急な話ではあったものの、無事に荷造りをして冬夜の家へ住むことになった。しかし下手に家に閉じこもっていれば犯人に勘付かれてしまうことも考え、通常通り学校へ通いながらということになった。
部活メンバーにも先生方にも伝えずでは、すぐにバレてしまうと思ったため、鉄平の件以来、大人も近くにいた方が良いと嘘を吐いて当分一緒に住むことになったと説明した。そのことに誰も疑問を感じていない様子だった。
仕事をしながらではあるが、なるべく梨花ちゃんの周囲に危険人物がいないか確認をしていたのだが、それらしい人物は見つからない。
他の人に協力を願い出ようと考えたのだが、正直に言うと全く思いつかない。まず入江診療所、医者に聞いても無駄なのではなかろうか。警察のような力があるわけでもないし・・・。園崎家に頼もうかと考えたのだが、『オヤシロ様の祟り』の真相は言えない状況であるし、雛見沢に組員を呼び寄せても犯人を刺激するのではないかと梨花ちゃんから否定された。それでは結局監督に言うべきかということで時間を狙って会いに行くも、どうやら綿流しの調整で忙しいのかなかなか会えない。綿流しという祭りが、明らかに協力しにくい原因になっていた。
残念なことに時間だけが進んでいく。こうして焦る中、ついに綿流し当日となってしまったのだった。
その時彼女が言った一言が胸に刺さる。
「もし今回がダメだったとしても、私は諦めない。だけど、今回こそは運命を打ち破る奇跡を起こしてみたい」
諦めない心を手にしても、彼女のループという行為は死によって行われるものである。死を受け入れることを知った小学生なんて見たくもなかった。
綿流し当日。冬夜は青年団の一員として屋台の警邏をするとともに、古手梨花の姿を探していた。隣には北条沙都子もいる。
彼女は古手梨花が狙われていることを知ってはいるが、雛見沢症候群については聞いていなかったらしい。それは安心した。自身の兄が病気とはいえ殺人を犯したなどという事実は知らなくても良いことなのだ。
「あ、梨花がいましてよ」
沙都子ちゃんが梨花ちゃんを発見したらしい。田舎の祭りとはいえ多くの観光客がいる綿流しなのだが、よく見つけたなと思う。冬夜もその姿を見て硬直した。
そう!巫女服なのである。素晴らしいその御姿に身体が硬直してしまったのだ。梨花ちゃんが小柄だとはいえ、その煌びやかで清楚な佇まいをしている少女の姿は正に神の化身といっても良いはずだ。梨花ちゃんの着ている巫女服はコスプレなどに見られる過度な露出などなく、顔と手足以外の素肌は完全に隠されている。パーフェクト!これこそが巫女服の真の姿なのである!
しかし、ここで恐ろしい事実に気づいてしまった。梨花ちゃんの着ている巫女服は白衣と緋袴であるのだが、少女の髪の色である青色が巫女服を際立たせているのである。何というコントラスト!巫女服を着ている女性というのは須らく清楚で美しいという印象を与えていた。そして同様に日本人特有の黒髪というものこそが至高であると思っていたのだが・・・。
「いてっ!」
突然お尻に痛みが走った。どうやら沙都子ちゃんが冬夜のお尻をつねったらしい。彼女はどこか膨れっ面で冬夜を見ている。何か悪いことでもしてしまったのだろうか。せめて写真を撮らせて欲しいのだが。そういえばカメラ持ってないな。梨花ちゃんを守ったらカメラでも買おうかな。
いや、いけない。今は軽い気持ちでいてはいけないのだ。今日か数日後には目の前の巫女服少女が殺されてしまうんだぞ!
「梨花ちゃん。ずいぶん似合ってるね」
「だいぶ気持ちが悪い顔をしているのですよ」
そんな気持ち悪かっただろうか。俺は真剣な顔をしていたと思うのだが、なぜか梨花ちゃんは勘違いをしているらしい。
「ところで、今日の目的なんだけど富竹さんと鷹野さんに忠告をするということで良いのかな?」
「そうしてみましょうなのです。富竹と鷹野には何回か説明をしたことがあるのです。でも、一回も信用してくれませんでしたのです」
つまり、今まで繰り返した中でも何回か忠告をしたということか。その時の少女の顔を思い浮かぶ。今までの少女が見せていた諦めの顔が浮かんだ。
「分かった。俺も一緒に同席しよう。大人一人がいるだけでも大きく変わるはずだ」
「言葉に詰まったらフォローをしてほしいのです」
「任せといてくれ」
「わ、私はどうすればよろしいのですの?」
「俺と一緒に行動してほしい。目を増やして視野を広げたいんだ」
それは完全に嘘である。冬夜が一番心配していたのは、梨花ちゃんだけでなく沙都子ちゃんにも危害が及ぶことであった。少なからず梨花ちゃんの命が狙われていると知った彼女は、親友として無茶をする可能性もあった。正直に言えば警察に預けたいのだが、そんなことをしたら犯人を刺激してしまうだろう。
そうやって話をしていると部活メンバーに出会った。前原君と竜宮さん、そして魅音ちゃんがいた。両手に花じゃないか。羨ましいねぇ。
「冬夜さん!楽しめてますか?」
魅音ちゃんが話しかけてきた。去年の綿流しを思い出して憂鬱になっているかと心配だったのだが、どうやら問題ないらしい。いつも通り明るい彼女のままだった。
「楽しめているよ。そうだ、何か奢ってやろう」
その言葉を皮切りに部活メンバーがあれやこれやと注文をしていく。危ない、お金を降ろしておいて良かった。大変楽しそうに屋台の商品を購入していく子ども達を見ていると、自身の子どもの頃について思いふけってしまった。
中学生の頃というよりも『俺』は青春を過ごせていたのだろうか。少ししかない記憶を見ていて思う。なぜか勉強漬けの日々でも送っていたのではないかと感じてしまう。
「冬夜先生。そろそろ梨花ちゃんが奉納演舞するみたいです」
前原君が腕時計を見てそう言った。そうか、それなら最前列で演舞を見ておいで。俺は最後に屋台を警邏をすることを伝えた。沙都子ちゃんも同じく部活メンバーと一緒に行動をする。
今の所は平穏である。まるで嵐の前の静けさのようだった。
警邏をしてから奉納演舞を見ようとしていたところ、見たことのある後ろ姿を見かけた。あれは前原君、そして服装からして園崎詩音である。まさか二人で逢引きだろうか。魅音ちゃんを差し置いて?
しかし、このまま二人でランデブーをさせてしまえば、それはそれで魅音ちゃんにお怒りの声を貰う可能性がある。健全第一で行動しようね。とにかく子ども二人で人混みから離れて『オヤシロ様の祟り』にあってはいけない。どうにかして着いていく必要があるだろう。
園崎さんと前原君、どこかで会ったことがあるのだろう。まさか面識があるとは思わなかったし、そもそそも二人で逢引きをするとは思わなかった。
皆さま、いつも感想や誤字報告をしてくださり、誠にありがとうございます。一つ一つ拝見し、感謝と感激をしております。本当は返信をしたいのですが、返信忘れやネタバレを防ぐためにしていない状況です。
このような後書きの場で表明して良いか大分迷ったのですが、感想が増えていく中で何もしないというのも良くないと思い、書かせていただきました。
本当にありがとうございます。最後まで書いていきますのでよろしくお願いいたします。