何度だって伝えたい言葉   作:IP規制されまん民


原作:ONE PIECE
タグ:ホビウタ
【ここだけ】ウタとルフィが一緒に冒険したら(ただし、ウタはホビホビの実の能力でルフィのマスコットとして)part72
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の、>>68で投稿した短編小説です。一部誤字を修正しています。

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何度だって伝えたい言葉

 ドレスローザで共に戦い抜いた麦わらの一味とトラファルガー・ローを乗せ、ゴーイングルフィセンパイ号は「ゾウ」を目指して進む。

 

 船員と、そして何より憧れのルフィ達が安心して休息出来るよう(ローはどうでも良いが)、バルトロメオは夜間の見回りを買って出ていた。

 

(しかしまた、今日は冷えるべ)

 

 先程降った雷雨のせいか、その日は酷く冴ゆる夜であった。

 壮健にして風邪などひいた試しのないバルトロメオだが、さしもの彼であっても、今宵ばかりは着込まねばならぬ程に寒い。

 

 航路修正の為にローから預かったビブルカードも、真っ直ぐ舳先を指している事を確認している。

 再び進路にズレが無い事を確認し、一人満足気に頷いたバルトロメオだったが、肝心の、そのビブルカードの指す先である所の船首上にて、月明かりを浴びる人影を一つ認めた。

 

 すわ敵襲かと身構えつつ、しかしてさしたる警戒もせず、先ず何よりも確認の為に自分もそちらへと赴く。

 

 月光浴を堪能せしその人影の正体とは果たして

 

「……ウタ先輩?」

 

 ウタ。ドレスローザにて晴れて玩具から人間へと戻り、十年来どころか十二年来にもなる、ルフィの幼馴染である事が判明した彼女。

 ローグタウンでは終ぞ拝見する事は叶わず、W7での事件以降に彼女の手配書が発行されるまでは、ルフィの手配書に僅かながらその存在が認められる程度でしか知りえなかった。

 

 ルフィもまた、ウタについて決して多くを語らない。彼女の月光浴を邪魔してしまうのは忍びないとは思いつつも、しかしてウタという、最古参にして最新の"麦わらの一味"について、興味を抱くなというのは酷な話であった。

 

「こんな夜更けに、その、お体の方はよろしいんだべか?」

「……?」

 

 バルトロメオの質問に対し、ウタは黙したまま首を傾げて応える。首と一緒に上半身をも大きく横に倒し、小さな身体であっても精一杯感情表現とコミュニケーションが出来るようにと振る舞う。

 人形時代に彼女が培ってきた、細やかな努力の結晶は今なお染み付き、それは容易に落とせるものではない。

 そんな彼女の、ある種幼くも思える仕草が微笑ましく、また可愛らしく、バルトロメオは緊張の面持ちを崩した。

 

「おれとしては、"麦わらの一味"の皆さんにはご無理していただきたくはないんだども……。

 ウタ先輩が平気ってんなら、おれもとやかくは言わないべ。月光浴も気持ち良くて良いもんだべな」

 

 ウタとしては、自分ではなくシュガーに会いたかったのではないか。とバルトロメオは思う。奴なら恐らく船室で寝ているだろう。

 今から起こしに行くべきだろうか。或いは、両者の重く複雑な確執に自分が水を差すようで野暮か。

 

 ドレスローザから出航するまでの3日間、会話のチャンスはいくらかあったようにも思う。彼女らは彼女らで、きっと何度も言葉を交わした筈だ。

 バルトクラブとしては新入りにあたる、あの生意気な女の事を思い浮かべて、そして直ぐに振り払った。

 彼女らの問題に、自分が首を突っ込むような真似は憚られた。

 

「船の見回りと進路なら、おれたづに任せて貰って大丈夫だべ!ウタ先輩も、頃合いのいい所で休んでくだせぇ」

 

 大きく頭を振ったウタは、その後トンと胸を叩く。任せろという事だろう。船に乗せてもらっている以上、キチンと相応の働きをしたい。という事のようだ。

 黙したままのウタだが、しかしてバルトロメオもまた、長年ルフィを追い続けた男、見事に心意を汲み取ってみせた。

 そしてそれが故に、その気遣いが故に、ウタは自分が喋られるのを忘れている事に気付かない。

 

 自信満々な様子のウタに対し、バルトロメオも食い下がるような事はしない。ウタのしたいようにしてもらうのが、一番である筈だ。

 

「では僭越ながら、お言葉に甘えさせてもらうべ!おれと一緒に、"麦わらの一味"の皆さんと、それから船員たちの安眠を守りやしょう!

 勿論、ウタ先輩も眠くなったら遠慮なく寝てくだせえ。後のことはおれに任せてくんろ」

 

 ピシッと綺麗な敬礼を決めるウタを見届け、バルトロメオは改めて見回りに戻ろうとする。

 と、その前に、流石に少しやるべき事があるなと思い直した。

 船首で両手を広げるルフィ先輩の大きな像を見上げて、何やら思いを馳せているウタの様子を見る。

 

 話している時から思っていたが、彼女はあまりにも薄着すぎる。

 白を基調とするワンピースは非常に似合ってはいるものの、二の腕は大きく露出し、脚をかなりの面積を見せている。ナイスバディと相まって魅力的でセクシーな格好ではあるが、今宵にその格好というのは、見ているだけで寒気を感じる程だ。

 

 船室に戻り、温かい飲み物を用意しようと湯を沸かし、沸かしている間に毛布と厚手の上着を持っていく。

 えっさほいさと船首まで運び込み、目に飛び込んだのは倒れ込んでいるウタの姿だった。

 

「ウタ先輩!?」

 

 遅かった。

 ゴーイングルフィセンパイ号は他ならぬバルトロメオの船、しかも自分が見回りの番を務めながらなんたる事か。

 やはりあの時、体の加減を聞いた時に疑問符で返された時点で行動するべきだったのだ。

 

 鍛え上げた壮健な肉体を持つ自分たちでさえ、凍える程の寒さを感じているというのに、ウタが寒さを感じていない筈がない。

 ただ、人形時代は寒さを感じなかったから。そして、改めて感じる「寒さ」という感触が新鮮だから。寒いという感触への対応を本能レベルで忘れているから。

 だから分からなかっただけに過ぎない。寒気は危険信号だ。本来避けるべき反応なのだ。ただ、そんな感触でさえ12年振りだから、楽しくなってしまったのだろう。

 

 不甲斐なさは歯を食いしばって振り払い、とにかくウタを毛布でグルグル巻きにして船室へ運び込む。

 寝入っているローを叩き起こした。

 

「ドラ"ブァ"ル"ガー!大変だべ!タセ、パンセイ、ウタパ、ウタン、ウタ先輩が!」

「とりあえず落ち着け、分からねぇ。ウタ屋が何だ」

「ヴ"ダ"ゼ"ン"バ"イ"が"ご"お"っ"ぢ"ま"っ"だ"ん"だ"」

 

 それからはもう、上へ下への大騒ぎだった。

 動揺しっ放しのバルトロメオにつられてルフィが起き、シュガーが起き、他の船員達も次々に起き出し。

 ウタ、ウタと騒ぎ立てるルフィをローがゲンコツで鎮めて、お前が付いていながらなんて不甲斐ないとシュガーがバルトロメオを叱り付け、返す言葉もないバルトロメオが大人しく正座して叱られ、他の船員達もワーギャーと騒ぎ立てる所をローの一喝で鎮められた。

 

「とりあえず体を温めて、意識が戻ったら温かい飲み物を飲ませろ。湯たんぽあるか?」

「探させるべ!」

「とにかく、低体温症の対処は体を温める事だ。他の対応なんざ無い。

 騒ぐだけの奴らは寝ろ!無駄な体力使ってんじゃねぇ!

 それと麦わら屋、お前がウタ屋の傍に居てやれ。起きたら知らせろ」

「分かった!ウタ!起きろ!死ぬな!」

「揺らすな!叩くな!自然に起きるのを待てバカ!」

 

 そんなこんなの騒ぎが落ち着き、シュガーがウタの代わりに見回りの番を務めに退出した頃合いで、ようやくゴーイングルフィセンパイ号は静寂な夜を取り戻した。

 他の者達もローとルフィ、そしてバルトロメオにウタの事を任せて再び眠り始める。

 

 ローがバルトロメオからウタについて詳しい話を聞いている間、ルフィはウタの傍らに座り、じっとその様子を見つめていた。

 月明かりしかなかった船首の上ならばともかく、今なら彼女の紫色と化した唇も、血の気が引いたような青白い肌もよく分かる。

 浅い呼吸でほんの僅かに上下する胸と弱々しい脈拍だけが、ウタがまだ生きている事を伝えていた。

 

 そっと前髪を撫で付け、閉じられたままの瞼を外気に晒す。

 光が瞼越しに網膜を刺激したのだろうか、ウタがゆっくりとその目を開いた。

 

「……ウタ」

 

 努めて静かに声をかけた。

 意識がぼんやりとしているようだが、それも徐々にハッキリとしてきたようだ。

 未だ弱々しく生気に乏しいが、一先ず死の危険からは脱していると見えた。

 

「トラ男、ウタが目ぇ覚ましたぞ」

「なにっ?」

 

 話し込んでいたローとバルトロメオが一目散に駆け寄った。

 下瞼をめくって貧血具合を確かめ、額に手を当てて体温を確認する。

 

「ウタ屋。意識はハッキリしてるか?麦わら屋の顔が見えるか?」

「ウタ。おれだ。大丈夫かお前」

「……」

 

 ウタはコクリと頷く。

 

「一先ず問診は後だ。トサカ屋、飲み物を用意してやれ。

 飲みやすいようにストローで持って来い」

「勿論だべ!」

 

 ドタドタと忙しなく動き回るバルトロメオとは裏腹に、ルフィはかえって落ち着いていた。

 ただ、静かにウタを見つめていた。

 

「……お前。外で凍えて倒れてたんだよ。

 ロメ男がそれ見つけてくれてよ。此処まで運んできたんだ」

「……」

 

 ウタはコクリと頷く。

 

「温まったら、ちゃんとお礼言えよ。

 お前、もう人形じゃないだろ。自分でちゃんと、喋れるんだからよ」

「……うん」

「そんで、トラ男にちゃんと怒られろ」

 

 忘れていたが、ウタはもう喋られる。

 寒さも熱さも感じる事が出来るし、夜には眠る必要もある。美味しいものも食べられるし、温かい飲み物を飲む事も出来るのだ。

 忘れていた。そう。ただ、忘れていただけだ。

 

「そんじゃ、おれは寝るよ」

「あ……ま、って。ル、フィ」

 

 重く分厚い毛布を押しのけ、何とかルフィの腕に手をかけた。

 力は入らず、手はそのまま、撫でるように擦り落ちる。

 

「あ、りがと」

 

 あれから何度も言った気がする。それでも久しぶりに言った気もする。

 何度だって伝えたい思いを、再びウタは己の口で紡ぎ出した。

 

「……にしし!気にすんな!」

 

 わざとらしく麦わら帽子を触り、背中越しに手を振って、ルフィは離れていった。

 入れ替わりにバルトロメオが飲み物を持ってくる。

 

 何とか力を入れて上体を起こし、ありがたくそれを受け取った。

 

 この後は、ローの説教が待っている事だろう。

 それでも彼女は、先ず何よりも己の口で紡いでみせた。

 

「ありがとう」

 

 謝罪よりも先に口をついて出たそれに、二人もまた、顔を綻ばせて応えるのであった。



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