今梨花ちゃんと話をしている場所は、古手神社の境内。周囲には誰もおらず、聞かれている心配もなさそうだった。
「今回、梨花ちゃんが話をしてくれた中で二つ気になることがあるんだ」
梨花ちゃんは頷いた。そろそろ小学生らしい梨花ちゃんに戻ってほしいのだが、どうやら冬夜の前では大人びてしまうらしい。
「まず、前回の前原君について。梨花ちゃんは前原君が針を信じ込む病気になっていると言ってたけど、それをどうして梨花ちゃんは知っているの?」
それを聞くと梨花ちゃんは少しだけ考え込むように目を閉じた。言うことをまとめているのだろうか。少しして梨花ちゃんが話し始める。
「この村独自の風土病なの。それはどうあっても逃れられない病気」
「土地特有の病気か。雛見沢の人は皆知ってたりは・・・」
「いいえ、知っているのは・・・。私と・・・」
どこか言いにくそうな古手梨花。
「言いたくないなら、大丈夫。話せる時に話してほしいから」
そう助け舟を出すことにした。人だもの。言えないことなんて山のようにあるものだ。それを強制的に聞いても意味が無いし、せっかく築けた関係性が壊れるだろう。
「ごめんなさい、ちゃんと話すわ」
どうやら決心が着いたらしい。こうやって彼女が緊張している姿を見るのは初めてではなかろうか。ゆっくりと話し始めた。
「このことを知っているのは、私と入江診療所の所長である入江京介、そして鷹野三四、さらに富竹ジロウ。」
「まぁ有り得ない話じゃない。入江診療所で治療を専念している可能性はあるか」
「入江診療所は病名を雛見沢症候群と呼んでいるわ。症状は過度の被害妄想をして最終的には自殺する。そんな病気なの」
壮絶な症状に息を呑んだ。精神的な病気の一種にしては度を越えている。
「そして今までの『オヤシロ様の祟り』でもあるわ」
それは聞き逃せない一言であった。彼女の言った一言は間違いなく全ての歯車に繋がるものだ。
「つまり、加害者は全て雛見沢症候群になっているということか」
「そう。入江診療所は雛見沢症候群になった患者を捕らえて治療をしたり解剖している。そう鷹野は言っていたかしら」
ということは、大石さんの努力は全て無駄になったということだった。このことを彼に伝えるべきかどうか悩んでしまう。全て打ち明けた所で、彼は信じてくれるだろうか。いや、おそらく信じない。彼は未だに園崎家が黒幕だと信じている。どうすれば彼の呪縛を解き放てるのだろうか。
「そして私は女王感染者。私が死んだら雛見沢の住人は全て病気を発症する・・・らしいわ」
まるで爆弾のようだ。古手梨花という爆弾が今年の綿流しで爆発するということだ。
「なるほど、ならどうにかして梨花ちゃんを助けないといけないわけだ。入江診療所はどう考えてる?」
「そう言えば貴方は前回綿流しが起こる前に行方不明になっていたから知らないのね。今年の綿流しは富竹ジロウと鷹野三四が殺されるわ。富竹は雛見沢症候群で、鷹野は山で焼死する」
「・・・あー、なるほど。つまり、その後に梨花ちゃんが殺されるのか」
「そういうことよ。ごめんなさいね、言ってなかったわ」
一瞬入江診療所が敵なのかと疑ったのだが、どうやら違うらしい。謎が謎を呼んでしまっている。
富竹ジロウは去年の綿流しで写真撮影をしていた男性だろうか。正直面識が無い。そもそも鷹野さんは焼死ということは・・・。分からない、それを口に出すことは憚れた。目の前に戦おうとする彼女を再び絶望させるわけにはいかない。
「それで、二つ目は?」
「え、あぁ。今回本来は魅音ちゃんが凶行に・・・つまり雛見沢症候群になるのか」
「そう。圭一がレナにプレゼントをして、そこから狂い始めるの。ただ、今回は問題ないと思うわ」
「それはどうして?」
「本当に分からないの?」
本当に分からないのだが、それを伝えると彼女はジト目で冬夜を見る。そんな目で見られても喜ぶのは岡村君だけである。もう少し立派なレディーになってからにしなさい。
結局ジト目で見られるまま、話は終わるのだった。収穫は今のところない。ただ、どこで犯人が見ているか分からない以上、周囲が見渡せるような広い敷地の真ん中か、完全密室の部屋ぐらいか。
大石と古手梨花が面会をしたのは、あれからすぐのことである。結局決めたのは古手神社の境内だった。まるでたまたま出会ったかのように、大石さんには警邏の途中で参拝に来た、ということにしてある。
警察は逐一パトカーの無線で情報共有しているらしい。突然の古手梨花への面会を不審がられないようにするには、この方法しか無かった。
結局梨花ちゃんは雛見沢症候群について話さず、自身の命が狙われていることを話した。大石さんが信じてくれるか、という問題もあったが・・・。
「もし今年狙われるのが古手さんなら、助けるのが警察です。それで何もなければ、それはそれで問題なしでしょう」
杞憂ならばそれでよし。そういうことだった。男気溢れるなぁ。
そして警察を配置して警備に当たるかという話になったが、警察内部の怪しい動きがある以上、それはできないことになった。もっと人手が必要だということだろうか。
そして、古手梨花が狙われる日が過ぎるまでは、冬夜の家で過ごすことになった。もちろん北条沙都子も一緒だ。
それに関しては問題ない。おばあちゃんも一度梨花ちゃんを家に泊まらせた時なんか、拝み倒していたし。村のアイドルが家に泊まりにきたのだから、嬉しいよね?
本音を言えばおばあちゃんを巻き込みたくなかったが、犯人が梨花ちゃんを殺して村全体の雛見沢症候群を起こしてしまう以上、巻き込むとかそういう次元の話ではなくなっているのだ。
大石との面会が終わり、北条さんに冬夜の家へ泊まることを説得しに向かう。北条さんと梨花ちゃんが住む家なのだが、子ども二人で生活はやはり不用心である。家へ入ると北条さんが荷物をまとめていた。
「みぃ、沙都子?」
「よく分かりませんが、冬夜さんの家に泊まるのでございましょう?」
「沙都子、聞いていたのですか?」
「あんな所に大の大人が二人もいて話していれば、さすがに気になりますわ。梨花・・・」
そう言って北条さんは梨花ちゃんの額を小突いた。
「あなたが命を狙われているということも、誰が犯人なのかも分からないですけど、私は梨花の親友ですのよ。困っているならば、早く話して欲しかったですわ」
「みぃ・・・」
まさか聞かれていたことに驚いたが、北条さんの理解の早さにも驚かされた。彼女も鉄平という恐怖を乗り越えたからこそ、今の強さがあるのだと知る。
「冬夜さん。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いしますわ。色々と迷惑をおかけして申し訳ありませんけれど」
「北条さん、俺は迷惑だとは思ってないよ」
「・・・そろそろ下の名前で呼んでくださってもよろしいのですけれど」
北条さんがスカートの丈を少しだけ握って話をする。そういえば名前で呼んでいるのは魅音ちゃんと梨花ちゃん、あとはお魎さんだけである。
「沙都子ちゃん、これからよろしくね」
「分かりましたわ!」
梨花ちゃんは少しだけ戸惑っていたが、今の沙都子ちゃんの強さに充てられてしまったらしい、力強い目をしている。
早速荷造りしてお泊まりしよう!