尊敬してますアクア様!   作:天道詩音

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モンスター、襲来

 

 私達が乗った馬車は合計十台で編成された商隊で、街々の商いのかたわら、空いた客席に人を乗せてお金を取るシステムのようだ。

 

 先程誰かが言っていたけど、これだけの規模の商隊相手なら、モンスターが襲ってくる事も無いと思う。

 

 今の時刻はお昼過ぎ。商隊の人達が馬を休ませるため、昼休憩を取っていた。ここからアクセルまでは、広い草原がずっと続いているらしい。確かに私達の四方は見渡す限り大草原が広がっている。

 

「のどかだね……。こんな景色を見てると、王都の方で魔王軍が暴れてるなんて嘘みたいに思えてくるね」

 

 私の膝に頭を乗せて、芝生の上に寝転ぶゆんゆんは、そんな景色を眺めながらそう言ってきた。

 

 確かに、ここには商隊の人達の声と風の音しか聞こえない。モンスターが居るなんて思えないくらい、のどかな風景がそこにはあった。

 

「そんな事言っていると、モンスターが気を利かせて襲ってきたりするんですよ。まあ、魔法を使いたい私には願ったり叶ったりですが」

「えー、大丈夫じゃないかなー? だって、こんなにのどかな風景なんだよ! 絶対、大丈夫だよ!」

「すとれ……それはフラグ立てしちゃってますよ」

 

 フラグって言われてもね、辺りには見渡す限り芝生だけだし、モンスターの影はどこにも無いからねぇ。

 

「……。気を引き締めていかないとね。モンスターが来ないように警戒を……」

 

 私の膝枕で寝ていたゆんゆんがすっと立ち上がり、辺りをキョロキョロと見て、モンスターを警戒し始めた。

 

「このまま何事もなく、順調にいってくれれば、明日のお昼には着きそうですね」

「やめてよ! フラグになる事は言わないで! 学校で習ったでしょう!? 言っちゃいけないセリフ集にも書いてあったじゃない!」

 

 ゆんゆんが必死の表情で、馬車の近くに座っていためぐみんの肩を揺さぶっている。そんなに気にしなくても……。

 

「大丈夫ですよ、これだけの大所帯で移動しているのですから、私の計算によると、モンスターから襲撃を受ける確率は0.1%以下で……」

「やめて! モンスターに襲われたいの!? ねえ、皆の前で活躍中したくって、ワザと言っているんでしょう!」

 

 めぐみんの事だから、爆裂魔法を見せつけたいからって、フラグを立てているのかもね。でも、フラグって本当にあるのかな? 授業でも、フラグについて習っていたけど、未だに半信半疑だ。

 

 こんな何も無いところにモンスターなんて来る訳無いし、絶対大丈夫だと思う。なんて、考えていたら何故かアクア様の声が聞こえた気がする!

 

「ゆんゆん大丈夫だよ。今、アクア様の声が聞こえた気がするの! 『そーんな辺鄙な所にモンスターなんて、絶対居る訳無いわね! 安心して、昼寝でもしたらいいんじゃないのかしら!』って言ってたよ!」

「ね、ねえほんとに大丈夫かな!? アクア様ってアクシズ教の女神様よね!? すとれの言う事だから信じたいけど、特大のフラグになっちゃってるんじゃないかな!?」

 

 アクア様が大丈夫って言ってたから大丈夫だよね。でも、なんでアクア様の声が聞こえたんだろう? 今までそんな事は無かったのに……。まさか、聖女になった影響とか……? だけど、アクア様の声が聞こえるなら嬉しいかも。

 

「そうは言っても、こんな事で本当にモンスターが襲撃してくる訳がないじゃないですか。これだけの人数が相手です、モンスターだってバカじゃありませんよ」

「めぐみんの言うとおり気にしすぎだと思うなぁ。絶対モンスターなんて来ないんだから、一緒にお昼寝しちゃおうよー」

「お昼寝!? う、うん。私もしたいけど、でも絶対来ないなんて言ったら――」

 

 ゆんゆんが、そう言いかけた時だった。

 

「モンスターが出たぞーっ!!」

 

 平原に冒険者の声が響き渡った――

 

「だから言ったのに! フラグになる事は言わないでって、言ったのに!」

「ま、待ってください、これは私のせいだけではありませんよ! すとれだって、沢山フラグを立てていたじゃないですか!? それに、これだけの護衛の冒険者がいるのに、襲ってくるなんておかしいです!」

「えーっと……ごめんね!」

 

 涙目で食って掛かるゆんゆんに、必死に言い訳しているめぐみんを横目に辺りを見回す。商隊の護衛を請け負った冒険者が、雇い主や客を守ろうと駆け回っていた。その内の一人が私達に気が付くと。

 

「紅魔族の先生方! 本来お客さんであるあなた方にこんな事を頼むのは申し訳ないんだが、モンスターの数が多い! 助けてもらえないか!?」

 

 そう言った後、その冒険者は馬車に積んであった槍を取り出した。

 

「先生!? すとれ、ゆんゆん聞きましたか、先生方と呼ばれてましたよっ!」

「き、聞いたわ、聞いたけど! ねえ、どうしてそんなに興奮してるの!? 一体何がめぐみんの琴線に触れたのよ!」

「えっと? 先生って呼ばれてよかったね?」

 

 どうしてそんなに興奮してるのか分からないけど、多分先生方って呼ばれた事が紅魔族的に格好良かったんだろうね。

 

「すとれもゆんゆんも分かってませんね! 先生だなんて、用心棒みたいではないですか! 二人とも行きますよ、この戦闘には紅魔族の威厳が掛かっていると思ってください! 私達三人で蹴散らしてやりましょう!」

 

 めぐみんがそう言い放ち杖を構えるのを見て、私とゆんゆんも杖を手に取った。

 

 四方は見晴らしの良い平原だから、どの方向からモンスターの群が迫ってきても、こちらに着く前に魔法を当てられるはず。

 

「ふはははははは、我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を操りし者! この地に巨大なクレーターを作ってみせましょう!」

「ゆんゆん、私達はいつも通りに行動しよう。どんな相手でも私達なら大丈夫だよ」

「う、うん。いつもみたいにすとれの指示に従うね」

「えっ? ま、待ってください!? なんで二人は何度も戦線を潜り抜けてきた戦友同士の会話みたいな事をしてるんですか!?」

 

 めぐみんがニートしてる間、私とゆんゆんは『対魔王軍遊撃部隊』の皆と一緒にモンスター退治をしてたからね。戦闘の時は基本二人で組んでいたから、連携はバッチリだと思う。

 

「さすが先生方! それじゃあ頼みます!」

「え、待ってください、先程の疑問が解消出来ていないんですが!?」

 

 めぐみんの疑問は後回しにして、今はモンスターに集中しよう。先ほど槍を手にした冒険者が、なぜか地面を突き刺した。何をしているかを観察していると、槍が刺さった部分が盛り上がる。

 

「なーに、数は多いが、強敵じゃあない! あんた方に掛かれば楽勝だ! 何せ!」

 

 そして、地中から土をまき散らしながら現れたのは……、

 

「相手は、雑魚モンスターとして知られる、ジャイアント・アースウォームだ!」

 

 太さは直径1メートル。長さは5メートルほどにもなる、肉食性の巨大ミミズだった。

 

「「!?」」

 

 それを間近で直視した後に、ゆんゆんに攻撃の指示を出そうと二人を見ると、絶句したまま二人は固まっていた。

 

「こいつらは、体は柔らかいし大した攻撃力もない! 図体がデカく、生命力が強くてしぶといだけで、丸呑みされないように気を付ければ大丈夫だ!」

 

 二人はジャイアント・アースウォームを見ながら、抱き合って震えている。安心させようと声を掛けようとした瞬間――

 

「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。紅魔の名のもとに原初の崩壊を顕現す。終焉の王――」

「めぐみん待ってえっ! 気持ちは分かるけど! 凄く分かるけど、これだけ人がいるのにあの魔法は止めて! 皆を巻き込んじゃう!」

「そ、そうだよ! ただの大きなミミズでしょ。冷静になって!」

 

 爆裂魔法なんて使ったら、周りの人達も巻き込まれそうだし危ないよ!? 

 

 大きいだけでただのミミズなんだから、冷静に対応していかないと。

 

「えっ? すとれ……あれが大きいだけのただのミミズって言いましたか……? 嘘ですよね……。あんな気持ち悪いのに!」

「嘘でしょ……!? わ、私ただのミミズだなんて思えない!?」

「えっ? あれ? そう思えてるの私だけ!?」

 

 あ、あれ? 二人と認識に大きな差があるみたい。めぐみんはともかく、ゆんゆんなら大丈夫かなって思ったけど、違ったのかな?

 

「だ、だってゆんゆん! 一緒にモンスター退治してる時に出てきた、ゾンビの方が気持ち悪かったよね!? 人に似た姿をしてるのに、皮膚はドロドロに爛れてて、腐った匂いがしてたんだよ! あれと比べたら全然ましだよ!」

「た、確かに! あれ、ほんとに嫌だったもん! すとれが退治してくれた後に二人で泣いちゃったもんね……。あれ? ミミズなんかに震えてたのがバカみたいに思えてきたかも」

 

 魔王軍が送ってきたんだと思うんだけど、何十体ものゾンビが私達を追いかけて来たんだよね。対魔王軍遊撃部隊の皆もゾンビは苦手みたいで、私が除霊魔法を使えるからって、『君達に任せよう!』なんて言ってテレポートで逃げちゃったんだよね……。

 

 取り残された私達は、半泣きで魔法を使って何とか全滅させたんだけど、その後、二人で抱き合いながらずっと泣いちゃってたのは今も忘れられない。

 

 しばらくして戻ってきた皆に、ゆんゆんがファイアーボールを連射したのは仕方ない事だと思うな!

 

「私達はあんな地獄を乗り越えたんだよ。だから、大丈夫。周りの人達が怪我しないように私達も戦おうか」

「うん! 頑張るから何でも言って!」

「えっ、ほんとに待ってください! 私達の冒険ってこれからのはずでしたよね!? なんで、二人は既に苦難を乗り越えちゃってるんですか!? 私、そのエピソード全然知らないんですけど!?」

 

 めぐみんに話すのは後回しにするとして、冒険者達の援護に向かわなきゃ。見たところ怪我人も出ていないようだし、討伐を優先しようか。

 

「ゆんゆんは私と一緒に遊撃として動こうか。めぐみんはこの状況だと爆裂魔法が使えないから、乗客の人達に合流してくれるかな? 安心してね、私とゆんゆんで皆を守るから!」

「めぐみん、また後でね!」

「あ、あれ? 私、お荷物になってません……? 私、紅魔族随一の天才ですよ……?」

 

 ゆんゆんと二人で近くで戦っている冒険者の援護に向かう。

 

「周りの冒険者を巻き込まないように、攻撃範囲の狭いライトニングとかファイアーボールで戦うようにしようか。数も多いし、込める魔力量には注意してね」

「うん! 分かったよ! え、援護します! 『ライトニング』」

 

 ゆんゆんの放ったライトニングがジャイアント・アースウォームの上半身を消し飛ばした。

 

「い、一撃!? 凄え、流石は紅魔族だ!」

 

 生命力高いみたいだけど、問題なく倒せそうだね。引き続き倒して回ろうか。

 

「ゆんゆん、あっちに大量に湧いてきた! ここから、ライトニングで狙える?」

「うん。この距離なら大丈夫だよ!」

「なら、二人で倒しちゃおっか!」

「「『ライトニング』」」

 

 30メートルくらいの距離に湧いてきたジャイアント・アースウォーム達に向かって、二人で魔法を放った。斜線には何も無かったので、問題なく着弾。

 

 半身を失って、倒れ伏してたジャイアント・アースウォームを見て、周りからは歓声が上がる。

 

 この感じなら大丈夫だと思うけど、油断しないで残りを倒していこう。




めぐみん
先生と呼ばれてテンションが上がる。なお、戦闘では何も出来ないまま終わった模様。

ゆんゆん
すとれとモンスターを倒して回った。
2人にフラグ立てされて涙目。

すとれ
ゾンビがトラウマ。見かけたら即浄化。
なんだか、アクア様の声が聞こえたみたいです。幻聴か、それとも……。


読んでいただきありがとうございます!
タイトルからして、既にフラグが確定しちゃってましたね!
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