もう何も言いません。
早朝、俺は一人で走っていた。この道を走るのは久方ぶりとなる。先日の月ヶ瀬ダムでの一件で、見事に自らのデータを消させることに成功した俺は、再び自宅に戻ることが許されたのであった。
葬儀社での生活も悪くは無かったが、あくまで俺は一介の男子高校生だ。リーダーとの縁があるとはいえ、テロリストとしてやっていくには限界がある。今はただ、あいつが姉貴を救い出すことを信じるだけだ。
不意に俺の足が止まる。橋の上から川を眺めている金髪の男。それは紛れもなくトリトンであった。
集「こんなところで何してるんだ?トリトン、」
特に驚いた様子を見せずに尋ねる。
涯「ああ、お前に聞きたいことがあってな。」
真剣な面持ちで集の方へ向き、口を開く。
涯「月ヶ瀬ダムでの一件、どこまでがお前の想定範囲内だったんだ?」
集「どこまでって、どういうことだ?」
半笑いで、あくまで涯を試すような口調で言った。
涯「ルーカサイトの暴走、それが結果的にお前の求めていた日常を取り戻すきっかけとなった。それが本当に偶然だったのかと疑わしくなってな。暴走の原因となったダリルの乱射も、お前なら抑えられてもおかしくないからな。」
涯の言葉を聞いた集は諦めたようにため息をして、こう告げた。
集「大したもんだ。ほぼ合ってる。ただ俺だって完璧に全てを想定してはいなかった。まずルーカサイトが暴走したかも分からないし、嘘界さんが要求を飲んでくれるかも分からなかった。つまり狙ってはいたものの幸運にも上手くいったってだけだ。」
涯「また無謀なことを、」
涯は相変わらず呆れた様子を見せる。
集「まあ、そんなわけで俺は晴れて元の生活に戻ることができたわけだ。楪が住み着いてるのは腑に落ちないが。そういうことだから葬儀社の奴らにもよろしく伝えといてくれよ。じゃあな。」
涯「おっ、おい!」
涯の呼びかけにも応じず、集はさっさと走り去って行った。
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さて、俺といえど久々の学校には緊張する。登校中もちらほらと視線を感じた。俺がGHQに捕まったのは多くの生徒が目にしてるからな。隔離施設での恩があるとしても、八尋の奴には文句の一つでも言っておきたい。次は相討ちなんて結果にもするつもりもない。
集「フゥーー⋯、」
教室の扉の前で息を吐く俺を楪と、もう一人の女子生徒が黙って見つめていた。
ガラガラ
教室へゆっくりと入っていく。
祭「⋯集!」
集「よう、心配かけたな」
嬉しそうにこちらに呼びかけてくる祭に答える。
周りからは戸惑いの様子も見える。仕方のないことだ。
亞里沙「GHQの皆さんは優しかった?」
楪と一緒についてきた女子生徒-生徒会長・供奉院亞里沙-が教室に入りながら尋ねてくる。
校舎を歩いている途中、嘘の証言をすることで生徒達の俺への疑いを晴らそうと申し出てくれたのだ。具体的にはGHQの落とし物を拾ったことの、事情聴取という名目だ。それにしては時間を取りすぎだが。
以前、黙って生徒会の皆さんのヴォイドを引き抜いたこともあったので少し後ろめたい気持ちもあったが、クラスメートへの言い訳に困っていたところだったのでお言葉に甘えることにしたのだ。
「えっ⁉︎」
クラスメート達から困惑の声があがる。
亞里沙「事情聴取なんて面倒だったでしょうけど、政府は協力しなくてはね?」
集「はい、俺の拾った携帯がなんかGHQのものだったとかで、」
亞里沙「そう。無責任な噂を流す人間も多いと思うけど、困ったときはこの私が力になr…
颯太「集!」
割り込むなこのお調子者、
颯太「そこに御座すは集じゃないか⁉︎どうだった⁉︎GHQって!尋問とかされたんだろ⁉︎カツ丼でた⁉︎あっ、GHQだからハンバーガーとか⁉︎」
寄ってくるな、暑苦しい。
集「そんな贅沢なもん出てねえわ。ソフト麺とかいうおいしくねえ奴が出たよ。」
贅沢を言うつもりはないがお世辞にもあれが美味いとは言えなかった。
「桜満君、私も良い?」
眼鏡をかけた女子が話しかけてきた。
「軍隊ってやっぱり、ホモばっかりなの?」
集「はぁ?」
突拍子のない質問に、思わず戸惑う。
集「やっぱりってなんだよ。完全に風評被害じゃないか。他と変わらずホモもノンケもまちまちだよ。」
「なんだ⋯」
おい、何で残念そうなんだ。あんた腐った趣味をお持ちで?
「おっかない兵隊とかいた?」
「エンドレイヴとか見た?」
「会長握手して!」
ワイワイワイワイと騒ぎ始め、俺と会長はあれよあれよという間に囲まれた。とてもではないが答えきれない。意図的ではないだろうが質問タイムへと上手く切り替えてくれた颯太には、感謝すべきなのかな。
亞里沙「取り越し苦労だったみたいね、」
集「いえ、会長がいてこそですよ。お陰で助かりました。ありがとうございます。」
亞里沙「気にしないで、生徒会長として当然のことをしたまでよ。」
こちらへと笑顔を向けてそう言った。なんて良い人だろうか。勝手に意識を奪ったことへの罪悪感が募る。
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颯太「生徒会長の供奉院亞里沙さん。クホウイングループのお嬢様で、容姿端麗成績優秀。おまけに性格まで良いんだから凄いよなぁ。」
昼休みの廃校舎、映研の颯太と祭、そしてそうじゃない楪がいた。さらっといるけどお前を会員にした覚えはないぞ。
集「そんな地位だと凄い疲れそうだけどな。ただあんな人を彼女にできたらどんなに幸せかねえ⋯」
冗談めかしてそんなことを言った。
いのり「集はああいう人が好み?」
集「⁉︎」ビクッ
おにぎりを食ってた楪がいつもと違う、冷たく棘のある声で言う。思わず驚いた。
祭「そうなの⁉︎」
俺に休んでいた間の課題を送ってくれていた祭まで反応する。
集「別にそう言うんじゃねえよ。単純に人として凄えなぁ、って思っただけだよ。まあ叶うならあの身体を自分の好き勝手に⋯⋯冗談だから怒るな、悪かったから!」
楪は凄い不機嫌そうに睨んでくるし祭は顔赤くしてこっちを見ようとしないし、どういう事だ?
集「ところでよ、八尋ってどうしてんだ?俺が連れてかれた日からずっと来てないってよ。」
祭はハッとした。
結局誰も詳しいことは分からなかった。
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家に帰って楪にも聞いてみる。
集「楪はなんか聞いてるか?」
葬儀社経由でなんか情報が来てるのではないかと考えた。
いのり「心配?裏切られたのに。」
不機嫌そうにする。楪もあのことに関しては面白くないらしい。
集「ちげぇよ、ただ仕返しの一つでもしないと気が済まないだけだ。」
ふゅーねるが服を畳んでくれている。一家に一台あると便利だな。
春夏「集!帰ってるの⁉︎」
集「かっ、母さん!」
突然母さんが帰ってきた。
しまった。楪をどうしよ。
集「ちょっと隠れろ!」
いのり「ちょっと⁉︎集///」
楪をどうにかしようとするが時間がなさすぎる。なぜか押し倒すような姿勢になってしまった。心なしか楪の顔が赤くなっている。
集「⋯ッ⁉︎母さん!またそんな姿で!」
見上げると、ビールを片手に紫の下着姿でいる母さんの姿があった。既に服は脱いで来てしまったらしい。血のつながりが無いんだから少しは考えてくれ。これでも思春期を迎えた少年なんだぞ!
春夏「あら、集は母親が帰ってきて嬉しくないの?」
集「別にそういうわけじゃねえけど⋯」
春夏「ならば良し、」
そう言って頭を撫でてきた。やめろ恥ずかしい。
春夏「こんにちは!私桜満春夏。⋯ッ⁉︎」
俺の後ろにいた楪に挨拶をした。戸惑ったのは姉貴の面影を見たからか?にしても不味い、どうする?母親の不在時に彼女連れ込んでましたーってことにするか?いや、それはそれで俺のSAN値がゴリゴリに削れそうだ。
いのり「楪いのりです。ここで暮らさせて貰ってます。」
正座をしてお辞儀をした。何とか言い訳は考えついた。
集「実はこいつの兄貴が暴力的でさ、あまりに可哀想だから少しの間ここで匿ってるんだ。でもその兄貴とも友達だから俺が力で解決するわけにも行かなくてさ。ハハハ、」
苦しいな。流石にこれじゃ騙されないか、
春夏「ゴクゴク…ップハー!お腹空いたー!」
集「は?」
春夏「いのりちゃん、お腹空いてない?ピザーニャとピザファット、どっちがいい?あー、私ケーキが食べたいかも。集、行ってきてくれる?」
集「はぁ?今から?」
春夏「美味しいもの食べながら、ゆっくり聞かせてもらうから♪」
俺の母が寛容な人でよかった。普通なら正座させられてこっぴどく叱られるところだったかもしれない。
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綾瀬「良いんですか?涯、集を学校に行かせて。」
葬儀社アジトにて、綾瀬が涯に尋ねた。
涯「仕方ない。本人の希望だ。それにあいつ、既に葬儀社抜けてるつもりだしな。」
アルゴ「相変わらず自由な奴だぜ、あいつ。」
呆れたように言う。
四分儀「涯、数回の戦闘で、軍事物資が不足してきています。」
アルゴ「OAUから金は引っ張ってこれたんだろ?」
四分儀「資金はあってもルートがない。購入するにも、運び入れるにもな。」
涯「協力者が必要だな。」
何かを思いついたように言った。
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春夏「可愛いじゃない、いのりちゃん。変わった子だけど、なんていうか⋯ほっとけない感じ?」
楪のいない部屋で、俺は母さんと話していた。
集「母さん、」
ここで本当のことを話しておくべきだと思った。
俺は話を切り出すことにした。
集「楪を見たとき、何を連想した?」
母さんの顔から笑顔が消え、神妙な面持ちとなった。
春夏「真名⋯よね?」
集「ああ。彼女は姉貴のインターフェース、ある人から今は預かってるんだよ。」
不本意ながら。葬儀社は辞めたつもりだが向こうは辞めさせたつもりがないように思える。今朝のトリトン然り楪が居座っていること然り。
春夏「そのある人って?」
集「⋯⋯⋯トリトンだよ。」
春夏「⋯っ!?」
トリトンと言っておけば恙神涯とイコールになることはないはずだ。流石にテロリストに協力してるとは言えない。
集「最近会って、いろいろあったんだよ。」
春夏「そう⋯」
深い事情があることを察したのか、深くは言及してこない。助かる。
集「まっ、今考えていたってしょうがないからね。しばらく彼女の面倒を見ていて良いかな?」
春夏「うん、もちろん。」
微笑みながらそう言ってくれた。トリトンが引き取ってくれるならすぐ引き渡すけど。
春夏「ところで、」
慈愛に満ちた微笑みから不敵な笑みへと変わった。
春夏「彼女のこと、女の子としてはどう見てるのよ?」
集「はぁ⁉︎何だよ藪から棒に、」
春夏「だって面倒見てるってことは、悪くは思ってないんでしょう?」
ダメだ。この人は俺が親切心かなんかで楪を引き取ったと勘違いしてる。俺は半強制的に押し付けられたんだよ。
集「なんとも思ってない。強いて言えば⋯、妹みたいな存在?」
なんだかんだ飯のことから何から面倒見っぱなしだしな。ご飯作ってくれるような妹いないかなぁ。
春夏「なんだ、つまんないなぁ。」
あんたは何を期待してたんだ。
そんなこと考えている間に、母さんはクローゼットから何かを見つけたようだ。
春夏「ああっ!あった!良かったぁ!これで明日のパーティー、何とか格好がつく!」
ドレスを見つけたようだった。明日パーティーなのにドレス無かったらどうするつもりだったのか、
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ダン「カッコつかないだろう?着任したからには一発決めないとさ。今日付けで俺の部下になったんだから、ガッツだしてこうぜ!」
貿易港に、ダン・イーグルマン大佐とその部下となったダリル、嘘界、ローワンがいた。
ローワン「お言葉を返すようですがイーグルマン大佐、」
ダン「ダン!親しみを込めてダンと呼んでくれ!そう言っただろ!」
ダンはローワンの両肩をがっしりと掴む。
眼鏡の位置を直し、ローワンは続けた。
ローワン「このドラグーンは地対空ミサイルでして、洋上の艦艇を撃つようには
ダン「撃てるよ!上に上がるなら、横にだって飛ぶさ!」
嘘界「その標的になる艦艇というのは?」
ダン「ナイス質問だ!スカーフェイス!」
嘘界「嘘界です。」
どうでも良さそうに携帯を弄りながら答える。
ダン「GHQに反抗的な日本人が船上パーティーをする。恐らく、貿易指定海域外で取引をするつもりだろうねぇ?」
嘘界「どこからそんな情報を?」
ダン「善意の市民からの通報でね。ほとんどの日本人がわかってるんだよ。僕らGHQがいないと、この国は回らないってことを!」
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さて、母さんが家に帰ってきた翌日の船上パーティー。俺などには関係ないと思ってたのによ、
集「なぜ俺は呼ばれた。」
涯「ここに話したい奴がいてな。だが表舞台にはなかなか出てこないんだ。」
集「それでこんな物騒な事を、」
客を二人捕らえ、追い剥ぎをした。そしてそれに着替えたのだ。
集「命は取らないんで、ホントすみません。」パチン
「んっ⁉︎⋯⋯Zzzz…」
俺のヴォイドで意識を奪った。あとで意識も返すから。あと指パッチンは格好つけてみただけだ。
集「あっ、そういやこの船地対空ミサイルに狙われてるぞ、」
涯「なんでそんな情報を…というかここ洋上だぞ⁉︎」
集「部下の人も同じこと言ってた。大佐がどうやらアホみたいでな。まあ問題ないだろう。」
嘘界さんの白衣につけた盗聴器、そろそろ気づかれても良いんじゃないの?
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さて、トリトンが交渉する間は怪しまれぬように歩いているか。母さんに見つからないように気をつけないと。
春夏「初めまして、セフィラゲノミクスの桜満です。」
誰かと名刺交換をしている。母親の働くところを見るというのは新鮮だな。
ピロロピロロ
葬儀社からだ
集「はいはい、テロリストに無理やり手伝わされてる可哀想で善良な一介の男子高校生ですよーん。」
ツグミ「あんた無理やりはともかく善良じゃないじゃない!」
無理やりはともかくって⋯というか俺は善良だぞ?絡んで来たりカツアゲしてくる不良をフルボッコにしてるだけで、
ツグミ「そんな事どうでも良いのよ!今すぐ涯に伝えて!その船、ドラグーンに狙われてるわ!」
やっと気づいたか。情報戦は我が制した。
集「とっくに知ってるし恙神にも伝えたよ。そんじゃな、」
ツグミ「えっ、ちょっと。どうしt…
プツー
俺に任せときゃ悪いようにはしねえよ。黙っとけ。さて、これクホンイングループ主催だし、探しゃ会長いるだろ。ヴォイド貸してー。
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「亞里沙さん、次のワルツは私と」
「いえ、僕とお願いします。」
「「さあ、お手を」」
椅子に座った亞里沙は、二人の男からワルツの誘いを受けていた。しかし、その表情は浮かなかった。
集「では、私と踊っていただきましょうか?ただ、ワルツなんて穏やかなものでは済まないでしょうがね。」
亞里沙「えっ⁉︎」
新たに現れた声の主を見ると、そのには見覚えのある一人の少年が立っていた。
亞里沙「なんで桜満君がここに⋯?」
「なんだお前は?」
先程亞里沙を誘っていた男が不満の声を漏らす。
集「どちらも説明してる暇は無いんでね。よいしょっと、」
亞里沙「きゃあ!」
集は一瞬にして亞里沙を、俗に言うお姫様抱っこの形で抱き抱えた。
集「しっかり掴まっていてください。」
その瞬間、集は走り出した。
「ッ⁉︎消えた⁉︎」
男達には、集が亞里沙を抱えた瞬間、消えたように見えた。
亞里沙はある違和感を抱く。
亞里沙「なんで皆気づかないのよ⁉︎」
一つの疑問を口にした。
集「これは『抜き足』といって、特殊な呼吸法と歩法で相手の『覚醒の無意識』に自分の存在を追いやることで、見えているのにも関わらず気づかせないという体術ですよ。」
亞里沙はいとも簡単にこのような体術を使ってみせるこの少年が、一体何者なのかと思った。そんな間にも集は後部甲板へと向かっていくのだった。
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亞里沙「⋯一体何のつもりなの?」
後部甲板で、こちらに向かって立っている会長は言った。
その声には戸惑いと、少しの怒りが感じられる。
集「強引に連れてきてしまい申し訳ありません。どうしても力を貸していただきたかったんです。会長としてでも、クホンイングループのお嬢様としてでもなく、供奉院亞里沙という人間に、」
亞里沙「ッ⁉︎」
目を見開いた。今の様子で一つの事が確信できた。
集「今この船をドラグーンが狙ってきているんです。俺はそれを止めなければならない。」
亞里沙「嘘ッ⁉︎そんなの、私なんかにどうにかできるものじゃないわ!」
集「いえ、あなたの力を俺に貸してくれれば、できます!」
力強い集の言葉に、思わず亞里沙は圧倒される。
パシッ!
亞里沙「えっ///」
集「失礼しますよ、」
集は亞里沙の手を取った。最も、相当の箱入り娘であり、男性経験のない亞里沙にとって社交の場以外でこのように異性に手を取られるのは非常に不慣れな事であったのだが。
亞里沙「…ンッ⁉︎」
亞里沙の胸からヴォイドが引き抜かれる。しかし亞里沙の意識が途切れる事はなかった。
亞里沙「何なの⋯それ、」
手を取りながらヴォイドを抜き取ることで、抜かれたものの意識が失われることは無くなる。あえて集がその方法を取った理由は、以前の件への罪悪感か、それともまた別にあるのか。
集「これは、あなたの心をそのまま表した言わば結晶。人の心に触れ、力を生み出す力を俺は持っているんですよ。」
一度会長のヴォイドを引き抜いた時から考えていた。この盾が一体何を意味していたのか。
『生徒会長の供奉院亞里沙さん。クホウイングループのお嬢様で、容姿端麗成績優秀。おまけに性格まで良いんだから凄いよなぁ。』
颯太がこの前言った言葉。俺は疑問だった。そこまで完璧なまま、重圧も何も感じずに生きていけるのかと。
『供奉院亞里沙という人間に、』
この言葉への反応で確信した。そう、
集「あなたは、完璧な自分を生きていく事を受け入れきれていないんだ。」
ミサイルが向かってくる。それを会長のヴォイドで受け止めた。するとミサイルは木っ端微塵に砕け散った。
亞里沙「どういう意味よ⁉︎」
棘のある声で言う。次々に飛んでくるミサイルを全て砕きながら答えた。
集「ホントのあなたはもっと弱い人間だ。それでもあなたは優等生として、会長として、クホンイングループの跡取りとしての鎧を着込み、自らを偽って生きてきた。弱い自分を守ろうと、誰にも本当の自分を見せなかった結果がこの盾に現れているんだ。」
俺の言葉にハッとしている。戸惑いも見え、既にうまく言葉が出てこない様子だ。
亞里沙「私は⋯そんなつもりなんて⋯⋯」
集「良いじゃないですか。人間なんだから、」
亞里沙「えっ⁉︎」
集「重い立場に立った時、何も感じないわけないんですよ。誰だって。重圧を感じることだってあるだろうし、完璧な自分を演じることで耐えようとすることだってあるに決まってます。」
亞里沙「⋯。」
亞里沙は集の言葉を、涙を浮かべながら聞いている。
集「でも、それを誰だってやり遂げられるわけじゃない。」
亞里沙「ッ!」
集「生徒会長でクホウイングループのお嬢様で、容姿端麗成績優秀。性格まで良い人間供奉院亞里沙として皆に愛されているのは、間違いなくあなたの力だ。」
亞里沙「ありがとう。でも、もう⋯辛いの⋯⋯。私はどうすれば⋯?」
今にも消えてしまいそうな声で、一言一言を紡ぐように言った。
集「あなたの運命は、決して逃げられるものではないでしょう。ただ全ての者に対して自分を偽るよりかは、本音を言える相手がいた方が心は軽くなるのではないですか?あなたを、ただの人間・供奉院亞里沙として見てくれる人が。」
亞里沙「そんな人どこにいるのよ!」
集「俺ではダメですか?」
亞里沙「⋯ッ⁉︎」
ミサイルから船を守りながら発せられた集の言葉に、とめどなく涙が溢れていく。
亞里沙「どうして⋯どうしてあなたは優しくしてくれるの⁉︎」
泣きながらはっきりとしない声で叫ぶ。
集「昨日のことの恩っていうのは一つありますが、」
昨日の朝、亞里沙が集を庇った時のことを思う。
集「何より、孤独の辛さが痛いほどよくわかるからですかね、」
亞里沙が目を見開いた。
集がまたミサイルを受け止めた。そしてそれ以降ミサイルが来ることは無かった。
-------------------------------
集「⋯落ち着きましたか?」
ミサイルを全て止めた後、集の胸に顔を埋めた亞里沙は数分間泣き続けていたのだ。
亞里沙「ごめんなさい、見たくないものを見せてしまったわね。」
涙を拭きながら言う。
集「女性の泣き顔というのも、そそる物ですよ。」
亞里沙「年上をからかうものではないわよ。」
そう言って集の額を軽く小突く。
彼女の顔には、普段とは違う心の底からの笑顔があった。
集は一度表情を真剣なものに変えると、こう言った。
集「俺は今、この力をある組織に貸しています。」
亞里沙「⋯。」
集「GHQに捕まったのもこの事が関係しています。これらの事はオフレコにしていただけると助かるのですが。」
困った様子で言った。
亞里沙「ええ、いろいろと恩もあるしね。でも一つだけ良いかしら?」
集「?」
集は何を言われるのか疑問に思った。
亞里沙「また何かあった時は、話を聞いてもらって良い?」
その言葉を聞き、そんな事でしたか、と言いながら笑った。そして、
集「いつでも良いですよ。ただの人間・桜満集としてで良いのであれば。」
その答えに亞里沙を微笑みを見せた。
集「オルボワール」
そう言い残し、集は亞里沙の前から消えていった。
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後日、集は葬儀社のアジトの一室で
四分儀とチェスをしていた。
四分儀「まあよく遊び場のように出入りしてくれますね。」
集「良いじゃないですか。不本意ながら、あなた方は俺をメンバーの一員として見てくれているみたいですし。それにあなたほど腕の立つ者もなかなかいません。」
集は結局、アルゴと白兵戦の特訓をしたり、下っ端達の指導をしたり、こうして四分儀とチェスをしたりと定期的に葬儀社のアジトを訪れていた。
四分儀「そう言って、私が勝ったことは一度もありませんがね。」
四分儀自身、頭脳戦には長けていると自負していたこともあり、集との出会いで様々な発見をしていた。
集「それにしても、クホンイングループとの取引が成立して良かったですね。」
先日の船上パーティーで見事に葬儀社は、クホンイングループとの取引に成功し、クホンイングループは国内ルートに関する協力者となったのだ。
四分儀「ええ、幸いにもあなたの力が第二ルーカサイトを止められることの証明してくれましたから。」
笑みを浮かべながら言った。
集「冗談はやめてくださいよ。善意とはよく言ったものです。」
四分儀「やはり気づいてましたか。」
船上パーティーの件を通報したのは四分儀であることを、集は知っていた。つまりドラグーンで狙われたのも、それをヴォイドを使って止めたのも、全ては葬儀社側によって仕組まれたことだった。
集「勿論。俺の力が取引材料にされることは初めから分かってましたよ。連れてこられた時点で。」
お互い呆れた様子だ。
四分儀「善意を善意と名乗ったらそれは悪意だ。涯の言葉です。」
集「なるほど、手のひらの上で踊っているようで気に食わなかったのですが、命が関わっていたので流石に従いましたよ。あとチェックメイト。まだまだ甘いですよ。四分儀さん。」
そう言って部屋を出て行った。
四分儀「⋯相変わらず、どこまでも憎たらしい少年ですね。」
笑いながらそう独り言ちたのであった。
集が堂々としてると複数のヒロインを攻略するハーレムモノに見えなくも無いですね。
感想などお待ちしております。