【急募】IS世界で生き残る方法【助けて】   作:ポブラノ

39 / 39
インターンシップとか言う誰も得しないイベント撤廃しろ委員会開設


閑話 誰かの悪夢

[side:一(ハジメ)]

 

 

 8月に入ってすぐの熱帯夜。この時期になると嫌でも見る夢がある。

 

それはある意味、俺の根幹になっているもので、心の根っこに深く深く突き刺さった錆びた杭である、とある出来事を追体験する夢だ。

 

その夢の中で決まって俺は薄暗く汚れていて、ボロっちいアパートの一室に居る。

そこに敷かれた布団に横になった状態で動けない。

勿論、視界も動かすことはできない。瞬間接着剤で固く接着されたようにがっちり固定されている。

俺は定点カメラのごとく視界に映るボロアパートの天井と常夜灯のオレンジ色の明かりを灯す電灯を観察することしかできない。

 

 

 

そうそう。こんな風に、時折風で揺れる窓の音と遠くの喧騒が聞こえてくるのだ。

 

 

 

……ふむ。やはり俺はこの時期に決まって見る悪夢を見ているようだ。しかも今回はいわゆる明晰夢。

だがしかし、意識がはっきりとしている癖して体はピクリとも動かない。人によっては明晰夢の中で自由に行動できる人もいるのだから、それをホモサピエンスの標準機能として搭載していて欲しかった。

 

口の中で文句を転がしていると、不意に部屋の扉が開け放たれた音が鳴る。

 

 

あぁ、やっぱり始まった。

 

 

畳を踏みしめる音が続いて、視界に長い髪の女が現れる。身の丈は大体の目測で160cm有るかどうか。体型は…暗がりでぼんやりとわかる程度であるがやや肥満と言った程度か。

頭頂部だけ黒髪で残りは金髪。

俗に言うプリン頭のこの女は俺の顔を真上から覗き込んで睨みつける。

 

彼女の髪の隙間から覗く黒い瞳は焦点が合わず、瞳孔は小刻みに揺れていて明らかに正気ではない。

 

ギリギリとプリン頭から出る歯ぎしりの音が耳朶を打つ。

 

突然、安っぽくて薄いだけのネグリジェに身を包んだ女はするりと自然な動きで寝転がる俺に馬乗りになる。

 

女が近づいた為彼女の匂い、形容するならば安物の香水と、ドブ川の水とヨーグルトとを全部混ぜたような悪臭が鼻孔に流れ込む。

 

 

 

この辺りの質感が妙にリアルでどうにもこの夢は慣れない。実体験と言うものはこうも体に染み付くものだとは。

 

 

白魚のように、と形容するには違和感を覚えるような歪で細い指が俺の顎を撫で、そのまま下って首を伝い喉元へ。

 

するりと指が首を包み込んだ。

 

両の手で俺の首を掴んだ女はドス黒い瞳で俺を見下ろす。

 

不意に、首を掴む力が強くなる。

 

 

「カッ…!ヒュッ…!?」

 

反射的に俺の喉の奥から飛び出したかすれた音を無視して女は俺の首を絞め続ける。

 

 

 

 

徐々に、

 

徐々に、

 

首に伝わる力が強くなっていく。

 

 

血管を締め上げると言うよりは気道を押さえつけて呼吸を直接止める絞め方。このやり方ではすぐ気絶することができず苦しむ時間が長くなる。

すなわち純然たる憎悪でもって眼前の女は俺の首を絞めているのだ。

 

 

この段階になってようやく体が俺の指示を受け入れるようになったがもう遅い。すでに俺の頭には酸素が十分に届いてはおらず意識がじわじわと底なし沼に引き摺りこまれていくかのように遠くなる。

 

 

血流が詰まり、歯茎が熱くなる。

瞼に間

白い光が爆ぜる。

無意識のうちに体が酸素を求め、鯉のように口が開閉する。

泥中を藻掻くかのように手足をばたつかせるが俺の上に陣取る女はピクリとも動かない。

 

 

段々と、意識が遠のいていく。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたが、あなたが裏切るからいけないのよ…」

 

酒に焼けた女声が朦朧とした頭に響く。

 

 

 

 

眩む視界の中。俺が最後に見たのは暗い光をたたえた女の黒い瞳であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

意識が再浮上した俺を出迎えたのは見知った天井。IS学園の寮の一室であった。

 

「ふぅ…はぁ…」

 

乱れた呼吸を整えながら左腕で頭を掻きむしる。ジクジクした痛みを帯びた側頭部がひたすらに鬱陶しい。

 

 

 

こちらに生まれ直してからそれこそ何百回と見てきたテンプレ通りの夢であったが、あの悪臭が、常夜灯のオレンジが、首を絞められたあの感覚が影法師めいて俺を追い続ける。

 

なんともままならないものである。

 

 

「ん…むぅ…」

 

不意にタオルケットの中からあどけない声が聞こえた。

 

ちらりとタオルケットの中を覗くと、俺の右腕があった場所にラウラが眠っていた。ちなみに俺が贈ったTシャツを着ている状態だ。俺の社会的地位の為にもこれは明言しておかねばな。

 

俺の体に手を回し抱き枕代わりにしながら、穏やかな寝顔でスヤスヤと眠っている。

明日から帰国して専用機に仕込まれていたVTシステムについてなんやかんやするとか言っていたが、なんとも暢気なものである。

 

いや、目下の問題が一夏によって暴かれ、一先ずの鎮静化が成功しているのだからこの反応は正常か。

 

そんなことよりもだ。ラウラは何時まで俺の方に居るのだろうか?

 

俺のような陰険な男よりも、一夏の方が良いに決まっている。

それなのに何故?

 

 

 

…ただまぁ。

前世からずっと焦がれていた人に懇意してもらうと言うものは中々に気分が良く、ついついこのままでいいか。等と言う考えが首をもたげてくる。

 

 

 

いかんいかん。俺の自己満足にラウラや簪さん達を巻き込んでしまうのは流石に憚られる。

俺の置かれている立場を鑑みれば、彼女らがもし俺とこ…恋仲

になったとしても。

俺が被検体として研究所に送られるのを見送るendが濃厚なのだ。

 

俺が一定の成果を上げればその限りではないし、お袋や会長の存在もあるからそうそうこんなことにはならないとは思うが、1万分の1でもその可能性が残っているのならむやみやたらと彼女らに近づかない方がお互いの為であろう。

 

 

……そんな状況で女性を複数人キープして好き勝手やってる俺ってばかなりのクズなのでは?

 

 

自己嫌悪やら何やらが渦巻く頭をどうにかしたくてひたすらに天井を眺めることにした。

 

「あぁホント、俺って最低だな」

 

 

結局その晩は痛みを帯びた頭のせいで眠れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

[side:千冬]

 

 夏休みの最中の八月。私はIS委員会の職員として参考人兼実働要員のボーデヴィッヒを伴いドイツにあるVT(ヴァルキリー・トレース)システムの研究所への監査に向かうことになった。

 

これまで通りであるならば、あんなものが発覚した次の日にはア(・)イ(・)ツ(・)が消しゴムを紙に掛けるかの如く地上から研究施設が無くなっているのだが。こと今回に至っては何の音沙汰もないが故の強制捜査である。

 

しかし、アレがこのことに気づいていないなんてことはあり得んだろうから故意に見逃したと見える。

 

裏の繋がり?それとも単純に優先順位が下がっている?

 

思考を巡らしても彼女の動機(こと今回に限って言えば何故動かなかったかであるが)のそれらしい答えは浮かばない。

これでは腐れ縁失格だな。

 

自嘲の笑みが不意に浮かぶ。

 

 

 『皆様おはようございます。この飛行機は日本航空、デュッセルドルフ国際空港行き…』

 

流れ出したフライトのアナウンスによって思考の海から引き上げられた私がふと目線だけ横に向けるとやけに上機嫌な様子の教え子(ボーデヴィッヒ)。少し前までは考えられないようなにこやかな表情で、ふとした瞬間に赤面したり悶えたりと。恋に恋する少女の見本かのような挙動だ。

 

何があったか、等と今更聞く必要も無いがこれからIS委員会の監査に参加すると言うのにこの様子では不都合か。

 

どれ、1つ世間話と言うやつをしてやろう。

 

「…何かあったのか?」

 

「きょっ教か「織斑先生、だ。」織斑先生、何処で気づいたのですか?」

 

どうやら一丁前に隠し通せていたつもりだったらしい。

 

「その、なんだ。全体的に浮かれていたからな」

 

「ぜっ、全体的に…!?」

 

見るからに狼狽えるボーデヴィッヒの姿に思わず口角が上がる。

 

「それで、何があったんだ?まぁ、おおよそ予想は付くが。」

 

「うぅ…クラリッサ達には私から言うので秘密にしてください…」

 

 

「分かった分かった。ほらキリキリ吐け。」

 

この前の臨海学校でも思ったがかなり変わったというか、恋愛(スイーツ)脳と言うか。老婆心ながらコレの将来が不安である。

 

「その…ですね。はっ、一(ハジメ)に…家に来ないかって、さっ誘われました…」

 

「ほう。アイツにしてはやけに積極的だな。サシか?」

 

「サっ!?…いえ、舞い上がってしまい聞く機会を逃してしまい…」

 

「なんだ。変なところで日和りおって」

 

「で、ですがっ!あの一(ハジメ)が誘ってくれたのですから…嬉しさのあまりつい…」

 

自分から嫁にするだ何だ言っていた人物だとは思えないような初々しい言動。やはりあの日本アニメ好きの副官(クラリッサ)が原因か。

今のところボーデヴィッヒへの悪影響、は……顕在化して無いだけにしか見えんな。後でこってり絞っておかないとだ。

 

「…そういえば、何故一ノ瀬に惚れたのか聞いてなかったな。」

 

大きく肩を跳ねさせるボーデヴィッヒ。

 

「臨海学校ではデュノアに押し付けていたものな。」

 

再びビクリと震える教え子の肩。段々と愉快になってきた。

 

「なぁに、私とお前の仲だ。不用意に漏らすなんてことはしない。」

 

「本当ですか?」

 

「あぁ本当だ。私が嘘をついたことがあったか?」

 

「………うぅ、分かりました。」

 

弱弱しく答えたボーデヴィッヒはポツリポツリと胸中に秘めていたものを語り出した。

 

「初対面の印象ですが…どこか織斑先生に似ていたのが記憶に残っています。」

 

「ほぉ。」

 

「なんと言うべきなのでしょう…どこか一歩引いて物事を見ていると言うのでしょうか、自分の事なのに他人事のように見ていると感じました。」

 

「……なるほど。」

 

「そして彼の方から関わってきて次第に…頼っても良いのかと考えるようになって…」

 

「ほぉ」

 

「それに加えて、タッグトーナメントの時の彼が弱っていたのを見て、恩返し、と言う訳ではないですが頼ってもらいたいと思うようになりまして…

それを、クラリッサに相談したところ、それは恋だ、と言われまして…」

 

「成程。」

 

「自覚してからは彼を見るだけで心臓が締め付けられるような感覚に襲われるようになって…」

 

そこまで行ったところでボーデヴィッヒは顔を熟れたリンゴのように赤くして黙り込んでしまった。

 

なんと言うか…庇護欲や親愛がない混ぜになった感情を恋と呼んでいるように見える。

 

「そうか…せっかくの青春だ。楽しむと良い。」

 

「っ…はいっ!」

 

だいぶ落ち着いたようだ。

 

しかしどこか危うく感じるのは私に色恋の経験がない故か?

 

すっかりいつもの調子に戻った彼女を尻目にふとそう思った。

 

 

 




イッチ
・余裕が出来たら過去が背中を刺してきた
・体験入学前で緊張している
・嫌いな物:タバコの煙

ラウラ
・アプローチされてウキウキ
・VTシステムに関する強制捜査はつづかなく済んだ
・嫌いな物:強いて言うなら危害を加えてくる物

千冬先生
・色々起こり過ぎて若干寝不足
・嫌いな物:特に無し

この章はイッチこと一ノ瀬一(ハジメ)の前世、過去について掘り下げるつもりです。

Ifルート(ほぼバットエンド)

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。