野次馬根性が3割。そして7割は犯人が二人をターゲットにしないかを危惧して、前原君と園崎さんを追いかけた。
この方向は確か古手神社の宝物庫とかそういう場所だったはず。雛見沢の人にとって、穢れを持ち込んではいけないところ。そういう認識だったはずなのだが。
冬夜が追いついた頃には、なぜか宝物庫の前に前原君と園崎さんだけでなく、富竹さんと鷹野さんがいた。富竹さんは扉に近寄って何かをしている。まさかこじ開けようとしているのだろうか。
「な~にをしているのかな?」
「あらあら、今日は色々と人に出会うわね」
なるべく明るい口調で話しかけてみると、鷹野さんが一早く声に出した。その声を聞いて富竹さんが扉から離れる。
「鍵を無理矢理開けるのはダメなんじゃないかな?」
「あ、アハハ。すまない・・・」
富竹さんとは今回初めての邂逅である。まさか空き巣を狙った泥棒だとでもいうのだろうか。
「ほら、解散解散!今回の事は見なかったことにするから解散すること!」
四人そろって何をしているのやら。肩が重くなるのを感じる。心配をして損をしたとはこのことだ。
鷹野さんはクスクスと笑っているものの、富竹さんは対照的に申し訳ないような面持ちだった。前原君と園崎さんは言うまでもなく、自身のしようとしていたことに対して反省をしている顔だ。とにかく子ども達には梨花ちゃんの奉納演舞を見に行くように言うと、大人しく二人は去っていった。あとはこの大人組である。どうせ冬夜が離れたら、また不法侵入でもするだろう。さて、どうやって説得をするべきか。
そもそもこの場に御三家以外の人間がいること自体がダメなのだ。雛見沢の人の中でも過激な人は怒り狂うはず。
「お二人とも。梨花ちゃんが奉納演舞をした後に大事な話をしたいと言っていました。とても大事な話です。ここで問題を起こしてしまえば話をする機会が無くなってしまうので、今は解散してください」
「・・・」
鷹野さんの目が鋭くなる。冬夜の言葉の真偽を確かめるような目であった。本当の事を言っているので確かめようもないのだが。
少しばかりの沈黙が走る。少し離れた場所から祭囃子が聞こえてくる。そもそも不法侵入罪を防いだ冬夜に感謝をしてほしいところである。
「分かったわ。それじゃ今回は大人しく引き下がるわ。大事なお話があるなら、それを優先しないとね」
「え、まぁそうだね。どうか雛見沢の人には内緒にしてほしいな」
冬夜は仁王立ちをして完全に二人が去るのを見届けてから、自身も奉納演舞へ向かう。残念ながら奉納演舞は最後ぐらいの少しばかりしか見ることができなかった。全く残念。巫女服の舞とか見たかった!見たかった!駄々をこねて暴れてやろうか。
奉納演舞の後は川に綿を流す行事をすることになっている。梨花ちゃんは奉納演舞直後は村人たちに拝められていたため話をすることができなかったが、この綿流しのタイミングであれば話すことができるだろう。
「さっき鷹野さんと富竹さんに会ったよ。ついでに前原君と園崎さん・・・あぁ園崎詩音さんにもね」
「え?それはどこで?」
「宝物庫?」
「あぁ、祭具殿ね。まさか入ったの?」
梨花ちゃんは周りに人がいないのを確認して、大人びた口調で話し始めた。そうか、あそこは祭具殿というのか。
「いや、入る前に見つけて解散させたよ。ついでに梨花ちゃんから大事な話があることも伝えてる。あとは二人に会って話すだけさ」
「そう・・・。今回はやはり魅音が狂気に走ると思ったのだけれど。良いタイミングで止めたわね」
「そうなの?まぁそれは良かった」
どうやら見ず知らずにフラグを叩き折っていたらしい。ガハハ、やったぜ。祭具殿がどうやったらフラグに発展するのか分からないのだが、もう大丈夫なのである。
「やあ梨花ちゃん。呼び出しがあったから来たよ」
一人で喜んでいたところ、後ろから声がかかった。この声は富竹さんだ。隣には鷹野さんもいる。富竹さんの顔を見るに、再び祭具殿に忍び込んではいなさそうである。顔には未だに罪悪感らしき顔をしている。
「みぃ、二人は悪い子猫さんなのです」
「ごめんなさいね。どうしても気になってしまって」
鷹野さんは素直に自白をしていた。ここで嘘を吐いても意味が無いと悟ったのだろう。それにしても子猫さん扱いなのはどうなのだろうか。どちらかというと女豹の印象なのだが。
「冬夜が子猫さんを叱ったので、それは良いのです。ただ、大事な話があるのです」
特に叱った覚えはないのだが、まぁ良いだろう。冬夜は奉納演舞がほぼ見られなかったことに腹が立ったのであって、不法侵入については興味がない。
「それで、大事な話ってなんだい?」
富竹さんがそういうと、梨花ちゃんは冬夜の顔を見た。どこか不安気な顔をしている彼女に対して、冬夜はその意味を知る。やはり恐いのだ。信じられないのではという不安な気持ちが出てしまっている。
「大丈夫だ、梨花ちゃん。俺がフォローをするんだろ?」
それを聞いて安心したのか、再び梨花ちゃんは二人の顔を見回した。
「鷹野、富竹。今回お話したかったのは『オヤシロ様の祟り』についてです」
「『オヤシロ様の祟り』」
二人の顔が強張ったのを見た。それと同時に少しだけ視線が冬夜の元へ行くのも見えている。二人は冬夜が雛見沢症候群の事を知らない人間だと思っているからこその反応なのだろうか。
「二人には今夜、十分気を付けて欲しいのです」
「それは、今夜ボクたちが『オヤシロ様の祟り』に遭うということかな?」
「はいなのです」
鷹野さんと富竹さんはお互いの顔を見た。どこか呆気に取られた顔をしている。そして両者ともに信じられないというような顔をした。やはりというか、そういうものだろう。
「梨花ちゃんが話しているのを事実と思うかどうかはお二人次第でしょう。しかし、本当にあなた方が感染していないと言えるか甚だ信用できない」
冬夜が感染というワードを口にした瞬間、二人の、特に鷹野さんの顔が強く表に出た。なぜそれを知っているのか、という驚きだ。古手梨花が話したのだろうか、という疑問も出ていることだろう。梨花ちゃんにも視線を向けている。
「それはボクが―――」
「ご想像にお任せしますが、『我々』はお二人に対して注意をしてほしいのですよ。やはりこの雛見沢にいる限り必ずしも感染をしていないという保証はできないはずだ」
梨花ちゃんの言葉を封じて冬夜は話した。ここで揺さぶりをかけて強い印象と警戒心を抱かせるために。
「あなた、どこの所属なの?」
「ご想像にお任せすると言ったはずですが?」
「・・・」
そんな大きなグループなのか、入江診療所のバックについているのは。なんか藪蛇突いた気がするのだが・・・。
「鷹野さん。今回は大人しく帰るとしよう。警戒をして帰ろうか」
二人が冬夜に対してどう思ったのかは分からないが、どうやら警戒をしてくれるらしい。何か大きな闇を引き出してしまうかと思ったが、ギリギリセーフだったようだ。
「梨花ちゃん、どう思う?」
「できれば、なるべく人通りの多い場所を心掛けてほしいのです」
「分かった。そうするとしよう。鷹野さんも良いかな?」
「そうね、富竹さんと二人っきりでお話をしたかったけれど、それも上手くいかなさそうだし」
梨花ちゃんはその言葉を聞いて安心したのだろう。大きく息を吸って吐いた。これで惨劇を躱せたのだろうか。怪しい所も多いが、入江診療所のバックについても梨花ちゃんから聞いた方が良い気がする。