綿流しも順調に終わり、冬夜も梨花ちゃんも沙都子ちゃんも、三人がヘロヘロになりながら帰宅をした。もちろん祭りで体力を使ったこともあるのだが、予想以上に犯人が狙っていないかを調べながらというのは精神的にも大変だったのだ。
しかし、残念ながら鷹野さんと富竹さんは警戒するとは言ったものの、それ以上の事は言ってくれなかった。やはり大きな説得材料が必要だという事を思い知らされる。
あとは願う事のみ。そう思い飲み物を冷蔵庫から取り出そうとしたとき、突然電話がなった。何の気なしに電話を取る。
「大石です」
「どうしたんです!」
突然の電話だった。大石さんから電話が来るとは思わなかったのだ。まさか―――
「今年の犠牲者が発見されました」
「誰です!?」
「あなたも知っているでしょう。カメラマンの富竹ジロウ氏です」
頭が真っ白になった。ついさっき会ったばかりだというのに、なぜ死んでいるんだ!?
「し、死因は・・・?」
「喉を指で搔っ切ってます。何かしらの薬物かという事で死体解剖をする予定です」
ただならぬ話だと気づいたのか、梨花ちゃんと沙都子ちゃんが寄ってくる。思わず二人を抱きしめた。絶対に守らなければならない。命を賭けてでも。
大石さんに断りを入れてから電話を切る。そしてとにかく二人を寝室へ連れていく。顔が強張っているのを見られてはいけない。顔は冷静にしていたつもりだが、これはバレてしまっているだろう。
「冬夜はどうするのですか?」
「俺はこれから園崎家へ・・・。いや、今日の夜は寝ずの番をするから明日二人は学校へ行ってくれ。その時に園崎家へ向かう」
緊急事態である。園崎家へ連絡をして、最悪二人をどこか安全な場所に連れていくべきだ。なぜもっと早く連れて行かなかった!くそったれ!
今日はどうにか二人を寝かせ、冬夜は寝ずの番をする。さて、園崎家がダメならどうするべきか。やはり人の多い場所で過ごすべきなのだが、こういう夜の場合どうすれば良いか分からない。今頃大石さんたち警察は『オヤシロ様の祟り』で忙しいはず。今が一番狙われやすいのだ。
「今回もダメだったのね」
「梨花ちゃん。もう夜だ。寝た方が良い」
「鷹野と富竹が死んだのですね」
思わず口を閉ざす。しかしその行為は答えを出しているに等しかった。
「富竹さんが亡くなったそうだ。鷹野さんはまだ見つかってない」
「そう・・・」
「梨花ちゃん、最後まで俺は諦めない。俺を応援してくれないか」
梨花ちゃんは優しく微笑む。それを見れただけでも元気になれる。本当は梨花ちゃんこそ慌てたり絶望をするのだが、それを見せない彼女の強さに心底驚嘆したのだった。
「入江診療所、あれはどんな組織なんだ・・・」
「入江や鷹野は『東京』と言っていたわ。それに『山狗』という人たちが鷹野たちの身辺警護をしているはずなのだけれど」
その山狗がどういう組織なのか分からないが、警護されている鷹野さんが殺されるというならば、その山狗は怪しいのではなかろうか。冬夜はそれと同じく監督が黒幕化と感じたのだが、沙都子ちゃんをどうにかして助けようとした監督が犯人とは到底思えなかった。
悩んでいる冬夜を邪魔してはいけないと感じたのか、梨花ちゃんは素直に寝室へ戻っていく。
翌日。冬夜の家に忍び込もうとする人はいなかった。徹夜をして少し眠たいが、このまま園崎家へ行く必要がある。冬夜は梨花ちゃんと沙都子ちゃん二人を学校近くまで連れていき、そのまま園崎家へ向かった。
園崎家へ用事を済ませた後は大石さんと連携を取って富竹さんの事を細かく聞かないといけない。綿流しという行事が終了し、蝉の五月蠅さが一層強くなっている。この数日間で大きく気温も変わり、真夏日へと近づこうとしているのは分かった。
園崎家のインターホンを押す。すぐに相手の声が聞こえた。
『はい』
「あれ?魅音ちゃん?今日学校のはずなんだけど・・・」
インターホン越しに聞こえるのは魅音ちゃんの声。もしかして病欠だったのだろうか。いや、もしかしたら昨日の富竹さんのせいで対応に忙しいのかもしれない。だが、こちらも急用なのだ。
「ちょっと大事な用事でね。急用なんだ」
「分かりました。ちょっと待ってくださいね」
そして少し待つと、玄関が開いた。やはり園崎家は本当に広いな。魅音ちゃんはいつも通りの私服で出迎えてくれる。前回のように着物で来ることはなかったか。まぁ急用だからね。
完全に寝不足状態で来たためか集中力が完全に欠けているのが分かる。だからこそこの状況に気づけなかったのだ。冬夜は園崎家の敷地内になんの違和感も抱かないまま入る。
バツンッ!
大きな音が響くとともに、冬夜は完全に意識を失うのであった。
古手梨花が違和感を抱いたのは教室に着いて少し経ってからである。圭一とレナが教室へ入ったというのに魅音がやってこない。まぁ、圭一はいつも通り沙都子のトラップにかかっていたことは変わらないのだが。
「みぃ、魅音はどうしたのですか?」
「いや、いつもの待ち合わせ場所にいつまで経っても来なくてな。昨日の祭りで疲れて寝坊でもしちまったのかもな」
圭一はのほほんと答える。これはまさか惨劇が始まってしまったということなのだろうか。その時古手梨花の脳内に駆け巡るのは、二つの事柄である。
一つは圭一が魅音にプレゼントをしなかったこと。一つは圭一と詩音が祭具殿に忍び込もうとしたこと。この両者は冬夜によって防がれたと思っていたのだが・・・。そういえば昨日園崎家へ向かうと言っていなかっただろうか!?もしこれが惨劇の序章だというのであれば冬夜に身の危険が起こってしまう。
すぐにでも園崎家へ向かおうかと考えたが、今の古手梨花にはできなかった。それは一重に冬夜という人物を信用していたこともある。もちろん、自身が命を狙われている以上下手な行動をして冬夜を困らせてはいけないと思ってもいた。
その後知恵が園崎魅音が病欠で欠席の事を告げて通常通りの学校生活が始まるのだ。
放課後。大慌てで冬夜の家へ向かう。沙都子もどこか古手梨花の様子に違和感を抱いたのか、同じく急いで帰宅をした。乱暴に玄関を開ける。
「冬夜、冬夜はいませんですか!」
返事はない。まさかまだ園崎家へいるのだろうか。それとも大石と現場を捜索しているというのだろうか。沙都子は家の部屋全てを確認している。その間古手梨花は大石に連絡をする。
「えぇ!?冬夜さんが行方不明だって!?」
「はいなのです。冬夜が何も言わずに家を空けることはないのです」
「冬夜さんは何処かへ行くことを伝えていましたか?」
「園崎家へ向かうとは言っていたのです」
大石は大きく唸り、園崎家へ捜査令状を出すように近くの部下か誰かに指示を飛ばす。もし冬夜が園崎家で監禁されているとしたら、おそらく地下だろう。大石は念には念を入れて、部下である熊谷という人物を冬夜の家へ向かわせるということらしい。身辺警護も兼ねてということだった。これは大変ありがたい。
私もどうにかして冬夜の居場所を特定しなければいけない。