喰種のヴィランアカデミア   作:パンダ丸

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13話 思春期

 

 

 俺は一生日陰者として生きていくのだと思ってた。だって、喰種だし。だからまさかこんなことになるとは思ってなかった。

 

『この少年の名前は赤赤孿、SNSで拡散され悲劇の少年かつ凶悪ヴィランとして波紋を呼んでいるヴィランです。凶悪ヴィランの中でも過去類を見ない残虐性……彼の食人、いわゆるカニバリズムによる被害が拡大しています。』

 

 と人気No.1アナウンサーが述べた……そう、テレビで俺が特集されていた。まさかテレビに映る日が来るとは思わなかったのだ、もちろんヴィランとしてだけど。

 

 

 保須南高校に登校した日から1週間経った。あのとき喰ったアナウンサー達は生放送で俺を追いかけていて、赫子がカメラに当たり壊れるまで捕食する様子が流れていたらしい。報道規制をかけるも瞬く間にSNSで拡散され話題になった。

 目を覆うような残酷な画でも人々の恐怖、好奇心を掻き立てる娯楽になり得るのだろう。

 

__恐怖も悪意が自分に向かなければ一種の快感なんだよ。

 

 これは先生の言葉だ。

 

 

『彼の人生は苦難に満ちています。個性の発現以降両親、祖母、祖父に先立たれ頼れる親戚も無く、食人をしないと生きていけない個性に苦しめられ今の生活を余儀なくされました。残酷なのは彼ではなく個性だと言い切る学者もいます。今や当たり前となった超人社会、彼のような人間はどのようにすれば社会に適合するのか……我々人類の最優先の課題になりそうです。』

 

 このアナウンサーの言葉に横に座っている犯罪コンサルタントとという大層な肩書きを持った人間がため息をついた後答えた。

 

『悲劇の少年とはよく言うけどねぇ、感情論ではなく現実的に彼を野放しにして未来がどうなるかを具体的に考えるべきだよ。想定される未来の被害者と救いようのない加害者、どちらを救いどちらを切り捨てるか明白だろう?良くも悪くもヒーローという存在が濃かったせいだね……ヒーローは最強でも全能じゃない。』

 

 どうやらこの超人社会の中、まともに思考できる人間もいるらしい。世論は彼を炎上常連の過激論者とするが。危険思想もとい少数派は排除される一方だ。

 

「ずっとこのニュースですよねぇ。」

「悲劇の少年っていうワードの受けが良いんだろ、笑えるぜ。」

「あとは自分が()()なった後切り捨てられる側になりますからね。」

 

 薄暗いバーで一緒にテレビを見ていたトガ、弔、黒霧が言った。

 

「げぇ」

「……お前なんだその顔。」

「食べた柿が渋かったような顔をしていますね。」

「どんな顔だよ、食べたことねえよ。

 ハァ、何でも悲劇か美談にしたがるよな……ミュージカルじゃあるまいし。俺は何とも思ってないのに。」

「その生まれで平然と生きていけるのはお前くらいだろ。」

 

 なにせ、前世も同じ化け物だったもので。言葉にせずに心の中で呟いた。

 

「それか、レンを悲劇の少年に仕立て上げる事でヒーローへの批判を少なくしたのかもしれないですね。」

「おー頭いいな、黒霧。」

「まァ今回はよくやったな。これで救えない人間なんかいなかったようにヘラヘラ笑うヒーローの顔も少しは曇るだろ。」

 

 珍しく弔に褒められた。俺はやればできる子なのでちょっと嬉しい。

 

「レンくんとは既に()()だったんだねぇ。」

 

 と、トガがしみじみと言う。彼女の言う「同じ」はいつも複数の意味を持つから何を指すのかは分からない。でもこれだけは言える。

 

「俺は別に人間に生まれ変わりたい訳じゃない。半端な存在でもいたくない。」

「安心しろ、お前は完璧に化け物だ。」

「ハハッ、さすが俺の親友。」

「……」

 

 弔は心底嫌そうな顔をしていた。そんな弔を無視してトガは目を輝かせて言う。

 

「好きな人はチウチウしたいのですがレンくんはいいです。レンくんとはもう同じだったのです。だからレンくんを同じにする(チウチウする)よりレンくんの隣で生きたい(チウチウしたい)のです!」

「なんか告ってないのに振られて告白された気分。」

「忙しいなお前ら。」

 

 呆れた表情をしながらグラスを煽った弔の横でトガはドンっとバーカウンターに両手をつき言った。

 

「つまり、レンくんは私なのです!」

「へー」

「……」

「……」

 

 もはや理解不能を超え、弔と黒霧は無視することにしたらしい。気まずい雰囲気が流れ出す中、チリンとバーのドアに取り付けたベルが鳴った。

 

 

 

 

 

「死柄木さん。」

 

 と、弔を呼びながらタバコを片手に男が入ってきた。ソイツは前に黒霧が話していた義爛だった。俺は会ったのは今日が初めてだ。

 

「こっちじゃ連日あんたらの話で持ちきりだぜ。何かでけえことが始まるんじゃねえかって、」

 

 その言葉の後に三人の男が入ってきた。

 

「で、そいつらは?」

「同志を募ると聞きましたが……」

 

 どうやらこの三人が義爛による紹介で募った仲間候補らしい。

 

「こいつらが敵連合……!」

「薄気味悪い場所だな、眩しッ!」

「あんたがリーダーか?写真で見てたが生で見ると気色悪いな。それに、コイツが本物の喰種か……」

 

 その容姿こそ薄気味悪く左からトカゲ男、全身タイツ、継ぎ接ぎ野郎だ。

 

「俺は馬鹿と礼儀知らずは嫌いだ。」

「ヤ、カァイイ子がいません。」

「美味しくなさそう。」

「三人ともワガママ言わないでください。」

 

 第一印象は最悪だ。まぁ、俺はステインみたいなだるいやつじゃなければ誰でもいい。

 

「んー新しい非常食?」

「レンは食す前提なのをやめてください。」

「喰種ジョークだ。」

「ハッハッハ。」

 

 三人の男が俺の発言にドン引きしている中、義爛が急に笑い出した。

 

「どんなイカれた面してっかと思ったら普通の小綺麗なガキじゃねえか。未だにあの動画も信じられねえぜ。」

「あ?」

「目だよ、目。俺ァ職業柄イカれたやつは散々見てきた。お前の目普通すぎて異常だぜ?昏くも澱んでもねぇ。」

「こう見えて、俺は義務教育受けてるんだ!」

 

 だから平凡な生物だ、とドーンと背後に効果音が見えるような勢いで言った。場はすぐに静まり返った。

 

「不安だな。この組織本当に大義はあるのか?」

「おいおい、礼儀知らずなんかこっちから願い下げだ。挨拶もできねえ。大人だろ。」

「弔くんブーメランだろ、それ。」

「だよねぇ。」

 

 継ぎ接ぎ男と弔が言い合っている、弔は既に機嫌が悪いらしい。その様子を見ていた義爛がトカゲ男と継ぎ接ぎ野郎を示して言った。

 

「とりあえず、紹介だけでも聞いときなよ。

 まず、こちらの二人。目立った犯罪歴こそ無いがやる気は十分だ。会話は成り立つ、お前達みたいなイカレ野郎共には必要な人材じゃないか?」

 

 パッとしない紹介だったが二人は特に何も発さなかった。

 

「次、こっちの彼。強盗、不法侵入などでサツに追いかけられてる。見ての通り頭はおかしい。きっと仲良くなれる………あと会話はギリ成り立つ。」

「ヨロシクな!サヨナラ!」

 

 全身タイツは元気よく挨拶をした、確かに頭のネジが緩そうだ。この紹介を聞いた弔は嘲笑いながら言った。

 

「つまり大したことねぇ雑魚ってことだろ。」

「まあ、そう言わないでください。あの大物ブローカーからの紹介ですし。」

「よく言うぜ、敵連合のトップはお前だろ?死柄木。なのに目立ってるのはステインと喰種の二人だけ。お前も大したことない雑魚だ。」

「ハァ…………気分がよくない、よくないなァ。」

 

 ステインは俺も地雷だが、弔だって同じだ。俺とは違い目障りな存在という意味合いの方が強そうだが。

 その地雷を継ぎ接ぎ野郎は踏んだのだ、一触即発の空気になった。ここは敵連合のために人肌脱ぐときが来たようだ。

 

「トガちゃん、これはあれだな。」

「あれだねぇ、レンくん。」

 

 俺とトガはコソコソと話し合った後三人の前に椅子を引きずって移動し宣言した。

 

「じゃあ、面接を始めます!」

「イェーイ!」

「何だこのノリ…………」

「ま、何でもいいが黒霧さん、手数料は弾んでくれよ。」

 

 そう言って、頭を抱える弔を横目に義爛は帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

___荼毘の場合

 

 

「ハイ、名前をどうぞ。」

 

 トガと二人で紙とペンを持ちメモをとるフリをしながら質問をする。面接スタイルだ。

 

「今は荼毘で通してる。」

「通すな、本名だ。」

「出す時になったら出すさ。」

「んだそれ。」

「お前らは名乗らねえのか?」

 

 話を変えるように荼毘が言った。トガが勢いよく前に出て言う。

 

「ハーイ、トガでーす。トガヒミコ!」

「俺はレン、好きなものは人肉と友達!好きなヒーローはエンデヴァー、よろしく荼毘くん。」

 

 トガに続いて俺も自己紹介をしたら荼毘は驚きの中に激情を仄めかせる瞳を大きくした。

 

「は……?」

 

 固まった雰囲気の中弔がぽつりと呟いた。

 

「……コイツの好きは最悪だぞ。」

「だってアイツ、あそこまでボコボコに殴られた心でも欠片を拾って成り立たせてんだよ…………ああ、心が壊れた時の顔が見てみたいなあ。」

 

 もう一回戦いたい、と親子並んで対峙したあの時を思い出しながら言った。未だ勝てるビジョンは見えないが。

 

「ほらな。」

「ハッ、そういう感じかよ。じゃあ……嫌いなヒーローはエンデヴァー。よろしくイカレ野郎。」

「へえ、エンデヴァーね。」

 

 意味深に交わった荼毘と弔の視線を遮るようにトガが元気よく手を挙げて言った。

 

「次、シボウリユウをどうぞ!」

「まだ言いたくねえ。」

「何がしたいか、それだけは答えるべきだろ。ここに入りたいって言うんなら尚更。」

 

 今回ばかりは弔の言い分の方が筋が通っている。荼毘は観念したように話し出した。

 

「ハァ……雄英襲撃事件、ヒーロー殺し、極め付けは保須南高校殺戮事件の映像を見た。どれも震えたよ、そして確信した。お前といれば俺は最高傑作を作り出せる!」

「?」

「レンのシンパだったのかよ、分かりづれえな。

………待て、雄英とヒーロー殺しの件は映像に残ってねえ筈だ。どこで見た?」

「裏サイトだ。映像は荒いがどこぞの馬鹿が解説付きで配信してたぜ。閲覧数もそれなりだろうな。」

「そうか、十中八九先生の差金だろうな。」

 

 荼毘の先程の発言はよく分からなかった。どうにも俺はまだ人間を理解しきれないことが多い。弔と荼毘の会話をよそに顔に疑問符を浮かべる俺に向かって、荼毘は更に言った。

 

「要はお前の悪意に惹かれたんだ、喰種。実物が思ったよりガキで萎えたけどな。

…………でもまあ、最高だったぜ。ステインとその被害者のヒーローの卵の叫びが。あんな復讐のカタチもあるのか、ってな。」

「ふーん?」

「だから……俺の理想は"最高の復讐"だ。」

「なるほど、復讐は健康に良いしな。」

 

 それだけは分かる。うんうん、と頷きながらメモ帳に赤い丸をつけた。あまり意味はない。

 

「殺しはするのも見るのもいいよな。女だったら肌艶も良くなるぜ?な、トガちゃん。」

「お肌プルプルなのです!触らせてあげませんよ。」

「いらねえ。」

 

 荼毘は呆れた顔をしてそっぽを向いた。これ以上は答えてもらえないだろう。でも、良い悪意を見た。

 

「ということで、レンくん社長?」

「……ウム、キミ採用ね。」

「二人とも何に影響されたのですか……」

「やっと終わったか、この茶番。」

 

 

 

 

 

 

 

___トゥワイスの場合

 

 

「次の方どうぞー」

「やっと俺の番か遅えよ!早ッ!」

「コイツはコイツで面倒くさそうだな……」

 

 次の面接相手は全身タイツだ。たぶん男。

 

「名前は?」

「分倍河原仁だ、トゥワイスだ!」

「どっちだよ。」

「どっちでもいいぜ!」

 

 グッと、親指を立てて決めポーズをしながらトゥワイスは答えた。

 

「で、お前はなんでここに?」

「義爛のやつによお、相談したんだ。行くとこねえって、そしたらココ紹介されたんだ。」

「ここが何する場所か知ってんのか?」

「知らん!知ってるよ!」

「クソ義爛……話が通じる奴を紹介しろよ。」

 

 弔がまた頭を抱えた。そのうち黒霧あたりが頭痛薬を用意する頃だろう。

 

「でも行くとこねえのは本当だ。親もいねえ、職も住処も追い出された。個性のせいで自分が本物か偽物かも分かんねえ。

…………なぁ、自分の居場所はどこだと思う?どこに行ったら俺は受け入れられる?」

 

 タイツ越しにヘタクソな笑顔を見た。少し止まった時間を切るようにトガが1番に動き出す。

 

「自分の居場所が最初から分かってる人なんていないのです、それに受け入れられないなら受け入れさせるまでです!

 

___だからおいでよ仁くん、敵連合に!」

「歓迎するぜ、トゥワイス!」

 

 俺たちは二つに分かれた化け物を受け入れた。

 

「………しっかり働けよ。」

 

 黙って聞いていた弔もどうやら認めたらしい。

 

「ハハッ、俺たちは悪役(ブラック)だけどブラック企業じゃないぜ?よろしく!」

「仁くんは私の後輩なので先輩を敬うのです!」

「そう言えばトガヒミコとレンは最近ドラマにハマっていましたね……」

 

 そうして、荼毘、トゥワイスの面接は終わり帰っていった。二人とも何だかんだノリが良かったので採用だ。残すは最後の一人となった。

 

 

 

 

 

 

 

___スピナーの場合

 

 

 最後はトカゲ男だ。

 

「俺はスピナー、ステインの夢を紡ぐ者だ。

お前達の信念がステインの意思に沿うか否か………」

 

 ド地雷が来た。

 

「キッショ。」

「不合格、帰れ。」

 

 俺と弔は不快な言葉を遮るように声を揃えて言った。

コイツは何でここに来たんだ、ステインを殺したのは8割俺なのに。

 

「オイッ聞けよ!」

「ハァ、殺してからも名前聞くとは思わなかったな。」

 

 確かに信奉者も多かったが、死んだ後もうるさく邪魔な存在になるとは思わなかった。

 

「お前がステインを殺したのか……?」

「あ?知らなかったのかよ。」

 

 話が噛み合わない二人を見かねてか、今まで静観していた黒霧が説明するように言った。

 

「大方、荼毘の言っていた配信を見ておらず、ニュースでは情報規制が敷かれているためステインが死んだ事しか分からなかったのでしょう。だからステインが死ぬ前に所属していた敵連合に来たのですね?」

 

 黒霧の質問には答えず、スピナーは激昂した。

 

「じゃあ、本当にお前が殺したのか。喰種……!なぜ殺した!?」

「生理的に無理、考えが合わない、以上。」

「そうか……お前には分かんねえだろ、容姿に恵まれただけで同情されて差別だってされない。ステインが唯一の救いだった……!」

 

 確かに俺が獣みたいな見た目だったら悲劇の少年として扱われなかっただろう、良い所害獣駆除だ。だけどこっちには容姿を超えた問題がある。そもそも俺は人間として生きたいなんて言っていない。

 

「アハッ、お前がお前である限り一生社会では生きていけねえよ?」

「俺は!人間だったら、普通の人間みたいに生まれていたら……!」

「だから何、ここに来たら人間になれるとでも?

 自分よりも悲劇的な化け物が揃ってるから?」

「……何でお前はその個性で居場所があるんだよッ!」

 

 それは心からの叫びだった。自分より劣っているはずの化け物が楽しそうだったから苛ついたのか、それとも

 

「結局お前もお前を否定してきた奴らと一緒なんだ。」

 

 本当はコイツがこうなったのは生まれ育った環境5割容姿5割が原因だろう。環境によって性根が腐る、容姿を見下すことも個性を見下すことも本質は変わらない。

 

「……弔くん、俺コイツ本当に無理。どう考えても合わねえもん。」

「ハッ、いいぜ。好きにしろ。」

 

 俺は今世ではたった一人の喰種(化け物)だ。スピナーに見せつけるように目を閉じ、ゆっくりと目を開けた。

 視界に入った弔とトガは俺を見て満足そうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前も中途半端なんだよ。」

 

 トカゲのような人間と言い切れない容姿でも思考する知能があり会話ができる。だから駄目なんだ。

 スピナーと俺は向かい合った。

 

「だからさ、一目と見れない化け物になっちゃおうか?」

 

___気に食わないモノはグチャグチャに壊せばいい。

 

 

 

 

 

 殴った。

 殴って、

 

「っけほ、げほ、」

「………」

 

 蹴って、

 

「がっ、」

「……、……」

 

 殴って、

 

「っあ゛ぐ……!」

「……」

 

 蹴って、

 

「っ……」

 

 殴って、

 

 お互いの呼吸が乱れる程強く殴り続けた。じんじんと痛みで熱を持つ拳が俺の生をも感じさせる。バーカウンターに衝突しながらスピナーはその場でのたうち回った。

 

「ハァ………この社会を壊したらお前は本物の人間になれるとかあんのかな。無ぇならお前、今、まじでなんでここにいんの?」

 

 更に横腹を蹴って倒れ込んだ体を仰向けに転がした。俺はスピナーの腹に片足を乗せたまましゃがみ込んだ。

 

「や、やめ………」

 

 喉に左手を添えた。ヒュッ、ヒュッと呼吸の仕方を忘れたような、下手くそな呼吸が口から呼吸が零れる。力を加えておらずまだ苦しみもないはずなのに恐怖からか体が震えていた。

 

「どうした、息はしていいよ。」

 

 何も答えることができないスピナーの頬に今度は右手を添えた。ペチャリ、と添えた手に付いていた何かがスピナーの顔を汚す。

 ふいにスピナーが抵抗をした。そのまま押さえ続けたため身動きはとれない。しかし、俺の頬に血が飛んだ。

 

「チッ……」

 

 舌打ちに体をビクリと揺らし、小刻みに震えた。汚い血に嫌悪を感じ苛ついたため窒息しない程度に添えていた左手で首を圧迫した。

 

「あーあ、また無駄なこと考えてんな。」

「ぐ、ふ………っふ、」

「いっそのこと本物の化け物になればいいんだよ。

分かるだろ?ほら、分かれよ、なあ。」

「ごほっ……」

 

 微かに光を宿す瞳を隠すように、また躾を続けた。

 

 

 

 

「どういうことかお前理解してんの?」

 

 また殴って、

 

「ステインの意思とか、信念を継ぐとか…………ただの取り繕った言い訳に過ぎないんだよ。」

 

 殴って、

 

「自ら変えられない世の中の変化を指を咥えて見ることしかできない、持たない側だってコト。」

 

 殴って、

 

「結局お前は壊す側なのに支配されてんの。」

 

 殴って、

 

「そのシステム、完璧に終わってんだろ。」

 

 殴って、

 

 

 

 

 

「……」

 

 夜の街の微かな喧騒も聞こえなくなるくらいの時間が経過したころ振り上げた腕を下ろした。死なない程度に意識を飛ばすなんて生ぬるいことはさせないように全身を痛めつけた。

 

「信念なんてクソの訳にも立たない、分かるよな?」

 

 俺の言葉など聞こえてはいても意味を理解するほどの余裕はないだろう。途中で吐き出した胃液や血や肉の塊に塗れたソイツは答えるようにほとんど動かせない頭を揺らした。上下関係はとっくに築かれていた。

 

 

 さあ、最後の仕上げだ。棚から置いたままにしていたステインの心臓を取り出した。

 

「食えよ、その大きな口でよォ」

 

 もはや意識などほぼないだろう。血が固まってこびりついたままの口の中に心臓を捩じ込んだ。ソイツが吐き出したものもいっしょに詰め込んで、上顎と下顎を力任せに動かし閉じた。

 

「ハハッ、完成……!」

 

 緑色のトカゲ、どころじゃない。血肉むきだしのナニカだ。誰もが目を背けるように、世界から弾き出されるように俺が丹念に作り上げた最高傑作。頭や心臓がもがれても終わりが来るその時まで俺が()かしてやる。

 

「ステインは死んだ。お前が殺したんだ。

………お前も生まれ変われ、本物の化け物に。」

 

 

 

 

___助けてくれ、ヒーロー

 

 

 

 

 

 落ちる意識の最中その言葉が口から出ることはなく、代わりに出たのは今にも途切れそうなか細い呼吸音だった。

 

 捕食するでもない、何の生産性もない化け物達の静かな時間を邪魔する者はおらず誰も咎めなかった。これは誰も正すことができなかった結果なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間も化け物も皆一様に子供のままではいられない。

 

___地獄の合宿開幕まで後………

 

 

 

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