興宮の病院ではひっきりなしに代わる代わるお見舞いが来た。先生と生徒もそうなのだが、園崎お魎もお見舞いに来たのだ。その時にお礼を言ったのだが何のことかさっぱりと惚けていた。これはツンデレ。
北条沙都子は一度警察に保護され、今は病院へ通院をしながらの生活になっている。そのため古手梨花もいつもの通りの暮らしに戻っていた。今は二人で話したいことも多いだろうという考えがあったため、これ以上のお節介は避けようと思っていたのだが・・・。
「それでも毎日来られるのもね。学校から興宮の往復は大変でしょ」
「構わないわ。自転車って結構早いのよ?」
古手梨花は冬夜が入院してから毎日病院へお見舞いをしにきていた。時々北条沙都子と一緒の時もあるが、本日は北条沙都子は来ていない。どうやら入江診療所への通院日のようだ。
古手梨花には現状報告として冬夜がどう動いているかを逐一言っていたのだが、北条沙都子には細かい話を伝えていない。ただ、一度園崎家に感謝を伝えに行くべきではないかと冬夜は思っていた。
冬夜は園崎お魎が北条沙都子を憎んでいないことは知っている。しかし、少女は未だに園崎家は自身を迫害していると信じている節がある。そこはどうにか解決してあげたいところだった。それが解決することで雛見沢の悪い部分である村八分も無くなるのだ。
「それで、梨花ちゃんも本当は何か言いたいことがあるんじゃないの?」
「・・・」
毎日毎日お見舞いに来るわりに、どこか申し訳なさそうな顔をして帰っていく姿を見ていると、さすがに聞かずにはいられなかった。
「ごめんなさい」
謝罪が来ることは察していたが、まさか大人びた状態のままで謝れるとは思わなかった。どこか子どものような言い方だと思っていたのだ。今の彼女は腰を深く曲げ、深く深くお辞儀をしていた。思わず深い息を吐いてしまった。それを溜息と勘違いしてしまったのか、肩が震える。
「なんで謝るのさ」
「それは・・・」
「今回問題になったのは、北条の叔父が問題だらけの人間だったから。叔父は大人なんだから、子どもじゃなくて大人の問題なんだ」
大人の問題に子どもを巻き込んではいけない。しかも、相手が反社の可能性がある以上(園崎家が反社の一員なのは置いておく)、それは子どもが立ち入る問題ではないのだ。
「それにこれは、俺にとっても梨花ちゃんにとっても大きな一歩だと思う」
「一歩・・・」
梨花ちゃんが俺の顔を見た。その目は分かっていないのだろう。
「俺は前原君の件で失望させてしまった事の償いを、梨花ちゃんは諦めないことだ」
今回、冬夜にとって一番深く考えさせられたのは前原君への対応を失敗したことだ。出たとこ勝負で誰にも相談しなかったために失敗をしたこと。それが心に引っ掛かりを与え、園崎家や警察に頼み込んだ。正直に言うと、先生と生徒の立場といえ、そこまで強く介入する必要性は無かった。ただ、失望させてしまった目の前の少女が、全てに諦めて今にも自殺をしようとしているのではないかと思わせる素振りに、去年北条君が失踪した時の魅音ちゃんを彷彿させたのだ。
「俺は君の力になれる自身が無い。俺は完璧な人間ではないし、しょせん一人の大人風情にすぎない。頭を殴られて気絶するくらいには頼りない」
それでも、今の目の前にいる彼女には伝えたかった。
「それでも、俺は君を助けたい」
「それは・・・決められた運命を壊してくれるということ?」
「どんとこい!前原君の未来を知ってて、同じタイムスリップをしているということは、ずっと隠していることがあるんだろ?」
ずっと彼女は隠している。ひた隠しにして恐らく誰にも伝えていないことがあるに違いなかった。冬夜と同じタイムスリップという力を持った彼女に、俺はどこか親近感を抱いたのかもしれない。
冬夜の言葉に少なからず力が出たのか、彼女は唾を飲み込んだ。あぁ、自身の語彙力の低さが憎い。前原君ならもっと力強く言えたのだろうが、自身の言葉ではこれが限界だった。
「私は、今回の世界では北条の叔父ではなく、魅音が凶行に走ると考えていたわ」
「ほう・・・」
「その理由は前にあった興宮での部活。圭一がぬいぐるみを魅音ではなくレナに渡したから」
それは嫉妬だろうか。嫉妬で彼女が凶行に走るとは思えなかったが、大人しく話を聞くことにした。
「それでもあなたが魅音にプレゼントをして落ち着くとは思っていたのだけれど、予想とは違って叔父が来た。そしてその叔父を圭一が殺すの」
また前原君である。彼は何か取り憑かれているのではないかと思ってしまう。
「そして今年の綿流しから数日後、私が殺される」
その言葉に衝撃が走った。言葉が出ないとは正にこのことを言うのだと知った。普段の自分は彼女の顔を見て本当の事を言っているのか覗うのだが、その言葉が真実として受け入れられると心の底から信じることができた。彼女は嘘を言っていない。
「そして私が死んで気づけば、死ぬ前の頃の私に戻るの。あなたはタイムスリップと言っていたけれど、私はループだと思うわ」
はぁ、なるほど。ループなのか。確かに冬夜が講師になるタイミングと言い、今回の叔父の件もそうだが色々と異なる所が多い。
「あなたが行方不明になった後、私はいつも通り殺されたわ。そして3回繰り返し、またあなたに会った。つまりあなたは珍しいケースなの。何百回と繰り返している世界の中で2回目の邂逅となるわ」
色々と突っ込みたい事実が多いのだが、彼女の言う通りであれば何百回と繰り返し殺されていることになるのだ。それは何という拷問だろう。すでに死んでいることが決まった運命ならば、彼女の諦め癖もどこか分かる気がする。
「綿流しに事件が起こるというのは意図的な所を感じるが、梨花ちゃんが殺されてループをするということは、俺も行方不明になった時に殺されている可能性もあるのか」
「私は殺される時の記憶が無いわ。誰がそんな事をするのか分からないし、その理由も分からない」
犯人が分からないまま、手探り状態。おそらく彼女も色々と手を打ってきたのだろうが、未だに犯人の目星がついていないということは、どういうことなのだろうか。
思わず病室から外を見る。大人数の病室に投げ込まれると思ったのだが、園崎家か誰かが便宜を図ってくれたのか、個室の部屋であった。2階からの景色からは樹が見える。蝉の声がうるさかった。
「教えてくれてありがとう。俺も退院したら戦うよ。医者が言うには明日か明後日には退院だとさ」
彼女は優しく微笑んだ。どこか懐かしさを感じる微笑みに、冬夜は既視感を覚えたものの答えが分からないままだった。