こ↑こ↓は幻想郷の町。
日本の明治時代を思わせる街並み。その一角に構えるお菓子作りの材料屋では平日の昼間だというのに店長兼店員である妖怪ネズミのにょんはたたみの上でゴロゴロしていた。
「平日の昼間からゴロゴロ~ゴロゴロ~。あーあ、父親が田所浩二だったら良かったのになぁ」
「トチ狂ってって脳みそでも売っちゃったの? にょんちゃん」
いつの間にそばにいたのは幻想郷で数少ない友人のいちごだった。
ショートケーキを擬人化したような、ふわふわした女の子である。
「あ! いらっしゃいませ~。といってもお菓子の材料はほとんど売り切れだよ」
「えぇ、そうなの。いつも売り切れだけど、次の入荷はいごろになるかな?」
「いやぁ、それがさぁ、ちょっと忙しくて」
「お客さんもいないのに忙しいの?」
「ゴロゴロしてるだけでお金が湧いてくる方法とか考えてたらさ、時間がね」
「堕落し過ぎだよ、にょんちゃん。そんなことしてる間に、再入荷してそれを売ったらいいのに」
「入荷しても結局自分で食べちゃってなくなるんだよね」
「やめたら? この仕事」
「ぅえ!」
それを聞いたにょんはガバっと顔を上げていちごを見た。「それってつまりにょんのこと養ってくれるってこと?」
「ううん、違うよ。都合よく解釈しないで」
「ちょっと~女の子どうしなんてそんなぁ~」
にょんはくねくねしたかとおもうと、ウインクを飛ばす。「でもにょんはそれでも問題ないよ!」
「脳内の私と喋らないでよ、にょんちゃん」
「まあでもさ、実はあるんだよね、とっておきのお金稼ぎ方法がね」
「そうなんだ。ちゃんとした方法で稼いでね、にょんちゃん」
「へっへー、私に任せといてよ。いろんな犯罪経験してるからグレーゾーンには詳しいのさ」
「不安」
路地に停まっていたのは幻想郷には不釣り合いの黒光りするトヨタセンチュリーだった。
「クックック、こいつは狙いだね」
その少し先の路地で悪魔のような笑みを浮かべるにょん。
車が発進しようとしようとしたその時、にょんはネズミ特有のすばしっこさでそそくさと車の前に来ると、大げさに倒れて見せた。
「アアアア、折れましたわ、こいつは足折れてますわぁ。だれかぁ!誰かポリスを呼んでぇ~」
こいつで慰謝料がっぽりですわぁ、と思っていたところ車から出てきたのは強面の典型的な暴力団員お兄さんだった。
「オイゴラぁ! 何してんだコラ!」
「うぇ、い、いやーこれぶつけられて折れてるんでぇ~、慰謝料とかもらえたら~」
「んなわけねーだろゴラぁ! ドラレコついてんだよゴラ! ちょっとお前クルルァ乗れ!」
「え、ちょっと、やめてよ~」
にょんは車に詰めこまれ、連れさられた。
「ってなことがあったんだよね」
「てなことですむ話なのかな?」
翌日、材料屋でことの顛末をにょんはいちごに話していた。
「そっからはもぉ大変でさ。四つん這いになれだの、犬のマネしろだの、こっちはネズミだってのにさ、ウケる」
「ウケないよ」
「でも机の下に貼り付けていた拳銃見つけてからは一転攻勢、こっちが犬のマネさせてやったぜ。撮ったんだけど写メ見る?」
「ううん、見たくない。私は感性がまともだから。そこからどうしたの?」
「なんかケツがプリプリしてたから一発銃弾ブチこんでやったぜ」
「なんでプリプリのお尻にそんな事しちゃうの? 理由がわからないよ。というより犯罪だから、一緒にいってあげるから自首しようよ、にょんちゃん」
「大丈夫大丈夫。なんかヤクザさん、最後が気持ちよかったとか言ってたから」
「私ずっと夢の話聞いてる?」
「まあまあ、これは終わった話だから置いといて。ここから学べることは1つ、にょんには足りなかったことがある! いちごちゃんはなにかわかる?」
「うーん、IQとか……道徳とか?」
「ノンノンノン。正解は目。目だよ。ちゃんと相手を見てなかった。今度は明らかな弱者を狙って、こうまくし立てるようにお金をふんだくっちゃうもんね」
「やっぱりIQも道徳も足りないよ、にょんちゃん……」
立教大学サッカー部の三人、多田野、大坊、あともう一人は0-114点という記録的な大敗退のあと、白のバンで家路についていた。
運転手の大坊は目が虚ろで、後ろに座る二人も下を向いている。
その様を100メートルほど先にいるにょんは見逃さなかった。
おうおうおうおう、ずいぶん弱々しいねぇ。ドラレコもないしこいつはちょっと揺すればがっぽりいただけちゃうかなぁ!? 最悪の場合、ヤクザさんから盗んだ銃で脅しちゃうもんね。
走行中の車の前にギリギリブレーキをすれば止まれるか、という距離でにょんは飛び出した。
「あぁぁ~轢かれちゃうぅ~、止ま―ーグバォ!!」
車は止まることなくそのままの速度でにょんを弾き飛ばした。
運転手の大坊はあまりのショックに前が一切見えていない。
「ちょ……止ま……ガク」
にょんはその場で崩れ落ちた。
「ってなことがあったんだよね」
「ふ~ん」
翌日、にょんはことの顛末を入院している病院の一室で、お見舞いにきたいちごに話していた。
「ひき逃げだよ、ひき逃げ。もう最悪だよねぇ~。これどう思ういちごちゃん」
「自業自得、因果応報、身から出たサビ。どれか好きなのを選んでいいよ」
「なはは、なにそれ三段活用? いちごちゃんあったまいい~」
にょんはほくそ笑んでいちごが持ってきたりんごをかじった。
「まあなんでもいいけど。もう懲りたでしょ。ちゃんとした方法でお金稼ごう、にょんちゃん」
「ちょっとちょっと~。まるでにょんがちゃんとした方法で稼いでないみたいじゃ~ん」
「そう言ってるんだけど……」
「ままま、とりあえず一通り失敗はしたから、あとは対策を練るだけなんだよね。というわけでこの人を用意しました。入って、どうぞ」
にょんが手を二回叩くと「オッスお願いしま~す」と筋肉質の色黒男が入ってきた。
「この人、田所浩二さんじゃない。こんにちは。にょんちゃん、どうして田所さんを呼んだの?」
「見てよこの筋肉、カッチカチやろ?」
「なんで急に関西弁?」
「これなら多少轢かれても大丈夫! この人に当て逃げしてもらって、にょんが法的手続きをして慰謝料ウッハウハ大作戦ってわけよ!」
「轢かれる田所さんが可愛そうだよ……田所さん、こんなのやめたほうがいいですよ」
「轢かれますよ~轢く轢く」
「どうしてそんなにやる気なんですか?」
「お金ほしいからね、しょうがないよね」
といってにょんは田所の胸筋をペチペチ叩いた。「そんじゃ、轢かれ役よろしくぅ! パパパッと轢かれてオワリッ! 平気でしょ?」
「大丈夫だって安心しろよ~」
浮かれる二人を見て、いちごはふうとため息を漏らした。
「不安」
翌日、お菓子の材料屋さん。
「あのねなんかね、マフィアの車に当て逃げしちゃって、フィリピンで売られちゃったんだって、田所浩二」
「えぇ…」
「まああっちでホモビ男優して楽しくやってるみたいだよ」
「…そう」
当て逃げは……やめようね!