狂信者は私も怖かったからなぁ……。流石に怖いアクシズ教徒が居る街には住みたくはないって思っちゃうか。
結局、街の中央付近の温泉宿に泊まるのは止めることにして、街外れにあったエリス教徒が運営する、宿に泊まる事にした。街から少し離れている分、周りには自然が多く、露天風呂から見える景色は最高だった。
私達を優しく照らす月の明かりと、周囲を彩る木々の緑が、この街の喧騒を忘れさせてくれる。アクシズ教徒の夜通し騒いでる声も、街から離れたこの温泉には全く届かない。
私達の声と、お湯に触れた時のわずかな水音だけが響く、この空間でゆったりと温泉に浸かっていたら、アルカンレティアで感じたストレスは完全に消え去った。
ストレスから解放されたからか、久しぶりの温泉だからなのか、私のテンションは最高潮に達していた。
「だって、こんなにいい温泉があるんだよ! 肌もこんなにスベスベになるんだから! ほら、触ってみてよ! ほらほらー」
「ちょ、ちょっと近いですから!? さっ、触れませんからー!?」
めぐみんにスベスベになった肌を触って貰おうと、近づいたら逃げられちゃった。ほんとにめぐみんは恥ずかしがり屋なんだからねー。でもめぐみんの肌もスベスベになったか気になるし、後で触っちゃおうか!
「もう、ほんとにスベスベなのにー! ねぇ、代わりにゆんゆん触ってみてよ!」
「す、す、すとれの身体を!? 直視もできないのに……!?」
バシャバシャとお湯を跳ねさせながら、慌ててるゆんゆんの目の前に、お湯を掻き分けながらすーっと近づいて、目を瞑っているゆんゆんの手を取って、私の腕に手を触らせる。
「ね、スベスベしてるでしょ! あっ、ゆんゆんの手もいつもよりもスベスベしてるよ! わっ、もっと触っていい? あ、ほっぺもスベスベだー!」
「あっ……すごい、つるつるすべすべっ! それに触られて!? し、幸せすぎ……」
何か言ってるゆんゆんの事は気にしないで、夢中になって腕とかほっぺを触っていく。こんな温泉に毎日浸かってたら、私達はどうなっちゃうんだろうね!
「し、仕方ないですね……でも、すとれになら少しくらい触ってあげても……! って、なんで二人で触りっこしてるんですか!? ゆんゆん、私と代わってください!」
「え、えへへへ……。すとれに触って、触られて……。えへへへへ……」
「ちょ、ちょっと何トリップしちゃってるんですか! 離れてください! 離れろー!」
のぼせちゃったのか、抱きついてきたゆんゆんを私から引き離そうと、めぐみんが暴れ出した。ちょっと、温泉の底って滑るんだから、そんなに暴れたら――
「ひゃあ!?」
「わっ、すみませ!?」
バシャーンと小さな水柱を立てて、私とめぐみんは温泉の中に倒れ込んだ。
「お風呂で暴れたら危ないよ……? 怪我してない?」
「あわ……あわわ!? しゅとれがちかっ!?」
めぐみんと一緒に温泉の中に倒れちゃったけど、ちょうど私に覆い被さるみたいに倒れたみたいで、めぐみんに怪我は無さそうだった。私も痛いところは無いし、お互いに大丈夫そうだね。
「もう、怪我しないように気をつけなきゃね。でも怪我も無くてよかったよ。よしよし」
「む、むむむ、胸が当たってますうう!?」
「あ、当たっちゃったね。でも、恥ずかしがるよりも、めぐみんを怪我させない方が大事なんだから。ね、顔も赤いけど大丈夫? 痛いところはない?」
「にゃ、にゃいです……」
どこにも痛いところは無いみたいだけど、少しのぼせちゃったのかな? 顔が真っ赤になってるよ。
私とお風呂なんて、何度も入っているのにどうしてそんなに顔を赤くしちゃってるの? 疑問に思いながらも、赤い頬に手を添えるように置いて優しく撫でる。
「す、すとれぇ……」
甘えた声で私の名前を呼んでくれる、めぐみんが子猫みたいに可愛いすぎたから、思わず抱きしめてしまう。
本当は甘えたがりなのに、甘えるのが下手だから、今みたいに素直に甘えてくるめぐみんを見るのは久しぶりだった。
それなら、存分に甘えさせてあげないとね!
もっと撫でて欲しそうにしているめぐみんのもちっとした頬を撫でていると、撫でられた事が嬉しかったのか、擦り寄るように顔を手の方に近づけてきた。ほんとにかわいいんですけど!
「もっとめぐみんは甘えていいんだよ。めぐみんのしたい事なら何でも受け止めてあげれるんだから」
「な、なんでも……ですか?」
「うん。何でも言って欲しいな」
目を潤ませて、私を見つめてくるめぐみんは、何をお願いしてくれるのかな。
普段は素直にして欲しい事を言ってくれないめぐみんだけど、今なら何か言ってくれそうだし、私に出来る事なら何でも叶えてあげるよ?
「す、好きって、言って欲しいです……」
「好きだよ。初めて会った時から好きだったよ」
めぐみんはこの世界に来て、初めて出来た友達で……小さな頃からずっと一緒に居たから。好きに決まっている。
「だ、大好きですか……?」
「大好きだよ。私の大切な親友なんだから」
めぐみんの為なら何でも出来ると思う。それくらいにはめぐみんの事は大好きだ。私の大切な親友で、私の大好きな女の子。
「わ、私もすとれの事……だ――」
「えへへへへ……あ、あれ、目が回って……きゅう…………」
めぐみんが何かを言おうとした時に、バシャンと水音が聞こえ、音の方向に振り向くと、ゆんゆんが身体を投げ出すように浮いていた。
「えぇ!? ゆんゆん大丈夫!?」
「…………」
「わああ!? のぼせて意識が無くなっちゃってる!? 『ヒール』『ヒール』」
すっごい笑顔のまま意識を失っているゆんゆんにヒールを掛けても意識は取り戻さなかった。でも、身体に別条は無いはずだから、お風呂から上げて、寝かせてあげればいいか。
「話の途中だったけどごめんね。ゆんゆんがのぼせちゃったみたいだから、着替えさせて部屋に連れていくね」
「わかりました……。まったく、ゆんゆんはのぼせて気絶するなんて、何やってるんですか……。私も身体を拭いたりするの手伝いますよ」
ゆんゆんの腰と膝裏に手を回して抱き上げる。身体はぐったりとしても笑顔のままだから、ちょっと不気味だ。気にしないで、脱衣所に連れていく事にしよう。
ゆんゆんの身体を拭いていると、めぐみんは髪をドライヤーっぽい魔道具で乾かしてくれた。最後にゆんゆんに浴衣を着せて、腰掛けに寝かせたところで、私もタオルで身体を拭いて、着替えた。
「あ、すとれの髪も乾かしますね」
「ありがと! 終わったら、私がめぐみんの髪も乾かしてあげるねー」
二人で髪を乾かし合ってから、ゆんゆんを抱きかかえるように持ち上げて、部屋に運んでいく。
部屋には宿の従業員が敷いてくれたのか、布団が綺麗に敷かれていた。めぐみんが掛け布団を退かしてくれたので、そこにゆんゆんを寝かせる。
「ありがとうね、めぐみん」
「いえ。私達も寝ますか?」
「そうだねー。私も眠くなってきたし、寝ちゃおうかなー。ふふ、一緒に寝ちゃう?」
「ね、寝ませんよ!?」
甘えたがりモードは終わっちゃったみたい。でも、このめぐみんも気難しい猫みたいで可愛いんだよね。日本で飼っていた猫が、普段は全然触らせてくれないけど、私が寝てる時には、気付いたら一緒に寝てくれていたりするんだけど、その猫に似てるところがあるんだよね。
「私が寝たら、こっそり布団に潜り込んで来てもいいんだからね。じゃあ、おやすみー!」
「そ、そんな、潜り込むだなんて、しませんからね!?」
めぐみんって温かいから抱き枕にしたら、よく眠れるのに……なんて、残念に思いながら、横並びになってる真ん中の布団の中に入る。
ふかふかの布団が気持ちいい。あ……これすぐに寝ちゃうかも。今日は結構疲れる一日だったからね。紅魔の里から飛び出して、アルカンレティアでは、アクシズ教徒に恐怖したり。さっきも温泉に長く浸かってたからね。もうほんとに眠いや……。
「あの、すとれ……。もう寝ちゃいましたか?」
布団に包まって、一気に眠気が襲ってきた時に、わずかにめぐみんの声が聞こえた気がした。
「さっきは言えなかったんですが、私もすとれの事は大好きですよ」
近くで床がきしむ音がして、布団の擦れる音がしたあと、温かい何かが私を抱きしめた気がした。
「でも……あなたの好きと私の好きは少し違うものなんです。それでも、いつか気付いてくれたら私は……」
まどろむ中で、頬に一瞬温かさを感じた。
「すとれ大好きですよ。おやすみなさい」
めぐみん
結局すとれの布団に潜り込んで一緒に寝た。
すとれに対してめぐみんからも重たい感情が……。
ゆんゆん
すとれと触り合いっこしたあげく、トリップして、のぼせて気絶した。
ゆんゆんにはすとれとの裸の付き合いは刺激が強すぎたみたいです。
すとれ
温泉効果で肌がすべすべになって、二人に触って欲しくなった。
寝てる時にめぐみんから話し掛けられた事や、頬に感じた一瞬の温かさには気付いていたのかな?
読んでいただきありがとうございました!
アルカンレティアと言えば温泉ですよね!
温泉に入って、三人がわいわい騒ぎ合うだけのプロットだったのに、気付けばめぐみんが激重感情をすとれに向けてましたね……!
小さい頃から一緒に居た相手に対しての感情が軽い訳が無いですよね!
いつかすとれは誰かに刺されるのでは……?