ひぐらしのなく頃に 巻込編   作:ポロロン

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いっそ楽に逝かせてほしかった

 目を覚ます。横になって寝てしまったのだろうか。どこか知らない天井が見える。

 横をふと見るとナースコールの機械があった。なるほど、ここは病院らしい。どうやら無事に生き延びたらしい。はて、確か園崎詩音に刺されてしまってからの記憶がない。おそらく、そのまま気絶か何かで病院へ運ばれたということか。

 ナースコールに手を伸ばす。ふと、自身の掌全体が大きなミミズ腫れのようになっている。穴は塞がったらしいが、これは酷い痕が残ってしまったらしい。

 ナースコールを押すと、看護師が飛んでやってきた。そこまで驚くことなのか、冬夜が起きていることに驚愕し、すぐに医者を呼びに行った。

 

 

 

 

 

「はぁ、1ヶ月も・・・」

「そうです、1ヶ月。あなたは眠っていました。よほどの大怪我だったんですよ」

「は、はぁ・・・」

 

 医者から綿密な検査を受け、現在の状況を確認する。どうやら1ヶ月もの間、眠りこけていたらしい。はてさて、何か忘れている気がする。

 

「起きたばかりですが、記憶の混濁があるようですね。ゆっくり休んでください」

 

 医者から言われた言葉が胸に刺さる。だいぶ眠っていたというのに、まだ疲れているのだろうか、検査が終わってからすぐに眠ってしまった。

 

 

 

 

 大石は冬夜が目覚めたという報告を聞き、すぐに病院へと向かった。興宮の大きな病院で、初めは安静にするべきという医者の願いを無理矢理に断り、入院している部屋へ入る。

 その部屋は大部屋ではなく個室であった。どこか殺風景の様子であった場所に生気が宿っている。

 

「冬夜さん!」

「は、はぁ・・・」

 

 地田冬夜はどこか呆気に取られた様子であった。近くにいる看護師が警察の方であるという説明をする。

 

「すみません、記憶が無いんです」

「なっ・・・!」

 

 言葉に出なかった。記憶喪失!そんな事が今起こって言いはずがない。

 

「すみません、看護師さん。どうやら警察の方が大事な話があるようです。部屋から出てもらっても良いですか?」

 

 地田冬夜は大人しい声音で言った。そのどこか他人事のような言い方に苛立ちが出る。看護師はそそくさと部屋から出た。

 

「園崎詩音が逮捕された後のことです。古手梨花が神社境内で惨殺死体として発見されました」

 

 大石は口を震わせながら言い続ける。

 

「北条さんも!あなたのお婆さんも!部下の熊ちゃんも!雛見沢の2000人がガス災害で死んでしまったんですよ!?あなたが唯一の生き残りなんだ!冬夜さん!思い出してくれ!」

 

 大石は地田の胸ぐらを掴み叫ぶ。その剣幕は状況の深刻さを明らかにしていた。

 

「刑事さん!それ以上は止してください!」

 

 叫び声が聞こえたか、近くで待機していたのか看護師が部屋に入り制止した。それを冬夜はゆっくりと眺めて言う。

 

「大石さん。残念なことに私は記憶喪失なんです。お引き取り願えませんか?警察の方も色々と聞きたいことがあるでしょうし、退院してから話しましょう」

 

 大石は残念そうに項垂れる。こんなこと、誰が予想できたか。大石は持っていた鞄からとある物を取り出した。

 

「雛見沢に流れる川から見つかった物です。おそらく竜宮さんがいつも被っていた帽子でしょう。帽子には血痕が付着してます。発見者が言うには、帽子の中には生きた鳥がいたそうです!」

「刑事さん!」

 

 無理矢理看護師が大石を連れていく。冬夜はその光景をゆっくりと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退院日、医者と看護師の見送りを見届けてからのことである。病院から出てすぐの道路に、警察のパトカーが止まっていた。

 中を確認すると、大石がいる。冬夜は迷うこと無くパトカーの助手席に座った。

 

「安心してください。無線は切ってます」

「じゃあ、適当に走りましょう。尾行されていたら厄介です」

「んっふっふ。そうしましょうか」

 

 大石さんが車を走らせる。やはり大石さんは切れ者である。すぐに気づいてくれたようだ。下手な三文芝居ではあったが、冬夜は自身を記憶喪失だと偽った。いや、元が記憶喪失の身なので嘘ではないのかもしれないが。冬夜は記憶喪失をして何も分からない、何も知らないという嘘を吐いていた。その理由は一つ。病院内に敵が紛れていると思ったからである。園崎詩音に刺されてから1ヶ月が経ったと言われた時点で、冬夜は古手梨花を助けることができなかったと理解した。自分が呑気に眠っている間に、彼女は殺されてしまった可能性がある。もしこの考えが間違っているならば、自分が目覚めてから数日経って古手梨花がお見舞いに来るはず。その時に杞憂だったと笑えばいいだけ。

 しかし、残念なことに翌日には大石が現状報告をしにきた。結果としては冬夜の考えている通りであった。古手梨花が死亡するということ。しかし、ガス災害というのは知らない情報であった。ゆっくりとバレないように思考を張り巡らせる。もし、古手梨花を殺した『オヤシロ様の祟り』を起こせる人物ということであるならば、自身を狙って殺しに来る人間がいるのではないかと少々心配になったのである。

 大石さんが言うのであれば、冬夜は最後の雛見沢での生き残りということになる。それが何を現すか。

 そして謎が残るのは、竜宮さんが残した帽子の事。なぜ血痕が付いているのか、鳥の情報も込みで気になる。

 

 大石さんはパトカーを走らせ、ぐるぐると興宮を回る。時折後ろを確認しては追手がいるか確認した。

 

「そろそろ良さそうですね」

「そうですねぇ。いやしかし、記憶喪失と聞いて最初は焦ったものです。まさか覚えていたとは」

「記憶喪失なのに大石さんの名前をなぜ言ったのか。ちゃんと意図を理解してくれて助かります。念には念を入れて行きましょう」

 

 近くにいた看護師は一番怪しい存在であった。もちろん、普通の看護師である可能性もあったのだが、少々機敏すぎる。相手が分からない組織である以上、なるべく警戒するべきだと思った。

 

「じゃあ本題に入りましょうか」

「梨花ちゃんが殺されてしまったんですね」

「えぇ、そしてその後雛見沢全体にガス災害が起こりました。村民全員がガスの猛毒でお亡くなりになっています」

 

 淡々と言う大石であるが、よく見ると彼が持つハンドルが悲鳴を上げていた。力強く握っているのだろう、言葉では落ち着いているものの、現実を抑え込むほどの状況ではないらしい。

 それは冬夜も同じ意見であった。いまだどこか他人事のように思えてくる。雛見沢全体でガス災害?それも皆死んだって?大石がお見舞いに来た翌日からずっと頭の中で考え込んでいたことである。事実として受け入れるべきことだというのに、それを脳が拒絶した。

 

「冬夜さん。私はこのガス災害について真相を迫りたい」

「大石さん・・・」

「私はね、このまま引き下がれないんですよ」

「・・・」

 

 大石さんの言う事も理解できた。それは敵討ちのような印象を受ける。

 

「大石さん。正直に言いますが、この件追うのは止めた方が良いのでは?」

 

 それは自然と出た言葉であった。おそらく、いや、間違いなく危険な相手がいるはずなのだ。そんな相手に定年間際の人に手助けしてもらうのは忍びない。

 そんな気持ちを理解したのか、大石さんはゆっくりと息を吐いた。

 

「分かっています。この件、普通の事件ではない。でもね、冬夜さん。私は刑事なんですよ。定年するその時までね」

 

 それは覚悟の決めた男の顔だった。信用できる大人の一人であると重々知っていたが、彼の真剣な顔つきを冬夜は初めて見たかもしれない。

 

「それでは、大石さんの信用できる人を何人か呼んでくれませんか。警察内部にもスパイが紛れているかもしれませんから」

「えぇ、分かりました。こちらで信頼ある人を手配しましょう」

 

 冬夜は残念ながら助けてくれるような人はいない。雛見沢の人は亡くなり、興宮の人はただの一般人である。助けを乞えるほどの権力は持ち得ていない。やはり権力のある警察に頼るほかなかった。




ガス災害は置きましたが、まだ続くんです。
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