ひぐらしのなく頃に 巻込編   作:ポロロン

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エゴの塊

 翌日、やはり北条さんは学校へ来なかった。知恵先生には既に状況を授業前に話していたために教室内で混乱が広がることはなかった。

 

「やはり児童相談所に相談するべきですかね」

「それが良いかもしれんの。私も方法を探しましょう」

 

 職員室で話に出たのは児童相談所へ報告して動いてもらうということだった。もちろん、これは一つの手段でしかない。あとは警察にも相談をするべきだろうか。

 魅音ちゃんに昼休みに時間をもらい、園崎家の状況を聞いたところ北条鉄平に手出しができない状況になっているらしい。

 

「それは、何かあったんだね」

「警察が北条鉄平をマークしているみたいで。あの間宮律子の遺体が見つかってから警察が重要参考人として見ているようです」

 

 間宮律子の遺体が発見されたというのはテレビで確認していた。興宮で起きた事件というのはマスコミ関係者にとって『オヤシロ様の祟り』を彷彿させるのか垂涎のものだったのだろう。色々とテレビでしていたのは知っている。

 それはタイミングが悪かったということだろう。冬夜は自身の落ち度であると自覚した。もう少し考えれば分かることだったというのに、何ということだ。

 魅音ちゃんには何か問題が起きればすぐに相談に来て欲しいと伝える。これ以上魅音ちゃんに負担をかけられない。既に園崎家に頼んでからのことなのだ。もう迷惑をかけられない。

 職員室の受話器で電話をかける。連絡先はもちろん、興宮署だった。

 

『はい、こちら興宮署』

「地田冬夜です。大石さんはいらっしゃいますか?」

『大石ですね。少々お待ちください』

 

 少しばかりの保留音が流れ、すぐに電話が再度繋がる。

 

『んっふっふ、興宮署の大石です。地田さん、お久しぶりです』

「お久しぶりです、大石さん。突然電話をしてすみません」

『かまいませんよぉ。それにしても少々声が大人びたんじゃないですか?だいぶ男らしくなってきたんじゃありませんかねぇ』

 

 そう言い大石は笑う。このどこか含みのある笑い方をするのは彼の癖だった。決して馬鹿にして言っているわけではないことを冬夜は知っている。

 

「大石さん、また今度麻雀教えてください。少し打てるようにはなってきたんですよ」

『おぉ、それは良いですねぇ。また今度雀荘で打ちましょう。・・・それで』

「すみません。本題ですが、北条鉄平という男性についてお聞きしたく電話をしたんです」

 

 それを言うと少し大石さんは沈黙した。まさかこちらから北条鉄平について電話をしてくると思わなかったのだろう。確かに大石さんは警察という立場であることから、雛見沢ではだいぶ嫌われている。その雛見沢で起きた問題を警察に聞いてくるということが今まで無かったのかもしれない。

 

『北条鉄平についてどれほど知っていますか?』

 

 それは大石さんからの質問であった。必要以上の情報を言わないということは分かっていたが、どこまで言うべきか。

 

「間宮律子さんの件について警察が北条鉄平を調べているのは知っています」

『どこでその情報を知ったのかは敢えて聞かないでおきましょう。ですが、それが本題ではないでしょう?』

「はい。今北条鉄平は北条沙都子さんの家に住んでいます。保護者としては正しいのですが、虐待の可能性がある人であれば状況は変わります」

 

 大石さんは軽く息を吐く声が聞こえた。北条鉄平については調べているのだろう。いや、すでに去年の撲殺事件の時に調べはついているのか、大石さんの声は落ち着いていた。

 

『私としては間宮の事件の容疑者として連行できたら良いんですがねぇ』

「それは・・・」

 

 それは無理だろう。間宮律子を殺めたのは園崎家である。どれだけ叩こうが北条鉄平を殺人犯として捕まえることはできない。つまり、北条鉄平はこの先捕まることはないのである。それを大石に伝えることはできない。園崎家に迷惑はかけられなかった。

 

『しかし、一度虐待の可能性があるということですので、折を見て訪問しましょう』

「ありがとうございます。私も一緒に同行しても良いですか?」

『んっふっふ、デートのお誘いとは嬉しい限りです。そうですねぇ、北条悟史の件で色々とお世話になりましたから、良いでしょう』

 

 まさか了承をもらえるとは思えなかった。大石さんには北条君の件を軽くではあるが伝えている。園崎家は関係ないのでは、という軽い内容ではあるが・・・。

 

「あと、私も児童相談所に報告しにいくつもりです。大石さん、警察の方の立場からしてどう思いますか?」

『それが一番良いでしょう。児童相談所がどう動くかまでは分かりませんが、この法治国家において、しっかりとした手順で対応してもらうのが一番です』

 

 それが聞けただけでも十分である。あとは直接大石さんと児童相談所の職員と話し合わなければならない。本当は一日も早く北条さんの現状を確認する必要があるのだが、急いで事を運んでは返って悪化させると感じた。

 

「それが聞けただけでも安心します。大石さんの追っている事件についても、何か情報を得たら報告しますので、ぜひお願いします」

 

 そういうと大石さんはいつもの不適な笑いではなく、豪快に笑った。嬉しかったのだろうか、普段よりも機嫌が良さそうである。

 そして機嫌が良いまま電話を切る。次に児童相談所へ行かなければならない。冬夜が児童相談所へ行く間に、知恵先生は北条家へ行くことになった。

 放課後になると同時に児童相談所へ向かおうとした冬夜の前に現れたのは、古手梨花だった。

 

「梨花ちゃん、俺急いでるんだ」

「どうせ無理なのです」

 

 それは全てを諦めた声だった。彼女にとってどれほど残酷なのだろうか。その気持ちの全てを知ることはできない。

 

「今日家に来なよ。今の梨花ちゃんを一人にはできない」

 

 これから自殺をするかのような表情を見せる少女を見過ごすわけにはいかなかった。この調子では梨花ちゃんも学校に来なくなるかもしれない。

 

「もう沙都子は間に合わないかもしれないのです」

「梨花ちゃん。俺も急いでるから簡潔に言うけど、俺は諦めないよ」

「圭一の時は失敗したのに、なぜ?」

 

 その疑問は、なぜ立ち向かうのかということなのだろう。それは古手梨花の経験則からくるものだろうか。

 

「少し記憶を取り戻したんだ。もう『今の俺』の人格がいつ消えるのか分からない状態でね。『今の俺』が『次の俺』に胸を張って替われるようにしたいんだ。しょせんただのエゴだよ」

 

 記憶が消えるかもしれない、というのは脳外科として知識を持っている監督からの言葉だった。その言葉は未だに自身の心の中にしこりとして残っている。タイムスリップをしたあの日、記憶を取り戻せそうな事に喜んだ。その気持ちは今も変わらない。喜んでいるからこそ、今を後悔しないようにしたいのだ。

 

「そう・・・」

「『今の俺』は北条さんも梨花ちゃんも見過ごせない。梨花ちゃんは今日は家に泊まっていきなさい」

 

 まるで命令口調で伝えると、力なく頷いた。それに満足して冬夜は児童相談所へ向かうのだった。

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