北条鉄平という名前を聞いて、もう一人反応した人物がいる。それは園崎魅音であった。彼女は鉄平という人物を知っているらしい。明らかに目を見開いていた。
「それにもう一つ気になることがあります」
「なんね」
「北条鉄平ではなく、女性の方ですが。どうやら竜宮姓の男性と何かしらの契約をしているらしいです。その契約ではお金が足りないために園崎家の上納金を狙っている様子でした」
「竜宮。レナちゃんかいの」
「竜宮姓が雛見沢や興宮にどれほどいるかは分かりませんので、誰なのかは不明です」
そういえばお魎さんは竜宮さんと仲が良かったか。そういえばおはぎを作った時も竜宮さんも同席して一緒に作ったらしい。お魎さんは葛西さんの方に目を向ける。魅音ちゃんは、先ほどの鉄平の件に加えて、もしかしたら竜宮レナにも危険が及んでいる可能性があることに動揺しているのが分かった。
それを諫めるかのように茜さんが魅音ちゃんの膝を叩く。それは母親としての安心させるような手つきではなく、一人の女性を諫めるかの如く真剣な眼差しだ。
「北条鉄平の連れを調べて、女の方を特定します。園崎家の上納金を狙うようであれば命を以って償わせます」
極道関係者のお金を狙うのだ。彼らからしたらメンツの問題があるのかもしれない。それも一つの手なのだろうが、この問題はこれで終了で良いのだろうか。確かに上納金を守れば良いのだが・・・。
「何か気になることでもあるのかい?」
「いえ、これで問題が解決するなら良いのですが。私は詰めが甘いとよく怒られるものなので・・・」
「慎重なのは良いことだけど、あまり気張ることでもないさね。あとは組のモンが対応する」
冬夜も同様に園崎茜に諫められた。やはり考えすぎなのだろうか。おはぎ事件で痛い目にあったからこそ、今回の件は相談しようと考えたのだ。
「すみません。やはり何故か胸がつっかえるようです。もし上納金を狙った人が命で償った場合、どのような事態が考えられますか?」
「もし遺体が見つかるようなことがあれば、まず警察は動くでしょう」
どうしても気になり質問をすると、葛西さんがすぐに動いた。なるほど、大石さんが動く可能性はある。もしかしたら当分俺はマークされる可能性も有る。知り合いではあるが、公私を弁えた人であることは知っている。
「あとは、その女がどれだけ慕われているか分からないけど、竜宮家にも警察が行くだろうね」
確かに関係者は間違いなく調べられるだろうし、どこかの竜宮家にも話はいくだろう。
「沙都子に・・・。沙都子が危険な目に遭うかもしれません」
そう言ったのは魅音ちゃんだった。わざわざ警察がマークをするはずなのに、雛見沢に戻ることが有り得るのだろうか。
冬夜はてっきり北条家の事は捨て置けと言うのかと思った。冬夜は実際あまり知らないが、雛見沢と北条家の隔絶ぶりは相当のものらしい。しかし、目の前のお魎さんは北条に対しての憎しみというよりも憐れみのようなものを思わせる。気のせいかもしれないが・・・。
「お魎さん。北条さんがもし危険な目に遭ったら、どう動きますか?」
いっそのこと聞いてみた。もう俺には聞くことしかできない。俺がもっと学があれば解決策を思いついたと思うのだが・・・。
しかし、お魎さんは答えない。口を真っすぐ横にして閉じたままだ。少しばかりの時間が経ち、ようやく声を出す。
「北条の息子の時もそうじゃったの」
北条の息子。北条悟史の事を言ったのは明白だった。それと同時に違う話にすり替えたということも示唆している。話を変えたのは明らかではあったが、それは・・・。
「お魎さん。それは俺とお魎さんの二人きりの話だったはずです」
「・・・」
その言葉に魅音ちゃんが俺を見た。いつの間に話をしたのかという驚きと、ここで北条君の話が出てきたことにも驚いたのだろう。
「悟史のこと、何か知っているんですか?」
「すまないが、俺は詳しくは知らないよ。それに、俺はこの話を墓場まで持っていくことにしている」
「それは園崎お魎も同じことだと思わないかい?」
矢継ぎ早に問われていく。確かに俺はこの話を死ぬまで言わないと決意した。それと同様にお魎さんも北条家に関することで墓場まで持っていくことがあるらしい。いや、お魎さん。多分言い辛いだけで話を逸らしている節があるが。
「冬夜さん、教えてください。何があったんですか?」
「それを言っても北条さんが安全に暮らせるというわけじゃないんだ。今の問題として、北条鉄平をどうすれば良いのか考えたいんだ」
今は北条君の話をする必要はない。最優先事項として北条さんである。しかし、現状お魎さんは答える気がしないようだ。ここまで行くと意固地のお魎さんでは話が進まないだろう。仕方ない、これはどうすれば良いか分からないが、何回か会って話し合わないといけないだろう。
「分かりました。じゃあ、北条さんと一緒に園崎家へ行くので、皆でおはぎ作りましょう」
「考えとくわい」
やっぱり嫌ってないよね。もう少し強めに断られると思っていたのに俺の方が返答に困るのだが。
考えていることが見えてこない話合いになってしまったものの、一つ進展したと考えておこう。あとはどう動くべきかにもよるのだ。
園崎家から帰る前に、またもやおはぎをいただいた。本当は一緒に食べたかったのだが、やんわりと断られてしまう。仕方ないので帰宅して味わって食べるとしよう。
そういって園崎家から帰ろうとすると、少しばかり待たされることになった。蝉の声がうるさいなと感じていると、着物姿の魅音ちゃんではなく、いつもの私服姿で魅音ちゃんがやってきた。
お見送りではなく、帰宅まで付き添ってくれるというらしい。これはさっきの北条君のことを聞いてくるだろうと直感した。
「婆っちゃは、北条家のことをもう許してると思うんです」
「え?」
まず一番に聞かれるだろうと思っていたのだが、まさか北条さんの事だとは思わなかった。
「雛見沢の住民も北条家の、特に沙都子は許したいんです。でも、誰もが恐がってる」
「それはなぜ?」
「皆許しているとは言ってないから、もし自分が許したら周りから村八分にされてしまうと恐がってるんだと思います」
その言葉に衝撃が走った。誰もが許しているというのに、それを言葉にできないということが、だ。そして、恐れているのは村人だけでなくお魎さんも同じだということを暗に示している。
「それが、お魎さんが隠していることなんだね」
「はい・・・」
それは俺を信頼しているからこそ伝えてくれたということなのだろう。なぜお魎さんが俺を好意的に思っているのかは分からないが、それでも言いにくかったことなのだ。弱さを見せてはいけないというのは、村のリーダーとして辛いものがあるだろう。
「じゃあ、俺も言わないといけないな」
「あ!違うんです。そのために言ったんじゃなくて」
「いや、どうせなら聞いて欲しいんだ。できれば墓場まで持っていきたかった内容なんだが。内緒にできるかい?誰にも言わないって、約束できる?」
それを聞いて一瞬悲しい顔をする園崎魅音だったが、すぐに決意したらしい。その眼差しを見て安心した。それであれば話すべきだろう。