「月が綺麗だね」
私は、横に並んで座ってる二人にそう言って、笑みを向けた。
アクセルに着いて始めての夜。お風呂から上がった私達は、二階のベランダで夜空に輝く月を眺めていた。空には雲一つ無いから、より月が綺麗に見えた。
今日はやる事が多くて大変だった事を、月を見ながら思い返す。朝にアクセルに着いて、これから住む物件を見つけて、寝具類を買って、家に帰ったら大掃除をして、夜はちょっと豪勢なご飯を食べてから、ゆっくりと檜のお風呂に三人で浸かった。
合間に、アルカンレティアで泊まった旅館に向けて、荷物を忘れたままアクセルに行ってしまった事を手紙に書いて、送る事も忘れずにしておいた。着替えとか色々入っているし、私達の元に戻って来てくれたらいいなぁ。
そんな感じに慌ただしく時間が過ぎていく一日だったけど、大きなお風呂に入れた事で疲れは吹き飛んじゃったと思う。
「月も私達の門出を祝ってるんですよ」
「私達、やっと冒険者になったんだもんね」
そうだよね、やっと冒険者になれたんだ。クエストもまだ完了していないけど、受注はしてるから本格的に冒険者稼業が始まったんだなって、改めて思った。
「じゃあ、明日はジャイアント・トードを倒しに行っちゃおうか。めぐみんもそろそろ爆裂魔法を撃ちたいもんね」
アクセルに向かう馬車旅の間に一度も撃てなかったから、何とか撃ちたくなって、クエストも請けちゃったんだろうし、明日はめぐみんが爆裂魔法を撃てるようにサポートしてあげよう。
「カエル如きに使うのはもったいないとは思いますが、いいでしょう。我が魔力の限りを尽くして、最高の爆裂魔法を見せてあげましょう」
「でも、爆裂魔法を撃ったら、カエルは消滅しちゃうから採取分のエリスが貰えないんじゃ……」
「その分多くカエルを倒せばいいんです! ゆんゆんが追いかけ回されながら沢山のカエルを集めれば解決です!」
「解決じゃないわよ! ねえ、やっぱり爆裂魔法以外も覚えた方が……痛っ、そんなにポカポカ叩かないでよ!?」
めぐみんは私の膝上に覆い被さるように乗っかって、ゆんゆんに近づいてからポカポカとゆんゆんの太股を叩いていた。そんなに強くは叩いていないみたいだし、放っておいても大丈夫そうだね。
変な体勢ではあるけど、膝上にめぐみんが乗っていると、やっぱり猫っぽいって思っちゃって、ついつい背中を撫でてしまう。めぐみんって身長が低いからか、体温が高めだし、こうやってくっついていると、温かさが心地よいんだよね。
今日寝る時はめぐみんを抱き枕にして寝ちゃおうかな。前から思っていたけど、めぐみんって温かくて柔らかい、最高の抱き枕になってくれるんだよね!
今日の抱き枕はめぐみんに決定だね! 明日はゆんゆん抱き枕を試してみちゃおうかな?
「そう言えばめぐみんが選んだパジャマは今日は着なくってよかったの? 特にめぐみんは着た方がいいんじゃない?」
「わ、私よりももっと似合いそうな、ゆんゆんに着て貰った方がいいと思いますよ。あの寝間着はゆんゆんに似合いそうだと思ったから選んだのです。是非着て見せて下さい」
「適当な事言ってるって分かるからね。私があの服を店員さんに渡したら恥ずかしくなるって思ったから、あれを選んだんでしょ?」
「そ、そんな理由で選んでませんよ! あの寝間着を着てパジャマパーティーがしたかったからです。紅魔族は嘘つきません」
うん、紅魔族嘘ついてるね。
私もゆんゆんが言ってた理由で買ったんだと思うなぁ。でも、着ないのも勿体ないから、ローブの下にあのネグリジェを着れば……いや、それはそれで恥ずかしいし、止めておこう。いつか、どこかで着る事はあると思うからね、多分!
「嘘つきなめぐみんは、あのネグリジェで今日は寝て貰わないとねー」
「何ですかその罰ゲーム、絶対嫌ですよ!」
「はいアウトー! めぐみんが選んだのに着るのが罰ゲームだって思っちゃってるじゃない……」
「口が滑っちゃったね」
「ぐぬぬ、確かにゆんゆんをからかうために選んだのは認めましょう! ですが、買ったのはゆんゆんです。最終的な責任はゆんゆんにあるはずです!」
ゆんゆんに責任転換して開き直っちゃった……。今度、めぐみんがお金を稼ぐようになったら、お揃いのパジャマはめぐみんに買って貰う事にしちゃおうね。無駄遣いはダメなんだよー。
「私は悪くないから! 絶対、めぐみんが悪いわよ!」
「いいえ、私は一切悪くありません。普通何かを買う際には必ず金額や品質の確認を行うはずです。それを怠ったゆんゆんに全ての過失がありますね!」
「そこまでねー。せっかく綺麗な月を見てるんだから喧嘩はまた今度にしようよ」
ヒートアップしてきそうな二人を止めて、月見に戻って貰う。まあ、私もめぐみんが悪いと思っているけど、それを言ったらもっと熱が入っちゃいそうだから言わない事にした。
「ふっ、では私の勝ち逃げですね」
「私は悪くないもん! 絶対、めぐみんの負けだよ!」
「はい、審判の私が決めたけど、今回は引き分け! 審判のジャッジは絶対だからね、この話はおしまいでーす」
二人は不満げだけど、勝負は強制終了にした。
「それよりさ、二人は月についての逸話みたいな事って何か知ってる? 例えば、月にはウサギが居る、みたいな話ね」
「そんな話があるなんて知らなかったです。私が知っている話は、紅い月の夜は、紅魔族の血に宿る真の力が目覚めて、世界を滅ぼす力を手に入れると言う話です。そんな日が訪れたとしたら、世界の終わりに爆裂魔法を放ちたいですね」
「ねえ、めぐみん。それ、世界を滅ぼしたのって絶対めぐみんだよね。爆裂魔法がとどめを刺しちゃってるって思うなぁ……。私は、月についてのお話は知らないかな。二人の話も初めて聞いたし」
この世界だと、月ってあまり興味を持たれていないみたいなんだよね。こんなに綺麗に夜を照らしてくれているのに何でだろうね?
「意外と皆、月に興味が無いんだよねー。私は結構好きだから、月についてもっと知りたいって思ってるのに」
「まあ、月の事を知らなくても夜を明るくしてくれますし」
「で、でもすとれが興味持ってるし、私も月の事を調べてみようかな?」
理由が私なのはあれだけど、ゆんゆんが月に興味を持ってくれるのは嬉しいなぁ。今度色々教えてあげちゃうね!
「月も良いですけど、そろそろ湯冷めしそうなので中に入りませんか? 風邪を引いてしまっては、冒険に出れませんからね」
「あ、そうだね。結構外に居たし、そろそろ戻ろうか」
「確かにちょっと寒いかも……くしゅん!」
寒さを思い出したからか、ゆんゆんがくしゃみをしちゃったし、中に入る事にしよう。風邪を引かないように三人で布団に入って温まらないとね!
三人で室内に入って、寝室に向かう途中、月についての話でもう一つ思い出した事があったのを思い出したので、二人に伝える。
「私ね、月についてのお話でもう一つ思い出した事があったの」
「すとれは月が本当に好きですね。どんな話ですか?」
「教えて欲しいな!」
私が日本の学校に通っていた時に習った事だから、この世界の皆は知らないのかも知れない。
「実はね、月が綺麗だねって言葉には、あなたを愛してますって意味があるんだよ」
夏目漱石って偉人の人が『I LOVE YOU』の和訳を聞かれた時に、『月は綺麗ですね』って訳したって先生が言ってたけど、素敵な話だと思っていたから、忘れずに覚えていた。
「えっ、先程すとれはそんな事を言ってましたよね……それってつまり!?」
「そ、そう言う事なの!?」
さて、どう何だろうね。私は月が綺麗だと思ったからそう言っただけかも知れないし、月が綺麗ですねって言葉に別の意味があるって教えたかったから言っただけかもね?
「風邪を引かない前に寝ちゃうからねー。二人ともおやすみー!」
「え、待ってください、どう言う意味なのか教えて下さい!」
「ね、ねえ、教えてくれないと気になって寝れないよ!」
教えませーん。でも、愛してるかなんて分からないけど、二人の事が大好きなのは確かだよ。それじゃあ、おやすみー!
すとれ
月が綺麗だね。その言葉の意味は?
めぐみん
紅魔族は嘘つかない。と嘘つきが言っていた。
ゆんゆん
すとれの言葉の意味が気になって寝れなくて、翌日は寝不足になってた。
読んでいただきありがとうございます!
月見をしてたらつい書いてしまいました!
本当は番外編で出す予定でしたが、内容が前話の続きみたいになっていたので、本編に載せました。
ちなみに明日も19時投稿します。