「本当に、変な人達でしたね……。すとれも馬に蹴られたと思って、忘れるべきですよ」
「す、すとれ大丈夫? そろそろ元気出して……」
「二人ともありがと……」
アルカンレティアで、アクシズ教団の聖女にされちゃった事で精神的に大きなダメージを受けてから、まだ立ち直れていなかった。
まあ、ゼスタさんも私のためを思って、聖女にしてくれたんだよね……。そもそも、聖女って何? 何をする人なの? 何も聞かないで逃げちゃったから分かんないや。
ま、まあ聖女になったとしても、アクセルでは関係ないよね。アルカンレティアだけの話だと信じて、もう忘れよう!
「よーし、復活したよ! 早くアクセルに着かないかなー? あっ、見て見て、アルカンレティアがあんなに小さいよ!」
「い、いきなり復活しましたね……」
「えへへ、すとれが元気になってよかった」
アルカンレティアから離れた事で元気が出てきた。
さよならアルカンレティア、私の事は忘れてね!
「復活したところすみません……あの、私達の荷物がまだ――」
「ああーっ! 旅館にまだ置いたままじゃん!? ご、ごめんね、逃げるのに必死で忘れてた!」
どうしよう、旅館に荷物は置いたままだったよ……。着替えとかキャンプ道具とか入ってたのに忘れちゃった!
一応、杖は皆持っているし、ポーチにお財布が入っているから、お金に関しては問題ないけど、どうしようか……?
「大丈夫ですよ。ゆんゆんが取ってきますから」
「い、イヤよ!? だって、アクシズ教徒が怖いもん……! すとれも行くのは止めておこうよ……」
「でも取りに行かないとダメだよね……。忘れたのは私が原因だから、しかたないよね、私が取ってくる!」
よ、喜んでくださいアルカンレティアのアクシズ教徒の皆さん。聖女すとれが帰ってきますよ……!
「いえ、旅館の名前は覚えてますし、荷物を忘れた旨を書いた手紙を送って、アクセルに届けて貰いましょう」
「それ採用! ほんとめぐみん天才! 流石、紅魔族随一の知力の持ち主、大好き!」
アルカンレティアに行かないで済む、冴えたやり方を思いついてくれためぐみんに抱き付いて喜びを伝える。私の腕の中で、抱き付かれた恥ずかしさからかジタバタしてるめぐみんだけど、知力が必要になる場面では、本当に頼りになるんだよね。
そうだよね、荷物を取りに行かなくても送って貰えば大丈夫じゃん!
「アクセルに着いたらすぐに手紙を送るね。じゃあ、荷物の問題はこれで解決だよ! めぐみん本当にありがとうね!」
――――――――――――
――現在私達は、駆け出し冒険者の街アクセルへと向かっていた。この大型の乗り合い馬車は座席が横に五つずつ並び、私達を合わせて十人の客が乗っていた。
席順は窓際から順に、めぐみん、私、ゆんゆんと並んでいる。めぐみんが窓際に座った事を、ゆんゆんは羨ましそうに見ていた。
「ねえ、めぐみんそろそろ私と席を交換してよ! 私も外の景色を見たいの!」
「嫌ですよ、馬車の席は早い者勝ちです。諦めて床でも眺めてればいいんじゃないですか? ……あっ! リザードランナーです! 二匹のリザードランナーが、雌を取り合って駆けっこ勝負をしてますよ! どっちが勝つのか見物で……」
「ねえ、代わってよ! 私にも見せてよ、ねえ!」
「ほーら、喧嘩したらダメだよ。仲良くね」
座席を巡って言い争っている二人をなだめようと声を掛けた。馬車には他の乗客も居るから騒がしくするのは迷惑になっちゃうからね。
「だって……めぐみんがひどいの!」
「よしよし、いじめっ子なめぐみんは放置して私と一緒に遊ぼうね」
「んなっ!? 私はいじめっ子じゃないですから! 席順は早い者勝ちなだけですからね!」
外を観れなくて僅かに涙ぐんでいるゆんゆんを抱きしめて、背中を優しく擦る。めぐみんが楽しそうに見てたから、お外を観たくなっちゃったんだよね。
「ね、お外を見る代わりに一緒に本を読もうよ。ほら、これ!」
ポーチを漁って、持ってきたあるえの小説の中から取り出した。暇な時に読もうと思って、ポーチにも一冊入れていたから助かった。何を入れたんだっけ?
「う、うん読む! えっと、タイトルは『紅魔族族長の一人娘として生まれたけど、人間の友達が出来なかったので、魔物の友達を作っていたら、いつの間にか魔王になってました』……。これ……私もあるえから貰って読んだけど、私みたいな主人公がボッチを拗らせて魔王になっちゃう話じゃん! うえええん!」
「ご、ごめんね!? 他の本にするから待っててね!」
よりによってこの本だったかぁ。ゆんゆんっぽい女の子が主人公なのはあれだけど、結構面白くて……ゆんゆんごめんね!?
「全く、慰めていたすとれが泣かせてどうするんですか……仕方ないですね。ゆんゆん、席を替わりますから泣き止んでください」
め、めぐみん優しい! 泣いてたゆんゆんと席を交替して、めぐみんは私に寄り掛かってきた。ちゃんと、お姉ちゃん出来ためぐみんを褒めるように頭を撫でた。
私達の中ではめぐみんが一番誕生日が早くて、次に私、最後にゆんゆんって順番だから、めぐみんは長女みたいなものだよね。こめっこちゃんのお姉ちゃんなだけあって、下の子には優しく出来るみたい。
「やっぱりめぐみんは良い子だねー。ちゃんとゆんゆんに優しく出来て偉いよ! いいこいいこー」
「こ、子供扱いしないでください! 泣いていたら他の人に迷惑になるって思っただけですから!」
ゆんゆんとはライバルだから素直にはなれないけど、いざという時には優しく出来る子だもんね!
「ゆんゆんもお外を見れてよかったねー」
「うん! あぁ! ほんとにリザードランナーが駆けっこしてる!」
ゆんゆんは外の光景を見れて、泣き止んでくれたみたい。でも私が取り出したのが、あの本だったのは想定外だったよね……。
「フフッ……。三人とも随分と仲良しねぇ」
めぐみんとゆんゆんの座席を巡る戦いが終わったところで、笑い声が聞こえてきた。向かいに座る、小さな女の子連れのお姉さんが、目を細めて楽しげに笑っている。
というか、馬車の乗客達も私達に、微笑ましい視線を向けていた。恥ずかしくなったのか、顔を赤くして身を縮ませながら大人しくなるめぐみんに、お姉さんが焼き菓子を差し出してくる。
「お嬢さん、これを食べるかい?」
「い、いただきます」
差し出された焼き菓子をめぐみんが両手で受け取り、美味しそうに食べている姿を見て、お姉さんがまた目を細めて微笑んでいた。
「わぁ! すとれ、めぐみん! 小さい方のリザードランナーが駆けっこ勝負に勝ったよ!」
「すごいねー! また面白い事があったら教えてね」
「うん!」
窓の外を眺めていたゆんゆんは、乗客からの微笑ましい視線に気付いていないみたいで、楽しげに景色を見ている。
「はい、あなたもどうぞ。外を眺めているお嬢ちゃんにもあげるわね。アクセル行きの馬車に乗っているって事は三人とも冒険者志望かしら?」
私とゆんゆんにお菓子を差し出しながら、お姉さんが尋ねてきた。
「はい、私達は冒険者志望です。まずはアクセルで実力を高めていこうって考えているんです」
「あなた達、その紅い目は紅魔族ね? アクセルに着けば、きっと三人とも引っ張りだこよ。良い仲間に恵まれるといいわねぇ」
「あ、私達って三人でパーティを組もうと思ってるんです。全員魔法使い職ですけど、三人で頑張っていけたらなって」
「フフッ、そうなの。あなた達仲良しだから楽しく冒険出来そうね」
私とお姉さんとの会話を聞いていた、他の乗客達が途端にざわつく。
「紅魔族? 紅魔族が三人も乗り合わせているのか!」
「この旅は安心だな。俺達の仕事も無さそうだ」
「そもそも、こんな大所帯の商隊を襲うモンスターなんて滅多にいないさ」
この中には、どうやら馬車の護衛として雇われた冒険者も交ざっていたらしい。
「ご安心を。紅魔族随一の天才と呼ばれたアークウィザードです。そして、こちらのすとれはアークウィザードとして上級魔法を操るだけでなく、アークプリーストの魔法スキルを全て使用できる、私に並ぶ天才です。ゆんゆんも上級魔法を使えるので多少はやりますよ。なのでモンスターが襲ってきても、大船に乗ったつもりでいてもらえばいいですよ!」
「おぉ! その歳で上級魔法操るなんて……流石、紅魔族だ!」
「魔法使いが何年も掛けて辿り着く境地にその年齢で……!」
「上級魔法だけじゃなくて、アークプリーストの全魔法スキルを取得しているなんて、いったいどうやって……これが、本物の天才なのか」
めぐみんが私達の紹介を行った結果、回りの冒険者から過大な評価を受けた。
ね、ねぇ私は『対魔王軍遊撃部隊』でモンスター討伐をしてたし、ゆんゆんも、卒業してからはモンスター退治に参加してたけど、めぐみんはニートしてただけだよね……。
そんな自信満々に任せてくださいなんて言って大丈夫なのかな……?
「ね、ねえめぐみん。私の紹介だけ雑だったよね!? それよりも、護衛の人達がいるんだから任せておきなさいよ! めぐみんの魔法じゃ、かえって被害を増やすだけでしょ!」
ゆんゆんがめぐみんに注意しても、周りの人達にチヤホヤされてるめぐみんはあまり聞いてなさそうだ。久しぶりチヤホヤされたんだもんね……。冒険者達へ自慢げに私達の事を話しているめぐみんが微笑ましかったので、注意はしないでいいかな。
「しかも、すとれは聖女と呼ばれているのです!」
「めぐみん待って! それは話さないで欲しいかなー!?」
めぐみん
ちゃんとお姉ちゃん出来ました。
ゆんゆん
お外が見れなくて泣いた。幼女かな?
すとれ
乗客に聖女と呼ばれている事をばらされた。涙目になる。
忘れた荷物は届けて貰う事になりました!
読んでいただきありがとうございました!
ハロウィンの回は番外編として、上部に移しました。