そうやって梨花ちゃんが全てを話してくれた後、冬夜は特に問題なく退院をした。いつの間にか綿流しも近づいている。つまり、梨花ちゃんが殺されてしまう日が間もなくであるということだった。犯人が検討もつかないのだ。
どう対応すれば良いのか分からない中、ふと思い浮かんだものがあった。冬夜が行方不明になったという話である。梨花ちゃんと話をした後、突然の行方不明ということ。冬夜が思い出しても自身が死んだのかどうか判別つかないのだが・・・。もし自身を殺めるとしたら、それはもしかしたら古手梨花を殺めた人物と同一人物の可能性はないだろうか。
あの時、なぜあの場だったのか。もし犯人がいるならば良い場面が有ったはずである。わざわざ学校というのが分からない。
確かあの時話をしたのは、前原君についてだったか。『針だと思えばずっと針だと思い込んでしまう』という内容。いや、それは理由にはならない気がする。なぜ前原君の精神的病が冬夜を殺める要因になるというのだろうか。
待てよ、なぜ梨花ちゃんは前原君の病状を知っていたのだろう。前原君が自身で部活メンバーに話をした?いや、違う。彼はそういった事を自ら言うように思えない。先生側も知らないだろうし・・・。
普段の冬夜であれば多少の疑問は流してしまうのだが、ループやら殺人やらの話を聞いている状態の今、なるべく疑問は解消させたかった。一度梨花ちゃんに話を聞くとしよう。
結果として、梨花ちゃんに話を聞く機会は恐ろしく減少した。彼女は綿流しの主役であり、巫女である。綿流しの際に舞をする巫女として練習や調整を繰り返す多忙の身となっていた。
なかなか話をできないままでは、これでは大変な目に遭うことは見えていた。そこで冬夜は一つの手を考える。大石蔵人。雛見沢連続殺人事件を追いかけている刑事だ。彼ならば力になってくれるはずだ。
今年も事件が起こるかもしれない、そんな状況で興宮署全体が警戒をしている中、冬夜は大石を自宅へと招いた。
「んっふっふ、まさか冬夜さんに呼ばれるだなんて驚きです。どうしたんですか?」
「大石さん、今回は北条さんと同じ真面目な話です。助けてくれませんか」
「刑事ですから。市民の皆さんが困っている事を解決するのも仕事の一つですねぇ」
大石はいつも通りの不適な笑みを溢す。大石は北条鉄平の件以降余り会うことはなかった。時々お見舞いに来る程度だったが、見た目に反して義理堅い男である。
「『オヤシロ様の祟り』。これについてお聞きしたい」
「・・・」
大石の目が強く光る。まさか冬夜が『祟り』について聞いてくるとは思わなかったのだろう、その真意を読み取れずにいた。
「それはどういう意味でしょう。まさか今年も起こるとでも?」
「私はそう考えています。そして次の犠牲者も検討がついている」
大石の顔が強張った。冬夜も大胆に言うことで大石に信頼を寄せて欲しかったこともある。大石が最初の『祟り』の犠牲者であるダム現場の監督と仲が良かったことは知っている。それが原因で大石が事件を追いかけていることも知っていた。
「誰なんです!次は!」
大石は嚙みついた。今の大石は何でも信じてしまうのではないかと心配になるほどの詰め寄りかたである。
「絶対に言うので、まずは約束してほしい」
「なんです」
「一つ、この事を信頼を寄せている人以外誰にも告げないこと。二つ、私の情報源についても漏らさないこと。三つ、情報源に詰め寄らないこと」
その三つを言うと、大石は大きく息を吐いた。その言葉を深く噛み砕いて頭に入れているらしい。
「それはどういう意味でしょう」
「一つ目について、私は警察内部に共犯者か妨害行為をしている人がいると思っているから。二つ目については、一つ目と同じ理由ですね。三つ目は情報をくれた人に詰め寄って悪手に繋がる可能性があるからです」
「・・・分かりました。あなたも面識がある熊ちゃんと鑑識の爺さんには話ますが、なるべく隠密に努めましょう」
その言葉を大石さんから聞いて、冬夜も腹を括って話をし始めた。
「まず、一番の本題です。今回の犠牲者はおそらく古手梨花。古手神社当主の古手梨花です」
「なぜ!?彼女は雛見沢でマスコット的立場のはず。彼女を殺しても意味がない」
「それについて、私も不思議でならない。犯人の意図も分からないままです」
そう。何度も考えるが、古手梨花を殺してもメリットが無い。いや、そもそも今までの連続殺人にメリットなど無いはずだ。
「それを誰から聞いたんです。そんな突拍子も無いことを誰が言ったんですか!」
「今回の犠牲者である古手梨花です」
大石は更に驚いた顔をする。まさかの相手だったのだろう。冬夜も驚いたのだから仕方がない。
「だからこそ、無理な詰め寄りは止めて欲しいんです。私が大石さんと古手梨花のセッティングをしますので、時間ができたら連絡をします」
「・・・それは妄言ではないのですか」
「妄言と受け取っても構いません。私は彼女の護衛をするだけですから」
大石はどう答えるべきか悩んでいるのだろう。それは当然当たり前のことなのかもしれない。もし、大石がセッティングに応じてくれるというならば、後ほど古手梨花と内容を合わせておく必要がある。さすがにループしてるので、とは言えない。
大石を頼ることは必要であると感じた。もちろん、警察内部に操作を攪乱させている人間がいる中で、大石の存在は大きいはずだ。とにかく視野を広げて対処していくしかない。
「・・・分かりました。良いでしょう、またその時になれば言ってください。これ、私の個人的な電話番号です」
「ありがとうございます」
さて、これからが本番である。動ける内に動かなければならない。
「ということなんだけど」
「なるほどね」
ようやっと梨花ちゃんと話ができたのは、もうそろそろ綿流しが近づいている時だった。大石と連携を取ることに、はじめ梨花ちゃんは懐疑的であったが、警察で『オヤシロ様の祟り』を調べている大石であれば視野が広がると伝えると、梨花ちゃんは頷く。
「大石にはなぜ私が殺されると知っているか聞かれると思うけれど」
「去年の綿流しで次の犠牲者は古手梨花だ。祭りの中で聞こえたと言ってくれ。さすがに梨花ちゃんの力を言うと信じてくれないだろ?」
それもそうね。彼女は言った。今の彼女は北条鉄平が来た時のような諦めの顔をしていない。それは戦う意思を見せているということだった。