「ええっと……、ウィズさんの正体はリッチーで、さっき倒れてたのはお腹が減りすぎてたから……。ヒールで身体が消えかけたのはリッチーだから……ですか」
「は、はい……」
ウィズ魔道具店の店長さんこと、ウィズさんはリッチーだったみたいです。リッチーって言うのは、最上位のアンデッドモンスターで、生前に凄腕のアークウィザードだった者だけがなれる存在だって、授業で習っていた。
そんな凄い存在なのに、お腹が減って倒れてたんだ……。
「ウィズさんがリッチーなのは分かりましたけど、なんでアクセルで道具屋を営んでいるんですか?」
「それは……仲間との約束と、友人の夢を叶えるためです。友人の夢を叶えるためには沢山のお金が必要なので、資金稼ぎのために働いているんです」
「でも、ルナさん――ギルドの先輩から聞きましたけど、ウィズさんって凄腕の冒険者だったんですよね? モンスターを討伐した方が楽に稼げるんじゃないですか?」
「あ、それは私が魔王軍の幹部なので、騎士や冒険者等の戦闘に携わらない人を襲うモンスター以外は倒さないようにしているんです」
「なるほどー、そう言う理由だったんですねー。……ん?」
あ、あれ? 何か聞き逃せない事を聞いちゃったような……? え、ウィズさんは何て言ったんだっけ……? え、魔王軍の幹部……?
「ウィズさんって魔王軍の幹部なんですか!? 人類の敵じゃないですか!? も、もしかして幹部だって知った私は消されちゃうんですか!?」
「消しませんから、わ、私は悪い魔王軍幹部ではありませんよ!」
「悪くない魔王軍幹部なんて居るもんですか!」
「じ、事情があるので説明させてくださいー!」
涙目で私に抱き付いてきたウィズさんをなだめつつ、話を聞いてみる事にした。確かに悪い人では無さそうなんだよね。ちゃんと話を聞いてから、どうするかを決めよう。
ウィズさんから聞いた話を要約すると、かつて冒険者だったウィズさんとその仲間達は、魔王軍幹部から死の宣告を受けてしまい、その呪いを解呪するためにウィズさんはリッチーになって魔王城で暴れ回り、その魔王軍幹部をボコボコにした事で、仲間の死の宣告は解呪は出来たけど、魔王城で暴れ回った事で迷惑も掛けたので、お詫びとして魔王軍の幹部になったらしい。
ただ、魔王城の結界の維持をするだけしか協力しない事、冒険者や騎士等の戦闘に携わる者以外の人間を殺さない事を条件としているらしくて、それを破った場合は敵対すると取り決めているらしい。
「私は、友人の夢を叶えるため、そして、仲間の帰りを待つ場所として、この店を続けたいんです。この街にも迷惑を掛けるつもりもありませんので、どうか私がこのお店を続ける事を許してくれませんか……?」
「ウィズさん……私はウィズさんの事を応援しますよ! 頑張ってお店を続けてくださいね!」
「あ、ありがとうございます!」
ウィズさんって本当に良い人だった。元仲間だった人達がいつか戦いに疲れたらいつでも遊びに来れるようにって理由で、道具屋を続けていきたいんだって。そんなの聞いちゃったら応援したくなっちゃうなぁ。
「あ、それで本日はどのようなご用で来られたのでしょうか? 冒険者ギルドの方ですよね?」
「あ、はい。私は冒険者ギルドでアルバイトをしてる、すとれって言います。今日はウィズ魔道具店にこちらの書類を届けに来ました!」
そう言えば書類を渡しに来たんだったと思い出して、ポーチから取り出した書類をウィズさんに渡す。
「ありがとうございます、後で確認しますね。それにしても……すとれさんはギルドの職員なのに、ヒールの魔法が使えるんですね」
「私って、普段は冒険者してるんですよね! あ、これが私の冒険者カードです。ギルドの先輩からはウィズさんは凄腕の冒険者だったので、冒険者としてのアドバイス貰えたら良いねって聞いていたんです」
「私はただモンスターを討伐してただけなので、そんな大した者じゃ無いんですけどね。それに、私はアークウィザードだったので、プリースト職へのアドバイスなんて……って、すとれさんってアークウィザードだったんですか!? あれ、さっきヒールを使ってましたよね……?」
ウィズさんは私のカードの職業欄を見た途端、驚いた表情で私に顔を近づけてきた。ち、近くないですか……。でも、ウィズさんって睫毛が長くて目も大きくて、凄い綺麗なお顔してるなぁだなんて事を、触れそうなくらい近くにあるウィズさんの顔を眺めながら考えていると。
「冒険者は、冒険者と言う職業を除いて、職業毎に定められたスキルしか習得出来ないはずなのに、すとれさんはアークウィザードであっても、アークプリーストの全魔法スキルを習得しています。本来起こり得ない事が起きているのは、何故でしょう。どんな理由で別の職業のスキルを習得しているのかを解明できれば、他者も同様にスキルを習得出来る可能性がありますよね。しかも、私も知らない未知の魔法スキルまで、覚えているなんて驚きました。このセイクリッド・クリエイトウォーターとはどんな効果の魔法なんでしょうか。名前からして、聖水を生成出来る魔法の可能性が高そうですね。それとも、クリエイトウォーターの上位スキルの可能性もありますよね。その場合は水の生成量の増加したクリエイトウォーターと言ったところでしょうね。他に予測出来る効果としては――」
「わああ!? な、長いですって、ちょっと待ってくださいッ!?」
スキルについての考察を延々と話すウィズさんに、脳の処理が追いつかなくなったので、一度話を中断させて貰った。紅魔の里で通っていた学校の校長先生もそうだったけど、知識欲が高すぎる人って、知識に対して貪欲過ぎて、こんな風に暴走する事があるよね……。
しかもウィズさんは顔を近づけたまま、いつまでも話しが止まらないから、だんだん恥ずかしくなってきて、つい止めちゃったよ……。
だって、新しい知識を得たからか、興奮で頬を赤らめて話すウィズさんが可愛く見えちゃって、余計に恥ずかしくなったんだよね。さっきまで、自身の過去を真剣な表情で話してる凛々しい表情とのギャップにやられちゃったんだと思う。
「す、すみません、新たな発見をして興奮しちゃいまして……。でも、アークウィザードなのに、アークプリーストの魔法スキルを習得する事が出来たんですか? これは、他に類を見ない凄い事なんですよ!」
「これはですね……。アクア様から頂いた力と言いますか……。女神様からの祝福として与えられた力なんですよね。なので、他の人に応用は出来ないかもです」
アクア様の名前を出した瞬間、ウィズさんはビクッと身体を振るわせて、恐る恐る口を開いた。
「ひえっ、アクア様って、アクシズ教団の女神のアクア様の事ですか……? 最近、街で噂になっているアクシズ教団の聖女様って、もしかしてすとれさんだったりします……?」
「あっ、はい、私です……」
「…………あっ、何かすみませんでした……。そうですよね、大きな力を得るには大きな代償を払う必要がありますよね」
ウィズさんは何かを察して、謝ってきた。ま、まあアクシズ教団の聖女になって悪い事なんて、外を歩くだけで写真を撮られるくらいだけだし、大丈夫だよ……? 良かった事も……あれ、良かった事なんて何も思い付かないけど、多分聖女になれたのは良い事何だよ、うん……。
「そ、それよりですね、すとれさんって冒険者ですし、何か魔道具を見ていきませんか!?」
「そうですね! おすすめの魔道具を教えてくれますか?」
気を利かせてくれたのか、魔道具を見ていかないかと提案してくれたので乗らせて貰う事にした。
「はい! では――こちらの魔道具は如何ですか? これは、『炸裂ポーション』と言いまして、これはモンスターに投げて使用するポーションでして、地面に落ちる等の衝撃を与えると、硬質化の魔法を掛けたガラスで出来たビンが爆発する事で、破片が辺り一面に高速で飛び散るので、防御力の低いモンスターを複数同時に殲滅する事が出来るんです」
「へー、魔法が効かない相手と出会った時のために持っておくのも良いかもですね!」
ウィズさんに手渡しされた、銀色の液体が入っているビンを眺める。重くも無いし、いざと言う時のための防衛用にめぐみんに持っていて貰ってもいいかもね。
「ですが、欠点もありまして……破片の飛び散る威力が高過ぎて、相当遠くに投げないと、投げた本人が巻き込まれる可能性があるんですよね」
「はい、お返ししますね」
「あぁ……、そんな良い笑顔で返してくれなくても……」
危なすぎだよ! めぐみんって力が全然無いんだから、危うくハリネズミになっちゃうところだったよ!
「それなら、こちらの『爆発ポーション』はどうでしょうか! 投げると爆発するポーションです」
「既に嫌な予感はしてますけど、一応聞きますね。欠点は何ですか?」
「欠点は、衝撃に弱いので下手に衝撃を加えるとその場で爆発しちゃいますね」
「はい、ありがとうございました!」
「い、いえいえ……。でも、私が仕入れた物って結構良い物だと思うんですけど、誰も買ってくれないんですよね……。何故なのでしょう? お陰で三日も何も食べられていないんです……」
多分、商才が無いんだと思います……。他の魔道具も性能は良さそうだけど、これなんか三千万エリスもするなんて、アクセルの冒険者には買える人なんて居ないんじゃないかな……。他の安い商品も売れないって事は、さっきみたいなデメリットが大きい代物何だろうね……。
「あ、それなら私が作ったサンドイッチでよければ一緒に食べますか? 少し多く作っちゃったので食べてくれたら助かります!」
「い、いいんですか、ありがとうございます! あっ、こちらにテーブルと椅子がありますので、どうぞ座っていてください。今紅茶を淹れてきますね!」
ウィズさんはさっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいな速さで紅茶を淹れにキッチンに向かっていった。私はお弁当箱を開けて、ゆっくりしながら待っておこうかな。ここで昼休みを取っちゃおう。
しばらくしたら、ティーカップをお盆に載せたウィズさんが戻ってきて、テーブルの上に置かれているサンドイッチを見て目を輝かしている。三日も食べてないって言ってたから、相当お腹が減ってるんだろうね。
「こんなに美味しそうなものを頂いて良いんですか!?」
「ふふっ、好きなだけ食べてくださいね」
私の分のお昼はギルドに戻る時に買ってもいいし、まずはウィズさんに好きなだけ食べて貰いたいな。
「で、ではいただきます……ッ!? お、美味しいです!」
「なら良かったです。まだまだあるので、どんどん食べちゃっていいですからね!」
ウィズさんは、サンドイッチを一口食べる度に美味しいって言いながら食べている。なんだか、幸せそうに食べているウィズさんを見ているだけで、こっちも幸せな気持ちになってくる。やっぱりウィズさんって可愛らしいかも。
「喉に詰まらせないように、お茶も飲んでくださいね」
「お茶も飲みますね。それにしても、こんなに美味しいサンドイッチは初めて食べましたよ!」
「空腹は最高のスパイスって言いますからね。でも、三日もご飯を食べないのは流石に空腹どころじゃ無さそうですね」
「一応、砂糖水を舐めてましたけど、流石にきつかったです……」
さ、砂糖水って……。めぐみんだってそこまでギリギリな生活はしてなかったよ……。ウィズさんの事を応援するって言っちゃったし、時々お弁当を届けに行こうかな? 応援するって言っても、こんな応援は想定外だったけど……。
「そんなの聞いちゃったら、いくらリッチーと言っても健康面が不安なので、時々お弁当を届けに行きましょうか?」
「ほ、本当ですか!? ふふっ、すとれさんって本当に優しいですね、流石聖女様って言われているだけはありますね!」
「そ、そこには触れないで欲しかったです……」
「ああっ!? すみません、すみません!」
この後、謝りながらもウィズさんはサンドイッチを全部食べた。満足そうな表情を見れて、私も嬉しくなっちゃった。
でもこんなに美味しそうに食べてくれるウィズさんがリッチーだなんて、信じられないよね。人間にしか思えないもん。だから、私的にはウィズさんの事は普通に人間の友人だと思って接していく事にしよう。
「そろそろギルドに戻りますね。また遊びに来てもいいですか?」
「はい、いつでも来ていただいて大丈夫ですよ! いつも暇なので!」
「それは笑顔で言っていい事では無いのでは……、まあ、次は友人も連れてきますね。そうだ、アクア様も連れてきましょうか?」
「結構です!」
いい笑顔で断られちゃった……!
まあ、ウィズさんの事をアンデッド嫌いなアクア様に知られちゃったら大変な事になっちゃいそうだし、このお店には内緒で遊びに来る事にしよう。
ウィズ
すとれのご飯を定期的に食べる事になった。
アクア様が怖い。
すとれ
ウィズさんとは内緒(アクア様に)の関係に。
読んでいただきありがとうございました!
次回は23日に投稿予定です。