ミュウツーとミュウ   作:イグのん

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シンオウ初のポケモンバトル

振り返ったその先に居たのは一人の女性。

その容姿は正に才色兼備という言葉がピタリと当て嵌まるといっていいほどの金髪の女性である。

 

 

「シロナ君っ!! 何故チャンピオンの君が此処にっ!?」

 

 

「突然の来訪で驚かせてしまって御免なさい。

本当は直前に其方の研究員に連絡をしていたのですがどうやら刹那のタイミングだったようですね」

 

 

話から察するにどうやらこの女性がシンオウリーグのチャンピオンらしい。

 

 

「それより先程の申請の件ですが―――」

 

 

話を突如区切ると同時にミュウツーへと顔を向けるチャンピオン。

不意に目が合う。

此方を見るチャンピオンの瞳にはポケモンを包み込む不思議な優しさが籠められている気がした。

先程の研究員達の目とはまた違う不思議な感覚を漂わせている。

 

 

「君が噂のポケモンね」

 

 

「お前は」

 

 

「私の名前はシロナ。シンオウリーグチャンピオンをやらせてもらってるわ」

 

 

「私はミュウツー。カントー地方の―――」

 

 

「知ってるわ。君がニューアイランド諸島の研究所で『ミュウ』を元に創り出されたポケモンという事も。君を創り出したのがフジ博士という事も」

 

 

「何故、私の事を知っている?」

 

 

「シロナ君の祖母はシンオウのカンナギタウンでは有名な博士だからね。

 彼女も記事の内容を聞いていたのだろう」

 

 

ニューアイランド諸島爆発事故の資料自体は各地方に広まりつつある。

ましてナナカマド博士が知っているのだから祖母が同じ地方の博士であるチャンピオンがミュウツーの事を知っていても決して不思議では無いだろう。

 

 

「君はとても綺麗な目をしているわね。

 もっと殺伐な感じをイメージしていたのだけれど」

 

 

「元々の私は確かにそうだっただろう。

 だが人もポケモンも生きとし生ける者は成長する。

 それは私とて例外では無いという事だ」

 

 

「そうね」

 

 

そう言いながら私の頬に手を添えるシロナ。

その仕草や優しさはどこか懐かしいものを感じさせ――

 

 

「―――――ア…イ――――?」

 

 

不意にその名を呼んでしまった。

嘗て私の前から永遠に居なくなってしまった初めての友達の名前。

もう決して会う事の叶わない親友の名前を。

 

 

「フジ博士のお孫さんの名前ね。彼女とは知り合いだったの?」

 

 

「死の間際にテレパシーでな。お前と似た暖かい雰囲気を持つたった一人の友達だった」

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

悲痛な表情を浮かばせながらシロナは私に謝罪をする。

他人の痛みをまるで己自身の痛みとするそんな優しさが特にアイと似ていた。

 

 

「でもミュウツー。これだけは忘れないで。

 そんな数々の苦難を乗り越えてこそ今の貴方がいる。

 過去を悔やむのでは無く未来を変えるべきよ」

 

 

まるで母親の様に諭す様な優しい言葉。

不思議とその一言一言が心に響いてくる。

 

 

「しんみりした雰囲気になってしまったわね。

 私から言いたかったのはそれだけよ。

 長々と引き止めてしまってごめんなさい」

 

 

言いたい事が終おわると踵を返してシロナはこの場を去ろうとする。

だが、その歩みも直ぐに止まる事となる。

――何故なら――

 

 

「待て」

 

 

ミュウツーが静止の声を掛けてきたのだから。

 

 

「どうかした?」

 

 

「急にこんな事を頼むのは不躾かもしれないが私とポケモンバトルをして欲しい」

 

 

「「「!?」」」

 

 

ミュウツーからの突然のポケモンバトルの申し込みにシロナを含めるこの場にいた誰もが驚愕した。

それも当然、相手はシンオウリーグのチャンピオンなのだ。

その強さは現在の四天王ですら歯が立たない程である。

腕に覚えがあるトレーナーでも彼女に勝つのはほぼ不可能であるといってもいいぐらいだ。

 

 

「待ちたまえっ! 幾ら何でもチャンピオンとポケモンバトルとは――――」

 

 

堪らず周りの研究員達からの制止の声が沸きあがるがそれもシロナによって中断される。

 

 

「………野試合の申し込みなんて久しぶりね。一応理由を聞いてもいい?」

 

 

「私は嘗て最強のポケモン。また最強のポケモントレーナーとして恐れられていた。

 だが私の持つ強さとお前の持つ強さは何かが違う。

 故に私はお前が心に秘めている強さを知りたくなった」

 

 

「成程、……挑戦を受けましょう。博士、少し裏庭をお借りします」

 

 

「ウム、審判は私が勤めよう」

 

 

トントン拍子に進む話に研究員達は暫し呆然としている。

だがチャンピオンのバトルが見れる絶好の機会に意識を取り戻し各々がその幸運に歓喜していた。

今より始まるのは嘗てのカントー地方最強のポケモンとシンオウリーグチャンピオンのポケモンバトル。

最早想像を絶する戦いが容易に想像できてしまうポケモンバトルなのだ。

ポケモンバトルに一度でも身を置いた事のある者ならば歓喜する事も寧ろ必然と言うべきかもしれない。

 

 

裏庭に移動したミュウツー達はさっそく各々がバトルの準備に入っていた。

 

 

「使用ポケモンは1体。戦闘不能になった方の負けで良いか?」

 

 

「構わないわ」

 

 

バトルの最終ルールを確認するとモンスターボールを構えるシロナ。

今よりミュウツーのシンオウ最初のバトルが開始される。

 

 

「天空に舞え――ガブリアスッ!!」

 

 

繰り出されるモンスターボールから飛び出したのはガブリアス。

フカマルの最終進化形であり、空中を高速で舞うその姿から

マッハポケモンと称されるドラゴン・じめんタイプのポケモンである。

 

 

「ガアアアアアーーーーーッッ!!」

 

 

只ならぬ威圧感と風格。

それだけでも目の前のポケモンがどれ程強いのかが容易に想像できる。

だがそれも当たり前と言えば当たり前だ。

何しろそのガブリアスのパートナーはこのシンオウ地方で最強のトレーナーなのだから。

 

 

「さあミュウツー、貴方のポケモンがまだの様だけれど」

 

 

急かす様にシロナが放つ言葉もある意味での期待だった。

このポケモンバトルはミュウツーを一人のトレーナーと認識した上でのバトルなのだ。

更に相手は嘗てカントー地方で最強のポケモントレーナーとして噂されている。

ならば相手が何を思いポケモンを繰り出すのか。

何を考えた上でどの様な戦術を繰り出してくるのか。

同様の高みへ存在する者同士興味を抱かない筈がない。

 

 

「此方のポケモンは――――お前だ」

 

 

シロナのガブリアスに合わせてミュウツーが繰り出したポケモン。

それは唐突にガブリアスの眼前に姿を現した。

 

 

「ミュウミュウ、ミュウ~~♪」

 

 

気付けばシロナは唯々そのポケモンを驚愕の表情で見ていた。

今自分が見ている光景は果たして現実なのかと疑ってしまう程に。

 

 

「貴方は―――――」

 

 

辛うじて絞り出した言葉に歓喜が入り混じっている事が自分でも良くわかる。

噂だけならポケモントレーナーに成り立ての頃から何度も聞いた事があった。

そしてニューアイランドの爆発事件以来正式に明かされる正体。

以前姿が描かれた一枚の石版の資料を見せてもらった事がある。

その名前を忘れた事は無い。

世界で一番珍しいポケモンである。

そして私がポケモンの神秘について興味を持ち始めた切欠でもある。

そのポケモンの名前は―――――

 

 

「ミュウ」

 

 

ミュウツーの言葉でその記憶が確信となる。

目の前にいるポケモンは紛れも無くミュウなのだ。

溢れかえる至福感でシロナの胸中は一杯になる。

だが、いつまでも呆けては要られない。

今はポケモンバトルの真っ最中であり戦いの最中に気を緩めるなど言語道断もいい処だ。

 

 

「まさか幻のポケモンを目の前で見られるなんてね。貴方との出会いには感謝するわ」

 

 

「その言葉はバトルが終わった後で聞きたかったがな」

 

 

「新米トレーナーに指摘されるなんて、私もまだまだね」

 

 

それは未熟というには余りに小さな隙である。

ミュウに遭えたという奇跡に我を忘れ歓喜した。

しかしそれも無理は無い、寧ろ歓喜する事が必然と言っていい。

何しろ全てのポケモンの始まりとも伝説では謳われているポケモンだ。

地方が違うとはいえ時空伝説という神話について研究するシロナにとって未知の存在と言っても過言ではない。

 

 

「さて、それじゃ気を取り直して。ミュウツー、先攻をどうぞ」

 

 

「ミュウ、『へんしん』だ」

 

 

ミュウツーの命令でミュウが行ったのは変身。

その名の通り対戦相手と全く同じ姿になりステータス及び技まで完全にコピーする技である。

 

 

「ガアアアアアアアッッ!!」

 

 

変身したその姿は対峙するガブリアスと同様。

ガブリアスVSガブリアス

己のポケモンをどれ程理解し信頼しているか。

 

 

そんなトレーナーの資質が試される勝負が開始された。

 

 

「ミュウ、ドラゴンダイブッ!」

 

 

「ガアアアアアアッ!!」

 

 

指示を受けて先に仕掛けたのはミュウ。

飛翔した直後急降下からのドラゴンダイブを繰り出す。

“ドラゴンダイブ”

大量のエネルギーを身に纏い相手へ突進する技でありその迫力は技を受ける相手を怯ませる効果を含んでいる。

トレーナーの指示が遅れようものなら直撃は免れないがシロナはそんな甘い相手ではない。

 

 

「ガブリアス、あなをほるっ!」

 

 

「ガアアーーっ!!

 

 

ドラゴンダイブが届く前にガブリアスは穴を掘り地中へと避難する。

相手を見失った事でミュウも攻撃を中断し上空から様子を窺っていた。

 

 

『ミュウ、そのまま上空で様子を窺え。

 必ずガブリアスは地中から何かしらの行動を起こす。

 現れた時に再度ドラゴンダイブで攻撃だ』

 

 

『ガアッ!』

 

 

ガブリアスが掘った穴から此方も穴を掘り追跡する方法も考えたがミュウツーはその方法を取らなかった。

その理由はガブリアスにあった。

ガブリアスは元々シロナのポケモンである。

ならばシロナはガブリアスの事について誰よりも理解しているだろう。

故に姿を隠して此方の攻撃を誘う戦術も十分に考えられるからだ。

 

 

そして戦況が動いたのは数刻後だった。

小さな地響きと共に地面のとある一カ所に亀裂が走る。

それはミュウツーが狙っていたガブリアスの現在地を知らせる合図。

 

 

「ミュウ、亀裂に向けてドラゴンダイブッ!」

 

 

「ガアアアアアアアッ!!」

 

 

次第に大きくなる亀裂へ向けてミュウはドラゴンダイブにより突進を開始する。

そこからガブリアスが出現する事は間違いない。

ならば出現地点からカウンターの要領で繰り出されたドラゴンダイブが躱される事は無い。

それ故の判断だった。

 

 

しかし、

 

 

「ッッ!?」

 

 

ミュウツーは一瞬だが確実に感じ取っていた。

今にも崩れかねない亀裂の部分から発せられるミュウのエネルギーを凌ぐ凄まじい量のエネルギーに。

 

 

「ミュウッ! 攻撃を中断し回避行動を取れっ!」

 

 

「ガアッ!?」

 

 

突然の回避指示に一瞬戸惑うミュウだが迷いを振り切りドラゴンダイブを中断する。

それと同時に地中からガブリアスが飛び出し一直線にミュウへと突進を繰り出す。

しかもその姿は

 

 

「ガアアアアアーーーーッッ!!」

 

 

自身を覆い尽くす気に覆われているガブリアスだった。

 

 

「今だミュウッ!」

 

 

「ガアッ!」

 

 

俊敏な動きでミュウはなんとか直撃を免れる。

正に刹那のタイミング。

一瞬でも回避が遅れていれば勝負は終わっていただろう。

 

 

「地中からの攻撃は奇襲の筈だったのだけれど。

的確な行動を瞬時に分析する力と判断能力。

トレーナーとしての資質も十二分と言った感じね」

 

 

「―――先程の技は?」

 

 

「アレは『ギガインパクト』。

想像通りドラゴンダイブを上回るエネルギーを身に纏い相手へ突進する技よ。

尤も技が命中した後はその強力過ぎるエネルギーの反動から使用したポケモンも動けなくなるのだけどね」

 

シロナの説明は正に真実。

先程感じたエネルギーは正に相手を一撃で戦闘不能へとしてしまう程だった。

その強さは使用ポケモンに影響を及ぼしてしまう程に。

 

 

「カントー地方では決して見る事の叶わなかった技か…。

これが旅の醍醐味というものなのかもしれないな」

 

 

「そうね。今まで知らなかった未知なる存在を知る歓喜。

それは人もポケモンも同じであると私は思うわ」

 

 

自分の知らない世界がまだ沢山広がっている。

未知という未知が溢れ返ってある。

その事実に少なからず私は歓喜に打ち震えていた。

歓喜から来る躍動感は間違いなく私がポケモンとして、そしてトレーナーとして生きている何よりの証拠。

嘗ての問答の答えを私は間近に感じているのだから。

 

 

「お前には礼を言わなければならない。

お前のお陰で新たな一歩を踏み出す事が出来そうだ」

 

 

「先程の言葉をそのまま返すわ。

その言葉はバトルが終わった後で聞きたかった」

 

 

「そうか、……私とお前は何処か似ているな」

 

 

「そうね。誇張かもしれないけど私も貴方も頂点に上り詰めた存在。

でもそれは飽くまで私達が知る範囲での話。私達の知らない所にはもっと強い者がいる。

貴方はそんな存在とバトルをしたいと思っている。違うかしら?」

 

 

「確かに―――お前の言う通りだ」

 

 

「一つ聞いてもいい。それはポケモンとして? それとも……トレーナーとしてかしら?」

 

 

「それは……」

 

 

予想外の質問に戸惑うミュウツー。

私は間違いなくポケモンとしてこの世に生を受けた。

しかし今はトレーナーとして旅を続けている。

どちらの道を歩む事も出来る故に生まれた選択肢だが、

その選択肢に対しての答えなど早々に出せる筈も無く答えが纏まらない。

 

 

「ミュウツー。悩む事は無いわ。貴方には貴方の意志がある。

ポケモンであれトレーナーであれ貴方が貴方で有り続ける事。

それがあなたにとっての最善だと私は思う」

 

 

「それが最善だというのなら、今私はトレーナーとしてお前に勝つ事を望むっ!」

 

 

「なら私も一人のポケモントレーナーとして貴方に勝負を挑む事にするわっ!」

 

 

中断されたバトルが再開する。

片やギガインパクトからの反動から脱出したガブリアス。

片やギガインパクトによる直撃を辛うじて免れたミュウ(現在はガブリアス)。

 

 

互いの状況はほぼ五分五分と言ったところだろう。

クリーンヒットは無く、ダメージも皆無同前である。

 

 

「ミュウ、『かわらわり』!」

 

 

「ガブリアス、此方も『かわらわり』」

 

 

「「ガアアアアアッ!!」」

 

 

急降下するガブリアスの瓦割りと

地上から急浮上するミュウの瓦割りの鍔迫り合い。

互いに同じステータス故通常はその力に差が生じない。

だが現実は違っていた。

 

 

「ガアッ!?」

 

 

「何っ!?」

 

 

ミュウの方が力負けし始め鍔迫り合いは完全にガブリアスが主導権を握っているのだから。

だがその結果に至る理由が思いつかない。

何故受けたダメージにもステータスにも差が無いのにも拘わらずミュウが力負けするのか。

いや、そもそも何故シロナは同じ瓦割りでの鍔迫り合いに態々応じてきたのか。

他にやり様が幾らでもある中でシロナが選んだ戦術は効率が良いとはお世辞にも言い難い。

にも拘わらずシロナは躊躇いも無くこの戦術を選んだ。

そう、まるで鍔迫り合いの結果が初めからこうなる事を知っていたかの様に。

 

 

「―――まさか…」

 

 

そこまで考えると同時に嫌な予感がミュウツーを襲う。

シロナは鍔迫り合いの結果がこうなる事を分かっていたのではないか。

効率の悪い戦術を迷い無く選んだ事も納得がいく。

ならば必然的にその原因もシロナは知っている。

本来なら開かない筈の差が開いた原因を―――。

 

 

「となれば考えられるのは―――」

 

 

謎を解明していくと共に明かされていく真実。

そこから導き出される答えはただ一つ。

 

 

「ガブリアスの『ギガインパクト』かっ!!」

 

 

遅まきながらも真相にたどり着くミュウツー。

そう、思えば何故ガブリアスは勝負が再開される前に反動を受けていたのか。

 

 

『アレは『ギガインパクト』。

想像通りドラゴンダイブを上回るエネルギーを身に纏い相手へ突進する技よ。

尤も技が命中した後はその協力過ぎるエネルギーの反動から使用したポケモンも動けなくなるのだけどね』

 

 

あの時のシロナの説明が正しければガブリアスが反動を受ける筈がない。

紙一重とはいえ確かにミュウはギガインパクトを避けたのだから。

だが実際はガブリアスは反動を受けていた。

そして鍔迫り合いに途中から生じ始めた力の差。

 

 

そう、結果としてあの時ガブリアスのギガインパクトはミュウの片翼を掠めていた。

そのダメージが時間差となって鍔迫り合いの最中に表れてしまったのだ。

 

 

「ガブリアス、そのまま押し切りなさいっ!」

 

 

「ガアアアアアーーッ!!」

 

 

振り抜かれるガブリアスの瓦割り。

鍔迫り合いに敗北し瓦割りを直撃で受けたミュウは地上へと叩きつけられる結果となった。

 

 

「ガ…ガア…」

 

 

戦闘不能ではないものの多大なダメージを追ってしまったミュウの動きは明らかに鈍っていた。

当然その好機を見逃すシロナではない。

 

 

「ガブリアス、『ドラゴンダイブ』ッ!」

 

 

「ガアアアアアーーッ!!」

 

 

非常に不味い。

唯でさえ鍔迫り合いに負けて勝負の流れを持って行かれた上にこれ以上のダメージは戦闘不能に成りかねないからだ。

 

 

「ミュウ、『ギガインパクト』ッ!」

 

 

回避行動が取れない以上迎え撃つ以外にない。

そう考えたミュウツーは今のミュウが持てる

最高の威力を持つギガインパクトを選択する。

決してミュウツーの選択は間違っていない。

それは考える限り最適な行動を指示していたといっても言いだろう。

しかしミュウツーは直ぐに思い知る。

 

 

シロナがその選択のさらに上をいっていた事に。

 

 

「ガアアッ……アア……」

 

 

思い知る切欠となったのはミュウの怯み。

それはガブリアスのドラゴンダイブにより齎されたのだ。

元々ドラゴンダイブは強烈なエネルギーと共に相手に体当たりする技であり、この技には相手を怯ませる効果も含まれている。

そしてこの怯みとは自分が優位であればある程その効果も上がるのだ。

鍔迫り合いの敗北直後のガブリアスのドラゴンダイブにミュウは完全に怯んでしまい動けなくなっていた。

 

 

回避も迎撃も出来ない。

それは事実上の直撃宣告でもあった。

 

 

「ミュウ~~~……」

 

 

その結果ガブリアスのドラゴンダイブが直撃し露わになったのは変身が解けて元の姿に戻った状態で気絶しているミュウの姿だった。

 

 

「ミュウ、戦闘不能っ!! よってこの勝負チャンピョンシロナの勝利っ!!」

 

 

審判をしていたナナカマド博士の判定が下る。

結果はミュウツーの敗北に終わった。

 

 

最強と称された自分の初めての敗北。

だが不思議と敗北感や屈辱感は無かった。

寧ろ心から湧き上がるのは全く逆の感情だった。

 

 

私にとっての初めての超えるべき相手が出来た。

それは言うなればライバル。

好敵手という存在を漸く私は見つけたのだから。

目標が出来た事で進むべき道も自然と定まっている。

ならばやるべきことはただ一つ。

いつか必ず好敵手であるシロナより強くなる。

それだけで私はこの先の何処までも進む事が出来るから。

 

 

「済まないな、ミュウ」

 

 

(キュ~~~)

 

 

完全に気絶しているミュウへ労いの言葉を掛けながら治療を開始する。

それは自己再生の応用だった。

以前女医からポケモンの体について詳しく聞いていたミュウツーは治療に関してかなりの知識がある。

その知識と自分の高い能力を併せる事で即席の治療を可能としていた。

とはいえ、この治療は遺伝子パターンが酷似しているミュウが対象だからこそ出来る芸当であって他のポケモンには施す事が出来ない。

ミュウ限定の治療という訳だがこの場に限って言えば十分過ぎる応急処置である。

 

 

「………ミュウ……?」

 

 

「気が付いたか」

 

 

「―――ミュウ~~」

 

 

自分達が負けた事を認識したのか。

目に見える程ミュウは落ち込んでいた。

そう、勝ちたいと思っていた気持ちはミュウもミュウツーも同様なのだ。

ならば勝負に負けたミュウが平気である訳がない。

 

 

「お前が落ち込む必要は無い。お前の力を引き出せなかった私の責任だ」

 

 

「ミュウ~♪」

 

 

そう言い、ミュウの頭を撫でるとミュウはとても気持ち良さそうにしていた。

まるでその姿は顎を撫でられている猫の様だった。

 

 

「シンオウ地方での初めてのバトルとは思えない良いバトルだったわね」

 

 

ガブリアスを回収し此方へと歩み寄るシロナ。

決して楽勝とは口にせず相手を褒め称えるその姿は彼女がポケモンに向ける慈愛の心に満ち溢れていた。

 

 

そして対峙すると同時に差し出されるシロナの右手。

それは誓いの握手。

何時かライバルとしてもう一度戦おう。

そんな心の奥底の願望が声となって聞こえてくる様だ。

 

 

「これ程充実したバトルは久しぶりだ。礼を言う」

 

 

そしてミュウツーも右手を伸ばす。

結果交わされる好敵手としての証の握手。

それはどんな誓いよりも重い意味を持つモノだった。

 

 

「――全ての命は別の命と出会い、何かを生み出す――」

 

 

「何かの言い伝えか?」

 

 

「ええ、私が調べているシンオウ時空神話に纏わる言い伝えよ。貴方には是非覚えていて欲しかったの」

 

 

「そうか…」

 

 

「名残惜しいけれど私はそろそろ失礼するわ」

 

 

「ああ。次は私が勝つ」

 

 

「フフッ。じゃあその時はシンオウリーグ決勝で会いましょう」

 

 

去っていくその後ろ姿は何処までも凛々しく気高かった。

先程まで自分とポケモンバトルを繰り広げていた相手が如何に強大なのか。

決して自惚れていた訳では無いがミュウツーは己の未熟さを痛感するのだった。

 

 

「如何だったかな。彼女とのポケモンバトルは?」

 

 

「強かった。…私は嘗てあれ程強いポケモントレーナーを見た事が無い」

 

 

「彼女も幼き頃は君と同じ様に只管強さを求めていた。

だが、戦いの中で学んだのであろう。ポケモンとの絆が如何に大切なのかを」

 

 

「それがアイツの強さの起源という訳か」

 

 

持つべき強さの種類は真逆。

だがその過程は酷似していた。

ならば私も何時かはシロナの様な強さを手に入れる事が出来るのだろうか。

 

 

『――全ての命は別の命と出会い、何かを生み出す――』

 

 

彼女はそう言っていた。

その言葉を信じてみるのも悪くない。

そして何時か私の全てが別の生命へと受け継がれていく。

 

 

そうやって一つの命はまた別の命と接触し新たな何かを生み出していく。

それは世界で生きるあらゆる生命に共通するのだろう。

決して尽きる事は無く、無限に広がる可能性。

そう思うだけでも世界が如何に広いのかをミュウツーはその身で実感する。

 

 

「挑戦するのだな―――シンオウリーグに」

 

 

「ああ。私はどうやらアイツに魅せられた様だ」

 

 

初めて喫した敗北を胸に刻み込み、ミュウツーは彼女との再戦を誓う。

次こそは負けられない。

負けて終わるなど最強のポケモンと謳われたミュウツーのプライドが許さない。

 

 

「ならば私から言う事はもう何も無い。君の旅に幸運を祈っているよ」

 

 

ミュウツーを見送るナナカマド博士と研究員達。

紆余曲折が予想される彼の旅の始まりを博士達は心から祝福し送り出すのだった。

 

 

「ミュウー! ミュウッ」

 

 

「次は必ず勝つ…か。頼もしい言葉だな」

 

 

「ミュウ~♪」

 

 

一人のトレーナーによって更なる成長を見せるミュウツーとミュウ。

彼ら2匹の旅はまだ―――始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミュウツーとミュウ『座談会』

 

さてさて、読者の皆様おはこんばんちは。

作者のイグのんです。

唐突に始まりました当作品の座談会ですが司会進行は基本として私が行おうと思います。

それではこの作品の主人公お二人の登場していただきます、どうぞっ!!

 

 

「失礼させてもらう」

「ミュウ~♪」

 

 

ようこそいらっしゃいましたミュウツーにミュウ。

 

 

「……来て早々で済まないが、作者であるお前に幾つか聞きたい事がある」

 

 

おっ、来て早々にクエスチョンですか?

勿論大歓迎ですからどんどん質問して下さいよ!

あ、因みにあまりネタバレに繋がる質問はお答えしかねますからね。

 

 

「わかっている。それで質問だが、……何故パートナーにミュウを選んだ?」

 

うーむ、行き成り物語の核心に迫る質問ですね。

一番の理由は後々の物語で語られるのでスルーパスしますが、理由の一端を答えておきます。

ズバリ、ミュウツーのポケモントレーナーとしての才能を遺憾なく発揮できるパートナーとして一番相応しかったからですねっ!!

 

 

「ミュウ?」(首を傾げている)

 

 

「……成る程、全てのポケモンの遺伝子を持ち、全ての技を使えるミュウの力を私がトレーナーとしてどこまで引き出してやる事が出来るのか―――そういう趣旨という訳だな」

 

 

有り体に言ってしまえばそうですね。

また、一番初めに貴方にシロナさんを引き合わせたのは『上には上が居る』という事を認識させる為でした。

……まぁその他諸々の事情はある訳なんですが。

 

 

「わかった。では第2の質問だ。……何故シンオウ地方を選んだ?」

 

 

それはですね……たった一つの、たった一つのシンプルな答えです。

シンオウ地方を選んだ理由、それは―――『シロナさんが大好きだからっ!!』…という超個人的な理由なんですよねーコレが。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

……な、何ですかっ!? 二人してその冷やかな視線はっ!!

べ、別にやましい事は考えてませんからねっ! 本当ですからねっ!!

 

 

「ミュウ~~♪」(良い笑顔を浮かべながら作者の目の前に移動し)(瞳の色が変化)

 

 

『ミュウの催眠術攻撃』

 

 

ちょっ!? ミュウそれ反則だってっ!!

マジで止めてお願いっ!!あっ、ああああっ――あああああああーーーーっっ!!

 

 

―――ミュウの催眠術による尋問中―――

 

 

「………やれやれ、慌しくなってしまったが今回の座談会はこれで終了だ。また会おう」

 

 




流石シロナさんです。正直パネェです。
互いにライバルとして認め合った二人が今後どうなっていくか楽しみですね。
アニメのガブリアスもチート乙っていう位のデタラメっぷりですのでご了承を(笑)
シロナさんの言葉は何故か心に響きますね。
やはり彼女の慈愛がそうさせるのでしょうかね。
シロナのポケモンを繰り出す際の決め台詞はアニメ版の伝統です。
書き溜めはしない方針ですのでご了承下さい。
今後も『ミュウツーとミュウ』をよろしくお願いします
それでは!!


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