「カズマさんには私がどれだけ偉大な女神か分からせる必要があるわね。すとれ、適当に討伐クエストを請けてくれるかしら?」
「分かりましたー。それでしたら、大体の見習い冒険者が最初に請けるクエストの、ジャイアント・トード討伐クエストを請けてきますね!」
アクア様はカズマ君に私とチェンジって言われた事が不満みたいで、クエストで自分の凄さを見せつけたいみたい。アクア様だけだったら難しいクエストでも良かったかもだけど、カズマ君も居るからね。初心者向けのクエストで我慢して貰おう。
「ジャイアント・トードなんて雑魚中の雑魚じゃない。私には役不足ね。もっと難しいクエストでも良いわよ」
「初のクエストなんだから、一番楽なクエストでもいいだろ。すとれはそのクエストを受けてきてくれ」
「はーい。行ってきますね」
ルナさんに三人でクエストを請けてくると伝えて、ギルドにある初心者に向けて貸し出しているショートソードを一振り持って、二人の元に戻る。カズマ君は武器を持っていなかったけど、ジャイアント・トードは素手では倒せないだろうし、必要だよね。
「クエストを請けてき――」
「探しましたよすとれ! いつもなら朝ご飯を作ってくれている時間なのに家に戻ってきて無かったので、何かあったんじゃないかって、心配したんですから。朝起きたらあなたが居なくて、ゆんゆんなんか泣いてましたよ」
「泣いてないわよ! ちょっと目から汗が出ただけだから!」
「えっ……、本当に泣いてたんですか……。流石、紅魔族随一の質量の持ち主と呼ばれるだけはありますね」
「何そのひどい称号!? 私そんなに重くないよね!?」
重くないかと聞いてくるゆんゆんから目を逸らしつつ、事情を説明するためには、アクア様とカズマ君を紹介しないといけないから二人の元に向かうと。
「その二人はすとれの知り合いかしら? 二人ともごめんなさいね、今から私達、すとれとクエストに行ってくるのよ」
「……どちら様でしょうか? すとれは私達とパーティーを組んでますけど」
めぐみんはアクア様を訝しげな目で見ている。まあアクア様の事を初めて見ただろうし、突然そんな人と私がクエストに行くなんて言われたから、ムッとしちゃったのかな。
「ふふ、聞いて驚きなさい、私は水の女神アクア! アクシズ教団の奉る女神なの!」
「はい、アウト! すとれダメでしょ! 頭のおかしな人に関わったらダメって言ったよね? お家に帰るよ」
「頭のおかしい人ですって!? 私本物だよ? 本物の女神様なのよ!?」
「本物のおかしな人みたいですね。すとれ帰りますよ」
私はめぐみんとゆんゆんに左右から両腕を掴まれて家の方に連行されていく。ま、まあ、流石に信じてなんて貰えないよね。傍目から見たら、女神を自称するヤバい人だもん……。
「ま、待って! 信じて貰えないかもだけど、この人は本当にアクア様なの! めぐみんには私がアクア様と会ったことがあるって話したよね。だから分かるの!」
「……確かに、すとれがそこまで言うのなら本物なのかもしれませんね。ですが、証拠はあるのですか?」
「証拠が無いと認めないもん!」
「だってよ、証拠なんて出てこないだろうし諦めろ。偽物女神」
「なんでカズマさんまでそっちの味方なのよ!? あなたは私が女神だって知って――え、なんで目を逸らすの!?」
なぜか、カズマ君までめぐみんとゆんゆんの味方になったから、アクア様は慌てている。カズマ君はアクア様を連れてきたんだから女神様だって知ってるのにね、意地悪はダメだよー。
でも、証拠なんてあるのかな? 無かったらアクア様はこのまま偽物扱いのおかしな人になっちゃうから、それは何とか阻止しないと!
証拠になる物が記憶に無いか確認していくと……、あ、これなら証拠になるかも!
「アクア様! 私、何度かアクア様の声を聞いた事があるんです。それが、本当にアクア様の声だったとしたら証拠になりませんか?」
「ナイスよ、すとれ! 流石、私の聖女ね! それはもちろん私の声だったわ、だってあなたが聖女になってから何度か助言を送っていたんだもの。私の可愛い信者達の中から聖女が生まれるなんて面白いじゃない?
気になって聖女になった女の子を天界から観てみたら、草原でモンスターが来るか不安に思っていたのよね。あの時は、絶対モンスターなんて来ないから昼寝でもしたらって言ってたわよね!
あと、昨日は晩ご飯のおかずに悩んでいたじゃない? 私の助言通りに肉じゃがを作ってくれたから、私も食べたくなっちゃったのよ。それでどうしても食べたくなっちゃったからエリスを呼んで作って貰ったのよねー」
時々聞こえていたアクア様の声だと思っていた声は、本当にアクア様の声だったんだ!
昨日は頭の中でアクア様が『今日の献立は肉じゃががおすすめよ!』って言っていたから、作って食べたんだよね。アクア様はエリス様に肉じゃがを作って貰ってたみたいだけど、女神って気軽に呼べちゃうんだ……。
「草原の時は結局、モンスターが襲撃してきましたけどね。それにしても、私達の昨晩の献立まで知っているなんてあなたはストーカーなのでしょうか?」
「違うわよ! 転生作業の合間とか、仕事をサボって休憩してる時とかって暇でしょ? そんな時の暇つぶしとして、すとれの事を観てたのよね。だって、すとれって私にとって初めての聖女なのよ。つい見守っちゃってたのよねー」
私の事を見守ってくれていたんだ。アクア様から想われていた事が嬉しい。時間がある時に気にしてくれてたなんて、やっぱり優しい女神様ですね。
「ね、ねえめぐみん……この人本当にアクア様なのかもよ。髪とか瞳の色の特徴は似てるし、アルカンレティアの大教会にあった肖像画とそっくりなんだけど……」
「まだ自分を女神アクアだと信じているアクシズ教の狂信者って可能性か、すとれのストーカーって可能性も捨て切れませんが、本物の女神である確率の方が高いですね」
まあ、草原でモンスターに襲われた事を知っているのは商隊居た人達だけだろうし、しかもあの時は商隊から離れて休息してたら、私達の会話を知っているのは私達だけなんだよね。めぐみんもそこは理解しているだろうから、ほぼ本物だって言っているんだろうね。
「このアクア様は本物だよ。私の知ってる優しい女神様なんだから」
「やっぱりすとれは良い子ね! うんうん、私の聖女なんだから、私に似て、清楚で可憐で優しい子じゃない!」
「お前と真逆な存在だな」
「そんな訳ないじゃない! 一緒よ、一緒!」
カズマ君から見たアクア様は、私の知ってるアクア様とは真逆な性格なのかな? カズマ君からもアクア様の事を聞かせて欲しいなぁ。私の知らないアクア様を知っているみたいだし。それに、日本人同士なんだし久しぶりに日本の事とかも話したいなぁ。
「取りあえず、暫定的にですが、あなたの事を女神アクアだと信じましょう。ですが、なぜ女神アクアがこの地に居るのでしょうか? 女神は天に座して世界を見守る存在なのでは?」
「……まあ、色々あってこの世界に降り立った訳なのよ。魔王を倒したら帰れる訳だし、ささっと魔王を倒したいのよねー」
アクア様には死者を導く仕事があるだろうし、早く帰りたいんだよね? 私も、協力出来る事は協力してあげたいな。
「それで、今から私のゴッドパワーを私の聖女と、そこの従者に見せつけるためにクエストに行こうとしてたの」
「おい、誰が従者だよ」
「それでね、私はカズマ君って新人冒険者だし怪我しないように、ついていこうって思ってたの」
「……、カズマ君ですか……あなた、そこの従者」
「だから従者じゃないからな!? むしろ、どちらかと言えば俺が主だからな!」
確かにカズマ君の特典としてアクア様がついてきた訳だし、主従関係で言えば、カズマ君の方が上なのかも。
「既にすとれの主気取りですか!? すとれ何もされてませんよね? 身体を触られたとか……」
「いや、ちがっ!?」
「ん? 肩に手を置かれたくらいだよ?」
「はあああっ!? 許せません、これは爆裂案件ですよ! 撃っていいですね!」
絶対ダメだよ!? 私だって、ヘンな事されたら怒るもん。だからそんな心配しなくていいのに。最近は、あるえに送って頼んで送って貰った恋愛小説を読んで勉強だってしてるんだからね!
「だーめ。めぐみんの勘違いなんだから。カズマ君は優しい人なんだから。二人とも心配なら一緒にクエストに行こうよ」
「す、すとれ……、そんなにこの従者を信じているだなんて危険です! 私もついていきます!」
「絶対ついていくからね!」
私が一人でカズマ君とアクア様についていくのが不安みたいだし、それなら一緒に行けばいいよね。
「カズマ君、二人とも一緒に行きたいみたいだけどダメかな?」
「別にいいぞ。ところで、その二人は誰なんだ?」
カズマ君の声に応じて、めぐみんとゆんゆんは目を合わせて合図を送っていた。そして、めぐみんはマントを翻して。
「我が名はめぐみん、紅魔族随一の天才にして、爆裂魔法を操る者!」
「ええっと……わ、我が名はゆんゆん、上級魔法を操る者にして、やがて族長になる者!」
「…………よろしくな。俺はサトウカズマだ。じゃあすとれ、行こうぜ」
「ね、ねえめぐみん……やっぱり、里の外じゃ名乗らない方がいいんじゃないの?」
「何を言ってるんですか。名乗り上げこそ紅魔族の誉れですよ!」
里を出てから私は殆ど名乗っていなかったかも。郷に入っては郷に従えって事で許してほしいなぁ。
「なあ、あの二人は厨二病なのか……? 名前もあれだったし、あの名前ってあだ名?」
「いえ、私とめぐみんとゆんゆんは紅魔族って種族でして、一族全員があんな感じなんです。だから、紅魔族の里ではあれが普通なんです。私は慣れましたけど、元日本人な感性からずれてますからね。なので、二人の名前は本名なんです……。でも私は二人の名前が好きですよ? ずっと呼んでる内に好きになっちゃいました」
「ほーん、そう言うもんなんだな」
カズマ君に小声で話しかけられ、それに答えていたらめぐみんが間に割り込んできた。
「何を二人でコソコソ話してるんですか! カズマはすとれからもっと離れてください! しかもなんですか、何やら好きって言葉まで聞こえましたよ!」
「嘘でしょ……!? 絶対にカズマさんは離れてください!」
「ほら、皆行くわよー。カズマさんも女の子に囲まれているからってニヤニヤしてないで早く来なさい」
「ニヤついてないからな!? おい、めぐみんとゆんゆんも真に受けてドン引きするなって!」
めぐみんとゆんゆんと私で一緒に居る時も楽しいけど、アクア様とカズマ君もパーティーメンバーになって五人で冒険するのも楽しいかもね!
めぐみんとゆんゆんもカズマ君と仲良くなっているみたいだし、そんな未来もあるのかも。
「すとれは私の隣ね。私の隣って言う特等席で、女神パワーを見せてあげるんだから!」
「アクア様の格好良い姿、早く見てみたいです!」
「任せなさい、じゃあ行きましょ!」
駆けだしたアクア様に手を引かれて、私も一緒に走り出す。後ろの三人も後を追うように駆けてくる。けど、カズマ君は体力が無いみたいで、ちょっと走っただけなのに、疲れきった顔をしている。が、頑張って!
いつまでもこんな楽しい日々が続けばいいのに。そう思うくらい毎日が楽しいから、失う事が怖くなる。私は楽しかった日々を一度失っているから余計にそう思うのかも知れない。だから、いつものように私は祈る。こんなに素晴らしい日々がずっと続きますようにって。
「大丈夫、その願いは叶うわ」
「えっ、アクア様? 私、声に出してましたか……?」
「あなたは敬虔な私の信者で、そして私の聖女なのよ。なら当然、あなたの祈りは私に届くの。だから、すとれの願いは絶対叶うわ。だって、私が叶えてあげるんだから!」
「……あ、ありがとうございます! やっぱり、アクア様は優しくて格好良い女神様です」
「当然よ。だって私は、あなたがなりたいって言ってくれた女神様なんだから!」
私があなたのようになりたいと願った女神様は、勢いのままにジャイアント・トードに突撃していった。
「神の力をその目に焼き付けなさい! 必殺、ゴッドブロー!!」
アクア様の右手が光り輝いて、ジャイアント・トードの腹部を粉砕――
「ぽよん」
――しなかった。
「えっ、なんで? あれ? なんで、まだ目の前にカエルが居るの……? えっ、ちょっと待って、何で舌を伸ばしているの!? い、いやあああ!?」
「『カースド・クリスタル・プリズン』もう大丈夫ですよアクア様」
カエルの舌にアクア様が捕まりそうになるギリギリで、詠唱が間に合ったから無事に助ける事が出来た。
カエルは氷に覆われて、完全に動けなくなっている。
「こ、怖かったああああ……! びええええええええん! しゅとれありがとおおお……!」
この後ずっと泣いているアクア様を慰めるのが大変だったけど、泣き止まないアクア様を気の毒に思った三人も一緒になって慰めてくれたから、何とか泣き止んでくれた。
「次は女神の力を見せてあげるんだから、皆は楽しみにしてるといいわ! でも、次の相手はカエル以外でお願いね……」
読んでいただきありがとうございました!
今話を以て当小説は完結とさせていただきます。
理由は後述します。
めぐみん
すとれに触れた男は爆裂案件。
名乗り上げこそ紅魔族の誉れ。
ゆんゆん
アクア様をあたまのおかしな人扱いした。
紅魔族随一の質量の持ち主と噂されていた。
カズマ
紅魔族の名前があれな事に気づいた。
すとれ
楽しい日々がいつまでも続いて欲しいと祈っている。
アクア様
敬虔な信者で聖女なすとれの祈りはアクア様へ確かに届きました。
後書き
改めて、当小説を読んでいただきありがとうございました。
ここで完結する理由の第一は、リアルが忙しくなってきた為、小説を書く時間が減って、このまま魔王討伐までの話を続けたら絶対エタると思ったからです。
次に、必ず再登場させたかったアクア様を出せた事です。アクア様を絶対再登場させたいと思っていたので、それを達成出来てきりが良くなった事が第二の理由です。
今話で完結としましたが、今後はゆっくりと投稿を続けていく予定となります。
具体的にはアクア様と出会った後から、本編開始まで(原作時系列としてはカズマとアクア様が土木等での労働を辞めて、カエル討伐に向かうあたりまで)の話として、閑話を投稿していく予定です。
閑話第1話は14日に投稿予約をしています。
私事での完結で申し訳ありませんが、読者の皆様へは改めて感謝申し上げます。
読んでいただきありがとうございました!