神の都合により殺されてしまった少年武田伸治(たけだしんじ)は、どんなものでも複製できる力と、どんなものでも合成することができる力を授かった。授けた側からの願いは、人類を脅かす魔王と、それを裏から操る邪神を倒してほしいというもの。死んでしまったものは仕方ないと言い聞かせた伸治はその力を持って無双する。

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複製と合成があればそりゃ勝てる

神様に特典あげるからファンタジー世界の魔王と邪神を倒して、と言われたからとりあえず聖剣を入手して自分の技量を上げるためにダンジョンに潜っている。

最初は辛かった。子供の頃の純粋な心でカエルを殺したり蟻を殺したりするのとは訳が違う。ゴブリンやらコボルトやら、現代の漫画や小説なんかでみたことがある存在を倒すというのはそれはもう精神をすり減らした。でも、なんか慣れた。むしろ途中からは楽しんでた。それがいけなかったんだろう。現地人との交流に失敗してソロでの攻略を余儀なくされている。

自分としては余計な邪魔が入らなくていいのだが、それでもやっぱり綺麗な女の子でパーティーを固めてみたかった。

今の俺の二つ名は『狂人』である。携えている聖剣パワーを以ってしてもその二つ名から解放されなかった。一体俺はどれだけの悪行を重ねたのだろうか。

 

「あ…」

 

変なことを考えている間にいつのまにかモンスターに囲まれていた。ここは大部屋だ。巨大なモンスターでも数十匹は入る。現在俺の目の前にいるのは一体だけで世界を崩壊させられるとかいうエンシェントドラゴンさんだ。ダンジョン製なのでエンシェントとついてはいるが産まれたてほやほやである。それが20匹ほど。

ぐおー、と絶望を感じさせる咆哮が全てのエンシェントドラゴンさんから放たれる。俺は聖剣の眩い力を解放し、全てを一太刀で斬り伏せた。

エンシェントドラゴン×20の身体に線が入り、身体が真っ二つになる。なんともあっけないものだ。エンシェントの名を冠するドラゴンの姿か?これが。情けない。いくら強化しまくった聖剣とはいえ、もう少し耐えてもらいたいものである。

ちらり、と聖剣を見る。いつ見ても眩しい。白金色が綺麗だ。そして心なしか満足そうに見える。きっとエンシェントドラゴンをたくさん狩れて嬉しいのだろう。そうに違いない。

 

「…ここって、何階層だっけ」

 

『終焉大迷宮』…このダンジョンの名前である。曰く、当時の最強パーティーでも5階層で断念した最強最悪のダンジョン。魔王ですら近づかない。邪神さえも寄ってこない。裏ボスクリア後のエンドコンテンツみたいなところであるが、今のズルをしまくった俺からしたら屁でもない。鼻をほじりながらでも攻略できる…まだ魔王と邪神倒してないけど。

ここまで強くなった理由は簡単だ。まず転生して適当なダンジョンに入る。モンスターを倒してレベルを上げる。レベルを上げて何かスキルを覚えたらそれを複製して合成する。強くなったスキルで無双する。ついでに聖剣を入手して複製。それを合成しまくる。そうしたらオリジナルの何十、何百倍も強くなった聖剣の完成である。これで負ける者がいるだろうか。いや、いるはずがないだろう。

 

「あ、最下層に着いた」

 

自分のこれまでの道のりを振り返っていたら、いつのまにか最下層に着いていた。ここは1,000階層だ。すごい長かったから間違いないだろう。1,000階層に違いない。

 

「ククク、よく来たな…勇者よ」

 

無駄に大きな扉を開け、中に入るとそこにはイケメンがいた。しかもなんか喋ってる。

 

「我が生まれてから数千年。この時を待ちわびたぞ。『終焉の大迷宮』666階層。この邪神王が相手をしようではないか」

 

「邪神王…行くぞッ!」

 

俺は名乗ってくれた邪神王を倒すべく駆け出した。その強さは十分理解している。チート的な行動で強化してきたこの肉体と聖剣でも倒せるかわからない。それほどの相手だ。

邪神王は禍々しいオーラを俺に向けて放ってきた。一目でわかる。これは当たったら死ぬ系の即死技だろう。さすがは邪神王。強ボスに即死技は必須である。

 

「ふんっ!」

 

力を入れながら聖剣を薙ぎ、即死技を浄化させる。一息ついてから邪神王の方を見ると、数百を超えるさっきの即死技が空を飛んでいた。

流石に笑ってしまう。こんなのありなのだろうか。俺はすぐさま聖剣を複製し、合成する。合成するごとに光を増していき、悪ではない自分でも痛いほどに聖なるオーラが蓄積されていく。

 

「な、なんだ…それは」

 

10回ほど聖剣の複製と合成をおこなっていると、そんな声が聞こえてきた。邪神王だ。どうやら邪神王はこの聖剣に怯えているらしい。

 

「地上で手に入れた聖剣だ」

 

「聖剣…いや待て、聖剣だと?それは光の聖剣ライトのことか?」

 

「そうだけど」

 

「ありえん!光の聖剣はそんなオーラを纏っていない!一体何をした!」

 

邪神王は先ほどの複製と合成を見ていなかったようだった。一番の目玉を見ていないとは…呆れる。それでもお前は邪神王なのか?

 

「光の聖剣を複製し、それを合成して超光の聖剣にした。そして超光の聖剣をまた複製し、それを合成して超々光の聖剣にした。あとはそれを繰り返すだけだ。簡単だろ?」

 

「複製と合成…?なんだその反則な力は!」

 

「俺もそう思う。だが与えられたものなんだから仕方ないだろう」

 

そう言うと、俺は聖剣を構えた。これ以上話す気はないという俺の思いを受け取ったのか、邪神王は冷や汗をたらたらと流しながら数百の即死技を放ってきた。避ける必要もなかった。聖剣のオーラが全てをかき消してくれる。もう既に、聖剣の光は邪神王を凌駕していた。

 

「くっ…なんということだ。この邪神王が——」

 

「聖剣、発動——!」

 

この世の全ての光が収束し、俺の手元に発現する。邪神王はこの聖なる力の前に動くことすらできない。だが、まだ足りないのではないだろうか。そう思った俺は聖剣を複製し、合成した。集まる光がさらに強烈になる。

 

「……は?」

 

その「は?」は、なんのは?だったのだろうか。俺は分からぬまま、その聖剣を解き放った。

 

「ぐわああああああああ!」

 

そうして俺は邪神王に打ち勝った。

 

「くっ…強かった。聖剣を10回以上も複製して合成しなければ勝てなかった。これが邪神王…」

 

邪神王を倒した余韻に浸っていると、ダンジョンが崩壊し始める。俺はここでヤバいと思った。

 

「ここって邪神王曰く666階層なんだよな…急がないと生き埋めになるかも」

 

俺はこのダンジョンに残された宝箱を開け、中身を回収するとすぐに走り出した。

結論から言うと、普通に間に合った。俺の持つスキルに【走る】というスキルがあるのだが、それらを複製しまくって合成したらとんでもない速さになった。これはもう、光を超えてしまったのではないだろうか。それほどの走りだった。

ホッとしながら地上に出ると、そこは紫色に染まっていた。耳をすませば崩壊の音。どうやら魔王、もしくは邪神が攻めてきていたようだ。

 

「…仕事だからな」

 

魔王と邪神を倒す、というのが俺の使命。頑張って向かって両方倒した。これも結論から言おう。

 

「めっちゃ簡単だった」

 

それはもう簡単だった。1分もかからなかった。無論、これは魔王と邪神の両方を相手取って、である。それほどに邪神王が強く、魔王と邪神が弱かったのだ。なんとも情けないものである。魔王…魔の王であるというならば、もう少し強くあってほしかった。しかもダサかった。魔王のくせに金ピカだったのだ。

髪の毛は金髪で太ももあたりまで伸ばしてあり、ネックレスも王冠も全部金色。服とマントもキンキラキン。挙句の果てに歯までぜーんぶ金色だった。全身金色人間である。はっきり言って気持ち悪かった。

邪神は反対に全く印象に残らなかった。もうどんなやつだったかあんまり覚えていない。きっとこのまま全ての人から忘れ去られていくのだろう。哀れなり、邪神。邪神王は強くて面白そうなやつだったというのに。やはり邪神とそれらの王では格が違ったのか。

こうして俺は、とりあえずの戦いを終えた。この後世界を超えて、別の宇宙から攻めてきた奴らを倒すために、人類全員にこのメチャクチャに強化された光の聖剣ライトを与えたりスキルを全部複製してあげたりして狂人のリーダーとして獅子奮迅の戦いをしたのだが、それはまた別の話である。


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