あと台本形式止めてます。以前の話も修正していくつもりです。
「寂しい!私もついて行く!」
「ちょっと、そんなにくっつくなって。」
「集が嫌がってる。離れて、」
映研の合宿で俺がしばらく家を離れることを知った母さんは、ずっとこんな調子だ。早く離れて欲しい。当たってるから。主に胸が、
「もういいから離れてくれよ。」
すると不意に母さんは黙り、俺から離れた。
「行き先は大島だったっけ?」
「ああ、」
質問に対し肯定の意を示す。
「そう⋯じゃあ父さんに会ってらっしゃい。」
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「久しぶりだな、ここに来るのは。」
長時間船に揺られ、我ら映研は無事、大島に着いたのだった。
幼少期の記憶が蘇ってくる。あの時のトリトンはもっと可愛げがあったのにな。
「着いた着いたー!」
どこぞのお調子者がはしゃぐはしゃぐ。ノスタルジックな気持ちになってたのにぶち壊しだよ。
「いいお天気ー。晴れて良かったね!」
「これから行くとこ、集の親戚の別荘なんだって?」
颯太が聞いてきた。
「ああ、子供の頃こっちに住んでたからな。」
「いやー助かったぜー!」
そう言いながら颯太は俺の背中を思い切り叩く。なんともないけどやめていただきたい。
今回はトリトンの命令で颯太を大島に連れてきたのだ。合宿という名目で。なんでも今回の作戦でこいつのヴォイドが必要らしい。颯太のヴォイドは一度引き抜いているから分かる。あれから感じた力は『開く力』。確かにそれがあればどんなセキュリティでも突破できるが、俺の周りを巻き込まないで欲しい。
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「うわーすげぇ!立派だな!」
別荘に入るなりお調子者は大声を上げる。祭は委員長も颯太ほどではないが声を上げていた。
「桜満君の親戚って何してる人なの⁉︎」
「どっかの外資系企業の取り締まり役らしい。俺も詳しく知らないけどさ、」
委員長の質問に答える。もちろん出任せだ。実際は葬儀社が用意したのだが、
「おい楪、これどうしたんだ?」
小声で楪に尋ねる。
「クホウイングループが手配したって涯が、」
「なるほど。」
早速クホウイングループは役に立ってくれてるわけか。いつか会長に何かお礼でもしようか。
「また二人仲良くして〜、家だけにしてよ〜?」
すると突然、とんでもない爆弾が放り込まれた。
「⋯何を言ってるんだお前は。」
「だって二人一緒に住んでるんでしょ?」
平静を装ったがこれはマズイ。颯太には確信めいたものがあるように見える。
「えっ、なにどういうこと⁉︎」
委員長が驚きの声を上げた。
「俺見ちゃったんだよねぇ。二人が一緒に帰ってくの。ちょっと聞いてみましょう!二人の馴れ初めは?」
「馴れ初めってのは不適切だが出会ったのは10年ほど前かな。」
「「「「えっ⁉︎」」」」
全員が驚く。楪、お前まで驚くな。
「こいつとは遠い親戚だからガキの頃に会ってるんだよ。ほら、こいつEGOISTとかいうアイドルグループやってるじゃねえか。それで熱狂的なファンに追われて、今俺の家に逃げてるってわけ。」
「EGOISTはアイドルグループじゃないけどな⋯。それで、どこらへんの親戚に当たるんだ?」
「俺の母さんの妹の娘の祖母の兄の孫の再従姉妹」
「それお前の妹じゃん。」
「ハハハー、そうだっけか?よくわからん。」
鋭いな、おい
「まあ幸せな人は放っておいてもう今から海行こうぜ!海!」
突然颯太は出て行ってしまう。
「ちょっと、片付けとかは⁉︎」
委員長が制止しようとしても聞かずに、楽しもうぜ!とか言いながら行ってしまった。正直楪と一緒に住んでるのがバレたら、刺されるものかと思ってたが案外楽観的のようだ。登下校中は周りの気配に気を配っていたつもりだったが知らないうちにバレていたのは妙だけどな。
「まあ祭、そんなわけでこいつとは何もないし何とも思ってないからな?誤解しないでくれよ?」
「うん、集の言ってたことが本当かはともかく、手を出すほどの度胸があるとは思えないからね。」
「それを言うな⋯。」
笑顔の祭に対し、集は苦い顔をしている。嘘だとバレかかってる辺り、祭には敵わないと内心思う集であった。そんな集とは裏腹に「何とも思ってない」と言われたいのりの反応を見た祭は、こちらの方はそのつもりではないのだということに気づいた。
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「みんなー!早く来いよー!」
海に飛び込むなり颯太は大はしゃぎだ。女性陣が遅れてくる中、俺はそそくさとパラソルやシートの準備をしていた。
颯太は強引でデリカシーのないやつだが面白いやつではある。同好会の活動を積極的にやらない俺に対し、行動力のある颯太の存在はなんだかんだ有難い。これに取り繕ってくれる八尋がいれば完璧はトリオなんだが。いろいろとやらかしてくれた彼だがこうなると少し恋しくなってくる。
するとピンクでフリルの付いたビキニ姿の楪が歩いてきた。
「どう?集。」
顔を軽く紅潮させた状態で聞いてきた。
「ううむ⋯。」
引っ込むところが引っ込んでて突き出るところも引っ込んでる。これを素直に言っていいものか⋯
「集、今凄い失礼なこと考えてるでしょ?」
「ナチュラルに人の思考を読むな。」
楪はジト目になって言った。
「ねえ集!」
「ん?⋯ってうわっ!」
俺を呼ぶ声に振り向くとそこには白いビキニ姿の祭がいた。
引っ込むところが引っ込んでて突き出るところが突き出ている。これはマズイ、
「私達も泳ごうよ!」
「お、おい!ちょっと!」
そう言って祭は俺の腕に抱きついてくる。
「ほら早く!」
「マズイから!当たってるから!」
「いいから!行くよ!」
祭さん、今日はヤケに積極的じゃないか。これ以上は本気でマズイ。鎮まれ、俺のヴォイドよ!鎮まれ!
「やはり胸なのね、胸なのね⋯。」
二人が去っていき、一人になったいのりは自分に付いている二つの物を見ながら呟いていた。
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集達の様子が見える位置にある海の家で、四分儀、アルゴ、大雲の三人は待機していた。
「魂館颯太は無事たどり着いたようですね。」
小説を読みながら四分儀は言った。
「ミッションだってのに集の野郎、女子達と楽しそうにしやがって。羨ましい!あんなんやらせてていいのか?」
アルゴは面白くなさそうに言った。
「ここまでは順調です。問題は施設のセキュリティでしょう。」
感情的なアルゴに対し、大雲は淡々と告げる。
「こちらはツグミ達が調査中です。」
「しばらくは待機か。こんな島に何があるってんだ?」
「それは涯のみぞ知る、です。」
「集も知ってそうだけどな、」
これまで、ずっとなんでも見透かしているようにいた集を思いながらアルゴは言った。
「可能性はありますね。ところで、アルゴ、暑くないのですか?」
気温もかなり高い中、厚着でいるアルゴに対し四分儀は尋ねた。するとアルゴは
「気合い入ってますんで。」
と得意げに言ったのだった。
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祭達に寄るところがある事を告げた集は花束を持ちながら一人、ある場所へと向かっていた。すると遠くから見覚えのある二人組を見つけた。
「ツグミ、何このふざけた格好。」
顔を紅潮させた綾瀬は車椅子を押す、メイド姿のツグミに言った。
「綾瀬お嬢様もとってもお似合いですわよ?オホホホホホ、」
どこかのお嬢様のような服装をした綾瀬を、面白がっている様子のツグミはそう言い、わざとらしく笑って見せた。
「よう、篠宮。猫耳。」
「しっ、集⁉︎」
ツグミに注意を向けていた綾瀬は集の姿に気付かず、素っ頓狂な声を上げた。
「集、私は猫耳じゃなくてツグミよ!今猫耳してないし。」
名前を呼んでもらえないツグミは面白くなさそうに言う。
「猫耳ないと何て呼べばいいか分かんねえな。ちんちくりん?」
「それは絶対イヤ!」
ツグミは思い切りかぶりを振った。
「にしても二人とも、慣れない格好をしているもんだな。」
「えっ⁉︎」
「ふふん、似合ってるでしょ。」
恥ずかしさのあまり顔を帽子で隠す綾瀬と、得意げな顔で見せつけるツグミの反応には天と地の差があった。
「似合ってる似合ってる。篠宮も、馬子にも衣装とは言ったもんだな。お嬢様っぽくて可愛いぞ。」
集はそう言いながら綾瀬の頭を撫でた。
「やっ、やめなさいよ馬鹿っ!」
さらに顔が紅くなった綾瀬は、咄嗟に集の手を払い除けた。しかし集の顔にからかう意思がない事を認めるとまた顔を隠し、しおらしくなってしまった。
「私と綾ねえの扱いの差、酷くない?」
頬を膨らませたツグミが集に訴えた。
「胸の差だ。デカくなって出直してこい。」
真剣な眼差しでそう告げると、集は綾瀬達の来た方向へと歩いて行ってしまった。
「数年したら集が、馬鹿にしてすみませんでしたって土下座するぐらい成長してやるからね!見てなさい!」
「はいはい、」
(数年後に俺たちがいると思えることの幸せさよ。)
そんなことを思いながらツグミの叫びを受け流しつつ、歩き続ける。綾瀬が何かしら罵倒してくるものだと思っていたが、あまりにも大人しかったので不思議に思った集であったが、気にしていても仕方がないので歩みを進める事にしたのだった。
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「久しぶり、父さん。」
集は父-桜満玄周-の墓に花束を置くと、話し始めた。
「俺さ、やっと父さんの意思に応えられそうだよ。随分と時間がかかっちゃったけどさ、これでも守りたいものを守れるだけの力は手に入れたと思うんだ。姉貴そっくりの女子が家に転がり込んできたり、昔の友人に再開してテロ活動に巻き込まれたりして大変だけどさ、案外今の暮らしも気に入ってるんだ。まあ、なんつうか。言いたい事はいっぱいあるけどさ⋯」
言葉を紡いでいくが言いたい事があり過ぎてうまく出てこなかった。
「俺、この国を救ってみせるから。見守っててくれよ、父さん。」
涙を浮かべながら、集は一番伝えたかった事を言った。
「終わったか?」
「⋯っ⁉︎」
突然現れた涯に驚いた集は、急いで涙を拭いた。
「お前でも取り乱す事があるんだな。」
珍しく本気で慌てた集の姿に、涯は面白そうな様子で言った。
「うるせぇ⋯。どこから聞いてたんだよ。」
「久しぶり、父さん。のところから、」
「全部じゃねえか!」
ノスタルジックな気持ちに浸って周りを気にしていなかった自分を責めた。どうも今日は自分らしくないと集は思う。
「それよりお前は何しに来たんだよ。まさか墓参りに来たわけでもないだろ?」
「ああ、」
涯が歩き始める。それに続き集も付いていく。しばらく歩いた先に、
「あれだ。」
涯が指さす方向には鳥居があった。
「鳥居?」
「こいつで見てみろ。」
涯に渡されたスコープで見る。すると、
「なるほどね、」
レーザーが何本も見える。どうやらただの神社ではないようだと集は悟った。
「GHQの秘密施設だ。あそこに求めるものがある。」
「始まりの石か。それを取るのに颯太のヴォイドが必要なわけね。」
「やはり分かっているのだな⋯。」
こういう事はもう何度もある事なので今更ツッコむような野暮な事はしなかった。
「ミッションの開始は2200。それまでにあいつを指定のポイントまで連れてこい。」
「楪を餌にするのか。気は進まんが合理的だな。」
「気が進まない、か。いのりに何か思うところでもあるのか?」
「いや、どちらかといえば颯太の方だ。人の好意に漬け込むというのは良い気がしないしそれに⋯」
そこで集は言葉を詰まらせる。
「それに何だ?」
「いや、何でもない。とにかく颯太の誘導は任せておけ。」
そう伝えると集はそそくさと行ってしまった。集の煮え切らない態度に違和感を覚えるが、集が話さないと判断したのだから必要ないのだろうと思い直し、涯もその場から去っていくのだった。
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「なあ、集。」
「なんだよ。」
風呂上がり、涼んでいると縁側に座っていた颯太から、いつになく真剣な声で呼ばれた。雰囲気が昼と違うように感じる。
「いのりちゃんとは、本当に何もないわけ?」
どうやら先程は楽観的に見えたものの、実際はかなり気にしていたらしい。そりゃあれだけファンなら無理もない。
「親戚に恋愛感情を抱くわけがないだろ。」
「親戚に恋愛感情を抱かないかどうかとか、そもそも集といのりちゃんが親戚なのかとかツッコみたいところはいっぱいあるが置いておいて、だったら俺、行くから。」
行くとは告白の事だろう。騙すようで心苦しいが好都合ではある。指定のポイントまで連れて行くのが楽になりそうだ。
「思い立ったが吉日、ならばその日以降は全て凶日というくらいだし今日行ってきたらいいんじゃないか?」
「そうか、確かにそんな言葉を残した偉い人が居たな。そうするか、」
その人が偉い人かどうかは置いておいて颯太はやる気になったらしい。作戦に利用されてしまうにしても、告白くらいはさせてからにしよう。
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「おい楪、」
浴衣姿で縁側を歩く楪に後ろから話しかける。
「これから颯太を指定のポイントまで連れて行け。分かったな?」
「え、私を餌にする気?」
不服そうにジト目で言ってくる。
「葬儀社の仕事なんだから仕方ないだろ。というかお前そんな事気にするやつだったか?」
「むぅぅ⋯、分かった。」
渋々承諾してくれた。にしても一つ思う事がある。
「浴衣は、小さい方が似合うんだな。」
「それ褒めてるの?貶してるの?」
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ガラ空きのパーティ会場に、一人席に座り、貧乏揺すりをするダリルの姿があった。テーブルにはhappy birthdayと書かれたプレートの乗った、豪華なケーキがあった。
「なんだよ!」
ダリルに近づいたウエイターにダリルは不機嫌そうに言い放つも、特に反応はなくウエイターはそのままダリルに耳打ちした。それは、父-ヤン少将-の欠席を知らせるものだった。
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「ごめんね、急にさ。」
集達の泊まる屋敷からは離れた、人気のない夜道を颯太といのりは歩いていた。颯太は、星が綺麗だよね、などと様々な話題を振るが、一向に話が弾む気配はない。そんな中、いのりは颯太をよく観察していた。そしてある違和感を抱く。この男、全くと言っていいほどに隙がないのだ。昼の時と全く様子が違う。それに、場を盛り上げようと空回りしてるように見えるかもしれないが、内心はとても落ち着いているように見える。一般人が気づくような事ではないが、今まで葬儀社の一人として戦い続け、そして最強の男と常日頃から行動を共にしていたいのりには分かった。これは集、そして八尋に対して感じたものと全く一緒だった。しかし涯以上の実力者が、同じ高校に三人もいるなどという事実は信じ難い。どうかこれが思い過ごしであって欲しいと祈るばかりであった。
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颯太と浴衣がベンチに座る中、俺は物陰で身を隠していた。
「見せたいものがあるんだ。」
そう言って颯太はディスプレイを取り出した。
「俺、EGOISTのPVでとても感動して、居ても立ってもいられなくて、だから自分でも作ってみたんだ。」
すると楪は映像を見ようと颯太に肩を寄せた。なかなかに良い雰囲気だ。案外告白が成功したりしちゃってな。ただそんな理由がなくとも普段から真面目に映研の活動をして欲しいものである。彼は積極的に仕事を取ってくるが仕事をするのは九割九分俺だ。
颯太のディスプレイからEGOISTのエアテルペが流れ始めた。内容に関しては興味がないのでその場で見つからないように待機。
「綺麗⋯」
楪から称賛の声が上がった。そんなに出来が良いなら今度見せてもらおうかという気にもなる。さて、颯太が隙を見せてくれればすぐにでもヴォイドを抜き出したいのだが、
「いのりちゃん、」
「うん?」
ゆっくり颯太が立ち上がる。そして楪の方へ向くと、
「俺、まだいのりちゃんの事よく知らないけどさ。歌う君に感動した気持ちは本当だ。俺はいのりちゃんの事が本気で⋯」
ついに告白か⁉︎
「⋯いや、これはまた二人きりの時に伝えるよ。何せここには見物客が多過ぎる。」
颯太は呆れたように笑った。
「⋯っ⁉︎」
周りに潜んでいる葬儀社の連中に戦慄が走る。俺が抱いた第一の感想としては「やはりか」というものだった。
「出てこいよ。集、いるんだろ?」
「やはりバレていたか、なら仕方ないな。」
颯太の前に姿を現わす。想定外の出来事で動揺するかと思われた楪の表情は、意外にも落ち着いている。彼女も颯太の気配に気づいた一人なのかもしれない。
葬儀社連中には想定外の出来事かもしれないが、俺にとっては想定内だ。しかもヴォイドを引き抜いてしまえばこちらの勝ちだ。
まずは目を合わせる。辺りを銀の光が漂った。
そして抜き足で一気に距離を詰める。
「消えた⁉︎」
楪からも消えているように見えているらしい。あとはヴォイドを引き抜いて終わりだ-
「⋯チッ!」
と思われたが颯太に右腕を掴まれた事で失敗に終わる。
「何だ?これ、」
颯太は漂う銀の光に対する疑問を、表情を崩さずに述べた。
「へえ。これを初見で破るなんて、良い耳を持ってるんだな。」
「その様子だと、俺の強さを見破ってたように見えるけど?」
「何、今の今まで可能性の域を出てはいなかったさ。ただお前が実力者だということを見破る材料は幾つかあった。まず俺と楪が一緒に住んでいることがバレていたこと。誰かにつけられていれば気配で気づくはずなんだが、俺はお前に気付けなかった。それはお前に相当な隠密スキルがあった証拠だ。」
さっきの墓の件みたいに俺の感覚が鈍っている場合もあるが、
「へえ、じゃあ俺の耳については?」
「実はお前にさっきやろうとした事はな、」
「えっ⁉︎⋯うっ⋯⋯。」
俺は颯太から右腕を振り払うと、楪からヴォイドを引き抜いた。そして楪は気を失った。
「お前からこれを引き抜くためだ。」
「⋯っ⁉︎何だ⋯それ⋯⋯。」
「ヴォイドと言って、人の心の結晶と言ったら分かりやすいだろうか。俺にはこれを引き抜く力がある。今回のミッションでお前のヴォイドが必要だった。だからここに誘導したんだ。ミッションがなんの事かは今更言うまでもないよな?」
楪にヴォイドを戻しながら言った。
「なるほど。どうりで気配がするわけだ。集以外に6人はいるな。」
「⋯っ⁉︎」
潜んでいる者達に再び戦慄が走る。この二人は今、自分達の及ばない次元の話をしているのだと悟る。
「しかしそれでは良い耳を持っているの説明がつかないな。」
「実を言えばお前のヴォイドを引き抜いたことが一度あるんだ。覚えてないだろうがな。」
「⋯マジか、」
「ヴォイドを引き抜かれるとその前後の記憶を失うらしい。その時のお前は避けられずに、俺にヴォイドを引き抜かれた。今回と何が違ったかというと、それは音楽を聴いていたか否かだ。あの時は聴覚を遮断していたからお前は避けることができなかった、という結論に至った。違うか?」
「その件については何も覚えてないけどな。あとそんなに警戒しなくて良いよ。数で明らかに不利なわけだし抵抗するつもりはねえよ。」
いつもの颯太のように笑顔で両手を上げる。
「集、大正解だ。俺の感覚は普通の人間とは出来が違う。人の息遣いやら何やらをやたら感じるんだ。だからお前がいくら姿を隠そうとも耳で分かる。」
「ただ、聴覚だけではないようだな。俺の腕を止めるなんて。」
「それなりには鍛えてるからな。」
トリトン以上、俺や八尋並みで、それなりで済まされたら困るものだ。
「それで、どうするつもりだ?俺を殺すか?」
「まさか。黙って協力してくれればいい。」
お互い笑みを浮かべたまま話す。
「テロ活動にか?」
「俺を信用してくれ。」
沈黙が続く。友人がテロリストに協力していることがわかり、さらに間接的ではあるが協力を頼んでいる。明らかに異常な状況だが、
「集が入ってるなら罪の無い人を虐殺するとかはしてないんだろ?仕方ない。ただ気を失うのは嫌だな。」
「それなら安心しろ。気を失わない方法もある。あと俺は一時的に協力しているだけでテロリストになった覚えはない。」
渋々でもヴォイドを貸してくれるようだ。やはり持つべきは友達だ。
「その理屈は通用しないと思うけどな。じゃあ、さっさと引き抜いてくれよ。そしたら帰るから。」
俺は颯太の手を取り、ヴォイドを引き抜いた。
「こんなのが俺の中に⋯」
「ありがとな。終わったら返すから。」
「気をつけろよ。くれぐれも。いのりちゃんのことも頼んだぞ!」
そう言って颯太は遥か向こうへと去っていった。
「行ったか。」
「おおトリトン。それに篠宮ちんちくりん月島四分儀さん大雲さんもいるでしょ。」
「バレていたのね。」
「ちんちくりんって言うな!」
皆がいろんなところから出てきた。
「しかし驚いたな。あいつには、」
月島が感心するように言う。
「楪に本気でうつつを抜かしてたから、最後の最後までホントに強いのか疑ってたんだけどな。」
「いのりんに好きな人がいるのを悟って身を引いたのかもね。」
「えっ⁉︎楪って好きな奴いるのか、」
猫耳の言うことに思わず驚く。楪が学校で男子とまともに会話しているのを見た覚えが無いので、かなり意外だった。
「嘘でしょ⋯」
信じられないといった態度を篠宮がとった。
「集の意外な弱点を知った。」
月島がしめしめと笑っている。
「ホント馬鹿集ね!」
「はぁ⁉︎意味わかんねえよ⁉︎」
猫耳のあまりにも理不尽な言い分に、抗議せずにはいられなかった。
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「警備の目はツグミが潰している。問題なのは内部だ。集、そのカメラでゲートを撮れ。」
施設の前までたどり着くと、トリトンは言った。
「はいよ、」
指示された通り、颯太から引き抜いたヴォイドをゲートへと向かい撃つと、
「ほう、これはたまげた。『開くヴォイド』とはまた強力なもんだ。」
ゲートが消えたのを見て、思わずそう言わざるを得なかった。
「行くぞ。」
そう言って足を進めるトリトンに俺も楪もついていくのだった。
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「どういうことだ?」
施設を進んでいたら、突然警告音が鳴る。こちらの行動がばれる余地はなかったはずだが、
「俺たちじゃないな、これは・・・」
そう言いかけたところでトリトンは言葉を止める。壁が下りてきて逃げ場をなくされそうだったのだ。
「急げ!」
俺がヴォイドで道を開くと、走り出すトリトンを俺たちも追いかけ始めた。
「集!」
背後から俺を狙う兵に楪が気づいたようだがその頃には、
「グヘァ!?」
俺の膝蹴りが相手の顎に入ったところだった。
「・・・行くぞ、」
特に気にすることなく、トリトンは先を急いだのだった。
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「チッ!!やはり貴様か!茎道!」
腹を立てた様子で、トリトンはモニターを銃で撃つ。
最奥地に着くも、お目当ての始まりの石はすでに無かった。
「こりゃしてやられたな。」
特に深刻に思うこともなく俺はつぶやいたのだった。
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桜満玄周の墓の前に、始まりの石を手にした茎道修一郎は立っていた。
「幸福な日々を思うよりなお、大いなる苦しみはなし。玄周、私は止まらんよ。」
墓の中で眠る玄周に茎道は言った。
「本当に止まらないと思ってるのか?」
「っ!?」
突如聞こえた少年の声に、茎道は戸惑いを隠し切れない様子で振り向く。するとそこには、
「修一郎伯父ちゃん。久しぶり、」
白々しい笑顔で手を振る義理の甥の姿があった。
「集君、久しぶりだね。」
動揺を隠すように言うが、深夜帯、このような場所で出くわすのは明らかに不自然だった。
「こんなところで何を?」
集が尋ねると茎道は、
「たまたま仕事で近くまで来たからついでに玄周の墓参りにね。そういう君も、こんな時間に墓参りかい?」
茎道の問いに集は答えようとはせずに、
「へえ、おかしなことをするもんだねえ。自分で殺したやつの墓参りなんて、」
「っ!?君こそおかしなことを言うもんだ。私が玄周を殺す理由がどこにあるんだい?彼は私の親友だったというのに、」
突然の集の言葉に、茎道は必死で平静を装うとするも、
「白々しいんだよ、とっくに調べはついてるんだ。まあ、あんたがそれで罪に問われることはないだろうがな。」
確信を持った様子の集に、いよいよ茎道は痺れを切らし銃を向ける。
「黙れ!それ以上何か言うようなら撃つぞ。」
突如険しい表情へと変化した茎道は集へそう言うも、
「いや黙らないね。あんたの企みは父さんに代わって阻止して見せるし、いずれあんたもぶっ殺してやる。首洗って待っとけ。」
自信に満ち溢れた表情で、茎道を指さし言ってのけた集に、茎道は銃を撃ったのだった。
「何っ!?」
しかし集が血を吹きだして倒れるようなことはなく、集は消えてしまうのだった。
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帰りの船、疲れたようで皆寝てしまい、起きていた俺と楪だけが外で海を見ていた。
「集はなんでそんなに強いの?」
突然楪は俺に尋ねてくる。颯太の件もあり気になったのだろうが、
「う~ん、どうしてと言われてもだな・・・」
確かに幼少期より鍛錬に励んだことは大きい。だがそれだけでは到底説明できない人間離れした力がある自覚もある。何度か考えたことはあったが、結局いつも答えは出ず、こんな結論に至るのだ。
「守りたいものがある者は強いってことさ。」
「うううっ・・・」
俺の言葉に、楪は納得いかない様子だった。
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