「大石さん、大丈夫ですか?」
「・・・」
大石はだいぶ精神的にやられたらしい。今まで追いかけていた相手、それが全くの見当違いであることによるものであるのは理解できた。
「良かったじゃないですか」
「良かった・・・ですか」
「お魎さんは亡くなってしまいましたが、亡くなった人に対して恨む必要が無くなったんです。恨まないで済むことが一番良いでしょう?」
徒労に済んで良かったのだ。誰も恨む必要が無く、目指すは真相のみ。まぁ、相手は巨大な組織なのだが。
「我々は今回、元雛見沢の住民だった人に『オヤシロ様』について調査をしにいくつもりです」
「南井さん、それは良いと思いますが、少々気がかりの事が有ります」
そういえば、梨花ちゃんは重大な事を言っていたな。それも結構大きな。
「梨花ちゃんが死亡してから、数日後には雛見沢住民が雛見沢症候群に陥る・・・だったか。爆弾みたいだ」
「それは、どういうことです?」
「詳しくは分かりませんが、古手梨花は爆弾そのものなんです。亡くなってから雛見沢症候群が暴走するのでは?」
どういう原理で雛見沢症候群が起こるのかは分からない。ただ、1ヶ月は経っているが・・・。
「今の所、自殺や他殺は発生していません」
赤坂さんが言う。まさかもう調べているのか、仕事が早い、
「ですが、少々怪しい話が出ています」
「それは・・・?」
「現在、元雛見沢住民が奇妙な儀式をしているそうです。それで元住民は『オヤシロ様』を崇めていると・・・」
そうか、そんな事態が起きているのか。そもそも、オヤシロ様信仰が有ったのは知っているものの、それを現在昭和が終わるかもしれないという時に儀式とは・・・。
もしかしたら、儀式をすることで心の安定を保とうとしているのか。その説有り得るぞ。雛見沢症候群が精神的な病であるならば、人々が宗教に走る理由が立つ。
その事を説明すると、南井さんも少しばかり合点がいったのだろう、神妙に頷いた。
「では、雛見沢症候群が実在するとして、その儀式を無理矢理に止めたら精神を病んで発症するかもしれません」
「しかも、周囲の目も病気を悪化させるのでは?他者からの視線が原因で精神を病むことも少なくはありません」
なんということだ。八方塞がりじゃないか。警察が調査しても発症してしまうのでは?
「全員精神病棟に放り込めば楽なんだが、それはダメでしょう?」
「当たり前です!」
怒られてしまった。はてさて、困ったものだ。これで誰かが発症したら、連鎖的に発症が起き続けるかもしれない。そのことを警察三人はすぐに察した。
「あまり無理矢理の捜査は止めておきましょう。住民の中で理解ある人を探して刺激せずに話をするべきです・・・。大石さんは向いてないでしょ」
「んっふっふ。身も蓋もないですねぇ。大丈夫です。雛見沢にいた頃は無理な捜査をしていたもんです。安心してくださいな」
渇いた笑みを溢す大石さんを冬夜は見た。まだ心の整理ができないのだろう。別に強要するつもりはないし、これ以上無理を強いたくはない。
「大石さん、私が入院をしている間に言っていた竜宮さんの件です。確か血のついた帽子に鳥がいたとか」
「え、えぇ。雛見沢の山中で見つかった帽子です。血がついています。発見時に帽子の中に鳥がいたそうです」
竜宮さんは犠牲者リストによると行方不明になっている。なぜ行方不明なのか、なぜ山中で帽子だけ見つかったのか。
「どんな鳥だったか分かりますか?」
「いえ、発見者は鳥を見たらしいですが逃げられたようです。どんな鳥かは分かりません」
「・・・」
竜宮さんはどこか切れ者のような時折鋭い意見を言う子だった。あの子が意味の無い行為をするとは思えなかった。
「血、帽子、鳥・・・。ダメだ。分からない」
他の人も分からなかったらしい。竜宮さんが遺した意図を汲み取れない。謎が深まるばかりで一向に解決への糸口が見つからない。
「まとめますと、現状は入江診療所の調査、元雛見沢住民へのフォローと調査。そして竜宮礼奈の遺した物を調べる。この三つを重点的に調べましょう」
「分かりました。無理に強いるわけにはいきません。脅威を感じればすぐに退いてください」
自身の我が儘で誰かが死ぬのは嫌だった。それだけは避けなくてはならない。冬夜は早々に話を切り上げて外へ出た。自身の至らなさが出てしまう話し合いであった。
「どうです?」
「だいぶやつれていましたね」
赤坂と南井は大石に語り掛ける。話の中心人物は先ほど部屋から退出した地田冬夜という人物についてだ。髪はボサボサで無精ひげが目立ち、頬はやつれていた。よく眠れていないのか目には隈ができている。
「彼は雛見沢の人たちに好かれていましたから。そんな人たちが災害で亡くなったと知って、一番心を病んでいるはずです」
「・・・」
「私は冬夜さんが心配でなりません。お二人には迷惑をかけますが、どうか捜査の協力をしてください」
「もちろんです。それでは重要人物である入江京介、鷹野三四、富竹ジロウについて調べます。三人とも仏ですが、こういうのは足で探しますよ」
南井の一言で方針が決まった。彼が無茶をする前に決着をつける必要がある。
冬夜は休むことなく現場へ向かった。まず初めに向かったのは鷹野三四の死亡現場である。この焼死死体はテレビのニュースがされていないものの、地方紙には載っていた。謎の女性が焼死死体として発見されたということ。死因は絞殺で死亡後に焼かれたらしい。
鷹野三四の死亡現場は興宮から離れた県境にある。大きな山火事にはなっていないらしい。現場へ近づくとまだ捜査の跡が残っている。立入禁止のテープが貼られている。この長距離を走り気づいたことは、現場発見の日である。細かい日時は地方紙で書かれていないものの、日にちは書かれている。
「19日。富竹さんが亡くなった日と同じか・・・」
綿流しの現場である古手神社から県境まで法定速度を超えた車で走ったとしても、殺されてから焼かれるまでの間が早すぎる。この距離はどういうことなのだろうか。謎が増えてばかりで嫌になる。もっと調べるために色々と回る必要があるだろう。