「エクスプロージョン」
静かな声で放たれた魔法の威力は凄まじかった。
轟音が空気を震わせ、熱を伴った突風が吹き荒れる。天高く立ち上る爆炎の後に残された大地には、隕石が落ちたかのように大穴があり、地面はマグマのように煮え立っている。
この日私たちは爆裂魔法に出会った。
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「では私達は秘密の遊び場に行きましょう!」
めぐみんの言う秘密の遊び場とは『邪神の墓』の事で、二人で遊ぶ時はよくその場所に行っていた。最近はゆんゆんとも遊ぶようになって、ここしばらくは行ってなかった。
ゆんゆんに秘密の遊び場の事を教えたくないと思っているのか、めぐみんが行こうとしなかったので、邪神の墓に行くのは結構久しぶりだった。
「でも久しぶりだよね。今度はゆんゆんも連れていこうよ」
「いやですね! だったあそこは私達二人の秘密の遊び場なんですから! 私達二人の秘密なんです!」
めぐみんって結構独占欲が強いからなぁ。この前は休日に偶々ゆんゆんと会ったから、二人で一緒に買い物をしてたのをめぐみんに見つかった時には、ゆんゆんが試着室に入った時を見計らって、私の手を引いてめぐみんの家まで連れていかれちゃったんだよね。
その後はゆんゆんと二人では遊ばないようにって怒ってたから、なだめるのが大変だった。私だってゆんゆんと二人で遊びたい時はあるからね。めぐみんとも遊ぶ時間を作ると言って、なだめ続けた事でその場を逃れる事ができた。結構な時間が掛かっちゃったけどね……。
めぐみんの家から帰る時にゆんゆんを探したら、空が暗くなるくらい時間が経っていたのに、まだ服屋の前に居たんだよね。
『戻ってくるって信じていたから待ってたよ!』って言葉と、純粋な笑みで迎えてくれた事は嬉しかったんだけどね……。正直、逆に怖かったんだよね。
だって、何時間も放置してたのに、私が戻ってきた事を本当に嬉しそうにしているんだもん。でも結局、その後はゆんゆんの家に泊まって、パジャマパーティーして夜中まで遊んだ*1。ゆんゆんは重たいけどいい子だって、私は分かっているからね!
「一応観光名所なんだから、別にゆんゆんも連れて行っていいと思うけどねぇ。まあ今日はサボテンを買いに行くらしいからまた今度だけどさ」
「ダメなものはダメです! 少なくともあのパズルを解くまでは私達以外には知られたくないですね」
邪神の墓の裏手に死角になっているスペースがあって、そこにはルービックキューブのようなパズルが置かれていた。めぐみんは邪神の墓に行くたびに、私と雑談しながらパズルを弄っていて、そろそろ解けそうなところまで進めていた。今日でパズルは解けるかもね。
それなら次からはゆんゆんも邪神の墓仲間に入れてあげよう。ここって夏でも涼しくて過ごしやすいんだよね。里の人も近寄らないし、静かに過ごすにはちょうどいい場所だった。
学校を出て里の中を歩いていくと、町外れの方にある邪神の墓に着いた。
学校からはそこそこの距離があって少し疲れたので、切り株に腰を下ろす。めぐみんもパズルを取ってきてから私のすぐ横に座った。めぐみんがすり寄るように近づいてきたので、肩を抱くように引き寄せた。ここは少し寒いから、みぐみんの温かさが心地良い。
「き、今日こそパズルを解いてみせましょう! このパズルが完成した時きっと何かが起こるはずです!*2」
「そうかもね。完成させた者は強大な魔力を得るみたいな?」
正直なところ、ただのルービックキューブにしか見えないし、パズルを解いても何も起きないんじゃないかって思っている。この里には日本人が置いていったと思われる物が沢山ある。『猫耳神社』にある猫耳の付いたフィギュアとかね。
だから、ルービックキューブも日本人が置いてっただけなんじゃないかって思っているんだけど、めぐみんはこのパズルには秘められた何かがあるって信じてるみたいだから、余計な事は言わないで応援している。
「それなら尚更がんばらないといけませんね! 紅魔族最強の称号は私の手元に帰ってくるべきです! すとれには、私がパズルを解く瞬間を見せてあげましょう!」
「めぐみんならできるよ。がんばって!」
めぐみんはパズルを解く事に集中してて、喋らなくなったので暇になった。日差しの当たらないこの場所の涼しさに包まれていたら、少し眠くなってきたので、めぐみんの膝の上に頭を乗せて目を瞑る。めぐみんの高い体温が耳の辺りで感じられて心地いい。このまま寝ちゃおうかな。
ぐっすりと眠っていたところに、近くで大きな爆発音が響いたので、びっくりして飛び起きると邪神の墓が燃えていた。
えっ何が起きてるの!?
「す、すとれ……!? パズルを解き終わった瞬間に、邪神の墓がいきなり爆発したんですけど!?」
「えええ!? 解いたら邪神の墓が爆発するパズルってなに!? あそこって邪神の半身が封じられてるって噂じゃなか――」
邪神の墓の方を見ていたら大きな黒い獣型のモンスターがこちらに向かってくる事に気付いた。
あまりにも早いスピードで私達に向かってくる恐怖でなにも動く事ができずに思わず目を瞑ってしまった。
でも、恐怖で立ち竦む私を、黒い獣を遮るようにしてめぐみんは私の事を抱きしめた。
「すとれの事は絶対に守ります!!」
まだ魔法も使えないめぐみんが私を守ろうとしてくれている。守る手段なんてそれこそ身体一つしかないのに……。でも、恐怖に立ち向かうめぐみんの姿を見て、私にも勇気が湧いてきた。私には魔法があるんだから何かできる事があるはず。
「ありがとう。でも、大丈夫。私もめぐみんの事を守るから」
黒い獣との距離と速度から考えて、私達の元に来るまでには8秒くらいだと予測する。
相手の姿は図鑑で見た、初心者殺しを真っ黒にしたような姿。
図鑑には載っていなかったので、効果のありそうな魔法は予測しないとダメだと思う。
接敵までにもう時間は無いから、使える魔法は一つだけ。
黒い体から予測できる相手に効果的な魔法を選ぶ。
「セイクリッド・ハイネス・エクソシズム!」
使える魔力をありったけ込めて魔法を放った。神聖な光に包まれた黒い獣は耳をつんざくような絶叫を上げて倒れ伏してくれた。
あの黒い獣は悪魔に類するモンスターだと仮定して、最上位の退魔の魔法を使ってみたけど効果はあったのかもしれない。
動かなくなった黒い獣を見て安心したせいで腰が抜けちゃった。同じように座り込んでいるめぐみんと強く抱き締めあって、助かった事を喜び合った。
「めぐみんのおかげで勇気が出たから倒せたんだよ! 本当にありがとうね!」
「元はと言えば私が原因です……。強くなりたいからって危険な目に合わせてしまい本当にすみませんでした……」
目に見えて落ち込んでいるめぐみんの背中を優しくさすって慰める。私も何も起こらないはずだって思い込んでいて、注意しなかったんだから私も悪いよ。めぐみんを抱き締めている横で、草が擦れるような微かな音がした。
まだ終わっていなかったんだ。
ガサッと何かが動く音がした。めぐみんから視線を動かして音がした方向に視線を移すと、黒い獣は起き上がってこちらを睨んでいた。
「……ごめんねめぐみん」
もう魔力は残っていない。魔力切れで立ち上がる事すらできない私にはもう何もする事ができない。黒い獣はこちらに飛び掛かろうと走り始める。
もうどうしようもないと思いながらも、めぐみんに覆いかぶさるようにして抱きしめる。
せめてめぐみんにはあの牙が届きませんようにと祈りながら強く抱きしめた。
「エクスプロージョン」
誰かの声が聞こえた後に爆音が鳴り響き、地面が大きく揺れた。音の鳴った方向に振り返ると、天まで届くような爆炎が立ち昇っていた。炎が消え去った後にはマグマのように煮え立って地面のみが残っていて、黒い獣は初めから居なかったかのように消え去っていた。
「お嬢さん達、大丈夫かしら?」
気づけば突然現れたかのように、フードを深く被った女性が目の前に居た。
めぐみん
爆裂魔法に出会っちゃった。
すとれに対しての独占欲つおい。
いざというときに頼りになる女の子。
ゆんゆん
やったねゆんゆん友達(サボテン)が増えるよ。
ゆんゆんの重さは無限に上昇するようです。
登場してないのに存在感は強い女の子。
すとれ
めぐみんの膝枕でぐっすりお眠りしていたところに、大爆発が起きた。
謎のお姉さんが居なかったら結構やばかった。
謎のお姉さん
いったい誰なんでしょうか。
読んでいただきありがとうございます!
今回は爆裂魔法との出会い編の前編でした。
すとれの初の戦闘シーンでした。
次回も19時に投稿予約していますので、後半は明日ですね!
あと、UAが2,000近くになってきました。
沢山読んでいただきありがとうございます!