「そこのプリーストよ、宗派を言いなさい! 私はアクア。そう、アクシズ教団が崇めるご神体、水の女神アクアよ! 汝、もし私の信者ならば……! ……お金を貸してくれると助かります」
朝早く起きちゃったので、散歩がてらにギルドに行って良いクエストが無いかと探していたら、女神様に会いました。
私が敬愛してるアクア様が何故か、冒険者ギルドに居てお金を借りようとしてました……。あっ、あれ、なんでアクア様がアクセルに居るの!?
女神様なのにお金を借りるために頭を下げる姿を見ていたら、何だか悲しい感情が湧き出てきた。
もしもの話と仮定して、アクア様とまた出会えたら何を話そうか考えた事もあったけど、この出会い方は想定外過ぎて、伝えようとしていた言葉が一瞬で吹き飛んじゃったよ!
だって、再会をするにしても、魔王を倒した後とか、倒せなくても天寿を全うした後とかに再会できたら良いなって漠然と考えていたのに、アクア様がこちらの世界に来ているのは想定外だった。
「…………エリス教徒です」
「あ、そうでしたか、すみません……」
あぁ……。アクア様は凄く空しい表情でとぼとぼと俯きながらエリス教徒のプリーストから離れていった。
わ、私が何とかしないといけないよね、だって、私の大好きなアクア様の為なんだから!
「あ、アクア様!」
「な、なにかしら!? あなたはアクシズ教徒なのよね! 私はあなたが崇める水の女神アクアよ!」
「アクシズ教徒では無いです」
ご、ごめんなさい、アクシズ教徒かって聞かれちゃったから、反射的に違うって言っちゃった!
「そうですか……。本当にすみませんでした……」
「わー!? すみません、待ってくださいー!」
そしたら、アクア様が俯いてどこかに行こうとしちゃったので慌てて引き留める。
「……なによ?」
「わ、私はすとれです! あな――」
「あっ、我らがアクシズ教団の聖女、すとれ様だ!」
「今日も大変可愛らしいお姿をされてますね。ああっ!? アクア様のコスプレした方と何やら話しているようですね! これは良い写真になりますよ!」
私はあなたにこの世界へ送り出して貰った者だと、伝えようとしたところにアクシズ教徒の二人がギルドに入ってきて、大声を上げた事で言葉が止まってしまった。
聖女すとれと言われて、少しの間固まってたけど、カシャッとフラッシュが焚かれる音で再起動を果たした。
「わああ! 撮らないで! また写真が増えちゃいますからー!?」
「…………こ、コスプレ……。私本物だもん……、本物の女神だもん」
ああっ、またアクア様が落ち込んじゃってる!? アクシズ教徒に向けていた視線をアクア様に戻したら、地面にまで手をつく落ち込みようだった。
で、でもあのアクシズ教徒をすぐに止めないと、新しく写真が……ってもう、居なくなってる!?
も、もうアクシズ教徒の事は気にするのは諦めて、今はアクア様を励ます事に集中しよう……!
「あの、アクア様! 私はあなたが本物だって知ってますから!」
「そ、そうよね、分かる人には分かるわよね! それに、さっきの私の可愛い信者達が言った言葉で思い出したけど、あなたはアクシズ教団の聖女なんだものね! あなた、アクシズ教団の中で大人気なのよ! 知ってたかしら、信者達は夜な夜なあなたのグッズを制作をしていたり、あなたのカップリングについて話し合っているわ!」
「みゃあ!? 聞きたくないですー!」
グッズ制作とかカップリングについて話すって、夜な夜な何してるの!? て言うかカップリングってどんな意味なのよ!? アクシズ教徒達に私の知らない事が話されてるなんて怖いんだけど……!? ……じゃなくて、今はアクア様に伝えたい事があるの!
「あ、アクア様! 私、アクア様に転生させて貰った、佐倉優奈です! アクア様みたいになりたいってお願いしたんです。 ……覚えていますか?」
「……えぇーっと、佐倉優奈……って言われても、沢山の人を送り出してる訳だし覚えていな……って、ああっ、思い出したわ! 優奈の事はもちろん覚えているわ! 優奈を転生させた後は大変だったんだから。あなたの願いを叶えただけなのに、複数の特典を与えたって、上司に怒られて減俸にされちゃったのよ!?」
「え。えーっと、すみません?」
私が転生する時に警告音みたいな音がなってて怖かったのを思い出した。あの後に減俸されちゃったんだ……。
神様にも上司が居て給料も有るなんて、何だか会社みたいだなぁ。私のお願いで減俸されちゃった事は申し訳なく思うし、何かできる事があれば、何でもしよう。
「まあ、いいわ! あなたは私の可愛い信者達の聖女になったんだもの。あなたが聖女になってから、信者達も今まで以上に楽しそうだし、許してあげるわ!」
「あ、ありがとうございます……」
許して貰えたのは嬉しいけど……あのですね、その理由が嬉しくないんです……。
「あ、優奈……じゃなかった。今はすとれね。私とカズマ――あっちでぼーっとしてる、ジャージ姿の冴えない男の子の事ね。私達、冒険者登録をしたかったんだけど、お金が無かったのよ。代わりに出して貰えるかしら?」
「あ、分かりました! アクア様とカズマ……君の分も出しますね!」
「ありがと! じゃあ行きましょ!」
アクア様に手を引かれながら、カズマ君のところに向かって歩いていく。カズマ君は高校生くらいの年齢で、ジャージを着ていた。ジャージなんて見たのは久しぶりだから懐かしく感じた。
「お待たせー!」
「遅いぞアクアー……って誰だ!?」
アクア様の後ろから顔を出したら、カズマ君に驚かれた。ちょうどアクア様の影に隠れていて見えなかったのかな。
「あの、私は――」
「この子はアクシズ教団の聖女すとれよ。私の可愛い信者達にかなり慕われてる女の子ね!」
「あ、はい……。聖女すとれです……」
「な、なんか落ち込んでるけど、大丈夫か……?」
アクシズ教団の聖女と紹介された事に大きくダメージを受けていると、カズマ君が心配してくれた。優しい人なのかな?
「大丈夫です! えっと、カズマ君……って呼んでもいいですか?」
「おふっ……。あ、ああ大丈夫だ。俺はサトウカズマだけど、君はすとれって名前でいいんだよな?」
いきなり君付けされるのは苦手なタイプだったのかな? でも、カズマ君って呼んでもいいって言ってくれたんだし、そう呼ぶ事にしよう。
「なにキョドっているのよロリコンニート」
「キョドってねーし! 名前呼びされて驚いただけだって!」
カズマ君ってアクア様と仲良しみたい。何者なんだろう? でも多分、日本人だよね? 名前も日本人っぽいし。
「私も日本から来たので、なにかあれば何でも相談してくださいね?」
「すとれも日本人だったのか!? いやぁ、助かるよ。冒険者登録しようとしたら金が必要とかいきなり言われて、困ってたんだよなー」
「そうだったんですね。お金は私が出しますので大丈夫ですよ」
「さすが私の聖女ね! じゃあ、早速登録にいきましょうか!」
アクア様にまた手を引かれて、今度は受付に向かっていく。でも、なんでアクア様が冒険者になるんだろう? すごい気になるし、聞いちゃおうか!
「あの、アクア様がなんでこの世界に居るんですか? 死者の案内役のお仕事をしてましたよね……?」
「そーなのよ! そこの引きニートが私を特典に選んだせいで、この世界に飛ばされちゃったのよ!? しかも、魔王を倒さなきゃ帰れないみたいだし、最悪なのよ!」
「俺もお前を選んだ事を既に後悔しているよ」
「なんですってー!? 引きニートのくせに!」
アクア様を特典に選んだなんて羨ましいなぁ。一緒に冒険とかできるんだよね。私もあの時に思い付いていたらアクア様を特典に選んでいたかもね。
「カズマ君。アクア様ってすごい女神様なんですから、冒険者になるなら、仲間としてアクア様が居たら助かると思いますよ」
「すとれはいい子ね! 私の事をしっかり分かってるじゃない! じゃあ、さっさと冒険者になって、魔王を倒して天界に帰るわよー!」
「こいつがそんなに凄いのか……? まあ、すとれが言うなら、アクアの今後については冒険者登録をしてから考えるか」
アクア様のようになりたいって特典を選んだ私が、元々高い魔力を持っている紅魔族の中でも、歴代最高の魔力を持っていたんだから、アクア様はもっと強いはずだよね。早くアクア様のステータスを見てみたいなぁ。
「あなた達は、先ほどの……」
「お金は持ってきたから、登録よろしく!」
受付をしていたルナさんに二千エリスを渡すと、二枚の冒険者登録の用紙がカウンターの上に置かれた。二人が登録用紙に記入していると、ルナさんから話し掛けられた。
「おはようございます。このお二人はすとれさんのお知り合いだったんですね」
「そんな感じですね! あ、ルナさん。この前の霜降り赤ガニすごい美味しかったです! ゆんゆんもめぐみんも美味しそうに食べてましたし、ありがとうございます!」
「いえいえ、すとれさんはアルバイトですけど、同僚ですからね。同僚のよしみですよ。一人で食べるには多かったので、喜んでくれたのなら良かったです」
ルナさんは冒険者ギルドで時々、アルバイトをしている私の先輩だった。新人教育の担当として、仕事を一から教えてくれたのがルナさんで、なんでも丁寧に説明してくれた、優しいお姉さんだった。
この街に来てから三ヶ月が経過したけど、一番仲良くなったのはルナさんだと思う。ルナさんと私の休みの日が被った時は一緒に遊ぶくらいは仲良しだ。
冒険者ギルドでアルバイトを始めたのは、食べ盛りの二人の食費を稼ぐためだった。冬季になるとモンスターがほとんど活動しなくなるから、冬季にも稼げる仕事に就いておこうと思って、アルバイトを始めたんだよね。
冬までにお金を貯金できてたらいいんだけど……私達ってまだ冒険者になったばかりだし、いつも美味しいってご飯を食べてくれる二人には沢山食べて欲しいって思ってるからね。
「書けたわよー!」
「お、俺も!」
ルナさんとお話ししてる間にアクア様の記入と、カズマ君も書き終わったみたい。記入に問題は無かったので、二人の登録を進めていく。二人はどんなステータスなんだろう。
特にアクア様だ。私の目指すべきステータスはどれだけ高いのか早く見てみたい。
「ではお二人ともカードに触れてください」
アクア様
1話に出て以来、ついに再登場。
初手はお金をたかっていました……。
すとれが聖女になった事は天界から見ていたらしいです。
アクシズ教の信者が楽しそうでアクア様もニッコリ。
カズマ君
可愛い女の子に名前呼びされてキョドった。
すとれが日本人だった事を知って、親近感を感じている。
でもアクアの事をやけに高く買っている事を謎に思っている。
すとれ
アクア様と再び出会えてニッコリ。
女神アクアと聖女すとれの友愛と題された、生写真が近々発売される。
アルカンレティアから離れて、三カ月経つも、聖女すとれの噂は広まるばかり。すとれは泣いた。
アクシズ教徒
すとれが冒険者ギルドでアルバイトしている事もあって、よくギルドに居るので、聖女を見守るためにと、冒険者でもないのに毎日覗きに来ている。
読んでいただきありがとうございます!
アクア様とついに再開できましたね!